おはよう、覚えてる? ここは幻想郷、人間と妖怪の調和する世界。
貴方はこの世界でかつて魔法使いをしていた人間よ。そして、今は貴方の生きていた時代から100年が過ぎた新しい時代。
金、金、金。おかねがすべてを支配する幻想郷よ。
信じられないって? そうよね、だって私たちの世界にあるお金は大した価値を持っていなかった。
せいぜい里の人間たちが物を取引する時の道具、はたまた三途の渡し賃なんて用途もあったくらい。
でも今はお金が全てなのよ。人間も妖怪も、はたまた妖精まで。お金を持っていない生き物はこの世じゃ生きていけないのよ。
どうして100年後に自分が目覚めたって? 憶えていないのね……。
弾幕ごっこの際に事故で意識不明になった貴方は、当時開発されたばかりだったコールドスリープを施されたのよ。
凍結に50万円、解凍が成功したら200万円。――そう、ついさっき、私がチルノの会社に200万円振りこんでおいたわ。
ああ、気にしないで! 私、お金持ちだから。
だってそうでしょ? 私に逆らったら幻想郷で商売は出来ないんだもの。お金はいくらでも集まってくるわ。
ちなみに、私と紫が二大勢力として評議会の会派を率いてる事になっているの。権力者になるとお金は嫌でも集まるものよ。
評議会? ああ、幻想郷のルールを定める会議の事よ。
年に2回開かれる評議会では、力の弱い妖精から強大な神様まで、みんなが一人「一票」の等しい力を持って議論するの。
それで多数決で色んなルールを決める訳。どう? 私と紫が考えた素晴らしいシステム。
スペルカードルールといい、こういう決まりを考えるのが得意なのよね、私って。
え、チルノの会社? あの妖精、意外にもいち早く時流にのって会社を立ち上げたのよ。
といってもアドバイザーとして、頭の良いのが背後にはついてると睨んでるんだけどね。
業務内容は人間のコールドスリープや、夏場のかき氷屋チェーンがメインね。
幻想郷の中で「チェルノコーポレーション」は一位二位を争う有名な企業よ。ああ、あいつ馬鹿だから申請書類で自分の名前の綴りを間違えたのよ。
いきなりの事でびっくりしたでしょうけど、少しずつ慣れていくと良いわ。
あ、貴方の財産だけど、たっぷりとあるから安心して。弾幕ごっこで貴方に重傷を負わせた相手から、裁判でたっぷり賠償金をもらったから。
おかげ今や紅魔館は売却されたし、あいつらは揃ってサーカス団を立ち上げて生活してるわ。
でも、案外と性にあってたのか幻想郷でのショービジネスとしては一番成功してるんじゃないかしらね。
団長と妹のコンビネーションアクロバット飛行は見事だし、門番やメイドの曲芸は刺激的。魔法によるイルミネーションがそれらを引き立てるわ。
あ、そうそう。あんたの家はちゃんと保存してあるんだけど、魔法の森は大分変わっちゃったから注意してね。
瘴気を取り除く機械を河童が開発して、どんどんと開拓されて住宅地になってるから。
香霖堂? ……ああ、霖之助さんのお店ね。人が大勢森に移住してきた時は、お客が増えるなんて喜んでたんだけど。
しばらくしたらお店をたたんで隠居しちゃったわ。どこかで新しい香霖堂を開いているんじゃないかしらね。
お店を開くのにも評議会に租税を納めなきゃならないから、経営難だったのかしらねぇ。
あの人は昔からお金には疎かったから……。
妖怪の山? あそこは今、幻想郷の首都になっているわよ。首都って……まぁ中心都市って事ね。
元々、河童の科学技術は高水準だったし、神様が産業革命を起こしたりと時代を先取ってたからねぇ。
ああ、けど巫女の方は山を出て行っちゃったみたいね。そんなに工業都市化が嫌だったのかしら。外の人間は分からないわね?
それに、やっぱり山には有権者が多いからねぇ、パテント法もあいつらの組織票で成立したようなもんだし。あれで大分稼いだみたいね。
パテント……ってのは、誰かが作った物を他の人が使う時にお金を取れるようになるシステムよ。え? そんなにおかしい事かしらね。
え? 全体的によく話が分からない? まぁしょうがないわよね、100年経ったらこんなもんよ。
後、特に変わったのはどこかしらね。何か知りたい事はない?
ああ、人間の里ね。あそこはすっかり過疎地になったわねぇ。
まぁ旧都と呼ばれて観光地みたいな扱いにもなってるけど。やっぱり、あんまり人は住んでいないわよ。
今人気のあるのは、ゆったりとした住環境の魔法の森とか、首都の妖怪の山かしらねぇ。
低所得者向けには地底なんかもお薦めよ。交通の便が悪いし、治安が最悪だけどねぇ。
うん、やっぱり力だけが自慢の妖怪たちには、金儲けが出来ないからね。自然と行き着く先は地底って事よ。
あそこだったら色々と仕事にはありつけるし、でも私は絶対に住みたくないわね~。
それを取り仕切ってるのが地霊殿のさとりよ。あいつは自分の管理する区域を発展させる気はなくて、扱いやすい今を維持してる感じね。
相変わらず上手くやるっていうか、評議会の意向にも表面上だけ従って、裏では何をしてるか分からないわね。
永遠亭? あー、今は高級リゾート地ね。
永琳が上手いこと竹林の土地を全部、自分たちの物だとして書類にしてるから、あいつらは今も金持ちよ。
あそこには美味しい焼き鳥屋台や兎料理が美味しい料亭なんかが点在しててね、落ち着いた雰囲気の良いところよ。私も長期休暇で行ったりするわ。
それに病院の設立に、薬局、薬品開発、その他もろもろの医療産業はあいつらが取り仕切っているしね。
今度の評議会では結構な勢力になってくるはずよ。あ~、頭が痛いわ。
そこら辺の妖怪? どいつの事かは分からないけど、ミスティアみたいに手に職があって成功してる奴もいるわ。
でも大概はお金を稼げずに、腹が減って人間を襲うのよね。それでブタ箱行き。
え? 刑務所の事よ。地底の奥深くにあるんだけど、犯罪を犯したのはそこで幽閉されるの。
足も早くて調査に向いてるから天狗なんかに、犯罪者を捕まえる組織を任せているわ。
ああ、射命丸? あいつは立派な岡っ引として組織の幹部になっているわ。
新聞~? ああ、そういえばあいつら、そんな事をしていたわね。
天狗たちもお金にならない新聞は辞めて、よっぽど人気のあった奴らしか発行してないわよ、そんなの。
まぁ趣味で仕事の片手間に自費で発行してるのもいるから、もしかしたら射命丸も別名義で新聞を続けているかもね。
……アリス?
えーと、あぁ、あの子ね。
なんだか複雑なんだけど、お金が幻想郷で流通し始めた後も、ずっと一人で人形を作っていたみたいね。
それをたまに町で売ったりして、なんとか食いつないでいたみたいなんだけど……。
自立人形の開発に成功してからが問題ね。――おめでとう、って……。あんまり目出度くないのよ。
それをある会社が是非、うちで量産化しないかって言って、あの子、人形作りばっかりしてて法律とか知らなかったのよ。
それでパテントを渡しちゃって、勝手に量産されて……それが軍事目的だったのが、よほどショックだったらしくてね。
ふらりと森からいなくなって……魔界にでも戻ったのかしら。その後は、私も知らないわ。
寺? ああ、あいつらは相変わらずよ。
まだ宗教団体として人々に自分の教えを広めようと元気に活動してるわ。
なんだかんだで、人間から人気もあって檀家さんも多いみたいだし、潤ってるみたいね。
まぁ孤児や行き倒れを拾ってくれてるから、私たちとしても助かってるんだけど。
一ヶ月に一回の遊覧船も人間に人気みたいだしねぇ。こちらも最近、支持率を上げているから困るわ。
本気で評議会に参入されたら、面倒くさい事になるもの。
やだ、ちょっと、魔理沙。なんで泣いてるのよ?
こんなの、私の知っている幻想郷じゃない? そりゃ、100年前とは随分と変わったわ。
でもこれが、今の幻想郷なんだから仕方ないじゃない。
お金のせいで、みんなが悲惨な目に遭った?
確かに昔のままの方が幸せだった連中も、中にはいるかもね。
でもお金のお陰で、力のない者も努力次第で地位を確立出来るようになったわ。
弾幕ごっこ? あれも所詮は力比べじゃない。まぁ私が言うのもおかしいけどね。
お金を得るのも所詮は、力比べ。だけど、それは、腕力や魔力だけじゃない、あらゆる方法を使っての力比べ。
頭の良さ、力の強さ、はたまた運。人それぞれの長所を活かせる力比べなのよ。
確かに、お金に振り回されて不幸になった人もいるかもしれない。でも、それはお金儲けっていう力比べに、負けたってだけなのよ。
「お前、お前なんか、霊夢じゃない!」
うわっ、ちょっと、殴りかかるなんて……。
え、どうしたの驚いた顔して? あれ、もしかして私が立体映像だって気付いていなかったの?
100年後に私が生きている訳ないじゃない。これはプログラム……うーん、式神のようなもので作り上げられた架空の私。
だけど私が生きている間に、貴方の為に作った人格なのよ。この世界の事を教えてあげられるように……って。
100年後に目覚めた貴方が、ちゃんと生きていけるように、私から貴方への100回分の誕生日プレゼント。なんてね。
でも、私の話だけで世界を知ろうとしても限界がある。そろそろ、自分の目で確かめてきて?
だから次の質問が、最後の質問ね。
何故、お金が幻想郷に流通したか?
はっきりとした答えは分からないけど、多分こういう事じゃないかしら。
外の世界ではお金が必要なくなった。お金が幻想になった。
……だから幻想郷にこれほど大量の“お金”っていう概念が流れこんできたんじゃないかしら。
あ、それじゃあ約束通りこれで最後ね。
大丈夫、貴方みたいな小賢しい奴なら、この世界でもきっと上手くやっていけるわ。
あ、でも泥棒だけはしちゃダメよ。天狗たちが飛んでくるから。
窃盗は懲役8年。人間にはキツイわよ?
そ、れじゃあ、ね、魔理沙……
貴方のいた頃の幻想郷
守れなくて、ごめんね
ですがなんというか、ネタが勿体ない気が――。
というのも、設定自体はおもしろいと思うんですよ。
ただ、それをワンシーンで切り取ってしまったことが残念でならない。
この設定で、いろんな話を見たいと思ってしまいました。
次回作も楽しみにしています。ありがとうございました。
なんというかARMSのアリスや施設の子供達を思い出しました。
ふらりといなくなった後どうなったのか気になります。
まりさ頑張れ
たぶんお金が幻想郷入りすることはないと思いますけどね。
こういう幻想郷はいやだなあ。なんか、現実と同じくゆとりがない。
ifとして、こういうのもありですね。
ただ最後がちょっと弱いのとボリューム的に物足りなさが
これで短くまとまってて面白いけど、色々妄想を引き立てられるんだもの
でもわたしの中でれいむはまっ先に金に呑まれてくたばるタイプ。。
幻想郷はすべてを受け入れるのですね
こういうifは大好きだけど、中途半端って感じで…
短編だからその分濃さが欲しかったかなぁ
でも面白かったです
なんだか切なくなりました.
アリスかわいそうに...
この短編に幻想郷の「バッドエンド」の一つを見ました。
最後の台詞が胸に来る。
霊夢もさぞや悔しかったんだろうに。
もっと展開して欲しかった気もしますが、
「バッドエンド」に表示される文章としては、これで纏まってると思います。
最後2行の霊夢の決め台詞も、ちょっと狙いすぎで醒めますね
ちょっとイメージと合わなかったです。
東方資本主義……だっけ?
さらっと流す感じの語り方も嫌味にならなくて良い感じでした。
はびこったデストピアのような……。
行きつくところまで行きついてしまったという事
きっと郷も同じ道を辿るのでしょうね
要するに北斗の拳かw
スペカルールがあれば幻想郷とあんまり変わらない気もするが
なんにしてもこれは酷いな、面白いんだけど酷いわこれは
きっとどこかで、凶悪妖怪が冷凍保存されてるに違いないw
霊夢が立体映像というオチが
なんというか物悲しさを一層際立たせているのが
上手いなと思いました。
普通にアリかも
外の世界はお金の要らない福祉世界になったのか、はたまたお金を使う人そのものがいなくなったのか…
魔理沙を新たな幻想郷の入り口に立たせた所で〆るラストと相まって、膨らむ想像が止まりません。
なるほどARMSか・・・アリス・・・
いやはやこれは面白い。
生きる為には金がいる。戦争するにも金がいる。
人が死ぬにも金がいる。会社建てるにも金がいる。
生まれて来るにも金がいる。金のせいで事件は起こる。
病気になっても金がいる。・・・金が世界を動かして、金は何時かは天下を回る・・・
金の世は人の世。人の世は金の世。金にこき使われて、挙げ句の果てに泥つかみ、
・・・そして金無く人から見放され、ひとりぼっちで死んでいく・・・
某科学者みたいですね、アリス。
未来モノとして内容が短い、煮詰められてない等の評価もあるようですが
今現在の幻想郷と、現金や資本主義が幻想郷入りした100年後の幻想郷のギャップを楽しむ趣旨のSSとしては
とても成功していると思います
佐藤氏のゴールデンエイジ(SSコンペ作)が思い浮かびましたが、これはこれで。
ひょっとしたら地上の人も月人のようになってしまったのかもしれない
しかしこの世から金の概念が無くなるってのは考えがたく、作中でもそこらを投げた感がある。
霊夢の予測という形でもいいから何か言及してほしかったかな。
このままこれをプロローグに長編が書けそうな題材ですが、ここで切られているのも悪くないという印象。
ただハッピーエンド至上主義の自分にはアリスがかわいそうなので減点。
でも、本家自律人形VS量産型自律人形は面白そう、見てみたい
印象的には割り食う人妖が変わっただけで、弱肉強食っぷりは今とさほど変わってないように思える
そこ出身のアリスが金や企業関係にそんな疎いかな?
でも面白かった。
淡々としていながら、魔理沙やかつての幻想郷との間に哀しさを上手くかもし出していると思う。
それぞれの勢力の成り行きが「あるある……」と思えてますます切なくなる。
アリスとかレミリアとか、貴族は他人を押しのけた商売は出来ないでしょうねえ。
素敵なブラックユーモアでした。
作品本体の感想としては、舞台設定の説明だけして本編が始まる前に終わってしまった印象。
それと、霊夢が「守れなくて、ごめんね」と言っておきながら、そのルールを作ったのも全て自分という部分に釈然としない所を感じました
物語として根幹の部分から意味を成してないよーな。
A.編読んできます。
しかしそんなのどうでもいいと言わんばかりの最後の破壊力よ……
百年じゃさすがに無理かと思いますが外の人間もいつかは金という表象を捨てて本当の豊かさを
手にするのでしょうか。
そもそもお金がマイナスイメージで取られがちですが所詮はツールですから、
本質的に変わってしまったのは幻想郷の住人たちですよね。
うん、面白かったです。
軽すぎてもったいなかった。
弾幕も力比べに過ぎんというのに、妙に納得してしまった。
最高に面白かった