師匠が結婚した。
もう一度言おう。師匠が、結婚した。
ブルースカイの霹靂だ。だって、あの師匠、他ならぬ八意永琳師匠が異性と添い遂げるとか。
弟子の私が言うのもなんだけど、あの人は重度の製薬フリークスだ。それ以外に興味が有るとは思えない。実際、「クスリ(を作ること)は楽しいわよ」なんていう、実に勘違いされそうな素敵ゼリフまで吐いている。
そんなアレな人が結婚するだなんていうのは、私の想像の範疇をあっさり超えていた。ベリーロールで。まあ、あの人の思考なんか、私にはトレースできるわけが無い。石橋を叩いて渡るところで「とんねるず」を連れて来るような、そういうブッ飛んだ人だもの。
とはいえ、そのこと自体は別にいい。何だかんだ言って、結婚は、やっぱり目出度いことだ。
でも、だ。それにしてもびっくりしたことがある。
相手の殿方が非常に……何というか、その、普通なのだ。あまりにも
師匠はそもそも月の頭脳だ何だと言われて、月じゃあウハウハだった人だ。無論、引く手数多の引っ張りだこ。町を歩けば求婚される有様だったのだ。
それだから私は、婿どのも大層才気に満ち溢れた君子なのだろうと思っていたのだけれど。実際は、何というか、普通だった。
アニメに出たら「男A」とかいう名前が付きそうな凡庸さだった。声は無いか、あってもガヤ録りだ。それくらい、どこにでも居そうだった。「普通」という言葉のモデルになれそうだった。
「師匠も何であんな普通の人にしたんだか、ねえ?」
そんな愚痴を、てゐに零してみた。
それぐらい納得いかなかったのだ。師匠なら、もっと左団扇で素敵なロハスロハスライフを送ってる男性がいくらでも選べたはずだった。
てゐは訳知り顔でニヤリと笑った。
「ははぁん、鈴仙さんチの優曇華ちゃんは、未だラヴというものを心得てないってワケね」
「ラヴって何よ、ラヴって」
この兎、外見年齢こそ私の妹みたいな感じだが、実際とんでもない年増だ。長いこと生きてきた中で、私よりずっと豊富な経験を培ってきているのだろう。
とはいえ、カチンとは来る。
てゐは仕方ないと言わんばかりに肩をすくめて見せた。
「いい? 鈴仙。男と女の出会いに、理屈なんてモノは有りゃしないワケよ。一度出会えば、すなわちフォーリンラヴ! 愛まっしぐらだわ!」
猫まっしぐらみたいに言われても困る。
「まあさ、それが世間一般の人なら、てゐの言うことも真理かもしれないけど。あの師匠にそんな理屈が通じるのかなぁ」
「分かってないわね、永琳も一人の女だったということなのよ」
「ううん……」
腑に落ちない。普段の師匠が余りに冷静沈着すぎて、そういう浮ついたシーンを全く想像できない。
私の中での師匠とは、こういう人だ。「月が綺麗ですね」と言われたら「昨日雨が降ったから、大気中のゴミが少ないんでしょうね」と返し、「君の瞳に乾杯」と言われたら「瞳孔とそこから見えるメラニン色素に? 変わった趣味ね」と返す。それも素でだ。
そういうイメージと、てゐの師匠像とは、生クリームと鰻重ぐらい合わなかった。本気でやばいから試さない方がいい。
「何々? イナバにイナバ。面白そうな話してるわね」
やって来たのは姫様だった。
イナバにイナバって、それどっちがどっちか分からないんですが。
気にした風もなくてゐは言う。
「あぁ姫様。ちょっと手伝ってくださいよ。この月兎と来たら、男女のキャッキャウフフアンアンらめぇをまるで理解しちゃいないんです」
「ははぁ、なるほど? 冷静沈着鉄壁理性製薬ジャンキーの八意永琳といえども、やはり一人の女であって、恋をして今に至ると。イナバはそう言いたいワケね?」
「勿論」
それを聞いて、姫様はコロコロと笑った。
「まさかまさか。そんなワケないじゃない。だいたい、永琳を幾つだと思ってる? 永琳とダンナの年齢を比べて御覧なさいよ、まるで子供、いや赤子、いやいやそれどころか、両親の腹の中にバラバラで居るレベルだと思わない? 恋愛なんて、とてもとても」
「ええ? じゃあ一体、何だって結婚したっていうんですか。政略結婚とかじゃ無いでしょ? あのダンナ、そんなコネ無いはずだし」
「そうですよ、それに、流石に言いすぎだと思います」
「あらら、イナバはともかく――兎だけに、ともかく――、イナバにまで反論されちゃうのね」
姫様は困ったように眉尻を垂れ下げた。途中の聞き苦しい発言は無かったことにしよう。本人の尊厳のためでもある。
「そうねえ。私もアレが何考えてるか、全部把握できてるワケじゃないのよ。何せ半端ないアタマでしょ? 追っ付けない追っ付けない。永琳自身、あんまりお喋りじゃないし」
「はあ」
「ただね、コレだけは言えると思うのよ。永琳のやる事だから、多分、物凄く深い意味があるんだわ」
「深い意味? それってどんなんです?」
「だから分かんないってば。まあ、そのうち分かるんじゃないの? 別に悪さする人じゃないし、いまさら食い扶持一人増えたところでどうこうなるモンでもないし」
「そうですか。まあ、それはそうですが」
なんだか煮え切らない終わり方になってしまったけれど、この話はコレでお開きになってしまった。
やがて、師匠に子供ができて、無事に出産した。当たり前だけど例の旦那さんとの子供だ。
さらに五年すぎて、子供は今年で五歳になる。
このころには私たちも、旦那に対してさほど違和感を覚えなくなっていたし、永遠亭の一員として普通に受け入れつつあった。
ただまあ、一つ気になることがあって。
「ねぇてゐ」
縁側に寝そべるてゐに聞いてみた。
「んー?」
「師匠さ、旦那さんに厳しすぎじゃないの?」
そうなのだ。師匠は最近、旦那さんの生活態度とかその他もろもろについて、ちょくちょく口出しを始めた。
平均的な夫婦というものを知らない私が言うのも何だけれど、結構厳しいと思う。
「あー、もしかして鈴仙、夫婦ってのは何年たってもラブラブのキャッキャウフフなモンだと思ってない?」
「え? いや流石にそこまでは思ってないけどさ、もうちょっとこう、おはようのキスとか、ご飯あーんとか、ペアルックとかさ、有ってもいいじゃない?」
「ウワァ! メルヒェンの世界に生きてる子がいた!」
「わりと失礼だと思わない?」
起き上がってガサゴソと後ずさるてゐ。イラッとしたのでとっ捕まえた。
「痛い痛い耳引っ張んないで。はいどうも。……いやさ、鈴仙・優曇華院・イナバちゃん。ちょっと夢見すぎじゃない? マジで」
「そうかなあ、そうでもないと思うんだけど」
「そうでも有るから言ってんでしょうが。いい? 普通の夫婦なんてモンはね、子供ができりゃあ後は惰性よ、惰性。もうここまで一緒にいちゃったし子供も居るし、いまさら別れるのも何だから添い遂げますかねぇヤレヤレ、みたいな」
「ええ? 何それ、夢の無い……」
「アンタは有りすぎなのよ。この夢見るヲトメが。あのね、流石にさっき言ったのは大げさにしてもね、新婚のアツアツさなんて延々維持できますかっての。してほしくも無いわ、こっちの精神が持たない」
てゐは冷めたリアリストらしい。私が言う方がずっと良いと思うのに。というか私は貰うならそういう旦那さんがいい。
「ううん。百歩譲って、てゐの言うとおりだとしてもだよ、それにしたって厳しくない? こないだなんて箸の持ち方直させてた」
「ふむ……まあねえ、あれはあれで一歩ススんだ愛情表現だと思うんだけどねぇ、鈴仙には早いか」
「あらら、何か面白い話してる?」
姫様がひょっこり現れた。
「うんにゃ、別に面白くもなんともないですよ。ああ、夢見るヲトメ鈴仙ちゃんのファンシーな世迷言は聞く価値があるかも?」
「それなら聞いたわよ。割と素敵じゃない?」
「ですよね、姫様もそう思いますよね!」
賛同者が居た。それ見たことか。
てゐは何とも言えない顔になっていた。さながら、鰻重と生クリームを同時に食べたみたいな顔に。
「ああでもイナバ、永琳がああいう風にするのも、ちゃんとワケがあるのよ」
「え? どんなです?」
「ずっと前だけど、永琳が今のダンナと結婚したのは必ず深い理由があるって言ったわよね?」
記憶を手繰り寄せる。
たしか師匠が結婚した直後のことだったか。よく覚えてるなぁ、姫様。
「あー。ありましたね、そんなことも」
てゐの方でも覚えていたらしい。
ソレを聞いて、姫様はニヤリと笑った。
「昨日、寝る前にようやく、その理由が何だったのか気づいたわ」
「え! 気になるなあ、教えてください」
そう言って急かすと、姫様はもったいぶるように咳を一つついた。
「オホン。まず、今や永琳は薬師。でも診察もしてるから、看護師とも言える」
「え? あ、はい。そうですね」
「で、彼女は今や五歳の子を持つ母親」
「そうですねー、あの子に私の弁論術を教えてあげたいモンです」
お前のそれは舌先三寸と言うんだ。
「最後に。最近永琳はダンナに厳しくなった。夫は頭が上がらない」
「そうですね。確かにそうです」
「これが全てのピースよ」
看護師、母親、旦那に厳しい。この三つの要素が、師匠の行動を解き明かすということらしい。
が、全く分からない。
「フフフ、教えてあげるわ。つまりね、永琳の旦那は――
ナースでママの永琳に逆らえない。つまりナースがママで、なすがままというワケよッ!」
喚くさんは秋姉妹ファンに早くあやまッテ!
北海道とか10度きってるんですけど喚くさんどうしてくれるんですか
いつものようなキレがなかった気がするのでこの点数で。
くっっだんねぇぇええッッ!
でも楽しめましたよーww
レティな季節を通り越して全球凍結な気分です
だがそれが(以下略)
あと秋姉妹には謝っておいた方が良いですよ!
(訳:おもしろかったです
だって彼女達は、冬の方が良く出ますからw
最後まで読んだからには点数をつけねばなるまいw
そう思わずにはいられませんでした。
安心しました
ところで、口先三寸は誤りらしいですよ!
オチは相変わらずハイパーくだらないけどそれまでの掛け合いや盛り込んだ笑いが好き
ああ~~~、熱が上がってしまった~~! 風邪気味なのに~~~(←
どうも今日の新潟は寒いなと感じたわけです。
本文を読んでタイトルに納得。これ滑ってたわけじゃないのね。
とりあえず秋姉妹の年に一度の晴れ舞台を返してやってくださいw
ありがとうございますw
言わずもがな、タイトル、オチ共に吹き出してしまいましたw…秋姉妹ェ…
しかしこのくだらないギャグでここまで笑わせる氏のセンスには本当に頭が上がらない
早急にホッコリ秋系のSSを奉納しましょう、そうしましょう!
このリアリストなうさぎさんを
精神が持たなくなるまで愛でたい
メルヒェンな鈴仙ちゃんも可愛いよ!
だがあとがきで撃沈
や、僕は好きですよ?
とりあえず秋姉妹に謝っときますか
完全にやられました。これはヒドイw