季節は秋。
綺麗な三日月が空には浮かんでいて、その月に聴かせるかのように虫達は思い思いの音楽を奏でている。
それは決して小さい音ではないのに、心地よく感じられる、そんな音色。
そんな演奏会の繰り広げられる命蓮寺の縁側に、私は一人、佇んでいた。
聖の封印が解けてから、どのくらい時間が経っただろうか?
それなりに時間は流れたはずなのに、未だあの頃のように上手く話す事が出来ない自分がいる。
勿論あの頃とは、聖が封印される前の事を指しての事だ。
あの時、私は聖の封印を黙認した。
その事実は、何も変わらない。
そこにどうしようもない後悔の念が未だあったとしても、何も変わりはしない。
事実は事実。それは変えようがない事なのだ。
彼女が封印された時、私は何も出来なかった。
否、しようともしなかった。
私が動けば、彼女の理想は全て壊れてしまう。
彼女の意思を守る者が、いなくなる。
そう、思ったから。
思っていた、はずだから。
でも、本当にそうだったのだろうか?
本当は、ただ、
私自身も共に封印されることが、怖かっただけなのではないだろうか?
自分の身が、大事だっただけなんではないだろうか?
そんな疑念が、頭から離れない。
「……ここを出て行ったほうがいいのでしょうかね?」
そんな問いを、見上げる夜空に向けてみる。
私はきっと、ここにいてはいけない存在。
あの時の事だけでも十分そう思えるのに……大事な宝塔まで無くしてしまう始末なのだから。
「……そう、なのでしょうね。本当は」
何度も考えたその答えに、思わず自嘲が漏れた。
本当にそのつもりがあるのなら、もうとっくにこの場を離れているはず。
それなのに、なんのかんの理由をつけてここを離れないのは……本当はそんなつもり、サラサラないからなのであろう。
「星」
突然聞こえた自分を呼ぶ声に、ビクンと思わず体が跳ねる。
もう皆寝ていると信じ込んで、安心しきっていたせいだろうか?
気配に、全く気づけなかった。
「ひ、聖……まだ起きていたのですか?」
「ええ。なんとなく、ですがね」
そう言って、聖は私の隣に腰掛ける。
彼女との距離が近すぎるような気がして、少しだけ横に自分も座り直した。
あの頃と同じ距離には、きっと私はいてはいけないから。
「……月が綺麗ね」
「ええ、そうですね」
ぽつりと呟くような彼女の言葉に、ただ肯定の言葉だけを添える。
それ以外の言葉が、出てこなかった。
もっと、上手い言葉を見つけられればいいのに。
「ねぇ、星」
そんな事を考えていると、彼女が私の名を呼ぶ。
思わず体が硬くなる。少しだけ、自分の鼓動が早まるのを感じる。
「なんですか、聖」
それでも、表面上は何もないような顔をして。なんでもないような声を装って。
そんな私の方へ、聖はくるりと向き直る。
視線が、絡む。
彼女の綺麗な瞳に、自分が映り込む。
彼女の瞳は、力強く、それでいて静かに輝いているように見える。
きっと、これまで歩んできた彼女の人生がそうさせているのだろう。
そんな瞳が、私を捕らえているのだ。
私はこんな彼女の瞳に、どうしようもなく惹かれた。
あの頃と何も変わらぬこの瞳に、今も惹かれ続けている自分がいる事など、わかっている。
「いつまで私の事を『聖』と呼ぶつもりなのかしら?」
他人には滅多に見せない、不満そうな顔で彼女はそんな事を言う。
何かと思えば……そんなことか。
「ご不満、なのですか?」
「ええ、不満だわ。昔のように『白蓮』と呼んで貰えないかしら?」
「では、『白蓮様』と」
「……昔のように、『白蓮』と呼んで欲しいと言ったのです」
「……では、そのように心がける事とします」
滅多に聞けない彼女の強いその口調に負け、昔のように名前で呼ぶ事を渋々了承する。
まあそのくらいなら、きっと許されるだろう。
「あと……」
「まだ、あるのですか……」
思わず、ため息混じりのそんな言葉が漏れた。
少しだけ、すぐにでも逃げ出したいような衝動にかられる。
何かがそうすべきだと私に告げていた。
だが、動けない。
否……この場を離れたくないのだ。
「もっと、近くに」
その言葉と共に、彼女はすぐ隣に移動してきて。
ぴたりと、肩が触れ合う。
彼女のその言葉に、行動に、一気に鼓動が跳ね上がった。
彼女の気持ちを考えれば、私ははっきりとした拒絶の言葉は返せない。
だが、あまりにも近すぎるこの距離は、私の心をギリギリと締め上げていく。
私にはもう、あなたの隣にいる資格など、きっと──
「聖、暑いです」
今の季節は秋。昼は暑い日もあるが、夜まで暑いなんて事は滅多にない。
わかってはいたが、そんな大嘘が思わず口から出ていた。
「……『白蓮』ですよ」
逃げようとするのに、彼女はぎゅっと腕を掴んで来て。
逃げたい。この場から逃げ出したい。
もう、あの頃とは、違うのだから。
「ねぇ、星」
私の名を呼ぶ、あなたの声があの頃と何も変わらずとも。
あなたのその瞳が、あの頃と何も変わらずとも。
「どうかこれからも私の傍に。あの頃のように、私を支えてはもらえないでしょうか?」
あなたの望みが、そうであったとしても。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あなたの望みなんて、本当はとうにわかっていた。
何度、目が合っては逸らした事でしょう。
何度、近づいてきたあなたに知らぬ振りをした事でしょう。
私がそっと離れた時、あなたが一瞬浮かべる悲しげな表情は、見なかった振りをして。
あなたの名を呼ぶ事を、何度も躊躇って、結局飲み込んで。
あの頃と変わらぬ関係など、私が望んではいけない。
何度も、そうやって言い聞かせた。
心の中に疑念がある限り、きっと私は自分を許せない。
それでも、
あなたが私を求めてくれていると感じる度に、本当はどうしようもなく嬉しくて。
今にも泣き出してしまいそうになるくらい、どうしようもなく私は幸せを感じてしまって。
私の本心を全てあなたにぶつけてしまえば、この変な距離感も無くなる事はわかっていた。
わかっていても言えなかったのは、離れたくなかったから。
脳裏に、共に笑い合っていたあの頃の自分達の姿が浮かぶ。
私だって、本当は。
それでも、
「……私にはその資格はないですから」
涙を堪えて、たった一言。
その拒絶の言葉だけを、絞りだした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
数分、だろうか。
もしかしたら数秒かもしれない。
時間の感覚など、先程拒絶の言葉を放った直後に消えてしまった。
唯一つ言えるのは、私にとってこの沈黙の時間はどうしようもなく永く感じられるものだということだろう。
りぃん、りぃん、という虫の声だけが、二人の間に流れている。
とうとう、言ってしまった。
私の今の気持ちを現すのならば、この一言に尽きるのだろう。
彼女は今、何を思っているのだろうか?
そっと盗み見る事さえ怖くて、私は俯いたまま動けなくなった。
なんて、情けないんだろうか。
あの頃の自分と、今の自分は、何一つ変わっていないのだ。
『寅丸』なんて名の癖に、どうして私はこんなにも弱いのだろうか?どうしてこんなに臆病で、卑怯者なのだろうか?
自分の弱さを認めることしか、私には出来ないのだ。
ぎゅっと、膝に置いた手に力をこめる。
指が腿に食い込むほどに、ぎゅっとぎゅっと握りこんだ。
自分を痛めつけたところで、弱さがどうにもならぬことなどわかっている。勝手に流れ落ちそうになる涙を堪えることくらいしか、出来ないのだろう。
それでもせずにはいられなかった。それ以外、何も浮かばなかった。
そっと、暖かいものがそんな私の手を包んでくれる。
言うまでもなく、それは彼女の温かい手だった。
何も言わぬままに、ただ手を撫で続ける彼女は今、何を思うのだろう?
「星」
いつもとかわらぬ優しい声で、彼女が私の名を呼んでくれる。
ただそれだけで、私の心は泣き叫ぶのだ。
この人と共に在りたい、と。
「ねぇ、あなたは勘違いをしているわ」
彼女は、まるで子供をあやす様な口調で私に語りかける。
「資格なんていらないのよ。ただ、私はあなたにお願いしているだけ」
ああ、きっと彼女は今微笑んでいるのだろう。
そんな事が、口調から伝わってくる。
「ねぇ、星。私はあなたと共に在りたい、それだけなのです。あなたが嫌なのなら、無理強いは出来ません。でも……」
すっと、左手にあった感覚は自分の頬に移動してくる。
そのままくいっと顔を上げるよう促されて。私は抗うことも忘れて、その手に従った。
「出来れば、あなたと一緒にこれからも生きて行きたいの。……ダメかしら?」
ああ、ほら。
彼女はやっぱり微笑んでいた。
ぽろぽろと頬を伝う涙を、彼女の優しい手が拭いてくれる。
それがどうしようもなく嬉しくて。どうしようもなく、温かい気持ちになれて。
これで許されたのだ、なんて調子のいい事は思わない。
でも。
私は、彼女と共に在ろうと思う。
そんな事を思いながらそっと、彼女の頬を伝う一筋の涙を拭って。
「……私はきっと、白蓮を支えきる事は出来ませんよ?」
そんな言葉を、彼女の言葉への返事とした。
勿論、笑顔で。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
虫達の声しか響いていないような、そんな静かな夜。
命蓮寺の縁側で、私達はただ寄り添っている。
あれから私達は、会話と言えるような会話はしていない。
ただ、お互いの頬を乾かすように月を見上げているだけだ。
彼女とのこの関係は、きっと恋仲と呼ぶようなものではないのだろう。
ドキドキと心が躍る事は、あまりなく。
あなたにどうしようもなく会いたいと焦がれる事も、あまりないのも事実だ。
ただ、ひとつ言えるのは。
こうやって二人で寄り添っているだけで、心が落ち着く。それだけだ。
この関係を言葉にするのなら、なんと名付けるのだろうか?
上手い言葉が、見つけられなかった。
それ以上考えるのが煩わしくなって、傍にあった彼女の手をぎゅっと握る。
そうすれば、彼女は私の手をぎゅっと握り返してくれる。
ふと彼女の方を見れば、彼女もこちらを見て。
どちらともなく、くすくすと笑いあう。
きっと、そんな関係だ。
言葉では言い表せない、こんな関係。
私達の関係は、そんな関係なのだ。
綺麗な三日月が空には浮かんでいて、その月に聴かせるかのように虫達は思い思いの音楽を奏でている。
それは決して小さい音ではないのに、心地よく感じられる、そんな音色。
そんな演奏会の繰り広げられる命蓮寺の縁側に、私は一人、佇んでいた。
聖の封印が解けてから、どのくらい時間が経っただろうか?
それなりに時間は流れたはずなのに、未だあの頃のように上手く話す事が出来ない自分がいる。
勿論あの頃とは、聖が封印される前の事を指しての事だ。
あの時、私は聖の封印を黙認した。
その事実は、何も変わらない。
そこにどうしようもない後悔の念が未だあったとしても、何も変わりはしない。
事実は事実。それは変えようがない事なのだ。
彼女が封印された時、私は何も出来なかった。
否、しようともしなかった。
私が動けば、彼女の理想は全て壊れてしまう。
彼女の意思を守る者が、いなくなる。
そう、思ったから。
思っていた、はずだから。
でも、本当にそうだったのだろうか?
本当は、ただ、
私自身も共に封印されることが、怖かっただけなのではないだろうか?
自分の身が、大事だっただけなんではないだろうか?
そんな疑念が、頭から離れない。
「……ここを出て行ったほうがいいのでしょうかね?」
そんな問いを、見上げる夜空に向けてみる。
私はきっと、ここにいてはいけない存在。
あの時の事だけでも十分そう思えるのに……大事な宝塔まで無くしてしまう始末なのだから。
「……そう、なのでしょうね。本当は」
何度も考えたその答えに、思わず自嘲が漏れた。
本当にそのつもりがあるのなら、もうとっくにこの場を離れているはず。
それなのに、なんのかんの理由をつけてここを離れないのは……本当はそんなつもり、サラサラないからなのであろう。
「星」
突然聞こえた自分を呼ぶ声に、ビクンと思わず体が跳ねる。
もう皆寝ていると信じ込んで、安心しきっていたせいだろうか?
気配に、全く気づけなかった。
「ひ、聖……まだ起きていたのですか?」
「ええ。なんとなく、ですがね」
そう言って、聖は私の隣に腰掛ける。
彼女との距離が近すぎるような気がして、少しだけ横に自分も座り直した。
あの頃と同じ距離には、きっと私はいてはいけないから。
「……月が綺麗ね」
「ええ、そうですね」
ぽつりと呟くような彼女の言葉に、ただ肯定の言葉だけを添える。
それ以外の言葉が、出てこなかった。
もっと、上手い言葉を見つけられればいいのに。
「ねぇ、星」
そんな事を考えていると、彼女が私の名を呼ぶ。
思わず体が硬くなる。少しだけ、自分の鼓動が早まるのを感じる。
「なんですか、聖」
それでも、表面上は何もないような顔をして。なんでもないような声を装って。
そんな私の方へ、聖はくるりと向き直る。
視線が、絡む。
彼女の綺麗な瞳に、自分が映り込む。
彼女の瞳は、力強く、それでいて静かに輝いているように見える。
きっと、これまで歩んできた彼女の人生がそうさせているのだろう。
そんな瞳が、私を捕らえているのだ。
私はこんな彼女の瞳に、どうしようもなく惹かれた。
あの頃と何も変わらぬこの瞳に、今も惹かれ続けている自分がいる事など、わかっている。
「いつまで私の事を『聖』と呼ぶつもりなのかしら?」
他人には滅多に見せない、不満そうな顔で彼女はそんな事を言う。
何かと思えば……そんなことか。
「ご不満、なのですか?」
「ええ、不満だわ。昔のように『白蓮』と呼んで貰えないかしら?」
「では、『白蓮様』と」
「……昔のように、『白蓮』と呼んで欲しいと言ったのです」
「……では、そのように心がける事とします」
滅多に聞けない彼女の強いその口調に負け、昔のように名前で呼ぶ事を渋々了承する。
まあそのくらいなら、きっと許されるだろう。
「あと……」
「まだ、あるのですか……」
思わず、ため息混じりのそんな言葉が漏れた。
少しだけ、すぐにでも逃げ出したいような衝動にかられる。
何かがそうすべきだと私に告げていた。
だが、動けない。
否……この場を離れたくないのだ。
「もっと、近くに」
その言葉と共に、彼女はすぐ隣に移動してきて。
ぴたりと、肩が触れ合う。
彼女のその言葉に、行動に、一気に鼓動が跳ね上がった。
彼女の気持ちを考えれば、私ははっきりとした拒絶の言葉は返せない。
だが、あまりにも近すぎるこの距離は、私の心をギリギリと締め上げていく。
私にはもう、あなたの隣にいる資格など、きっと──
「聖、暑いです」
今の季節は秋。昼は暑い日もあるが、夜まで暑いなんて事は滅多にない。
わかってはいたが、そんな大嘘が思わず口から出ていた。
「……『白蓮』ですよ」
逃げようとするのに、彼女はぎゅっと腕を掴んで来て。
逃げたい。この場から逃げ出したい。
もう、あの頃とは、違うのだから。
「ねぇ、星」
私の名を呼ぶ、あなたの声があの頃と何も変わらずとも。
あなたのその瞳が、あの頃と何も変わらずとも。
「どうかこれからも私の傍に。あの頃のように、私を支えてはもらえないでしょうか?」
あなたの望みが、そうであったとしても。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あなたの望みなんて、本当はとうにわかっていた。
何度、目が合っては逸らした事でしょう。
何度、近づいてきたあなたに知らぬ振りをした事でしょう。
私がそっと離れた時、あなたが一瞬浮かべる悲しげな表情は、見なかった振りをして。
あなたの名を呼ぶ事を、何度も躊躇って、結局飲み込んで。
あの頃と変わらぬ関係など、私が望んではいけない。
何度も、そうやって言い聞かせた。
心の中に疑念がある限り、きっと私は自分を許せない。
それでも、
あなたが私を求めてくれていると感じる度に、本当はどうしようもなく嬉しくて。
今にも泣き出してしまいそうになるくらい、どうしようもなく私は幸せを感じてしまって。
私の本心を全てあなたにぶつけてしまえば、この変な距離感も無くなる事はわかっていた。
わかっていても言えなかったのは、離れたくなかったから。
脳裏に、共に笑い合っていたあの頃の自分達の姿が浮かぶ。
私だって、本当は。
それでも、
「……私にはその資格はないですから」
涙を堪えて、たった一言。
その拒絶の言葉だけを、絞りだした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
数分、だろうか。
もしかしたら数秒かもしれない。
時間の感覚など、先程拒絶の言葉を放った直後に消えてしまった。
唯一つ言えるのは、私にとってこの沈黙の時間はどうしようもなく永く感じられるものだということだろう。
りぃん、りぃん、という虫の声だけが、二人の間に流れている。
とうとう、言ってしまった。
私の今の気持ちを現すのならば、この一言に尽きるのだろう。
彼女は今、何を思っているのだろうか?
そっと盗み見る事さえ怖くて、私は俯いたまま動けなくなった。
なんて、情けないんだろうか。
あの頃の自分と、今の自分は、何一つ変わっていないのだ。
『寅丸』なんて名の癖に、どうして私はこんなにも弱いのだろうか?どうしてこんなに臆病で、卑怯者なのだろうか?
自分の弱さを認めることしか、私には出来ないのだ。
ぎゅっと、膝に置いた手に力をこめる。
指が腿に食い込むほどに、ぎゅっとぎゅっと握りこんだ。
自分を痛めつけたところで、弱さがどうにもならぬことなどわかっている。勝手に流れ落ちそうになる涙を堪えることくらいしか、出来ないのだろう。
それでもせずにはいられなかった。それ以外、何も浮かばなかった。
そっと、暖かいものがそんな私の手を包んでくれる。
言うまでもなく、それは彼女の温かい手だった。
何も言わぬままに、ただ手を撫で続ける彼女は今、何を思うのだろう?
「星」
いつもとかわらぬ優しい声で、彼女が私の名を呼んでくれる。
ただそれだけで、私の心は泣き叫ぶのだ。
この人と共に在りたい、と。
「ねぇ、あなたは勘違いをしているわ」
彼女は、まるで子供をあやす様な口調で私に語りかける。
「資格なんていらないのよ。ただ、私はあなたにお願いしているだけ」
ああ、きっと彼女は今微笑んでいるのだろう。
そんな事が、口調から伝わってくる。
「ねぇ、星。私はあなたと共に在りたい、それだけなのです。あなたが嫌なのなら、無理強いは出来ません。でも……」
すっと、左手にあった感覚は自分の頬に移動してくる。
そのままくいっと顔を上げるよう促されて。私は抗うことも忘れて、その手に従った。
「出来れば、あなたと一緒にこれからも生きて行きたいの。……ダメかしら?」
ああ、ほら。
彼女はやっぱり微笑んでいた。
ぽろぽろと頬を伝う涙を、彼女の優しい手が拭いてくれる。
それがどうしようもなく嬉しくて。どうしようもなく、温かい気持ちになれて。
これで許されたのだ、なんて調子のいい事は思わない。
でも。
私は、彼女と共に在ろうと思う。
そんな事を思いながらそっと、彼女の頬を伝う一筋の涙を拭って。
「……私はきっと、白蓮を支えきる事は出来ませんよ?」
そんな言葉を、彼女の言葉への返事とした。
勿論、笑顔で。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
虫達の声しか響いていないような、そんな静かな夜。
命蓮寺の縁側で、私達はただ寄り添っている。
あれから私達は、会話と言えるような会話はしていない。
ただ、お互いの頬を乾かすように月を見上げているだけだ。
彼女とのこの関係は、きっと恋仲と呼ぶようなものではないのだろう。
ドキドキと心が躍る事は、あまりなく。
あなたにどうしようもなく会いたいと焦がれる事も、あまりないのも事実だ。
ただ、ひとつ言えるのは。
こうやって二人で寄り添っているだけで、心が落ち着く。それだけだ。
この関係を言葉にするのなら、なんと名付けるのだろうか?
上手い言葉が、見つけられなかった。
それ以上考えるのが煩わしくなって、傍にあった彼女の手をぎゅっと握る。
そうすれば、彼女は私の手をぎゅっと握り返してくれる。
ふと彼女の方を見れば、彼女もこちらを見て。
どちらともなく、くすくすと笑いあう。
きっと、そんな関係だ。
言葉では言い表せない、こんな関係。
私達の関係は、そんな関係なのだ。
例えるなら茹で過ぎて伸びた麺類
もう少し締めても良かったのでは、と思う
話自体は超俺得
ただ空白が多すぎて少し読みにくい感じが・・・
空白部分がちょっとスクロールが大変だったので、もうちょっと幅を狭めても良かったかもですね。
加えて上の人等同様、空白が多すぎたので-10
ふえろー白星ふえろー