辛口、辛辣と評されることも多い私だが、別に誰にでも厳しい訳ではない。戯れの皮肉はともかく、まともな批判の対象は選んでいる。もっと伸びると期待できる者しか、相手にしない。見込みのない者は叩かない。
ご主人様は、私の教え子だ。成長するから鍛えている。儀式の所作から信者への話し方まで、改良すべき点を指導してきた。良薬のように苦く、毒を交えて。大抵はめげずに応じる。ただ、半泣きで反発されることもある。聖を救ってからは、抵抗の回数が増えた。
私流の支援は、邪魔なのだろうか。
長月、昼下がりの命蓮寺。食堂の長机で、ご主人様は書き物をしていた。冷水を運んで内容を見た。小話の案が並んでいた。晩の読経会用だろう。箇条書きのひとつに、決定の丸がついた。
『人という字は、人と人が支え合ってできている』
どこの俗説だ。訊ねると、
「外の街頭テレビで観た、お芝居の一幕からです。外界の教訓を紹介するのも、いいなぁと思って。誤った解釈ですけれど、温かくて好きですし」
微笑んで、小筆の穂先を整えた。安直な。
「借り物の丸写しは芸がないよ。真似は毘沙門天様の姿だけでいい」
「う」
硯に筆先が押しつけられて、円く広がった。他人の話の借用に慣れると、頭が鈍る。彼女は素でいいことを言えるのに、もったいない。それに第一、
「人という字が優しく支え合っているものか」
ご主人様の記した、『人』の字を指した。
「どう見ても片方が片方に寄りかかっているだろう。対等さが欠片もない」
「あう、う」
実例として、厨房のぬえと一輪とムラサ船長を示してやった。三人は仲秋の名月に供える、白玉団子を試作中。ただし計量や調理をしているのは、一輪と船長の二人のみ。ぬえは隅でつまみ食いに勤しんでいる。
「あんたも働きなさい、怠け者」
「私は試食係。一輪のは硬くて拳骨みたい、ムラサのは水っぽい。はい再挑戦」
「雲山、あいつ餅米と間違えていいから」
「美味しくするわよ。正体不明の種、隠し味にいかが?」
不公平だ。料理組の苛立ちが伝わってくる。餅菓子が弾幕になるかもしれない。
「説得力がない、使い物にならない」
ご主人様は、唇を噛んで唸っていた。目に力を入れて、涙を堪えている。
「他の候補も今ひとつ振るわないね。ぬえではないが、はい再挑戦」
捻らずに、日々の想いを述べればいい。ご主人様の心が、ご主人様の言葉をつくってくれる。そう続ける前に、彼女は和紙全体に罰点をつけた。乱暴な筆遣いのままに、
「私だって悩んで頑張ってるんです! そんなに貶すなら、ナズーリンがやればいいでしょう!」
殴るように叫んだ。同時に台所でも、
「ぬえが作りなさい、こっちの努力も知らないで!」
「一遍拳を食らえばいいのよ!」
少女二人の怒声が上がった。
「あら、何の騒ぎ?」
すすきを抱いて帰宅した聖に、ご主人様と一輪、ムラサ船長が泣きついた。硝子のコップが倒れた。水が紙に染み込んで、真新しいばつがぼやけた。
いきさつを聞いた聖は、
「他の子の気持ちになってみましょう。毎日近くにいても、いいえ、いるからかしら。解らないこともあるわ」
穏やかにたしなめた。私とぬえだけではなく、五人全員を。
私は忠告に頷いた。反論する点はない。ご主人様の胸中を、私は推し量れていない。冷評されて、どのような悩みを抱えているのか。何故、聖救出後は抗いがちなのか。実は私が嫌なのか。読めない。しかし、推理や質問で正答が得られるかどうか。答えを受けて、彼女とよりよい関係を築けるか。最近は自信がない。
ご主人様と一輪と船長は、渋い顔ではいと返事をした。ぬえはからくりのように、首を縦に一振り。皆、思うところがあるらしい。
聖は私達の目を順に見詰め、難しいわよねと苦く笑った。
「他人の心になるなんて、覚りの瞳でも果たせない。想像と思いやりにも限界があるわ。でも理解を怠るのは悲しい。ためになる、素敵な方法はないかしら」
毘沙門天様のお告げを探すように、瞑目思案。三秒後、祈りの両手を打った。
「他の子の気持ちになれないなら、他の子の身体になればいいのよ。形から入りましょう」
提案に一瞬呼吸を忘れた。何を仰る聖白蓮。精神が駄目なら肉体、形に入り過ぎだろう。どういう理屈だ。ご主人様達もうろたえている。好奇心旺盛なぬえ一人が元気付いて、
「面白そう。どうするの、聖」
「私、星、ムラサ、一輪、ナズーリン、ぬえ。六人のからだを無作為に交換するわ。思考は本人のまま、入れ物と能力を別人にするの。身体強化魔術の応用よ」
計画の概要が明らかにされた。中止させなくては。
「そこまでしなくても平気です、仲良くできます姐さん」
「聖の手を煩わせずとも。寺の絆は不沈です」
「問題ありません、協力します」
「飛躍しないでくれ。魔力を抑えよう」
ぬえを除いた四者が動いていた。超人の気を纏い、
「めっ。決めました。やらないよりやる、やらなければ結果は出ないわ」
聖は熱い声で宣言した。瞳には本気の光。張り切って、空間に魔法を構築していく。流石、封印されても意志を貫いた御仁。曲げられない。
ふらつく一輪と船長を、それぞれ雲山とぬえが押さえた。
「寺仲間で女の子同士じゃない。悪いようにはならないわ、状況を楽しみましょう」
「あんたに来られたら私は沈没よ」
「ムラサが聖で聖がムラサ、大当たりの取り替えっこになるかもしれないわ」
「それはそれで照れが、うぅ、でも」
船長が誘惑されて、乗り気になりつつある。一輪も頭巾を外して、耳を傾けている。もう確定事項だ、何にせよ従うしかない。
「術の期限は今日が終わるまで。各自普段着を借りて、なったひとの仕事を担当してね」
半日未満か。その程度であれば無事に過ごせそうだ。ご主人様も、困惑や焦りの表情を引っ込めていた。時間に妥協点を見出したのか。法会の小話の心配がなくなって、落ち着いたのか。仏事の負担の大きい、彼女や聖には誰が選ばれるのだろう。
(そんなに貶すなら、ナズーリンがやればいいでしょう!)
あの怒りが、本当になる可能性もある。
床の魔術式に、聖があみだくじのような紋様を加えていった。
「ごっこ遊びみたいですね。本格的な」
羽衣を畳んで、ご主人様が淡く笑いかけてくれた。同じ顔で応えた。更に色々、話してもらいたかった。
菫に煌めく円陣が完成した。内縁に招かれ、六人で等間隔に立つ。身長と胸囲の変化に備えて、着衣を緩めた。
「いいわね。やり直しは無し。明日に繋がる、心身の幸せなひとときを目指しましょう」
目標を掲げ、聖が魔法を始動させた。青みの紫に輝く、雲が溢れて浮かんだ。眩しく囲まれて、他の対象が見えなくなる。紫雲は無数の蝶となり、私に群がった。外枠を食まれている。苦痛はない。重さもなくなっていく。地に足がついていない。足場を調べる視覚が切れた。心臓や骨、全身が消滅したらしい。思念や魂だけが、留まっているのかと考えた。次第に感覚や、重みが戻ってきた。けれども私のものではなかった。記憶の体重や骨格、五感と差がある。私はこんなに、均整の取れた体付きをしていない。手指は長くないし、背丈もない。視力も聴力も今ほどなかった。妖蝶の間に、遠い爪先が捉えられる。服の裾が足りていない。違和感ではち切れそうになったところで、蝶の大群が霧散した。六人の変身振りが、視界に飛び込んできた。
私の正面。ぬえのワンピースに豊満な肢体を無理矢理詰めた聖が、
「ふむ」
おもむろに、自分の胸を揉み出した。おー、と感嘆することしきり、
「姐さんの身体に何してるの!」
「女の子同士でも性質悪いわ!」
一輪の尼服姿のムラサ船長と、船長の制服の私が左右から膝を蹴りかけた。攻撃を当てずに止めた。聖は普段とはかけ離れた、悪魔的な冷笑を湛えている。
「そうよね、聖の肌に傷はつけられないわよね。あーやわらかい、あんた達も当選したら陰でやったでしょ。絶対」
「ぬえの卑怯者、姐さんを人質に」
「聖から出て行きなさい」
「聖の肉体が私に来たんだもん。苦情はあっちの私にどうぞ、痛みは明日には引いてるわ」
二対の鋭い眼が、ご主人様の戦装束を着たぬえを射抜いた。彼女は視線に怯え、衣服の背でうごめく羽にまごついていた。
「へ、平和的に行きましょう、暴力では解決しません」
「うわ、私の声で平和語ってる」
「聖の声で悪を語るな!」
ムラサ船長、私の喉で吠えないで欲しいのだけれど。酷使されて掠れそうだ。自分の声が、僅かに違って聞こえる。他人の耳には、常にこう届いているのか。
左隣、聖の可憐なドレスに包まった一輪は、きゃっ、とほのぼの赤面していた。腕を上げて私の肩をつつき、
「ナズーリン、私どう言えばいいのかしら。私のために喧嘩しないで? 私の胸のために喧嘩しないで? どっちも自意識過剰?」
「まず事態を収拾、各人に適切な格好をさせるべきだろうね」
ご主人様の声音も、少々ずれがあった。発声器官が体内にあるからか、音が深い。
聖は薄藍の瞳を瞬かせた。
「星にナズーリンの口調って凛々しいわね。これがときめき?」
「私を修羅場に巻き込まないでくれないか」
頭の中で、各々の身の居場所を整理した。
聖の肉体・ぬえの精神。
ムラサ船長の肉体・一輪の精神。
私の肉体・ムラサ船長の精神。
ぬえの肉体・ご主人様の精神。
一輪の肉体・聖の精神。
ご主人様の肉体・私の精神。
総評・深呼吸をしよう。空気が美味しい。
「聖、着替え貸して。外でナズーリンと布教活動でしょ。早速脱がなきゃ鏡用意しなきゃ。しっかり宣伝してくるわ」
「あんたのしっかりは世間のびっくりなのよ。ナズーリン、服と監督よろしく」
「ぬえの衣装、着こなせるでしょうか。ニーソックスというのを履いたことがなくて」
「あ、姐さんが私の着物を。どうしよう雲山、ああ操れないんだった」
「畏縮しないで雲山、私が相棒よ。そーれ、げんこつスマーッシュ」
いい天気だった。明日まで持ちそうだ。
感情以外はぬえになりきったご主人様に、装束と肌着一式を渡された。着付けを手伝うと言われたが、断った。下着は返した。
「一人でやれるよ。ご主人様の身繕いを見てきた。中は自前の大きめのものと、さらしで十分。心配かい?」
「いえ。補佐ができればと、貴方のように」
ご主人様は、私を深く観察していた。姿見なしで自分を眺める機会は、稀少かもしれない。
「私を見上げるのって、大変なんですね。ぬえの身長できついのだから、小さな貴方は尚更」
「慣れたよ。疲れたら休むか飛ぶ」
彼女は大失敗はしない。安心して、目を離していられた。
低い位置の髪を撫でてやった。
「任せて。ご主人様の評判は落とさないようにする。経文の読みを仕込んだのは私だろう」
「せめてお話は私が」
「今夜は私が担う決まりだよ。代理はルール違反。自力でやってみせよう」
怒鳴ったことが叶ったのに、ご主人様はどこか不満そうだった。
「ナズーリンは、独りで何でもできるんですね」
「万能ではないが、大体は。従者は支えるものだ。主の世話になってどうする」
笑みが淋しくなった。どんな言葉が正解だったのだろう。
玄関で、支度済みの聖ぬえが呼んでいる。置いて行かれないようにしないと。
「ご主人様はぬえ役だから、夕飯当番か。期待してる」
「ありがとうございます。献立の希望はありますか」
「腕の蛇を刺身にしないこと」
回れ右させて、私は自室へ。手早くご主人様の武装に袖を通して、里の広場に赴いた。
買い物客や家業の休憩の子供に、読経会と今後の行事予定の紙を配った。聖になったぬえを監視しながら。
「そこの迷える青年、寄っていらっしゃい。聖お姉さんと信仰しましょう」
ムラサ船長に心で詫びた。ぬえの監督は至難の業だ。速くて危なくて手綱が締めにくい。彼女は幼い妖艶さを撒き散らし、平時の聖像を粉砕している。
「今日の命蓮寺は一味違うわよ、六人で身体を交換してるの。いつもの面子の、常ならぬ様が見られるわ。野次馬上等一見上等、仏道帰依はなお上等。友達ご家族揃ってどうぞ。毘沙門堂で待ってるわ」
まあ、事情を広めれば本体のイメージは守れるか。職場放棄はしていないし、人の集まりは上々。縁日のような賑わいができている。
「誰が誰になったかは、配布紙を参照」
全部のチラシに、ぬえの字で六変化が走り書きされていた。聖の速度を以てすれば容易い。この子を見たい、この方に会いたい。あちこちで興味の花が咲いた。群衆の頭上を舞って、ぬえが紙の雨を降らせていく。全方位の人妖を見逃さない。大量の広告が、半刻とかからずに捌けた。大した広報能力だ。
私はご主人様のような、無害極まりない笑顔をこしらえてみた。指示せずとも、彼女は最初から笑えていた。目や口に型が刻みつけられていて、表情の固定は楽だった。けれども、内側が疲労してしまった。善意や幸福を裏なく表すと、私は気力を消耗する。いつの間にか、私の素顔に戻っていた。軽くなる荷物と反対に、心中が重くなった。
帰りの農道、ぬえは巻物をお手玉していた。
「満員御礼、大入り袋ね。ムラサと一輪を驚かせてやるわ。びっくり宣伝の威力を見よ」
「上機嫌だね。聖は気に入った?」
「最高ね。魔術に干渉してずっと居座ろうかしら」
聖役の長所を、彼女は歌うように挙げていった。
ほぼ寺最強。気侭を阻止できそうなぬえ自身とご主人様は、安全どころが務めている。
超人力で万事好調。雑用も楽勝。
外見と声のおかげで、一輪達に懲らしめられない。悪戯が愉快。
「出るとこ出ててふわふわでしょ。ナズーリン触る?」
「結構。趣味じゃないよ」
「慕われる体験、一度してみたかったし。羽は暴れないし」
「羽?」
たまに消したくなるそうだ。秋風になびく軽やかな長髪を、手櫛で梳いていた。今は自らのものなのに、羨ましそうに。
「私が聖だったらな」
「聖のように行動すればいいだろう」
「やりにくいこともあるの。貴方に触れ合い趣味がないみたいに」
「同列にすることかい」
私の反論は無視された。
石灯籠の参道に入って、経典の振り仮名の確認を頼まれた。
「話は交替でナズーリンの番よね。お経くらい読めるところ、あいつらに見せてやらないと」
「負けず嫌いだね」
「負けてないわ」
動機が何であれ、意外と向上心があるのかもしれない。
「おいで。拍と速さも訓練しよう」
六百巻暗誦も余裕の高僧に、一字一句の違いを指摘する。貴重な経験をした。人間離れした体力は何処。ぬえは墨磨りもままならないほどやつれ、
「ありがと。ちょっと夕寝してくる」
薄墨の手を振って退室した。汗の雫が文机に染みていた。私も集中が尽きて横になった。ご主人様の体格だと、私の小部屋は狭く感じる。手足の端が窮屈だ。押し入れや箪笥に当たる。
快適な寝姿を探りながら、小話の題材を案じた。適度な長さで、高尚にも低俗にも偏らないもの。己から湧き出る、生きた想い。聖の行った、大魔法の感想を述べてみるか。からだの引っ越し。珍しくて鮮度がいい。要旨や筋は、これから掬うとして。
脚を組み替えていると、
「ナズーリン、いる?」
私に呼ばれた。
「いるよ」
起き上がって襖を開けた。目線を大分下げて、私の鼠耳と対面した。船長はダウジングロッドを肩に引っ掛け、蓋のない木箱を盆のように持っていた。中身は古着や数珠玉、黒折り紙のかささぎ。
「掃除のついでに探し物をしてみたの。見付けたのはいいんだけど、名前や手掛かりがなくて」
「預かるよ。夜の会で訊いてはみるが、今日中に片付くとは思えない。明日から私が持ち主を捜す」
「ありがとう」
下向きの首は、不自然なのにだるさがなかった。ご主人様が、それだけ見下ろしてきたということか。あるいは、身を低めて視線を合わせた。私が、ムラサ船長の私にしているように。
「聖、じゃなくてぬえがぐったりしてたわ。無茶した?」
問いかけに、ぬえを咎める響きはなかった。気遣っている。
「格好よかったよ」
船長を帰して、発見物を検査した。ご主人様の妖力で視る限り、危険はない。所持者名の刺繍や、目印も一切なし。翌日に持ち越しだ。だが恐らく、
「これは七夕の飾りだろうね。誰のものでもない」
かささぎは、天の川の橋になる鳥だ。離れた二つの星を結ぶ。命蓮寺の笹から落下して、気付かれなかったのだろう。
除外して羽ばたかせたら、何かが透けて見えた。黒紙の内を這っている。展開させて、元の四角い紙にした。かささぎの肌の裏面、白地に墨文字が綴られていた。
『船の妨害をいつか謝れますように。却下、私らしくない。妨害を許せるような、賑やかな大活躍をする』
『また、あいつらと暮らす』
『今度はしくじりたくない。仲間になる』
ぬえの願い事だった。ムラサ船長達は知らない。
食堂には、一輪な聖と船長な一輪がいた。大皿に月見団子を盛りつけている。
「試作は成功したのかい」
「一応。加減が難しかったわ。一輪と雲山は腕力があるから、少しの水分で捏ねられるの。それで歯応えが際立って」
「ムラサは逆。非力で驚いた。霊体の碇じゃないと持てないでしょうね。水の加え過ぎで苦労したわ」
「私達のを合体させて、一輪が星に味付けをお願いしたの。今日はぬえの味覚でしょう。明日本物のぬえが喜ぶわ」
一輪のは硬くて拳骨みたい、ムラサのは水っぽい。ぬえの批評は的確だったようだ。彼女に怒った一輪も、聖と自己の触覚で納得していた。
皿に保存籠を被せ、二人は本堂の準備に向かった。
ご主人様は、厨房で食材や鍋の面倒を見ていた。里芋や栗の皮が、粗い繊維の袋にまとめられている。釜から山の甘い匂いがした。
「栗ご飯?」
「小芋の餡かけもありますよ。今月と来月の、名月のお供え物を使ってみました。お味噌汁の実は人参とこんにゃくをさっと炒めたもの。さやいんげんは緑色が残るようにだしで煮て」
「手間のかかることを」
餡芋の載った、味見の小皿を手渡された。里芋は煮含めて下味がつけられている。銀杏を押し込み、揚げて椎茸のとろみ餡をたっぷり。丁寧さに呆れた。味は若干甘口だけれど、そう受け取るのは私の舌がご主人様のものに化けているからだろう。ご主人様の感じ方も、ぬえのものに変じている。
栗の下ごしらえに芋細工、いんげんの色煮他の同時進行。流しと洗い籠も整然としている。いつでも嫁に行けそうな神様だ。炊事では叱ることが少ない。
「どれも一人で?」
「聖と一輪も、初めは台所にいて。お団子作りの合間に、手を貸してくれたのですけれども。やり辛くて、食卓に移ってもらいました。翼が場所を取ってしまって」
六枚の羽が、背中で奔放に遊んでいた。完全に思い通りにはできないそうだ。時々ご主人様や私、周囲を打ちそうになる。刃物や食器のある、調理場では危ない。
片手鍋の火力を弱め、ご主人様は隅っこに座った。二色の翼を、背と壁で挟むようにして。昼のぬえのようだった。私もはす向かいに腰を下ろした。
「なってみて、思いました」
生蛇の腕輪をあやして、ご主人様は微笑した。大人びた、穏和なぬえになった。
「ぬえ、一輪とムラサを手伝いたかったのではないでしょうか。でも、普通に台所に立つと迷惑をかけてしまう。だから端にいた」
「お人好しの謎解きだね。ご主人様らしい」
的外れとは言えないが。羽を消したくなると、ぬえ本人に愚痴を零されたから。彼女の秘密の望みを見たから。変身ひとつで真っ直ぐ解に辿り着いた、ご主人様は見事だ。善い想像力がある。
「助けられてばかりは、嫌ですから」
「自分のことのように話すね」
「半分は自分のことです」
ぬえの紅眼が揺れた。濃紅の、私の瞳と面しているかのようだ。
初見の仏典を読み上げるように、ご主人様はたどたどしく語った。
「長年。貴方に教えられて、支えられる一方で。お返ししたいのにできなくて。重要な場面で宝塔を失くして、貴方に縋ってしまって」
空飛ぶ船で、ご主人様は沈んでいた。酷い落ち込みようだった。
「聖を復活させて、これからは貴方と支え合うって、決心したんです。けれど貴方は何でもできる、私は相変わらず。出来損ないで、苛々して。後悔するのに、貴方に当たってしまいました。何回も。今日も」
彼女は、私のことで悩んでいたのか。責任感や無力感に苛まれて。
指先で、ご主人様は床に『の』の字を書いていた。
「私は、支えるだけが従者ではないと思います。時には主の世話になる、不完全な部下がいいです。頼ったら、頼られたい」
私は、嫌われてはいなかった。支援と態度で、彼女に透明な壁を作っていた。真剣に乞われて、かなりほっとした。
「正直に、打ち明けてくれればよかったのに。素直はご主人様の特技だろう」
妖の羽とご主人様が迫って、
「わ、私だって隠し事くらいします! 朝晩傍にいるひとに、こんな恥ずかしいこと気軽にばらせません! 失望されて、一緒にいるのに距離を置かれるかもしれないでしょう」
早口でまくし立てられた。勢いに後ずさった。さらしを巻いた胸がきつかった。
彼女はすぐに我に返り、熱気を萎ませた。すみませんでしたと謝って、黒髪を引っ掻いた。撫でて梳かすのは止めておいた。一方的な支えと取られそうだ。
「私ばかり、喋ってしまいましたね」
ニーソックスの腿を擦り合わせ、
「ナズーリンは、私になってどうですか。人里のお勤め、身に不都合はありませんでしたか」
ご主人様は首を傾げた。
ぬえが凄まじかったと報告した。集客の才を垣間見た。私の方は、
「心が笑い疲れた。幸せな笑顔を保っていられる、ご主人様が不思議だよ。嫌々や演技ではないようだし。こつはあるの?」
己の顔に問われ、ご主人様は困ったように目を細めた。頭が横に倒されて、耳が肩にくっついた。意識している秘訣はないらしい。ようやく口にした返答は、
「ナズーリンや、皆が幸せをくれるから?」
私には、千年の隠し事よりも恥ずかしかった。
「ぬえ、あんた料理の勉強しなさい。正体不明の種抜きで、星がこれだけ作れるのよ。おにぎりとうどんと蕎麦の輪廻を脱すれば、才能が開花するわ」
「ムラサが今土下座して足舐めて、『ぬえ様私を悦ばせて』とでもお願いすれば考えないこともないわ。ほら何躊躇してるの、大好きな聖の足よ」
「早まるなよ船長、それは私の身体だ」
「一輪も止めてください、晩御飯が深夜御飯に」
「ぬえを離したいけど無理、ムラサの力じゃ引っ張られて、だ、抱きっ」
「雲山、私見守っていていいかしら。仲睦まじくて動悸がするの」
夕食風景は実に妖しかった。
調子に乗りながら、ぬえはご主人様の手際に感心もしていたようだ。茶を淹れに席を立ったご主人様に、妖怪羽の制御法を教わっていた。内緒話が、ご主人様の優れた聴力で聞き取れた。
聖は頬の火照りを冷ましに、回廊を歩きに行った。一輪の澄んだ大声で、
「皆来て、お客様が」
明るく呼び寄せた。駆けつけて驚愕した。定期読経会の会場に、人と妖が次々吸い込まれていった。収穫祭や正月の餅撒きと、勘違いしたかのような量だった。
「受付開始の時刻はまだなのに。嬉しい」
「ま、私にかかればこんなもんよ」
宣伝隊長のぬえが、菫と金茶の髪を涼やかに払った。入れ替わりを派手に知らせた効果だ。興味本位の参拝客が、多数訪れている。
「座布団と手引書を追加してくるわ、一輪もいらっしゃい。ムラサと星は」
「案内とひとの誘導ですね。床板が沈まないようにします」
「ぬえとナズーリンは幕裏に控えていてください。経典を忘れずに」
走り出す前、一輪とムラサ船長がぬえの両肩に手を置いた。
「まずくなったら木魚を六回連打。船の音声装置を作動させるわ。昔の姐さんの、お経の録音を流すから」
「上手くやれなくていい。後援させて」
ぬえは豊かな胸を張り、
「黙って見てなさい。為し遂げてやるわ」
二人を強力に前進させた。
背後に残った私に向けてか、
「いざってときの信用はないのね、私は。聖の肉体を借りても」
自虐的に援助を嘆いた。差異はあるけれど、ご主人様の悩みに似ていた。彼女が求めているのは、甘い助けではない。
「ないものは探して掴め。逃げる弟子を取った覚えはない」
追い抜き様に言い放った。
毘沙門天様の羽衣に、彼女はついてきた。
「貴方の弟子は幸運ね。できた師匠がいて」
「そうでもないよ。情に疎くてね、傷付けてばかりだ」
すすきを飾った本堂は満杯、立ち見飛び見が当たり前。写真機を構えた鴉天狗が、風の噂に乗せたらしい。泥棒魔法使いやら、守矢神社一行やら。地底の覚り一家やら。遠方の住民も集まっていた。私もぬえも緊張に強い。蓮刺繍の幕から顔を覗かせ、暢気に人数を数えていた。遺失物の箱も用意した。
ご主人様達が、揉みくちゃにされて帰ってきた。代わってぬえが出陣。開放的に色めく挨拶で、堂内を沸かせていた。
「堅苦しいのは無しね、足崩して。私もそうする、正座じゃなくて信仰心が大事。そこの思春期真っ盛りの青年、僧侶の素足に関心が? 踏まれてみる?」
今宵の聖を、健全清楚な大和撫子とは誰も評すまい。ムラサ船長が肩掛けで面を覆っていた。一輪は舟幽霊のからだを揺らめかせ、
「ナズーリン、人里でもあの禁断の姐さんを?」
「結果がこの大入り満員だ。場は盛り上がっている。新規の信者を獲得できるのではないかな」
聖はぬえの振る舞いを見習い、
「ふ、ふまれてみる?」
雲山を挑発して船長らに泣かれていた。
「じゃ、読もっか。仏教と縁のないひとも多そうね。私が先に唱えて、適当なとこで区切るわ。手引を見ながら皆で繰り返しましょう」
正体不明は臨機応変。来訪者の様子に合わせて、易しい段取りを即座に決めた。器用さはあるのだ、親密な友人間でもひねくれなければいいのに。親しいから、逆に告げられないのだろうか。ご主人様と同じで。
「情けは偉いかみさまに捧げて。私が黙り込んでも、放っておいて」
開始の鈴が長く響いた。人々の静まりを待って、ぬえは唇を開いた。三百字未満の簡潔な経文を、聖の癒しの声で音読していった。
一同の脱力を誘うほどの、稚拙さはなかった。発音のずれや、語の最中の息継ぎはある。特訓時に注意した、段々速くなる癖はあまり直っていない。それでも、彼女は仏様の教えを読んでいた。単なる会話にはなっていない。腹式呼吸で声量は満点、よく通って震えない。行飛ばしや誤読は今のところゼロ。詳しい文意は解せていないだろうけれど、音に熱が籠もっていた。練習の何倍も生き生きしている。
「もう立派なお寺の子ね」
一輪とムラサ船長の肩を抱き、聖が喜んでいた。二人娘の不安は、幾らか和らいだようだ。手元の経と読み比べていた、目の険しさが薄れた。私の尻尾の忙しない運動も止んだ。ぬえ姿のご主人様は、聖姿のぬえと共に口を動かしていた。別れた心身を一致させるかのように。
短い読経は終盤に差しかかる。行けると頷きかけた矢先、
「む」
ぬえが沈黙した。
え、詰まった? ここいえるよ、ひじりぬえにおしえる? でもぬえさん放っておいてって。最前列から後方へ、小声のざわめきが広がっていく。手の平を上下させて、ぬえは静観を願った。
黙していられない者は、寺にもいる。船長と一輪が激しく動揺し、幕の末に近寄った。
「何が起きたの、順調だったじゃない」
「ムラサの視力だと異常なしに見える」
「前をいいかい」
二人を避けて、ご主人様の身を乗り出した。ぬえは経机の仏典を睨んでいた。
凝視して、把握した。
「わからない漢字に突き当たった」
「振り仮名つけてたでしょう、姐さんの字引で」
「ああ、今日私が見直しと訂正もしたよ。その加筆部分がぼやけて、正しい読み方に迷っている」
彼女が墨を磨って、自ら筆を執った。声に出しながら改めていった。文脈の境や、拍の記号も書き込んでいた。頭の日頃用いない箇所を、高速で回転させていた。著しく疲労し、書の力が弱まった。硯や文字に汗が零れた。作業は私がやる、ナズーリンは口頭で修正と特訓をして。私に強く頼んで、懸命にやっていた。必死さが、墨色を薄め滲ませた。
「格好つけなくていいわよ、放っておけない」
「上手くやれなくていいって、言ったのに」
仕事を最大限、完璧に為し遂げたいぬえには、甘えは要らない。
ムラサ船長が経典を私に突きつけ、
「あいつどこで困ってる?」
「機材を操作してくる。姐さんのお経、どこから再生させればいい?」
私は答えなかった。裏口に抜けようとした一輪が、翼を広げたご主人様に捕らえられた。
「星痛い、腕脆いの」
「すみません、緩くします。けれど、救援はぬえが望んでからにしてください」
ご主人様はぬえの希望を、身体と心で理解している。
怒る私と、私は対峙した。
「なんで教えてくれないのよ。ぬえが辛いでしょう。聖の名誉のためじゃないわ、あいつが苦しんでるから」
もういい、直接私の本を届けてくる。私の脇を通過しようとした船長を、押さえつけた。ご主人様と私の力比べだ、確実にご主人様が勝てる。私は私の弱点も知っている。持ち上がった尾を手刀で曲げた。筋肉が融けたかのように、彼女が体勢をおかしくした。私の側に倒れ込んだ。
「冷たい。ナズーリンも星も。あいつは命蓮寺の一員でしょ」
「確かに冷酷かもしれないね。だが、寒気が恋しい日もある」
白い袂から、
「船長が、私の能力でした探し物。ひとつ持ち主が判明した。君と一輪に見せたとばれれば、恐ろしい目に遭うだろう。手が滑ったことにして欲しい」
黒いかささぎを出して読ませた。彼女の獣耳が立った。
「誰のものか、付き合いの長い君には一目瞭然だろう」
ご主人様伝いに、一輪の目にも触れさせる。ぬえと近しい両者が、鏡写しのような表情になった。見開いた眼を強張らせた、
「っの、ばか。暮らす、仲間? 今だって同居する仲間じゃない。こっちはとっくに許してる、謝るとか大活躍とか何なの」
「言ってよさっさと。言われても納得しにくいこともあるけど。ムラサと私と、地底で何年過ごしたか」
驚きと悔しさと、自他双方への責めの入り混じった顔。
「大切だから、隠す気持ちもあります」
「君達が仲間と認めても、ぬえが認められないんだ。聖の一件の負い目と、支えられている意識があるから。天邪鬼なりに、本当に信頼されたがっているんだ」
ぬえは木魚を叩こうとしない。難字の並びと闘っている。
「頑張らなくていい。助ける。親切な励ましだ。しかしそれが、お前には期待しない、信用しないと聞こえる場合もあってね。重大な責務のときに、贈られたい応援かな」
ムラサ船長に足に乗られた。私の全体重がかかっている。それなりに重たい。あいつに悪いって解ってたら、言わなかったわよ。ご主人様の衣装に埋まって、船長はくぐもった抗議をした。
一輪は、物言わぬ聖を見遣った。尼頭巾の聖は、後ろで私達をにこやかに眺めていた。最も遠いぬえまで、五名全員を。
「今晩はぬえが住職よ。私は皆がいつも、私にしてくれていることをするわ」
雲山と合掌して、聖は健やかに笑った。寺の長を信じて、神聖な務めの際は動かない。
ここにいるとご主人様と約束して、一輪が拘束を外れた。私にへばりつく、小柄な船長を剥がした。片手を握った。合図されて、私は一歩退いた。二人組が、ぬえの働きを見届けられるようにした。
「受け入れは私の方が早いわね。気付かなければどうしようもないけど。ムラサのか弱さも、知らなかった」
「大丈夫、よね。私はあんなになったら、しばらく立ち直れない」
左胸を押さえて、船長は顔色を悪くしていた。手を滑らせたついでだ。安心させるために、私は口も滑らせることにした。
「経文の仮名の直しは、ぬえに依頼された。お経くらい、読めるところを見せてやるってね。彼女はやる気と根気がある。細かく厳しく授業をしたが、弱音を吐かなかったよ。絶対に伸びる。もっと辛口の指導をしたい」
ご主人様が、自分が褒められたかのようにはにかんでいた。それでいい。
聖は微塵も憂いを見せず、
「ぬえはお寺の子よ。私達はあの子の傍で、何千回お経を声にしたかしら」
音の記憶が導いてくれるわ。魔法のように予言した。
ぬえは経の折り本を畳み、毘沙門堂の天を仰いだ。諦めていない。口は語の形に、絶えず変化している。
仏神が降臨したかのような、凛とした静けさ。停止した空気を、
「さ、続けますか」
彼女の不敵な笑みが破った。
瞳の先は参拝客。書物を開かず、堂々と残部の暗誦を始めた。声音に一点の曇りもなく。
上手い。贔屓目なしに素晴らしいと思えた。注意点が改善されて、障らない。彼女に刻まれた仏門の言葉が、綺麗に表に出ている。聖達のように優美に、彼女らしく輝いて。
ムラサ船長の左手が下がった。一輪は握り拳。
雲山に寄り添う聖は、変わらずのんびり。
ご主人様は、両手両羽を打ち合わせるのを寸前で我慢していた。私の教え子達は、どうしてこうも可愛いのだか。
最後の一句を、堂全体で唱和した。鈴が続いた。
「ありがとね。あー、ちゃんと座ってないのに足痺れた。これ聖の身体だから、正座で平気だった? まあいいや。新聞屋、退場撮影どうぞ。あられもない姿になるかもしれないけど」
膝裏に観衆とレンズの熱視線を浴び、よろめき歩きでぬえは座を後にした。船長と一輪に迎えられて、温かい暴言をぶつけられている。自慢でやり返して、嬉しそうにしていた。話を聞いていたいけれど、次は私が行かなければ。
「取りは任せたわ、ナズーリン」
「神様してくるよ」
交替の手をぬえと交わし、ご主人様に涼しく笑いかけた。満開の、ぬえの笑顔が返ってきた。
毘沙門天様を祀る建物は、出囃子の欲しい雰囲気になっていた。大勢の客と、机を挟んで向かい合う。
「さあ、平和な読経の時間だ。私はハプニングに見せかけたパフォーマンスはしない。露出を求めてもご覧の通りだ」
鉄壁の装束の、足首まである下穿きを指差した。残念がられて、活気が衰えても構わない。予想はしている。
ぬえの聖は寺院に縁遠かった、新しい信者候補を集めた。仏道は軽くて親しみやすいと、来場者に印象付けた。外見を変えたら、今度は中身だ。教えの神髄に迫らせる。
「先刻より長い。口は休ませてもいい。その代わり、手引にある経文と意味を目で追って欲しい。一音一語の成すものを知れば、経は異国の呪文ではなくなる」
仏法僧の三宝と、ひとへの礼を尽くして座る。古い書の、毛羽立った表面をならした。
「退屈と睡魔は私が退けよう。今夜は寝かさないよ」
聖の興奮した悲鳴が、控えの幕裏で上がった。会場の温度も上昇した気がする。何か、誤ったことを述べただろうか。原因が解明できない。推理は切り上げて、鈴を鳴らした。仏様と毘沙門天様への熱意は、幾らあってもいい。
私の心とご主人様の声で、一巻十数段の経典を読んだ。全身が発声のために鍛えられていて、やりやすかった。息を乗せれば、優しい光の音になる。気持ちがいい。浮かれないように用心した。抑揚は過激にせず、一声の伸びや末尾に気を配る。初心者に配慮して、速度はやや遅め。けれども要所で締めて、だらけさせない。訴えたい真理があるのだと、万物万人は清浄だと、耳に伝える。
単に唱えて終わりにはしない。相手に届かない言葉は、淋しいから。
善行をめぐらせて、自他の悟りに向けるよう。祈願して、鈴音で結んだ。皆は興味を涸らさなかっただろうか。人妖の聴衆に目をやった。居眠りはいなかった。安堵して、脳内で丸をつけた。
「ありがとう。不明箇所は多々あるだろう。しかし、胸に残る部分もあったはずだ。賛成であれ、反対であれ。そこから知識を深めていくといい。疑問は寺に持っておいで」
さて。前傾気味になった、居住まいを正した。
話したいことがあった。肉体交換の感想も兼ねて。ご主人様に、本心を明かされて。ぬえの願いと努力、活躍を目にして。わだかまりを少しといて、とかして。言いたいことが生まれた。
最初に声になったのは、
「『人という字は、人と人が支え合ってできている』」
騒動の発端。私がけちをつけた、外界の教訓だった。
「守矢神社の面々は、外にいたからご存知かな。大結界外の、劇の名言らしい。俗説だからね、寺子屋通いの子は本物と誤解しないように。漢字の『人』は、正しくは人間の立った姿を表現している」
角を刺されないように、正誤をはっきりさせておいた。
「俗説と心得た上で見ても、間違いだと思ったけど。試しに手の平に書いてご覧」
ご主人様の手を黒板にして、私も綴った。
「左側が、右側に寄りかかっているだろう。公平ではない。『人』はやはり、一人の人間が両脚で立っている字だ。二人や三人にはならない。おめでたい解釈は捨て去ろう」
裏で、ご主人様が悲しんでいるかもしれない。短く夜の空気を吸って、
「と、今日のからだの入れ替えまでは感じていたんだけどね」
前置きを覆しにかかった。
「覚り妖怪でも、他者の心になれはしない。他人の気持ちになれないのなら、身体になればいい。寺の不和をなくすために、聖がそう説いてね。魔法で肉体をシャッフル。とんでもない発想と効果で、初めは現実逃避しかけたよ」
色気と悪に目覚めた聖(ぬえ)。
最も変身の影響がなさそうだけれど、聖ぬえの抑止力もなさそうな船長(一輪)。
聖のために叫んで蹴って。心が乙女の私(船長)。
力はあるのに混乱を鎮められない、怖がり平和主義者のぬえ(ご主人様)。
起こした異変を満喫する、ときめき一輪(聖)。
夢も希望もないご主人様(私)。
第三者になりたかった。
「だが、なって初めてわかることがあってね。身長や目線、身体能力、得手不得手。本人しか知り得ない情報が、心境への想像力を膨らませてくれた。己を完全に客観視するのも、未知の経験だった」
振り返れば、かけがえのない時間だった。
「異様な状況のおかげで、普段見えない心が見えた。今は聖に感謝しているよ」
でも延長はしないようにと、彼女のいる幕に言っておいた。
「ご主人様の身になって、色々あって。『人』の漢字の見方が変わったよ。一字の中で、人と人とが助け合っているとは考えられないけれど。我流の、おめでたい解釈は閃いた」
再び、左手に人と記した。
「この字の二本の払いは、人間の脚ではない。在り方だと思う。左は、誰かに支えられている。頼っている。右は、誰かを支えている。頼りになっている。一人のひとが、二つの役をしているんだ。どちらが欠けても、人ではなくなる」
別の字や、辞書に載れない記号になってしまう。
「けど私を含め、ひとは愚かでね。性格や立場の所為で、どちらかに偏ることがある。頼る一方、頼られる一方。使われない方の役は、ぼやける。墨の文字が、水に滲むように。最終的に、薄れて消える。私は飛び切りの馬鹿だから、消滅を自覚できなかった」
溜め息交じりに苦笑した。現在の格好だと、ご主人様を貶めているようで申し訳ない。前向きに語ろう。
「支えられたら支える。支えたら支えられる。対等でないとね。自分が片方に寄っていないか、胸や他人に聞いてみて。足りない側をやろう。どちらかを強制されたら、反発していい。相手に伝わるようにね」
善良な台詞を積み重ねて、
「役が消えてしまったら、書き直す。抵抗はあるし、時間もかかるけれど。前より成長できるはずだよ。自身も、周りも。人は独りでは、人になれないんだ」
結論に至って、頬が熱くなった。したかった主張なのに、人前で話したら照れ臭くて。平時の私の柄ではない。まるで虎柄だ。微かなシャッター音に耐えた。
一人二役を互いにこなして、『人』を完成させていく。自説も広義では、『人と人が支え合って』に該当するのかもしれない。ご主人様に借用を禁じておいて、私がなっていない。私と彼女が人の片割れを回復させられたら、新解釈を作ろう。協力して。今晩はとりあえず、
「私の話はここまで。足りない役をやる、有言実行と行こうか。ご主人様」
「はーい」
「そこの箱を持ってきて」
明るさ全開、機嫌よく翼を揺らすご主人様に、頼み事をしてみた。
目映い笑いに、急にひびが入った。萎れかけの顔で、木箱を運んできた。私の隣に沈んで正座した。失敗だったのだろうか。望まれたように、頼ってみたのだけれど。
「ムラサ船長が、境内の探索で発見した品だ。君達の誰かのものかもしれない」
ひとつずつ掲げて特徴を説明し、
「経机の前に置くから、気になる者は覗いて帰るように。夜道は安全にね、解散。よい一日を」
座礼で読経会を終了させた。
参加者の多くは、法会の後も本堂に留まっていた。目的は入信申請、遺失物の確認、私達とのお喋り、ネタ集め等様々。
申請用紙の束を受け取ったぬえは、熱烈な抱擁とそれ以上の歓迎をしていた。当然一輪と船長に怒られていた。
「あんた姐さんの身体を何だと思ってるの」
「慈愛にも限度があるのよ」
「私が帰依させた信者よ、可愛がっていいじゃない。耳に吐息は止めて、やっぱり踏む?」
お経の暗誦に感激するんじゃなかった、毎日真面目に修行しろ、明日の早朝会の進行やれ、助けてやらない、朝食当番もしっかり手伝え。両側から説教されて、ぬえは大口を開けて笑っていた。
顔を赤らめて三人を見守りながら、聖は白黒魔法使いと天狗の質問に返答。
「弾も一輪のものなのよ。スペルカードも再現できるわ。雲山、入道にょきっ」
小規模な拳骨と光線を実演した。写真機に吸い取られた。
魔法使いは肉体移動の仕組みを、魔導書もどきに記録していた。誰とやるつもりなのだか。しくじりそうだが警告はしない。
山の神々と巫女は、思いつきの魔術で信仰を急増させた聖を警戒。これからも仲良くしましょうと、宣戦布告のような握手をして回っていた。『人という字は』発言は、歴史のある教育ドラマに登場したそうだ。私の奇跡で幻想郷を学園にしましょうかと、空恐ろしい提案をされた。
地底の覚り妖怪は、数多の心理を視て眩暈に襲われたらしい。妹とペットに看護されていた。ただ、くたびれたけれど舞台と楽屋裏に満足したとのこと。じっくり二人になりなさいと、私とご主人様を励まして去っていった。解らないから、解ったときが幸福なのだと。どんな力があっても。
場内の混雑、一段落。小さくなっているご主人様に、どこがいけなかったのか訊ねた。はこ、と弱々しい答えがあった。
「箱って、この失せ物の?」
涙目で肩にしがみつかれた。
「有言実行って言うから、とても楽しみにしてたんです。ナズーリンの初めてのお願い。そ、それが箱って、お客様の前ですし、お仕事が大事なのはわかりますけれど、箱って」
いきなりは難しいでしょうけれど、もっと縋ってください。おねだりしてください。懇願された。食い込む指が震えていた。ご主人様は、物足りなかったのか。
何を頼めばいいのだろう。甘える練習はしたことがない。自分に相談して、心と体の欲しいものを探した。
「喉が渇いた。飲み物貰えるかな」
「緑茶にしますか? それとも、麦茶や紅茶?」
「普通の水がいい。氷の塊を入れて」
「他は」
「胸、が窮屈かもしれない。残り数時間だけど、ご主人様のを借りられる?」
「お安い御用です」
私ができるけれど、ご主人様に委ねられること。堪えていたこと。一個言葉にしたら、次の望みが湧いた。振り子とダウジングロッドなしでも、見付けられた。元気になってきた彼女に、欲求を引き出された。
何でも自力でやることが、彼女には不信と映っていたのかもしれない。鈍感は罪だ。反省して欲張った。
「今夜はご主人様の部屋で、眠っていいかな。私室はご主人様の背丈だと狭くて」
「喜んで。寝巻も布団もどうぞ、私もご一緒します。今夜は寝かさないよ、です」
「いや、眠るから。寝かさないって、私の前口上は変だった?」
「聖が妙に燃えていました。私の新たな可能性がどうとか、殺し文句だとか」
ご主人様は、ぬえの紅い瞳やあどけない唇で笑う。想いはご主人様で、雰囲気もご主人様だけれど、形が違う。
私はご主人様の顔でも、ご主人様のようには笑えない。
彼女にしかできない。
「これは、ご主人様にはつまらないおねだりかもしれないけど。何より叶えて欲しいこと」
羽を騒がせ耳を澄ます、彼女に寄りかかった。辛口は忘れて、なるべく甘く密着した。
「明日、身体が戻ったら。笑顔を見せてくれないかな。幸せな、いつも通りの」
何刻か視界にないだけで、私は淋しさを覚えていたようだ。
私にお返しができないと、ご主人様は落ち込んでいた。けれども彼女の笑みで、私はどれだけ報われていたか。
近くて、わからなかったことだらけだ。
「任せてください。幾らでも、幸せにします」
声は朗らか。月のように満ちていく。
まだぎこちないけれど、私達は支え合う。
今日が素敵で、明日が待ち遠しかった。
ご主人様は、私の教え子だ。成長するから鍛えている。儀式の所作から信者への話し方まで、改良すべき点を指導してきた。良薬のように苦く、毒を交えて。大抵はめげずに応じる。ただ、半泣きで反発されることもある。聖を救ってからは、抵抗の回数が増えた。
私流の支援は、邪魔なのだろうか。
長月、昼下がりの命蓮寺。食堂の長机で、ご主人様は書き物をしていた。冷水を運んで内容を見た。小話の案が並んでいた。晩の読経会用だろう。箇条書きのひとつに、決定の丸がついた。
『人という字は、人と人が支え合ってできている』
どこの俗説だ。訊ねると、
「外の街頭テレビで観た、お芝居の一幕からです。外界の教訓を紹介するのも、いいなぁと思って。誤った解釈ですけれど、温かくて好きですし」
微笑んで、小筆の穂先を整えた。安直な。
「借り物の丸写しは芸がないよ。真似は毘沙門天様の姿だけでいい」
「う」
硯に筆先が押しつけられて、円く広がった。他人の話の借用に慣れると、頭が鈍る。彼女は素でいいことを言えるのに、もったいない。それに第一、
「人という字が優しく支え合っているものか」
ご主人様の記した、『人』の字を指した。
「どう見ても片方が片方に寄りかかっているだろう。対等さが欠片もない」
「あう、う」
実例として、厨房のぬえと一輪とムラサ船長を示してやった。三人は仲秋の名月に供える、白玉団子を試作中。ただし計量や調理をしているのは、一輪と船長の二人のみ。ぬえは隅でつまみ食いに勤しんでいる。
「あんたも働きなさい、怠け者」
「私は試食係。一輪のは硬くて拳骨みたい、ムラサのは水っぽい。はい再挑戦」
「雲山、あいつ餅米と間違えていいから」
「美味しくするわよ。正体不明の種、隠し味にいかが?」
不公平だ。料理組の苛立ちが伝わってくる。餅菓子が弾幕になるかもしれない。
「説得力がない、使い物にならない」
ご主人様は、唇を噛んで唸っていた。目に力を入れて、涙を堪えている。
「他の候補も今ひとつ振るわないね。ぬえではないが、はい再挑戦」
捻らずに、日々の想いを述べればいい。ご主人様の心が、ご主人様の言葉をつくってくれる。そう続ける前に、彼女は和紙全体に罰点をつけた。乱暴な筆遣いのままに、
「私だって悩んで頑張ってるんです! そんなに貶すなら、ナズーリンがやればいいでしょう!」
殴るように叫んだ。同時に台所でも、
「ぬえが作りなさい、こっちの努力も知らないで!」
「一遍拳を食らえばいいのよ!」
少女二人の怒声が上がった。
「あら、何の騒ぎ?」
すすきを抱いて帰宅した聖に、ご主人様と一輪、ムラサ船長が泣きついた。硝子のコップが倒れた。水が紙に染み込んで、真新しいばつがぼやけた。
いきさつを聞いた聖は、
「他の子の気持ちになってみましょう。毎日近くにいても、いいえ、いるからかしら。解らないこともあるわ」
穏やかにたしなめた。私とぬえだけではなく、五人全員を。
私は忠告に頷いた。反論する点はない。ご主人様の胸中を、私は推し量れていない。冷評されて、どのような悩みを抱えているのか。何故、聖救出後は抗いがちなのか。実は私が嫌なのか。読めない。しかし、推理や質問で正答が得られるかどうか。答えを受けて、彼女とよりよい関係を築けるか。最近は自信がない。
ご主人様と一輪と船長は、渋い顔ではいと返事をした。ぬえはからくりのように、首を縦に一振り。皆、思うところがあるらしい。
聖は私達の目を順に見詰め、難しいわよねと苦く笑った。
「他人の心になるなんて、覚りの瞳でも果たせない。想像と思いやりにも限界があるわ。でも理解を怠るのは悲しい。ためになる、素敵な方法はないかしら」
毘沙門天様のお告げを探すように、瞑目思案。三秒後、祈りの両手を打った。
「他の子の気持ちになれないなら、他の子の身体になればいいのよ。形から入りましょう」
提案に一瞬呼吸を忘れた。何を仰る聖白蓮。精神が駄目なら肉体、形に入り過ぎだろう。どういう理屈だ。ご主人様達もうろたえている。好奇心旺盛なぬえ一人が元気付いて、
「面白そう。どうするの、聖」
「私、星、ムラサ、一輪、ナズーリン、ぬえ。六人のからだを無作為に交換するわ。思考は本人のまま、入れ物と能力を別人にするの。身体強化魔術の応用よ」
計画の概要が明らかにされた。中止させなくては。
「そこまでしなくても平気です、仲良くできます姐さん」
「聖の手を煩わせずとも。寺の絆は不沈です」
「問題ありません、協力します」
「飛躍しないでくれ。魔力を抑えよう」
ぬえを除いた四者が動いていた。超人の気を纏い、
「めっ。決めました。やらないよりやる、やらなければ結果は出ないわ」
聖は熱い声で宣言した。瞳には本気の光。張り切って、空間に魔法を構築していく。流石、封印されても意志を貫いた御仁。曲げられない。
ふらつく一輪と船長を、それぞれ雲山とぬえが押さえた。
「寺仲間で女の子同士じゃない。悪いようにはならないわ、状況を楽しみましょう」
「あんたに来られたら私は沈没よ」
「ムラサが聖で聖がムラサ、大当たりの取り替えっこになるかもしれないわ」
「それはそれで照れが、うぅ、でも」
船長が誘惑されて、乗り気になりつつある。一輪も頭巾を外して、耳を傾けている。もう確定事項だ、何にせよ従うしかない。
「術の期限は今日が終わるまで。各自普段着を借りて、なったひとの仕事を担当してね」
半日未満か。その程度であれば無事に過ごせそうだ。ご主人様も、困惑や焦りの表情を引っ込めていた。時間に妥協点を見出したのか。法会の小話の心配がなくなって、落ち着いたのか。仏事の負担の大きい、彼女や聖には誰が選ばれるのだろう。
(そんなに貶すなら、ナズーリンがやればいいでしょう!)
あの怒りが、本当になる可能性もある。
床の魔術式に、聖があみだくじのような紋様を加えていった。
「ごっこ遊びみたいですね。本格的な」
羽衣を畳んで、ご主人様が淡く笑いかけてくれた。同じ顔で応えた。更に色々、話してもらいたかった。
菫に煌めく円陣が完成した。内縁に招かれ、六人で等間隔に立つ。身長と胸囲の変化に備えて、着衣を緩めた。
「いいわね。やり直しは無し。明日に繋がる、心身の幸せなひとときを目指しましょう」
目標を掲げ、聖が魔法を始動させた。青みの紫に輝く、雲が溢れて浮かんだ。眩しく囲まれて、他の対象が見えなくなる。紫雲は無数の蝶となり、私に群がった。外枠を食まれている。苦痛はない。重さもなくなっていく。地に足がついていない。足場を調べる視覚が切れた。心臓や骨、全身が消滅したらしい。思念や魂だけが、留まっているのかと考えた。次第に感覚や、重みが戻ってきた。けれども私のものではなかった。記憶の体重や骨格、五感と差がある。私はこんなに、均整の取れた体付きをしていない。手指は長くないし、背丈もない。視力も聴力も今ほどなかった。妖蝶の間に、遠い爪先が捉えられる。服の裾が足りていない。違和感ではち切れそうになったところで、蝶の大群が霧散した。六人の変身振りが、視界に飛び込んできた。
私の正面。ぬえのワンピースに豊満な肢体を無理矢理詰めた聖が、
「ふむ」
おもむろに、自分の胸を揉み出した。おー、と感嘆することしきり、
「姐さんの身体に何してるの!」
「女の子同士でも性質悪いわ!」
一輪の尼服姿のムラサ船長と、船長の制服の私が左右から膝を蹴りかけた。攻撃を当てずに止めた。聖は普段とはかけ離れた、悪魔的な冷笑を湛えている。
「そうよね、聖の肌に傷はつけられないわよね。あーやわらかい、あんた達も当選したら陰でやったでしょ。絶対」
「ぬえの卑怯者、姐さんを人質に」
「聖から出て行きなさい」
「聖の肉体が私に来たんだもん。苦情はあっちの私にどうぞ、痛みは明日には引いてるわ」
二対の鋭い眼が、ご主人様の戦装束を着たぬえを射抜いた。彼女は視線に怯え、衣服の背でうごめく羽にまごついていた。
「へ、平和的に行きましょう、暴力では解決しません」
「うわ、私の声で平和語ってる」
「聖の声で悪を語るな!」
ムラサ船長、私の喉で吠えないで欲しいのだけれど。酷使されて掠れそうだ。自分の声が、僅かに違って聞こえる。他人の耳には、常にこう届いているのか。
左隣、聖の可憐なドレスに包まった一輪は、きゃっ、とほのぼの赤面していた。腕を上げて私の肩をつつき、
「ナズーリン、私どう言えばいいのかしら。私のために喧嘩しないで? 私の胸のために喧嘩しないで? どっちも自意識過剰?」
「まず事態を収拾、各人に適切な格好をさせるべきだろうね」
ご主人様の声音も、少々ずれがあった。発声器官が体内にあるからか、音が深い。
聖は薄藍の瞳を瞬かせた。
「星にナズーリンの口調って凛々しいわね。これがときめき?」
「私を修羅場に巻き込まないでくれないか」
頭の中で、各々の身の居場所を整理した。
聖の肉体・ぬえの精神。
ムラサ船長の肉体・一輪の精神。
私の肉体・ムラサ船長の精神。
ぬえの肉体・ご主人様の精神。
一輪の肉体・聖の精神。
ご主人様の肉体・私の精神。
総評・深呼吸をしよう。空気が美味しい。
「聖、着替え貸して。外でナズーリンと布教活動でしょ。早速脱がなきゃ鏡用意しなきゃ。しっかり宣伝してくるわ」
「あんたのしっかりは世間のびっくりなのよ。ナズーリン、服と監督よろしく」
「ぬえの衣装、着こなせるでしょうか。ニーソックスというのを履いたことがなくて」
「あ、姐さんが私の着物を。どうしよう雲山、ああ操れないんだった」
「畏縮しないで雲山、私が相棒よ。そーれ、げんこつスマーッシュ」
いい天気だった。明日まで持ちそうだ。
感情以外はぬえになりきったご主人様に、装束と肌着一式を渡された。着付けを手伝うと言われたが、断った。下着は返した。
「一人でやれるよ。ご主人様の身繕いを見てきた。中は自前の大きめのものと、さらしで十分。心配かい?」
「いえ。補佐ができればと、貴方のように」
ご主人様は、私を深く観察していた。姿見なしで自分を眺める機会は、稀少かもしれない。
「私を見上げるのって、大変なんですね。ぬえの身長できついのだから、小さな貴方は尚更」
「慣れたよ。疲れたら休むか飛ぶ」
彼女は大失敗はしない。安心して、目を離していられた。
低い位置の髪を撫でてやった。
「任せて。ご主人様の評判は落とさないようにする。経文の読みを仕込んだのは私だろう」
「せめてお話は私が」
「今夜は私が担う決まりだよ。代理はルール違反。自力でやってみせよう」
怒鳴ったことが叶ったのに、ご主人様はどこか不満そうだった。
「ナズーリンは、独りで何でもできるんですね」
「万能ではないが、大体は。従者は支えるものだ。主の世話になってどうする」
笑みが淋しくなった。どんな言葉が正解だったのだろう。
玄関で、支度済みの聖ぬえが呼んでいる。置いて行かれないようにしないと。
「ご主人様はぬえ役だから、夕飯当番か。期待してる」
「ありがとうございます。献立の希望はありますか」
「腕の蛇を刺身にしないこと」
回れ右させて、私は自室へ。手早くご主人様の武装に袖を通して、里の広場に赴いた。
買い物客や家業の休憩の子供に、読経会と今後の行事予定の紙を配った。聖になったぬえを監視しながら。
「そこの迷える青年、寄っていらっしゃい。聖お姉さんと信仰しましょう」
ムラサ船長に心で詫びた。ぬえの監督は至難の業だ。速くて危なくて手綱が締めにくい。彼女は幼い妖艶さを撒き散らし、平時の聖像を粉砕している。
「今日の命蓮寺は一味違うわよ、六人で身体を交換してるの。いつもの面子の、常ならぬ様が見られるわ。野次馬上等一見上等、仏道帰依はなお上等。友達ご家族揃ってどうぞ。毘沙門堂で待ってるわ」
まあ、事情を広めれば本体のイメージは守れるか。職場放棄はしていないし、人の集まりは上々。縁日のような賑わいができている。
「誰が誰になったかは、配布紙を参照」
全部のチラシに、ぬえの字で六変化が走り書きされていた。聖の速度を以てすれば容易い。この子を見たい、この方に会いたい。あちこちで興味の花が咲いた。群衆の頭上を舞って、ぬえが紙の雨を降らせていく。全方位の人妖を見逃さない。大量の広告が、半刻とかからずに捌けた。大した広報能力だ。
私はご主人様のような、無害極まりない笑顔をこしらえてみた。指示せずとも、彼女は最初から笑えていた。目や口に型が刻みつけられていて、表情の固定は楽だった。けれども、内側が疲労してしまった。善意や幸福を裏なく表すと、私は気力を消耗する。いつの間にか、私の素顔に戻っていた。軽くなる荷物と反対に、心中が重くなった。
帰りの農道、ぬえは巻物をお手玉していた。
「満員御礼、大入り袋ね。ムラサと一輪を驚かせてやるわ。びっくり宣伝の威力を見よ」
「上機嫌だね。聖は気に入った?」
「最高ね。魔術に干渉してずっと居座ろうかしら」
聖役の長所を、彼女は歌うように挙げていった。
ほぼ寺最強。気侭を阻止できそうなぬえ自身とご主人様は、安全どころが務めている。
超人力で万事好調。雑用も楽勝。
外見と声のおかげで、一輪達に懲らしめられない。悪戯が愉快。
「出るとこ出ててふわふわでしょ。ナズーリン触る?」
「結構。趣味じゃないよ」
「慕われる体験、一度してみたかったし。羽は暴れないし」
「羽?」
たまに消したくなるそうだ。秋風になびく軽やかな長髪を、手櫛で梳いていた。今は自らのものなのに、羨ましそうに。
「私が聖だったらな」
「聖のように行動すればいいだろう」
「やりにくいこともあるの。貴方に触れ合い趣味がないみたいに」
「同列にすることかい」
私の反論は無視された。
石灯籠の参道に入って、経典の振り仮名の確認を頼まれた。
「話は交替でナズーリンの番よね。お経くらい読めるところ、あいつらに見せてやらないと」
「負けず嫌いだね」
「負けてないわ」
動機が何であれ、意外と向上心があるのかもしれない。
「おいで。拍と速さも訓練しよう」
六百巻暗誦も余裕の高僧に、一字一句の違いを指摘する。貴重な経験をした。人間離れした体力は何処。ぬえは墨磨りもままならないほどやつれ、
「ありがと。ちょっと夕寝してくる」
薄墨の手を振って退室した。汗の雫が文机に染みていた。私も集中が尽きて横になった。ご主人様の体格だと、私の小部屋は狭く感じる。手足の端が窮屈だ。押し入れや箪笥に当たる。
快適な寝姿を探りながら、小話の題材を案じた。適度な長さで、高尚にも低俗にも偏らないもの。己から湧き出る、生きた想い。聖の行った、大魔法の感想を述べてみるか。からだの引っ越し。珍しくて鮮度がいい。要旨や筋は、これから掬うとして。
脚を組み替えていると、
「ナズーリン、いる?」
私に呼ばれた。
「いるよ」
起き上がって襖を開けた。目線を大分下げて、私の鼠耳と対面した。船長はダウジングロッドを肩に引っ掛け、蓋のない木箱を盆のように持っていた。中身は古着や数珠玉、黒折り紙のかささぎ。
「掃除のついでに探し物をしてみたの。見付けたのはいいんだけど、名前や手掛かりがなくて」
「預かるよ。夜の会で訊いてはみるが、今日中に片付くとは思えない。明日から私が持ち主を捜す」
「ありがとう」
下向きの首は、不自然なのにだるさがなかった。ご主人様が、それだけ見下ろしてきたということか。あるいは、身を低めて視線を合わせた。私が、ムラサ船長の私にしているように。
「聖、じゃなくてぬえがぐったりしてたわ。無茶した?」
問いかけに、ぬえを咎める響きはなかった。気遣っている。
「格好よかったよ」
船長を帰して、発見物を検査した。ご主人様の妖力で視る限り、危険はない。所持者名の刺繍や、目印も一切なし。翌日に持ち越しだ。だが恐らく、
「これは七夕の飾りだろうね。誰のものでもない」
かささぎは、天の川の橋になる鳥だ。離れた二つの星を結ぶ。命蓮寺の笹から落下して、気付かれなかったのだろう。
除外して羽ばたかせたら、何かが透けて見えた。黒紙の内を這っている。展開させて、元の四角い紙にした。かささぎの肌の裏面、白地に墨文字が綴られていた。
『船の妨害をいつか謝れますように。却下、私らしくない。妨害を許せるような、賑やかな大活躍をする』
『また、あいつらと暮らす』
『今度はしくじりたくない。仲間になる』
ぬえの願い事だった。ムラサ船長達は知らない。
食堂には、一輪な聖と船長な一輪がいた。大皿に月見団子を盛りつけている。
「試作は成功したのかい」
「一応。加減が難しかったわ。一輪と雲山は腕力があるから、少しの水分で捏ねられるの。それで歯応えが際立って」
「ムラサは逆。非力で驚いた。霊体の碇じゃないと持てないでしょうね。水の加え過ぎで苦労したわ」
「私達のを合体させて、一輪が星に味付けをお願いしたの。今日はぬえの味覚でしょう。明日本物のぬえが喜ぶわ」
一輪のは硬くて拳骨みたい、ムラサのは水っぽい。ぬえの批評は的確だったようだ。彼女に怒った一輪も、聖と自己の触覚で納得していた。
皿に保存籠を被せ、二人は本堂の準備に向かった。
ご主人様は、厨房で食材や鍋の面倒を見ていた。里芋や栗の皮が、粗い繊維の袋にまとめられている。釜から山の甘い匂いがした。
「栗ご飯?」
「小芋の餡かけもありますよ。今月と来月の、名月のお供え物を使ってみました。お味噌汁の実は人参とこんにゃくをさっと炒めたもの。さやいんげんは緑色が残るようにだしで煮て」
「手間のかかることを」
餡芋の載った、味見の小皿を手渡された。里芋は煮含めて下味がつけられている。銀杏を押し込み、揚げて椎茸のとろみ餡をたっぷり。丁寧さに呆れた。味は若干甘口だけれど、そう受け取るのは私の舌がご主人様のものに化けているからだろう。ご主人様の感じ方も、ぬえのものに変じている。
栗の下ごしらえに芋細工、いんげんの色煮他の同時進行。流しと洗い籠も整然としている。いつでも嫁に行けそうな神様だ。炊事では叱ることが少ない。
「どれも一人で?」
「聖と一輪も、初めは台所にいて。お団子作りの合間に、手を貸してくれたのですけれども。やり辛くて、食卓に移ってもらいました。翼が場所を取ってしまって」
六枚の羽が、背中で奔放に遊んでいた。完全に思い通りにはできないそうだ。時々ご主人様や私、周囲を打ちそうになる。刃物や食器のある、調理場では危ない。
片手鍋の火力を弱め、ご主人様は隅っこに座った。二色の翼を、背と壁で挟むようにして。昼のぬえのようだった。私もはす向かいに腰を下ろした。
「なってみて、思いました」
生蛇の腕輪をあやして、ご主人様は微笑した。大人びた、穏和なぬえになった。
「ぬえ、一輪とムラサを手伝いたかったのではないでしょうか。でも、普通に台所に立つと迷惑をかけてしまう。だから端にいた」
「お人好しの謎解きだね。ご主人様らしい」
的外れとは言えないが。羽を消したくなると、ぬえ本人に愚痴を零されたから。彼女の秘密の望みを見たから。変身ひとつで真っ直ぐ解に辿り着いた、ご主人様は見事だ。善い想像力がある。
「助けられてばかりは、嫌ですから」
「自分のことのように話すね」
「半分は自分のことです」
ぬえの紅眼が揺れた。濃紅の、私の瞳と面しているかのようだ。
初見の仏典を読み上げるように、ご主人様はたどたどしく語った。
「長年。貴方に教えられて、支えられる一方で。お返ししたいのにできなくて。重要な場面で宝塔を失くして、貴方に縋ってしまって」
空飛ぶ船で、ご主人様は沈んでいた。酷い落ち込みようだった。
「聖を復活させて、これからは貴方と支え合うって、決心したんです。けれど貴方は何でもできる、私は相変わらず。出来損ないで、苛々して。後悔するのに、貴方に当たってしまいました。何回も。今日も」
彼女は、私のことで悩んでいたのか。責任感や無力感に苛まれて。
指先で、ご主人様は床に『の』の字を書いていた。
「私は、支えるだけが従者ではないと思います。時には主の世話になる、不完全な部下がいいです。頼ったら、頼られたい」
私は、嫌われてはいなかった。支援と態度で、彼女に透明な壁を作っていた。真剣に乞われて、かなりほっとした。
「正直に、打ち明けてくれればよかったのに。素直はご主人様の特技だろう」
妖の羽とご主人様が迫って、
「わ、私だって隠し事くらいします! 朝晩傍にいるひとに、こんな恥ずかしいこと気軽にばらせません! 失望されて、一緒にいるのに距離を置かれるかもしれないでしょう」
早口でまくし立てられた。勢いに後ずさった。さらしを巻いた胸がきつかった。
彼女はすぐに我に返り、熱気を萎ませた。すみませんでしたと謝って、黒髪を引っ掻いた。撫でて梳かすのは止めておいた。一方的な支えと取られそうだ。
「私ばかり、喋ってしまいましたね」
ニーソックスの腿を擦り合わせ、
「ナズーリンは、私になってどうですか。人里のお勤め、身に不都合はありませんでしたか」
ご主人様は首を傾げた。
ぬえが凄まじかったと報告した。集客の才を垣間見た。私の方は、
「心が笑い疲れた。幸せな笑顔を保っていられる、ご主人様が不思議だよ。嫌々や演技ではないようだし。こつはあるの?」
己の顔に問われ、ご主人様は困ったように目を細めた。頭が横に倒されて、耳が肩にくっついた。意識している秘訣はないらしい。ようやく口にした返答は、
「ナズーリンや、皆が幸せをくれるから?」
私には、千年の隠し事よりも恥ずかしかった。
「ぬえ、あんた料理の勉強しなさい。正体不明の種抜きで、星がこれだけ作れるのよ。おにぎりとうどんと蕎麦の輪廻を脱すれば、才能が開花するわ」
「ムラサが今土下座して足舐めて、『ぬえ様私を悦ばせて』とでもお願いすれば考えないこともないわ。ほら何躊躇してるの、大好きな聖の足よ」
「早まるなよ船長、それは私の身体だ」
「一輪も止めてください、晩御飯が深夜御飯に」
「ぬえを離したいけど無理、ムラサの力じゃ引っ張られて、だ、抱きっ」
「雲山、私見守っていていいかしら。仲睦まじくて動悸がするの」
夕食風景は実に妖しかった。
調子に乗りながら、ぬえはご主人様の手際に感心もしていたようだ。茶を淹れに席を立ったご主人様に、妖怪羽の制御法を教わっていた。内緒話が、ご主人様の優れた聴力で聞き取れた。
聖は頬の火照りを冷ましに、回廊を歩きに行った。一輪の澄んだ大声で、
「皆来て、お客様が」
明るく呼び寄せた。駆けつけて驚愕した。定期読経会の会場に、人と妖が次々吸い込まれていった。収穫祭や正月の餅撒きと、勘違いしたかのような量だった。
「受付開始の時刻はまだなのに。嬉しい」
「ま、私にかかればこんなもんよ」
宣伝隊長のぬえが、菫と金茶の髪を涼やかに払った。入れ替わりを派手に知らせた効果だ。興味本位の参拝客が、多数訪れている。
「座布団と手引書を追加してくるわ、一輪もいらっしゃい。ムラサと星は」
「案内とひとの誘導ですね。床板が沈まないようにします」
「ぬえとナズーリンは幕裏に控えていてください。経典を忘れずに」
走り出す前、一輪とムラサ船長がぬえの両肩に手を置いた。
「まずくなったら木魚を六回連打。船の音声装置を作動させるわ。昔の姐さんの、お経の録音を流すから」
「上手くやれなくていい。後援させて」
ぬえは豊かな胸を張り、
「黙って見てなさい。為し遂げてやるわ」
二人を強力に前進させた。
背後に残った私に向けてか、
「いざってときの信用はないのね、私は。聖の肉体を借りても」
自虐的に援助を嘆いた。差異はあるけれど、ご主人様の悩みに似ていた。彼女が求めているのは、甘い助けではない。
「ないものは探して掴め。逃げる弟子を取った覚えはない」
追い抜き様に言い放った。
毘沙門天様の羽衣に、彼女はついてきた。
「貴方の弟子は幸運ね。できた師匠がいて」
「そうでもないよ。情に疎くてね、傷付けてばかりだ」
すすきを飾った本堂は満杯、立ち見飛び見が当たり前。写真機を構えた鴉天狗が、風の噂に乗せたらしい。泥棒魔法使いやら、守矢神社一行やら。地底の覚り一家やら。遠方の住民も集まっていた。私もぬえも緊張に強い。蓮刺繍の幕から顔を覗かせ、暢気に人数を数えていた。遺失物の箱も用意した。
ご主人様達が、揉みくちゃにされて帰ってきた。代わってぬえが出陣。開放的に色めく挨拶で、堂内を沸かせていた。
「堅苦しいのは無しね、足崩して。私もそうする、正座じゃなくて信仰心が大事。そこの思春期真っ盛りの青年、僧侶の素足に関心が? 踏まれてみる?」
今宵の聖を、健全清楚な大和撫子とは誰も評すまい。ムラサ船長が肩掛けで面を覆っていた。一輪は舟幽霊のからだを揺らめかせ、
「ナズーリン、人里でもあの禁断の姐さんを?」
「結果がこの大入り満員だ。場は盛り上がっている。新規の信者を獲得できるのではないかな」
聖はぬえの振る舞いを見習い、
「ふ、ふまれてみる?」
雲山を挑発して船長らに泣かれていた。
「じゃ、読もっか。仏教と縁のないひとも多そうね。私が先に唱えて、適当なとこで区切るわ。手引を見ながら皆で繰り返しましょう」
正体不明は臨機応変。来訪者の様子に合わせて、易しい段取りを即座に決めた。器用さはあるのだ、親密な友人間でもひねくれなければいいのに。親しいから、逆に告げられないのだろうか。ご主人様と同じで。
「情けは偉いかみさまに捧げて。私が黙り込んでも、放っておいて」
開始の鈴が長く響いた。人々の静まりを待って、ぬえは唇を開いた。三百字未満の簡潔な経文を、聖の癒しの声で音読していった。
一同の脱力を誘うほどの、稚拙さはなかった。発音のずれや、語の最中の息継ぎはある。特訓時に注意した、段々速くなる癖はあまり直っていない。それでも、彼女は仏様の教えを読んでいた。単なる会話にはなっていない。腹式呼吸で声量は満点、よく通って震えない。行飛ばしや誤読は今のところゼロ。詳しい文意は解せていないだろうけれど、音に熱が籠もっていた。練習の何倍も生き生きしている。
「もう立派なお寺の子ね」
一輪とムラサ船長の肩を抱き、聖が喜んでいた。二人娘の不安は、幾らか和らいだようだ。手元の経と読み比べていた、目の険しさが薄れた。私の尻尾の忙しない運動も止んだ。ぬえ姿のご主人様は、聖姿のぬえと共に口を動かしていた。別れた心身を一致させるかのように。
短い読経は終盤に差しかかる。行けると頷きかけた矢先、
「む」
ぬえが沈黙した。
え、詰まった? ここいえるよ、ひじりぬえにおしえる? でもぬえさん放っておいてって。最前列から後方へ、小声のざわめきが広がっていく。手の平を上下させて、ぬえは静観を願った。
黙していられない者は、寺にもいる。船長と一輪が激しく動揺し、幕の末に近寄った。
「何が起きたの、順調だったじゃない」
「ムラサの視力だと異常なしに見える」
「前をいいかい」
二人を避けて、ご主人様の身を乗り出した。ぬえは経机の仏典を睨んでいた。
凝視して、把握した。
「わからない漢字に突き当たった」
「振り仮名つけてたでしょう、姐さんの字引で」
「ああ、今日私が見直しと訂正もしたよ。その加筆部分がぼやけて、正しい読み方に迷っている」
彼女が墨を磨って、自ら筆を執った。声に出しながら改めていった。文脈の境や、拍の記号も書き込んでいた。頭の日頃用いない箇所を、高速で回転させていた。著しく疲労し、書の力が弱まった。硯や文字に汗が零れた。作業は私がやる、ナズーリンは口頭で修正と特訓をして。私に強く頼んで、懸命にやっていた。必死さが、墨色を薄め滲ませた。
「格好つけなくていいわよ、放っておけない」
「上手くやれなくていいって、言ったのに」
仕事を最大限、完璧に為し遂げたいぬえには、甘えは要らない。
ムラサ船長が経典を私に突きつけ、
「あいつどこで困ってる?」
「機材を操作してくる。姐さんのお経、どこから再生させればいい?」
私は答えなかった。裏口に抜けようとした一輪が、翼を広げたご主人様に捕らえられた。
「星痛い、腕脆いの」
「すみません、緩くします。けれど、救援はぬえが望んでからにしてください」
ご主人様はぬえの希望を、身体と心で理解している。
怒る私と、私は対峙した。
「なんで教えてくれないのよ。ぬえが辛いでしょう。聖の名誉のためじゃないわ、あいつが苦しんでるから」
もういい、直接私の本を届けてくる。私の脇を通過しようとした船長を、押さえつけた。ご主人様と私の力比べだ、確実にご主人様が勝てる。私は私の弱点も知っている。持ち上がった尾を手刀で曲げた。筋肉が融けたかのように、彼女が体勢をおかしくした。私の側に倒れ込んだ。
「冷たい。ナズーリンも星も。あいつは命蓮寺の一員でしょ」
「確かに冷酷かもしれないね。だが、寒気が恋しい日もある」
白い袂から、
「船長が、私の能力でした探し物。ひとつ持ち主が判明した。君と一輪に見せたとばれれば、恐ろしい目に遭うだろう。手が滑ったことにして欲しい」
黒いかささぎを出して読ませた。彼女の獣耳が立った。
「誰のものか、付き合いの長い君には一目瞭然だろう」
ご主人様伝いに、一輪の目にも触れさせる。ぬえと近しい両者が、鏡写しのような表情になった。見開いた眼を強張らせた、
「っの、ばか。暮らす、仲間? 今だって同居する仲間じゃない。こっちはとっくに許してる、謝るとか大活躍とか何なの」
「言ってよさっさと。言われても納得しにくいこともあるけど。ムラサと私と、地底で何年過ごしたか」
驚きと悔しさと、自他双方への責めの入り混じった顔。
「大切だから、隠す気持ちもあります」
「君達が仲間と認めても、ぬえが認められないんだ。聖の一件の負い目と、支えられている意識があるから。天邪鬼なりに、本当に信頼されたがっているんだ」
ぬえは木魚を叩こうとしない。難字の並びと闘っている。
「頑張らなくていい。助ける。親切な励ましだ。しかしそれが、お前には期待しない、信用しないと聞こえる場合もあってね。重大な責務のときに、贈られたい応援かな」
ムラサ船長に足に乗られた。私の全体重がかかっている。それなりに重たい。あいつに悪いって解ってたら、言わなかったわよ。ご主人様の衣装に埋まって、船長はくぐもった抗議をした。
一輪は、物言わぬ聖を見遣った。尼頭巾の聖は、後ろで私達をにこやかに眺めていた。最も遠いぬえまで、五名全員を。
「今晩はぬえが住職よ。私は皆がいつも、私にしてくれていることをするわ」
雲山と合掌して、聖は健やかに笑った。寺の長を信じて、神聖な務めの際は動かない。
ここにいるとご主人様と約束して、一輪が拘束を外れた。私にへばりつく、小柄な船長を剥がした。片手を握った。合図されて、私は一歩退いた。二人組が、ぬえの働きを見届けられるようにした。
「受け入れは私の方が早いわね。気付かなければどうしようもないけど。ムラサのか弱さも、知らなかった」
「大丈夫、よね。私はあんなになったら、しばらく立ち直れない」
左胸を押さえて、船長は顔色を悪くしていた。手を滑らせたついでだ。安心させるために、私は口も滑らせることにした。
「経文の仮名の直しは、ぬえに依頼された。お経くらい、読めるところを見せてやるってね。彼女はやる気と根気がある。細かく厳しく授業をしたが、弱音を吐かなかったよ。絶対に伸びる。もっと辛口の指導をしたい」
ご主人様が、自分が褒められたかのようにはにかんでいた。それでいい。
聖は微塵も憂いを見せず、
「ぬえはお寺の子よ。私達はあの子の傍で、何千回お経を声にしたかしら」
音の記憶が導いてくれるわ。魔法のように予言した。
ぬえは経の折り本を畳み、毘沙門堂の天を仰いだ。諦めていない。口は語の形に、絶えず変化している。
仏神が降臨したかのような、凛とした静けさ。停止した空気を、
「さ、続けますか」
彼女の不敵な笑みが破った。
瞳の先は参拝客。書物を開かず、堂々と残部の暗誦を始めた。声音に一点の曇りもなく。
上手い。贔屓目なしに素晴らしいと思えた。注意点が改善されて、障らない。彼女に刻まれた仏門の言葉が、綺麗に表に出ている。聖達のように優美に、彼女らしく輝いて。
ムラサ船長の左手が下がった。一輪は握り拳。
雲山に寄り添う聖は、変わらずのんびり。
ご主人様は、両手両羽を打ち合わせるのを寸前で我慢していた。私の教え子達は、どうしてこうも可愛いのだか。
最後の一句を、堂全体で唱和した。鈴が続いた。
「ありがとね。あー、ちゃんと座ってないのに足痺れた。これ聖の身体だから、正座で平気だった? まあいいや。新聞屋、退場撮影どうぞ。あられもない姿になるかもしれないけど」
膝裏に観衆とレンズの熱視線を浴び、よろめき歩きでぬえは座を後にした。船長と一輪に迎えられて、温かい暴言をぶつけられている。自慢でやり返して、嬉しそうにしていた。話を聞いていたいけれど、次は私が行かなければ。
「取りは任せたわ、ナズーリン」
「神様してくるよ」
交替の手をぬえと交わし、ご主人様に涼しく笑いかけた。満開の、ぬえの笑顔が返ってきた。
毘沙門天様を祀る建物は、出囃子の欲しい雰囲気になっていた。大勢の客と、机を挟んで向かい合う。
「さあ、平和な読経の時間だ。私はハプニングに見せかけたパフォーマンスはしない。露出を求めてもご覧の通りだ」
鉄壁の装束の、足首まである下穿きを指差した。残念がられて、活気が衰えても構わない。予想はしている。
ぬえの聖は寺院に縁遠かった、新しい信者候補を集めた。仏道は軽くて親しみやすいと、来場者に印象付けた。外見を変えたら、今度は中身だ。教えの神髄に迫らせる。
「先刻より長い。口は休ませてもいい。その代わり、手引にある経文と意味を目で追って欲しい。一音一語の成すものを知れば、経は異国の呪文ではなくなる」
仏法僧の三宝と、ひとへの礼を尽くして座る。古い書の、毛羽立った表面をならした。
「退屈と睡魔は私が退けよう。今夜は寝かさないよ」
聖の興奮した悲鳴が、控えの幕裏で上がった。会場の温度も上昇した気がする。何か、誤ったことを述べただろうか。原因が解明できない。推理は切り上げて、鈴を鳴らした。仏様と毘沙門天様への熱意は、幾らあってもいい。
私の心とご主人様の声で、一巻十数段の経典を読んだ。全身が発声のために鍛えられていて、やりやすかった。息を乗せれば、優しい光の音になる。気持ちがいい。浮かれないように用心した。抑揚は過激にせず、一声の伸びや末尾に気を配る。初心者に配慮して、速度はやや遅め。けれども要所で締めて、だらけさせない。訴えたい真理があるのだと、万物万人は清浄だと、耳に伝える。
単に唱えて終わりにはしない。相手に届かない言葉は、淋しいから。
善行をめぐらせて、自他の悟りに向けるよう。祈願して、鈴音で結んだ。皆は興味を涸らさなかっただろうか。人妖の聴衆に目をやった。居眠りはいなかった。安堵して、脳内で丸をつけた。
「ありがとう。不明箇所は多々あるだろう。しかし、胸に残る部分もあったはずだ。賛成であれ、反対であれ。そこから知識を深めていくといい。疑問は寺に持っておいで」
さて。前傾気味になった、居住まいを正した。
話したいことがあった。肉体交換の感想も兼ねて。ご主人様に、本心を明かされて。ぬえの願いと努力、活躍を目にして。わだかまりを少しといて、とかして。言いたいことが生まれた。
最初に声になったのは、
「『人という字は、人と人が支え合ってできている』」
騒動の発端。私がけちをつけた、外界の教訓だった。
「守矢神社の面々は、外にいたからご存知かな。大結界外の、劇の名言らしい。俗説だからね、寺子屋通いの子は本物と誤解しないように。漢字の『人』は、正しくは人間の立った姿を表現している」
角を刺されないように、正誤をはっきりさせておいた。
「俗説と心得た上で見ても、間違いだと思ったけど。試しに手の平に書いてご覧」
ご主人様の手を黒板にして、私も綴った。
「左側が、右側に寄りかかっているだろう。公平ではない。『人』はやはり、一人の人間が両脚で立っている字だ。二人や三人にはならない。おめでたい解釈は捨て去ろう」
裏で、ご主人様が悲しんでいるかもしれない。短く夜の空気を吸って、
「と、今日のからだの入れ替えまでは感じていたんだけどね」
前置きを覆しにかかった。
「覚り妖怪でも、他者の心になれはしない。他人の気持ちになれないのなら、身体になればいい。寺の不和をなくすために、聖がそう説いてね。魔法で肉体をシャッフル。とんでもない発想と効果で、初めは現実逃避しかけたよ」
色気と悪に目覚めた聖(ぬえ)。
最も変身の影響がなさそうだけれど、聖ぬえの抑止力もなさそうな船長(一輪)。
聖のために叫んで蹴って。心が乙女の私(船長)。
力はあるのに混乱を鎮められない、怖がり平和主義者のぬえ(ご主人様)。
起こした異変を満喫する、ときめき一輪(聖)。
夢も希望もないご主人様(私)。
第三者になりたかった。
「だが、なって初めてわかることがあってね。身長や目線、身体能力、得手不得手。本人しか知り得ない情報が、心境への想像力を膨らませてくれた。己を完全に客観視するのも、未知の経験だった」
振り返れば、かけがえのない時間だった。
「異様な状況のおかげで、普段見えない心が見えた。今は聖に感謝しているよ」
でも延長はしないようにと、彼女のいる幕に言っておいた。
「ご主人様の身になって、色々あって。『人』の漢字の見方が変わったよ。一字の中で、人と人とが助け合っているとは考えられないけれど。我流の、おめでたい解釈は閃いた」
再び、左手に人と記した。
「この字の二本の払いは、人間の脚ではない。在り方だと思う。左は、誰かに支えられている。頼っている。右は、誰かを支えている。頼りになっている。一人のひとが、二つの役をしているんだ。どちらが欠けても、人ではなくなる」
別の字や、辞書に載れない記号になってしまう。
「けど私を含め、ひとは愚かでね。性格や立場の所為で、どちらかに偏ることがある。頼る一方、頼られる一方。使われない方の役は、ぼやける。墨の文字が、水に滲むように。最終的に、薄れて消える。私は飛び切りの馬鹿だから、消滅を自覚できなかった」
溜め息交じりに苦笑した。現在の格好だと、ご主人様を貶めているようで申し訳ない。前向きに語ろう。
「支えられたら支える。支えたら支えられる。対等でないとね。自分が片方に寄っていないか、胸や他人に聞いてみて。足りない側をやろう。どちらかを強制されたら、反発していい。相手に伝わるようにね」
善良な台詞を積み重ねて、
「役が消えてしまったら、書き直す。抵抗はあるし、時間もかかるけれど。前より成長できるはずだよ。自身も、周りも。人は独りでは、人になれないんだ」
結論に至って、頬が熱くなった。したかった主張なのに、人前で話したら照れ臭くて。平時の私の柄ではない。まるで虎柄だ。微かなシャッター音に耐えた。
一人二役を互いにこなして、『人』を完成させていく。自説も広義では、『人と人が支え合って』に該当するのかもしれない。ご主人様に借用を禁じておいて、私がなっていない。私と彼女が人の片割れを回復させられたら、新解釈を作ろう。協力して。今晩はとりあえず、
「私の話はここまで。足りない役をやる、有言実行と行こうか。ご主人様」
「はーい」
「そこの箱を持ってきて」
明るさ全開、機嫌よく翼を揺らすご主人様に、頼み事をしてみた。
目映い笑いに、急にひびが入った。萎れかけの顔で、木箱を運んできた。私の隣に沈んで正座した。失敗だったのだろうか。望まれたように、頼ってみたのだけれど。
「ムラサ船長が、境内の探索で発見した品だ。君達の誰かのものかもしれない」
ひとつずつ掲げて特徴を説明し、
「経机の前に置くから、気になる者は覗いて帰るように。夜道は安全にね、解散。よい一日を」
座礼で読経会を終了させた。
参加者の多くは、法会の後も本堂に留まっていた。目的は入信申請、遺失物の確認、私達とのお喋り、ネタ集め等様々。
申請用紙の束を受け取ったぬえは、熱烈な抱擁とそれ以上の歓迎をしていた。当然一輪と船長に怒られていた。
「あんた姐さんの身体を何だと思ってるの」
「慈愛にも限度があるのよ」
「私が帰依させた信者よ、可愛がっていいじゃない。耳に吐息は止めて、やっぱり踏む?」
お経の暗誦に感激するんじゃなかった、毎日真面目に修行しろ、明日の早朝会の進行やれ、助けてやらない、朝食当番もしっかり手伝え。両側から説教されて、ぬえは大口を開けて笑っていた。
顔を赤らめて三人を見守りながら、聖は白黒魔法使いと天狗の質問に返答。
「弾も一輪のものなのよ。スペルカードも再現できるわ。雲山、入道にょきっ」
小規模な拳骨と光線を実演した。写真機に吸い取られた。
魔法使いは肉体移動の仕組みを、魔導書もどきに記録していた。誰とやるつもりなのだか。しくじりそうだが警告はしない。
山の神々と巫女は、思いつきの魔術で信仰を急増させた聖を警戒。これからも仲良くしましょうと、宣戦布告のような握手をして回っていた。『人という字は』発言は、歴史のある教育ドラマに登場したそうだ。私の奇跡で幻想郷を学園にしましょうかと、空恐ろしい提案をされた。
地底の覚り妖怪は、数多の心理を視て眩暈に襲われたらしい。妹とペットに看護されていた。ただ、くたびれたけれど舞台と楽屋裏に満足したとのこと。じっくり二人になりなさいと、私とご主人様を励まして去っていった。解らないから、解ったときが幸福なのだと。どんな力があっても。
場内の混雑、一段落。小さくなっているご主人様に、どこがいけなかったのか訊ねた。はこ、と弱々しい答えがあった。
「箱って、この失せ物の?」
涙目で肩にしがみつかれた。
「有言実行って言うから、とても楽しみにしてたんです。ナズーリンの初めてのお願い。そ、それが箱って、お客様の前ですし、お仕事が大事なのはわかりますけれど、箱って」
いきなりは難しいでしょうけれど、もっと縋ってください。おねだりしてください。懇願された。食い込む指が震えていた。ご主人様は、物足りなかったのか。
何を頼めばいいのだろう。甘える練習はしたことがない。自分に相談して、心と体の欲しいものを探した。
「喉が渇いた。飲み物貰えるかな」
「緑茶にしますか? それとも、麦茶や紅茶?」
「普通の水がいい。氷の塊を入れて」
「他は」
「胸、が窮屈かもしれない。残り数時間だけど、ご主人様のを借りられる?」
「お安い御用です」
私ができるけれど、ご主人様に委ねられること。堪えていたこと。一個言葉にしたら、次の望みが湧いた。振り子とダウジングロッドなしでも、見付けられた。元気になってきた彼女に、欲求を引き出された。
何でも自力でやることが、彼女には不信と映っていたのかもしれない。鈍感は罪だ。反省して欲張った。
「今夜はご主人様の部屋で、眠っていいかな。私室はご主人様の背丈だと狭くて」
「喜んで。寝巻も布団もどうぞ、私もご一緒します。今夜は寝かさないよ、です」
「いや、眠るから。寝かさないって、私の前口上は変だった?」
「聖が妙に燃えていました。私の新たな可能性がどうとか、殺し文句だとか」
ご主人様は、ぬえの紅い瞳やあどけない唇で笑う。想いはご主人様で、雰囲気もご主人様だけれど、形が違う。
私はご主人様の顔でも、ご主人様のようには笑えない。
彼女にしかできない。
「これは、ご主人様にはつまらないおねだりかもしれないけど。何より叶えて欲しいこと」
羽を騒がせ耳を澄ます、彼女に寄りかかった。辛口は忘れて、なるべく甘く密着した。
「明日、身体が戻ったら。笑顔を見せてくれないかな。幸せな、いつも通りの」
何刻か視界にないだけで、私は淋しさを覚えていたようだ。
私にお返しができないと、ご主人様は落ち込んでいた。けれども彼女の笑みで、私はどれだけ報われていたか。
近くて、わからなかったことだらけだ。
「任せてください。幾らでも、幸せにします」
声は朗らか。月のように満ちていく。
まだぎこちないけれど、私達は支え合う。
今日が素敵で、明日が待ち遠しかった。
一人一人キャラクターが立っていて、しかもそれを自然に同時に使いこなしているなんて。
独特な言い回しやセリフにも、あり得ないほどのセンスを感じました。
40kbが短すぎると感じるのも珍しいことです。もっともっと読んでいたかった。
素晴らしい良作をありがとうございました。
深山さんのナズがすごく好きです。
貴方の描く命蓮寺は温かさに溢れてますね。
半日のあいだ、どっちにしろナズーリンの傍には終始ぬえがいたんですね
今回ナズ星以外の命蓮寺メンバーがかなり掘り下げられていておもしろかったです
あとさとり様が…「Eyes」」や「ふたりかたり」で彼女の考える幸せを語っていたシーンをを思い出しました
だからこそ、明日が来るのが惜しいと思った
あっという間に読み終えてしまった
もう少しこの物語に浸っていたいと思わされました
それにしてもぬえ聖えろい
余韻を残しつつ素晴らしき読後感。ありがとうございました!
つまり何このナズ星可愛い。
暗唱に感動しました
作者様の綴るお話は本当に心をくすぐる。聖ぬえの暗誦など涙無しに読めませんでした。今回も読んで良かったです。
それにしても毎回キャラクタがぶれないのも凄い。これからも是非読ませて頂きます。
見た目聖なぬえと見た目星ちゃんなナズもツボでした
お見事でした。
内容の方も見所が多く楽しめました。
ナズ星部は言うまでもなく
ぬえ関連のとこが良かったです
何回言ったかわからないけど
やっぱり文章の雰囲気とか言葉の選び方が好み過ぎる
ぬえ姐さん自重w
でも、ぬえの内心が掘り下げて描写されているところには、
さすが筆主様だと感服させられました。
命蓮寺メンバー物はやはり素晴らしい。
ご馳走様でした。
入れ替わりが単なるネタではなく、メインテーマを際立たせる為のギミックとしている所に
深山さんの作品の深さ、筆力の高さを改めて感じさせていただきました。
楽しい作品ありがとうございました。
小学生でも知っていることの筈なのに、どうしても忙しく生きているうちに蔑ろとしがちなことだと思います。
それを、丁寧に面白く伝えきったこの作品の素晴らしさには感嘆という言葉を以てしても足りません。
素晴らしかったです。本当に、本当に、素晴らしかったです。
読みながら頭の中で映像にするタイプなので、入れ替わりものは苦手なのですが、
それを上回って読ませられる話でした。
今回もまあ、いつもの通り、いや、いつも以上に良い物語で、
40kbが実に短く感じられました。
入れ替わりがテーマで真面目な考察をなされる作者さまの洞察力と
それを物語に整える力に感服させられます。
提示した問題(特に前作までのナズ星)を解決する…とはいかなくとも
少しだけ二人の関係が氷解する話で、
もしかしたらこれで深山さんの命蓮寺組は完結かなとの、薄ら寂しいの思いも。
好き勝手に暴れまわる羽という解釈は面白い。
>40kbが短すぎると感じるのも珍しいこと
>これ40kbかよ!
>40kbが実に短く感じられました
肉体交換くじの結果で、視点と題名を決めました。プロットはなかったのですが、8000字くらいになるかな、と予想していました。倍以上の長さになりました。
疲れることなく、お読みいただければ幸いです。
>命蓮寺の一人ひとりの魅力
>命蓮寺メンバー一人一人が際だってて
各人の個性が活きていれば、何よりです。原作の全員が素敵ですゆえ。
別人になると、かえって本人の特徴が表れやすいかなぁと思います。黒地に落ちた白が目立つように。
>今回ナズ星以外の命蓮寺メンバーがかなり掘り下げられていて
入れ替えるからには、六人を描き切りたい。考えて、文字にしていきました。
ナズーリン・星の不和と、地底三人組の不和。冒頭で怒った側と怒られた側、支える側と支えられる側。交わって、お話になっていきました。
星の精神がぬえの肉体に当たったのは、今思うと幸運でした。
>ギャグに走ったり空振ったりしがちなテーマにもかかわらず、最後までしっかりと完走
>入れ替わりが単なるネタではなく、メインテーマを際立たせる為のギミックとしている所
>相手の気持ちになって考える
ただ入れ替わるのも面白いのですが、もうひとつ意味を持たせたいと思いました。きちんとゴールできていますように。
人の成り立ちや、誰かの心になることの難しさ。対等であること。柔らかく、物語として書けていれば幸せです。
>ぬえ絡みの部分が凄く好き
>こういう成長譚というか、友情譚というか、私は弱いのです
>ぬえ関連のとこが良かった
>ぬえの内心が掘り下げて描写されているところ
ぬえの心境にあまり踏み込めていなかったので、描けてよかったです。一輪、ムラサとの繋がりや、彼女達の慕う聖への羨望、決意を形にしてみました。
心を揺らせると、非常に嬉しいです。
>ひじりんの性格が良すぎるw
>ひじりんかわいいww
おっかない立案実行者か、命蓮寺親交の種蒔きか。ナズ組・ぬえ組双方から一歩離れた、全体の見守り手でした。
決めるところ以外では、気付くとときめいていました。ぬえによって色気付いた自らや、「寝かさない」星ナズーリンに。事態を一番満喫していたようです。
>薄ら寂しいの思い
優しいお言葉、ありがとうございます。書きたいときに、書きたいものを文章にします。
人や場所の角度を変えると、また色々なものが見えてきます。林檎の美味しい食べ方は、アップルパイの他にも沢山あります。
きっと頭のいい人が書くから、難易度高めのぶんしょうになるのでしょうか?
おもしろかったです。
入れ替わりネタも1対1ならよく見かけますが、この規模で、しかも全員を見事に描ききれるのは凄いとしか言えないです。
ぬえ聖が特に良いキャラしてて好きでした。
持ちつ持たれつ、互いに利用しあうのが人間関係というものですね。
ぬえが身振り手振りから内面まで素敵な話でした。
あと、氏の作品のお陰で自分のナズーリン株が急上昇です
そう思ったよ
各キャラがよく生きているなぁ。
ナズーリンのフォーローが秀逸だった。
入れ替えものなのでキャラの外見イメージが多少大変だった面もあるが、読み進めていくに連れてだんだんスッとできるようになっていった。ぬえとナズーリンが特にかわいかったですw
聖と雲山がとてもとても可愛らしくて病みつきになりそうです