※シリアス成分皆無にしてちゅっちゅ成分皆無。ご了承下さい。
************************************
マエリベリー・ハーンは夢の中を歩いていた。
どこかの森の中。
夏の暑苦しい陽気の中。
多分、結界の向こう側。
あまり均されていない小道を、ゆっくりと歩く。
『――――、――――』
ふと、声が聞こえた気がして、空を見上げる。
枝葉の間から見える空は青く澄み渡り、夢の中の時刻が昼間であることを教えている。
木漏れ日に目を細め、片手でシェードを作って見上げたその空に、一つの人影があった。
ごく自然に、それが当然であるかのように空に浮かぶ人影。
ああ、やっぱり今は夢の世界にいるのよね、とぼんやりと思う。
逆光になっているからか、その人影の人相風体は黒に塗りつぶされてよく見えなかった。
目が合った、と、そう感じた。
そして、その人影に異変が生じる。
人影が四角い影になり、その影がだんだんと大きくなって、
それが視界の大半を覆い尽くしてから、メリーはようやく気がついた。
――ああ、何かを落としてきたのね。
うっかり落としちゃったのか、渡すつもりで投げたのかは知らないけど。
そのまま降ってくる何かをぼんやりと見て、影がどんどん大きくなり、視界の全てを覆って、
ぼふり、あるいはばさり、と「それ」が顔面にぶつかったところで、
目が覚めた。
******************
「で、今日は何の用かしら、メリー?」
大学からほど近い、街の片隅にある古びた喫茶店。
小粋なジャズが静かに流れる奥まった一席に、メリーことマエリベリー・ハーンはいた。
秘封倶楽部の会議場として、私たちが既に何度も談笑している『いつもの』席だ。
「一分二十一秒遅刻。あら、今日は結構早かったわね、蓮子」
「店に入ったときなら一分と十秒ジャストよ。…時計はずれてないみたいね」
私の眼は、夜空に正確な時間と場所を見る。
それなら何で遅刻するかって?そりゃあ勿論、時計が正確だとしても持ち主の性格は変わらないからよ。
そしてそんな眼を持っていても、室内に入ってしまえばそれはただの眼。
一時的に一般人になった私は、メリーの向かいに座る。
「また夢を見たのよ。短い夢だったけどね」
メリーの眼は私と違って時間も場所も見えないけど、私と違ってそこら中にある境界を見てしまう。
私は気持ち悪い、といつも言ってるし、実際気持ち悪いけど、この眼がなければ私たちの活動は成り立たない。
でもメリーは最近、境界を見てしまうだけじゃなくて、その向こう側の世界まで行ってしまうようになって―――
「ふむふむ。で、今度は何を拾ってきたの?」
「あら、私はまだ何かを拾ったなんて言ってないわよ?拾ったけど」
眠っている間に、『夢の世界』のものを持ち帰ってくるようになった。
朝起きると、夢の中で持っていたものをそのまま持っているらしい。
質量保存の法則に真っ向から喧嘩を売っているような話だけど、物が現れるのは本当だから仕方ないよね。
一体どうやってそのものが現れるのか、今度泊まり込みで観察してやろうかしら。
あ、でも徹夜で観察してたら『泊まり込み』って言えるのかしら?
「そりゃ、テーブルの上に見慣れないものが置いてあれば誰だって気が付くわよ」
テーブルの上には、結構分厚い紙の束が折り曲げられて置かれていた。
この紙の束は…実際にお目にかかったのはこれが初めてだけど、恐らく、
「新聞紙?」
「新聞紙じゃなくて新聞よ。夢の世界の」
そう、新聞。
ニュースを報道するのに紙媒体を用いるこのシステムは、日本では既に廃れて久しい。
現在では一部の物好きな人が購読していたり、古めかしい喫茶店なんかにインテリア代わりに置かれていたりする、そんなメディア。
その内容も、速報性に欠ける新聞にはニュース性は求められなくなってしまい、娯楽情報が中心となってきている。
新聞、という名前なのだから新しいものを載せるべきだろうとは思うが、紙媒体ではその点どうやってもモバイルには適わないだろう。
そういえば、今でも筆入れって筆入れのままなのよね。下駄箱も。
「実はこれ、私もまだ中は読んでいないのよ。だからさ、」
「一緒に読まないかって?勿論よ!」
喫茶店のマスターさんにコーヒーを注文しつつ、快諾する。
勿論、こんな面白そうなものを読めるのが嬉しい、というのもあるが、
何よりも、メリーがそんな面白そうなことを自分と一緒に楽しむために我慢してくれていたことが嬉しい。
ああ、でも知的好奇心もそれに負けないくらいに大きいわね。感情って比べようにも基準がないから、この際どっちでもいいか。
さて、今日はコーヒーじゃなくても眼が冴えそうね―――
******************
「えーと、『身体にいい毒薬、発明される』」
「なにそれこわい。じゃなくて、なになに…ああ、『毒に効く毒』なのね」
「毒を盛って毒を制す、だっけ?」
「メリー、メリー。響きが危険よ。いや、意味は間違っていないけど」
「以ての外ね」
「判ってて言ったのね…」
「それにしても、いきなり夢っぽくない記事ねぇ。妙に現実的な話だわ」
「そう?私としては、この写真の女の子が気になるんだけど」
「あら、蓮子ったらこんな小さい女の子が好みなの?」
「怒るわよ。ほら、この子の顔、よく見て」
「別に境界なんて見えないけど…それにしても人形みたいな子ねぇ」
「みたい、じゃなくて人形なのよ。人間の眼はそんなに硝子質じゃないわ」
「『太陽の畑、見頃本番は来週から』。わ、見て見てこれ」
「一面の向日葵ね、天然の。いちめんのひまわり、いちめんのひまわり、」
「かすかなるていこう、いちめんのひまわり」
「何よそれ」
「どこかの禅寺の蝶と兎の話。ん?まちがったかな…」
「全然違うわよ、私が言った時点から、ついでに色々と。いちめんのひまわり、いちめんのひまわり」
「それにしても、写真がカラーじゃないのが残念だわ」
「あら、モノクロの方が想像できて楽しいけど。イメージに勝る風景(イメージ)なんてないわ」
「『来週半ばにはプリズムリバー楽団のライブも行われ~』ってあるけど?」
「前言撤回、生で見た方がいいに決まってるわ。でも、向日葵畑にライブってどうなのかしら」
「底抜けに明るい曲が似合うんじゃない?音で言うならトランペットとか」
「『此岸から彼岸が観測』…って、これはどういう意味かしら」
「あら、この写真に写ってる川…すごく大きな境界だわ。けど、それなのに向こう岸が見えちゃってるわね」
「此岸と彼岸で境界…って、三途の川?なんでそんなものが写真に写ってるのよ。観光名所じゃあるまいし」
「夢の世界の話なのに常識にとらわれすぎよ、蓮子。ほら、ここに人っぽいの二人写ってるし」
「…ねえ、それ片方鎌持ってるんだけど。死神さんじゃない?」
「鎌を持ってるからって死神さんとは限らないわよ?たとえばほら、死神のコスプレサービスしてる船頭さんとか」
「三途の川で船頭さんだったら結局死神さんじゃないの。で、記事の内容は…っと」
「『三途の川の川幅が渡る者の徳によって変化するのは知っての通りだが』、って、知らなかったわ」
「むしろどうやって変化するのかが気になるわ。船頭さんが時間をかけて漕ぐとかかしら」
「『霊の徳の高すぎたために対岸との距離が狭まり、此岸から彼岸が観測された』だそうよ」
「って、体感距離じゃなくて実測距離が変わっちゃうのね。それでこの写真かー」
「そんなに距離が変わっちゃうなんて、一体どんな人だったのかしら。最近のニュースにはそんなに凄そうな人はいなかったけど」
「徳があってもニュースになるとは限らないわよ?案外、枕石漱流の隠者かも」
「逆に漱石枕流かもね。ちょっと変わった仙人みたいな人」
「あら、コラム記事だけど、これ…『彼岸と此岸のバランス』?」
「死人が際限なくあの世に行くから、人口がどんどん彼岸に傾くってことかしらね?」
「別に川の水で海が溢れることはないから大丈夫だと思うけど」
「輪廻ってやつね。…あ、でもここ」
「『魂の流入量に対して転生する量が減っている』?ああ、そういえば」
「人口、減ってるわねぇ。日本だけ見ても、世界で見ても」
「鶏と卵ね。転生する魂が減ったから人口が減っているのか、」
「人口が減ったから魂が転生しないのか、ね」
「どちらにしても、海水面上昇は現在進行形の社会問題ってことね」
「あんまり溶けてほしくない氷ね。倫理的に」
「覆水盆に還らず、だけどね」
******************
「…ふぅ!面白かったわ!」
ぱたりと新聞を畳んで、テーブルの上に置く。
気が付けば既に二つ目だったコーヒーカップも空になり、時計の針も驚くほど進んでいた。
この新聞は大した時間泥棒だったらしい。こんな時間泥棒なら大歓迎だけどね。
「やっぱり、こういうものは意見を出し合いながら読むに限るわね。蓮子と一緒で正解だったわ」
「私こそ、メリーと読めてよかったわよ。持ってきてくれてありがとね」
「いえいえ。…って、あ。」
「? どうしたの、メリー…って、あ。」
ふと、メリーが自分の手を見て目を丸くした。つられて見てみると、指が真っ黒になっている。
慌てて自分の手を見ると、私の指も真っ黒になっていた。
そうか、インクか。書籍の印刷であればかなり前から指にインクが付くことなんてないからすっかり忘れていた。
******************
マスターさんに頼んで手を洗わせてもらい(快く使わせてくれた。ちょっと嬉しい)、精算を済ませて店を出た。
日が軽く傾いた道を歩きながら、ふとメリーが思いついたように口を開く。
「ねえ、来週だけど」
「何かしら?」
「もし見つけられたらだけど、サークル活動しない?」
「来週…ああ、成程。そうね、見つけたいわね」
「ええ。本当にね」
『それじゃ、一緒に探しに行きましょう!』
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マエリベリー・ハーンは夢の中を歩いていた。
どこかの森の中。
夏の暑苦しい陽気の中。
多分、結界の向こう側。
あまり均されていない小道を、ゆっくりと歩く。
『――――、――――』
ふと、声が聞こえた気がして、空を見上げる。
枝葉の間から見える空は青く澄み渡り、夢の中の時刻が昼間であることを教えている。
木漏れ日に目を細め、片手でシェードを作って見上げたその空に、一つの人影があった。
ごく自然に、それが当然であるかのように空に浮かぶ人影。
ああ、やっぱり今は夢の世界にいるのよね、とぼんやりと思う。
逆光になっているからか、その人影の人相風体は黒に塗りつぶされてよく見えなかった。
目が合った、と、そう感じた。
そして、その人影に異変が生じる。
人影が四角い影になり、その影がだんだんと大きくなって、
それが視界の大半を覆い尽くしてから、メリーはようやく気がついた。
――ああ、何かを落としてきたのね。
うっかり落としちゃったのか、渡すつもりで投げたのかは知らないけど。
そのまま降ってくる何かをぼんやりと見て、影がどんどん大きくなり、視界の全てを覆って、
ぼふり、あるいはばさり、と「それ」が顔面にぶつかったところで、
目が覚めた。
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「で、今日は何の用かしら、メリー?」
大学からほど近い、街の片隅にある古びた喫茶店。
小粋なジャズが静かに流れる奥まった一席に、メリーことマエリベリー・ハーンはいた。
秘封倶楽部の会議場として、私たちが既に何度も談笑している『いつもの』席だ。
「一分二十一秒遅刻。あら、今日は結構早かったわね、蓮子」
「店に入ったときなら一分と十秒ジャストよ。…時計はずれてないみたいね」
私の眼は、夜空に正確な時間と場所を見る。
それなら何で遅刻するかって?そりゃあ勿論、時計が正確だとしても持ち主の性格は変わらないからよ。
そしてそんな眼を持っていても、室内に入ってしまえばそれはただの眼。
一時的に一般人になった私は、メリーの向かいに座る。
「また夢を見たのよ。短い夢だったけどね」
メリーの眼は私と違って時間も場所も見えないけど、私と違ってそこら中にある境界を見てしまう。
私は気持ち悪い、といつも言ってるし、実際気持ち悪いけど、この眼がなければ私たちの活動は成り立たない。
でもメリーは最近、境界を見てしまうだけじゃなくて、その向こう側の世界まで行ってしまうようになって―――
「ふむふむ。で、今度は何を拾ってきたの?」
「あら、私はまだ何かを拾ったなんて言ってないわよ?拾ったけど」
眠っている間に、『夢の世界』のものを持ち帰ってくるようになった。
朝起きると、夢の中で持っていたものをそのまま持っているらしい。
質量保存の法則に真っ向から喧嘩を売っているような話だけど、物が現れるのは本当だから仕方ないよね。
一体どうやってそのものが現れるのか、今度泊まり込みで観察してやろうかしら。
あ、でも徹夜で観察してたら『泊まり込み』って言えるのかしら?
「そりゃ、テーブルの上に見慣れないものが置いてあれば誰だって気が付くわよ」
テーブルの上には、結構分厚い紙の束が折り曲げられて置かれていた。
この紙の束は…実際にお目にかかったのはこれが初めてだけど、恐らく、
「新聞紙?」
「新聞紙じゃなくて新聞よ。夢の世界の」
そう、新聞。
ニュースを報道するのに紙媒体を用いるこのシステムは、日本では既に廃れて久しい。
現在では一部の物好きな人が購読していたり、古めかしい喫茶店なんかにインテリア代わりに置かれていたりする、そんなメディア。
その内容も、速報性に欠ける新聞にはニュース性は求められなくなってしまい、娯楽情報が中心となってきている。
新聞、という名前なのだから新しいものを載せるべきだろうとは思うが、紙媒体ではその点どうやってもモバイルには適わないだろう。
そういえば、今でも筆入れって筆入れのままなのよね。下駄箱も。
「実はこれ、私もまだ中は読んでいないのよ。だからさ、」
「一緒に読まないかって?勿論よ!」
喫茶店のマスターさんにコーヒーを注文しつつ、快諾する。
勿論、こんな面白そうなものを読めるのが嬉しい、というのもあるが、
何よりも、メリーがそんな面白そうなことを自分と一緒に楽しむために我慢してくれていたことが嬉しい。
ああ、でも知的好奇心もそれに負けないくらいに大きいわね。感情って比べようにも基準がないから、この際どっちでもいいか。
さて、今日はコーヒーじゃなくても眼が冴えそうね―――
******************
「えーと、『身体にいい毒薬、発明される』」
「なにそれこわい。じゃなくて、なになに…ああ、『毒に効く毒』なのね」
「毒を盛って毒を制す、だっけ?」
「メリー、メリー。響きが危険よ。いや、意味は間違っていないけど」
「以ての外ね」
「判ってて言ったのね…」
「それにしても、いきなり夢っぽくない記事ねぇ。妙に現実的な話だわ」
「そう?私としては、この写真の女の子が気になるんだけど」
「あら、蓮子ったらこんな小さい女の子が好みなの?」
「怒るわよ。ほら、この子の顔、よく見て」
「別に境界なんて見えないけど…それにしても人形みたいな子ねぇ」
「みたい、じゃなくて人形なのよ。人間の眼はそんなに硝子質じゃないわ」
「『太陽の畑、見頃本番は来週から』。わ、見て見てこれ」
「一面の向日葵ね、天然の。いちめんのひまわり、いちめんのひまわり、」
「かすかなるていこう、いちめんのひまわり」
「何よそれ」
「どこかの禅寺の蝶と兎の話。ん?まちがったかな…」
「全然違うわよ、私が言った時点から、ついでに色々と。いちめんのひまわり、いちめんのひまわり」
「それにしても、写真がカラーじゃないのが残念だわ」
「あら、モノクロの方が想像できて楽しいけど。イメージに勝る風景(イメージ)なんてないわ」
「『来週半ばにはプリズムリバー楽団のライブも行われ~』ってあるけど?」
「前言撤回、生で見た方がいいに決まってるわ。でも、向日葵畑にライブってどうなのかしら」
「底抜けに明るい曲が似合うんじゃない?音で言うならトランペットとか」
「『此岸から彼岸が観測』…って、これはどういう意味かしら」
「あら、この写真に写ってる川…すごく大きな境界だわ。けど、それなのに向こう岸が見えちゃってるわね」
「此岸と彼岸で境界…って、三途の川?なんでそんなものが写真に写ってるのよ。観光名所じゃあるまいし」
「夢の世界の話なのに常識にとらわれすぎよ、蓮子。ほら、ここに人っぽいの二人写ってるし」
「…ねえ、それ片方鎌持ってるんだけど。死神さんじゃない?」
「鎌を持ってるからって死神さんとは限らないわよ?たとえばほら、死神のコスプレサービスしてる船頭さんとか」
「三途の川で船頭さんだったら結局死神さんじゃないの。で、記事の内容は…っと」
「『三途の川の川幅が渡る者の徳によって変化するのは知っての通りだが』、って、知らなかったわ」
「むしろどうやって変化するのかが気になるわ。船頭さんが時間をかけて漕ぐとかかしら」
「『霊の徳の高すぎたために対岸との距離が狭まり、此岸から彼岸が観測された』だそうよ」
「って、体感距離じゃなくて実測距離が変わっちゃうのね。それでこの写真かー」
「そんなに距離が変わっちゃうなんて、一体どんな人だったのかしら。最近のニュースにはそんなに凄そうな人はいなかったけど」
「徳があってもニュースになるとは限らないわよ?案外、枕石漱流の隠者かも」
「逆に漱石枕流かもね。ちょっと変わった仙人みたいな人」
「あら、コラム記事だけど、これ…『彼岸と此岸のバランス』?」
「死人が際限なくあの世に行くから、人口がどんどん彼岸に傾くってことかしらね?」
「別に川の水で海が溢れることはないから大丈夫だと思うけど」
「輪廻ってやつね。…あ、でもここ」
「『魂の流入量に対して転生する量が減っている』?ああ、そういえば」
「人口、減ってるわねぇ。日本だけ見ても、世界で見ても」
「鶏と卵ね。転生する魂が減ったから人口が減っているのか、」
「人口が減ったから魂が転生しないのか、ね」
「どちらにしても、海水面上昇は現在進行形の社会問題ってことね」
「あんまり溶けてほしくない氷ね。倫理的に」
「覆水盆に還らず、だけどね」
******************
「…ふぅ!面白かったわ!」
ぱたりと新聞を畳んで、テーブルの上に置く。
気が付けば既に二つ目だったコーヒーカップも空になり、時計の針も驚くほど進んでいた。
この新聞は大した時間泥棒だったらしい。こんな時間泥棒なら大歓迎だけどね。
「やっぱり、こういうものは意見を出し合いながら読むに限るわね。蓮子と一緒で正解だったわ」
「私こそ、メリーと読めてよかったわよ。持ってきてくれてありがとね」
「いえいえ。…って、あ。」
「? どうしたの、メリー…って、あ。」
ふと、メリーが自分の手を見て目を丸くした。つられて見てみると、指が真っ黒になっている。
慌てて自分の手を見ると、私の指も真っ黒になっていた。
そうか、インクか。書籍の印刷であればかなり前から指にインクが付くことなんてないからすっかり忘れていた。
******************
マスターさんに頼んで手を洗わせてもらい(快く使わせてくれた。ちょっと嬉しい)、精算を済ませて店を出た。
日が軽く傾いた道を歩きながら、ふとメリーが思いついたように口を開く。
「ねえ、来週だけど」
「何かしら?」
「もし見つけられたらだけど、サークル活動しない?」
「来週…ああ、成程。そうね、見つけたいわね」
「ええ。本当にね」
『それじゃ、一緒に探しに行きましょう!』
とても良かったです。
軽いノリの会話もテンポが良くて楽しい。
言ってしまえばそれだけのお話なんだけど、
ちょっと不思議なニュースが載ってる新聞を前に二人であーだこーだ言ってるのが、
なんだかとても秘封倶楽部らしいなと思いました。
この二人の活動は楽しそうだなぁ。
そして記事を読んであれこれ話す秘封の二人も素敵だった
連想と言葉遊び……東方会話の本分ですね。
メディスンは是非とも再登場してほしいなぁ。