Coolier - 新生・東方創想話

お芝居ですよ?

2010/09/18 19:07:10
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 今から話すのは、ある祭りで行われたお芝居のお話。

 脚本家の悪のりと演劇者の低テンションが目立つお芝居でありますが、それでも見終わればどこか愛着が湧くものでありました。

 演劇者達にとっては今更蒸し返してほしくないお話でしょうけど、今しばらくお付き合いお願い申し上げます。

 それでは、始まります。





 むか~しむかし、ある所に四人の姉妹が住んでおりました。

 この四人姉妹はとても仲が良く、また御近所づきあいも良好で、毎日を平穏無事にのんびりと暮していました。

「みんな、朝ご飯ができたわ!」

 朝食の準備ができた事を伝える為、長女は台所から大きな声を出しました。

 この長女の名前は咲夜。容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、残念絶壁と色々な凄い呼称がよく似合う、正に才色兼備のお穣さん。

 そして、親がいないこの姉妹達にとって、母親の代わりに妹達の面倒を見る母親的存在でもあります。

(…! ちょっと、明らかに悪意が込められた単語が一つ聞こえたわよ!)
(まあまあ、落ち着け。別に間違った事を言った訳じゃないんだからさ)
(な、なんですっってぇぇぇ!!?)
(お、落ち着いてください、咲夜さん!)

 -こら、勝手に台本に無い事を喋らないでください。

(…後で覚えていなさい)

 うおほん。

 長女の声に誘われる様にして妹達が続々と集まってきました。

「あー、もう朝飯か。っていうか、もう朝か…」

 この眠気を隠そうともしない娘の名前は魔理沙。この姉妹では三女にあたります。

「また徹夜をしたの?」
「ああ、今日締めきりの依頼があったからな。実入りは意外と良いんだが、短納期でおまけに面倒な物ときた。お陰で完徹だぜ」

 魔理沙の職業は魔法使い。生まれつき魔法の素養があったこの三女は学校を卒業した後、魔法の研究を始めました。研究の一環として作りだされた魔法の道具はとても生活に役立つものが多く、それらは住んでいる町の人々にいつしか求められるようになりました。

 いまでは沢山の人から魔法の道具の作成を依頼される様になりましたが、時々失敗して大爆発を起こすのは御愛嬌というものです。

(おい、ちょっと待て! なんかこれ魔法使いじゃなくて、別の職業になっているぞ! っていうか、誰だよ、この脚本を書いた奴は!)

 -今更台本にケチをつけないでください。

 うおほん。

 三女がもっそりと朝食に手を伸ばし始めたころ、パタパタと台所に入って来た娘がいました。

「おはよう、咲夜お姉ちゃん、魔理沙お姉ちゃん。今日はフレンチトーストにスクランブルエッグか」

(…なんか、早苗にお姉ちゃんって言われるとこそばゆいな)
(言ってる私はもっと恥ずかしいですよ…)

 学生服姿で現れたのは四女の早苗。服装からも推測できますとおりこの四女は学生でありますが、この姉妹の中では長女に次ぐしっかり者です。

 多忙の長女の代わりに家事を一手に引き受けえう事もあれば、次女や三女がしでかした事の後始末をしたりと、正に姉顔負けの頑張り屋であります。

 しかし、年相応にちょっとドジなところがあり、たまに姉達に甘えたくなる事があるところなど、可愛いらしい一面もあります。

(な、なんですか、このキャラ紹介は…! とても恥ずかしいですよ…)
(いいじゃないか、褒められている分には。私なんていきなり問題児扱いだぜ?)

 さて、ここに四人姉妹中三人が集まりましたが、残りの一人はと言いますと、

「ふあぁぁぁぁ……ねむ…」

 三人がそろそろ朝食を食べ終わるかといったタイミングで台所に入って来たのが、次女の霊夢です。

「おいおい、いつまで寝てるんだよ。もう少ししたら神社に行かなくちゃいけない時間だろ?」
「うるさいわね、ちょっとぐらい遅れたって文句は言われないわよ。どうせ、参拝客なんて来ない場末の神社なんだから」

 そう言って次女は大あくびをしながら席に座り、モソモソと朝食を食べ始めました。

 さて、このだらしない次女は普段何をしているのかと言いますと、町の外れにあります神社で雇われの巫女さんをしております。

 その神社は由緒正しく歴史の古い大きな神社でありますが、時代の流れによるものなのか、それとも新興の神社やお寺が町にできた為か、はたまた愛想のない巫女さんが一日ダラダラしているせいなのか、最近ではめっきり閑古鳥状態となっております。

(ちょっと、それってあんにうちの神社の事を言ってるの!? いや、それよりも、私の扱いって酷くない!?)
(何言っているんだ、全て正当な扱いだろ?)
(どこも間違ってないわね)
(あ、あんたら…!)
(お、落ち着いて。皆さん、お願いですから落ち着いて下さい!)

 -静粛に!

 うおほん。

 えー、ちなみに申し上げますと、なぜそんなサボタージュ全開の巫女がクビにされないかと言えば、ここでも四女の早苗が頑張っているからです。

 学校が終わった後に四女も巫女として二女のお手伝いをしているのですが、境内の掃除から町での様々な活動と、一人二役以上の働きをしておりました。

 この四女の頑張りがあるからこそ次女の首は何とか繋がっているのですが、いやはや姉より優れた妹など居るはずがないと言われておりますが、ここでも次女の沽券は大暴落している様子です。

(ふ、ふふ、ふふふふ…。OK、 その喧嘩、買ったわ…!)
(わ、馬鹿、お札を取り出すな! 針を投げるな!)

 こ、この様に四人姉妹は仲よ…く(?)暮らしていました。

 さて、毎日を個人個人楽しく過ごしている四人姉妹ですが、今までの生活が一変する様な事件がおきます。

 それは、雨の降る夜の事でした。

「ごめんください」

 四人姉妹が揃って夕食を取っていた時の事です。玄関から誰かの訪問を告げる声がしてまいりました。

 こんな夜分に一体誰が何の用であろうと訝しむ姉妹でしたが、とりあえず長女が応対する事のしました。

「あら、貴方がこの家の家長さん? 失礼したわ、あまりにも若かったものだから、つい」

 玄関を開けるや否や、開口一番に謎の訪問者は長女に対してこんな事を言いました。

「…貴方は誰?」

 訪問者の言葉に気を悪くした長女は、少し剣呑な口調で問いただしました。

「あらあら、失礼。私はこういう者よ」

 この、どこか胡散臭さが漂う訪問者は、何処からともなく名刺を取り出し、長女に渡しました。

「迷い家金融所長、紫?」
「まあ、ありて言えば金貸し屋よ」

 名刺に紫と記されているこの胡散臭い女性は、どうやら金貸しを営む、こわ~いお方の様です。

「あ、あの、金貸し屋の方がどうして我が家に?」

 その台詞を待っていたと言わんばかりに、金貸し屋は胡散臭そうにニヤリと笑いました。タダでさえ胡散臭い雰囲気を醸し出していた金貸し屋ですが、この胡散臭い笑顔で強烈に胡散臭い印象を長女に上付けました。

(ちょっと、胡散臭い胡散臭いって連呼するのは止めてもらえないかしら?)

 -いえ、台本通りなので。

(そこを何とかしてもらえないかしら。私にだって乙女心というものがあるのよ?)
(何が乙女心だ。その辞書よりも分厚い面の皮には、ぴったりの呼び名だぜ)

 -ああ、そこ、勝手に喧嘩を始めないでください。

 うおほん。

 さて、この胡散臭い金貸し屋は、名刺に続いて一枚の紙をどこからともなく取り出しました。そして、そ
の紙を長女に突きつけました。

「こ、これは、父さんと母さんの…」

 長女が見た紙には、四人姉妹の父親と母親の名前が書かれていました。そして、その字は紛れも無く父親と母親のものでありました。

 しかも、姉妹達の両親の名前が書かれた紙と言うのは、

「そう、貴方達の御両親は、私の所からお金を借りていったの。それも、貴方達が全額を返すという契約で」

 そうです、姉妹達の両親は、あろう事か娘達に借金を押しつけたのでした。しかも、その金額はというと、長女が思わず自分の目を疑いたくなる様な数字でした。

 ここで改めて言っておかなくてはなりませんが、実は四姉妹のご両親は死んでいるのではなく、娘達を放置して遊び呆けているので、家にいないだけの事でした。

 どんな親だと憤る方もいらっしゃるでしょうが、娘達に借金を押しつける外道ぶりが全てをものがたっております。

 また、姉妹達も姉妹達で親など居ないと思い定めて生きてきましたが、事あるごとに無用なトラブルを持ち込まれてきました。

 そして、今日もまた厄介なトラブルが持ち込まれたのでしたが、

「こ、こんな大金がうちに有る訳がないわ」

 長女は何度も何度も金貸し屋が持つ契約書を見直しましたが、途方も無い金額に変わりはありませんでした。

 我目に間違いは無いと分かるや、長女は思わずその場に座り込んでしまいました。

「貴方の心情に同情をするわ。いきなりこんな大金を返せって言われて、驚くなという方が無理だもの」

 この超胡散臭そうな金貸し屋は長女に同情を示す態度をとりました。そんな思わぬ言葉に長女は顔を上げましたが、そこには冷酷で胡散臭そうに笑う金貸し屋の笑顔がありました。

「でもね、私達も商売なの。無いから返せれませんっていう子供の道理は通じないのよ」
「で、でも、これは私の父と母が勝手に借りたお金で…」
「その両親が、貴方達が返すという契約でお金を借りていったの。どんなにろくでなしのクズでも、あれは一応貴方達の親。親が駄目なら、その子供が後始末をつけるってものでしょ?」

 この冷徹で胡散臭そうな笑顔の前では、何を言っても冷たく打ち払われると悟ったのでしょうか。長女はその場にガクリと崩れ落ちました。

「返済期限はこの紙に書いてある通り。もし返せれなかったらどうなるか、分かってるわよね?」

 そう冷たく胡散臭い言葉を残して、超ド級に胡散臭い金貸し屋は帰って行きました。

(さっきから大人しく聞いていれば、調子に乗ってるわね)
(ねえ紫、ここらで一発締めておく?)
(あ、その案、私ものった)

 -いえ、だから、これは、台本通りですってば。本当ですよ?本当に。

 うおほん。

 さて、雨の中一人取り残された長女は、後から様子を見に来た妹達によって家の中へと運ばれて行きました。

 そして、茫然としている長女から話を聞いた妹達もまた、慌てふためきました。

「あいつらがしでかした事なんて、私達には何にも関係ないぜ!」

 憤慨の感情を露わにして大声を上げたのは、三女の魔理沙でした。

「そ、そうですよ、こんな勝手な借金、無視しちゃいましょうよ!」

 三女の発言に賛同したのが、四女の早苗でした。そして、その横で次女の霊夢がウンウンと首を縦に振っています。

 しかし、長女の咲夜は悲しそうな表情で静かに首を横に振りました。

「駄目よ、相手はスジ者よ。私達の理屈なんて、通りはしないわ」

 長女のその一言に、妹達は返す言葉もありませんでした。

 どんなに理屈が通っていようとも、理屈を強引に捻じ曲げて罷り通るのがその道のプロというものです。一度睨まれたが運の尽きで、スジ者達に抵抗するには四姉妹は余りにも無力でした。

「でも、お金はどうするの?こんな大金はうちにはないわよ」

 一人冷静でした次女が、重い口調でこう尋ねました。

「どうするもこうするも、働いて返すしかないわよ。スジ者がらみとなれば、私達にお金を貸してくれる人なんていないだろうし」

 長女は沈痛な思いでこう答えました。

 でも、ここにいる誰もがこう思いました。とてもじゃないけど、働いて返せれるお金じゃない、と。

 だけど、長女は気丈に振舞ってこう言いました。

「大丈夫、私に任せて。何とかしてみるから」

 万事において万能であるこの長女が任せろと言ったのです。妹達の胸中には、一体どうやって、という疑問符がいっぱい浮かんだでしょうが、具体的な打開策を持たない彼女達は結局姉の言う事を信じる事にしました。

(…ねえ紫、殴って良い?)
(ちょっと!? 霊夢!?)
(いや、なんかさ、話を聞いていたら無性に紫を殴りたくなってきたんだけど)
(お、いいね。この血も涙も無い妖怪を簀巻きにして、川に放り込もうぜ)
(そう言うと思ったから、道具はもう用意してあるわ)
(準備がいいじゃないか、咲夜。それじゃあ、始めるとするか。おい早苗、とりあえずそこの冷血胡散臭い妖怪を羽交い絞めにしろ)

 -え~、場外乱闘は止めてください。

 うおほん。

 それからの四姉妹の生活は、大きく変わってしまいました。

 三女の魔理沙は通常よりも多くの依頼を受ける様になり、毎日夜遅くまでテンヤワンヤの生活をしております。

 そして、何かに掛けてやる気が無い次女の霊夢は、驚く事に少しだけ真面目になり、散々ほったらかしにしていた境内の掃除を自らやる様になりました。

(おお、本物よりも真面目じゃないか)
(馬鹿言わないで。いくら私だってちゃんと掃除ぐらいはするわよ)
(…それは胸をはって言う事じゃないと思いますよ、霊夢さん)

 また、その次女を手伝っています四女の早苗も神社で沢山働く様になりましたが、学校を休みがちになってしまっています。

 だが、一番生活が変わったのは長女の咲夜でした。

 長女は元々、『紅魔館』というメイド的な何かの店で働いておりました。何故この様な場所で働いていたかと言いますと、まず賃金が良いという点が挙げられます。

 また、長女の能力が見込まれ、マネージャーという役職という肩書を入って早々手に入れる事になってしまったという事もあり、更に賃金が高くなっていたのです。

(…なんか、私の館が安っぽく使われているわね)
(とりあえずお気を鎮めてください、お嬢様。私が厳重に注意しておきますので。ええ、毎晩悪夢を見るほどに)

 そんな『紅魔館』での長女の仕事ですが、正に粉骨砕身という言葉が似合う程の働きぶりでした。

 通常の仕事に加え、他のメイドの仕事もがんがんこなしていき、なんとかお金を稼ごうとしました。その働きぶりは例えるなら、文字通り一人三役にも四役にもなっていました。

 この働きに店長も感激し、長女が望む賃金をかなえる事を気前よく約束しました。

 しかしながら、マネージャーの仕事事態ハードな仕事です。それに加え、他のメイド達がこなす仕事を何人分も一挙に引き受け、毎日夜遅くまで、場合によっては徹夜もして働いていたのですから、その負担は相当なものであったと思われます。

 そして、ついに四姉妹にとって更なる不幸な事態が発生しました。

 いきなりの借金の問題とハードな仕事で心労が溜まりに溜まり、ついに長女の咲夜が倒れたのでした。

 長女が倒れたと言う急報を受けた次女と三女と四女は、すぐさま長女が運び込まれた診療所へと駆けつけました。

「先生、容態の方はどうなんですか!?」

 三女が病室に入るなり、医者の永琳に勢いよく詰め寄りました。

「ここは病室よ。少しは落ち着いて」
「これが落ち着いていられるかってんだ。で、どうなんだよ!?」

 大声でまくし立てる三女をなだめ様とした医者ですが、長女の容態が気になって気になって仕方が無い三女の様子を見て、溜息をついて諦めました。

 そして、顔の表情を険しいものにして、こう告げました。

「咲夜さんの状態は、非常に危険なものよ。職場の方々から聞きましたけど、相当な無理をしていた様子で、恐らくは限界の限界まで、いえ、限界を通り越しても無理を続けていたみたいね」

 家では微塵にも疲れた表情を出さなかった長女が、まさかそんなふうに長女が頑張っているとは夢にも思わなかった妹達は、衝撃を隠しきれない様子でした。

「それで、咲夜は治るの?」

 長女を咲夜といつも呼び捨てにしているのは、次女の霊夢です。この場合も、ほかの二人の妹達よりは冷静に、長女の容態を医者に聞きました。

 しかし、

「…」

 医者は肯定の言葉ではなく沈黙を選んだのを見て、流石の次女にも動揺が走りました。

「う、うそ、でしょ?」
「…最善は尽くすけど、今晩から明日の未明にかけてが峠ね」

 長女の咲夜が死んでしまう。そのあまりにも衝撃的な宣告に、妹達の誰もが打ちのめされました。そして、誰も何も言う事ができず、茫然と立ち尽くしていました。

 いったい、どれほどの時間が流れた頃でしょうか。悲観に暮れる四女がふと顔を上げると、三女の姿が無い事に気がつきました。

「ねえ、霊夢お姉ちゃん。魔理沙お姉ちゃんはどこ?」
「さあ、私も分からないわ」

 四女と一緒に茫然としていた次女に、三女の行方など知る由もありませんでした。

「それよりも早苗、一旦家に戻りなさい。もう日が暮れ始めているわ」
「え、でも」
「ここは私に任せて、家に戻りなさい。酷い顔をしているわよ」

 それでも長女の様子が気になって仕方が無い四女は食い下がろうとしましたが、次女の有無も言わさない口調に諦めざるをえませんでした。

 そうして重い足取りで帰宅する事になった四女ですが、先に三女が帰ってきている事に気がつきます。

「あれ、帰っていたんだ、魔理沙お姉ちゃん」

 自分の部屋の片隅でガタゴトと当たりを散らかしまくっている三女に、四女は声を掛けました。

 ちなみに、普段から部屋を散らかしている三女ですが、更に散らかしていて正に魔境と化していました。

(現実の魔理沙の家みたいね)
(ふん、あまいな。私の家はもっと散らかってるぜ?)
(…それって、威張る事じゃないと思います。って言いますか、威張って言い事じゃないです)

「おう、早苗か。ちょっと待ってくれ、今取り込み中でな」
「…何をやってるの?」

 どうやら三女は何かを探しているようです。そこら辺に積み上げられた物を確認しては投げ、確認しては投げという行為を繰り返しています。

「たしか、ここらへんに…っと、あったあった」
「何を探しているの?」
「この本だ。咲夜姉を助ける為に必要な物が載っている」

 三女の発言に、四女は思わず聞き返しそうになりました。それは無理もありません。医者が白旗を振りかけている状況を、三女が何とかしようというのです。

「え、ど、どうやって…!?」
「おいおい、忘れたのか。私は魔法使いだぞ?」

 長女が倒れた事ですっかり気が動転していた四女は、綺麗さっぱり三女が魔法使いである事を忘れておりました。

「あ、そっか。何か凄いお薬を作るんだね!」
「ああ、そうだ。かなり貴重な材料を使うから今まで作った事はないんだが、この薬を飲めばどんな病でも治ってしまうってどこかの本に書いてあったのを思い出したんだ」

 三女の発言に、四女は目を輝かしました。もう駄目かもしれないと思っていた長女を助けれる希望が見つかったからです。

(実際にはそんな薬が有るんですか?)
(有る訳ないだろ、そんな都合の良い薬なんて。まあ、永琳あたりがそれっぽい物を持ってそうな気はするけど、とりあえず私は見た事も聞いた事も無い。)

 -あー、あー、そこの二人。子供の夢を壊す様な事を言わないでください。

 うおほん。

 さて、事態は更なる急展開を迎え、三女と四女は長女を助ける為の薬の材料を採取しに行く事になりました。

「ところで魔理沙お姉ちゃん、後どれだけ材料が必要なの?」
「実はほとんどの材料が揃っているんだ」
「あ、なら」
「まあ、待て。さっきも言ったけど、この薬は希少で貴重な材料がどうしても必要なんだ。だが、生憎私はその材料を持っていない」
「じゃあ、今からその材料を取りにいくんだね?」

 四女の問いに、三女は頷きながら手に持った本を開きました。そして、あるページを四女に見せました。

「そうだ。で、この本によれば、ここから四つほど山を越えた先にある深い森の奥にひっそりと生えているらしいから、それをこれから取りに行くんだ」

 三女が示したのは、何やら特殊な模様のキノコでした。

 キノコで大丈夫なのかよ、という疑問は当然のごとくあると思いますが、この本によればもの凄いキノコであるとそうです。

 何がもの凄いのかは専門用語ばかりでサッパリ分かりませんが、とにかくこの材料を取りに行けば万事解決となるようです。

(…ここに来てキノコですか)
(何だよ、その目。言っておくけど、私は脚本に携わっていないからな。いくら重要なアイテムがキノコだからって、私は何も関係ないからな!)

 それから二人は大急ぎで準備を整え、キノコを取りに行く事にしました。

「その本に書いてある森まで、どうやって行くの? 普通に歩いて行ったら、絶対に間に合わないよ?」
「だから、私は魔女だって言っただろ? 魔女の移動手段と言えば、これに決まってるぜ」

 そう言って三女が取り出したのは、空を飛ぶ魔法の箒でした。

「早苗、お前はどうする?」
「私も行く。こんな時に一人でお留守番なんて嫌だよ」
「言うと思ったぜ。なら、後ろに乗りな」
「うん、ありがとう」
「ちゃんと掴まってろよ。目一杯飛ばすから、振り落とされない注意しろよ」
「そんなに早いの?」
「誰に聞いているんだよ。私はこの町で最速なんだぜ?」

 …
 こうして、三女と四女は出発しました。そして、森につきました。

(おいおい、何だよこのいい加減なあらすじは)

 -いえ、別に。台本通りなんですから仕方がないですよね。お芝居だからといって、魔理沙さんの事を最速だなんていう言わなきゃならない事に、別に腹を立てている訳じゃないですから。

(あー、完全にヘソを曲げちゃっていますね)
(…結構こいつも面倒な奴だったんだな)

 -
 -
 -

 おほん。

 森に到着した二人は、本を頼りに例のキノコを探す事にしました。

 森の中はとても暗く、どこからともなく聞こえてくる動物達の鳴き声に、二人は内心ドキドキしている様です。

(! 変わった!?)
(いえ、小さい音でしたけどバキって音が聞こえましたから、変えられたんです!)

 ―そこ、私語は控えろ。

 おほん。

 着地した付近をまんべんなく探した二人でしたが、結局キノコを見つける事ができませんでした。その為、二人は森の更に奥へと向かう事にしました。

「本当にこっちで良いの?」
「ああ、私の感と鼻を信じろ」

(私はトリュフを探す豚か!)

 -あくまでも台本通りだ。いい加減観念しろ。

 おほん。

 さて、二人が奥へ奥へと進むにつれて森は深くなり、更に闇が濃くなっていきました。そして、進むにつれて森に潜む動物や獣の気配も濃くなり、小さなランタンの光だけでは二人の心はとても明るくはなりませんでした。

「月や星がまるで見えないね」
「ああ、これは昼でも殆ど光が差し込まなくて暗いんだろうな」
「やだな、ずっと何かに見られている気がする…」
「こりゃ、あのキノコが貴重な訳だ。人里から凄く離れている事や数の問題もあるだろうけど、そもそもこんなおっかない森に誰も取りに来たがらないわな」

 怯えを隠しきれない言葉をお互い投げ合っていた時です。近くの茂みから、ガサリという音が聞こえてきました。

「ひっ!?」
「な、何者だ!」

 飛び上がった四女が三女の背中に隠れ、そんな四女を庇う様に前に出た三女がランタンを音がした方へ向けました。
 そして次の瞬間、何かが茂みから飛び出してきました。

「ぎゃおー! たーべちゃうぞー!」

(………)
(………えっ?)
 ………うわぁ

 ・
 ・
 ・
 ・

(な、なんでこの私が大衆の前でこんな仕打ちを!! お前、絶対に殺す!!)

 -い、言っておくが、私は関係ないからな!? 台本とは一切無縁だからな!

(なら、脚本家を殺す! そして、その後に私も死ぬ!!)
(あああ、お気を確かにお嬢様!! 羞恥に振るえて涙ぐむお姿がまたなんとも愛らしいとかなんとか不覚にも思ったり思わなかったりしましたけど、とりあえず死ぬなんて言わないでください)
(なら、しばらく旅に出る! 百年ぐらいどこかに傷心の旅に出る!!)

 ~
 ~~
 ~~~

 ――大変ご迷惑をおかけしておりますが、しばらくお待ちください――

 ・
 ・
 ・

 おほん。

 長らくお待たせしましたが、これから続きを開始させて頂きます。

 茂みから飛び出してきたヘンテコな妖怪をとりあえず撃退した二人は、更に森の奥へと進んで行きました。

「魔理沙お姉ちゃん、何だろあれ?」

 森の最深部に近づいているせいか、次第に見慣れぬ植物や虫が現れる様になりました。

 妙に気分を良くする様な匂いを出す花や謎の胞子を出すキノコ、そして歪な形状をした木等々、まるで別世界に迷い込んでしまったようです。

 そして、そんな植物達の間を縫うように飛び回っているのは、光ったり凶暴そうな歯を持ったり、毒々しい様な色をしていたりする虫でした。

 ごく一般的な四女はともかく、魔法の知識を持つ三女にはどれも興味を引き付けられるものばかりでした。

(…私って、やっぱり一般的に映りますか?)
(安心しろ、早苗。お前はもう、立派に手遅れだ)

 どれぐらい二人が歩いた頃でしょうか。三女が急に歩くのを止め、当たりを見回し始めました。

「多分ここら辺だ。ここら辺から、なにか凄そうなキノコの匂いがする」

(…なあ、泣いていいか?)
(だ、大丈夫ですよ。まだレミリアさんに比べればこんなの可愛い方ですよ)

 三女は匂いに導かれる様に、森の奥へ奥へと進んで行きました。そして、一段と大きな木の元へとやって来た時、その足は止まりました。

「ここだ、きっと材料のキノコはここにある!」

 三女は確信に満ちは声で四女に言いました。そして、二人が周囲を探し始めたところ、

「あ、魔理沙お姉ちゃん! あれじゃない!?」

 四女が大きな木の幹に、目的のキノコが生えているのを見つけ出しました。

「よし、でかしたぞ、早苗! ちょっと待ってろ、直ぐに取って来るからな」

 遂にキノコを見つけた事で気分が高揚している三女は、意気揚々とキノコの元へと近づいて行きました。

 しかし、ここで思わぬハプニングが起きました。

 あと一息でキノコに手が届きそうだった三女が、何者かの攻撃に吹き飛ばされて、地上に落されてしまったのです。

「く、くそ、誰だ私の邪魔をする奴は!」

 三女は駆け寄って来た四女が持っていたランタンを奪い取り、大きな木の方へと向けました。

「私の庭に勝手に入り込んで来て、随分と威勢のいい事ね」

 そこには、日傘を持った妖怪がいました。一見は花でも似合いそうな妖怪ですが、その秘めたる力は相当なものでした。

 怯えて竦んでしまった四女を庇うように前に出た三女でしたが、その圧倒的な力の前に内心焦りを覚えていました。

「悪いな、ここがお前のねぐらだって事を知らなかったんだ。でも、安心しな。そこのキノコを取ったら直ぐに出て行くから」
「あら、私が自分の庭が勝手に荒らされて黙っているとでも思っているの?」

 交渉はあっさりと決裂しました。いえ、初めから交渉の余地などありませんでした。この妖怪は始めから三女と四女を生きて返すつもりは無かったのです。

「消えなさい」

 妖怪がそう宣言した次の瞬間、妖怪が持つ日傘から光の奔流が迸りました。そして、盛大な爆発が起こり、三女達を吹き飛ばしました。

「…あぅ…うぅ…ま…まりさ…おねえ…ちゃん……?」

 何とか直撃は免れたものの、吹き飛ばされた衝撃で意識が朦朧とする四女は、それでも三女の姿を求めました。

 しかし、四女の視界に現れたのは三女ではなく、妖怪でした。

「これで止めよ。私の庭に土足で入り込んだ代償を、その身で知ると良いわ」

 妖怪は先ほどと同じように、日傘を構えました。

 もう駄目か。そう四女が思って、目を閉じました。

 そして次の瞬間、何かが刺さる音がしました。

 事態の変化に気がついた四女が目を開けると、妖怪が構えていた日傘に針の様な物が刺さっているのに気がつきました。

「おのれ、何者!」

 妖怪がそう叫ぶと、四女の目の前によく知る人物が現れました。

「霊夢、お姉ちゃん!?」

 そう、四女の目の前にいるのは次女の霊夢でした。

 しかし、次女は普段とは雰囲気がまるで違っていました。いつも気だるそうにしている表情は影を潜め、ピシッとした端麗な顔でシリアス全開です。 

「悪いけど、妹達にこれ以上は手出しさせないわよ」

 次女は右手に針を構え、左手にお札を構えました。

 そして、今度はそれを見た妖怪が明らかに怯みました。

「お前が妖怪退治の霊夢…!」

 妖怪は憎々しそうに言葉を絞り出しました。

「へえ、私の事を知ってるんだ」
「我々妖怪の間でその名を知らん奴はいない。鬼の様に強く、狼の様に鼻が効く。お前に狙われたら最後、どんな妖怪でも必ず殺される、妖怪殺しの化け物」

 四女は目を丸くしました。なぜなら、普段あんなにだらしが無い次女がそんなに凄い事になっているとは露にも思っていなかったからです。

「随分と酷い言われようね」

「お前が今まで重ねてきた悪行を省みてから言いなさい」
「それで、どうするの? このまま続ける? それとも、少しの間だけ見てみないふりをする? 私としてはどちらでも構わないんだけど?」

 妖怪はそれこそ鬼の様な形相で次女を睨みつけていましたが、しばらくして悔しそうに後退していきました。

「ふふ、おりこうさん」

 次女はニヤリと笑ってそう呟くと、倒れている四女の元へとやって来ました。

「御免、少し遅れた。大丈夫、早苗?」
「れ、霊夢お姉ちゃん、どうしてここに?」
「急に嫌な予感がしたの。それで、急いで駆けつけてきたって訳よ」

 どうやってここの場所が分かったんだ、とか色々と聞きたい事はある事でしょうが、そんな事よりも四女の頭の中にはまず聞かなければならない事がありました。

「ねえ、霊夢お姉ちゃんが妖怪退治ってどういうこと?」

 四女は介抱されている身を起こし、次女に聞きました。

「そのまんまの意味よ。昼の顔は神社の巫女で、夜の顔は妖怪退治のエキスパート。けっこう前からやってたんだけど、早苗や魔理沙に血生臭い話をするのもアレだったから、黙ってたの」
「そ、そうだったんだ…」
「まあ、最近じゃあすっかり妖怪達も大人しくなって妖怪退治の依頼も来なくなったから、暇な巫女さんをずっとやってたんだけどね」

 まだ色々と聞きたい事がある様子の四女でしたが、この森へ来た本来の目的を思い出し、慌てて三女の姿を探しました。

 その三女はもう少し離れた位置で目を回しておりましたが、別段怪我は無く、直ぐに四女の呼びかけに目を覚ましました。

 そして、その三女もまた次女の存在に驚き、そして次女が妖怪を退かせた事、そして次女が妖怪退治をしていた事を聞いて更に驚きました。

 三女もまた次女に色々と聞きたい事がある様子でしたが、今すべき事を忘れてはいませんでした。

「よし、お目当てのキノコは取れた。後は大急ぎで家に戻って、薬を作るだけだぜ!」

 そう言って、三女は次女や四女を置いて一息先に家へ帰る事にしました。

 残された次女と四女は自力で帰る事になったのですが、

「霊夢お姉ちゃんも飛べたんだね」
「空を飛ぶ事ぐらい、妖怪退治の基本よ」

 四女を背負った次女も、三女程ではありませんが空を飛んで家へと向かいました。

(…おい霊夢、なんかお前だけずるくないか?)
(そうですよ、凄い貰い役じゃないですか)
(これも私の人徳がなせる技よ)

 -あー、そこ、無いものをある様に見せびらかすんじゃない。ただでさえ無理な設定が、更にみすぼらしく見える。

 おほん。

 夜がふけ、日付が変わってから幾分か時が過ぎた頃、次女と四女はやっと家に付きました。

 そして、家に入った勢いそのままに、三女の部屋へと向かいました。

「薬のほうはどう?」

 次女が三女に声をかけましたが、三女はその声に気がつきませんでした。三女は今まで姉妹に見せた事がないほど真剣な顔をしており、その集中ぶりが見て取れる様でした。

 そんな三女の邪魔をしてはいけないと思い、次女と四女は少し離れた所で三女を見守る事にしました。

 それからいったいどれほど時が経った頃でしょうか。次女達が部屋を訪れた時には三女の周りに沢山の液体や粉等がありましたが、それが次第に数が減っていき、そして全ての材料が釜へと消えました。

 三女が釜の中身をかき混ぜるごとに中身の色が変わり、次第に煮だってきたのか泡がいくつも浮かぶ様になりました。

 そして、しばらく釜をかき混ぜていた三女の動きが、ついに止まりました。

「で、できた」
「魔理沙お姉ちゃん、お薬できたの?」
「ああ、遂に完成した! これで咲夜姉を助ける事ができるぞ! って、うわ、お前らいつの間に!?」

 よっぽど作業に集中していたのでしょう、ついに三女は薬が完成するまで次女達の存在に気がつく事は無かったみたいです。

 ともかく薬が完成しました。急いで薬を瓶に詰め、次女と三女と四女は大急ぎで長女が搬送された病院へと向かいました。

「先生! 咲夜姉は!?」

 病室に駆け込むと、思わず大声で医者に問いました。

「まだ何とか闘っているけど…」

 医者の苦しそうな視線の先には、か細い呼吸を繰り返す長女の姿がありました。長女の顔色は前に見た時よりも更に悪くなっており、蒼白を通り越して土気色になっていました。

「先生、この薬を早く咲夜姉に飲ませてくれ!」
「その薬は?」
「どっかの偉い人が考え出した、どんな病気でも治る凄い薬だ」
「…っ、そんな得体のしれない物を患者に飲ませる事は」
「時間が無いんだ! どうせこのままじゃ咲夜姉は助からないんだから、駄目もとで飲ませてやってくれ! 効果のほうは私が保障するから、頼む!」

 あまりの三女の迫力に気圧された医者は、三女から薬を受け取りました。

 そして、長女に薬を飲ませようとした時、病室に望まれぬ客が入って来ました。

「ちょっと待ってくれないかしら、そこの人達」

 病室に入って来たは、以前に姉妹達の家を訪れた事がある金貸し屋の胡散臭い女性と、そのお供と思われる女性でした。

「その薬、私達に譲ってもらえないかしら?」

 病室にいた全員が訝しげな視線を送っていると、胡散臭い金貸し屋はあろう事か三女が調合した薬を要求してきました。

「どういう意味?」

 何かを言いかけた三女を制して、次女が低く冷たい声を胡散臭い金貸し屋に掛けました。

「貴方達の事を思って言ってあげているのよ?」
「だから、どういう意味だって聞いているのよ」
「分からないかしら? どうせ借金を期日までに返すあてはないんでしょう?」
「…っ!」
「さっき病室の前で偶然、そう偶然に聞いたんだけど、その薬はその薬は相当凄い物らしいじゃない。だから、その薬を私達に譲ってくれれば、借金の事を少しは考えてあげてもいいわよって言っているのよ」

 次女の表情は、それこそ鬼でも逃げ出す様なもの凄い形相になりました。

 要するに、胡散臭い金貸し屋は借金のカタに三女が調合した薬を寄こせと言っているのです。

「あんたはよっぽど私を怒らせたいようね」
「貴方の噂は知ってるわよ、妖怪退治の霊夢」
「いい度胸してるじゃない」
「あら、私を倒しても無駄よ。これは正当な契約で行われた借金なの。単純暴力だけで解決できるとは思わないでほしいわね」
「なら、試してみる? 私は誰かさんのせいで、ちょうどムシャクシャしているところなの」
「試してみるのも良いけど、貴方は捕まるわよ。それに、私が貴方に不当に殺されたと知れたら、貴方の姉や妹さん達、それに親しい人達はどうなるのかしらね。なにぶん私のところにいる連中ときたら、荒っぽい連中が多くて少し困ってるのよ」
「…っ!!」

 勝ち誇った表情でニヤケた笑顔を見せる胡散臭い金貸し屋に、次女は思わず激昂しました。

 しかし、歯を思いっきり食いしばり、血が出るほど強く手を握りしめて、何とか踏み止まりました。

「さあ、その薬を渡しなさい」

 胡散臭い金貸し屋が手を差し出しました。

 長女を救うためには薬を失う訳にはいきません。しかし、胡散臭い金貸し屋の要求を拒める状況でもありません。

 打開策を見出せれないまま心の中で絶望感が広がりつつある姉妹達の胸中を見て楽しんでいるのか、胡散臭い金貸し屋は薄ら笑いを浮かべていました。

 そんな時です。突如パシッと音がしました。

 よく見ると胡散臭い金貸し屋が差し出していた手の甲をもう片方の手で押さえていました。そして、胡散臭い金貸し屋の近くの床には、一枚の銭が転がっていました。

「いやあ~、取り込み中にすいませんねぇ」
「っ、何奴!?」

 一同が病室の入り口の方を振り向くと、一人の大柄な女性が立っていました。

 どうやらこの女性が銭を投げた様です。

「別にあたいは別に名乗るほどの岡っ引きじゃないんですけどねぇ、ちょいっとばかしそこの金貸し屋さんに用があるんですよ」
「…岡っ引きが私に何の用があるって言うの?」

 突然の展開に目を白黒させている姉妹達とついでに医者でしたが、胡散臭い金貸し屋とそのお供は先ほどまでの余裕の笑みを一転させ、怖い表情をしていました。

「いやねぇ、ちょっと前につまらんイカサマをしてもの凄くボコボコにされた挙句、うちに突き出されて来た男女がいるんですがねぇ、そいつらからいろんな話を聞いていたら少し面白い話が聞けたもんでしてねぇ」
「…それで?」

 胡散臭い金貸し屋が少し警戒した表情をしました。何やら聞かれては都合が悪い話がある様です。

「なんでも、かなり強引に金を貸しつけられたみたいなんですよ」
「ふうん、それで?」
「そいつら、どうしようもない遊び人の夫婦でしてねぇ。もっと遊びたいけど遊ぶ金を全部スっちまって困っていた時に、なんでも優しいお人が声を掛けてくれたみたいなんですよ」
「…」
「それで、思わずその人の後に付いて行ったら、いつの間にかこわぁぁぁいお兄さん達に囲まれていたらしくて、思わず差し出された書類にサインしちゃったらしいんですよねぇ」

 岡っ引きの話を聞いて胡散臭い金貸し屋の表情は変わりませんでしたが、流石にそのお供は少し慌てた様な表情をしだしました。

「いやねぇ、あんな馬鹿な夫婦なんかどうでもいいんですけど、借金のカタに売り飛ばされたも同然の娘さん達の事を思うとあたいの心が痛みましてねぇ」
「あら、それは初耳の事だわ」
「まあ、そんな事があったんで少しお宅の事を調べさて貰ったんですけどねぇ。紫さん、あんたのところ、結構悪どくい事をやってますねぇ。ちょっと、お話を聞かせてもらえませんかねぇ?」

 少しおどけた口調の岡っ引きでしたが、その眼差しが急に鋭くなりました。

 だが、胡散臭い金貸し屋も負けてはいませんでした。お供に向けてこう言ったのです。

「ねえ、蘭。そこの岡っ引きさんが言った事に私は身に覚えは無いけど、貴方は知っているの?」
「…! は、はい、紫様。全ては私の独断で行った事です」
「そう、私の知らない所で、全て貴方が判断して行っていた事なのね。それなら、私が知らなくても当然ね」
「はい、申し訳ありませんでした」
「よくもこの私の顔に泥を塗ってくれたわね。この始末、貴方が全て取りなさい」

 岡っ引きの表情が少しつまらなさそうなものになりました。

 岡っ引きとしてはこの胡散臭い金貸し屋を挙げたかったのでしょうけど、どうやら尻尾を切って逃げられてしまったようです。

「岡っ引きさん、うちの蘭が色々と迷惑をかけたようね」
「…まあ、そういう事に今はしておきますか」

 そう言って岡っ引きは蘭と呼ばれたお供に縄を掛けました。

「ああ、そうだ。そこの娘さん達の借金の書類、今持っていますか?」
「ええ、ここに」
「そいつぁ、今回の一件で流石に無効と言う事になりますよねぇ?」
「…そうなるわね」

 そう言うと、胡散臭い金貸し屋は懐から書類を取り出し、破り捨てました。

 そして、憎々しい眼差しで姉妹達と岡っ引きの方を見て、この病室から出て行きました。

「じゃあ、おまえさんのボスも行っちまった事だし、あたい達も良くとするか」

 そう言って岡っ引きが切り捨てられたお供を連れて病室から出て行こうとした時です。突然何かを思い出したように立ち止り、姉妹達の方へとやって来ました。

「ああ、そうそう、言い忘れてたよ。お前さん達のおっ母さんとおっ父さんなんだけど、イカサマとか他にも色々とあるみたいだから、しばらく外に出れないんで、安心してくれ」
「そ、そうですか」
「あとねぇ、うちのボスなんだけど、ああいう人間が大っ嫌いなんだ。だから、毎日うんざりする程の説教をみっちりすると思うんだけど、ありゃあ結構破壊力があってねぇ。外に出てくる頃には、少しはまともになってるんじゃないかな」

 そう言って少しニヤリと笑った岡っ引きは、今度こそ病室を後にしました。そして、後にはあまりの展開にポカンとしている姉妹達と医者でした。

 そんなこんで色んなサプライズハプニングに見舞われた四姉妹でしたが、何とか長女の容態も持ち直し、しばらくした後、無事退院しました。

 そして、四姉妹の生活は今ではすっかり元通りの生活に戻っています。

 親はおらず、決して豊かとは言えない生活ですが、あの一件以来、絆を更に深めた四姉妹達は末永く幸せに暮らしました。

 おわり。





 えー、如何だったでしょうか。

 骨肉踊る冒険活劇どもなく、泥々としたサスペンスでもなく、ただのしがないお芝居でしたが、不思議と観客を楽しませてくれたようです。

 そんなふうに不思議な成功を収めた祭りでのお芝居上演ですが、ちなみに来年行われるお芝居も決まっております。

 なんでも、極道ものをやるそうですが、さてはて、どうなることやら。
えー、御無沙汰してます。
夜寝ていたら、「万能で面倒見の良い長女の咲夜」「やる気が無い次女の霊夢」「トラブルメーカーの三女の魔理沙」「末っ子だけど頑張り屋の四女の早苗」でなんかのお芝居の様な物をやる夢を見ましたので、そのまま勢いに任せてSSを書きました。

ここでQ&Aコーナー
Q:この脚本では色々と配役や設定に悪意がある様に思われるが、どうしてこんなふうになってしまったのか?
A:ああ、それは違います。私もまた、脚本家に踊らされた哀れな存在でしかないのです。

おや、誰か来たみたいだ。誰だろう、こんな夜遅くに、しかも大勢で…
ニケ
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コメント



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19.100名前が無い程度の能力削除
良いですねこんな結末も