Coolier - 新生・東方創想話

おやれいむ

2010/09/27 01:26:57
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 気づいたら親になってた。






   おやれいむ










 きっかけは神社の掃除。
 いつものように参拝客のこない境内をいつものように掃除していると、小さな木箱が目についた。

「あら?」

 魔理沙か妖精かのイタズラかと警戒しつつ近づく。
 木箱の側まで来て顔だけ伸ばし木箱の中を見る。

「……卵?」

 大きさは鶏の卵くらい。
 周りを見ても親のような動物も見当たらない。
 警戒しつつお祓い棒でつっついてみた。

 つんつん

 つっつきながら思い出す。
 この前妖怪の山の神社に遊びにいったとき境内の石で躓き、思わず邪魔ねぇと言うと
「こっちは石なんだから避けれねーよ」
 と石に反論されて物凄く驚いた。
 常識に囚われないと言ってもちょっとやりすぎだと思う。


 幸いこの卵はつついても怒らなかった。
 思い切って手に取ってみる。
 一体これは何の卵なんだろうか。
 物を触れば判別できる人物の顔が頭に浮かび、行こうか迷っているうちに変化が起きる。

「あ」

 卵にヒビが入る。
 呆けているうちに卵が割れて中から何かが生まれる。
 有精卵だったようだ。

「……であんた何よ……」

 目の前の生まれたての動物は私の知らない種類だった。
 こんなこと魔理沙と一緒に幻想郷の外の動物図鑑を熱心に眺めておけばよかった。
 見るからにケモノではあるが妖力は感じない。
 どっちみち彼に見せた方が手っ取り早いか、よし、善はいそ―
「ピー!ピー!」
「ななななななに!?」

 いきなり鳴いた。
 落とすところだった。

「ピー!ピー!」

 ピーピー言われても分からないが、言ってもしょうがないので飲み込んだ。
 とりあえず泣き止ませなければ。
 無い知識を振り絞る。

 生まれた歓喜の雄叫び、にしてはうるさい。
 具合が悪い、にしてもやはり鳴き声が大きい。
 ……お腹が空いたのか?

「よし、とりあえずご飯ね。えっと……」









 四苦八苦しつつも食事を与えると満足したようで泣き止んだ。
 ついでなので私も昼食にする。
 赤ちゃんは卵の入っていた木箱に入れて横に置いておく。
 うどんをちゅるちゅるとすする。うまい。

「ピー!」
「んがふっ」

 危うく鼻からうどんが出るとこだった。
 博麗霊夢ともあろうものが一人で食事中にそんな事をやるわけにはいかない。
 やるなら宴会の席だ。

「今度は何よ……てあああ!」

 一言で言うなら排泄物。
 食事中になんてことしやがるこいつ。
 仕方がないので食事を中断し後始末をする。
 お昼ごはんカレーじゃなくてよかった。


 始末をしたあと若干食欲は衰えていたが残りのうどんを食べ、食器を片付ける。

「変なもん拾っちゃったわね」

 つぶやくとほぼ同時にまたピーピー泣いたので慌てて見に行ったら食事の催促だった。
 赤ん坊なのですぐお腹が空くらしい。

「……面倒くさいもん拾っちゃったわね」



 その後もやれ食事だ、やれトイレだとピーピーピーピー泣いていた。
 赤ん坊のケモノがこんなに鳴いていると近所の妖怪どもが集まってきそうなので、寝室に音と気配を遮断する結界を張った上で寝室に。
 とはいってもしょっちゅう鳴くのにはかわりなく、近くにいてちょこちょこ寝室に顔を突っ込む事になった。

 夜になりさすがに鳴く頻度も下がる。
 落ち着いたので一人で夕飯を取る。
 もぐもぐ。


 アレを長く飼う気はない。
 落ち着いたら紫か地下の動物フェチにでもくれてやろう。
 でもま、仮の名前くらい決めてやるか。

「ピーピー鳴くし……ピーでいっか。これからピーちゃんよあんた」

 めんどくさかったのでてきとーに決めた。







 翌朝ピーピーで起こされるとある変化が起きていた。

「何か大きくなってない?」

 ピーが若干大きくなっていた。
 何かツノみたいの生えてるし。

「ピー!」
「餌をねだるのは変わらないのね……」



 そしてもう一つ大きな変化。

「!……あんた弾打てるようになったの?」

 ピーが火を球を吐けるようになった。
 連射もできず弾幕とは言えない物だけど、育ての親としては嬉しかった。
 柄にもなく弾幕指導までしていた。

「だからね、こうやってピシっとして、パーンと打つのよ……わかんないかなぁ」

三番サードの教え方じゃダメみたいだ。





 何日か過ぎていくうちにピーはどんどん変化していった。
 体は大きくなり、ツバサのようなものまで生えた。
 一番びっくりしたのはいつのまにか二足歩行になっていた事。
 打てる火球も大きく力強い物になっていた。

「ピー!」
「はいはい」

 それでも食事の世話は私。


「ピー!」
「トイレ?まって今カレー食べてるから」

 慣れは恐ろしい。






 そんなピーが、風邪を引いた。



「ピー!」
「あら?ご飯はあげたばっかじゃない……どうしたのよあんた」

 見ればピーはぐったりと横になり、呼吸も荒い。
 ついさきほどまで元気に火を吹いてたので焦る。

「どうしよう……」

 竹林の医者にいこうか。いや、アレに借りは作りたくない。
 とりあえず自分のできる範囲で看病をしてからだ。

「……よし、と」

 やれることはやった。これで様子を見てダメなら……しょうがない。
 そわそわしながらピーの前を立ったり座ったりうろついたり。

 どのくらい経っただろうか、そわそわしているうちに気疲れしてうとうととしていた。

「ピー!」
「ふごっ」

 起きて目をやると、そこには元気に歩きまわるピーの姿。
 長いため息。

「よかったわね、ピー」






 二十日ほど経った辺りにはピーの成長は落ち着いていた。
 二週間を過ぎた辺りからは食事や遊びの催促も以前とは違い周期的になり、間隔も長くなった。
 火球も何発かは打てるようになったが、弾幕と呼べるほどの物ではない。
 変わらない事といえば、睡眠時間。
 毎晩私の夕飯が終わる頃には既に寝ている。長い。

「飼い主に似たわけじゃないわよね……」





 そろそろ地下にでも連れて行こうかと思う時もあったが、なんとなく先延ばしにしていた。
 もう少し、親気分を味わったらね。
 毎晩寝る前そんなことを呟いていた。

 そして、別れは突然。







「ピー!ピー!」
「ん?まだ食事には早いけどどうしたの、と……」

 息を飲んだ。
 ピーがまた横になっていた。
 弱々しい息遣い。

「どうしたの!?」

 反応はない。
 横になったまま、それでも鳴き声だけは力強く。

「ピー!」
「私はここにいるわよ、どうして欲しいの?」
「ピー!ピー!」
「もうダメなの……?」

 見るからにピーは弱っている。
 手遅れだ。
 私にもそれだけは分かった。

「ピー!」
「……ぐす」



 もっと遊んでやればよかった。



 もっと弾幕教えてやればよかった。



 もっとご飯あげればよかった。



 もっと、一緒にいたかった。






 ぐずぐず泣いてるうちに、ピーは逝ってしまった。
 泣き止んで最後の言葉を交わすこともできなかった。
 情けない。

 たった二十日程度の、短い親子生活は終わった。














「ピー!」
「!?」



 ピーの声。
 いないはずの。


 涙を鼻水を拭う。


 そして先程までピーがいたところには。





「卵……」




 あなたは私を一人にしないのね。
 ありがとう、ピー。


 ……父親は私?





 まぁいいか、ピーと私の子だ。
 また育てよう。




「……あれ?」



 浮かんだ笑みが固まった。




「ちょ、ちょっと。どういう……!」

 卵が消えていく。
 色が薄くなっていく。
 薄く。
 うすく。




 消えた。






「なんでよ!ピーの卵を返してよ!」

 叫ぶ。悲しみよりも怒り。


「ねぇ!返して!」
「霊夢さーん、見てくださいほら河童に作らせたPG非想天則がですね……てどうしたんですか?」
「早苗……?」

 いつのまにか後ろには山の巫女がきていた。
 気付きもしないなんて。
 動揺しすぎだ、私。




「霊夢さん鬼みたいな顔してたんですけどどうしたんですか?二日酔いしたとか?」
「……私のピーが、ピーの卵が……消えちゃって……」
























「あぁそれ電池切れですよ」
 バレバレでしたね。
 デジモンやたまごっち流行ったときに出た大量のパチモン達。
 自分が持っていたのが恐竜育てるパチモン。
 対戦モードの練習はできるのに対戦できるシステムはついてないという素晴らしいインチキでした。
 呼び出し音が五月蝿いので親が「ピーちゃん」と呼んでた思い出。

 というわけで読んでいただいてありがとうございました。
 前作にコメント頂けて凄い嬉しかったです。
 いつか続編を書けるようにがんばります。

 今作は溜まってたネタ集からの作品です。
 前作よりも完成は先だったのですが、ファイルの海に埋れてました。
 好きなだけ書いた前作、極力すっきりさせようとした今作。作風すら定まっておりません。
 精進します。


 ご感想等頂けたら幸いです。
ねもい
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コメント



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1.50名前が無い程度の能力削除
俺の涙を返せw
3.90名前が無い程度の能力削除
この発想は無かった
5.80奇声を発する程度の能力削除
まさかの最後でwww
7.90名前が無い程度の能力削除
いかん、普通にだまされたw
9.70名前が無い程度の能力削除
おや? れいむのようすが……
21.100名前が無い程度の能力削除
なぜだろう、殺気が沸いたw
22.80名前が無い程度の能力削除
これはひどいw
23.90名前が無い程度の能力削除
ちくしょうまんまとだまされた!
32.80名前が無い程度の能力削除
はははっ、すっかりだまされた。
く、悔しくなんか……ないんだから。
33.80名前が無い程度の能力削除
泣いちゃう・・・っ!
泣いちゃうよおっ!
そして私の涙をかえしてwww