Coolier - 新生・東方創想話

so far distance

2010/09/24 02:27:37
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サーっというノイズ。ぱらぱらという軽い音。

屋根を叩く雨を降らした雲は、地上から見える最も綺麗な円を隠してしまっている。



今日は中秋の名月。


十年に九年は雨が降ると言われるこの日は、昔から団子を捏ね、望月を想像して楽しむのが風流とされるらしい。



くだらない、と私は思う。


風流なんてもんじゃない。余裕がないだけだ。

精々八十回程度しかこの日を迎えられない、ちっぽけな人間の考えそうな事である。



それとも団子を捏ねるより、屁理屈を捏ねる方が得意な私が、捻くれているだけだろうか?



ここまでまとまりなく考えた所で、私は気付く。

別に名月自体、興味がない事に。


そもそも、地上の兎は餅も団子も捏ねないし。



だが、今日という日が雨で良かったと思う。


鈴仙に、淀みない月を見せずに済むから。



私は知ってる。


鈴仙が、望月を見上げる度に、溜息を吐くのを。



だから、私は鈴仙が溜息を吐かなくてもいいように、嘘を吐く。

私を叱っている間は、空を見上げないで済むから。



全部知ってる。


彼方に望郷があり。

帰る事は叶わず。


此方に想い人があり。

想い人は主だけを見据えていて。


それでも、手に入らないものを望む貴女の赤い目には。

どれだけ飛び跳ねても、私が映る要素なんてなくて。



だけど、傍にいる。

私の力では、人間でない貴女を幸せにする事はできないけれど。


だから、傍に居る。

力なんて関係なく、初めて逢った時の、泣き腫らした様な赤い目の貴女を守りたいと思ったから。



どうか。

この気持ちを覆う、薄い嘘に。

貴女が気付きませんように。


どうか。

この気持ちに。

貴女が気付きますように。



そう思う私は、滑稽だろうか。


それでも。

気持ちだけには、嘘を吐かない。



貴女を想う私が、ここで飛び跳ねているから。




「…ってゐ!アンタねぇ!」


どたどたという足音がして、私の両肩が掴まれた。


「騒がしいよ?鈴仙。今日はせっかくの雨月なんだから、風流にいかないと。」


私は上を見上げる。反対から覗き込む向きになった鈴仙の目が、涙をちょちょぎらせている。


寂しいから?もちろん、違う。

そんなことのないように、私が傍に居るのだから。


「団子の中に辛子仕込んだのアンタでしょ!ていうかアンタしかいないじゃない!も~、お師匠様には叱られるし、唇は腫れるし、どうしてくれるの!」


どうもしないよ。

傍に居るだけ。


「まぁまぁ、そんなにいきり立てなさんなって。ほら、鈴仙もこっちきて座んなよ。」


私はぽむ、と縁側の隣を叩く。

鈴仙は「なによもぅ…」と言いながらも、素直に隣に座った。これだから可愛いのだ。



しばしの無言。サーっという雨音だけが響く。

庭に向けられた鈴仙の目は、空を見ていない。でも、私の方を向いてもいない。


ね、その赤い目は何を見ているのかしら。



「ねぇ、鈴仙。」



私は、こつん、と頭を傾げて、鈴仙の肩によりかかる。

長い髪が、少しだけ私の頬にかかる。良い匂い。



「あによ。」



団子の件からか、まだ訝しげな顔をしながら、鈴仙は私の方に目を向ける。

ああ、私の方を向いてくれた。



「私はね、鈴仙の事、結構好きだよ。」



結構、が付いてしまったのは少し残念。

私にだって気恥ずかしさくらいある。



「どうしたのよ…気味悪いわね…。」



そう、それでいい。貴女はこの気持ちに気付かないまま、この望月の日を終える。



ああ、それでもいつか。


どうか。

この気持ちに。

貴女が気付きますように。



「私だって、別にアンタの事嫌いじゃないわよ。」



思わぬ反撃。思わず、少しだけ口元が綻ぶのを感じる。



でも、私の言葉は変わらない。



だって、私には団子よりも、嘘を捏ねる方が似合うから。



「もちろん、嘘だよ?」


「…だと思った。」



ああ。


どうか。

この気持ちを覆う、薄い嘘に。

貴女が気付きませんように。



サーっという雨音だけが、私達を包んでいた。
(・д)/こんばんわー、ななせです。

今回はてゐのお話です。
少し過ぎてしまいましたが、奇しくも中秋の名月の時期。
僕はお団子を食べ損ねました。残念。
ななせ
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コメント



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2.70結城 衛削除
好きだから、嘘をつく。
言葉で気持ちを伝えることも嘘にしてしまうほど、その気持ちは純粋で……

ただのいたずらっ子でないてゐの表現が新鮮で素敵です。
ご馳走様でした。
4.90蛮天丸削除
なんでしょう、この気持ち。たまらなく切ないような、苦しいような。
それでもてゐの心にあたたかさも覚えてしまうのです。
7.無評価名前が無い程度の能力削除
雰囲気が凄かったです
歌を聞きながら読んだら泣きそうになりました
8.90名前が無い程度の能力削除
頑張れ!
11.80名前が無い程度の能力削除
雰囲気出てます
12.100名前が無い程度の能力削除
すてきな十五夜ですねえ
14.70とーなす削除
雰囲気が素敵です。
22.100TEWI削除
凄くよかったです、音楽も素敵でした
34.90名前が無い程度の能力削除
雰囲気がとても素敵でした