蓮子の場合
深夜2時。いつもは自分が使っている布団を見ながら、宇佐見蓮子は戸惑っていた。なぜならそこには、同じ秘封倶楽部のメンバーであるマエリベリー・ハーン、通称メリーが涎をたらしながら幸せそうに眠っていたからだ。ちなみに布団は一つしかない。
こうなったきっかけは5時間前、蓮子が自分のアパート前で彼女と落ち合い、共に飲みに繰り出したことだった。久しぶりに二人で飲むこともあって調子づいた蓮子たちは、居酒屋を何軒もハシゴしている内にメリーの乗る電車の終電時刻を逃してしまい、結局蓮子のアパートまで肩を組み合い千鳥足でやってきたのだった。
「さすがにやりすぎたかなあ、これ」
部屋に入ってバッグを台所のテーブルに置き、布団を敷くなりその上にぶっ倒れたメリーを見下ろしながら蓮子が呟く。そう言う蓮子の顔も真っ赤で、いつ落ちてもおかしくなかった。
「それにしてもメリーの奴、また幸せそうに寝ちゃって――よっしょ、げふう」
そして酒臭い息を吐きながら、メリーの顔のすぐ側におっかなびっくり腰を下ろしていく。その最中、蓮子の両目は怪しい光を放ちながら、メリーの寝顔に釘付けになっていた。
「……」
蓮子はメリーをじっと見つめながら、頬を何度かつついてみる。メリーの小さな顔は均整のとれた完璧な美そのものであり、その肌は少し熱を持っていたがすべすべでぷにぷにとしてて、モチのように柔らかかった。
実際メリーはその立ち姿が石膏像のごとき完成された美と評されており、キャンパス内でも1、2を争う美貌の持ち主として有名であった。
そんな彼女が自分の目の前で、その女神の様な寝顔を無防備に晒している。酒でタガの外れかかった蓮子にとって、それは己の理性を突き崩すのに十分だった。
「……ホント綺麗な顔しちゃって。ホント綺麗。こういうのを見てると無性に――」
メリーの髪を梳き、額から頬にかけてをゆっくりと撫でながら、いたずらっ子のような笑みを浮かべて蓮子が言う。
「いたずらしたくなっちゃうんだよね。よしやる。やっちゃうからな」
そう言うなり、うしゃしゃしゃしゃと奇声を発しながら四つん這いで台所目指して這っていく怪物蓮子。そして椅子越しにテーブルの縁にしがみつくように上半身で張り付き、そこから両腕を伸ばして自分のバッグを自分の方へひっぱってその中を漁り始めた。
やがて彼女がメリーの側に戻ってきたとき、その手には一本のペンが握られていた。
「宇佐見蓮子、行きまーす」
完全に泥酔している蓮子はさながら寝起きドッキリのように声をひそめながら、ペンのキャップを外す。そしておもむろに左の頬に渦巻きを書き始める。
「おおっ可愛い!超可愛い!」
そう言って1人悶えながら、蓮子は片側の頬にも渦巻きを書いてやる。
「お出かけですかー?お出かけっ……ひゃひゃひゃひゃひゃ」
美術館の展示品に落書きするような背徳的な達成感を覚えつつ、蓮子は芸術とギャグマンガが合体したような顔を見ながらメリーが起きない程度の声で爆笑した。
もし落書きしたのがミロのヴィーナスだったら何もかもが台無しになっていたろうが、メリーにとってはこれくらいした方が人間味が出て却って可愛いと思ったりする。うん、絶対可愛い。私が決めた。私が法だ。
そう一人で納得しながら、その後も「パパなのだ―」「タイホタイホー」などと小声で騒ぎたて、ようやく落ち着き始めたのは短針が3を差し始めた時だった。
「ひーっひっひっ、ひーっ……ふう」
バカ騒ぎで若干酔いが引いた蓮子は息を整えてから、再びメリーの頬を優しく撫でた。その表情はそれまでと違ってどこか寂しげだった。
「ホント、もっとバカしてた方が可愛いのに」
そう言いいながら、アルコールで飽和状態になった頭でメリーに思いをはせる。
メリーはそのあり得ないほどの美貌とは裏腹に人見知りが強く自分から話しかけるのが苦手なうえ、まるで本物の石膏像かと錯覚するほどに表情の起伏が少なかった。そのため有名になりこそすれ、メリーに友人が出来ることは全くなかった。
蓮子に対しても笑顔を見せることはあるものの、自分から話しかけてから途端に口ごもり、「なんでもない」と言葉を濁すこともまた時々あった。
そしてその態度をみる度に蓮子はどこか疎外感に似た感情を抱いていた。もちろんそう考えるのは一瞬のことであり、メリーにも何か事情があるのだろうと気にすることは無かった。それでもやっぱり、
「もうちょっと素直になればいいのになあ」
そうすれば友人も増えてもっと楽しくなれるのに、そう思いながら蓮子はもう一度、子をあやすようにメリーの頬を撫でる。
「仏頂面してても面白くないぞう、っとと」
そこで蓮子は自分の視界が急激にぼやけるのを感じ、大きくよろけた。思い出したように頭もグラグラとしだし、辛抱堪らずその場に倒れ込む。
「ああもうだめ。酒は飲み過ぎるもんじゃないわね」
薄れゆく意識の中、蓮子はそうか細い声で愚痴をこぼしてから目の前の友人に語りかけた。
「おやすみ、メリー」
メリーの場合
深夜2時。いつもは自分が使っている布団を見ながら、マエリベリー・ハーンは戸惑っていた。なぜならそこには、同じ秘封倶楽部のメンバーである宇佐見蓮子が涎をたらしながら幸せそうに眠っていたからだ。ちなみに布団は一つしかない。
こうなったきっかけは5時間前、メリーが自分のアパート前で彼女と落ち合い、共に飲みに繰り出したことだった。久しぶりに二人で飲むこともあって調子づいたメリーたちは、居酒屋を何軒もハシゴしている内に蓮子の乗る電車の終電時刻を逃してしまい、結局メリーのアパートまで肩を組み合い千鳥足でやってきたのだった。
「やりすぎちゃったかな、流石に」
家につくころにはがあがあと寝息を立てていた蓮子を優しく布団の上に置いてから、その寝顔を見下ろしながらメリーが呟く。そう言うメリーの顔も真っ赤で、右の壁に寄り掛からないと立つことが出来なかった。
「とりあえず、私も座らなきゃ。このままじゃ流石にきついわ」
壁を支えにしてゆっくり腰をおろしていくメリー。そしてなんとかその場に座り込んだメリーは、四つん這いで蓮子の所へ近づいて行く。
「まったく蓮子ったら、人の気も知らないで」
メリーはそう愚痴をこぼしながらも優しい笑みを浮かべ、幸せそうに寝息を立てる蓮子の頬を慈しむように撫でた。
一度撫でてはそっと手を離し、離してはもう一度撫でる。何度かその動作を繰り返していく内にメリーの中で何かが燻り始め、気付いた時にはメリーは惚けた表情で自分の指を蓮子の唇に触れさせていた。
「うぅん…」
「ひっ…!」
指に感じた柔らかな感触からか、それとも蓮子の洩らした声からか、思わず我に返ったメリーはビックリして手をひっこめた。蓮子が体を小刻みに捩る間石のように硬直していたメリーは、蓮子が再び寝息を立て始めたことに安堵のため息を漏らした。
「ビックリした……」
胸に手を当てため息をつくメリー。その後でメリーは胸に当てていた手に視線を向けた。さっき蓮子を撫でていた手、その手を自分の顔の位置まで持ち上げ、指先を恐る恐る自分の唇に当ててみる。
「蓮子」
暫くしてからメリーはそう言って指を離し、二人しかいない部屋の中をキョロキョロと見回す。メリーの顔は真っ赤だったが、その頬にさした朱は決して酒のせいだけではなかった。
一通り辺りを見回してから蓮子の方へと向き直り呼吸を整える。髪を掻揚げて鼓動を落ち着かせ、蓮子の顔の向こう側に左手を置き、ゆっくりと自分の顔を蓮子の元へと降ろしていく。
影と顔が重なっていく。メリーの乱れた吐息が蓮子の髪を、次に唇を凪ぐ。鼻頭が交差し視界が蓮子の閉じた瞼でいっぱいになる。
そして互いの唇が重なり合う直前、そこまで来てメリーはその動きを止めた。暫くの間そのままの姿勢で蓮子のまつ毛を見つめていたメリーは、やがてゆっくりと顔をあげていった。
「なにやってるんだろ」
左手をひっこめて蓮子の腰のあたりの隣に座り込み、あきれ顔で天井を見つめながらメリーが呟く。こんなことしても何にもならないのに。
メリーは改めて蓮子を見る。その無垢な寝顔を見るだけで、自分の鼓動が早まっていくのがわかる。愛おしく思う気持ちで心がはちきれそうになる。
いつからメリーが蓮子のことを好きになったのか、メリー本人にもわからなかった。一目惚れかもしれないし、一緒に活動する内に惹かれていったのかもしれない。
蓮子はメリーに比べて地味な方だった。外見はどこにでもいる普通の学生といった体で、人ごみに紛れてしまうとどこにいるのかわからなくなる。しかしメリーが好きなのは蓮子の内面の方だった。
常に笑顔を絶やさず、他人のことを第一に考える。友人の出来なかった自分を秘封倶楽部に誘ってくれたのも蓮子だった。蓮子のその優しさとコロコロ変わる表情に、メリーは自分にない物を感じていた。
メリーにとって、蓮子は太陽のような人だった。
だから、蓮子の曇った表情を見るのはとても堪えられなかった。それが自分の口下手な性格のせいであった時など、後ろめたさのあまり死んでしまいたい程だった。
「ダメだよね。こういうのはちゃんと言わなきゃ」
自己嫌悪に陥りながらメリーが片手で顔を覆いながら言う。わかってはいるが、それでも蓮子が自分の気持ちを受け止めてくれるのか、メリーはそれが怖くて仕方なかった。
心の底では愛想を尽かしているかもしれない。侮蔑しているかもしれない。
そして告白によって今の関係が壊れることが、メリーにとっては何よりも恐ろしかった。
「ねえ蓮子。蓮子は――」
そう言って姿勢を変えようとした時、メリーの気力と体力が眠気に白旗を上げた。糸が切れた人形のように蓮子と同じ方向に倒れ込む。
薄れゆく意識の中、蓮子の横顔を虚ろな表情で見つめながら、メリーが消えそうな声で言った。
「私のこと、好きになって――」
深夜2時。いつもは自分が使っている布団を見ながら、宇佐見蓮子は戸惑っていた。なぜならそこには、同じ秘封倶楽部のメンバーであるマエリベリー・ハーン、通称メリーが涎をたらしながら幸せそうに眠っていたからだ。ちなみに布団は一つしかない。
こうなったきっかけは5時間前、蓮子が自分のアパート前で彼女と落ち合い、共に飲みに繰り出したことだった。久しぶりに二人で飲むこともあって調子づいた蓮子たちは、居酒屋を何軒もハシゴしている内にメリーの乗る電車の終電時刻を逃してしまい、結局蓮子のアパートまで肩を組み合い千鳥足でやってきたのだった。
「さすがにやりすぎたかなあ、これ」
部屋に入ってバッグを台所のテーブルに置き、布団を敷くなりその上にぶっ倒れたメリーを見下ろしながら蓮子が呟く。そう言う蓮子の顔も真っ赤で、いつ落ちてもおかしくなかった。
「それにしてもメリーの奴、また幸せそうに寝ちゃって――よっしょ、げふう」
そして酒臭い息を吐きながら、メリーの顔のすぐ側におっかなびっくり腰を下ろしていく。その最中、蓮子の両目は怪しい光を放ちながら、メリーの寝顔に釘付けになっていた。
「……」
蓮子はメリーをじっと見つめながら、頬を何度かつついてみる。メリーの小さな顔は均整のとれた完璧な美そのものであり、その肌は少し熱を持っていたがすべすべでぷにぷにとしてて、モチのように柔らかかった。
実際メリーはその立ち姿が石膏像のごとき完成された美と評されており、キャンパス内でも1、2を争う美貌の持ち主として有名であった。
そんな彼女が自分の目の前で、その女神の様な寝顔を無防備に晒している。酒でタガの外れかかった蓮子にとって、それは己の理性を突き崩すのに十分だった。
「……ホント綺麗な顔しちゃって。ホント綺麗。こういうのを見てると無性に――」
メリーの髪を梳き、額から頬にかけてをゆっくりと撫でながら、いたずらっ子のような笑みを浮かべて蓮子が言う。
「いたずらしたくなっちゃうんだよね。よしやる。やっちゃうからな」
そう言うなり、うしゃしゃしゃしゃと奇声を発しながら四つん這いで台所目指して這っていく怪物蓮子。そして椅子越しにテーブルの縁にしがみつくように上半身で張り付き、そこから両腕を伸ばして自分のバッグを自分の方へひっぱってその中を漁り始めた。
やがて彼女がメリーの側に戻ってきたとき、その手には一本のペンが握られていた。
「宇佐見蓮子、行きまーす」
完全に泥酔している蓮子はさながら寝起きドッキリのように声をひそめながら、ペンのキャップを外す。そしておもむろに左の頬に渦巻きを書き始める。
「おおっ可愛い!超可愛い!」
そう言って1人悶えながら、蓮子は片側の頬にも渦巻きを書いてやる。
「お出かけですかー?お出かけっ……ひゃひゃひゃひゃひゃ」
美術館の展示品に落書きするような背徳的な達成感を覚えつつ、蓮子は芸術とギャグマンガが合体したような顔を見ながらメリーが起きない程度の声で爆笑した。
もし落書きしたのがミロのヴィーナスだったら何もかもが台無しになっていたろうが、メリーにとってはこれくらいした方が人間味が出て却って可愛いと思ったりする。うん、絶対可愛い。私が決めた。私が法だ。
そう一人で納得しながら、その後も「パパなのだ―」「タイホタイホー」などと小声で騒ぎたて、ようやく落ち着き始めたのは短針が3を差し始めた時だった。
「ひーっひっひっ、ひーっ……ふう」
バカ騒ぎで若干酔いが引いた蓮子は息を整えてから、再びメリーの頬を優しく撫でた。その表情はそれまでと違ってどこか寂しげだった。
「ホント、もっとバカしてた方が可愛いのに」
そう言いいながら、アルコールで飽和状態になった頭でメリーに思いをはせる。
メリーはそのあり得ないほどの美貌とは裏腹に人見知りが強く自分から話しかけるのが苦手なうえ、まるで本物の石膏像かと錯覚するほどに表情の起伏が少なかった。そのため有名になりこそすれ、メリーに友人が出来ることは全くなかった。
蓮子に対しても笑顔を見せることはあるものの、自分から話しかけてから途端に口ごもり、「なんでもない」と言葉を濁すこともまた時々あった。
そしてその態度をみる度に蓮子はどこか疎外感に似た感情を抱いていた。もちろんそう考えるのは一瞬のことであり、メリーにも何か事情があるのだろうと気にすることは無かった。それでもやっぱり、
「もうちょっと素直になればいいのになあ」
そうすれば友人も増えてもっと楽しくなれるのに、そう思いながら蓮子はもう一度、子をあやすようにメリーの頬を撫でる。
「仏頂面してても面白くないぞう、っとと」
そこで蓮子は自分の視界が急激にぼやけるのを感じ、大きくよろけた。思い出したように頭もグラグラとしだし、辛抱堪らずその場に倒れ込む。
「ああもうだめ。酒は飲み過ぎるもんじゃないわね」
薄れゆく意識の中、蓮子はそうか細い声で愚痴をこぼしてから目の前の友人に語りかけた。
「おやすみ、メリー」
メリーの場合
深夜2時。いつもは自分が使っている布団を見ながら、マエリベリー・ハーンは戸惑っていた。なぜならそこには、同じ秘封倶楽部のメンバーである宇佐見蓮子が涎をたらしながら幸せそうに眠っていたからだ。ちなみに布団は一つしかない。
こうなったきっかけは5時間前、メリーが自分のアパート前で彼女と落ち合い、共に飲みに繰り出したことだった。久しぶりに二人で飲むこともあって調子づいたメリーたちは、居酒屋を何軒もハシゴしている内に蓮子の乗る電車の終電時刻を逃してしまい、結局メリーのアパートまで肩を組み合い千鳥足でやってきたのだった。
「やりすぎちゃったかな、流石に」
家につくころにはがあがあと寝息を立てていた蓮子を優しく布団の上に置いてから、その寝顔を見下ろしながらメリーが呟く。そう言うメリーの顔も真っ赤で、右の壁に寄り掛からないと立つことが出来なかった。
「とりあえず、私も座らなきゃ。このままじゃ流石にきついわ」
壁を支えにしてゆっくり腰をおろしていくメリー。そしてなんとかその場に座り込んだメリーは、四つん這いで蓮子の所へ近づいて行く。
「まったく蓮子ったら、人の気も知らないで」
メリーはそう愚痴をこぼしながらも優しい笑みを浮かべ、幸せそうに寝息を立てる蓮子の頬を慈しむように撫でた。
一度撫でてはそっと手を離し、離してはもう一度撫でる。何度かその動作を繰り返していく内にメリーの中で何かが燻り始め、気付いた時にはメリーは惚けた表情で自分の指を蓮子の唇に触れさせていた。
「うぅん…」
「ひっ…!」
指に感じた柔らかな感触からか、それとも蓮子の洩らした声からか、思わず我に返ったメリーはビックリして手をひっこめた。蓮子が体を小刻みに捩る間石のように硬直していたメリーは、蓮子が再び寝息を立て始めたことに安堵のため息を漏らした。
「ビックリした……」
胸に手を当てため息をつくメリー。その後でメリーは胸に当てていた手に視線を向けた。さっき蓮子を撫でていた手、その手を自分の顔の位置まで持ち上げ、指先を恐る恐る自分の唇に当ててみる。
「蓮子」
暫くしてからメリーはそう言って指を離し、二人しかいない部屋の中をキョロキョロと見回す。メリーの顔は真っ赤だったが、その頬にさした朱は決して酒のせいだけではなかった。
一通り辺りを見回してから蓮子の方へと向き直り呼吸を整える。髪を掻揚げて鼓動を落ち着かせ、蓮子の顔の向こう側に左手を置き、ゆっくりと自分の顔を蓮子の元へと降ろしていく。
影と顔が重なっていく。メリーの乱れた吐息が蓮子の髪を、次に唇を凪ぐ。鼻頭が交差し視界が蓮子の閉じた瞼でいっぱいになる。
そして互いの唇が重なり合う直前、そこまで来てメリーはその動きを止めた。暫くの間そのままの姿勢で蓮子のまつ毛を見つめていたメリーは、やがてゆっくりと顔をあげていった。
「なにやってるんだろ」
左手をひっこめて蓮子の腰のあたりの隣に座り込み、あきれ顔で天井を見つめながらメリーが呟く。こんなことしても何にもならないのに。
メリーは改めて蓮子を見る。その無垢な寝顔を見るだけで、自分の鼓動が早まっていくのがわかる。愛おしく思う気持ちで心がはちきれそうになる。
いつからメリーが蓮子のことを好きになったのか、メリー本人にもわからなかった。一目惚れかもしれないし、一緒に活動する内に惹かれていったのかもしれない。
蓮子はメリーに比べて地味な方だった。外見はどこにでもいる普通の学生といった体で、人ごみに紛れてしまうとどこにいるのかわからなくなる。しかしメリーが好きなのは蓮子の内面の方だった。
常に笑顔を絶やさず、他人のことを第一に考える。友人の出来なかった自分を秘封倶楽部に誘ってくれたのも蓮子だった。蓮子のその優しさとコロコロ変わる表情に、メリーは自分にない物を感じていた。
メリーにとって、蓮子は太陽のような人だった。
だから、蓮子の曇った表情を見るのはとても堪えられなかった。それが自分の口下手な性格のせいであった時など、後ろめたさのあまり死んでしまいたい程だった。
「ダメだよね。こういうのはちゃんと言わなきゃ」
自己嫌悪に陥りながらメリーが片手で顔を覆いながら言う。わかってはいるが、それでも蓮子が自分の気持ちを受け止めてくれるのか、メリーはそれが怖くて仕方なかった。
心の底では愛想を尽かしているかもしれない。侮蔑しているかもしれない。
そして告白によって今の関係が壊れることが、メリーにとっては何よりも恐ろしかった。
「ねえ蓮子。蓮子は――」
そう言って姿勢を変えようとした時、メリーの気力と体力が眠気に白旗を上げた。糸が切れた人形のように蓮子と同じ方向に倒れ込む。
薄れゆく意識の中、蓮子の横顔を虚ろな表情で見つめながら、メリーが消えそうな声で言った。
「私のこと、好きになって――」
メリーが口下手な設定珍しいのでもっとやれ
そう決めました。
でもこのままじゃちょっとかわいそうなので増量希望です!