冷たくなった愛する娘
人形のように綺麗な肌に触れる
一切の温もりも失われた肌はあの子が好きな人形のよう
ウェーブのかかった金髪は無造作に広がっている
閉じた瞼は二度と開かれる事はない
生きている時のままの変わらないそれらが辛くて座り込む
私は……また独りぼっち……?
体に痛みが走り目を開ける。
そこには反転した世界。
しばらくして、やっと自分がベッドから落ちているという事に気付いた。
荒くなっている息を少しずつ整える。
「夢、なのよね……?」
その時、部屋の扉がノックされ、開かれた。
「神綺様、凄い音がしましたが、どうしました?」
そう言って入って来たのはパジャマ姿の夢子ちゃん。
生きている彼女を見て、私はひどく安心した。
「ベッドから落ちちゃった~」
「それだけであんなに大きな音が……」
夢子ちゃんは呆れるような、困ったような、そんな顔をして私を見る。
「夢子ちゃん、ちょっと」
私は手招きをする。
「どうしました?」
「起こして~」
私が伸ばした手をため息混じりに取り、ベッドの上に寝かせてくれる。
「それでは私は……」
「待って。夢子ちゃん、ここに座って」
私は自分の隣を静かに叩く。
「え?あ、はい」
言われたままに夢子ちゃんは私の隣に腰を下ろす。
私は夢子ちゃんの腰に手を回して抱き寄せ、そのまま押し倒した。
「なっ……神綺様?」
戸惑う夢子ちゃんの胸に私は顔を近付ける。
「え?……な、何を……?」
「ちょっとだけ、ごめんね」
夢子ちゃんの胸に耳をあてる。
聴こえる
命を刻む音が
私が与えた命は、私が何もしなくても続いている。
「生きてるわね……」
「……え、ええ」
「おっきいおっぱいよね」
「密かに自慢で……って、何を言わせるんですか!?」
顔を真っ赤にして夢子ちゃんは叫ぶ。
「正直なのは良い事よ」
「……本当にどうしちゃったんですか?」
「なにが?」
「ごまかさないで下さい。私は神綺様の全てを分かってはいませんが、普段と今が違うくらいは分かってます」
まっすぐに私を見つめる夢子ちゃん。
「立派に成長したわね。……あのね、夢を見たの」
「夢、ですか?」
「うん。……ごめんね、夢子ちゃんが死んじゃう夢だった」
「…………」
夢子ちゃんの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。
「温もりが、無くなっちゃって。可愛さが、消えちゃって。優しさが、失われて……」
溢れ出す涙は夢子ちゃんの背中へと落ちる。
「いつかはね……いつかはそれが来るのは分かってるの。でも、分かっていても……恐い」
「神綺様……」
「朝、夢子ちゃんが起こしに来てくれて、髪の毛セットしてくれて、ご飯食べて、一緒にお茶飲んで、お話して、他のみんなに愛されてる夢子ちゃんを見て……。それは私の日常なの。夢子ちゃんがいなくなると、私の日常が壊れちゃうの……」
「神綺様」
夢子ちゃんは私の肩を掴み、そっと体から離した。
まっすぐにこちらを見つめている。
「私はまだぴっちぴちです」
「ふぇ?」
「いつもみたいにもっと気楽にして下さいよ。私は……いずれは神綺様と別れる時が来るはずですが、今はまだ生きています。ここにいます。神綺様のお傍に」
「…………」
「……神綺様は、私といると楽しいですか?」
突然の質問だ。
「……うん、とっても」
愛しき子供達の中でも長女と言える存在。ずっと昔から私の傍でお世話をしてくれている。
「じゃあ、私と別れる時の悲しさじゃなくて、私と一緒にいる時の楽しさを感じて下さいよ」
はっとした。
目の前の夢子ちゃんは微笑んでいる。
「そうね……ごめんね夢子ちゃん。ママ、少しシリアス入っちゃったわ」
「いいじゃないですか。たまには真面目にしてないと脳みそ溶けちゃいますよ」
「私がいつもちゃらんぽらんみたいじゃない!」
「……え?」
「え?って、純粋に聞き返さないでよ!」
普段弄っている分のお返しだろうか?
でも、これも心地好い。
夢子ちゃんとの触れ合いの一つ一つが私の生活を彩る。
「ねぇ、夢子ちゃん」
「何ですか?」
「一緒に寝ましょ?」
そう言って隣をぽんぽんと叩く。
「……特別ですよ」
大して嫌がる風でも無く、夢子ちゃんは私の隣に座る。
「夢子ちゃん」
「今度は何ですか?」
「大好き」
さっきまで私に楽しそうに意地悪してた夢子ちゃんの顔は、みるみるうちに赤くなっていく。
「ね……寝ましょう!」
そう言って私とは反対側を向いて寝転がった。
「……可愛いんだから、もう」
私も布団に潜ると、夢子ちゃんに掛け布団を掛ける。
「あったかくしないと風邪引いちゃうわよ?」
「……はい」
返事するのと同じくらいの速さで、夢子ちゃんはこちらを向き、私をぎゅっと抱きしめた。
「夢子ちゃん?」
「あったかくしないとと言ったのは神綺様です」
夢子ちゃんの顔は見えないが、耳は真っ赤だ。きっと思い切ってやってくれたのだろう。
「……感じで下さい。私の温もりを、鼓動を、命を」
「うん」
抱きしめる力が強くなる。
「私は、夢子は確かにここにいます。誰よりも神綺様のお傍にいます」
「うん」
「最期まで、ずっとずっとお傍にいます」
「うん、ありがとう」
今度は私が夢子ちゃんを抱きしめる。
そして頬にそっとキスをした。
「姉さん、神綺様、朝よ」
優しく肩を揺すられ、私は目を覚ます。
「んにゅ……あらぁルイズちゃん。おはよぉ」
「おはようございます神綺様。ほら、姉さんも起きてよ」
ルイズちゃんは困ったように夢子ちゃんの肩を揺する。
「んっ……あれ?ルイズ……」
「姉さん、お寝坊さんよ」
部屋の時計に目をやった夢子ちゃんは飛び起きた。
「もうこんな時間!い、急がなきゃ!」
どたどた慌てながらベッドから下りて駆け出す。
「神綺様、ではまた後で!」
そう言って部屋から出ていった。
「部屋にいないと思ったら、神綺様の所にいたんですね」
「まあね~」
「二人で幸せそうな顔して」
「だって幸せだもの」
私は毎日が楽しい。
それはとっても幸せなこと。
これからもずっとこんな日常が続けばいい。
立ち上がってルイズちゃんの頭を撫でて、部屋の窓を開け放つ。
「二人とも起きたなら私は戻りますね」
「うん、ありがとねルイズちゃん」
窓の外には、夢子ちゃん曰く魔界らしくない空が広がっている。
魔界らしさなど誰が決めたのだろうか?魔界神を差し置いて。
若干疎外感を感じながらそんな空を見つめる。
「くよくよしても仕方ないわね。私は今を生きるのよ!」
空に向かって叫んでみる。
「よし、テイクアウト!じゃないテイクオフ!」
再び叫んでから着替える。
「今日も頑張りましょ」
サイドテールを苦戦しながらセットして、私は廊下へと出る。
さて、今日は夢子ちゃんと何をしようかしら?
今日も楽しい日でありますように。
人形のように綺麗な肌に触れる
一切の温もりも失われた肌はあの子が好きな人形のよう
ウェーブのかかった金髪は無造作に広がっている
閉じた瞼は二度と開かれる事はない
生きている時のままの変わらないそれらが辛くて座り込む
私は……また独りぼっち……?
体に痛みが走り目を開ける。
そこには反転した世界。
しばらくして、やっと自分がベッドから落ちているという事に気付いた。
荒くなっている息を少しずつ整える。
「夢、なのよね……?」
その時、部屋の扉がノックされ、開かれた。
「神綺様、凄い音がしましたが、どうしました?」
そう言って入って来たのはパジャマ姿の夢子ちゃん。
生きている彼女を見て、私はひどく安心した。
「ベッドから落ちちゃった~」
「それだけであんなに大きな音が……」
夢子ちゃんは呆れるような、困ったような、そんな顔をして私を見る。
「夢子ちゃん、ちょっと」
私は手招きをする。
「どうしました?」
「起こして~」
私が伸ばした手をため息混じりに取り、ベッドの上に寝かせてくれる。
「それでは私は……」
「待って。夢子ちゃん、ここに座って」
私は自分の隣を静かに叩く。
「え?あ、はい」
言われたままに夢子ちゃんは私の隣に腰を下ろす。
私は夢子ちゃんの腰に手を回して抱き寄せ、そのまま押し倒した。
「なっ……神綺様?」
戸惑う夢子ちゃんの胸に私は顔を近付ける。
「え?……な、何を……?」
「ちょっとだけ、ごめんね」
夢子ちゃんの胸に耳をあてる。
聴こえる
命を刻む音が
私が与えた命は、私が何もしなくても続いている。
「生きてるわね……」
「……え、ええ」
「おっきいおっぱいよね」
「密かに自慢で……って、何を言わせるんですか!?」
顔を真っ赤にして夢子ちゃんは叫ぶ。
「正直なのは良い事よ」
「……本当にどうしちゃったんですか?」
「なにが?」
「ごまかさないで下さい。私は神綺様の全てを分かってはいませんが、普段と今が違うくらいは分かってます」
まっすぐに私を見つめる夢子ちゃん。
「立派に成長したわね。……あのね、夢を見たの」
「夢、ですか?」
「うん。……ごめんね、夢子ちゃんが死んじゃう夢だった」
「…………」
夢子ちゃんの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。
「温もりが、無くなっちゃって。可愛さが、消えちゃって。優しさが、失われて……」
溢れ出す涙は夢子ちゃんの背中へと落ちる。
「いつかはね……いつかはそれが来るのは分かってるの。でも、分かっていても……恐い」
「神綺様……」
「朝、夢子ちゃんが起こしに来てくれて、髪の毛セットしてくれて、ご飯食べて、一緒にお茶飲んで、お話して、他のみんなに愛されてる夢子ちゃんを見て……。それは私の日常なの。夢子ちゃんがいなくなると、私の日常が壊れちゃうの……」
「神綺様」
夢子ちゃんは私の肩を掴み、そっと体から離した。
まっすぐにこちらを見つめている。
「私はまだぴっちぴちです」
「ふぇ?」
「いつもみたいにもっと気楽にして下さいよ。私は……いずれは神綺様と別れる時が来るはずですが、今はまだ生きています。ここにいます。神綺様のお傍に」
「…………」
「……神綺様は、私といると楽しいですか?」
突然の質問だ。
「……うん、とっても」
愛しき子供達の中でも長女と言える存在。ずっと昔から私の傍でお世話をしてくれている。
「じゃあ、私と別れる時の悲しさじゃなくて、私と一緒にいる時の楽しさを感じて下さいよ」
はっとした。
目の前の夢子ちゃんは微笑んでいる。
「そうね……ごめんね夢子ちゃん。ママ、少しシリアス入っちゃったわ」
「いいじゃないですか。たまには真面目にしてないと脳みそ溶けちゃいますよ」
「私がいつもちゃらんぽらんみたいじゃない!」
「……え?」
「え?って、純粋に聞き返さないでよ!」
普段弄っている分のお返しだろうか?
でも、これも心地好い。
夢子ちゃんとの触れ合いの一つ一つが私の生活を彩る。
「ねぇ、夢子ちゃん」
「何ですか?」
「一緒に寝ましょ?」
そう言って隣をぽんぽんと叩く。
「……特別ですよ」
大して嫌がる風でも無く、夢子ちゃんは私の隣に座る。
「夢子ちゃん」
「今度は何ですか?」
「大好き」
さっきまで私に楽しそうに意地悪してた夢子ちゃんの顔は、みるみるうちに赤くなっていく。
「ね……寝ましょう!」
そう言って私とは反対側を向いて寝転がった。
「……可愛いんだから、もう」
私も布団に潜ると、夢子ちゃんに掛け布団を掛ける。
「あったかくしないと風邪引いちゃうわよ?」
「……はい」
返事するのと同じくらいの速さで、夢子ちゃんはこちらを向き、私をぎゅっと抱きしめた。
「夢子ちゃん?」
「あったかくしないとと言ったのは神綺様です」
夢子ちゃんの顔は見えないが、耳は真っ赤だ。きっと思い切ってやってくれたのだろう。
「……感じで下さい。私の温もりを、鼓動を、命を」
「うん」
抱きしめる力が強くなる。
「私は、夢子は確かにここにいます。誰よりも神綺様のお傍にいます」
「うん」
「最期まで、ずっとずっとお傍にいます」
「うん、ありがとう」
今度は私が夢子ちゃんを抱きしめる。
そして頬にそっとキスをした。
「姉さん、神綺様、朝よ」
優しく肩を揺すられ、私は目を覚ます。
「んにゅ……あらぁルイズちゃん。おはよぉ」
「おはようございます神綺様。ほら、姉さんも起きてよ」
ルイズちゃんは困ったように夢子ちゃんの肩を揺する。
「んっ……あれ?ルイズ……」
「姉さん、お寝坊さんよ」
部屋の時計に目をやった夢子ちゃんは飛び起きた。
「もうこんな時間!い、急がなきゃ!」
どたどた慌てながらベッドから下りて駆け出す。
「神綺様、ではまた後で!」
そう言って部屋から出ていった。
「部屋にいないと思ったら、神綺様の所にいたんですね」
「まあね~」
「二人で幸せそうな顔して」
「だって幸せだもの」
私は毎日が楽しい。
それはとっても幸せなこと。
これからもずっとこんな日常が続けばいい。
立ち上がってルイズちゃんの頭を撫でて、部屋の窓を開け放つ。
「二人とも起きたなら私は戻りますね」
「うん、ありがとねルイズちゃん」
窓の外には、夢子ちゃん曰く魔界らしくない空が広がっている。
魔界らしさなど誰が決めたのだろうか?魔界神を差し置いて。
若干疎外感を感じながらそんな空を見つめる。
「くよくよしても仕方ないわね。私は今を生きるのよ!」
空に向かって叫んでみる。
「よし、テイクアウト!じゃないテイクオフ!」
再び叫んでから着替える。
「今日も頑張りましょ」
サイドテールを苦戦しながらセットして、私は廊下へと出る。
さて、今日は夢子ちゃんと何をしようかしら?
今日も楽しい日でありますように。
自分も夢子さんは神綺様にとって特別な娘だと思います