Coolier - 新生・東方創想話

東方巡々物

2010/09/17 18:48:30
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 穏やかな日差しが眠気を誘う昼下がり。
 霖之助が店主を務めるここ香霖堂には、一つの品が迷い込んで来ていた。
 品自体は、さして珍しいものではない。
 霖之助の手元、机に置かれているそれは、掌サイズのオルゴールであった。曲を聴く為に蓋を開けると、中には黒い猫の人形が寝そべっており、退屈そうに欠伸をしているのが何とも愛らしい一品だった。
 霖之助は、それを見つめて、店へよく冷やかしに来る彼女にこれを勧めてみようかと考えていた。自分のような男が持っているより、その方がこのオルゴールも喜ぶだろうと。
 とは言え、彼女が正直にこれを買うとも思えなかった。彼女はこの店に並ぶ商品を買った試しがなかったからだ。毎回ツケと称して勝手に商品を持っていくばかりである。
 霖之助はその時の事を思い出し、自分から彼女に勧めるのも何だか癪(しゃく)だなと、眉間に皺を寄せてから、オルゴールを引き出しに閉まう。
「こんにちは」
 そこにメイド服の女性、十六夜 咲夜が店の中に入って来た。
「おや、いらっしゃい」
 霖之助が、軽い口調で彼女に声を掛ける。
「またお嬢様からの頼まれ事かい?」
 彼は若干皮肉を込めた言葉で、咲夜に用件を聞いた。その決して客商売向きとはいえない態度は、この店が流行らない原因の一つとなっていた。
「ええ、まあ、いつものお願いしても良いかしら?」
 対する咲夜は、さして気分を害したという事も無いようで、完璧な微笑みを浮かべて、霖之助の言葉を軽く受け流す。
「ああ、はいはい。悪いけど奥から取ってくるんで、その辺で待っててくれないか?」
 霖之助も、特に何かを期待していたと言う訳ではないので、あっさりと注文を聞いて、奥の座敷に引っ込んでしまう。
 その間、咲夜はやる事もないので、暇潰しに陳列されている商品を眺める。
「あら?」
 そこで咲夜は、霖之助が座っていた机に、小さくて可愛らしいオルゴールがちょこんと置いてあるのに気付く。
(フラン様に買っていこうかしら)
 咲夜は、無邪気に喜ぶであろう主人の妹の顔を思い浮かべて、顔を綻ばせた。
「お待たせ。これで全部だけどいいかな?」
 その時、商品を抱えた霖之助が、戻ってくる。
「ええ、それで問題ないわ。ところでこれも商品なのかしら?」
「おや?確かそれは引き出しにしまったはずだけど……」
 記憶違いだったかなと、霖之助は机に置かれているオルゴールを見て首を傾げた。
「あら、商品ではないの?」
「…いや…まあ……一応商品ではあるんだけど………」
 咲夜の問い掛けに、霖之助が歯切れの悪い答えを返す。
「それでは、これも包んでくださる?」
 だが、返答を聞いた咲夜が、有無を言わせない強力な笑顔で畳み掛けてくる。目的の為なら、彼女は手段を問わないのだ。
「はあ……分かったよ。分かったからその笑顔を引っ込めてくれ」
 結局、その勢いに呑まれた霖之助は、それを咲夜に譲る事にしてしまった。
「助かりましたわ。また寄らせて頂きます」
 咲夜が、他の商品と共に、オルゴールを受け取り、店から立ち去ろうとする。
「あ、そうそう」
 その途中で、彼女が霖之助へと振り返った。
「オルゴールのお礼と言う訳ではないですけど、良かったらどうぞ」
 告げる咲夜の手には、一体何処から取り出したのか、上等そうなワインのボトルが握られていた。彼女はそういった類の奇術が得意なのだ。
「どうやら、この年の赤は、お嬢様のお口には合わなかったようで……」
「ふむ、そういう事なら、遠慮せずに頂こうかな」
 霖之助は、彼女の持っているワインを、本当に遠慮の無い動きで受け取る。
「それでは失礼しますね」
 咲夜は、最期まで微笑みを崩さないままで、香霖堂を立ち去った。



「さて、どうしたもんかな」
 霖之助は、手元に残されたボトルを軽く揺らす。彼は、このまま呑んでしまうのも悪くは無いが、いかんせん面白みが足りないななどと、考えていたのだ。
「失礼します」
 そこへ、今日二人目の来客。風呂敷を背負った少女。魂魄 妖夢が現われる。
「やあ、いらっしゃい。君がここに来るなんて珍しいね」
 霖之助は、訪れた少女を見て、軽く眉を上げた。
「はあ、実は幽々子様から、たまには洋酒が呑みたい。妖夢、洋酒を買って来て、じゃないと、私死んじゃうなんて言われてしまいまして……」
 溜め息をつく彼女は、意気消沈したように肩を落とす。心なしか傍に控える人魂も、元気が無いようだった。
「それはご愁傷様。でも、運が良かったね。ちょうどワインを仕入れた所なんだ」
「本当ですか!?」
 霖之助の言葉に、死者が蘇ったかのような勢いで、妖夢が詰め寄る。
「でも、それなりに値段は張るよ?」
「ううっ!」
 しかし、霖之助の無常極まりない態度に、再び肩を落とす事になった。
「わ、私はどうすれば、このまま冥界に戻れば、幽々子様は絶対に落胆するでしょうし、で、でも、そこまで金銭があるわけではないし……」
 妖夢は、何かを堪えるようにして、顔を俯かせ、目じりに涙を溜める。
「ま、まあ、金子が足りないなら、何かと物々交換でも僕は構わないよ」
 瞳を潤ませる少女を見て、さすがに居心地が悪くなったのか、霖之助が慌てた様子で言葉を付け足した。
「物々交換ですか?そう言われましても、今私が持っている物といったら、これぐらいで………」
 自身なさげに呟く妖夢が、背負っていた風呂敷を開き、竹の葉に包まれた団子を取り出す。おそらく、その団子は全て幽々子が食す為の品なのだろう。
「……にしても凄い量だね。その風呂敷の中身は全部団子かい?」
「は、はい。幽々子様はこのお団子が好物ですから」
「な、なるほどね」
 気恥ずかしげに答える妖夢を見て、この子は何とも不憫だなと感じる霖之助。
「じゃあ、その団子を分けて貰えるなら、このワインは君に譲ってもいいよ」
「本当ですか!?あ、ありがとうございます!!」
 彼女は、瞳を輝かせながらお礼を述べ、霖之助に団子を渡してくる。
 結局、ワインを携えた妖夢は香霖堂を立ち去るまで、ずっと頭を下げっぱなしであった。



「………今度は団子か」
 これもただ食べるんじゃつまらないなと、霖之助が一人ごちる。
「あら、ちょうど良かったわ」
 そこへ三人目の来客。永遠亭のお姫様 蓬莱山 輝夜が訪れた。
「今日は随分と珍しい客が現われるね」
「ふふ、ずっと引き篭もりって訳にはいかないもの」
 霖之助が溜め息をつくと、彼女は、やや自虐的な言葉を返す。
「それはともかく。ねえ、そのお団子、私に譲ってくれないかしら?」
「別にいいけど、団子なんか一体何に使うつもりだい?」
 小さく首を傾げた輝夜を、霖之助がいぶかしんだ目で見据えた。
「もちろん食べるのよ。月見団子としてね。今夜は雲で月が見えないだろうから、満月を想像してお団子を食べるの」
 風流で素敵でしょと、彼女は実に楽しそうな笑みを浮かべる。
「はぁ、君は諧謔(かいぎゃく)的というか、自虐的というか、本当に歪んだ人だね」
「ふふ、そんなに褒められると照れてしまうわね」
「いや、褒めている訳じゃないんだ……それにこの団子が、一応商品であるという事を忘れないで欲しいな」
 霖之助が疲れたような苦笑いで、団子の包みを指差した。
「もちろん分かってるわ。こっちだってそれ相応の物を用意しているんだから」
 いらっしゃい、うどんげと、輝夜は店の外へ声を掛ける。
「姫様ぁ、ここに置いちゃっていいですかぁ?」
 すると、ウサ耳を生やした少女、鈴仙・優曇華院・イナバが巨大な荷物を店の中に運んできた。
「………どうやら、元からそれを引き取らせる為に来たようだね」
 霖之助は、うどんげの持ってきた品物、巨大な鉄塊を見て呆れた声を漏らす。とある能力を保有する彼だから分かる事だが、それは空を飛ぶ為に必要な動力炉であったのだ。
「実はそうなのよ。久々に宝物庫を整理したら、こんなのが出てきて……」
 困ってたのと、輝夜は、頬に手を当て眉根を寄せた。実際はそれほど困ってないのだろうが、彼女はそういう人間らしい表情を作るのに余念が無かった。
「はあ、分かったよ。それはこちらで引き取らせてもらう」
 霖之助は、半ば呆れたような声色で、団子を彼女に渡す。
「ありがとう、助かったわ」
 輝夜は、霖之助に柔らかだが、どこか作り物めいた笑顔を見せた後、うどんげを連れて香霖堂を立ち去った。



「ふむ、これは置き場所に困るな」
 店の入り口付近に置かれた鉄塊。動力炉を眺めて、霖之助が苦笑する。
「どうも~どうも~」
 そこへ、四人目の来客。伝統の幻想ブン屋、射命丸 文が颯爽と現れた。
「……今度は君か。君はこれがお目当てなのかな?」
 この辺りになると慣れたもので、霖之助は輝夜から受け取った動力炉を指差す。
「あやや、話が早くて助かりますね。そうなんですよ。実は妖怪の山に住む、河童のにとりさんが、そちらの動力炉を所望でして、どうやら、彼女は自分自身の手で飛行船を造り上げようとしているみたいなんです。星蓮船に影響されたんでしょうねえ。それで私は彼女の飛行船作りを記事にしようと思いまして、協力をしているんですよ」
 文は、何かに急かされるような勢いで捲くし立てる。彼女の仕事柄がそうさせるのか、単なる性格上の問題なのかは分からない。
「ふぅん、記事にするのに、君が手伝ってしまってもいいのかい?」
 霖之助が自身の素朴な疑問をぶつけた。
「別に事実を捏造しようという訳ではありません。私が手伝おうと手伝わまいと、にとりさんが飛行船を造るという事実に変化は無いですから」
 文は、さも当然だと言わんばかりに胸を張る。
「はは、随分と穿(うが)った見方だね。まあ、僕がどうこう言う事でもないか。それじゃあ、気を取り直して交渉に入ろう。どうせ君も物々交換がいいんだろう?」
「またもや話が早いですね。実はそれをこれと交換して欲しいんですよ」
 霖之助が話を促すと、彼女は懐からネガと何枚かの写真を取り出した。
「ん?どれ…………おいおい……これは少々俗物過ぎやしないかい?」
写真に写っているものを目にして、霖之助は口元を引くつかせる。
「でも滅多に手に入る代物ではないですよ。と言うか、私も撮ったは良いんですが、実際持て余しているんです。その上、その写真の存在が、博麗の巫女にばれてしまったらしくて、巫女が幻想卿中を大暴れしている始末で」
 やれやれですねと、文は肩を竦ませる。
「なるほど、体(てい)の良い押し付けって訳か。でも、記者である君が、自らネタを手放すなんてちょっと信じられないな」
「仕方ありません。これを記事として『衝撃!巫女の強さはノーパンの中に隠されていた!!』なんて銘打った日には、殺されかねませんから」
「まあ、そうだろうね」
 文の言葉を聞いて、霖之助が苦笑を漏らした。
「さて、私は目的も果たしましたし、これで失礼させて貰います」
 よいしょっと、文は優に何十キロはあるであろう動力炉を軽々と持ち上げる。彼女は見た目ほど非力な妖怪ではないのだ。
「それでは」
 結局、文は写真とネガと言う厄介な物を、霖之助に押し付けて立ち去ってしまった。
「はあ、どうしたもんかな……」
 溜め息をつく霖之助は、写真に映っている、ある少女を眺める。
 そこには、グレイズに失敗したのか、弾幕で袴の紐が切れ、下半身を全開にしている博麗 霊夢の姿があった。



「それにしても、オルゴールが随分と珍妙な物に変わってしまったもんだ」
 霖之助が、写真をひらひらと弄びながら、溜め息をつく。
「それじゃあ、それは私が頂くわ」
 そこへ、五人目の来客。境界の妖怪、八雲 紫が、空間の隙間から現われた。
「………一応言っておくけどね。店の中に隙間を作るのは、止めてもらえないかい?」
「あら、別にいいじゃない?勝手知ったる何とやらなんだから」
 霖之助の嫌そうな視線に、紫は親しげな微笑みを浮かべる。
「そんな事より、手に持っているその写真とネガ。私に譲っていただけないかしら?」
「あいにく、今日の香霖堂は物々交換の日なんだ。欲しければ、何らかしらの代価が必要だよ」
 霖之助は紫に向かって、掌を差し出した。
「だったら、代価になる品物は後で霊夢に持ってこさせるわ」
 それなら構わないでしょと、彼女は首を小さく傾げる。
「??そこで、何故霊夢の名前が出てくるのか分からないが、つまり、お代は後払いって事かい?」
「そういう事になるわね」
「………ふむ」
 紫の言葉に違和感というか胡散臭さを感じた霖之助だったが、
「まあ、いいか。僕もこれの処分に困っていた所だったしね」
 どちらにせよ、これを自分の手元に置いておくのは危険すぎると判断し、ネガと写真を紫に渡す事にした。
「その代わり、僕から手に入れたという事は、秘密にしておいてくれよ。面倒事はごめんだからね」
「フフ、分かってるわ。貴方に迷惑が掛かるような事はないから安心なさい」
 ネガと写真を受け取った紫は、霖之助の釘刺しに、軽い口調で応える。
「それじゃあ、私はそろそろ退散させてもらうわ」
 そして、彼女は、再度空間に隙間を作った。
「あ、そうだ。一つだけ君に聞きたい事が、あるんだけどいいかな?」
 隙間を潜ろうとする紫の背中に、霖之助が声を掛ける。
「何かしら?」
 紫がその声に反応して、首だけ振り返った。
「今日の香霖堂の繁盛は君の仕業なんだろう?」
「何故そう思うの?」
 霖之助の言葉に紫が、顔にいつもの微笑みを乗せて問い返す。
「僕の店にここまで需要があるとは思えないからね。それに、いくらなんでもタイミングが良すぎる」
 霖之助は、輝夜が訪れた辺りから何となく感づいていたのだ。それが文が来た事で、一連の来客は全て彼女の仕業だと確信した。おそらく、引き出しにしまったオルゴールを、咲夜の目に付くよう机に置いたのも彼女だったのだろう。
「フフ、でも退屈はしなかったでしょう?」
 紫は、感情が判然としない微笑みを浮かべて、霖之助を見つめる。
「はあ……。まあ、確かに退屈はしなかったよ」
 その微笑みを見て、霖之助は諦めと疲れを乗せた溜め息を吐き出した。紫が一体何を考えてそんな事をしたのかは、紫自身にしか理解出来ない事だと、経験で知っていたからだ。
「フフ、それじゃあ、私は行くわ。彼女によろしく言っておいてね」
 当の本人は、最期に意味深な発言を残して、香霖堂から立ち去ってしまった。



「やれやれ、一体何が何なのか」
 空手になってしまった霖之助が、けだるげそうに首を鳴らす。結局、オルゴールから始まったわらしべ長者は、何の収穫もなしで終わりそうだったからだ。
「入るわよ!!!!!」
 そこへ六人目の来客。幻想の巫女、博麗 霊夢が興奮した様子で現われた。 
「おや、そんなに息を切らして、どうしたんだい?」
 霖之助は紫の発言から、霊夢がここに来る事を知っていたが、あくまでも素知らぬ振りで対応する。それが一番安全だからだ。
「霖之助さん!ここに写真とかネガとかある!?」
「写真とネガ?いや、置いてないね」
「本当にないの!?」
「そもそもこの店はカメラすら取り扱ってないよ。と言うか、そういう類の物は、天狗とかに聞いた方がいいんじゃないか?」
 もちろん写真の存在や、霊夢がそれを血眼になって探している理由も知っているが、表情や態度にはおくびも出さない。
「もちろん、聞いたわよ。でも、既に手放してしまいました、なんてほざいたんで、ボコボコにしてやったわ。どっちにせよボコボコにするつもりだったけど」
 あいつのせいで私の痴態がと、ワナワナ震える霊夢。この騒動の元凶である射命丸 文はどうやら逃げ遅れてしまったらしい。
「ふぅん?良く分からない話だけど、ネガと写真なら八雲 紫が持っていたはずだよ」
「それ本当!?」
 霖之助の言葉に、霊夢が喰らいついて来る。
「ああ、ついさっき店に現われてね。何でもとても面白い写真が手に入ったとかで、随分と上機嫌だったな」
 さりげなく霖之助は、自分は関係ないというアピールをする。口止めはしたが、紫からは口止めされていない。ならば、何を言おうと問題はないはずだと、そんな屁理屈を霖之助は考えていたのだ。
「霖之助さんは、写真に何が写っているか見たの!?」
 霊夢が、瞳孔の開き気味な目で、霖之助を睨みつける。
「いや、見てないけど、一体何が写っているんだい?」
「っっ!べ、別に大したものじゃないわ!!」
 霖之助の返しに、霊夢が分かりやすく動揺を見せた。
「そ、それよりも!!早くあのスキマババアをふんじばって、写真を回収しないと!!」
 そうして、霊夢が、紫の悪態をつきながら、地団太を踏んでいると、彼女の懐から小さな箱が零れ落ちる。
「ん?霊夢、君はそれをどこで手に入れたんだい?」
 彼女が落とした箱。掌サイズのオルゴールに、今度は霖之助が目を見開く事になる。
「紫が渡して来たのよ!あいつ!良い物を貰ったお礼だって言ってたけど、そういう意味だったのね!!」
 霊夢は、そのオルゴールを荒々しく掴み上げると、霖之助へ押し付けるようにして、渡してきた。
「こんな物が欲しいなら、いくらでもあげるわ!!」
 どうやら彼女は、霖之助の視線を、物欲しげにしているのと勘違いしたらしい。
「ど、どうも……」
 霖之助は手元に舞い戻って来たオルゴールを眺めて、複雑そうな顔をする。
「それじゃあ、私はもう行くから!!霖之助さん、情報ありがとね!!!」
 霊夢は最期まで、霖之助がこの騒動に一枚噛んでいる事を知らずに、香霖堂を立ち去ったのであった。



「ふむ、代価ってのは、これの事を言っていたのかな」
 霖之助が、霊夢から受け取ったオルゴールを眺めて呟く。
 察するに紫は、素直にこれを彼女にプレゼントしろとでも、霖之助に言いたかったのだろう。
「おせっかいな人だよ、まったく」
 霖之助は苦笑を洩らしながら、オルゴールの蓋を開き、そこから流れる音楽に耳を澄ませる。
「む?」
 すると、箱から流れる曲が、ある部分で突然音程を崩した。それは色々な人間の手を渡っていた為なのか。オルゴールから流れる曲には微妙なズレが生じていたのだ。
「はあ、仕方ない」
 霖之助はぼやきながらも、掛けている眼鏡を、倍率の変更が出来る専用のそれに掛け替える。
「まあ、単純な機構だから、僕でも調律ぐらいは出来るだろう」
 今日何度目かの溜め息をついた霖之助は、音程のズレてしまったそのオルゴールを直す事にしたのだ。
「それにしても……」
 シリンダー、音を鳴らす為のピンが埋められている円筒の部品を弄りながら、霖之助は自問自答する。
 修理した所で、僕はこれをどうするつもりなのだろう。
 まさか、本当に八雲 紫の言った通り、彼女にプレゼントする気なのか。
「ははっ、僕の柄じゃないな」
 頭の中に過(よ)ぎった考えを、笑い飛ばす霖之助。
 だが、霖之助は馬鹿らしいと思う一方で、それも悪くないのかなとも思っていた。
 そこへ香霖堂でも珍しい千客万来の吉日を締め括る、最期の来客が現われた。
「よお、香霖!今日も来てやったぜ!!」
メリーゴーラウンド・オルセンとか好きです。
パウルマン先生とアンゼルムス君
[email protected]
簡易評価

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コメント



0.2080簡易評価
9.100名前が無い程度の能力削除
作者名ホイホイの作品とか初めてみましたよ!
メリーゴーラウンド・オルセンは私も大好きです。死に間際まで歌ってるところとか。
作品、わらしべ長者ものですね、話のテンポが本当に丁度よくて気持よかったです。
巫女は本来履いてないものなのでこの作品は正しいのです。
12.100アガペ削除
引きこまれる展開に感服いたしました。

そしてなんという作者名ホイホイ…

ちなみに私はパンタローネが大好きです。
25.70K-999削除
わらしべ風なのに、最終的に得した感じにならないのはなんとなく「らしい」感じがします。
でもなんか、結局最後は魔理沙的な展開は食傷気味です。私だけですね。

私はルシールが好きですね。
でも人形に限定するならやっぱりパンタローネですね。
26.90名前が無い程度の能力削除
アルレッキーノを忘れていただいては困る
作者名ホイホイでしたが本編の回転具合も良かったです
27.100名前が無い程度の能力削除
なんか、いい
31.90名無しのえんとつそうじ削除
他の方と同じく、作者名にホイホイされてきました
わらしべ長者なのに本人は全く動かないとはこれいかに

私は人間に限定すれば阿紫花、人形ならコロンビーヌが大好きでした

全てはオルゴールに終わる
33.90名前が無い程度の能力削除
鳴海派だった自分はどうすれば…。
魔理沙スキーな自分としては続きも気になります。
35.80名前が無い程度の能力削除
これはいいわらしべ長者
36.無評価名前が無い程度の能力削除
素晴らしいわらしべ長者。テンポがすごくいいです。
そして私もパンタローネが大好きです
37.100名前が無い程度の能力削除
点数入れてなかった
38.100名前が無い程度の能力削除
おもしろい。それに読みやすかったです。ぐんぐん読めた。
魔理沙がオルゴールもらった時の反応とか気になりますね。意外と魔理沙、乙女なもの好きそうだし。
39.100名前が無い程度の能力削除
元ネタは知らないけど面白かった
42.100名前が無い程度の能力削除
霊夢の下半身に興味無さ過ぎな霖之助が流石だと思いましたw