山の色は次第に彩りを濃くし、秋の訪れを感じさせる。
暑かった日々も、少しずつ秋の涼しさに変わっていった。
夜になれば鈴虫やこおろぎたちが綺麗な音色を奏でてくれる。
もう、あの暑い夏は終わりを告げたのだった。
暑さから逃れられた人々は、涼しい秋を感じる間もなく、収穫祭に向けての準備で忙しそうにしている。
しかし、それは大人だけの話。
子供はというと、仕事を与えられることも無く、いろんな遊びをして過ごしていた。
鬼ごっこであったり、影踏みだったり、だるまさんがころんだだったり。
子供は遊びの天才で、どんなことでも遊びにしてしまう。
だから、子供達が暇する事なんて無かった。
そんな、子供らをみて微笑むのは妖怪達である。
妖怪は、子供たちがするような遊びなんてする機会など全然無いため、見ていて楽しいのだ。
今現在、子供達は缶蹴りをしている。
一人の缶を守る者がそこにはおり、周りの茂みに隠れる子らがちらほらと見える。
見つからないように、されど少しずつ近づいていく。
少しの音を立てることさえも、捕獲に繋がるゲーム。
ガサッ。
音が鳴ったほうに咄嗟に首を向け、誰がいるのかを探り当てる。
葉っぱの隙間から、顔が見えるかもしれないと目を凝らす。
そんなときだった。
一瞬の隙を突いて飛び出た男子は、一直線に缶のほうまで向かっていく。
意識を完全に違う方向へ向けていた鬼は、反応するのに遅れるも、一生懸命缶の方へと戻る。
しかし、無常にも振り上げられた足は缶をめがけて振り下ろされた。
カァン。
心地よいほどに響き渡る缶の音に、子供らは一斉に歓喜の声を上げる。
隠れていた子供達も出てきて、缶を蹴った者のところへ集まる。
彼は、ヒーローになったのだ。
◆
「あぁ、いいわねぇ、缶蹴り。懐かしいわ」
そんな子供らを見つめるのは、八雲紫。
自身も缶蹴りをやったことはある。
妖怪だって、たまには人間の遊びもしたくなる。
なんというか、憧れでもあったから。
「あんた缶蹴りとか性に合わないでしょう」
羨ましそうに眺める紫の横で、呆れたような視線を送るのは、博麗霊夢。
霊夢は小さい頃もそういった遊びなどはしたことも無く、やりたいとも思わなかった。
体力は使うし、疲れるし、汗をかくしで、いいことが無い。
故に、やりたいと思わない。
「ねぇ、霊夢」
「なによ」
「缶蹴りしましょう。適当に人を集めて。楽しいわよ~?」
何が楽しいんだか……。
そう思いつつ、否定の言葉を言おうとしたその時だった。
「いいですね~、やりましょう!」
「!?」
霊夢の思いとは違う答えが勝手に返ってきた。
誰だと霊夢は声の方に首を向ける。
霊夢と紫の間に、ひょこっと顔を出すして微笑んでいたのは、射命丸文だった。
文の地獄耳が、面白そうな噂を聞きつけてやってきたのだ。
「それじゃあ、適当に収集してきて。場所は博麗神社にしましょう」
「了解です!」
「おい、ちょっと待……。あ~ぁ」
霊夢が言いきる前に、文は飛んで行ってしまった。
もう既に飛んでいってしまった文を引きとめることなんて霊夢にはできない。
一度、文がやると決めてしまった時点で、取り消すことができないなんてわかりきっていたことだが。
「さ~て、缶を準備しておこうかしら。楽しみだわ~」
嫌気の差す霊夢のことなどお構い無しに、紫の耳障りなほど明るい声が霊夢の耳に入る。
妙に機嫌の良い紫は、神社の階段を上っていく。
その足取りはスキップをするかのように軽く、隙間に手を突っ込んで缶を探っているようだった。
「はぁ……」
めんどうなことになったと心底思う霊夢。
どれだけ暇人が釣れるのだろうかと考えてみる。
しかし、考えてみればみるほど、幻想郷に住む者達のほとんどが暇人だったのは、言う間でもない。
「なんでこうなるのよ」
階段を上っていく紫を睨みながら、霊夢も重い足を無理やり動かし、神社への階段を上っていった。
◆
「うわぁ……」
博麗神社は、多少ながら賑わっていた。
なぜなら、文が集めてきた鬼やら妖怪やら人間がいっぱいいるからである。
普段博麗神社はまったくと言ってもいいほど誰もいない。
霊夢と、気まぐれでくる妖怪たちくらいで、こんなに集まる事は無い。
集まるときといえば、今日のようにイベントがある時くらいである。
集めてきた文を、紫はよくやったわと誉めている。
照れくさそうにしている文に、霊夢は少しイラつく。
そんな文に、霊夢は肘で小突いた。
「なんですか?」
「なんですかじゃないわよ。あんた集めすぎよ」
「そうですかねぇ。私も含めて十人なら少ないほうじゃないですかね?」
強制参加の霊夢に、首謀者の紫、そして人員を収集した文。
それに加えて参加したのは、霧雨魔理沙、十六夜咲夜の人間二人。
鬼の伊吹萃香に、地霊殿から来た霊烏路空と火焔猫燐。
あと、鈴仙・優曇華院・イナバに、魔法使いのアリス・マーガトロイドで合計十人。
「参加理由は、純粋な暇つぶしであったり、主人が行って来いと言ったからであったり、なんとなくきてみたりっていうものばかりですね」
「何なのよもう……」
呆れる霊夢を余所に、そんな十人を眺めながら、満足そうに頷く紫。
これからどんな戦いになるか。
それを考えるだけで、ぞくぞくして溜まらなかった。
「はいは~い、よく集まってくれたわね。それじゃあ、チーム分けをしましょうか」
「チーム分け?」
「ええ、そうよ。五対五のチーム。まぁ、ルールは後から説明するから、とりあえずチーム分けをしましょう」
紫はどこからとも無く、くじを取り出した。
本当に缶蹴りがやりたかったのだろう、凄く準備がいい。
普段なら言われてから準備したり、やる直前まで何もしなかったりする。
しかし今回のように、隙間からすぐ取り出せる辺りから、きっと準備は早くからできていたのだろう。
割り箸が十本用意されており、それを紫はぎゅっと握っている。
各々がそれぞれその割り箸を掴むと、下方部が真っ赤に塗られた割り箸と、何も手のつけられていない割り箸との二種類であることがわかった。
「それじゃ、決まったわね。赤チームは私と霊夢、文、空に燐ね」
「ってことは、私達白チームは、私に咲夜、優曇華に萃香、アリスでいいんだな?」
「そうなるわね」
紫を筆頭にした赤チームと、魔理沙を筆頭にした白チームとが結成された。
「それじゃあ、ルールの説明でもしましょう。各チームは缶を守る側と蹴る側とで、缶を蹴った回数で勝敗を決めるわ。でも、どっちも勝負が決まらなかった場合は、もう一度やることになるけど」
「赤が白を全部見つけたとして、白が赤に缶を蹴られてしまったら赤の勝ちってことね」
「そうよ、霊夢。でも、缶を蹴った場合は、もう一度同じ色が缶を蹴る側としてゲームを続けることができるわ」
「なるほど。最低でも全員を見つけるまでは攻守交代はありえないってわけね」
その通り、と頷く紫。
皆もそれに頷くも、一人首をかしげるお空。
「守る者が攻撃する側の者を見つけた場合は、その見つけた者の名前を言って缶を踏むことね。あと、注意しなきゃいけないのが、見つけたと宣言したけど、それが本当は違う人だったら、自動的に攻撃する側が一回缶を蹴ったことと同じとするわ」
「そりゃ気をつけなきゃいけないな……」
どこにでもあるような缶蹴りだが、これは子供がやるような遊びじゃない。
これは戦いなのだ。
しっかりとルールを聞き、その裏をかけないかと伺っている者は数多く……。
「缶を守る者は一人。しかし、別の一人を缶から半径三メートル以内なら自由に動いてもいいこととするわ。だけど、ここに誰がいるなどを教えたり、缶を蹴りに来た敵チームの邪魔をしたりしてはいけない」
「応援をしてればいいってことかしら?」
「そうなるわね」
咲夜の疑問に、紫は当然だと言わんばかりに答える。
「最初、缶は誰かが蹴ってからそれを定位置に戻し、一分後に開始。また、空を飛んだり、弾幕を使うのは禁止。これはスペルカードルールを使っての戦いじゃなく、缶蹴りだし当然の事ね」
「空を飛んだり、弾幕を使うのは駄目か。まぁ、当然といっちゃ当然か」
「例え弾幕の対象が人じゃなかろうと弾幕はだめ、ってことね?」
アリスが問うと、紫は静かに頷いて答える。
あらかたの説明を終えたようで、紫は一息つく。
「缶を守る人物はもし蹴られてしまった場合、交代することも可能なのかい?」
「そうね、交代は可能にしましょう。一度やってみて、人選ミスっていうのもあるでしょうから。あと、缶蹴りの前に作戦タイムを設けることにするわ。他に質問は無いかしら?」
「一回缶を蹴られた後にも作戦タイムはあるのかしら?」
「ありにしましょう。守る側の交代もあるでしょうし」
他に無いかしら?と紫が問うも、もう質問は無かった。
それは、もうこれ以上のルールはいらないということでもある。
これ以上ルールについて聞くと、制限が増えて作戦の幅が減るからでもあった。
変にルールを増やすよりは、曖昧なほうがちょうどいいのだ。
「それじゃあ、じゃんけんで攻守どちらかを決めましょう。勝った方が攻め、負けたほうが守りでいいかしら?」
「あぁ、上等だぜ」
魔理沙は、ぐっと腕に力を入れる。
先行で相手をボコボコにしてやろう、これが魔理沙の考え。
一方の紫は、最初が攻めなら慎重に作戦を練って相手を崩す。
守りならしっかりと守りつつも相手の攻めから何か学べることがないかを探る、という考えだった。
「さいしょはグー! じゃんけんポン!」
気合十分の掛け声と共に、両者は腕を勢い良く前へ突き出す。
魔理沙が出したのは、渾身のグー。
しかし、それは無常にも紫のパーによって散った。
「グーは最強なんだぜ……」
「最強がパーに負けるようじゃまだまだですわ」
そういって、紫が微笑む。
悔しそうにする魔理沙を嘲笑うかのように。
こうして、赤チームが最初に攻撃し、白チームが守備となった。
◆
フィールドは博麗神社の周辺一帯。
隠れる場所としては、神社本体に隠れることもできる。
また、神社の回りには木々がたくさん生えており、隠れるには十分である。
缶の定位置とされるのは、博麗神社の裏の方。
なので、神社本体に隠れる事もできるが、隠れる場所としてはあまり良くないことがわかる。
隠れる側としては木々の影や茂みの中に隠れるのが一番よい選択である。
いかに木々や茂みの中に隠れ、音を立てずに近づくか。
そして裏をかく作戦をどのようなタイミングで使うかが、勝負の最大のポイントとなるだろう。
◆
本日は晴天。
風もほとんど無く、秋の涼しさを全身で感じる事ができる。
白チーム作戦タイムの中で、優曇華院が缶を守ることになった。
耳の良さと目の良さを理由に、魔理沙に指名された。
また、フォローするのはアリス。
アリスを選んだは優曇華院で、理由は一番頼り甲斐があるから、である。
一方、定位置に置かれた缶を蹴るのは霊夢。
缶蹴り初心者ということで、缶を蹴らせてやろうという紫の気持ちだった。
張り詰めたような空気が辺りを漂う。
缶蹴りと言う名の戦いが、今ここで始まろうとしているのだ。
緊張の一瞬である。
時が止まったかのように静まりかえる神社裏。
霊夢が一歩、二歩と、缶との間を取る度に、乾いた音が辺りに響く。
砂はジャリジャリと音を立て、しばらくしてその音がぴたりと止んだ。
その瞬間だった。
霊夢は思い切り缶への距離を詰める。
大きく踏み出した右足は缶の隣に位置し、左足を振り上げたかと思えば、それはすぐさま振り下ろされた。
カァン!
缶の鋭い音が秋空に響き渡る。
大きく秋の空へ向けて飛んでいった缶は、くるくると回っている。
それを眺める間もなく、霊夢達は茂みの中へと走っていく。
その音は、戦いの始まりの合図でもあった。
赤チーム一度目の攻撃、白チーム一度目の守備。
◆
缶の音と共に四方八方へと散る五人に対し、優曇華院はすぐさま缶を取りに行く。
定位置に戻してから、目を閉じて六十秒数える。
その間に紫達は絶好のポジションを探り当てるのだ。
六十秒と言う限られた時間の中で、最初に良い位置を探すのは大変だが重要な事でもある。
「ごじゅきゅ、ろくじゅ!」
六十秒経過し、優曇華院が目を見開く。
辺りを見まわすと、そこにはアリスがいるだけで、他に誰も見当たらなかった。
恐ろしいほどの静寂が優曇華院の耳を襲った。
いよいよ始まったという実感が沸いてくるものだ。
ぱっと見たところじゃ誰もいないが、優曇華院には少し作戦があった。
単純な思考の持ち主を釣るにはうってつけの作戦である。
優曇華院は、早速実行に移った。
誰もいない茂みを見ながら、首をかしげる。
じっと見るのではなく、辺りをちらちら見渡しながら。
そして、少し目を見開いて、
「あ、あれお空じゃないかしら?」
優曇華院が周囲に聞こえるような声で言った。
もちろん、視界にお空が見えたわけでは無い。
ただ単に、こうすることでビクッと茂みが揺れたり、上手くいけば出てくれると思ったからである。
相手がお空じゃなきゃできないことであり、霊夢達なんかに通用しない事はわかっている。
要するに、一人でも簡単に潰せる事ができればと考えたのだ。
「え? 見つかったの?」
ガサッと勢い良く茂みから顔を出すお空。
それに対ししまったと言わんばかりの参謀、紫の表情。
すぐさまお空の近くに隙間を展開し、声をかける。
(まだ出ちゃいけないわ。あなたまだ見つかって……)
しかし既に遅かった。
音を聞き分けた優曇華院は、お空が茂みから顔を出しているのにいち早く気づいた。
そんなお空を優曇華院と目が合い、あっ、と声を上げる。
「お空みっけ!」
とても呆気ないお空の最後の声。
しっかりと捕まった事を宣言されてしまったお空は、のそのそと茂みから出てくる。
「そんなの卑怯だよぅ……」
「私はただ、いたかなぁ? って言っただけだからね」
「うにゅぅ~」
優曇華院の言葉に、お空はただ唸るしかなかった。
霊烏路空、捕獲。 残り四名。
◆
「……予想外でしたね。どうします、紫さん」
隙間越しに会話するのは、文と紫。
他の面子の所にも隙間を展開し、全体に会話が聞こえるようにしている。
しかし、相手は優曇華院なので、最低限のボリュームでの会話である。
「私にいい考えがあるの」
そういうのは、霊夢。
声の色からして、なんとなく得意げな表情を浮かべていることは容易に想像できた。
霊夢の考えなら期待できそうだと、紫は微笑む。
「へぇ、じゃあ聞きましょうか」
「ありがとう。えっとねぇ……」
赤チームの面子は、霊夢の提案に耳を澄ませた。
◆
カサッ、カサカサッ。
お空が捕まってからというもの、何の反応も無かったが、今その静寂が崩れた。
至るところから聞こえる物音に優曇華院は耳を澄ませる。
耳がいい優曇華院は、どの方向から音が聞こえたかも察知できる……が。
(え? 明らかに四箇所以上から音が聞こえるんだけど。どういうことなの?)
一箇所二箇所と数えるうちに、明らかに四つ以上の音があった。
赤チームの残りのメンバーは四名にも関わらず、四以上の音の発信源があるのはどう考えてもおかしい。
おかしいが、実際起こっているから受け入れるしかないのだ。
連続してガサガサと音を立てているのもあり、しゃがみ込んで走りまわっている者がいるのは推測できた。
しかもそれは一名だけでなく、連なって二名いる事が音だけで推測できた。
となれば、後は動いていない二名が誰か、である。
動き回っていない者の音に集中したいが、走りまわり音を立てる音が邪魔する。
(一体どうなんってんのよ……!!)
◆
「正直言ってあっちは人選ミスと言っても過言じゃないわ」
「なぜですか? 優曇華さんは耳がいいですし、目も悪くない筈です」
「そこよ。耳がいいってことは、音が聞こえすぎるの。ってことは、私達が至るところから音を立てれば大丈夫ってわけ」
なるほど、と感嘆の声を上げる一同。
霊夢の言う通り、耳が聞こえすぎるのも確かに辛いかもしれない。
その耳の良さを逆手にとっての作戦だと、霊夢はいうのだ。
「だから、お燐と文は見つからないように駆け回って頂戴。なるべく距離を開け過ぎないようにね。で、紫と私は隙間経由で至る所から音を出す。OK?」
「えぇ、いい作戦だわ。缶蹴り初心者だとは思えないわね」
「嬉しくも無いわ」
紫の誉め言葉に、霊夢は突き放すような言葉で返した。
◆
混乱する優曇華院を横目で見ながら、アリスは考える。
様々な方面から音を発信させることができるなんて、能力的に考えて紫しかいない。
その紫を筆頭にもう一人が隠れ、もう二人が走りまわっているはずだ。
次第に辺りの音が大きくなっているのは、優曇華を惑わす為。
きっといつか走っている二人が飛び出てくるとかそういうものでしょう。
だからここは焦らず、音を紛らわす二人は放っておいて、走っている二人に専念するのが良さそうね。
「優曇華、落ち着いて。来るべき時に落ち着いて対処しなさい」
「りょ、了解!」
アリスの声に我に返る優曇華院。
とりあえず、走っている二人の音に神経を集中させる。
辺りの雑音は無視し、二人の走る音の波長だけをしっかりと聞き分ける。
木々が風に揺れる音も、自身の呼吸の音さえも聞こえないくらいに。
カサカサと低木の間を走る音が、しっかりと耳に届く。
走っている二人は、姿は見えずとも場所はばればれだった。
缶から少し距離を置き、余裕をもたせたところに立つ。
少し位の余裕をもたせた方が、ゆとりがあって良いと判断したからだ。
あとは姿が見えれば、数歩走って缶を踏むだけ。
例え文の足が速くとも届かないだろう距離。
優曇華院の完璧な作戦だった。
その二人を視線でしつこいほどに追いかける。
めまぐるしいほどに動き回るそれらが、突如進行方向を変えた。
それは、こちらを向いたようにも思えた、その時だった。
ガサッ、ガサッ!!
一際大きな音を立てて飛び出してきたのは、文とお燐。
漆黒の羽広げ、隠す事無く存在感を現す文。
一方お燐は、地を這うようにして缶へと迫ってくる。
凄まじいほどの勢いで迫る二人を確認した後、優曇華は急いで地を蹴りだして缶への距離を詰める。
文とお燐がもうすぐ手前までやってくる。
焦っては事を損ずる。
冷静に軽い缶の上に足を乗せると共に、間もなく宣言する。
「文とお燐、みっけ!」
文とお燐は突然スピードを緩めることもできず、優曇華院の間を挟むようにして駆けぬけていく。
強烈な勢いの二人が通り抜けると共に、風が吹きぬけていく。
優曇華院の長い髪が吹き上げられていく。
その時だった。
「優曇華、後ろ!」
「へ?」
もう、遅かった。
優曇華院の足で固定された缶が、何ものかによって押し出された。
ガコンッ、と鈍い音を立てて押し出された。
それは、文とお燐によってのものではない。
そこには、スライディングで缶を蹴り出す霊夢の姿があった。
すべてが作戦通りだった。
二人が走りまわっていれば、とりあえずその二人が突っ込んでくるだろう。
そう考えると予測した霊夢は、たくさん音を発していく中で、優曇華の背後に回りこむ。
霊夢が背後に回りこんだら、隙間越しに紫へと合図を送る。
次に、紫が二人に指示をし、霊夢がいる方向と逆方向へと移り、走りまわる。
そして、三人の飛び出すタイミングはほぼ同じ。
紫の合図と共に飛び出すが、この際に二人は派手に飛び出す事が絶対条件だ。
下手に静かに飛び出すと、後ろから霊夢が来た事にばれてしまうからである。
霊夢も、なるべく音を立てないように、低木にすれる事無くそっと走る。
文とお燐の走る音に集中しており、派手に登場した二人に対して、優曇華はそちらの音にしか意識を向けていなかった。
もちろん、アリスも来るべき二人が来たと、そちらの方向に意識を完全に向けていた。
すべてが、霊夢の作戦のうちだったのだ。
霊夢が蹴ると同時に、赤チームの面子が歓声を上げて霊夢の元へと集まる。
そして、蹴られてうなだれる優曇華院の元にも、白チームの面子は集まった。
赤チーム一度目の攻撃成功と同時に、白チーム一度目の守備失敗。
しかし、喜ぶ暇も、落ち込む暇も無く、二度目の作戦タイムへと移っていった。
◆
二回戦、白チームは缶を守る人物を変えた。
優曇華院に代わり、アリスに缶を守らせることする。
また、フォローするのは魔理沙。
作戦タイムのときには念入りに話し合っていたのが気になるところである。
一方、赤チームも更に自分たちが有利になれるように作戦を練っていた様子である。
参謀、紫の計略をどうかい潜るかが鍵となるだろう。
缶を蹴るのは、お燐。
軽い足取りで缶にまで詰め寄ると、思いきり蹴り飛ばした。
と、同時に一斉に赤チームは散り、白チームの守りが始まる。
赤チーム二度目の攻撃、白チーム二度目の守備。
◆
静まりかえった神社裏に、鳥の囀りが響き渡る。
アリスは冷静に辺りを見まわし、どこかおかしいところは無いかと見渡す。
これといって何も無く、また誰も見当たらず、缶のところをうろうろとする他無かった。
そんな中、魔理沙は半径三メートル以内をくるくると回り、飛び跳ねたり、背をかがめてみたりしている。
すると、魔理沙の表情がぱっと明るくなる。
無邪気に笑いながら、腕をお尻の方へと回し、人差し指を立てる。
それは他の者には見えないように、アリスだけへ送るサインであった。
アリスは静かに頷くと、作戦タイムのときに魔理沙から貰った紙を覗き見る。
(人差し指は……霊夢ね)
魔理沙を有効に使った守備の形だった。
アリスは姿を確認する事はできないが、魔理沙はそれを確認できる。
そしてそれを伝える事で、どこにいるかだけでも把握しておくことができるのだ。
それは、動き回る事を恐れるアリスとしては十分な情報源だった。
また、どこから攻めてくるかというものの参考にもなる。
一度守備に失敗してしまっている白チームとしては、これ以上の失敗は許されない。
なんとしても食いとめなければならないのだ。
負けず嫌いの魔理沙は、なんとしてでも勝ちたかった。
故に、ここまでしてアリスに情報を送るのだ。
そのあまりにも不自然な行為はすぐに紫の目に付いた。
木々の間に小さな隙間を展開し、そこからこっそりと覗きこむ。
すると、魔理沙がこちらには見えないように、アリスにサインを送っているのが見てわかった。
すぐさま周りに連絡を入れると共に、慎重な行動を心がけるように注意を呼びかける。
また、現在の位置を把握されている為、見つからないように移動せよとの連絡も入れた。
「ん? なんだ?」
ぴょんと跳びあがり辺りの様子を見る。
さっきまでそこにいた筈の霊夢がいなくなっているのに気が付く。
「さっきまでいた場所にいなくなってるぜ」
魔理沙はアリスに耳打ちをすると、それに小さく頷き答える。
きっと紫の事だ、こんな小細工に気づいたのだろう。
紫の前ではアリス達の作戦も全く持って歯が立たないのかもしれない。
そうはわかっていても抗いたくなるのは、負けず嫌いの証拠だろう。
(どうせ自身は缶を蹴りに来ないで、他の奴らに任せるんでしょう? 嫌らしいやつよ、ほんと)
自身の小さな顎に手をやり、冷静に戦況を見つめるアリス。
そんなアリスを遠くから、気づかれないようにして見つめるのは紫である。
執拗な程にアリスを見る瞳は、怪しいほどに輝いていた。
それほど強い視線を送っても、アリスは気づく事は無い。
(でも、缶蹴りは何が起こるかわからない。だから楽しいのよ)
紫が見つめる先、アリスと魔理沙が話し合っている。
例え紫の考える作戦が完璧だとしても、それは一つのミスで崩れていく。
味方全員の息が合わなければ、完璧に作戦が遂行したとはいえない。
だから、まだ勝負の行方なんてわからない。
缶が蹴られるその時まで、凄まじい計算能力を持つ紫だろうとも勝ちか負けかなんてわからないのだ。
紫の目から、アリスがため息をついているのが見えた。
◆
それから数分経った頃だった。
アリスは迷っていた。
それはアリスだけでなく、魔理沙も困っていたのだ。
魔理沙はあれ以降もいろんなところで飛んだりしゃがんだりして赤組の面子を探すのに必死になっていた。
アリスに少しでも楽してもらえればと思っての行為。
そんな中、自然と視界に不自然なものが入ってきたのだ。
わざとらしく茂みから飛び出ている、二つの羽。
真っ黒の羽が茂みからはっきりと飛び出しているのだ。
「ねぇ魔理沙。あれが誰の羽だかわかるかしら?」
「いいや、わからんね」
そう、赤チームには烏が二羽いる。
文もお空も翼を持っており、どっちも翼は真っ黒だった。
もしかしたら一人が双翼を見せているだけなのか、それとも両者が片方ずつ見せているのか。
まさかこんな事で考えさせられるとは思わなかった。
唸りながらもそれを見つめていると、
「あ」
「お?」
突如それは左右に別れ、徐々に羽が茂みへと沈んで見えなくなっていく。
それはまるで、海面から徐々に背ビレを隠すサメのように。
このことから、二人がそこにいた事がわかる。
少なくとも、文とお空が隠れる位置を確認する事ができるのだ。
「魔理沙、とりあえず二人の位置は把握しておいて」
「おう、了解した」
もちろん、そんな確実な情報を捨てるわけもないアリスは、魔理沙に記憶しておくように伝える。
また、その片方が誰かが分かれば、必然的にもう片方もわかるようになるのだから、これほどおいしい話は無い。
残りは霊夢とお燐の場所さえ分かってしまえば勝ったも同然なのだから。
しかし、先ほどから紫は置いておくとして、お燐に関しての情報が全く入ってこない。
一体どこに隠れたというのか。
落ち着いて辺りを見まわしながら考えるも、ガサッという音に考えを遮られる。
そちらの方向に目をやったその時だった。
ボトン。
それとは正反対の方向から音が聞こえ、不意にそちらの方向へと体を向けた、その時だった。
「アリス!!」
魔理沙の叫び声が聞こえ、ふと我に返るとその音とはまた正反対の方から凄まじい勢いで迫り来る文の姿があった。
自称最速と名乗るだけあって、非常に足が早い。
アリスは全ての思考をシャットアウトし、ただ前の缶を踏む事だけに専念する。
砂埃を上げて突き進む文より、早く。
ぐっと足を伸ばし、やっとの思いで缶へと足を乗せる。
乗せてもまだ終わる事は無い。
文との距離が段々短くなっていく。
こちらに迫る足音が、とても今は大きく聞こえた。
文は、足を振り上げる事はしない。
その時間さえももったいなくて、スライディングの体制へと移る。
自身の足を使った奇襲が、成功するようにと祈りながら。
そんな文を横目でちらっと見つめる。
もうほんのすぐそこまで迫っていた文は、地面をすべるようなスライディングで迫ってくる。
早く!と叫ぶ魔理沙を尻目に、アリスは急いで叫ぶ
「文みっけ!」
カコン。
アリスが宣言をした後、文が缶を蹴り出す音が鳴り響いた。
体勢を崩したアリスはよろけるも、缶から足を離す事は無い。
宣言後の蹴りは、もちろんカウントされる事は無い為、アリスの勝ちとなる。
「あやや……。一歩遅かったようですね」
「ひやひやしたわよ……」
倒れこむ文に手を差し伸べるアリス。
文はにっこりと笑いつつも、アリスの手を取った。
射命丸文、確保。 残り四名。
◆
お尻についた砂を払いながら、文は思っていた。
今のは上手くいったと思った。
茂みの方から石を投げ、投げると同時に音が発生する。
音が鳴った方向へ首を向ける頃には石はアリスの頭上を越えて、音がなった正反対の方向へと飛んで行く。
そして石は茂みへと入り、音がまた発生することで、意識をそっちの方へと向ける。
この事によって完全に逆側へ意識がいくのを予測して飛び出だわけだが……。
(まさか魔理沙さんが気づいているとは思いませんでした……)
ふと魔理沙の方を見ると、あちらも文の方を向いていたらしく、目が合う。
不敵な笑みを浮かべる魔理沙に対し、文は苦笑いで返した。
魔理沙には勝てないと、文は改めて思った。
◆
文の奇襲攻撃から、まもなく次の攻撃へと移される。
文の働きを無駄にするわけにはいかない。
波状攻撃で一気に畳みかけるのが紫の戦略だった。
隙間越しに三者へと確認を取ると、どこからも了解の声が返ってきた。
あとは、タイミングだけ。
アリスを見据えるその冷静な瞳に、判断が委ねられるのだ。
アリスが木を見つめている。
その方向は、作戦を移すに当たって大切な方向である。
そう、その瞬間こそが突撃のタイミングであった。
紫は大声で言いたい気持ちを押し殺し、小さな声で全員に告げる。
「突撃」
冷静に放たれた紫の言葉に、戦場は一気に加速する。
ガサッという物音に、アリスはふとそちらを振り向く。
そこには、わざとらしいほどに大きな音を立てながら、お空の姿があった。
両手を上げ、翼を広げ、茂みにそれらがぶつかりながらも突進してくる姿は、まさに猪。
突然の出来事に驚くも、冷静にアリスは対処する。
その時、アリスに指先に、僅かな感覚が走った。
その感覚の先は、お空の反対側から伝わった。
逆側を見ると、お燐が木から飛び降りているのが確認できる。
それにも気づいたアリスは、缶のほうへと走っていく。
(なぜ気づいた!?)
当然の事ながら、紫は疑問に思った。
完璧にお空の方へと目線を向けていたのに、突如お燐の方角を正確に見た。
ちらっと視線に移る程度じゃなく、正確に。
焦りを隠せない紫に対し、アリスの表情は嫌らしいほどに微笑んでいた。
歪んだその笑みは、アリスの作戦が成功したからでもある。
アリスとしては、お燐の存在が気になってたまらなかったのだ。
ずっと、魔理沙が地を這うように見つめ、またはぴょんぴょん跳んでも見つかることはなかった。
魔理沙がそれほどまで探してもいないのだから、よっぽど変わったところに隠れているのだろうと推測はできる。
しかし、推測だけではどうにもならないのだ。
そして、ふと思いついた。
何も、隠れる場所は茂みの中だけじゃない。
アリスは茂みを覗きながらも、ばれないように、上目遣いで木の上をくまなく探すことに専念した。
その結果、時折不自然に揺れる木を発見したのだ。
木の上にもしお燐がいるならば、注意する必要があるだろう。
そう思ったアリスは、念のために魔法の糸をそこに張くことにしたのだった。
そして、そのアリスの予想は見事的中したのだ。
驚きを隠せないお燐の表情を見つめながら、ゆったりと缶の上に足を置く。
お空の存在もしっかりと確認すると、落ち着いて宣言する。
「お空にお燐みっけ!」
宣言した事で、二名が捕まった事が確定する。
内心ほっとしたアリスは、缶からそっと足を離す。
見つかってしまっては仕方ないと、お燐は走るのを止めた。
が、お空は手と翼を広げたまま、アリスの方へと近づいてくる。
鳥頭だから捕まった事すら理解できないのだろうかとアリスはため息をつく。
「まだだ、アリス!」
「へ?」
落ち着いたアリスに対し、魔理沙は叫ぶ。
何がまだなのかと思い、ふとお空の方を見る。
するりとお空の羽の間から出てきたのは、紛れも無く霊夢そのものだった。
すり抜けるように現れた霊夢は、そのまま身を屈めて缶へと走っていく。
虚をつかれたアリスは振り向くと共に缶を踏む。
幸い、缶から足を離していたとはいえ、缶との距離を置いていなかったのだ。
間に合わないと分かっていても、少しの可能性を信じた霊夢は、地に手をやり、スライディングの体制をとる。
最短距離で蹴ろうという魂胆。
しかし、それは無常にも届かず、
「霊夢みっけ!」
霊夢への死刑宣告がアリスから告げられた。
もう少し、魔理沙が気づくのが遅かったなら。
もう少し、お空がアリスに近づいていたなら。
今アリスが踏んでいる缶は、蹴飛ばされていた事だろう。
しかし、アリスは今しっかりと缶を踏んでいる。
それは、三名を捕獲した証でもあった。
霊烏路空、火焔猫燐、博麗霊夢、捕獲。 残り一名。
◆
残ったのは、八雲紫ただ一人。
赤チームの参謀として指示し続けてきた紫しかいなかった。
もしかしたら紫がやってくれるかもしれない。
そう霊夢は考えたが、すぐにそれはないなと打ち消した。
自分の役割をしっかりと弁え、そしてその役目が終わったのなら、潔く負けを認めるはずだ。
(そうでしょう、紫?)
向こう側をじっと見つめる霊夢のその先で、がさごそと物音が聞こえる。
アリス達もそちらのほうに視線をやると、そこには両手を上げた紫の姿があった。
「降参よ、降参。私たちの負けだわ」
「潔いのね。まぁいいわ。紫、みっけ」
缶を軽く踏みながらアリスは宣言する。
霊夢は小さく微笑むと、紫も苦笑いで返した。
この瞬間、赤チームの全員が捕まったと同時に、赤チームの攻撃が終わった。
八雲紫、捕獲。 赤チームの攻撃終了。
◆
次は攻守交代である。
赤チームは一度缶を蹴っているので、白チームは必ず一回以上は缶を蹴らないと負けることになる。
当然、最低でも一回は缶を蹴る事が目標の白チーム。
作戦を練らずして勝ちはない。
しかし、そんな安っぽい作戦ならすぐさま見破られるだろう。
なにせ、相手には八雲紫がいるのだ。
また、勘の良い博麗霊夢もいる。
「作戦は以上だ。多分、缶を守る役に霊夢、フォローには紫が回る筈だ。油断が命取りになるから、全員気を引き締めるように」
「了解。それにしても、霊夢は缶蹴り初心者なのにすごいわねぇ」
「勘が良いだけに、缶蹴りでも良い働きをするんだろうな」
魔理沙の声に、誰も反応する者はいなかった。
◆
魔理沙達の予想通り、缶を守るのは霊夢で、フォローするのは紫となった。
永遠の夜が続いたあの異変から組んできたコンビである。
魔理沙とアリスの同様、息はぴったりの二人がどのような動きを見せるか。
それが白チームにとって一番恐ろしい部分である。
缶は、蹴られたり踏んだりされたので、新しい缶へと交換する。
これで蹴りやすく、また踏みやすくなる。
最初の赤チームが攻めていたときと同じような条件が、こうして整った。
缶を蹴るのは、もちろん魔理沙。
大きな助走を取り、己の弾幕の信念の如く、力いっぱい足に力を入れる。
自身の意気込みを見せてやると言わんばかり足を振り下ろした。
カァン!!
心地よいほどの快音が響き渡る。
宙で大きく弧を描きながら飛んで行く缶を、霊夢はゆっくりと目で追う。
落ちてくる時間が、なぜだかゆっくり感じるも、その足で缶を拾いに行く。
缶を元の位置に戻して、霊夢と紫はゆっくりと目を瞑る。
そして、白チームの攻撃が始まる。
赤チーム一度目の防御、白チーム一度目の攻撃。
◆
霊夢が目を開くと、そこにはいつも見る神社裏の風景があった。
ただ、ここに五人が隠れていると思うと、早く見つけ出してやりたい気持ちでいっぱいだった。
こんなゲーム早く終わらせてしまいたい。
そんな気持ちも確かにある。
「落ち着いて、霊夢。焦らずじっくり行きましょう」
「えぇ、そうね」
紫もきっと同じ気持ちを抱いているのだろう。
絶対に勝ってやりたいという気持ちが。
霊夢も紫も、嫌らしいほどにやけていた。
一方、白チーム。
白チームは紫のように隙間を使っての連絡を取ることができないので、直接あって話す他無い。
が、唯一話し合う為に自由に移動できる者、そう、時間を止めて移動できる咲夜がいるのだ。
なので、今回は咲夜が連絡係となる。
しかし、咲夜の能力を使ってしまえば連絡係なんかせずとも缶は蹴れるはずだ。
だが、時間を止めて缶を蹴りにいくなんてことはしない。
なぜなら、紫の能力を使えばそれはすぐさまアリスの近くにワープできるのに、それをしなかったからだ。
ならばこちらも、正々堂々と戦って缶を蹴りにいくまで。
勝敗にこだわる魔理沙が、珍しく正々堂々戦うと言うのだ。
白チームとしては、その言葉に逆らう理由も無かった。
ともかく、一度は蹴らなければ勝てないのは分かっている。
各々が持った能力をフルに使い、確実に勝ちを取りにいく。
それに至るまで過程が、どれほどありふれた作戦だろうが構わない。
例えそれが狡い手だと言われても構わない。
缶を蹴る場所に近づけるのなら、それでいいのだ。
勝利に近づけるのなら、それでいいのだ
◆
「それにしても、向こうは曲者ぞろいね」
「えぇ、そうね。魔理沙とアリスのコンビは幻想郷の中でもトップクラス。それに、咲夜の能力で情報の伝達に関して不便な事はないでしょう」
「萃香だって身体能力は高いし、優曇華も頭が回るわ。私達よりも能力的に見たら向こうの面子のほうが上ね」
霊夢と紫は、誰もいない茂みを見つめながら言葉を交わす。
実際、二人の言う通り相手は曲者ばかりだった。
赤チームはどちらかと言えば遊びでやっているような感覚。
だけど、遊びでやるんなら頑張って缶を蹴りにいく、そういうものだった。
しかし、白チームは負けず嫌いばかりが集まったチームである。
当然、負ける事なんて眼中に無いのだろう。
本気で勝ちに来る事が容易に想像できた。
そんなことは霊夢も紫も言わずとも分かっている。
ならば全力で叩き潰すのみだと、先ほど笑っていたのだから。
そんな二人を、葉の隙間から睨みつけるのはアリス。
とりあえず、どんなことをしてでも相手を揺さぶらなければならない。
ならばと、魔法の糸で操る事のできる人形を、音を立てないように配置する。
様々な場所に設置された人形は、主の指示を待ちわびているようにも見える。
(相手がやった作戦と同じで、愚直としか思えないけどね)
少し指に力を入れ、振動させる事で、人形達は至るところで動き始める。
がさがさと揺れ動く茂みに対し、霊夢は冷静な目でそれを見つめた。
辺りを見渡し、揺れ動く箇所がどれだけの数であるのかの確認を取る。
先ほど赤チームが取った行動と、全く同じだった。
紫は鼻で笑うと、隙間の中へと手を突っ込む。
ジョキンと豪快な音が聞こえたかと思えば、辺りのざわめきは突如消えた。
まるで、糸が切れたかのように。
霊夢は、一斉にざわめきが消えたと同時に、一本の木を見つめる。
「まぁ、あそこくらいにいるんじゃないかしらね?」
足元に転がす石ころを拾うと、木に目掛けて軽く投げる。
コンッと木とぶつかっては、乾いた音が反響した。
(なんで正確な場所までわかるのよ……!! これだから霊夢は嫌なのよ)
木の裏に隠れていたアリスは冷や汗が背中に流れるのを感じた。
いくらなんでも、あれだけで場所が特定されるなんて考えられない。
もし勘だとしたら、それはそれで恐ろしい話である。
そんなアリスの隣、突然現れた咲夜。
連絡があるからきたのだろう、口元に人差し指を立てる。
アリスは一息つくと、落ち着いて咲夜を見つめる。
「魔理沙からの指令で、あなたと一緒にいるようにって言われたの。で、茂みの方へ入る部分に魔法の糸を張っておいてって。霊夢は行動力があるから気をつけなきゃいけないかららしいわ」
「ん、了解。しかし、これはどう攻めればいいものか」
早速魔法の糸を仕込むために細心の注意を払いながらも、緩く糸を巡らせる。
その際、ちらっと茂みの間から霊夢達を覗くも、なぜか隙が無いと感じてしまう。
どこから攻めても止められるような、なにか見えない壁のようなものを感じる。
どのようにすれば良いのかと思案していた、その瞬間だった。
アリスの指に早速何かの感触が伝わってくる。
まさかと思い身を屈め、茂みから覗きこむと、向こう側のほうに霊夢が見えた。
茂みの所にまで霊夢が歩いて誰がいないかを探っているのが確認できる。
「確かあの方向には……、優曇華がいたはずだわ」
「え? それまずいんじゃないの」
木々の陰からそっと覗いてみると、霊夢の表情が歪んでいるのがはっきりと分かる。
その瞬間、茂みから優曇華院が飛び出してきた。
きっと眼でも合ったのだろうか、咄嗟の行動だということが分かる。
走り出す早さも、缶への距離も有利な霊夢は、余裕の表情で缶のところまで辿りつく。
「優曇華みっけ」
霊夢の声が茂みの中にまで聞こえる。
その声はいつもの霊夢の声でしかないのだが、それがとても残酷に聞こえた。
優曇華院の絶望的な表情が、二人の心に響いた。
「ようするに、ゆっくりしてたら食われるってことかしら?」
「どんどんしかけなきゃやられるってわけか。こりゃやっかいね」
そう思いながらも、今はただ霊夢の姿を茂みから見つめるしかなかった。
鈴仙・優曇華院・イナバ、捕獲。 残り四名。
◆
「アリス、咲夜。ちょっといいか?」
「わ、ちょっと驚かさないでよ」
突如アリスと咲夜の後ろに現れた魔理沙と萃香。
口元に人差し指を立てて、静かにと合図を送る。
静かにも何も、お前が驚かせたんだろうとアリスは冷たい視線を送るも、魔理沙は無視。
アリスに構っていられるほどの余裕は無く、今はそれどころではなかったのだ。
「行動的な奴だってのはわかってたが、まさかあそこまでとは思わなかった。そろそろ動かなきゃやられるだけだ。だからこうやって四人集まって作戦会議だ」
「気づかれないように、小さな声でね」
萃香が念を押すと、一同は頷いて返事をする。
霊夢が活発に動き始めたら、勘の良さで見つかってしまう可能性が大きくなる。
そうなる前に、攻撃に移る必要があった。
しかし、あの二人の前にどのような作戦が通じるのだろうか。
そこが問題だった。
そんな中、萃香は小さく手を上げた。
「私に考えがあるんだ。ちょっくら私の作戦に乗ってみないかい?」
「それじゃあ聞かせてもらおうかしら、萃香」
「そうこなくっちゃね」
萃香の考える作戦が、どれほど有効なものかはわからない。
しかし、作戦が思い浮かばない今、それがどんなものだろうと聞くしかないだろう。
四人は顔を寄せ合い、萃香の作戦に耳を傾けた。
◆
「ねぇ、あれ魔理沙……よね?」
霊夢が指を差す先には、露骨に飛び出た魔理沙の帽子。
先ほどの霊夢達の攻撃でも、文とお空が翼を出す場面があった。
それと同じようなものだった。
「いや、わからないわよ? 魔理沙の帽子を被った誰かっていう可能性もあるんだから」
「なるほど」
紫の言葉に、納得の意を示す。
当たり前だと思っている事が覆る世界が幻想郷だ。
しかも、今は缶蹴りという戦いの中。
更に何が起こるか分からない世界で、裏を読まなければ負けてしまうのだ。
霊夢だって、なんだかんだ言って負けたくない。
例え、どんな形で缶蹴りに参加させられたとしても、一度やった勝負は負けたくない。
だから、彼女も必死であり、紫の言葉にも素直に耳を貸すのだ。
経験があると点と、頭が回るという点から、紫をパートナーにして良かったと改めて思う。
ガサッ。
一本の木から不自然な、明らかに人の手によって発せられたようなざわめきが響く。
ふとそちらのほうに首をやると同時に、
ガサッ。
また別の木からその音が。
そちらの方に首をやると、また同じように違う場所で音がする。
木の上から、下の茂みから、後方の神社の方からも音が聞こえた。
先ほどアリスがやったように、同時に音がするのではなく、少し間隔を空けて、様々な場所で音が聞こえる。
不自然に連続するその音に、霊夢は首をかしげた。
また、先ほどから少し強い風が吹きつけている。
木々は揺られる毎に葉を擦り合わせ、音を発する。
また、風に揺られた葉が宙をひらひらと舞う。
その葉達は、風に飛ばされて茂みの中へと消えていった。
(さて、どうしたものか……)
紫は腕を組み、現在の状況を整理する。
さっきの優曇華院の捕獲の件で、いつまでも留まっていたら駄目だと言うことに気づいた筈。
だから、あれほど露骨に魔理沙の帽子を見せて撹乱させようとしたのかもしれない。
あれが本当に魔理沙かどうかはわからない。
しかし、きっと作戦のうちなのだろうということは頭の隅に置いておくとしましょう。
そして、先ほどから連続しているガサッという音。
あれは人工的に作られたものだと考えたほうが良いかもしれない。
それができるとされるのは……、アリスと咲夜辺り。
どこからでも出てきてもいいように注意を払わなければならないわね。
「霊夢、油断は禁物よ」
「わかってる」
長い言葉を言わなくても、霊夢には伝わっていることだろう。
短い言葉も伝わるのが、本当のコンビというものだ。
しかし、どこから攻めてくるかわからない相手にどう注意したらいいものか。
とりあえず、来るべき時の為に精神を集中させておきたい。
「……あら」
突然霊夢は地べたで胡座をかき、目を閉じる。
精神を研ぎ澄ませ、どのようなときでも対処できるような状態に整えるのだ。
そんな霊夢にこれ以上何も言わず、ただじっとその様子を見守る紫。
霊夢と紫の間を、強い秋の風が吹きぬけていった。
◆
「精神を集中させた霊夢は本当に厄介だ。早めに畳み掛けるとしよう。咲夜、萃香に連絡を取ってくれ」
「了解」
作戦会議の後は、魔理沙の隣にいる事になった咲夜。
短く返事を返すと、萃香の元へと足を運んだ。
萃香のところには、たくさんの木の葉が集まっていた。
木の葉を踏まないように気を付けながら、萃香に準備はいいかと問う。
それに対し、ウインクをしながらぎゅっと握った拳の親指を上に立てる。
咲夜はその返事に満足そうに頷くと、魔理沙の元へと帰る。
「あっちは準備いいみたい。あとは配置かしら?」
「アリスは既に位置についているし、咲夜も配置についてくれ。あとはもう萃香の奇襲待ちになるな」
魔理沙と咲夜は、息を飲んでその時を待った。
◆
風向きが変わった。
しかも、その風は先ほどまで吹きつけていた風向きとは正反対になっている。
あまりにも、不自然過ぎた。
最初、赤チームが攻撃しているときも、また守備に入った時も風は吹いていなかった。
そう、吹き始めたのは、妙に連続して音が発生し始めた頃。
だとすれば、それも伏線だということが考えられる。
今まで風が吹いていた方向から、次は正反対へ。
精神を統一させながら、風向きの変化について考える。
考えが段々具体的に、しっかりとしたものへと変わっていく。
そんな霊夢を見つめるのは萃香だ。
精神統一をずっとさせるほど白チームの連中は優しくない。
今まで、風を集めると同時に、落ち葉をも集めていた萃香の元には、山ほどの落ち葉がある。
ぽふぽふとその山を叩くと、じっと霊夢を見据える。
萃香は、落ち葉を手前まで吸い寄せた。
一枚も無駄にしないように、綺麗に集め取る。
それと同時に、風をより一層強く霊夢の方へと吹きつけさせた。
その瞬間、霊夢は瞳を見開き、立ち上がった。
視線は、萃香のいる方を向いている。
しかし、そんな事などお構いなしに萃香は集めた落ち葉を凝縮させる。
凝縮させた落ち葉を、思いきり突き上げるようにして放つ。
(さぁ、突っ込め!)
萃香は、手元にあった落ち葉を全て、自身の力と、風の力に託した。
◆
軽い爆発にも似た音が響き渡る。
そう、霊夢が怪しいと感じていた方角からだ。
しかしその方角は今、視界を埋め尽くすほどの木の葉が舞っている。
白チームの奇襲の合図でもあった。
この時に勝負を決めてくるだろうと霊夢は読んだ。
精神を集中させ、音にも集中する。
まず、先ほどの木の葉が飛んできた方向から萃香の姿が確認できた。
ある程度距離に余裕があるため、まだ放っておく。
問題は、他の面子だ。
何しろ、視界を覆うほどの木の葉のため、誰が誰なのか確認するのさえ一苦労なのである。
神経を研ぎ澄ませ、些細な音も逃さぬように瞳を閉じる。
すると、背後からガサッという物音が耳に入ってくる。
瞳を見開き、そちらの方に顔を向けるも、姿は見えない。
「霊夢、それはフェイクよ!」
「えっ?」
紫の言う事を確認する間も惜しい。
今は素直に紫の言葉を聞き入れ、そちらから視線を外す。
しかし、視線を外してもなお、違う方向から物音が聞こえ始める。
霊夢の思考を邪魔するかのようなその音は、聞き覚えのある音であった。
アリスは茂みから人形を操り、霊夢を撹乱させる。
大量の木の葉が舞う中で、人形が音を立てて木の葉の中で動き回る。
音の鳴る方向から誰かが来るだろうと予測するのが、この状況では最善の考えだろう。
しかし、その最善の考えを覆す為の、アリスの錯乱行為だった。
霊夢の舌打ちが響き渡る。
徐々に迫り来る萃香をとりあえず捕獲する事にすべく、缶を踏んだ。
「萃香みっけ!」
萃香に気留めること無く、萃香逆側へと目をやる。
すると、木の葉の間から誰かが迫ってくるのが見える。
よく目を凝らすと、遠くから帽子を被ったメイド服がこちらへとやってくるのが見えた。
霊夢は思わずくすっと笑う。
簡単な変装をしたって、完全に視界がシャットアウトされるわけではない。
目を凝らせば見えるくらいには視界は確保できるのだ。
なのに、なんて無駄な事をと、霊夢は思う。
また逆方向からカサッという音がする。
振り向けば、遠くの方に白と黒を基調にした服装のちらっと見えた。
こっちが本命の魔理沙だろうと霊夢は踏む、が。
「ちょっと待って、何かおかしいわ」
「え?」
何処がおかしいのだろうと、とりあえず冷静になる。
一気に占めてきた事に少しばかり興奮していたのかもしれない。
全速力で来る二人を、焦らずに見つめる。
よく二人を見ると、何かがおかしいことに霊夢も気づいた。
魔理沙の身長は、あれほど高くなかったはずだ。
霊夢の身長よりも低かった筈なのに、よく見れば霊夢よりも高い。
そして、咲夜の方を見る。
帽子を被っていて良くわからなかったが、おさげがついていないのに気づいた。
走っている際には例え帽子があろうともおさげは揺れるはず。
それなのに、今の咲夜にはそれがなかったのだ。
徐々に距離が詰まってくる中、少しずつそれらが見えてくる。
少しずつ宙を舞う木の葉も少なくなってきた。
視界が開けていくにつれて、霊夢の違和感は確信へと繋がる。
魔理沙の服を着た咲夜と、帽子で髪の色が違う事を隠すアリスがそこにはいた。
もう缶と二人との距離は狭い。
だが、紫の言葉で二人が別物だと気づいたのだ。
誰だかわかればもう怖い物は無い。
両方からスライディングしてくる二人を尻目に、
「アリス、咲夜みっけ!」
霊夢は宣言すると息つく暇無く、背後を向く。
そこには、アリスの格好をした魔理沙が全速力で走ってきていた。
ある程度予測は出来ていた。
魔理沙の事だ、咲夜とアリスが捕まる事は作戦の前提だったのだろう。
最後は自分が決める気で来たはずだ。
なんとも魔理沙らしい考えだと、霊夢は少しばかり可笑しさと呆れを感じた。
まるで最初の霊夢達を見るような攻撃。
予測していた霊夢は嫌らしいほどに微笑み、見破られた魔理沙は……それでも笑っている。
凄まじい勢いでスライディングしてくる魔理沙に対し、霊夢は冷静に、
「魔理沙、みっけ」
そう宣言して、缶蹴りの終了を告げた。
「残念ね、魔理沙」
「あぁ、残念だぜ」
伊吹萃香、十六夜咲夜、アリス・マーガトロイド、霧雨魔理沙、捕獲。 白チームの攻撃終了。
そしてそれは、赤チームの勝利を意味した。
◆
すっかり秋の空は、茜色へと変わっていた。
太陽は真っ赤に燃えて、一日の終わりを告げようとしている。
しかし、先ほど缶蹴りを終えたばかりの一同は、缶蹴りの話で盛り上がっていた。
「それにしてもやられたぜ。霊夢が初心者だからってちょっと舐めてたなぁ~」
「嘘つき。全力で潰しにかかってたでしょうが」
「そ、そんなことないぜ! なぁ、アリス」
「さぁ、どうかしら? ま、少なくとも私の目にはあなたが本気に見えたけどね」
アリスの言葉に、うろたえる魔理沙。
そんな魔理沙を見て、皆は笑った。
「さてと、これからどうしましょうか」
「そうねぇ……」
ふと辺りを見渡すと、萃香が集めた落ち葉が散らかっていた。
散らかした本人に集めさせるとして、これをどうにか処理できないものかと考える。
すると、そこで霊夢は思い出した。
これだけたくさんの落ち葉があれば十分出来るじゃないか、と。
「あ、ちょっと待ってて!」
そう言い残して、霊夢は神社の方へと駆けていく。
待てといわれたのなら、仕方なく待つしかない。
一同は、おとなしく霊夢の帰りを待つことにした。
数分もしないうちに帰ってきた。
霊夢の手には大きく膨らんだ袋があり、少しばかり重そうにみえる。
ごつごつしたその袋には、何か入っているか気になるところである。
気になって仕方ない面々は、霊夢の元へと走っていく。
霊夢が袋の中を良く見えるように広げると、そこにはサツマイモがごろごろ入っていた。
「お、焼き芋ってことか。運動した後だし、ちょうどいいかもしれないな」
「でしょう? それじゃあ負けたチームが焼き芋を焼くってことで」
「なんだよそれ、聞いてないぜ」
「そりゃそうよ。今決めたんだから」
不満を呟く魔理沙を無視して、霊夢は袋を萃香に手渡す。
萃香は落ち葉を一瞬にして集めると、白チーム全員でサツマイモをアルミホイルと新聞で巻く作業をし始める。
そんな姿を微笑みながら見つめるのは、赤チームの面々。
「なぁ、霊夢」
「なによ」
魔理沙は、包み終わったサツマイモを落ち葉の山に突っ込みながら、問いかける。
「缶蹴りも悪くないだろ? だから……」
「だから?」
どこかうじうじとしている魔理沙に、霊夢はめんどくさいと言わんばかりの視線を送る。
そんな目をするなよと、魔理沙は小さく呟く。
「また……缶蹴りしようぜ?」
そんなことを言うのが恥ずかしかったのかと、霊夢はくすっと笑った。
なんだか、魔理沙は変なところで恥ずかしがる。
素直に言えばいいのに、それが出来ないのが少し可愛いと霊夢は思った。
「な、なに笑ってんだよ。缶蹴り、つまらなかったのか?」
「ううん、そんなことはないわ。ただ可笑しかっただけ」
「そうか……」
そんな魔理沙の表情は、いまだ晴れていない。
そういえば、魔理沙の問いかけにまだ答えていないことに霊夢は気付く。
付けくわえるように、霊夢は言う
「まぁ、次は私に負けないように頑張りなさいよ」
「あ、当たり前だぜ! 次は覚えとけよ?」
なんとも分かりやすい。
魔理沙の表情がぱっと明るくなって、満面の笑みを浮かべている。
そんなに私と缶蹴りしたのが嬉しかったのかなぁとつくづく霊夢は思った。
「魔理沙、八卦炉~」
「おう、ちょっと待ってくれ~」
そそくさと霊夢の前から去っていく魔理沙。
実際、缶蹴りは初めてだったけど楽しいと心の底から思った。
だから、純粋にまたやりたいなと思えたのだろう。
この面子でいつでも缶蹴りが出来るとも限らない。
だから、出来る間にやってしまいたいと思えたのだろう。
やがて、落ち葉の山からもくもくと煙があがっていく。
秋の寒空へと上がっていく煙を見上げる。
とても綺麗な色だった。
ふと足元を見る。
そこには、ぼこぼこになった空き缶が転がっていた。
あの、缶を蹴った時の何とも言えない感覚。
それを思いだしたくて、足を振り上げ、思い切り蹴り飛ばした。
カァンという乾いた音が、霊夢の耳に焼きついて離れなかった。
缶けりに入っても同じ調子でスピード感がないから、
漫然とああ缶けりっぽい遊びやってるんだなとしか思えない。
カンけりの話でここまで出来るなんて。
なんて言うか僕はラーニング度数が低くて他の物を参考にできるか分からないけどもっと上を行きたい。
つまりは、なんでもないような遊びの話でここまで出来るほどは腕をあげたいです。
これからも頑張って下さい。
面白かったです。またお願いします。
話の流れも抑揚がなく、キャラの台詞にもそれがないので、テンポが悪く、盛り上がりに欠けました。
霊夢無双過ぎ