どうしてこうなった。
目の前の暗澹たる光景を見て、そう呟かずにはいられなかった。
「蝙蝠なら、大人しく日陰に閉じ篭るべきじゃないかしら」
「おや、土弄りのしすぎで頭の中までお花畑なのかな」
僕以外は皆笑っている。その笑みは、蜘蛛の子すら散る前に毒気で死にそうなくらいの威圧だった。
残念ながら僕にこの事態の因果を含める事は出来そうにない。現実よりも奇なのが幻想郷なもので、僕が全てを知るにはまだ経験が浅かったという事なのだ。よって、今はただありのまま起こった事を話すのみである。
逃げるように僕は静かに目を閉じる。重い瞼の裏で、数刻前の香霖堂が朧げに姿を表した──
*
朝から麗らかな春が目を覚ましていた。
その穏やかな陽光は風に舞う羽毛のように店内に入り込み、ゆるりと僕の体に柔らかく着地する。窓の外には彫刻刀で深く彫ったような青空があった。時計ですら時を刻むのを忘れて眠りこけてしまいそうな空気の中で、僕は少し熱めにいれた茶を喉に流し込む。うん、美味い。どうやら戸棚にわざわざ二重底を造ってまで隠して置いた甲斐はあったようだ。
無縁塚への仕入れは昨日済ませたばかりである、今日はもう出掛けるつもりもない。まあこんな晴れやかな日なのだ、外へ出かける人間は花見をするような目出度い人間だけだろう。それでもこんな沈んだ場所にやって来るような浮かれた者達がいるかもしれないので、一応は店を開ける事にした。
棚から本を出して栞を閉じた頁を開く。このまま客が来なければ今日一日で残り半分くらいは読めるのにと自分でも商売人らしからぬ考えに至った事に少しながら苦笑を漏らし、しかしそれに逆らわず僕はカウンターの椅子に深々と座り込んだ。
──カランカラン
「開いていますね?」
「……いらっしゃい」
パタンと本を閉じ、椅子から背を離す。僅かに不満を声に乗せてしまった事を忸怩しながらも、とりあえず客らしき人物の応対に取り掛かった。
そこに居たのは吸血鬼に仕えるメイド、十六夜咲夜だった。彼女はドアノブを握る反対の手で日傘を持ち、見慣れたメイド服に身を包んでいる。
「開いてるに決まっているでしょ。こんな日に閉じ篭っているなんて、カビかモグラくらいよ」
遅れて入って来たのは、このメイドの主である吸血鬼。名をレミリア・スカーレットと言う。
「お嬢様、梅雨はもう少し先ですわ」
「ジメジメした奴は年中変わらないわよ。まあここは埃の方が多そうだけど」
こちらも相変わらずの調子だった。季節が一巡りしても、幻想郷の少女達は何も変わらない。
「君はここに来るなんて珍しいね。生憎だけど霊夢は来ていないよ」
「知ってるわ。昨日は丑三つ時まで神社で宴会だったから。あら、昨日じゃなくて今日だったわね」
「それならまたティーカップをお求めかな?」
「あんな妙ちくりんな食器に食指は動かないわよ」
とりあえずそれは僕の所為ではない。
「お嬢様、せめてアバンギャルドなと言ってあげましょう」
「そうね、芸術作品としても三流だったけど」
揃いも揃って酷い言い様だった。
さて、その貴きお嬢様がこのような埃多き所にいかでか久しくおはせん。嫌味を売りに来ただけなら早々にロケットの魔術書でも渡して月にご退場頂こう。
「では一体どのような御用でしょうか。お客様のお求めにはそれなりに努力するつもりですが」
「傘よ」
ついとレミリアが言うと、応じるように咲夜は持っていた傘を僕に向けて開いて見せる。
その傘布はよく見ると浅い擦り切れがあり、石突も荒が気になるくらいに削れていた。骨は大丈夫ではあるが、露先は慣れた様子が見受けられる。
「ふむ、使い込んでいるな。しかしこれならまだ十分使えるんじゃないか?」
「見た目の問題」
「……ああ、そうかい」
道具屋としては頂けない言葉だったが、半分妖怪の身としてならば何となく察する事が出来た。
要するにこの誇り高き吸血鬼は体面を気にしているらしい。それは妖怪としての畏怖であり、主君としての畏敬である。端然を着飾る事で、これら二つを損なわないようにしているのだ。単なるわがままなお嬢様だと思っていたが、なかなかどうして弁えているものだと僕は彼女に対する認識を少し改めた。まあ、言動がそれに付いて行ってないのだが……。
「用件は分かった。倉庫から君に合いそうな日傘を幾つか持ってこよう」
「いや、この傘の修理をお願いするわ。修理ならタダなんでしょう?」
「え?」
「え?」
何だそれ怖い。
「霊夢や魔理沙が、そう言ってましたけど……」
互いに首を傾げる僕達に咲夜が割って入る。私もそう聞いたわ、とレミリアがそれに続いた。
「何と?」
「『霖之助さんは道具に触ってるだけで幸せだから、それが報酬みたいなものよ』って霊夢が」
「そうですね。『香霖は珍しい本と水を与えてやれば一ヶ月は生活出来るんだぜ』とも言ってましたわ」
「……その物真似、全然似てないよ」
実を言うと咲夜は少し似てた。
「残念だが僕の仕事は慈善事業じゃないんでね、あの子達の依頼も全てツケているだけだ。一商売人としてきっちり御代は頂かせてもらうよ」
「あら、そうですか」
すると突然、咲夜の右手に一冊の本が現れた。
「それではパチュリー様から頂戴したこの本は無駄になってしまいましたね。お嬢様、一度館に帰って代金を取って参ります」
「まあ待ちなさい」
扉の方に歩き出していた咲夜の背中に僕は声を掛けた。
「はい、何でしょう」
「君達みたいな上客がわざわざこんな辺鄙な所まで足を運んでくれた事だ。僕としても客に要らぬ労力を消費させるのは忍びない」
うん、言ってみれば彼女達は与太話に騙された被害者だ。僕は冷静だが冷酷ではない、上客への気遣いもまた商売人の心得という訳である。仕方ないので今回ばかりはたった一冊の本だけで彼女達の要望に応えてやる事にした。別にその本が興味深い錬金術の本だったからではない。
「何と言うか……」レミリアが快く本を受け取る僕を見て零した。「やっぱり貴方は魔理沙の兄貴分ね」
はて、どこを見てそう思ったのだろう。僕ほど真摯で謙虚な商売人は居ないというのに。
それにあの図書館の魔女は錬金術が苦手だったと聞いている。だとするとこんなに素晴らしい錬金術の本でも埃を被ったまま忘れ去られてしまうかもしれない。だからこそ彼女の手元で腐らせるよりは僕が読み潰し……いや、しっかりと管理してやらねばなるまい。道具屋として、何時だって道具への愛を忘れてはいけないのだ。
「では、こちらの傘は暫く預かろう。それまではこの代わりの日傘を使うといい」
言って、僕は質草代わりに別の日傘をレミリアに差し出してやる。
「黒い日傘? ふうん、まあ別に良いけど」
自分の好みに合わなかったのか、彼女はいまいち足りていない顔をする。しかし吸血鬼にとっては白よりも紫外線をカットする黒色の日傘の方が適していると僕は踏んでいた。それに白色の日傘で日差しを反射すると壁や地面などの照り返しを受けるかもしれない。意匠を凝らすのも大事だが、ここは機能美を優先しても良いだろう。
修理は三日で終わると伝えると、レミリアは早々に身を翻した。商品棚を物欲し気に眺めていた咲夜(もう少し時間を掛ければ何か買ってくれたかもしれなかった。少し残念)を呼び掛けて、
「それではまた三日後に」
と残し、扉の方へ歩き始めた。
今思うと、この時僕はもう少し世間話なり何なりするべきだった。いや、気の利いたお世辞を一つ転がすだけで、この後に生まれる猛火に手を焼く事もなかっただろう。全てはたった数秒のタイミングだったのかもしれない。
咲夜が扉を開ける。暗い店内に輝かしい草花からの照り返しが飛び込んできて思わず僕は目を細めた。吸血鬼ならなおさらだろう。そのままレミリアが歩を進める。
すると、
「ん?」
突如、レミリアの目の前に現れた影。
それを避ける事も出来ずに彼女は、
ぽふん。
──おそらく、そのような感じの擬音で以てして表現されうる事態だったと推測する。
「あら。ごめんなさい」
レミリアの前、扉に立つ影。香霖堂の馴染み客。
「小さすぎて、よく見えなかったわ」
風見幽香が、そこにいた。
「…………」
穏やかな春の陽気の中、香霖堂の空気だけが凍っていた。
レミリアは動かない。それとも動けないのだろうか。具体的には、幽香の……その、何だ、胸部に頭を埋めたまま微動だにしなかった。見ろ、あの咲夜でさえ笑顔の端が強ばっているじゃないか。肩に伸し掛る空気が氷のように寒くて重い。駄目だ、早く何とかしなければ空気が死ぬ。
「……やあ幽香、いらっしゃい」
いやこれじゃないだろうと自分で言ってから思ったが、どう考えてもこれ以外に掛ける言葉が無かった。
「ええ今日は。相変わらず湿気が多い場所ね」
君も吸血鬼をくっつけながら普通に返事しないでくれ!
「…………ふふふふふ」
そしてようやく、事態に変化が生じた。
顔を埋めていたレミリアがゆっくりと後退する。ここからでは顔はよく見えないが、確実に嫌な方向の笑みを貼りつけてるのは間違いない。
「いや結構、こちらが避けるべきだったな。そんな無駄な脂肪をぶら下げていては小回りが利かないだろう?」
「あらあら」
レミリアの言葉に、幽香の微笑みが三割増しに深くなり、同時に三度くらい温度が下がった。
「そうね。貴方みたいに小さくて流線型ならもっと楽に飛べたでしょうに」
「ほう」
返す幽香の言葉に、レミリアの周りの空気が五度くらい下がった。
「その鈍重な体でわざわざこんな店に何用かな? まあここはお前みたいに土臭い物は多いみたいだけど」
「そうね、吸血鬼の死体が混じった肥料でも貰って帰ろうかしら」
「ああ成る程。自分の死体じゃ脂ばかりでカルシウムが足りないんだ」
「確かに、貴方は骨と皮が大半だものね」
「……中々面白いじゃないか」
「ええ。私も楽しいわ」
二人は向き合って微笑みを交わす。ただしその目だけは、確実に妖怪の本性を煌々と輝かせていた。ちりちりと体に当たる妖気がむず痒い。刺すように放たれるのはレミリアの、削るようにばら撒かれているのは幽香のそれだ。
「……これは不味い」
何故そうなったか分からない程に不味い。何故だ。さっきまでここには穏やかさと温かさが仲睦まじく暮らしていた筈だ。なのに今は、殺伐と厳寒が店内を土足で踏み荒らしていた。
理解出来ない事は一先ず置いておくにしても、僕に残された選択肢は唯二つ。香霖堂の店主か脱兎か。僕は最後の意地として、ここに座り続ける事を選んだ。
しかし、これだけは言わせて欲しい。
どうしてこうなった。
*
僕は再び目を開ける。
回想という名の現実逃避を経て、再び僕の目に春めいた陽光と、
「咲夜、手は貸さなくていいわよ。その代わりナイフを数十本程貸して頂戴」
「あらあら、自分から腐肉土になろうだなんて殊勝な事ね」
夢も希望もないダークな景色が舞い戻って来た。
しかも事態は悪化している。このまま放っておけば確実に丁々発止とやりあうのは目に見えていた。スペルカードルールに則って行われるかどうかすらも怪しい雰囲気である。そもそも最初のじゃれ合いの時点で口を挟むべきだったのだろうか。
相も変わらず不敵な笑みを浮かべ、二人は構えを……って、いや待て、まさかここでおっ始めるつもりか!
一瞬にして、両者から笑みが消える。その突然に僕はどうする事も出来ずに、そして──
「御二人共、少しよろしいでしょうか?」
意外にも、傍に控えていた十六夜咲夜が口を開いた。
「何よ咲夜。加勢なら無用だけど」
「そうではありません。──ねえ、花の妖怪さん」
「何かしら」
不意に話を振られた幽香が、顔をしかめて咲夜に疑問の色を返す。
「貴方は、右手のそれを修理してもらいに来たのではありませんか?」
「……そうだけど」
「何?」
咲夜の言葉に導かれた僕が幽香の姿を落ち着いて見ると、彼女の手に握られている物に気が付いた。
ブーメラン? いや違う、日傘だ。彼女の日傘が綺麗な『く』の字に折れ曲がっていた。
「今朝ちょうど生意気な天人をぶっ飛ばしたらこの有様よ。不良品を引っ掛けられた気分だわ」
僕としてはその天人の安否が引っ掛かるが。
大変ですね、と咲夜は世間話でもするかのように悠長に返した。場を和ませる策なら無駄だと思うが……。
「それで傘の修理に来たのだけれど、今日は随分と込み入ってるみたい」
「奇遇ですね。実は私達も傘を直しに来たのですが、ここの店主はひねくれ者でして」
「おい」
本当に、このメイドは何をするつもりなのだろう。
「知ってるわ。ちょっとでも気に入らない事があれば直ぐにへそを曲げると白黒鼠も言ってたし」
「そうですね。例えば、店の中で暴れるだとか」
幽香と細い眉が僅かに動いたのを僕は見逃さなかった。
……成程、彼女の思惑が何となく読めてきた。
「そうでなくても外で騒がしい事が起きると読書の邪魔になってしまうかもしれません。ねえ、店主さん?」
「えっ? あ、ああ、そうだね」突然の咲夜の振りに僕は何とか話を合わせる。「僕も半分妖怪の血が混じってるものだから、気分が害されると手先が拙くなってしまうかもしれないな」
「だ、そうですわ」
そう続けて、咲夜は花の妖怪に対し月見草のように微笑んだ。
「さて、お嬢様。彼女は愛用の日傘もなく、しかも一戦交えて来た後らしいじゃないですか。いかかでしょう、ここは互いに万全を期するまで預けては?」
「ふふん、それもそうね。手負いの獣に手を出すほど私は堕ちてないわ」
その言葉に、レミリアは殺気を解いていつもの余裕を込めた笑みを浮かべた。
そして幽香の方はというと、すっかり余裕をせしめたレミリアを見て、
「……興が冷めたわ」
と、面白くなさそうに肩を落とした。
開けっ放しになっていた扉から春風が入り込んで来る。その柔らかな感触を感じ取れるくらいに、いつもの香霖堂の空気が戻って来た事に気付いた。さっきまでの火事が手品のように沈静化したのを見て気を抜かした僕に、咲夜が片目を閉じて横顔を流す。
本当に……彼女はよく出来たメイドである。お得意のナイフも能力も使わず、まるで手品のように二人を誘導しながら結果を出してみせたのだ。次に買い物に来たときは一割引きで商品を売ってやるとしよう。
さて、僕もいつまでも傍観者に甘んじている訳にもいくまい。
「幽香、君は傘の修理をしに来たんだろう? とりあえず見せてもらわない限りはどうしようも出来ないんだけどね」
僕がそう言うと、幽香は黙って日傘をカウンターの上に置いた。呆れる程の角度で折れ曲がったそれは、見る者によれば処分ものだろう。
「また派手にやったものだ。毎度ながら大事に使えと念を押した筈なんだが」
「あら、今回はちゃんと傘の形を保っているでしょう」
「七割は僕のおかげだよ……」
そう、幽香の傘は僕の作った道具である。
ちょうど幾度前かの春に来店した彼女に、弾幕ごっこにも使える日傘が欲しいと半ば脅しにも近い態度で頼まれたのだ。作っては折られ作っては折られを繰り返して、今ではおよそ日傘と呼べない程の出来になっている。まあそれでも、こうしていつものように無残な姿になっているのだが。
「道具は使い倒されてこそ本望でしょう? それに私は壊れない傘を所望したのだけれど」
「君の言う『枯れない花』かい。生憎だが僕は錬金術師じゃないんでね。限りあるものしか作れないよ」
「ふん、不死にでも憧れているのか? 十分長生きしている癖に」
まだ居たのかレミリア。用が無いならさっさと帰って欲しいものだ。これ以上僕の店で喧嘩を売買されても困る。
「とりあえず修理はさせてもらうよ。次も壊れないように出来るだけ努力はするがね、君はどこまで僕に苦労させれば気が済むのかな」
「あの隙間妖怪とやり合って、傷一つ付かなければ及第点かしら」
妖精が科挙に合格する方がまだ簡単そうだ。
「けどそうね、とりあえず今回は……」
幽香は不敵な笑みを浮かべる。そのまま視線を横に移し、まだ店内に居座ったままであったレミリアを一瞥した。
「吸血鬼を叩き潰しても壊れないくらいにしなさいな」
「ほう?」
レミリアが片目で幽香を覗くと、またも刺すような気配が店に流れる。事に喧嘩に関しては彼女達は僕よりも商売上手だった。まるで見習いたくはない。
「まあ壊れないようには作っておくさ。それじゃあ十日後にまた来てくれ」
「一週間」
「いや待て、何度も言うが君の傘は特別な」
「一週間よ。それとも私は寸暇の読書以下の価値なのかしら?」
「……ああ、分かった。一週間でいい」
迫る幽香の笑みに僕はしぶしぶ折れた。花のような笑顔を浮かべてはいるが、どうみても狼が舌なめずりをしているようにしか見えないのだ。
まあ実を言うと四、五日あれば十分だった。彼女の性格は分かっていたので、あえて多く言ったまでだ。
「一週間後、楽しみにしてるわ」
香霖堂の鈴が鳴る。そして静かに緩やかに、花の妖怪は春の景色の中に消えて行った。
はて、あれは一体誰に向けた言葉だったのだろう。
そんな事を考えていると、いつの間にかレミリアがカウンターの前に立っている事に気が付いた。
「店主、注文を追加するわ」
笑っているのか怒っているのかよく分からないような顔で、彼女はこう言い放った。
「あの花の妖怪よりも優れた傘を作りなさい」
言葉の代わりに、僕は重い嘆息で返した。
子供だ、やっぱりこの吸血鬼は子供だった。そしてこれは子供の喧嘩だ。どうやら僕はその対岸の火事に巻き込まれてしまったらしい。身に降る火の粉は確実に僕の手を焼くだろう。彼女は五百年近く生きているようだが、やはり中身も見た目相応だ。
「とは言うがね、彼女の傘とて量産品じゃない。あれでこそ僕が積み重ねて来た特注品なのに、君はそれより良い物を作れと言う」
「報酬は弾むわよ」
「そういう意味じゃなくて」
「咲夜」
「はい」
呼ばれた咲夜が割って入るや否や、先程僕が受け取った本がカウンターから突然姿を消した。何処へ、と考えて頭を上げると、いつの間にか咲夜の手に三冊の本が現れた。
「パチュリー様から頂いた図書館の本を合わせて三冊。足りませんか?」
ぐらり、と僕の心が大きく揺らいだ。しかもどうやらさっきの本の続き物らしい。
「まあ材料は足りているが……しかし」
「では、さらにもう二冊」
負けた。
目の前で積まれていく未知の本の山に、僕の秤はとっくに機能を放棄していた。
「……仕方ないな。何とか腕を振るって見ようじゃないか」
「ありがとうございます。店主さんならきっとそう言ってくれると信じていましたわ」
それは、見透かしているとも言う。
だが最近は閑古鳥の声も聞き飽きたところだ。ここらで少しは稼がなければなるまい。
「流石に幽香の傘と同じかそれ以上は掛かるだろうから、こっちも一週間というところだな」
「そう。じゃあ一週間後に」
「ああ、一週間後……って待て待て!」
この吸血鬼は、数分前の事も忘れたのか!
「さっきの会話を聞いていただろう、幽香の傘を作り直すのにも一週間掛かるんだ」
「丁度良いじゃない。二つの仕事がきっかり一週間で済むわよ。読書の時間を惜しんで作りなさい」
「馬鹿を言え! あれ程の技術を費やした道具を一週間で、しかも二つも作れだなんて──」
「咲夜」
「はい。成功後の報酬としてさらに二冊を出しましょう」
「──僕にしか出来ないだろうな。安心して待つといい」
……あ。
考える前に、反射的に声が出てしまった。気付いた時にはもう遅い。
「それはそれは、大層期待させてもらうわ」
レミリアがさぞ楽しそうに血のような赤い目を細める。僕の痴態に堪えきれなくなったのか、咲夜でさえもが年相応の笑顔でクスクスと声を漏らしていた。
逃げ場も、足の踏み場も無い。
完膚無きまでの敗北だった。
二人を追い返し、ようやく僕は椅子に深々と腰掛けた。
「……疲れた」
男としても商売人としても、僕の矜恃は今や風前の灯火である。もしかすると既に燭台の根元から折られたのかもしれない。これからの苦労を考えると燃え尽きてしまいそうだ。
せめてもの反抗だ、この一日の残りは全て読書に充ててやろう。僕の時間なのだ、誰にもとやかく言われる筋合いはない。僕の目の前にあるのは、あのメイドが支払い代わりに置いていった五冊の本。ふと、積まれた本の裏表紙をめくると「全七巻」と書いてあった。となると、成功報酬の残り二冊を合わせて続き物が全て揃うのだろう。
せめて今だけは安らかな時間を。そう決めて、僕は清々しい気分で本を手に取った。
一巻、二巻だけ無かった。
*
古来より傘という道具は権威者を日差しから守る目的を持っており、詰まるところその持ち主の威厳を示していた。後にヨーロッパでは装飾品としての日傘が広まって行くが、当時は女性の道具としての認識が強く、その機能よりもデザインの方が重視されていたのだ。やがて近世を迎え、傘を巡る状況は一変する。傘が男性の道具としても、そして雨を避ける用途が生まれたのは、忘れてはならない一人の商人の活躍があった。
「ジョ、ジョ……ええと、何だったかな」
……まあ名前はどうでもいい、どうせイギリス人だからジョナサンだろう。
ジョナサンはペルシャを旅行中、中国製の傘が雨傘として使われていた事に感激し、雨傘を広めようと防水を施した傘を差してロンドンの町を歩いたという。男性が傘を、それも雨の中を差して歩くという当時では嘲笑の的である行為を彼は物ともせず、何と三十年間も続けていたのだ! やがてジョナサンの孤軍奮闘は実を結び、雨傘の実用性がイギリスを始めとして世に広まって行ったのである。彼が傘の歴史の中で大きな一歩を踏んだのは間違いないだろう。道具を愛する者として、僕は彼に深く憧憬を禁じ得なかった。
「ふむ、こんなものか」
そこで僕は工具を置いて、朝から続けていた傘作りを中断する事にした。
最初は構想だけで丸一日費やしてしまったため本当に間に合うのかと気を揉んでいたが、この調子ならば何とかなりそうだ。彼女に傘布を頼んで正解だったな。流石人形遣いとも言うべきか、駒裁断や中縫いの精緻から手先の精美が窺える。単なる分業の目的だったが、餅は餅屋という言葉を改めて思い知らされた。
僕は熱い茶をぐいと喉に流し込む。店の中の多忙など知る由もない窓の外には、頭の中も春めいた妖精達が楽しそうに飛んでいた。
──カランカラン
「ん?」
ああそうか、一応店は開いてるんだから客は来るのか。
「いらっしゃ……」
声を掛けようとして、しかし扉の前に誰も立っていない事に気が付いた。
はて、妖精の悪戯だろうか。そう思っていた僕の背中に、
「相変わらず、年中梅雨みたいな所ね」
聞き覚えのある、そして出来ればあまり聞きたくはない声が掛けられた。
「……言っても無駄だろうけど」振り返らぬまま、僕は小さく溜息を吐いた。「ドアベルを鳴らしたからと言って、店の中から出て来ていい理由にはならないよ」
「それでは、次はこっそり参りますわ」
声が隣に並んだ。僕は目線だけ動かして、その少女の姿を認める。
彼女──八雲紫は、数ヶ月前と同じ不吉な笑みを貼り付けていた。
どうやら彼女は数ヶ月ぶりに目覚めたところらしい。草花が萌ゆる季節から活動し始めるとは、魔理沙曰くの『冬眠」という言葉もあながち間違いじゃないかもしれない。本当に寝ているかどうかは僕の及び知るところではないが……。
紫は作りかけの傘を鉄砲のように弄んでいた。
「これ、貴方が作ってる新しい武器かしら」
「傘だよ、傘」
「ふうん、まるで傘とは思えないくらい丈夫ね。外の世界の傘なんて、今じゃほとんど消耗品だと言うのに」
「ビニール傘とか言うやつかい。あれはあれで中々優れた物だとは思うが」
「そうね、誰の傘を使っても気にしないくらいには」
確かに、無縁塚に流れ着いた傘はどれも無機質で味気無いものだったように思える。あの式神といい、外の世界の道具はどれも面白みのない姿をしているのだ。
「だが、たとえビニール傘でも大事にする人はいると思うよ」
僕は店内に立て掛けてあったビニール傘を手に取って見せる。そのハンドルには小さく『EVA』と彫り刻まれていた。
「ほら、ビニール傘にわざわざ自分の名前を残すくらいだから、この傘の持ち主はきっと物を大切にする人だったんだろう」
「エチレンビニルアセテートだなんて変わった名前ね。まるで人工物みたいだわ」
「……いやまあ、そういう人もいるかもしれないと思っただけさ」
色々台無しにされた気分だった。さらば、幻想のエヴァさん。
誤魔化しとばかり僕は温くなった茶を飲み干した。この娘の隣に居ると何故か喉が渇くのが早いようだ。台所に立って昨日と同じ茶を淹れる。彼女の分を淹れようかと少し迷ったところで、ふとした疑問に至った。
「そういえば、何か用事でもあったのかな?」
「いえ、ただの眠気覚ましに」
「うちに珈琲は無いよ」
「あら、それなりに面白そうだと思って来たのだけれど」
「ゲーム機は君が持っていっただろう」
「いえ、私が面白いと言ったのは貴方の事です」
「僕が?」
ええ、と紫は口元を扇子で隠して、
「貴方があの二人の要求をどうやって叶えるのかと、それはそれは楽しみにしてますのに」
「……顧客情報は秘密の筈なんだが」
いつの間にか筒抜けなっていた香霖堂の商売事情に僕が硬い顔を見せると、
「私ですもの」
と、紫は柔らかい笑みを返した。
レミリアは幽香よりも優れた傘を作れと言った。これだけならば難しい事ではない。だが一方で幽香は、『吸血鬼を叩き潰しても壊れない傘』を注文した。言葉通りなら耐久性を上げるだけで十分だが事はそう単純ではない。これはつまり、吸血鬼への勝利に追従する傘という意味だ。その注文を受けておきながら幽香の傘よりも優れた傘をレミリアに渡したらどうなる?
「まさに傘屋の小僧という訳だね」
「なら両者とも程々にしておきますか?」
「まさか」
だからと言って二人に同じ物を渡せばもう目も当てられない事になるだろう。全身打撲の見本として医学書に載せられるくらいの始末になるかもしれない。つまりは両方の要求を同時に叶えなければならないという事だ。商人である僕が矛盾を引っ掛けられるなんて、一体何の因果だろうか。これは試練かそれとも罰か。最近の怠惰が天罰と成って降りかかって来たのかもしれないな……って、元はと言えば僕は巻き添え喰らっただけじゃないか。
「まあでも、考えはあるさ」
「へえ」紫は小さく呟いて、するりと僕に目を流した。「何か、策でも?」
「策と言う程ではないよ。ただ、僕は自分の与えられた仕事をするだけだ」
それに期日まで後五日間も残っている。事を成すには十分な時間だ。自分の技術と商才を頼りに、僕は道具屋としての己の器に賭ける事にした。僕は傘屋ではないが、道具を作る術は持っている。彼女達の要望に応えられる傘が無いなら作ってしまえばいい話なのだ。
「残念。貴方の四苦八苦する様子をもう少し見ていたかったのだけれど」
「見世物なら他所へ行ってくれないかい」
結構な趣味だな、と嫌味を視線に乗せて僕は顔をしかめた。毎度の取引相手ではあるが、暇潰しを提供する義務はない。退屈なら神社にでも行けばいいだろうに。
「そろそろ僕は作業に戻るよ。何分忙しいものでね、君が客なら話は別だが……」
「あら、それは良い考えね」
思いついた様にそう言って、紫はわざとらしく手を合わせて見せた。買い物でもするのだろうか、と僕が訝しんでいると、
「せっかくですから、私も日傘を注文する事にしましょう」
「……うん?」
「何とかなるんでしょう?」
「いや、ちょっと待ってくれ」
呆気に取られる僕を無視して、彼女はつらつらと言葉を並べていく。
「期限は二週間後で構いません。報酬は……ストーブの燃料六ヶ月分でどうかしら。ああ、これは勿論貴方が六ヶ月分の対価を支払わなくてもいいという事ですので」
「……はあ」
矢継ぎ早に進められる商談に対して、僕はもう諦観の意を示すしかなかった。
「君は……いや、もう勝手にしてくれ」
どうせ待てと言っても聞かないのだろう。幻想郷の妖怪少女達はおよそ人の話を聞く常識を持ちあわせていないのだから。彼女はその最たる権化である。
そうして、僕は不覚にも紫の暇潰しに付き合わされる事になってしまった。
「まあ、別にいいけどね」
流石に先の注文とは期日をズラしてくれたようだし、何よりストーブの燃料半年分という報酬が素晴らしかった。
「さて、どんな傘を作れば君の暇は潰れるのかな。僕は大道芸人じゃないから君のお眼鏡に叶うかどうかは分からないけどね」
「どんな傘か、そうねえ」
紫はいつもの不吉な笑顔を見せて微笑んだ。
今までの経験から分かる、これはこの娘が僕を引っ掻き回す時に出る笑みだ。
妖怪というものは暇を潰す事にかけては人間以上の心血を注いでいる。なら妖怪の賢者である彼女は、どれほどの権謀術数を目的のために巡らせるのだろうか。
「逆に質問しましょう。そもそも、傘とは何かしら」
「……用途は、『使用者を日や雨から守る』」
「意外と人間臭いわね、貴方」
半分人間だからな。
「なら、『使用者の権威を示す」とでも言うのかい。確かにその方が妖怪らしい使い道だけれども」
「どうかしら、貴方があの二人に売るのがどちらの傘かは知りませんが」
日避けか権威か、僕はどっちを売るんだろうか。
紫の左手が二本の傘に触れる。子猫を撫でるような少女の姿は、店内に差し込む逆光の中で霞むように見えた。
「日傘、雨傘、権威の傘──では、妖怪にとっての傘とは一体何なのでしょうね。やはり権威かしら、それとも伊達? けれど傘の用途でさえ使う者によって変わってしまうと言うのなら、それはもう全て正解なのかもしれない」
「まあ、確かに」
まさしく物は使い様という事だ。使う者次第で道具は良くも悪くも成り得る。
「そして、それは作り手とて同じです。同じ物を作ったとしても動機が違えば用途も違う。ましてやここは幻想郷。形無き意志は幻想を形成しますわ。善意は加護になり、悪意は呪詛になる。道具を作る者の心の隙間がそのまま、道具の新しい用途の居場所に成り得るのです」
淡々と述べられる彼女の言葉が、僕には何だか当て付けのように聞こえた。
「たとえ答えが幾つあったとしても、道具の本質というものは変わらないものだと僕は思うよ」
「ふうん、それは道具屋として?」
「僕としては、だ」
くすくす、と紫が笑った。
禅問答をやらされているみたいだった。なまじ言葉が通じる分、念仏よりタチが悪い。毎度の事だが彼女の言わんとしている事が見えてこない。彼女は僕に何を求めているんだ?
「傘……いや、貴方なりの答えかしら」
「さっきから一体何が言いたいんだ? これじゃあどんな傘を作ればいいのか僕には皆目見当も付かないんだが」
「そうね。では単刀直入に言いましょう」
ぱしり、と紫は扇を閉じる。
「私が欲しい傘というのは──」
そして、紫はゆっくりと口を開いた。
それはあまりにもシンプルで不透明な──底の見えない落とし穴のような、そんな注文だった。
「──というのはどうでしょう」
言い切って、紫は薄く微笑んだ。
「それは……一体どういう意味かな?」
「言葉通りよ。もっとも、どう解釈するかは貴方次第ですが」
彼女の眼が僕を捉える。奥の見えないその瞳に、僕は試されるどころか弄ばれているような、居心地の温い気配を感じた。
彼女は一体何を考えているんだろうか。本当に只の暇潰しなのだろうか。考えても無駄なのは分かっているが、その逃げ道すらまるで検討がつかなかった。宙に浮いているような、それとも足が池沼にずぶりと沈んでいくような曖昧な感覚だった。
ただ一つだけ分かる事は……これが八雲紫という妖怪なのだという事だけだ。
「では、御機嫌よう」
そして紫は、その不吉を絶やさぬまま別れを告げる。
身を翻した彼女は、しかしふと何かを思い出したかのように、「あ、そうそう」とこちらに振り返って、
「その物好きな商人と言うのはジョナサンじゃなくて、ジョナス・ハンウェーです。まあ、名前なんてどうでもいいのだけれど」
そう言って、ようやく彼女は隙間の中に消えて行った。
「……」
もう一つだけ、分かる事があった。
八雲紫は──何処までも胡散臭い。
*
「逃げてないわね。感心感心」
四日後の朝。
随分な物言いで幽香が店にやって来た。
「……幽香、いくらなんでもそれは酷過ぎるんじゃないかな? 一週間と言ったからには、僕にだって反論する余地はあると思うんだが」
「失礼ね、誰が注文品を取りに来たって言ったのよ。買い物ついでに期日までの間の代わりの傘が欲しいと思っただけ」
何だそういう事か。そういえば他に傘は持っていないと言っていたな。僕は奥へ引っ込み、倉庫で適当な傘を見繕って彼女に渡してやった。
「鈴蘭みたいな傘ね。まあ日避けにはなるでしょう」
幽香がなぞらえたようにそれは少し膨らんだ白い傘だった。白は光を反射するため、彼女の周りの花に反射された日光が当たるだろうと思って選んだのだ。
「言っておくがそれも売り物だ。あくまで貸すだけだから、壊したら当然代金は頂くよ」
「あら、そんなに脆い傘なのかしら」
「君が手にしたら脆くなるんだ」
僕は最初に傘を売った時のことを思い出した。というのも、受け取ったその場で素振りをし始めた者は今までの道具屋稼業の中で幽香が初めてだったからだ。おそらく後にも先にも彼女だけだろうが。
「それで、傘作りは順調? 私以外にも余分な奴の傘を作ってると聞いたのだけれど、まさか手を抜きはしないでしょうね」
「……」
一体香霖堂の守秘義務は何処へ旅立ってしまったのか。僕は思わず壁に穴でも空いてるんじゃないかと辺りを見回した。
「それなり、かな」
「ふうん。私にはまだ半分も出来ていないように見えるのだけれど。まあ気短に待たせてもらうわ」
「ごゆっくり」
幽香は作りかけの傘をしげしげと眺めている。彼女がどこにこだわりを持っているかは知らないが、少なくとも他の道具とは違う眼差しを向けているように見えた。
妖怪にとっての傘、か。
妖怪達が日光を避けるのは当たり前の事である。闇の生き物、夜の支配者。日光を避け月光を受け、彼らは夜陰を跋扈する。詰まるところ、妖怪とは陰なのだ。
ではここで傘という道具の意味について考えるとしよう。傘は英語で「アンブレラ」と言うが、これは元々ラテン語の「アンブラ」という言葉から来た物だ。その意味は──『影』である。これは日本語でも同じく「傘」と「笠」は共に「かさ」であり、これは「かざす」という意味から来ている。つまり、東西のどちらにおいても、傘というものは翳す事で影を生む道具だったのである。
これを考えると答えは実に簡単になる。影は陰となり、陰は人の心の中で妖怪となる。その影が濃い程に、その陰はより純粋なものになる。そう、そもそも妖怪が傘を持つのではなく、傘の下にこそ妖怪が居るものなのだ。だから幻想郷の強い妖怪──ここでいう、人間に対し最も陰に近いもの──が傘と共にあるのは、よくよく考えてみれば自然な事だったのだろう。
僕はこの新たな事実を深く刻みつける様に、湯呑みの残りをぐっと喉に流し込んだ。
「それで、貴方はいつまでお客を放っておくのかしら」
「ん、ああ済まない」
ふと見ると、幽香はいかにもと言った不機嫌顔で僕を見下ろしていた。どうやら思索に耽って気付かなかったようだ。
「ここが店じゃなかったら今頃肥やしだったわね」などと物騒な笑みを浮かべながら幽香は買い物を済ませた。
ふむ、上客の機嫌を損ねてはいけないな。妖怪の客といえば彼女か──それこそあの吸血鬼くらいなもので、今回の件にしても重々に接していかなければなるまい。
それに、あの妖怪少女の事は……
「幽香、ちょっと聞きたい事があるんだが」
「何かしら」
「君が傘を持つ理由は何かな?」
そう聞くと幽香は、何を今更といった呆れた顔を見せ僕に向き直る。
「言ったでしょう。その日傘は花で、私はフラワーマスターだからよ」
「そこだよ」僕は彼女の言葉を拾って言う。「そもそもだね、君はどうして傘を花だと言うんだい」
「道具屋の癖に目利きが下手ね。だから眼鏡なの?」
大きなお世話だ。
顔を顰めて催促する僕に、幽香は貰ったばかりの傘をくるくると回して答えた。
「雨が降れば傘は全身で天恵を浴びる。太陽が燦と輝けば傘はより日の光に当たろうとする。人によって天によって真っ直ぐに咲く傘。貴方はこれを花と言わずに何と言うのかしら」
「妖怪らしい答えだね」
てっきり傘の形を花に見立てたのだと思っていたらそうではないようだ。彼女もまた妖怪であり、自然の中に彼女なりの答えを見出していたのだろう。
「結構。君の言う傘が何となく理解出来た。それじゃあ僕も、君の傘が『枯れない花』になるよう出来る限りの努力してみるよ」
「ああ、実を言うとそれは物理的に壊れないって意味じゃないわよ」
「……おい」
散々注文付けておいて何を言い出すのか。
疑問半分苛立ち半分の声色で僕は彼女に弁明を求めるが、しかし彼女はそれを特に気にした様子もなく薄く笑った。
「さっきの質問に答えて上げるわ。『私が傘を持つ理由』」
「聞こうか」
「影を作りたいからよ」
影?
もしかすると本当にただの日除けなのだろうかと、この大妖怪が夏の日差しをいじらしく嫌がる様子を想像して何とも形容しがたい気分になった。
「まあ正確には影じゃなくて、影が動く事の方が重要なのだけれど」
「さっぱり話が見えてこないな。その花と影に何の関係があるんだい」
「考えてもみなさいな。動く影とはすなわち、そこに生命があるという事よ。花も樹々も虫も獣も、命あるものは例外なく影を持つ。花は生の象徴でもあり……同時に死の象徴でもある。影あるものはいつかその影を失うわ。けど、妖怪ならどうかしら?」
──妖怪は陰であり、影そのものである。
「そう、影が花を持つ事でその花はいつまでも影を失わない。私が生命の陰で生きている限り、この花は永遠に枯れる事はないわ」
傘は影を生み、傘は影によって生かされている。そうする事で花はいつまでも影を揺らし続ける事が出来る。
風見幽香が、花と共に歩み続ける限り。
「成程。それが君の枯れない花か」
「そう、枯れない私の花よ」
枯れない、ね。
いつまでも咲き続けるその花の下で、彼女はどれくらい生きるのだろうか。生命の陰で、彼女は今までどれくらい生きてきたのだろうか。改めて考えると、彼女もまた永らく生き長らえている妖怪なのである。そう、人間よりも儚い花と共に……
「ん?」
いや、ちょっと待てよ。
「幽香。その枯れない花ってのは、君の言うように物理的に壊れないって事じゃないんだろう。だとすると、僕は今まで君の傘を強く作り続ける必要は無かったんじゃないか?」
「いやねえ、脆い傘なんてこっちから願い下げに決まってるじゃない。二、三回咲いたらハイ終わりなんて蝉じゃないんだから、私が使いたいと思う傘を作れってことよ」
今再確認した。そうだ、彼女はこんな性格だった。
彼女の他人に関する関心は、強さに比例する。
自分が強さを求めるんじゃなくて、使われたいのなら強くなれ、という意味らしい。
「私の上に差してやるんだから、見苦しくない強さにしなさい」
フラワーマスターというより百獣の王みたいだな、と僕は思った。
「……ふう」
夜の帳が降りた頃。僕は底の抜けた夜空にゆっくりと息を吐いた。
ここ数日間で久々に長話をしたような気がする。吸血鬼、花の妖怪。隙間の少女。妖怪とこれだけ話し合ったのは珍しかった。しかし相手が久々の上客だからか、それとも名だたる妖怪少女達だからなのかは分からないが、どうも相手の話ばかり聞いている気がする。無論、他の者の話を聞く事もまた学びであり知恵である。悪くはない、悪くはないのだが……やはり僕は話す方が性に合っている気がする。
「まあでも、三日後は嫌でも答えを出さないといけないだろう」
僕はその完成しつつある『答え』を見た。二本並んだそれらは、着々とその用途を形作っていた。
そして、
「傘と影……か」
僕はもう一つの『答え』を頭の中に描き始めた。
*
骨は拾ってやるよ
昨日、魔理沙がけらけらと笑いながらそう言った。
全然洒落になってない。彼女にすれば酒の肴だろうが、僕にしてみれば明日から酒が飲めるかどうかの瀬戸際だった。
……もしかして、この話を言いふらしたのは魔理沙か。そういえば初日にあの二人に話したんだっけな。自分で開けた障子の穴に気付いて、僕はえらくやるせない気持ちになった。
「今更だけどね」
果たして、今日の香霖堂の障子はどうだろうか。
戯れで破れてしまうのか、それとも……
──カランカラン
「いらっしゃい」
来客を告げるベルと返す声。
そんな静かな合図で、僕の最後の仕事が始まった。
まず見えたのは仏頂面のレミリアだ。そしてその向こう、扉の影から柔らかな笑みを浮かべた幽香がゆるりと姿を表した。
仲良く一緒に来た、なんて事はあり得ないだろう。途端に棘を増したこの空気がその数奇を物語っている。今日は咲夜は来ていないようだ。つまり、この二人を受けるも捌くも僕一人という事である。
「傘を取りに来たわよ」
特に感慨もなさそうに、ついとレミリアが口を開いた。
「やあ、二人ともよく来たね。今お茶を持ってくるから適当にくつろいで居るといい。ああそれとも紅茶の方が良かったかな」
「必要無いわ。馴れ合いなんてどうでもいいから、さっさと傘を見せてくれないかしら」
ばっさりと幽香が僕の出足を両断した。喉と心を潤そうとした僕の策も空論となり、がさがさとした感触が喉を通った。
そんなに暴れたいのか彼女達は。強い妖怪の考える事なんて僕にはさっぱり分からないな。まあ、それが彼女達の強さなのだろうが。
「分かった、分かったよ。今注文の品を持ってこよう」
そんな妖怪少女達は、僕の策で通用……いや、見逃してくれるだろうか?
僕は用意していた二本の傘を持って来てカウンターの上に置いた。僕ら三人の目の前に、白と黒が映える対局的な二本の傘が並べられる。
「注文の品を確認しよう。こっちの白いのは幽香の傘で、黒いのは君のだよ」
「結局私のは蝙蝠傘っぽくなったのね。少し小さめだし」
「見た目の注文は受けてなかったものでね。それじゃあ注文品の説明といこうか。まずはこっちの方から」
僕はレミリアの注文品である黒い傘を手に取った。
「吸血鬼の傘という事で、日光や紫外線はほぼ完全に遮蔽出来るようにした。撥水加工もしてあるし、もちろん弾幕だってある程度は防げるよ。傘布の生地や縫い方、骨の素材などに力を入れ耐久性を増したから、おそらく君が全力で飛んでも壊れる事はまず無いだろう」
その時、レミリアの眉が嫌な反応を見せたので慌てて言葉を付け足した。「鴉天狗で試したから多分大丈夫だろう、って事だよ」
「あと、君が日中でも動き易くする為に一つ手を加えておいた。その道具に魔力を込めてごらん」
言われるままに、レミリアが傘に魔力を込める。
するとその傘はまるで生を享けた本物の蝙蝠のように飛び始め、二、三回旋回した後レミリアの頭上にふわふわと留まった。
「蝙蝠……かしら。悪魔契約でもしたの?」
「いや、外の世界の道具を使ったのさ。『ラジコンヘリ』という遠隔操作で物を動かす道具と、対象の位置を測定する『GPS』とかいう道具を溶かして混ぜたんだか、どうやらうまくいったようだね」
「随分な遊び心ね」
遊び心、か。まあ道楽には違いない。
「それは魔力を込める事で独立して動くようになり、持ち主の頭上で飛んで日光が当たらないようにしてくれるんだ。その傘なら手を使わずとも日を遮る事が出来るし、ある程度なら君の速さにも付いて来れる。心配なら全力で飛ぶ時だけ傘を持てばいい。この傘なら吸血鬼の君でも極力日光を気にせず動き回れる筈だよ」
僕が話を終えても、レミリアは蝙蝠傘ならぬ傘の蝙蝠を眺めたままだった。傘を引っ張ったり振ったりしながら、ふうん、だか、へえ、だか呟くばかりだったが、暫くして頭上に舞う蝙蝠傘を捕まえると、
「まあまあじゃない」
と、何とまあ尊大な言葉をかけて下さった。
「それは重畳」
とりあえず不満は無かったようだ。あまり追求するのも野暮だったので僕は次の話題を追う事にした。
「それじゃあ次は幽香の傘だが、まあこれは見てもらう方が早いね。というわけで、ほら」
今度は白い傘を手に取ると、待ちぼうけを食らっていた幽香に手渡した。
「手にしたってあんまり変わったように思えないのだけれど」
「いや、そうじゃない。ちょっとその傘折ってくれないか」
「あら、そんなに自信があるのかしら」
「物は試しさ」
幽香は挑戦的な笑みを貼り付けたまま傘を両手に取る。そのまま一息に殺気が漏れ出すくらいの力を込めると、
ぐにっ
「……曲がったわよ」
一週間前の姿と瓜二つに、傘は綺麗な『く』の字に曲がった。
勿論これは僕にとって予想通りの結果である。
「うん、見事なもんだね」
「折られたいの? 貴方も」
「話はここからさ。今度はその傘を持って外に出てごらん」
そう言われて、いまいち僕の言動を理解してないながらも幽香は怪訝な顔で傘を持って外へ出た。穏やかな春の日差しが布のように幽香と傘を覆った。
「……へえ」
突然、幽香が感嘆の声を漏らした。
彼女の下げた視線の先。見ると、彼女の折れた傘がみるみるうちに元通り真っ直ぐに戻っていった。それはまるで、踏まれた花が日を目指して再び伸び返るような姿だった。
「ヤドリギという植物を知っているかな。魔術や薬などにも使われ、冬でも青々とした葉を……おっと、君に語るは愚かだったね。今回はそのヤドリギを軸と骨に使い、さらに『太陽電池』を使った」
「太陽、でんち?」
「ああ。これは『日光をエネルギーに変換する』道具なんだ。このヤドリギと太陽電池を合わせた結果が今の通りだよ。たとえば傘が折れ曲がったとしても、日光に当てれば傘がエネルギーを作り出し、ヤドリギがそれを養分として傘を修復する」
これならば、傘が磨り減ったり曲がったりする事はあっても壊れる事はない。傘として使われ、太陽と雨にさえ当たり続けていれば──枯れる事はないのだ。
「ついでに木が材料という事で、非金属の金剛石を粒状にして組み込んでおいた。耐久性の方も前とそれ程変わらないと思うよ。さて、どうかな。君の枯れない花に少しは近づいたと思うんだけど」
「……ふうん」
彼女は傘を二、三回振りながら店内に戻って来る。
「どうかしら。まだまだ脆いし、傘布だってちょっとつつけば破けそう。それに白色は少し目が痛いわ。……でもまあ、今回はこれで手打ちにしてあげましょう」
ぱしり、と幽香はまるで閻魔の判決のように乾いた音で傘を打った。
とりあえず、僕は及第したらしい。
「いやはや、満足してもらえるとこちらも嬉しいよ」
二人とも傘の出来にはそれなりに満足しているようだ。その様子に、僕は今までのいざこざを少しだけ忘れ本心からの笑みを浮かべた。過程はどうあれ、作ったものを褒められるのは悪い気がしない。
ともあれこれで一安心。僕は果たされた仕事をしたし彼女たちはそれに満足している。極めて順風満帆である。今なら春の陽気のごとく懐の温かみを感じる事が出来るだろうし、何より溜まった本を読み漁れる。さて、何から手を……
「それで? 店主」
不意に、レミリアが口を開いた。
何かを追求する言葉尻にその焦点は何だろうと思い巡らすと、自分でもついうっかり忘れていた問題に突き当たった。
「どっちの傘の方が優れてるの?」
そうだった。ここからが本番だった。
目の前の吸血鬼を相手取る、天下分け目の和平交渉だ。
「あら、私も少しは気になるわね」
つられて、幽香がとても愉快そうに話に乗った。
おそらく彼女は傘の優劣などどうでもいいのだろう。僕とレミリアの事の顛末を見たいが為だけに場を煽っているのだ。全くの当事者のくせに、傍観者を気取って笑っている。
「どちらの傘が優れているか、ね」
一度言葉を切って茶を流し込む。今から僕が吐くのは、この温くなった茶のように少し渋い策だ。
改めて思えば馬鹿みたいな話である。春の陽気を楽しんでいたかと思えば、いつの間にか訳も分からぬ火事と喧嘩に巻き込まれたのだ。どうして幻想郷の少女達はこうも僕に平穏を与えてくれないのだろうか。ひょっとすると僕の店は踏み絵みたいに定期的に踏み荒らさなければならない決まりでもあるのかもしれない。迷惑な話だ。当の僕には頼る神も縁もないというのに。
だがそれでも、僕は対峙しなければならない。
「レミリア、君の傘は日光雨水弾幕を退け、台風にも打ち勝つ耐久性に優れたものだ。加えて、持ち主を常に日光から守る自動追尾機能まで備わっている。まさに夜の王たる吸血鬼の為だけに存在しているような傘だ。君がそれを使う事で、夜も昼も君の邪魔をする者は殆どいなくなるだろう」
レミリアが微妙な態度で鼻を鳴らした。
「幽香、君の傘は逆に太陽と共に在り、雨と共に何度も廻り続ける傘だ。君が望むなら傘は永遠となり、折れることなく天の下に咲き続けるだろう。花の如き美しさと強さを兼ね備えた傘であり、君がそれを使う事で生命の象徴を示す事が出来るだろう」
幽香が品定めをするかのような目で僕に微笑んでいる。
「……で、何が言いたいのよ」
僅かな沈黙の中、痺れを切らしたレミリアが口を開いた。
つまりだね、と僕は言葉を口の中に溜め込んでから、まるで何でも無いかのようにするするとそれを吐き出した。
「君達の傘に優劣は無いんだよ。君の傘には君の、幽香の傘には幽香の強さがある。総合的に見れば、なんて事も出来る筈がない。剣と弓ならともかくも、煎餅と日本酒のどちらが美味いかと聞いてるようなものさ。比べようがない。時節も目的もまるで違うんだからね。だからこそ僕は、二つの傘は共に優れてる、と言いたいね」
言い切って、僕は二人を見た。
幽香は特に変わらず人を食った様な顔を浮かべている。
対するレミリアは、眉をひそめて自分の傘を見ていた。
「……成程ね、確かにこれじゃ比べようがないわ」
不意にレミリアが口を開いた。得心したように頷いて、少しばかりその表情を緩めている。
「吸血鬼には吸血鬼の傘、花の妖怪には花の妖怪の傘。確かにどちらも優れているわ」
「分かってくれたかい」
「ええ──だけど」
瞬間、
レミリアの傘の石突が、僕の眼前にぴしりと突き付けられた。
身じろぎしない、いや、出来なかった僕に、彼女は鋭利な紅い視線を刺した。
「私が欲しいのは、そんな寺子屋の教師が諭すような言葉遊びの強さじゃない。より優れているという事は、絶対的にも相対的にも強いって事なのよ。あの妖怪より足りない強さがあるなら、それをも上回りなさいな」
言って、レミリアはずいと僕ににじり寄った。
上どころか、並び立つものさえ許さないような──不死さえ手に入れようとする帝のように、全てを欲しがる子どものように──彼女は、強いものが欲しいと言った。
この吸血鬼といいあのメイドといい、彼女達は僕の想像の斜め上を堂々と横切るのが得意らしい。
とりあえず、レミリアにこの策は通用しなかった。
「はあ、残念だね」
「ええ、私も残念よ。分かったならさっさと──」
「どうやら僕の真意は、君に伝わらなかったようだ」
ならばこそ、別の手を打つまでだ。
「……へえ」
傘を僕に向けたまま、レミリアは嬉々とも怪訝とも取れる声を返した。
「真意、ねえ。そんな物があるのなら聞かせてもらおうじゃないの」
「その前に、一つ聞きたい事があるんだ。君はどうして、そんな強い道具が欲しいのかな」
突然質問を投げた僕に、レミリアは怪訝な顔を見せた。
「どうしてって、そんなの強くなる為に決まってるじゃない。妖精でも分かるくらい簡単な事だわ」
「へえ、そうなのかい?」
僕はさも意外そうに返して見せた。続けざまの僕の不可解な言動に、レミリアはますます疑問の色を濃くする。
「……さっきから何が言いたいのかしら。言っておくけど、貴方に残ってる選択肢はやるか刺されるかよ」
「いや失敬。僕の認識は間違っていたのかと思っただけだよ」
「認識?」
ああ、と僕は答えて、
「君の強さってのは、こんな傘一つで揺らぐものなのか、とね」
その時、彼女の持つ傘の先端がかすかにブレたのを僕は見逃さなかった。
「そういえば、日傘の折れた幽香を見て君は手負いの獣と言っていたね。けど僕はそうは思わない。幽香の傘に鋭い杭や銀の弾丸は付いてないだろう? 彼女はただ壊れにくいものなら何でも良かったんだよ。だがしかし、君はその傘に強さを求めている」
レミリアは黙って話を聞いている。
「もしもの話だけどね……僕が自分の生涯も賭けて最高の槍を作ったとする。それでも、あの『串刺し公』なら、針山の一本くらいにしか扱わないだろう」
またも傘の先端が揺らいだ。確かに、彼女は今揺らいでいる。
一つ間違えばこの吸血鬼の怒りを買う事になるかもしれない。だが、多少の賭けをする道理はある。
彼女の誇りが立ちはだかると言うのならば、それを利用してやればいい話だ。
「ひょっとするとあれかな。その傘を持って勝負に負けた時、君は傘のせいで負けたとでも言ってくれるのかい。それは僕としても嬉しい誤算だ。何せ僕のようなやくざ者なんて、吸血鬼の君に力添えする事さえ出来ないと思っていたからね。だから僕は、君に影を作るだけの傘を渡したんだよ。それ程までに、僕は君という存在を認めていたのだが──さて、違ったかな?」
ひとしきり言い終えると、僕は彼女の反応を待った。
さて、鬼が出るか蛇が出るか……
「……ふっ、ふふふふっ」
僅かな沈黙の後、レミリアは零れるように高らかに笑い初めた。
「いいえ、何も違わないわ。私は偉大なる吸血鬼の末裔であり、夜を支配する王。貴方のような一介の古道具屋では、私の装飾品を作る事で精一杯だったわね。まあそれでも、デザインが気に入ったから使ってあげる事にしましょうか」
えらく小綺麗な言葉を並べ連ねると、レミリアは不敵な笑みを浮かべて幽香に向き直った。
「随分と待たせてしまったかな。お詫びでもないけど、今からお前に吸血鬼の本領を死ぬ程見せて上げるよ」
「ええ、楽しみにしてたわ」
二人の間にちりちりとした殺気と、加えて静かな喜びがそこに生まれていた。思い立ったが凶日、戦は急げという事らしい。
外でやってくれと声を掛けようとしたが、レミリアは既に扉に向かって歩き出していた。報酬の本は、と僕が尋ねると、後で届けさせると返して彼女は店を出て行った。何とまあ、気の早いお嬢様だ。
「それなりの茶番だったわ」
呆れたような嘲っているような顔で、幽香は口を開いた。
「そいつはどうも」
「脚本に難ありだけどね」
それだけ言い残して、彼女もまた遊びの為に扉の向こうに消える。
後にはただ、僕と静寂だけが残った。
「やれやれ」
どうせこれから騒がしくなるのだ。大妖怪の遊びほど派手で騒々しいものはない。読書なんて出来やしないだろう。僕は乾きそうな笑いを貼り付けて茶を飲んだ。
とにかく終わったのだ。結果良好、店内安全、これ以上望むべき事はあるだろうか。
そう思うと、喜怒哀楽の様々が腹の底から湧いて来て僕は深い深い溜息を吐いた。
「──お疲れ様、かしら。それとも金返せとでも言いましょうか」
「……紫か」
声が上から降って来た。それは比喩でも何でもなく、僕が見上げた先に、隙間に腰掛けている紫の姿があった。
「上手な詭弁でしたわ」
「せめて方便と言って欲しいね」
紫は羽のようにふわりと着地する。風との境目を感じさせない様な、そんな動きだった。
「それで、暇潰しにはなったのかな。生憎だが心踊る様な丁々発止も推理も無かったけれども」
「それなりに」
それなり、ね。
僕は窓の外を見た。空には二人の妖怪が演劇の前口上のように笑いながら向かい合っていた。小道具は僕の傘だ。
「暇潰しならあっちに混じってきたら良いんじゃないかな」
「あら、まだ私には潰せる暇は残っているのですが」
「それって……ああ」
すっかり忘れていた。さっきの余韻に気を取られていたせいだろうか。
「では、引き続き傘作りに勤しんで下さいな。何なら慰労の為に期限を伸ばしても構いません」
「こんな騒ぎなんていつもの事だよ。幻想郷ではね」
「そうですか。ではまた一週間後に」
「ああちょっと」
僕は身を翻した紫に声を掛ける。開き掛けた隙間を閉じて、「何か?」と彼女は振り返った。
「君の傘なんだが、もう出来てるよ」
「……はい?」
僕がそう言うと、彼女は年相応の少女のように、きょとんとした呆け顔見せた。このような顔する彼女を見るのは初めてだったので、逆に僕の方が呆気に取られてしまいそうだった。
「いや、だからね」僕は何とか声を出して、「もう完成してる、と言ったんだが」
「私の見立てだと……貴方が私の傘を作るのに三日も掛かっていないように思えるのだけれど」
紫は腑に落ちない様子だった。無理もないのだろうか。注文の中身か僕の腕か、どちらを疑っているのだろう。
だが、僕はちゃんと答えを出したのだ。彼女の問いに対する、僕なりの答えを。
「誤解しないで欲しい。その期間の間に手を尽くした上で完成しただけの事さ。余裕こそあれ、決して手を抜いたつもりはない」
「そう。この三日で、ねえ」
やがて彼女は居住まいを正し、僕の目を見ておもむろに口を開いた。
「まさかとは思いますが、私の注文した内容を覚えておいででしょうね」
勿論である。半分妖怪の身なれど、一週間前の注文なんて諳んじられるものだ。
「ふむ、実際に君の傘を見せた方が早いかな」
「そうですね。それじゃあ見せてもらうことにしましょう」
扇子で口元を隠し、彼女は目を細める。
僕──森近霖之助という存在をまるごと品定めしているような、そんな視線だった。
「私が注文した、『幻想郷で一番強い傘』を」
*
「前にも言った話だけど」
僕は布に覆われたそれを見ながら口を開いた。
「道具というのは、使う者によって用途を変える。逆に言えば……用途を定めてしまえば、道具が使う者を選ぶという事かもしれないと思うんだ」
「逆にも対偶になってませんね」
そうかもれない。ただ僕がそう思っただけなのだから。
「まあ話は後にして、とりあえず見せようか」
そして、僕はその布を取り去った。
「……これは」
二人の目の前に傘が姿を現す。それを見て、紫は小さく呟いた。
それは淡い桜色の傘だった。
よく見ないと白だと思ってしまうくらい白い桜の色で、僕の店の裏のものによく似ている。周は露先から小さくフリルが取り囲んでおり、全体的に控えめな傘に華を持たせていた。
昨日完成したばかりの、身も心も白い赤子のような傘だった。
紫はそれを手に取り、少しばかり眺めてから、
「普通の傘、ですね」
と、言った。
「そうだね。叩いたら折れるし、弾幕も防げない。意匠を凝らしただけの普通の傘だよ」
彼女は僕に目を流した。先程と何も変わらないあの目である。まあ、それは無理もなかった。
「……とりあえず、聞きましょうか」
「こんな何の変哲もない傘がどうして幻想郷で一番強い傘なのか、かい」
「ええ、貴方なりの『答え』を」
そう、『答え』なのだ。
僕が考えて、作って、そして目の前の妖怪に使われる『答え』なのである。ただの知識量ならば目の前の妖怪少女に勝てる由もない。だが僕の考えならば、自らが紡いだ答えならば、それは僕だけに内在する幻想の存在なのだ。
そして、僕はそれを言葉に乗せよう。
「……僕が思うに、人間が持つ傘というのは権威なんだ。つまり傘によって、その者が持つ道具によって、己の力を示すものであると考える。すると妖怪にとって本当の傘とは何か? 勿論、彼らは幻想の生き物で、ここは幻想郷。正解などそれこそ傘の数だけあるだろう。しかし、僕はその中からあえて一つを絞ってみせた」
一度言葉を切って息を吸い込み、またゆっくりと口を開いた。
「すなわち妖怪にとっての傘、僕が思う傘の本質とは──影を作る事ではないか、と」
紫は何の色も変えないまま、「ウンブラ、ね」と音もない声で返した。
影は『かげ』ではあるが、その裏には『えい』という読みもある。これはつまり『映』であり、そもそも昔は月影を月の光とも表していた。影にはあるものを映し出す働きがあるのだ。
レミリアの傘は力の権化。太陽にさえ逆らう、夜の王の意志だ。
幽香の傘は生命の化身。太陽さえ糧にする、飽くなき未来への渇望だ。
僕が二人の妖怪の為に作った二本の傘。それは彼女達の影に対する認識であり象徴である。僕は妖怪としての影をその傘に込めた。
しかし今になって思うと、どちらも妖怪の傘としては不十分だったのではないだろうか。いや、違うな……むしろ足りすぎているからこそ、彼女達の傘は不十分なのだ。
「さっきから影がどうと仰っていますが、この傘の強さは何処で出てくるのかしら」
「ふむ、君の質問に答える為に少し話題を変えよう。そもそも、妖怪の強さとは何か、だ」
「あら、私にそれを言いますか?」
目の前の妖怪少女はひょっとすると幻想郷で一番強いのかもしれない。僕には彼女の正体すらまるで掴めていないというのに、僕は強さとは何かを彼女に語ろうとしている。傍から見れば滑稽な事をしているように見えるのだろう。
「口に出すまでもありませんが……言うなれば、『畏れ』でしょう」
彼女は呼吸するようにそう答えた。やはり愚問だったようだ。
「長生きする事でも人を喰う事でもありません。他の存在にいかに畏れられるか、それが妖怪の源です。もっとも、貴方のような半端な存在は何を食い物にしているか知りませんが」
「人間と同じだよ」
「食えない人ですね」
僕に言ったつもりなのだろうか。
古今東西、妖怪が人を襲うも化かすも喰らうも言ってみれば畏れを得る為の手段に過ぎない。中には目的と手段が逆になっている者もいるが、本能的に回帰的に、妖怪は畏れを喰らうのだ。信仰、敬意、不安、恐怖。畏れの強さは妖怪の強さとなり、強き妖怪はより畏れられる。畏れは人間の霊さえ妖怪に変え、あまつさえ妖怪を神に仕立て上げる事もある。より強くなる為には、より大きく畏れられればよいのだ。
ではその強さを確実に、そして強大に得る畏れとは何か?
「それは、未知に他ならない」
一時の驚愕など、次の日には忘れてしまう。
醜悪な姿は、見慣れれば何という事はない。
鬼神の如き力は、軍神の如き計略に敗れる。
だが、未知はそうではない。知らなければ対処しようがない。理解出来なければ不安を消す事も出来ない。未知の恐怖に慣れる事など決して無い。未知の恐怖に耐える方法は唯一つ、耳と目を閉じ口を噤み、思考を放棄して世界を捨てる他に無いのだ。
丑の刻、宵闇に包まれた獣道に、目の前から人影が歩いてくる。
例えば、凄みのある顔で刀を持ってやって来る屈強な侍。
例えば、手毬を持ち、遊び相手を見つけたかの様に笑いかけて来る童。
どちらがより純粋な恐怖を与えるかと言えば──結果は明白だ。
正体不明こそが、最大にして純粋なる強さなのである。
そこで紫は、面白くなさそうに溜息混じりの言葉を吐いた。
「そんな事が今更何だと言うのです? 何かの時間稼ぎなら止めておきなさいな」
時間稼ぎ? そんな事は毛頭もする気はない。
いや、むしろ答えはとっくの昔に見えていたのだ。
僕の目の前で話している彼女こそが、僕の答えの生き写しに他ならないのだから。
「……僕のような半妖ならともかく、君やレミリアの戦いで大切なのは、相手を知る事なんだと思う」
吸血鬼のような妖怪は目に見えて強い。どんな弱者でも、その強さを容易に知る事が出来る程に。
逆に言えば、相手にそれ以上の畏れを与える事がないという意味でもある。
「だからこそ、妖怪の強さというものは……自らの影を晒してはならない事なんじゃないかな」
相手に自分の器を計られてはならない。たとえ想像であっても底を推し量られる事の無く、自らの影を潜ませられる者こそが畏れに近づいて行く。
しかもそれが、姿を現しながら一寸も理解出来ないものであるとすると──
「──ああ」
そう声を上げた紫は、僕と傘の両方を見比べて、
「そう、そういう事ね」
微笑むような呆れるような、境目の分からぬ複雑な顔をして呟いた。
こういう理解の深さが、この妖怪少女の強さに拍車を掛けているのだろう。
「未知とはつまり理解の不足。正体が分からなければ分からない程、畏れは増して行く。見えない強さというものは、不安という心の中で相手を強大にしてしまう」
僕の言葉を代弁するように、つらつらと紫は続けていく。
「それこそ抜き身の刃よりも、何の変哲もない傘の方が、妖怪の影を隠してくれる──と、そう言いたいのかしら」
そうして彼女もまた、僕の答えに辿り着いた。
「流石は妖怪の賢者だね」
「流石は、私ですよ」
紫はそう言って、その桜色の傘を手に取った。
「貴方の言う影とは、妖怪としての強さを指していたのでしょう」
「ああ、その通りさ」
影が示すのは妖怪としての強さだ。何故影がそうなのかというと……決まっている、影こそが妖怪そのものなのだから。
だからこそ妖怪の傘というものは、何の強さも身につけてはならないのだ。仮に紫が傘の代わりに刀を持っていたとしたら少しは妖怪らしさが減っていただろうか。凶器を持つ方がまともに見えるなど皮肉ではあるが。
しかしだからこそ彼女は何処までも妖怪らしく、理解出来ず、そして──強いのだろう。
姿が見えているのに理解出来ない。そんな存在こそが、最も畏れに近い妖怪だと僕は思っている。
これこそが、僕の『答え』だ。
「だからこそ、その傘は最も妖怪らしい傘であり、そして幻想郷で最も強い傘である──と、どうかな?」
言い切って、僕は紫を見た。
僕が話を終えても、彼女は黙ったまま僕の目を捉えている。何となくこの視線だけは反らしてならないと感じて、僕はつい意地を張った。
だが、たとえ否定されてしまったとしても、僕の思いは変わらなかっただろう。それは自分ではなく、あの三本の傘に対する自分なりの芳情であり矜恃だった。
さて、彼女の返答は是か非か。
「……ふふ」
そして、彼女は小さく微笑む。
扇子を閉じる乾いた音が、静かな店内に響いた。
「結構です。この傘は、ありがたく頂戴いたしましょう」
──こうして、僕の長い一週間は緩やかに終わりを迎えたのである。
*
「良く考えると」
帰り際、紫は扉の前に立ち止まって言った。
「別に、私が傘を持っても持たなくても関係無いんじゃありませんか?」
確かにそうだった。要は強さを身につけなければいいだけの話なので、早い話が何も持たないほうがいいのかもしれない。
「いや、君みたいな妖怪が、日に当たって汗を流したり無力に雨に打たれていると、締まらないなと思っただけさ」
「へえ、もしかして私気遣われてます? お心遣い感謝致しますわ」
仰々しくも彼女はスカートの端を手で摘まんでお辞儀をした。その顔には、いつもの不吉な笑顔が浮かんでいる。というか傘を注文したのは君だろうに。
そういえば忘れていた。この娘にずっと聞きたかった事があるんだった。
「紫、一つ聞いてもいいかな」
「はい、何でしょう」
「今回の件なんだが、君は本当にただの暇潰しだったのかい」
「……と、言いますと」
「確かに君は物珍しさからここに足を運んだかもしれない。だけど僕にはね、それ以上に何かを確かめに来たというか、そんな印象を受けるんだけどね」
あの時、僕が紫に傘を手渡すと、彼女は満足したという顔ではなく……どこか安心したような、そんな表情を見せたのだった。
あれは一体、どういう事だったのだろうか。
「……」
紫は音もなく長いスカートを翻し、店内を歩き始めた。
「ただの杞憂、ですわ」
「杞憂?」
ええ、と彼女は手に持っていた傘に視線を落とす。
「花の妖怪と吸血鬼……あの二人は、互いが互いにより強く在ろうとしていました。そして二人は、貴方にその強さの一端を求めた」
語る紫に笑みは絶えていない。だが僕は、そこに僅かばかりの冷たさを感じた。
「そして貴方があの二人の依頼を受けた時、私は貴方に……死を食い物にする、商人の影が揺らいだのかと思ったのです」
──これ、貴方が作ってる新しい武器かしら。
「……それは」
噂を聞いて、僕を確かめに来たのだろうか。
争わせて、力を与えて、甘い汁を啜る。そんな者がこの楽園に居るのかと。
勿論、真相を確かめるなんて仰々しいものではなかっただろうし、何より普通に考えれば思い過ごしではないかと言われるくらいの瑣末な事なのだ。
それでも、彼女は幻想郷を脅かす可能性を一厘でも減らしておきたかったのかもしれない。浅い付き合いだがその姿勢だけは少し分かってきたのだ。幻想郷を見守る、妖怪の賢者としての八雲紫が。
「だから僕に『最も強い傘』なんてものを作らせたのかい。僕の目指す強さというものが、幻想郷にそぐわないものかどうかを」
「まあ、それも些細な一憂でした。貴方もまた幻想郷の住人だったという事なのですから。……寝起きだから忘れていたわね。あの時、貴方は確かに木槌を振り下ろしたというのに」
「さてね、僕だって商人だ。お金を払えば武器だって売るし、頼まれれば力だって貸すさ」
でもね、と僕は言葉を続けて、
「使う者が用途を選ぶ様に、道具が使う者を選ぶ様に、僕だって扱う道具くらい選ぶさ。幻想郷がその道具を選んでいる限りね」
「……やはり、ただの杞憂だったわね」
彼女の後ろの空間に、ゆっくりと隙間が開く。
いつの間にか彼女の笑みからは冷酷が消え、雪解けのように少しばかりの穏やかさが混じっている事に気が付いた。
「願わくば、これからもあの剣が持ち腐れになるように」
そして、忽然と紫は隙間に消えて行った。
彼女の居た場所で、はらはらと桜の花弁が散っていた。
「……相変わらず、怖い人だ」
僕は窓の外を見る。吸血鬼と花の妖怪が、春の昼空で花のように舞っていた。傘の仕上がりは上々なようだ。弾幕よりも拳幕の方が厚い戦いだったが、それでもなおそこには強者達の美が飾られていた。
あれが、彼女達の傘なのだ。幻想郷の天の下で、幾つも開く影の傘。
「全く、僕の周りは怖い奴しかいないじゃないか」
閉じていた窓を開ける。目の前には、一週間で見違える程の春が溢れていた。
ああそうだ。たまにはあの騒がしい花見に付き合ってやるのも悪くない。次は魔理沙の誘いに乗ってやるとしよう。久々に春らしい春が来た気がする。
それも後でいいだろう。その前に僕はもう少しだけ傘を眺めていたいのだ。
彼女と、そしてあの二人の、僕にとっては何よりも怖いあの傘を。
次は、いつもの熱いお茶が怖いと思った。
4人のそれぞれの違った思いが見て取れる楽しい作品でした
上手い。
動かない古道具屋らしい、実に含蓄溢れるお話でした。読めて良かった。
面白かったです
霖之助の薀蓄は凄く上手かったです。よくこんなの思いつくなあ。
東方香霖堂にあってもおかしくないくらい違和感がありませんでした。
あと紫の「流石は、私ですよ」が、香霖堂の紫が大好きな者としてはとても嬉しかったです。
キャラもそれぞれちゃんと描かれていてとても良かったです。
原作へのリスペクトがしっかり見えつつ、独自の考察が違和感なく展開していて、本当に
素晴らしいSSでした。
東方香霖堂が発売されて、こういう作品が増えるのを楽しみにしています。
最近自分の中で霖之助の株が上がりっぱなしなんですが、何故でしょう。
原作では一度も見てないのですがね(笑)
途中超展開だったけど霖之助だしなんの問題もない
思わず手で膝を打ってしまいました。
自分の拙い言葉で語るのが、おこがましく思う程の良作でした。
もう全てが文句なし!! まさにトンデモ大岡裁きです♪
すごいよ霖之助さん!
読了感が凄いw
GJです!!
作中に挟まれる幻想郷的な哲学も良かったです
他の人間や妖怪なら間違いなく幻想郷から逃げ出してる
気になったところを申し上げれば、そのあたりを含めての「障子の穴」なのだとは思うのですが、霖之助が守秘義務と言う傍らで魔理沙に事情を話しているという行動にやや違和感を感じました。
あくまで個人的にそう感じた程度のものですが、ご参考までに。
誤字 達達
加えてセリフ回しや霖之助の蘊蓄が素晴らしかったです。
物語の構成も見事で読みやすく、とても60kb以上の長さの作品とは思えないほど短く感じました。
いやはや、凄まじい作品を書いてくれたものだ。
次回も期待してます。
どれも高レベルで素晴らしいSSでした。
人間界最強の傘は核の傘ですよね
幻想郷らしい、霖之助らしい話でした。
誤字報告
一線交えて来た後 → 一戦交えて
読後感も良かったし、いつかもう一度読みたいと思わせるSSですね。
ただただ脱帽。また私の中の霖之助の株を上げてくれる、素晴らしい作品でした。
話の発想もですが、それを巧みに演出する文章も相当な腕前ですね。
言葉の解釈が非常に面白い作品だと思いました。
店主の思考過程も、紫さんの得体の知れなさもいい感じでした。
個人的には店主の懐具合が心配ですが。
ここまで考えを練り上げた王冠さんに敬意を・・・
>「──僕にしか出来ないだろうな。安心して待つといい」
>……あ。
>考える前に、反射的に声が出てしまった。気付いた時にはもう遅い。
すごい霖之助らしくて笑いました。
むしろ加えても良いのではなかろうかw
お話としても十分に楽しめたけれど、キャラの言い回しや
文章の書き方に感心する方が強かったかもしれない。
思わず「巧いなぁ」と呟きつつ読んでおりました。
小説で同人誌が出たら多分買いまス!
にしても続き物の最初の方だけ抜かすとかさっきゅんマジ瀟洒。
あれか、実は後の巻から順番に渡してたのか。
文体も上手く、読み進めるごとに物語に引き込まれてしまいました
それはそれとして、レミリアと幽香のどっちが勝ったか・・・妄想が尽きませんなぁ
各人に相応しい武具を求められるままに作成販売しているのだから
まず先に思想ありきでなければ紫の手で排除されても仕方ないんでしょう
彼が薀蓄マニアで良かったという事か……
いや綺麗にまとめますな。惚れました。
この雰囲気がいいなっいいなっ!
面白かったです