古明地さとりは恐怖していた。
文字通りの恐怖である。今では部屋から一歩も出てこようとしない。一度だけ侵入に成功した妹の話によれば、頭を抱えて部屋の隅でじっと体育座りをしたまま動かないそうである。ペットたちも部屋に近付くことはなく、また近付こうともしていなかった。
誰が見ても明らかにおかしい。そんな主の異常に、誰もが困惑の表情を浮かべて顔を見合わせていた。
事の始まりは、妹だった。
その日もいつもと同じように本を読みつつ紅茶を嗜んでいると、同室で寝そべってごろごろしていたこいしが突然がばっと起き上がって言ったのだ。
「ねぇお姉ちゃん、そのお紅茶もうそろそろなくなるんじゃない?」
「え? ええと……そうだけど。あと一口だし一気に飲んじゃおうかしらね」
「どうせだったら私がおかわり注いできてあげよっか?」
「あら、気が利くわね。ならお願いしようかしら」
「おっけー」
いつものこいしには珍しい気遣い。何の気紛れかとも思ったか、しかしたまにはそんな日もあるのだろう。そう気に留めることでもないはずだ。
そう考えて、さとりは再び手元の本に目を落としたのだった。
暫くして後。ばたばたと騒々しくなったかと思ったら、がちゃりとやや乱暴に部屋の扉が開いた。
誰の仕業かは大方察しがついているけれど、とさとりは息を吐いて顔を上げる。そうして音のした方に目を向けると、予想通りこいしが、片手にティーセット、もう片手に洋菓子を乗せた大皿を持ってよろよろとそこに立っていた。
実に危ない持ち方である。慌てて駆け寄り妹からティーセットを半ば奪うように受け取ると、やや怒り気味に声を荒げた。
「全くもう! そんな無茶して……危ないじゃない!」
「えへへ……ごめんなさい」
ぺろっと舌べらを出して悪びれもせずに頭を下げるこいし。その様子に少しばかり呆れつつも、まぁ仕方ないかとさとりは矛を収めた。
「まぁ、それはいいとして……そのお菓子は?」
「んー? お姉ちゃんが食べたいかなーって思ってさ。ついでに持ってきたの」
「そう……で、ついでに自分のカップも持ってきた、と」
こいしの持ってきたティーセットはさとりのものに加え、もう一組あった。言わずもがな彼女自身のものである。
なんだかんだ言って自分もお菓子が食べたかったということか。妙なところでしたたかさを見せる妹の抜け目のなさに、さとりは小さくくすりと漏らした。
「だってぇ……私だって、一緒にお茶を飲みたかったんだもの。たまにはいいでしょ?」
「たまには、じゃなくていつでもいいけどね。あなた、いっつも遊びに行ってるかお部屋でごろごろしてるかじゃない」
「それはお姉ちゃんがいつも一人で本を読んでるから……」
「話す相手がいないからそうしているだけよ」
「……なんだ。遠慮して損しちゃった」
ぷうっと頬を膨らませつんとそっぽを向く。どこか可愛らしいそのへその曲げ方に、さとりは笑いをこぼしつつ言った。
「まぁ、それならこれからはそうするとして。とりあえず座って、お茶にしましょうか」
「うん!」
「それにしても……ちょうど小腹が空いてたところだったからいいんだけど。ここまでタイミングがいいと、あなたが心を読んだのかと疑ってしまうわね」
皿に敷き詰められた洋菓子の一つを手に取りながら、呟くようにさとりは言った。
それに対してこいしは胸を張りつつ、そりゃそうよと自慢げにうそぶく。
「私は覚妖怪ですもの。そりゃあ心も読めるに決まってるわ」
「えぇ、まぁ、そうだけどね。とりあえずその冗談は置いといて」
「むー」
適当に流す姉の言葉に、こいしはぶくぶくと紅茶に息を吹き込み泡を立てる。行儀がなってないわよとさとりがたしなめると、ようやくカップをテーブルの上に置いた。
「でも、本当にそう思ってしまったのよ。あなたが目を閉じてから、この幻想郷に心を読むことができる妖怪は私一人だけになった。だから、ああやってまるで自分の心を読まれたかのような感覚が、なんだか凄く懐かしくって」
「ふーん……ま、私も分からないでもないけど。心が読まれることはないと分かっているから、同じことをされたら多分同じように思うでしょうね」
「そうそう。まぁそれだけじゃなくて、今読んでた本の影響もあるんでしょうけどね――」
そう言ってさとりは懐から、先程まで読んでいた本を取り出しひらひらと見せるように掲げる。カバーが掛かっていて外からは何の本か分からない。
はい、とそれを手渡されたこいしはぺらぺらとページをめくる。予想に反して小説の類ではなく漫画だったが、軽く見ただけでは何の本なのかやはり判然としない。
何の本、と尋ねると、待ってましたとばかりにさとりは喋り始めた。
「『サトラレ』、ってタイトルの漫画でね、自分の考えてることが周りの人に伝わっちゃう人のお話なのよ」
「なにそれ。まるで私たちの逆じゃない?」
「そうね。まさにその通り。そこが面白いと思ったから読み始めたんだけどね」
「ふうん……面白いの?」
「まぁ、それなりに。あなたも読む?」
「どうしよっかな。気が向いたら」
「そう」
こういった受け答えをした時、こいしにはその気がほぼ全くないことを彼女は知っていた。だからこそ深追いもしないのである。
それを分かった上で、さとりは更に続ける。
「それでね。さっきみたいなことがあったから、ね。私自身がもしかしたら、『サトラレ』なんじゃないかって。そんなことを考えてたの」
「あっはは! そりゃいいや。面白いよ」
「半分は本気よ? 自分の心が読まれているかどうかなんて、実際には口に出されなきゃ分からないんだから。疑うことはできるけどね」
「……ふうん」
いつもとはまた違った響きを持った相槌。そこに含みを感じたさとりは、眉をひそめて妹に尋ねた。
「……なによ。何か言いたいことでもあるのかしら?」
「別に? でもま、そうだったら面白いねって。なんとなくそう思っただけよ」
「私からしたら面白くもなんともないわよ。他人に心の内を知られるなんてたまったもんじゃないわ」
「普段は自分が他人の心を覗いてる癖に」
「それはそれ、これはこれよ」
自分のことを完全に棚に上げた物言い。なにそれ、というこいしのツッコミに、さとりの笑い声が部屋に満ちた。
◆
――しかしながら。
冗談でもなんでもなく、さとりは実際にいぶかっていたのだ。
漫画の影響か、はたまた元から抱いていた疑念か。どちらなのかは分からないが、その「もしかしたら」の可能性に怯えていたのは事実だった。
まぁ本当にそんなことがあるわけはないと、そう自分に言い聞かせてはいたのだが。
数日後。
今日も今日とてペットたちは仕事をサボっていないか、確認がてらさとりは地霊殿の中を闊歩していた。
室内とはいえども、この屋敷もなかなかに広い。下手に外を出歩くよりこちらの方が余程多くの距離を歩くことになる。出不精である自身にも良い運動になると、散歩代わりに日課にしていたのである。
そうして各所を回り、残るは灼熱地獄跡となったのだった。
「ふぅ……あそこは暑いから、あまり行きたくないんだけどね……」
いくら跡地とはいっても、「灼熱地獄」の名を冠しているだけあってその温度は尋常ではない。あそこで働いているあのペットたちは頭おかしいんじゃないかとすら思ってしまう。働かせているのはさとり自身なのだが。
例え偵察のみであれどもあまり長居はしたくないのも確かである。どうせ空の方も燐がちゃんと監視してくれているだろうし、確認するのは燐の方だけで充分だろう。いつもと同じ結論を出して、さとりは灼熱地獄跡へと向かった。
「へ? おくうですか? 今もちゃんと仕事してますよ。って言うかしてなかったらあたいが怒りますし」
「そう……ありがとう。あなたは私が言う前に、いつも自分から動いてくれるからとても助かってるわ」
「えへへ。それほどでも」
はにかんだ表情で燐はぽりぽりと頬を掻く。程々に謙虚な姿勢も好ましい。まさに優秀なペットだった。
いつぞやの異変の時も、少々公正さを欠いたがそこは親友を思ってのこと。人情にも厚く人柄が良い。そんな燐のことをさとりは信頼していたし、燐もまたさとりのことを信頼していた。
押し付けるような形になってしまったが、今や燐はここ地霊殿のペットたちの統括と言っても過言ではない。それに値するだけの実力を持っているのである。右腕と言っても差支えないだろう。
と、口には出さないでもさとりは燐のことをそれくらいに評価していた。文字通りねこっかわいがりである。
「いえ、本当にそう思ってるのよ。まるで毎回毎回、私の考えているそのままに動いてくれているようで――あ」
と、そこまで口にして、数日前の妹との会話を思い出す。
しかしそんなのは比喩に過ぎない。気にする必要もないのだと、ぶんぶん頭を横に振って考えを引き剥がした。
「ど、どうしたのですか……? いきなりそんなことを……」
「いえ、大丈夫よ。ただ、あなたが私の心を読んでいるんじゃないかなんて、そんな妄想じみた考えを――」
「え? さとり様の考えを、ですか?」
「えぇ。馬鹿馬鹿しいにも程があるわよね。そんなこと、あるわけないのに」
「いえ」
「えっ?」
「あっ」
いけないいけない、とばかりに口を慌てて押さえる燐。明らかに様子がおかしい。これは変だ、と踏んださとりはすぐに燐の心を読み取った。
“――危ない危ない、さとり様にはこのことを言っちゃだめなんだったっけ”
ごくり、と息を呑む。
“このこと”? 何の話? 一体何を言っちゃだめなんだと燐は言っているの?
――決まっている。今の状況でそれが指し示すのは何なのか。たった一つしかないじゃないか。
そう。先に私自身が言ったように、私の考えることが、全て周囲に筒抜けだという事実。
まさか、と思った。けれどそう考えればこいしのあの言動も、今の燐の反応も、全部全部一致するじゃないか。
第一、心を読めるのなら読み取られたって何もおかしくはないはずだ。そうでなくともみんな心が読めるのかもしれない。「そうじゃない」と否定できる根拠なんか何一つとしてない。あの漫画のように、周りのみんなが自分のことを思って、あるいは私を笑うために隠していたのかもしれない。
だとしたら、今までの私は、まるで裸の王様じゃないか――!
一度拍車がかかった考えは、もう止まることを許さない。さとりの疑念は既に彼女にとっての事実となって、全身に重く圧し掛かっていた。
それでも、最後の力を振り絞って、さとりは喉の奥から声を絞り出した。
「……そ、それじゃあっ……私は、部屋に戻るから。……お仕事、しっかりやってちょうだいね」
「はい、勿論で……あ、あのさとり様? なんだか顔色が――」
燐の心配する声を振り切り、さとりはもう駆け出していた。
「もしかしたら」。その疑念に、重圧に、どうしようもなく耐え切れなくなっていたのだ。
もう聞いていたくなかった。目の前の恐怖からただ逃れたかった。
ただ、その一心だったのだ。
◆
さとりは今、震える足を必死に押さえ付けながら旧地獄街道にいた。
いくら自分が恐怖におびえようと、時間は刻々と過ぎて行く。日常は至って日常のままで、他人が怖いからと言って夕食の買い出しに行かないようなことが出来るはずもなかった。
いつもなら蓄えなどいくらでもある。しかしたまたま昨日の内にペットフードを切らせていたのだ。人化できる者も多少はおれども、ペット全体の数が多いためごまかすことはできない。
今日に限って、買い出しに必ず行かなければなかったのである。
いや、もし本当に行きたくないのであれば、誰かに任せるのもまた一つの方法だったろう。
それをしなかったのは、それ程までにペットたちが怖かったからか。
それとも、自分の目でその心配が杞憂であると確かめたかったからか。
どちらなのか分からないくらいに、さとりの頭の中は混沌としていた。
「……そう、大丈夫、大丈夫。あんなのはたまたま合ってただけで、そう、偶然なんだから」
自身に言い聞かせるように呟く。
実際、買い物だってもう済ませた。彼女の姿を見てぎょっとする者、嫌悪の色を浮かべる者、見て見ぬふりをする者、その全ての心を読んだが至って自分の心を知っている様子はない。心配することなんて、何一つないのだ。
分かり切っている。分かり切っていること、のはずなのに。
どうしてか、吹っ切ることができないでいた。
一度翳った思考が晴れることはない。疑いの曇りは未だ視界に残ったまま。人の心を読める彼女は疑念とは無縁であったはずなのに、今や疑念だけで思考が埋め尽くされてしまっていた。
心を読む力なんて、結局上辺しかすくい取ることのできない能力。それをどう信じろと言うのだ。本当に知りたいことは、そこよりもっと深い場所なのに。
本当に伝わっているのなら、いっそこの場でバラしてくれ。辱めるためでもいい、ただ、本当のことを、どうか。
買い物袋を両手に、さとりの頭は最早錯乱していた。
「……ただ、いま」
「お帰りお姉ちゃん。お買い物に行ってたの?」
「……そ、う、だけど。それが……何か?」
帰宅すると、玄関先には妹が。
にこやかに笑みを浮かべて、まるで待ち構えていたかのように立っていた。
そう、まるで――さとりの行動を、初めから知っていたかのように。
「別に、そんな、用事があるわけでもないけど――どうしたの? お姉ちゃん、なんだか顔色悪いよ?」
「そうかしら。……えぇ、ちょっと、今日は疲れているみたいだから。ごめんなさい、少し、休ませて貰えるかしら」
「え? ……うん、分かった。みんなにもそう言っとく」
「……ありがと。助かるわ」
頭がぐわんぐわんとするのを必死にこらえながら、いつも通りのやり取りを交わす。
一番最初に抱いた違和感、そのごわごわとした異質な手触りを感じながら、それでも無理やり布をかぶせて。
ようやく、最後の一言を口にできたのであった。
はたと立ち止まる。
そうだ。最初の違和感の元凶――そこにいる妹に、直接問い質してみたらどうか。
そうすれば、何にしたって答えは出る。自分の望む答えでもそうでなくとも、いずれにしても答えだけは出る。
好転するかどうかは分からないけれど、でも、今のこのもやもやからはすぐに脱却できる。
だから、聞いた。
「――ねぇ、こいし」
「なに?」
「その、一つ、聞きたいことがあるんだけど。……あなた、私の考えてることが分かる、なんてことは、まさか、ないわよね?」
「…………え?」
明らかにいぶかしがるこいし。
それを察知したさとりは、慌てて首を振りながら続ける。
「そんな真剣な話じゃないの。ただ、ちょっと気になって……だから、教えて。私が考えてることが、真実か、どうかを」
「……んー……」
逡巡するように、顎に人差し指を当てながら唸る。
その動作はやけに緩慢で、きっと実際にはほんの数秒くらいのことなのに、さとりには何十秒にも感じられて。
そう、まるで、勿体ぶっているかのような――
勿体ぶって?
何を?
答えを?
どうして?
そりゃあ、本当のことを、言うためで――
違うんなら、すぐに違うって言うんじゃなくて?
……いや、違う、そんなまさか、――――
たった一つの挙動に縛られて、さとりはこれ以上ない程に動揺した。
疑心暗鬼とはかくも恐ろしいものか。初めは耐えることのできた恐怖も、今では抑えきれずに歯の根が合わなくなっている。
違う、違う、違う、違う、必死に否定で塗り潰そうとして、懇願するように目を見開いて正面を向き、
そうして、満面に笑みをたたえた妹の顔を見た。
「――言わなくても、分かるでしょ?」
そうして告げられた答え。
それはどっちにでも取れるような、いつも通りのこいしのいたずらっぽい言葉で。
けれども疑いにまみれたさとりの思考では、ただその一言を一つの結論へと導いていた。
言わなくても分かる。
それはつまり、言わなくても伝わるということで。
あるいは、自分の口からは伝え辛いということ。
本当に否定を示したいのなら、首を横に振ればいいだけの話。
でも、それをしないで、あえて自分に判断を委ねると言うことは、――
見えてくる答えは一つしかなかった。
いつもなら、そういつものさとりなら、こんな言葉に翻弄されるはずはなかったのだろう。
けれど今の彼女にそれを求めるのは酷という話だ。一度生まれた疑念はなかなか取り消せない。疑いに疑いを重ねた結果、どんな言葉にもフィルターを掛けないでは見ることができなくなってしまっていたのだ。
だから今のこいしの言葉も、彼女にはマイナスの意味で捉えることしかできなくなっていて――
妹が制止する声も聞かずに、両手の買い物袋を落として、その場から逃げだしてしまった。
そのまま、さとりは自分の部屋まで全力で走って戻り――それから、一歩も出てこなくなってしまったのであった。
◆
「……あの、こいし様」
「ん? なぁに?」
「いつネタばらしするんですか? さとり様に」
そう燐が尋ねると、こいしはいたずらっぽく笑って返した。
「んー? どうしよっかな。しなくてもいい気がする」
「ちょ、それは流石にかわいそうじゃありませんか? いくらなんでも教えないっていうのは……」
「えー? だってほら、見てよお燐。あのお姉ちゃんを」
「はい……?」
こいしの指差した先。そこにはうつむいたままのさとりがいた。
もう誰が部屋の中に入って来ても気付かない。いや、気付こうとしない。自分以外の存在を認知しないことで、ぎりぎりの位置で精神を保っているのである。
だから今こうして二人がさとりの目の前で話をしていても、決して彼女は気付かないのであった。
そんな彼女に燐は歩み寄り、さとり様、と声を掛けながら触れようとする。しかし指が届く直前にびくりとさとりは反応し、物凄い勢いで後ずさりするとまたうずくまってしまった。
ペット相手にすら怯えきってしまっている。あるいはこいしなら会話くらいはできるかもしれないが、自分が下手に触っては悪化するだけだろう。そう燐は判断して、改めてこいしの方に向き直った。
――つまり、こういうことだった。
事の発端はこいし。姉が覚であることを利用したトリックを思いついたのである。
普段自らが心を読んでいるのだが、その実その能力は実は誰もが有しているのではないか。自分だけが心を読んでいると思っていて、実際には自分もまた他のみんなに心を読まれているのではないか。みんな自分を騙しているだけで、本当は陰で自分のことを笑っているのではないか。そういった被害妄想じみた想像を、上手く利用したのだった。
だから、まずはこいしが石を投げ、疑念を抱かせ。次に燐にも指示して同じことをやらせることで、確信へと至らせる。それだけ仕掛ければ、後は頭の良いさとりのこと。勝手に考えて自滅してくれるはずだ。
単純だからこそ、引っ掛かりやすい。そんな手法だったのだが――
どういうことなのか、と重ねて燐が尋ねると、茶目っけたっぷりにこう答えた。
「とってもかわいいじゃない!」
「え、と……は、はぁ、確かに、まぁ、そうですが……」
「いつまでも見ていたいでしょ?」
「…………」
こいしの言わんとしていることがぼんやりと理解できて、燐は痛み始めたこめかみを手で押さえた。
「……ところで。こいし様、よくさとり様の考えてること分かりましたよね? 心読めないのに」
「え? そんなの関係ないわよ」
「はい?」
「私は妹なのよ? お姉ちゃんの考えてることくらい、心が読めなくたって分かるに決まってるじゃない」
「は、はぁ……」
暴論である。
暴論であるが、こいしならやりかねない。
そう思わせるような口調であった。
「……まぁ、それはおいといて。一応、聞いておきますけど……いつまであのままにしておく気ですか?」
「飽きるまで」
「はぁ……」
「あーもう! 怖がってるお姉ちゃんもかわいーっ!」
「…………」
嬉々として狂乱するこいし。この人にはいつまで経っても勝てないだろうなと、げんなりした表情で思う燐であった。
さとりが自殺したり第三の目を閉じる前に飽きると良いですね。
ここまで衰弱してるとなると、自分にはそんな未来しか見えませんが。
ほのぼのしました
笑いながらこのままぶっ壊しちゃって欲しいくらいに
肉親を命の危険にさらして楽しむこいしの、妖怪の残酷さにぞっとして。
今回衰弱しつくす前にこいしが飽きたとしても、その次は? その次は?
どこに終着点があるのか分かりませんが、さとりの死因は多分、妹だろうな
もう一つ、さとりが深くまで心を読めなかった原因と、
さとりを愛するお燐がかようないたずらの片棒を担ぐに至った経緯があると、
さらに面白くなったように思います。
このこいしちゃんは飽きてもそのまま放置しそうです
それはそうとさとり様かわいい