Coolier - 新生・東方創想話

月の姫

2010/09/18 11:24:44
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 背の高い年老いた竹が葉陰を作り、霞の絶えぬ迷いの竹林。
ごくごく浅い辺りを物々しい獲物を手にした狩人がうろつくのを除き、獣と妖怪が竹の葉が腐り積もった柔らかい土に己が足跡を残すだけである。
 永遠亭は迷いの竹林の奥まった一角にあった。
 銀鱗の鮎の背びれが谷川をスッと切るように竹と霞は途端に途切れ、代わりに峻厳なる門が立ちはだかり竹林の暗さと冷たさを排していた。

 竹林が暗闇と霞にて夢現に誘うのであれば、永遠亭は微睡む優麗である。
いくつかの離れと母屋とが緩やかに連なり、それに沿うようにして池が湛えている。
その遠くにはなだらかな丘が波の様に続き、そこかしこに緑や茶色のサツキや松などが美しく映えている。母屋の縁側にて庭園が一望できる。特に望月には、月光があたり一面に降り注ぎぼうっと柱や窓枠の不思議な意匠が浮かんでくる。花の影が母屋を囲むようにして、なんとも素晴らしい香りが漂ってくるのだ。

 そして花弁のような美しさに包まれた美の中心に
主たる輝夜は座している。

 輝夜は月の姫である。
しかし蓬莱の薬を飲んだことにより永遠の命を得てしまい、そのことによって姫は流刑の地たる地球へと追いやられてしまう。その後、かの竹取の姫君として我々の知るところとなるのだが(即ち絶世の美女としてあまねく男どもの耳目に触れられ、遂には帝をも巻き込んだ一大恋愛劇となるのだが)後に伝わるのと異なるのは姫は月に帰らずに幻想郷にひっそりと隠れおおせたことである。姫を巻き込んだ騒乱の話として五つの難題はあまりにも有名であり,満月が夜の頂きにて幻想郷を照らし続けていた異変は自らが巧緻に語るためにここでは多くを語らない。

 ある夜のことである。(その頃には輝夜は竹林の影に隠れることもなく、弾幕遊びなどに興じていた)博麗神社にて宴会が催される旨を天狗より伝え聞いた姫は従者たる永琳と数匹の兎を引き連れてやって来た。

 宴もたけなわ。人妖入り交じり飲めや歌えやの乱痴気騒ぎ。四辺に置かれた篝火に照らされるは色とりどりの怪異達。一升瓶を真っ逆さまにぐっぐっと、飲み干す鬼。夜天を黒地に目眩く色合いで弾幕遊びをする魔女達。携えた双剣にて演武を披露する半幽霊。

 輝夜は一角にて己の故郷である月の都と月人について語っている。
 座すれば床に広がる豊かな髪は月下にて黒真珠の鈍い光を漂わせている。黒目がちな瞳に濃く長い睫毛が瞼の微かな緊張に従い細やかに震える。雪原に落ちた牡丹の花の様に洗練された色合いの唇が典雅な月を紡いでいく。

 語りが終わり、一同が月の美しさに思いを馳せ悩ましくしている所。ある妖怪が問うた。
「何ゆえに蓬莱の薬を以てして不死の生を得たるか」
 輝夜が答える。
「私は考えるに美とは調和のことであると思いますの。だってそうでしょう、一つが秀でていても周りとの調和がなければ滑稽ではありませんか。荒海に花が綻び、天に魚が泳ぐのは明媚に着飾った頓珍漢ですもの。ですから調和こそが美しさの本質なの。ねえ、今まで私がお話して差し上げた月人は本当に美しいの。でも月人の美しさを損なってしまうことがあるの。それは死よ。永遠に等しい命だからこそそれが潰えることが恐ろしい。一様に喚き立て、有終の美なぞは得られないわ。いずれ私も無様な死者の参列に加わると思うと、死の恐怖よりも月人としての美しさを損なう愚かしさを憎んだの。だからこそ私は永琳に蓬莱の薬に作らした。不死の生を得るために。薬を嚥下した途端に、私は暗中にさ迷う旅人に曙光が差して闇が立ち去り、遠くの情景までもハッキリと見渡せる爽快さに満ち足りたわ。なんという恍惚でしょう。私はその時ほど月人であることに感謝したことはありません。ですが有頂天であった私に微かに不快さが纏わり付くようになりました。行住坐臥、その不快さは私にぴったりと影のように付きまといすっかり参ってしまいました。
 ある日のこと、私は自宅の庭で月の木花の描く曲線に心を慰められておりました。十分に堪能した私は帰ろうすると小石に躓き、転んでしまいました。すぐさま従者達が駆け寄り、私を起こそうとするときに気づいたのです。付き纏う不快さの正体に。磨きぬいた珠の僅かな瑕疵がかえって目立ち、その美しさを台無しにしてしまうように。月人としての美しさが、私の一挙手一投足を見張り、調和に対する造反を懲罰してしていたからなの。急に自らの不死が恐ろしくなり、己の罪の告白を経て地球へと逃れ、遂には贖罪の刻限になりても、地上の影にひっそりと隠れるに至ったの」

 一同絶句し、輝夜の黒々と煌きを湛えた髪の一本までが哀れな枯れ花のように思えた。
はじめましてneriwasabiと申します。
何分創作活動は初めての経験ですので未熟な点が多々あるとございます。
もしお気づきになられたら、ご指摘して頂ければ幸いです。

輝夜かわいいよ輝夜。
neriwasabi
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コメント



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3.70名前が無い程度の能力削除
物語というよりは輝夜の紹介文ですね。
輝夜かわいいには全力で同意させていただく!