Coolier - 新生・東方創想話

気を使う程度の能力

2010/09/29 00:24:34
最終更新
サイズ
4.49KB
ページ数
1
閲覧数
996
評価数
2/32
POINT
1560
Rate
9.61

分類タグ

「ああ、嫌な天気だ」

 空を仰いで紅魔館の門番・紅美鈴は呟きました。
 お天道さまは空高く、雲は欠片も見あたりません。

「……暑い」

 目を閉じ、顔を伏せると、汗が一筋流れ、やがて地面へと落ちました。
 幻想郷は夏の盛り。
 正午も近い今時分になると、お天道さまも有頂天。暴れる太陽光線を遮る遮蔽物は門の近くにはなく、容赦なく照りつける太陽を避けることはできません。

 真夏の真昼の太陽は好きか?

 もしこんな質問をされたら、美鈴は言葉ではなく顔をしかめて答えるでしょう。職業柄、外で過ごす時間が圧倒的に長い門番にとって、暑さ寒さは大敵なのです。門番だけではありません。吸血鬼のお嬢様も、その友人の引きこもりの魔女も、光をよく吸いそうな黒い衣装の魔法使いも、暢気な巫女さんも、皆、同じように答えるでしょう。
 ですが、世の中広いものでそんな美鈴に反対するような子が少なくとも一人いました。

「おりゃああああっ」

 美鈴が湖の方をチラリと見やると、湖のおおよそ真ん中ぐらいで、妖精が雄叫びをあげていました。雄叫びと同じように景気よくばらまかれたのは氷の弾幕でした。ですが、湖にはチルノただ一人。当然、誰かに向かうわけでもなく、勢いよく水面に波紋を作るだけでした。
 ところが、妖精はまた氷をばらまきます。

「おりゃあああああ!」

 今度はもっと大きな声で叫びながら。
 夏だというのに、氷精のチルノは元気でした。
 ついさっき、門の近くまで来たときに、チルノは、とてもキリリとしたいい表情で「ちょっと太陽に挑戦してくる」と話しかけてきました。何をするのかと聞いても、見てのお楽しみだとなかなか教えてくれません。
 要領を得ませんでしたが、美鈴は「いくらなんでも真夏の真昼に氷の妖精が太陽に勝つのは無理」と説きました。ですが、チルノは聞き入れません。「こう暑いと燃えてくるのよね!」と言うのです。「どうやって勝つの?」と聞くと、「やる気!」と答えました。氷精として何重に間違えば気が済むのだろう。呆れてしまって言葉もなく、説得を諦めました。
 それ以来、チルノが弾幕をばらまき始めても、「どうせなら叫び声だけじゃなく、冷気もこっちに伝わってくればいいのに」ぐらいにしか思わなくなりました。
 そんなことよりも、美鈴の心を奪っていたのは、

「美鈴さん、お昼持ってきました」

 お昼ご飯。声に振り向くと、昼食を乗せたお盆を持った妖精メイドでした。
 お盆をありがたく受け取り、頭を一撫でしてやると、妖精メイドは撫でた頭をペコリと下げてそそくさと館へと引っ込んでいきました。太陽を見上げて、これが普通の反応だなと美鈴は苦笑すると、お盆へと目を向けました。
 紅魔館のメイド長が作ってくれた昼食はいたってシンプルなものでした。
 トマトとハムのサンドイッチがそれぞれ二つずつ。ありがたいことに氷の浮いたアイスティー。
 まず乾いた喉を潤すために、グイとグラスを傾けると、氷同士がぶつかる涼やかな音とともに、よく冷えたレモンティー。
 大きく、長く息をつきました。
 レタスはとてもシャキシャキとしていて、トマトは一噛みしただけで口の中に甘酸っぱい果汁が広がり、ハムはしっかりとした塩味を残してとろけるように消えていきます。
 おいしい料理の欠点はすぐに食べ終わってしまうことです。
 美鈴が、サンドイッチを平らげるのに時間はかかりませんでした。すっかりと胃に収めてしまうと、「ごちそうさまでした」と頭を下げました。
 休憩時間とばかりに近くの原っぱに座るのが美鈴の習慣でした。残ったレモンティーの氷の一つを口に入れ、舌でやや窮屈に弄びながら、美鈴は見るとはなしにチルノが氷の弾幕を張るのを見ていました。チルノは相変わらず叫んでいて、弾幕も相変わらず湖に波紋を作るだけでしたが、さすがに疲れてきたのか叫び声はかすかに聞こえる程度、氷の粒は小さくなり、範囲も大分狭くなっていました。
 美鈴がやや意地悪い気持ちでいると、少しずつ変化が現れました。
 氷の粒が消えたのです。いいえ、正確に言えば消えたのではありません。
 溶けて、水滴になったのです。
 そして、水滴となった弾幕は雨となりました。
 美鈴はグラスを地面に置き、
 小さな、小さな雨は光を受けて、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の帯を空に描きました。

「……虹だ」
 
 チルノの快哉が真夏の空に響きました。それが太陽に対する勝利なのかどうなのかは分かりませんでしたが、チルノはとても嬉しそうでした。
 美鈴は呆れるやら、感心するやら。チルノに見えたことを示すように、そして賛辞を込めて、大きく、大きく手を振ってやりました。するとチルノに見えたのでしょう。彼女も、大きく、大きく手を振り返してきました。





 満足気に彼女が帰った後、美鈴はグラスを手に立ち上がりました。門の近くに置いておけば、また妖精メイドがやってきて下げてくれるのです。歩き出す美鈴。すると、グラスからカラリと涼しげな音がしました。
 まさかと思い、視線を落とすと、そこにはまるで時間が止まったかのごとく妖精メイドが持ってきたときと変わらない大きさの氷がありました。
 紅魔館を見やりましたが、もちろんそこには何ら変わることない紅い洋館がそびえているだけでした。
 美鈴は帽子を脱ぐと紅魔館へと深く頭を下げ、門の前に戻っていきました。
 お天道さまは空高く、雲は欠片も見あたりません。
 空を仰いで紅魔館の門番・紅美鈴は呟きました。

「うん、いい天気だ」
 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
 夏に投稿しようと思ってたら、急に涼しくなって九月終わりになっていた。

 ……人災ですね(´・ω・`)

 楽しんでいただけたなら幸いです。
美尾
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1390簡易評価
1.100奇声を発する程度の能力削除
チルノらしくて良いですね!
何だか元気が湧いてきました!!
14.70名前が無い程度の能力削除
雰囲気良かったです