※ナズ寅のはずですが、甘いのか辛いのか、コメディ設定のはずが俺設定になってます。
ご主人が私の幻想郷縁起(改定五版)を読んでいる。
少しでも早くこの幻想郷を理解しようと努力しているのだろう。
真面目なご主人らしい、と言えばらしいが。
「ナズーリン」
ご主人は本から目を上げ、私を呼ぶ。
何か分からないことがあったのか。
「この印をつけたのは貴方ですか?」
開いた本を指差し、問いかけてくる。
本が読めるほど近くに寄り、覗き込む。
彼女の体温と、微かな柑橘系の香に心がざわめく。
困ったものだ。
人物録のページ。
幻想郷の主だった人物がイラスト入りで解説されている章だ。
ご主人が指差しているのは、イラストの上辺に書き込まれている、
星印だった。
☆☆☆ ★★★★★
白い星が三つ、黒い星が五つ。
【十六夜咲夜】のイラストを指している。
紅魔館のメイド長、人間でありながら、わがままな吸血鬼の主を満足させる
家事管理能力に加え、卓抜した戦闘力を持ち、そしてそれらをより完璧に近づける
ために時間と空間を操る能力を縦横に駆使する『パーフェクトメイド』
なおかつ、この容姿なのだから、星の数も宜なるかな。
なにせ星印を書いたのは私だから。
「印をつけたのは私だが、それがなにか?」
「なに、と言うわけではありませんが、少し気になったもので」
ご主人はページをめくりながらも星が気になっているようだ。
「ご主人、もしや、星の意味が分からないのか?」
「えっ、分かりませんよ!」
まったく、鈍いにもほどがある。驚いた。
ご主人の鈍さを誰よりも理解している、と自負しているはずなのに、
自信が無くなってしまうではないか。
改めて教育しなければならないのか、やれやれだ。
ため息ひとつ。
腕を組んで少し固い口調で。
「ご主人。まずは白い星から見ていこうか」
私の口調と態度に緊張したのか、目を大きく開き、口元を少しすぼませている。
うむ、可愛いな。
「白い星は乳の素晴らしさを評点したものだ」
ご主人の表情は変わらない。
「乳が大きいほど星の数は多いが、厳然たる基準がある」
ご主人の表情は変わらない。
「私や吸血鬼姉妹、酔っ払いの二本角の鬼、ほとんどの妖精たち、
幼女―少女を基本にしたモノの【どうやら膨らんでいるな】、
程度では一つも印されない。
私は妥協しない。自分にこそ厳しくあらねばと思っている」
ご主人の表情は変わらない。
私の心意気を理解できているのだろうか。
「星が一つ。これは微乳なのだが、相応の存在感があるモノ。
具体的には、私のこの小さな掌で全体が握りこめるほどのものだ」
右手を開き、ゆっくりと閉じていく。
指同士がくっつく直前で止め、その形をご主人に見せ付ける。
「このくらいの大きさだ」
全く動かないご主人から幻想郷縁起をもぎ取り、ページを繰る。
「例えば黒白魔法使い、楽団の妹二人、地霊殿の主、その飼い猫、鴉、
あと、ウチのぬえ、などがそうだ」
霧雨魔理沙のページを開き、白い星一つを指差す。
「真横ではなく、やや斜め後ろから見るのがポイントだ。
腕を上げた瞬間、ふくらみの存在に納得できた場合にのみ授与される」
ご主人の眉間にほんの少しだけ、皺が寄る。
付き合いの長い私には、彼女の疑問などお見通しだ。
そんな微乳の機微が厚ぼったい服装の上から分るのか?ってことだね。
「もちろん十分な観察は、裸体でなければ適わない」
「こらーっ!どこで見たんですかっ!」
ようやくご主人が反応した。
「基本は風呂場だが、朝夜の着替えのときも狙い目だ」
「そっそれって覗きでしょうが!犯罪ですよ!犯罪っ!」
「従者たるもの、目的のためには、いつでも主に代わって手を汚す覚悟はある」
「なんとなくカッコイイ言い方してもダメ!それに私頼んでないし!」
「そんなに興奮しないでほしいな。冗談だよ、冗談」
「貴方の場合、冗談に聞こえませんから!」
「毘沙門天の使いである私がそんなことするわけが無いだろう。
万が一、発覚すればご主人にも大変な迷惑をかけてしまうし」
「本当に、本当に信じていいんですね?」
そんな縋りつくような目で見なくとも良いのに。
「信じてくれて良い。私は万に一つもミスを犯さないからね」
「うかーっ!貴方を殺して私も死ぬー!」
ご主人が飛び掛ってきた。
組み伏せられ、両腕を掴まれる。
大柄なご主人にのしかかられ、小柄な我が身は、くまなく包み込まれる。
いかん。この体勢はいかん。
荒い息遣いが額から鼻先にかかっている。
思い切り吸い込んでみた。
なんと甘やかな息なのか、いかん。たまらんぞ。
口が近すぎる。
今なら【くっちびる】を頂戴しても【事故】で済むのでは、と明晰な我が頭脳は
即座に打算した。
しかしながら、その唇は、我が唇より少しばかり上に位置しているため、届かない。
身動きできないから、位置の是正も適わない。
舌を伸ばしてみたが、わずかに届かない。
無念。すごく無念だ。
くそっ。千載一遇の好機なのに如何ともし難し。
すべらかな喉を舐めたおす、という選択も閃いたが、この甘美な唇を至近距離にして、
ここで妥協することは、敗者の言い訳めいた選択に思えて自分が許せなかった。
ご主人に関しては、欲望に一切の妥協をしないことを自分の信条に誓ったではないか。
唇がダメなら、喉でも良い。
違う。断じて違う。
私のご主人への思いは、千年にわたって積み重なり、熟成され、研ぎ澄まされ、
蒸留され、時にはとんでもない悪臭を放ち、腐りながら、大事に育んできたものだ。
ここ一番で妥協など出来るものか。
もちろん、顎から喉にかけてのラインは、ご主人の大きな魅力の一つだ。
いずれは徹底的に攻略する所存では在る。
感極まり、声を漏らす瞬間、のけぞる喉元に我が唇と舌をあて、歓喜の微振動を
味わいつくすのだ。
なので、今はダメなのだ。この場面ではダメなのだ。我慢しろナズーリン。
私は食いしばった歯の間から言葉を押し出した。
「ご主人、おちつけ。私を信じろ」
びくり、と拘束していた力が留まる。
もう一度、今度は、はっきりと口を開いて言う。
「ご主人、おちついて。私を信じて」
ようやくご主人が体を起こした。
豊満な胸の圧迫から開放され、鎖骨の辺りが楽になったような、寂しいような。
「本当ですか?本当ですね?」
小さな声でたずねてくる。涙ぐんでいた。
色々と真剣に憂いていたのだろう。
思い切り抱きしめたくなるような儚さだ。
デカイ図体なのに。
お互いに体を起こし、改めて正対する。
「伊達に千年以上、女体を観察してきたのではないよ」
その観察対象は、九割以上ご主人なのだが。
たまに他の女体を見ないと、ご主人の素晴らしさに慣れてしまうからね。
「私ほどの女体の探求者になれば、服の上からでも分るのだ」
「なんの探求ですかぁ?」
そんな情けない声を出さないで欲しい。
「よほどのことがなければ私の透視眼は欺けない」
「嘘です!貴方にそんな能力はありませんよ!」
「ご主人、私の【ダウザー】としての力が、ロッドを軸にした各種アイテムと
子ねずみ達によるものだけだと思っているのかな?」
作り笑いで、少しだけ首を傾げてみせる。
予想通り、ご主人は困惑している。
「え、そんな、わかりませんけど、えと、違うんですか?」
そんな顔や仕草は他人には見せてはいけないな。
不埒な輩の理性を吹き飛ばすには十分すぎる。
対策を考えておかねばならんな。全く、考えることが多すぎる。
「ダウジングは、いくつもの不確かな因子を複合し、仮説を立てては検証し、
正答へと絞り込んでいく。
時に地道で、時に直感的な、まぁ、【直感】とは積み重ねた経験が囁く、理屈を
飛び越えた、結論までのショートカット、なのだがね。
まぁ、つまり、ダウジングはご主人が思っているよりかは少しばかり、
繊細な技術なのだね」
少しぼーっとしていたご主人が遠慮しながら言う。
「私は貴方の能力が素晴らしいものだということは知っています。
私の理解など及ばないほど、複雑なのだろうと思っています。
そしてその能力に何度も、そう、何度も助けてもらいました。
貴方の能力がなければ私はここに在りません」
俯いてしまったご主人。
【貴方の能力がなければ】か。
些か傷がついたな。
【能力】が私の価値か。
言ってほしくはなかった。
私は、私自身には、全く、自信がないのだから。
分かっていたけれど、切ないよ。
いつまでたっても私の返答が無いのに不安を感じたのか、顔をあげるご主人。
私の顔を見て、驚いている。
そんなに変な表情だったのだろうか。
「ナズーリン!私、私、何かおかしなことを言ったんでしょうか?」
うろたえまくる。
ご主人は単純だ。純心を保ったままなのだ。
千年以上生きて、様々な想いを見、感じ、傷つき、押しつぶされ、
見て見ぬ振りをし、否定し、肯定したくとも力は及ばず。
それなのに泣きながらも【善】を信じて生きてきた。
そんなご主人が自分の心を護るために前面に出してしまった、
【察しの悪い、鈍い】心根、それを責めることが出来るはずも無い。
「ご主人、別に何も無いよ」
「いえ!私は貴方を傷つけたんです!何か酷いことをしたんです!」
今日はえらく突っかかるな。
それほど私の反応が露骨だのかな。
変なところで勘の良いご主人だ、私の心情を過剰に汲んでしまったのか。
ご主人を泣かせたいとは思っているが、悲しませることは本意ではない。
話題を戻すとしよう。
「透視眼のことだったね」
「あ、いえ、あ、そ、そうでした」
ご主人も、話題の強制転換に合点がいかないものの、これ以上突っ込んでは
よろしくない、という雰囲気を察したようだ。
ならば馬鹿話を広げよう。
「要は心の目だ。一枚、また一枚と衣服を剥いでいく様を想起をするのだ。
その過程を丁寧にすることで一糸まとわぬ最終形が完璧に見えてくる」
「それって、妄想と言いませんか?」
「酷い言い方だな。よろしい、力をお見せしよう」
座っているご主人を上から下までゆっくりと舐り見る。
三往復したとき、ご主人が胸元をおさえながら、体を丸めた。
「何です!?何を見ているんですか!」
赤い顔で上目遣い。これも良いな、大変良い。
「ふむ。上は薄桃色、下は白い長穿きだな。左側の裾飾りが取れてしまっているが」
質素を旨とするご主人は、下着の数も少ない。
今、干してあるものと、箪笥の在庫を引き算すれば容易に特定できる。
折を見て、肌に優しい上等な品を買ってあげよう。
もちろん、うんと扇情的なヤツを。
丸まったまま大きく目を見開くご主人。
「ほっ、ほんとに見えるのですか!?」
思い切り不敵な笑いを作って見せる。
「もう少し集中すれば、その奥も見えるよ。例えば『止めてくださいっ!もう結構です!
分かりました!分かりましたから!』
座ったまま、くるりと背を、いや尻を向け蹲ってしまった。
大きな肉塊が、もじもじと動いている。
はっふ、うっく、撫ーで回し、頬擦りし、齧り付きたい!
ここでも我慢を強いられるのか!
「ご、ご主人。分かってくれたのなら良いのだ。説明を続けるよ?」
出来る限り理性的に言ったつもりだ。
「星二つは私の掌で、ちょうど収まる大きさが基準だ。そう、このくらい」
親指以外の四指を揃え、そっと掴む形を作る。
【このくらい】に反応したご主人が首だけをひねり、私の手を覗き見る。
なんだその可愛い格好は。
お尻の脇から困ったような顔半分が、ちょろりと見えている。
【写真】に撮っておきたい絵だ、どうにかならないのか。
呼吸八つの間、その格好を十分堪能してから告げる。
「紅白巫女、楽団の長女、白黒つけたがる閻魔、機械工の河童、
地底の土蜘蛛などがそうだ。おっと、ムラサ船長もそうだよ。
しかし、この程度では、私の掌は満ち足りるだろうが、私の魂は不足を訴える」
「貴方の魂は何をしたいんですかぁ?」
ようやくご主人が正対する。
「さっきも言ったよ。私は妥協しないのだ」
「立派です。と、言い切れないですよ」
「今は構わない。最後まで聞いてくれれば、私のエロスの深遠の一端を垣間見ることが
できるだろう」
「見なくちゃいけないんですか?ってか、見たくないんですけど」
「ここまで私に言わせたのだ、最後まで付き合ってもらうよ、ご主人!」
「その力強さの根拠はなんなんですかっ!」
「付き合ってくれるよね?」
「うっ、そんな顔しても、ダメです、ダメす、ダメなんけども」
ご主人は私の【真剣お願いフェイス】に滅法弱い。
だからこそ滅多に使わないのだが。
「あのっ、おっ、お乳の話はよく分かりませんが、ナズーリン、貴方が最後
まで聞けとと言うなら、聞きます。でも、いやらしい話は困ります」
先ほど私を傷つけたと思い込んでいるのか、随分な譲歩だ。
まったく、気を使いすぎだ。
それも的が少し外れているし。
だが、そこも愛しい。
こんないい加減な色欲まみれの密偵ねずみに、それと知ったうえで千年にも
わたり、変わらずに情をかけてくれた。とても、とても丁寧に。
不器用で察しが悪い、それが如何ほどの欠陥か。
探索行の多い私のために作ってくれた袖なし鎖帷子は、肌着の上に着けられる極薄のもの。
呪術を施した金板を刻み、糸状に延ばし、自分の髪の毛を織り込みながら、微細な
防御魔陣を何重にも描き、組み合わせて紡ぎあげたこの世に一つの私の専用防具。
丸めれば両掌で包めるほどの薄さと軽さ。
それでもこの鎖帷子に命を救われたのは二十回ちょっとある。
ご主人はこれ一着を作るのに四十年かかった。
打撃、暫撃、冷熱、雷撃、急所を狙う致死性の各種呪法に耐え、前後の首元から
フードを引き延ばし、顔面と頭頂を覆えば、散布型の毒や瘴気をほとんど防ぐ。
四肢が吹き飛ばされたり、朽ち落ちたことは何度かあったが、この帷子のおかげで、
頭や内蔵に深刻なダメージを受けることは無かった。
器用ではない。だが、直接私を護れないもどかしさ故に、備えに全力を注いでくれた。
私の生が終わるときはこの帷子が傍らにあって欲しいと願う。
うん、ご主人の不器用ぶりから、随分と堀下がってしまったものだ。
浮上しなければな。
しかし、【お乳】に【いやらしい話】か、ご主人も言うようになったものだ。
「その件は善処しよう。では、星三つだね。均衡のとれた、ちょうどいい大きさ
と言えば分かりやすいかな。
先ほどご主人が示した、完璧メイド長の他、人形遣い、新聞屋の鴉天狗、地底の嫉妬姫、
竹林のブレザー兎、巫女っぽい奇跡娘、他にもいるが、今挙げたモノたちについて
何か気がついたかな?」
たまにはご主人にも考えさせないとね。
「えと、咲夜さん、アリスさん、文さん、パルスィさん、鈴仙さん、早苗さん、
うーん」
全員に【さん】付けか。
まぁ、いいか、それが寅丸星だし。
「共通する事柄が思いつきませんね。まぁ、皆さんとても綺麗な方ばかりですけどね。
でも、こんなことしか思いつかないようでは、貴方のことを言えま『そこだ!よくぞ
気づいたなご主人!嬉しいぞ!成長しているではないか!』
「はぁ?なんでそんなに興奮しているんですか?喜んでいる意味も、褒められている
意味も分からないんですけど」
「ようこそ、エロス探求の道へ。ご主人は一歩を踏み出されたのだよ」
「待ってください!どうしてそうなるんですか?そんなところへ踏み込んだつもりは
ありませんよ。これっぽっちも」
「気づいた点が、私の発想に近いからだ」
「えっ!ええーー!そんな!酷い!」
失礼な驚き方だね。
「つまりご主人もエロスの素養があるということだ。
すました顔の下に途方も無いエロス魂を秘めておられる」
「だから待ってください!その結論が分かりません!」
「いやらしい話は困るなどと、どの口が言うのやら。
綺麗な方ばかり、か、そして彼女達をどうしたいのだね?」
「どうもこうもないです!何もしませんよ!」
「ほう、何もせんとは高度な放置系遊戯だな。なるほどご主人に放置されたら
私ならば一日と持たず、悶え狂ってしまうだろう。さすがエロス天の代理」
「その言い方、色々と不敬ですから!やめてください!」
「話しかけても無視され、冷たい視線すらくれない。
うむ、一興だが、半日が限界だろう。
やる時にはくれぐれも私の心が完壊する前に中断してくれ。
その直後には壊れかけてボロボロの私を思い切り抱きしめて、
【ごめんなさいね、ナズーリン】と言ってくれ、そして、うんと甘えさせてくれ。
私は貴方の胸に縋り、泣きながら【ご主人のバカァ】とつぶやこう。
ふぅ、これは効きそうだ、精神崩壊ギリギリのラインまで我慢する快感か。
少々危ういが、たまになら良しとする」
「あのー、ついていけないんですけど」
「良し、話を戻そう。ご主人が気づいたとおり、この階級は文句なしの美姫が多い」
「私の発言は無視ですか?」
「いや、無視はしていないよ。放置系遊戯の件、ゆめゆめ忘れたもうなよ」
「そっちの話なんですか?」
「まぁ待ちたまえ。体格に対して均衡の取れた乳の大きさであるということは、
他の部位もそれに倣う可能性が高く、全体として無駄の少ない美しい体、それを
動かす美しい所作にも通じる。不思議と顔の造作も際立って整ったものが多い。
後述する予定の【黒い星】にも関連することなので、覚えておきたまえ。
次の試験に出すよ」
「何の試験ですか」
「幻想郷エロス検定試験四級(ナズーリン認定)だ。まっ、冗談はともかく、
この階級の乳たちは、乳単体では語れないほど総合力が高いものが目白押しだ。
乳の大きさを優先するこの私が無視できぬほど、全体の均衡が整っている
美姫たちがひしめく白い星三つっ!【ちょうど良い】、侮り難し!」
「あの、力が入っているところ申し訳ないんですが」
「さて、これからが大事なところだ。よろしいかな?」
「う、また流された。大事の意味が分からないのですが、うかがいましょう」
「星四つ。これはハッキリと【大きい】のだ。
しかしながら、あまり認知されていないのは、服装で隠蔽しているモノが多いからだ」
少し首を傾げるご主人。
「動きたくない大図書館、花の大妖怪、半獣の歴史語り、我らが聖、このあたりがそうだ。
意外なところでウチの一輪もギリギリ含まれる」
「そうなんですか?」
「間違いない。あれはかなりのものだ。形も色合い良い」
「透視眼、なんですよね?そうなんですよね?」
「肝心なところで雲が邪魔をするので苦労はしたが、信じてくれて良い」
「うっ、うっ、透視なんでしょ?」
再び疑念が膨らんできたな。
話を逸らさねば。
「均衡の観点ではやや過剰な大きさとも言えるが、普段隠されている分、
【実は結構スゴい】と、良い意味での衝撃を与えてくれる。
ご主人たちほど明瞭ではない分、垣間見た瞬間の衝撃は一番大きかった。
下品な言い方を許してもらえるなら【ビックリおっぱい】と呼称したい」
「ほ、ん、とに下品ですね!失礼すぎますよ!」
「ならば【おどろきパイ】でいかがか?観光地で売っていそうだが」
「もうやめませんかぁ?」
む、脱線してしまったな。拒否反応が強くなってきている。
「呼称の件は後回しだ。真剣にいくよ。コホン、形のバリエーションも、
この大きさくらいから一気に広がりを見せるのだ。
質量がどの方向に展開しているのか、興味は尽きない。
例えば上白沢慧音。彼女の場合、若干外に広がりを見せつつも、
張りを保った、いわば【開放系、受け入れ体制十分型】であり、
さらにその先端の熟し具合は経験を『ストーップッ!待って!やめて!』
「何故とめる?興味が無いのか?エロスの徒、エロリストデビューしたご主人が」
「うかー!エロリストってなんですかー!」
ご主人が腕を振り回し始めた。
鬼も一目置いたあの膂力で殴られたら、私なんぞは木端微塵だ。
「ご主人!落ち着け!」
「エロリストって言うなー!」
おっと、涙目だね。
「わかった!了解したよ、だから落ち着いて、星ちゃん」
「へう?、う、いっ、今そう呼ぶのはずるいです」
切り札の一つを使ってしまったか。
己の言動を厳しく律しているご主人に合わせて私もそれなりの礼節を保って
いるが、たまにタイミング良く崩すと、少し恥ずかしそうにしながらも喜ぶのだ。
今のはスレスレのタイミングではあったが。
「申し訳ない。口が滑ってしまったようだ」
それでも座り直してくれたご主人。
やれやれ一息つけるか。
「んー、ん。長らくお待たせして申し訳ない。いよいよ星五つに参ろうか!」
「正直、待っていたわけではありませんが」
「これは十分に、じっうーーぶんんっに満足する大きさ、ということだ!
ちなみに、大きい乳を表現する【巨乳】という言葉には私はどうにもエロスを
感じないのだよ。
別の表現を探求しているのだが、未だ、しっくり来るものが見つけられない。
もしかしたら、探求者たる私の最大の課題、いや、使命なのかもしれない。
これからも答えを求めて世界を駆け巡るだろう」
「はぁー、壮大な使命ですねぇー」
なんだご主人。その全く興味のなさそうな反応は。
まぁ、今はいい。続けるか。
「ただ大きければ良いというものではない。
己の体より大きな乳には劣情を抱きにくいし、伸ばして三尺もあればそれも興を殺ぐ。
幸いなことに、この幻想郷では立派な乳の持ち主は皆、相応の美しさを備えている」
ご主人は困った顔のままか。
「乳八仙」
「は?」
「乳八仙だよ、私が個人的に命名した幻想郷における大美乳婦、八名のことだ」
「大美乳婦って、ものすごい言い方ですね」
「もちろんこれも暫定的な呼称だ、誰のことかはもう分かっているね?」
「分かりませんよ」
「とぼけるつもりか。難儀な子猫ちゃんだな。エロリストの自覚が十分ではないな」
「こ、子猫って私のことですか?それに、エロリストはやめるって言ったじゃない
ですか!」
「些細なことに気を取られるな。教えよう、心して聞いてくれ」
私は居住まいを正し、人差し指を伸ばして【一】を表す。
「一人目、紅魔館の居眠り門番、紅美鈴。
鍛え抜かれた肢体とトップクラスの長身、それでもなお激しく存在を主張する大美乳は、
量的には一二を争うだろう。
申し分のない張りと力強さ、戦闘中に見せる躍動感がこたえられない!
暴れん坊おっぱい、暴れっパイ、と呼ぶことにしよう!」
「二人目、白玉楼の万年春頭主人、西行寺幽々子。
他の大美乳婦に比べれば体躯は小柄ながら、生活感のない緩めの体から突き出した
大美乳は、奔放な広がりを見せ、いかにも柔らかそうだ。
強く掴んだら潰れてしまいそうだし、押しこめば、どこまでも沈み込んでしまう
底なし沼のような危さがある。正直、危険だ!」
「三人目、永遠亭の怪しい薬師、八意永琳。
露出の極端に少ない服装なれど、隠しきれていない大きさ。
均整のとれた長身、落ち着きある言動と相まって、清濁併せ飲む賢者の佇まいを見せる
【大賢パイ】。
普段は冷徹にあしらわれそうだが、本当に苦しいときには受け入れてくれる、頼りたく
なる、言ってみれば安心して甘えられる大美乳だ!」
「四人目、三途の川の勤勉とはいえない渡し守、小野塚小町。
放り出し見せつけ系ではあるが、その大きさは誰もが認めるところだ。
露出が激しく、はだけ具合が粗野であり、本人の偽悪趣味と相まって、ちょいワル
大美乳と言ったところか!外向き度合いも最大、飛び込んで、挟まれて、幸せだ」
なんだご主人、反応がないな。疲れてきたのか?
まだ半分だというのに。
「五人目は、鬼の四天王が一つにして酒好き好色漢、星熊勇義。
紅美鈴と並ぶ高密度、躍動型だが、違いがある。分かるかな?」
力なく頭を振るご主人。
元気がなくなってきな。
「どうした、しっかり!ご主人なら分かるはずだぞ」
「なんだか色々疲れてきました」
「むぅ、一度にたくさん詰め込みすぎたかな?しかし、最後までいくからね」
「はぁー」
「近接戦闘型、実は穏和で世話好きな性質、大美乳以外も共通点は多いが、
決定的な違いは【遊び心】だ。
緊張を強いられる場面でも遊び心を忘れない、その性質が乳の在り方、主張の方向性を
異なったものにしている。張りは十分ながらも、突き出し型ではなく、まろみのある
西瓜型、遊び疲れたら、枕にして眠りたい。
星熊勇義、良い意味で遊び慣れした、余裕のある大人の大美乳だ!
私の好みで言えば二番手争いの筆頭だったりする」
ご主人の眉が少し上がった。
【二番手】に反応したね?気持ちは分かるが、タネは明かしてあげないよ。
畳み込むかな。
「六人目、隙間の管理者、万年暁を覚えず、八雲紫。
ゆったりとした衣装だが、こちらも万人が認める大きさだ。
すべてを見透かしているような態度、常に煙に巻こうとする物言い、何とも不思議
な雰囲気で、その魅力に捕らえられたら逃れられそうにない、
西行寺幽々子と同質の危険パイだ。
ロケット型であることが違いと言えばそうなるだろう。ちなみに透明感は一番だ」
「七人目、山のオンバシラキャノン、八坂加奈子。
量感は申し分なし、明確に外向けに展開したソレは、母神のごとき包容力を感じさせる、
いやまぁ、本当に神なのだが。
実際のところ整いすぎの感があり、私のエロスはさほど奮い立たないのだがね。
それでも表面の張りと中身の柔らかさの対比は、上手に焼き上がった、
たこ焼きを想起させる。外はカリッと、中はふんわり、これはこれで良い!」
渋い柿をかじったときのようなご主人の顔。
クライマックスはこれからなのに。
「そして最後の八人目は、分かっているよね?」
最大級の笑顔を向けて問いかける。
「え、えと、もしかして、その、」
ほんの少しの眉間のシワと、下がった眉尻。
まだ何か言いたそうに小さくもぐもぐ動いている口元。
期待と不安が混ざったうえに、やるせなさをまとった、心細そうな表情だ。
唇を優しく奪って「大丈夫だよ」と安心させてやりたい。
いや、いっそそうすべきなのか。
待て、それで終われそうにないな、やめておくか。
「そう、八人目は、幻想郷随一のうっかりもの、我等が寅丸星!」
「うかー!やっぱりそうなんですね!でも、うっかりって、いえ、そうなん
ですけど、その二つ名はいやー!」
「ほう?やはり自信はあったようだね、ご主人。
まぁ、これまでの大美乳婦たちを考えれば、私でなくともご主人が外れるはず
はないがね。
しかし、二つ名に関して注文を付けるのは、少し贅沢というものだ」
「うう、でもいやです、恥ずかしいです」
「そんなことより、ご主人の乳の素晴らしさを語らせてくれたまえよ。
このために長々と前振りをしてきたのだからね」
ご主人は俯いたままだ。
なんにせよここでやめるつもりはさらさらない。
「質量は最大級にほんの少しだけ及ばないが、私に言わせれば、体躯との均衡が
崩れる直前、目一杯のギリギリ、溢れる寸前の危険度最大!
透き通るよう、とは言えないが、健やかさを確信させる生命力溢れる薄桃色!
肌理が細かく、密を塗ったような艶と照り、これは他の誰もついて来れない!
ここだけでも一見の価値がある!誰にも見せたくはないが、世の分からず屋に
己の狭世を思い知らせてやりたくもある。
この張りと艶、指が喜ぶ、掌が喜ぶ、口が喜ぶ、舌が喜ぶ!
おっと、いきすぎた、本論を続ける!
仰向けになったときの美しさにも言及したい!
よく言われる大きいのに横になっても形が崩れない【巨乳】、作りものではある
まいし、適度な弾性を持ったそれなりの物体がどの向きにしても形が変わらない、
そんなことはあり得ない。
また、型くずれしないことが尊いのではなく、どのように崩れるのかが重要なのだ!
その点、寅丸星の崩れ方は美しい!全体が少し内向きなので、仰向けになってこそ、
その威力を発揮する!外側にやや流れて、ちょうど真上を向くその先端が、
どこにこぼれようかと、ふるふると危うい均衡を保っているその姿こそ究極の美だ!
破壊力が最大になる!
破壊されるのは私の理性だが!
そしてさらに、並外れた筋力を持ちながらも、まるで独立した次元にあるように柔軟
さを失わす、表面と中身の柔らかさの違いがほぼ均一。
そして、虐心をかきむしる【虐めてください】型。ひっぱたいても、ふんづけても、
けなげに耐えるだろう芯の強さと耐久性、あ、いや、そんなことは決してしないがね。
うん。
また、乳間にも適度な肉があり、顔を埋めるに不都合が全くない。埋め方を誤れば、
窒息すること必至の隙のなさ!
私の片掌では到底勝負にならぬ大きさに、私は両掌をもって挑むつもりだ。
片乳ずつ、丁寧にナマエロスを注ぐ所存だ。
両掌で掴み、優しく絞りあげ、左右互い違いの動きで揉みほぐし、尖り始めた先端を
そっと口に含み、舌先を小さな風車のように回そう。
貴方がさらに高みを望むなら、私の口一杯でかぶりついた後、思い切り吸い上げてあげよう。
何度でも。
おそらく下品な音を立ててしまうだろう。
だが、私はもう一つ先に行きたい。歯を立てたいのだ。傷は付けない、付けない
つもりだが。
その先端を細心の注意をはらい、噛む。
下顎を小刻みに左右に動かし、コリコリさせる、貴方が仰け反る瞬間が危険だ、私の
歯は鋭いから。
十分に注意しよう。そして『ナズーリン!!』
真っ赤な顔をしたご主人の金切り声で我に返った。
「あっ、ああ、すまない。興奮してしまったようだ。
途中から具体的な攻略方法の解説に移行してしまったな。
明らかに今回の趣旨からは外れている、申し訳ない、ひとまず忘れてくれ。
ご主人にはまだ早い」
「まだ早いって!私のことなんでしょ?私の、その、お、お乳のことなんでしょ?
忘れろって言われても無理です!貴方は私にそんなことをするつもりだったんですか!」
両手で胸を隠しながら、そんなもので隠しきれはしないのだが、詰問してくる。
参ったな、調子に乗りすぎた。今後の展開を自分で狭めてしまうとは。
「ご主人、落ち着いてくれよ?私が言ったことはあくまで願望だ」
「ほらーっ!願望って言った!願望って言いましたよ!」
しまった、またしくじった。
「願望ではないよ、ガンホーだ」
「ガンホー?」
これはまた苦しいな、
「そう、ガンホー、ガンホー、ガンホーだ」
「なんなんですか?」
「おまえ等は薄汚いドブネズミだ!」
突然の私の大声に驚くご主人。
「サー!イエッサー!」
「おまえ等の使命は何だ?!」
「探せっ!探せっ!探せっ!」
「おまえ等は命蓮寺を愛しているか?!このドブネズミ共!」
「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」
ご主人は呆然としている。
「とある地方の兵士同士が志気を高めるための掛け声だ」
「なんの志気を高めるんですか!」
「この場合、私の思いの丈を高める、あ、いや、あくまで願望で『やーぱりっ!
願望じゃないですか!』
これはダメだ、収拾がつかん。
素直に謝るしかないな。
「ご主人、寅丸星様、ごめんなさい。私が悪かったです」
土下座し、額を畳に付けたまま告げる。
「調子に乗りすぎた。本当に申し訳ない。私の卑弱な妄想を思わず口に出してしまった。
気分を害されたのなら、好きなだけ私を打ちのめすが良かろう、まっこと申し訳ない」
そのままで待つこと暫し。
思ったよりずっと穏やかに囁かれた。
「私が、私が貴方を傷つけることは未来永劫ありません。
お仕置きくらいはするかもしれませんが、傷つけようとは思っていません。
今の私の立場上、優先しなければならないことはいくつもあります。
毘沙門天の代理として、命蓮寺の一員として、聖の名代として。
でも、ナズーリンが引き替えであれば私はその全てを投げうちます。
だって、私が今あるのは貴方がずっとそばにいてくれたからです。
いつでも励まし、陽気にさせてくれ、慰め、叱り、導いてくれた貴方を傷つけることなど
できるはずがありません。我が身より大事なナズーリンです」
あっはっ、待ってくれ、私、私をそこまで思ってくれていたのか、でも、でも、
今までそんな素振り見せてくれなかったじゃないか。
今になってそんな事言うのか?ずるいよ、私の気持ちも知らずに、こんなスゴい事
いきなり言って、私、どうしたらいいの?
「私も興奮しすぎましたが、ただ、そのような、にっ肉欲の対象としてして見られて
いたかと思うと、とても悲しいです。
私と貴方の絆はそんなものだったのかと、心が締め付けられました」
なんて悲しそうな顔だ。
ああ、そうか、ご主人、貴方の真心と不満をはっきりと聞かせてもらったよ。
私の言葉が足りなかったのだね。
貴方の真の言葉には真摯に応えねば。
それにしても嬉しい。ご主人の想いが少しは私に向けられていたのだ。
「ご主人、貴方は私の希望そのもの。その姿が私の生きる糧、
その姿がどんなものであったとしても私の忠誠と愛欲は変わらないと断言しよう。
しかし、現世の姿はそのとき限りのもの。ならば十分に楽しまねば損ではないかな?」
「貴方の言葉が分かりそうで分かりません。【愛欲】でいっそう分からなくなりましたよ」
「まあ、聞いて欲しい。姿形は関係ないと言いたいが、良いに越したことはない。
今のご主人は素晴らしいのだからね。
この卑小な体の私が憧れても仕方ないことだと思う」
「あくまで自分を卑下しますか。
それならば問います。
私と貴方の体が入れ替わっていたとしたら同じような感情を抱けますか?」
とんでもないことを言い出したな。まったく。
私がご主人の超絶肉体、ご主人が私の半端な幼女体型、ということか。
あーん、どんなんだか。
むっ、待てよ、それって、それって!スゴそうだぞ!
今と同じように察しが悪く、うっかりさん、失敗ばかりで、その度【ごめんなさい】
と涙ぐみ、小さな体をますます小さくして震えるのか!私の姿で。
そして私はご主人の姿を持って【仕方ないな、次は気をつけるのだよ】と包み込む
ように抱しめるのか!
うっかり転んで汚れたときは、お風呂で綺麗にしてあげるのだ、嫌がっても無駄だよ。
何せ私の方が遙かに大きく、強いのだから!本気で嫌がるなら無理はしないが、
優しく包み込んであげれば、私の豊かな胸の中、プチプチ文句を言いながらも拒みは
しないだろう、きっと。
怒ったときは叩いてくるかもしれない。小さな手でペチペチと。
そんなのぜんぜん痛くないね。でも可愛い。
ふおーっ!たまらん!これはこれで良いではないか!
素晴らしい発想だ!来世はかくありたいぞ!
「ナズーリン、分かったようですね。貴方は姿形にとらわれているのです。
私の言いたいこ『ご主人!スゴいぞ!私のエロスの幅がまた広がった!さすがだ!
恐れ入った!何というエロス!貴方はすでに私を越えておられる!』
「ふぇ、なんですか?またエロスですか?」
「その発想、堪能させていただいた。ごちそうさまでした」
「も、もしかして逆効果?」
「いやいや、入れ替えモノか。参りましたな」
「このままウヤムヤですか?」
「とまぁ、白い星はこんな感じだね。分かってくれたかな」
「うー、納得できませんが、貴方のこだわりが尋常ではないことは、
何となく分かりました」
本当に納得してないな、これだけ丁寧に説明したのに。
まぁ、色々と脱線はしてしまったが、ご主人の気持ちが少し分かっただけでも、
大収穫だな。
今夜は眠れないよ、星。
でも折角だから、もう一つの星も話したい。
聞いて欲しいな。だってこっちの方が大事なんだもの。
それに今日の雰囲気なら思いの丈を伝えられそうな気がする。
気合いを入れろナズーリン、勝負どころが来たぞ、あ、今日は勝負下着じゃなか
ったな、って、そもそも私、勝負下着持ってないよ。
今日は裾がほつれたネズミ色の猿股だ、やだ、涙出そう。
ああ、こんな私でも、少しは可愛く見せたいたいよう!でも、この体型で勝負下着とは、
それも滑稽だな。上は付けてもしょうがないんだから、下で勝負しないと。
高価だがショートドロワぐらい手に入れておこう、ご主人は気にしないと思うけど、
出来ればうんとドキドキさせたい。私だって恋の駆け引きを満喫したい乙女なのだ。
おっと、また脱線した。ご主人が心配している。
「黒い星は私の主観だ。はっきり言って、私の好みなのだよ。【いい女指標】と
言っても良い」
「いきなり話題が変わるんですか!」
ご主人にとってはいきなりだろうが、私は順番通りだ。
「顔の造作、体各部の均衡、肌艶、立ち居振る舞い、目線のくれ方、仕草、芳香、
基本的な性質、物言い、声質、包容力、危険な香り、癒され度合い、
保護欲のかき立てられ具合、その他諸々、総合力で判断される、私、ナズーリンの
純然たる【好み】の度合いだ!!」
膝立ちになり、両手を広げ、目を剥いて宣言する。効果音が欲しい。
「好みですか、貴方は好きな人がこんなにたくさんいるのですね」
あれ、えらく冷たい声だな。いつのまに回収したのか、幻想郷縁起(改定五版)を
パラッパラッとめくりながら言われた。こちらを見もしない。
あっ、これってパルパルだ、うん、嫉妬だ。しっとそうなのだ。
これは予想以上に期待して良いんじゃないかな?他の女を評価する私に嫉妬、
それも結構あからさまに。うわい、ひやほ、うれし。
浮かれている場合ではなかったな。このまま放置してはマズい。
しかし、私の思いはここに集約されているのだから、間違いなく分かってもらわないと。
正念場だぞ、愛の戦士ナズーリン、抜かるなよ。
「確かに私の好みだが、【好きな人】とは聞き捨てならないな。好みと好き、
似ているようで違う、違うんだ、だって好きなのは『好みの人が貴方に言い寄って
きたら、好きになっちゃうんじゃないですか!?その程度の違いなんですよ!』
おおう、パル度数がはね上がったな、なんだかむずがゆいうれしさだよん。
へふー。もう少し引っ張りたいなん。
「ご主人、ここで全部終わりにするかい?」
ちょっとだけ意地悪しちゃおうかな。
「えっ、いえ、だって貴方が、好みなんて言うからです!私、悪くないもん!」
がひょーん。【もん!】ときたぞ!
この娘はどこまで行くのか、手が届かなくなりそうだよ。可愛さ無限大だ。
いつもと違う展開で、あちこちの防御が緩んでいるのか。
なんだか色々チャンスのような気がする。
落ち着けナズーリン!じっくり行くぞ!
「うん、そうだね。ご主人は何も悪くないよ。私の説明が悪かったんだよね?
だからもうちょっと聞いてくれるよね?」
本日二度目のお願いフェイス。
「うぇ、うー、おねだりは今日はこれで最後ですよ、もうっ」
濫用は良くないな、おねだりとバレている。
しかし【今日はこれで最後】か、明日はリセットしてくれるんだね。
やはり私には甘いんだなぁ、ああ、鳩尾のあたりがくすぐったい。
これは私のささやかな【幸せ】と勘定して良いよね。
「女体を探求してきた私が、苦心して基準を設け、その性状を分類し、
個別評価するのは当然の帰結だよ。ただ【ああ良いなぁ】【いまひとつかなぁ】
【おっぱい大きいなぁ】【一晩お願いしたいなぁ】では単なるバカ好きモノだ」
「すごい言い切り方ですけど、どれほど違いがあるんでしょうか?」
えー、そんなこと言うの?ねぇ、ホントに分からないの?私、くじけそうだよう。
「ご、ご主人、違うよ、明らかに違うよ。学術的探求は記録するものだ。
後続のために、無駄な回り道をさせないための指標になりうるものだ。
やっているときはそこまで考えないがね。
だから私の記録もいつの日か誰かの役に立つ日が来るかもしれない」
「そーですね。えー、そーですね。ホントにそーですね」
ご主人、まだご機嫌ナナメだな。
「学術的側面も認めてくれるね?そうしてもらわないと、話が進まないのだが」
「聞くと約束しましたからね。どーぞ進めてくださいな」
あれま冷たい。しかし、今のうちにキチンと説明せねば。
「顔の造作一つ取ってみても、細かい観察が必要だ。
多分に好みの領域だろうが、目の大きさ、瞳の色、唇の厚み、歯並び、鼻の高さ、
小鼻の膨らみ、頬骨の出具合、顎の形、喜怒哀楽の表情、その際、どこがどのように
崩れるのか、輝くのか、笑ったときどのくらい口が開くのか、怒ったとき目元は
どうなるのか、眉間の皺はどんなか、涙はこぼれ方は、と確認すべき点は多い」
ご主人が顔を逸らしてしまった。
見つめすぎたか。
「もちろん、仕草や、言動など他の点も確認事項は多い。
それぞれが重なり、絡み合い、個性を紡ぎだしていくのだよ、無限の組み合わせだ。
具体的に見ていった方が早い。黒い星は、多い方から見ていこう。
多い方が、まぁ私の【好み】と言うことになるが、【好み】についてはひとまず
横へ置いておいて欲しい」
横を向いたままで、チロっと睨まれた。
まだ怒っているな。
「星五つ、これは今のところ十六夜咲夜しかいない。
知性と意志の強さがにじみ出ている顔立ちは、基本の造作がややきつめだが、
微笑むとき、困ったとき、とても柔らかく崩れる。
このギャップは一度見たなら確実に心に刻まれる。
もう一度笑わせてみたい、困らせてみたい、と欲求をかき立てられる。
体型の均衡は完成された美の一例だ、くどい説明は不用だろう」
今のご主人に、体つきのことをこれ以上話すのは、やめた方が良さそうなので省略だ。
「完璧に近い家事管理能力、細やかな気遣い、物怖じしない芯の太さ、洒脱な受け答え、
控えめにしていても隠れようのない存在感、溢れんばかりの忠誠心と深い情愛、
時折見せる焦点のズレた言動、いわゆる【天然気質】、
誰もが夢見る理想の従者にして恋人。十六夜咲夜に星五つだ」
一気にまくし立て、ご主人の様子をうかがってみる。
「そうですね。ええ、そうですね。本当にそうですね」
さきほどと同じ台詞だが、纏っている怒気が哀気に変わりつつある。
続ける。
「星四つ、アリス・マーガトロイド、容姿は最高水準、ちょっとした気配りは
心憎いほどだ。何気ない仕草に品があるから、恐らくは上流階級の出だと思う。
他人に無関心だが、達観しているわけではない。
その関心が黒白魔法使いに集中しているだけのことだ」
ご主人が目を剥いた。
知らなかったのか。
「霧雨魔理沙の星付けは、今は保留だ。
三年もしたらとてつもない美女になることが分かっているからね。
あの骨格なら、もう一段階飛躍的に成長する。
背も高くなり、四肢もしなやかに成長する。乳も星三つは確実だ。
顔は丸みが少しとれ、【可愛い魔理沙ちゃん】から【すんげ綺麗な魔理沙さん】
になるよ。それに私には彼女が魔法使いとしても、精神的にも大きく成長する
行程がはっきりと見える。
壁にぶつかる度に、自分の力と、彼女を慕うものたちの献身的な愛で、雄々しく、
しなやかに立ち上がるだろう。
彼女は十六夜咲夜を脅かす存在になる。
アリス・マーガトロイド、時がたつほど競争率が上がっていくのに、のんびり構
えていたら、その生涯最大の後悔をするだろう。
頭一つ抜けている今こそ無理矢理にでも押さえ込むべきだ。私なら絶対そうする」
ご主人は目を泳がせている。
そんなに意外だったのか?
「上白沢慧音、妖の身でありながら、人里の信を得ている。
ただ優しく、愛想が良いだけでは立ち行かなかっただろう。
冷徹な、時には苛烈な判断を求められた場面がたくさんあったはずだ。
なのに泰然自若、いつも笑顔を絶やさない。歴史を背負う孤高の覚悟を表に出さない。
あれこそが【漢が惚れる漢前】だ。
ちなみに色恋も、お盛んだ、居候のもんぺ娘は近いうちに喰われる、いや、
喰わされるだろう」
「そんな、そんなことって」
驚いているのか、一目瞭然だろうに。
色々隙を見せて誘いをかけては、最後の一線は不死っ娘自身に越えさせようとしている。
誘い受けを楽しもうとしているのだ。
このやりくちは【いただき】だ。
次に行くか。
「射命丸文、素晴らしい脚線だ。飛ぶ姿も美しい。
過剰なまでの行動力と人当たりの良さ、仕事に対するこだわりも真摯だ。
軽妙洒脱な会話からは高い知性と、積み重ねた経験を確信させる。
立場上、二面性を持たざるを得ないが、今現在、熱烈恋愛中なので、言動の随所に煌め
きがこぼれているよね」
「恋愛中、なんですか?」
【恋愛中】に食いついたな。
一時的ではあるが、元気になりそうで良かった。
「ああ。間違いない。白狼天狗の娘と良い仲だよ」
「えっ、それって、犬、犬走、犬走椛さんですか?
でも、二人は仲が悪いって聞きましたよ?」
「甘い、甘いなご主人。
天狗社会の立場上、表だってはそういうことにしているだけだ。
初めは本当に仲が悪かったかもしれないが、今は違う。
鴉は狼にベタ惚れだし、狼は鴉を喜ばすことを最優先にしている。
私は二人が隠れて睦み合っているところを五回ほど目の当たりにしている。
間違いない、【仲が悪い】は偽装だ。
それに、白狼の、聞いている方が恥ずかしくなるような淫らな言葉責めと、
時にじらし、時に強引な愛撫の技はとても勉強になったな」
「ナズーリン」
おろ、また怒気が強くなったぞ。
「覗いていたんですね?貴方は、いつ、どこで!?」
「いや、また私の妄想だったようだね」
あわてて取り繕う。
「だって無理な話だよ。狼の嗅覚、しかも千里眼の能力を持つものには近づけないさ」
もちろん隠密行動のエキスパートたる私がたやすく見つかるわけもない。
道具や術や教訓を駆使して隠れ続けてきたのだ。
私が【存在を消す】ことに専念すれば、スキマ妖怪にだって探知されない。
ロケットおっぱいを至近で拝んだものは、そうたくさんはいないだろう。
ま、ご主人に言う必要はないだろうが。
「貴方の妄想は、ありそうでなさそうで、その上でありそうだから心の臓に悪い
ですよ」
少しはいつもの調子に戻ってきたかな。
「次なる黒星四つ。星熊勇儀と水橋パルスィはまとめて説明した方が早いな。
ご主人も地底に行った際、見ただろう?あれをバーカップルと言うのだ。
乳八仙にして黒い星四つ、総合はかなり高い。
おおらかで頼りになり、優しい心根の楽天家だ。
細かいことは期待しないで、こちらが全て面倒見てやる、と決めていれば、世話を
焼くのも楽しいだろう。危なっかしくて、意外と保護欲をかき立てられる。
こう言ってしまうと女じゃないみたいだが、どうしてどうして震えがくるほどの色気を
放つときがある。
地底の宴会で皆、酔いつぶれて雑魚寝したことがあったろう?
明け方目が覚めてしまったんだよ。
ぼんやりしていたら、星熊勇儀が半身を起こしたんだ。
寝乱れた姿を直しもせずにこちらを向いて【眠れないのかい?こっちに来るか?】
ふわっと微笑みながら小さく手招きされたんだ。
もちろん冗談だったんだろうが、そのときの妖しい色香に少しの間息ができなかった。
慌てて布団を被って丸まったよ。正直まいった」
その宴会を思い出そうとしているのか、微かに眉間に皺を寄せ、唇を尖らせている。
「パル子さんは知っての通りだ。
女性体としての完成度は、結論の一つだ、それも限りなく真実に近い結論だ。
寅ちゃんとはまた違った儚げで繊細な肌質、裸体がもっとも美しいのは彼女かも知れ
ないな。
嫉妬に狂った果てに妖怪になったと聞くが、それだけ情が深いと言うことだ。
総じて控えめだが、想い人に関係することなら、全てを投げ出す覚悟と行動が伴う。
一言でいうのはもったいないが【けなげ】なのだね。
相方が言う【パルスィはとてもとてもとてもとてもとても可愛いのさ】うん、納得だ。
魅力の相乗効果で両者、星四つだ」
ご主人が、うん、うんと頷いている。
【寅ちゃん】呼ばわりにも気づいていない。
ご主人は、なぜだかパルスィと仲がよい。
よほど気に入っているのか、彼女の話にはスゴい喰いつきだ。
「とても素敵な二人でした。
最初は冗談のようなやりとりばかりで、ハラハラしました。
勇儀さんが一方的で、パルスィさんは、嫌がっているのかと思いましたけど、パルスィ
さんは要所で勇儀さんを立てていましたし、時折見せた気を引く素振りも愛らしく、
甘え上手なんだなと思いました。
お互いを補い合い、弱いところも強いところも分かった上で際どいやりとりをしている
のですよね。私、とっても羨ましかった」
うむ。ほぼ完璧な洞察だ。
この人、実は恋話が大好物なんだよね。
「そして聖白蓮。容姿は説明しなくても良いだろう?いい女だよ、文句なしだ。
知性、包容力、癒され度、高得点だ。
だがね、色々と立派すぎて私は少し息苦しいのだよ。二人きりでは暮らせないだろうね」
「そ、そう、なんですか?」
彼女を尊敬しているご主人にしてみれば、合点が行かないかも知れない。
「隙がなさすぎると、私のような半端ものには辛いときがあるのさ」
頬肉をつり上げ、わざと憎たらしい表情をつくる。
今は聖とご主人の決定的な違いを言うべきではないから、ごまかすしかない。
「星三つは平均的に安定している場合もあれば、何かが突出しており、他方、ひどい
部分があったりもする。趣深いが、私にとって、今はそれだけだ」
星二つ、一つは、今は言う必要はないだろう。
そろそろ限界だ、ご主人も私も。
タネ明かしを始めるか。
「ご主人、黒い星も白と同じく、基準があるのだよ。
私の心の中には数え切れないほどの星を持った人物が一人おり、その人との比較評価
なのだ。星五つは確かにスゴいのだが、私にとっては、その人の魅力を再確認する為
にすぎない」
ご主人が座り直した。
「その人が誰か、今は言うまい。いずれ分かってしまうことだから。
ご主人に今、分かって欲しいのは、私の着眼と、考え方だ。
その人を盲目的に慕っているわけではなく、自分なりに理屈をつけ、納得した結果なのだ。
その理屈は屁理屈だし、臆病者の理論武装にすぎない。
分かっている。恋愛は理屈じゃない、分かっている。でもそうしなければならなかった」
このあたりは初めて話す私の根っこ部分の吐露だ。
「歪んだ思考と不健全な感性しか持ち得ない私には、この想いが間違いのないものなの
か確証が欲しかった。
世間、他人と比べることで納得したかったのだ。
だって私、身も心もこんなにちっぽけなんだもの」
言いながら切なくなってきたよ。
矮小な自分に泣けてくる。
「もっとも、こんなヒネたネズミ、誰も本気に相手をしてくれんだろうがね。
今まで並べた御託は、所詮、くだらん妄想だ」
ご主人は目を伏せていた。
「貴方にとって、その人はとても大事な人なんですね」
「うん」
私は心から返事をした。
もう全て話してしまおうか。
でも、なんだか私自身が変にへこんでしまったし、タイミングも悪いから、言いにくく
なったな、どうしようか。
「【ちっぽけ】ですか。貴方は間違っています。全く理解できていませんね。
並外れた洞察力が聞いてあきれます。とんちんかんのわからんちんです。
これほど愚かだったとは残念です。はっきり言って、おバカさんです!」
びっくり。
この千年ほどで、これほど罵られたのは初めてだ。
「ナズーリンは、はじめは取っつきにくいでしょうけど、長い時間一緒にいれば、
バレてしまいます、本当の姿が!」
ふむ、ロリネズミの正体見たり、パラノイア助平ネズミか。
「そしたらメロメロになっちゃいます!」
あん?メロメロってなんだっけ。
「だって、約束は必ず守ってくれるし、
悲しいとき、苦しいとき、言って欲しい言葉を言ってくれるし、
うまくやれたときはちょっとだけ褒めてくれ、一緒に喜んでくれるし、
努力していることを分かって、認めてくれるし、
間違ったときには、真剣に怒ってくれるし、何故いけなかったのか丁寧に教えてくれるし、
雑多な悪意は、その機転で弾きとばしてくれるし、
次は自分でやれるように、分かり易い手本を見せてくれるし、
でも、本当に危険なときはその身を挺して庇ってくれるし、
小さな体なのに。
やらなければならないことは、とっかかり易いようにさりげなく準備してくれるし、
成長したいと言う高望みには、たくさんの道筋と段取りを探してくれて、
最後は自分で選ぶようにと見守ってくれるし、
うまく行っているときは空気のように控えめで、ちょっと困った程度では手を差し伸べては
くれないけど、精一杯やってみてもダメなときは、奇跡のように助けてくれる。
なのに決して見返りを求めない。
長く一緒にいたら、それがみーんな分かってしまいます。
そして普段は、ちょっぴりぶっきらぼうで、謎めいていて、たまに寂しそう、
なんだかカッコいいんです。
そんな、そんなナズーリンを好きにならないモノはいませんよ!
みんな、誰でも好きになっちゃいます!
ダメです!そんなのダメですよー!うわーん!」
泣きながら突っ伏してしまった。
えーと、それはどちらのナズーリンさんなのかな?
とりあえず【スーパー・ナイス・ナズーリン】としておくか。
文句なしの【イイ男】だけど、私じゃないよ、そんなモンじゃないよ、私は。
「ナズーリンの大事な人ってだれなんでか!?
咲夜さん?アリスさん?パルスィさん?勇儀さん?文さん?慧音さん?
それとも魔理沙さん? 私、勝てません!取られちゃう!私のナズーリンなのにぃ、
ずーっと私だけのナズーリンだったのに、うううっ」
伏せたままの慟哭。
私だって泣きたいよ、この人、こんなに私を想ってくれていたのか。
「私は心が狭いんです!その人とナズーリンの幸せなんか祝福できません!
きっと、なにもかも滅茶苦茶にしてしまいます!」
少し身を起こしたご主人、上目遣いだが、甘酸っぱくはない。
剣呑な雰囲気だ。
「ごっご主人、怖いよ、落ち着こうよ」
「私の全妖力と、命の珠全てを使って、宝塔の法念放出を強制的に陰回転させます。
限度を超えてどんどん加速させます。
暴走の果て、宝塔は大きく、大きく膨らんだ後に弾けます!
その瞬間、幻想郷は爆縮消滅します!
後に残るのは、貴方への未練の情念【ナズーリンのバカァ!】だけです!」
はわわわ、まて、まって、そんな理屈あるの?誰かこの人止めて、
ホントにやりそうだよ。できそうだよ。
なんで泣きながら宝塔を掲げてるの!?
今、幻想郷を救えるのは私だけなの!?
「ご主人、とにかく落ち着け!訳分からなくなってるよ!?もう少し説明して、
ねっ?ねっ?」
「もう我慢できません!ナズが色々変なこと言うから、私、壊れます!
もうダメです!全部言わせてもらいます!」
とりあえず宝塔を置いてくれたけど、えらく気合いを入れて座り直したぞ。
「私、ナズーリンが好きです!ナズーリンが大好きです!」
このタイミングでそれ?!
えーっと、そのナズーリンは【スーパー・ナイス・ナズーリン】とは別だよね?
この私、【エロズーリン】のことでいいのかな。まて、【エロズーリン】は
言い過ぎだろう、我ながら。
ああ、こんなどうでもいいこと、ホントどうでもいいのに。
顔と胸とお腹がどんどん熱くなる。
直で言われるのが、こんなにスゴいことだなんて。
「今度は私が説明します!語ります!貴方の魅力を!私が語れるのはこれだけです!
でもこれだけは誰にも負けませんよ!聞いてくれますよね!」
あう、これは【おねだり】なんだろうか、気迫に押しつぶされそうだ。
でも、【貴方の魅力を】って、さっきのこといい、勘違いと思いこみで創作された
【スーパー・ナイス・ナズーリン】の話だと、お尻がむずがゆいんだが。
「私だっていずれは好きあった男性と添い遂げるものだと思っていました。
それが当たり前なのだと思っていました。
でも、私が困っているとき、心細いとき、悲しいとき、寂しいとき、
いつも貴方がいてくれました。
ナズーリン、貴方は自らをいつも【ただのネズミ】と卑下していますが、私を支え、
導いてくれたました。常に揺るぎ無く。
それがどれほど頼もしかったことか。
女性に言うのはおかしいと思いますが、私にとって、貴方は誰よりも雄々しく、
頼りになる美丈夫です。
あっ、男だと思っているわけではありませんよ?
そんな姿をいつも目の当たりにして、どうして他に目がいきましょう」
【美丈夫】は間違っていないか?私、こんなに小さいんだよ?
「それに貴方は狂おしいほど愛らしい。
凛とした表情、力強い物言い、機敏で無駄のない動き、それらだけを見れば、
ただの格好いい女の子なのに、時折見せる柔らかい笑顔、こっそり苦痛に耐える姿、
寝顔のあどけなさ、ああ、貴方がもう少し小さければ、肌身離さず持ち歩くのに!」
ご主人、私、それでもいいよ。
ペ、ペンダントが第一希望かな。
「それにナズが、あっ、いえ、ナズーリンが、探索にいくとき、どれほど心配して
いるのか知らないでしょう?
貴方が傷を負って帰ってくる度、狂いそうになります。
貴方をこんな目にあわせたものをこの手で八つ裂きにしに行きたくなります。
仏の教えを具現せねばならない私が何度も禁を犯しそうになりました。
貴方は負傷の原因や相手を決して教えてはくれませんでしたね。
私に罪を犯させまい、としてくれていたのでしょう?」
ご主人の心を煩わせるのは本意ではなかったからだけど、そこまで心配してくれてい
たんだ。
「優しく強く賢いナズーリン。貴方のおかげで私は私でいられます。
ダウジングの能力でもたくさん助けてもらいましたが、私は貴方の心に、貴方の
在り方に助けてもらっています。
かっ体はまだ早いと思うのですが、貴方のしなやかな体を抱きしめたら、どんなに
気持ちが良いのだろうと夢想する事はあります。
貴方が優しい笑顔で口付けしてくれたのなら、私はどうなってしまうのだろう、
と一睡もできない夜もありました。
貴方に意見できる立場ではありません、私はどうしようもなくイヤラシいんです!」
あわわ、それそれそれって、シグナルグリーン?直進OKってこと?ホントに良いの?
うえーん、夢?嘘だったら、夢だったら、私、壊れるよ!誰か背中押して下さい!
私、一歩踏み出したいよー!うわーん、助けて、誰か助けて、いえ誰かじゃなくって、
助けてよ私の大事な『ナズーリン、ごめんなさい、我慢できません!』
妄想を遮ったのは、絞り出すようなご主人の声。
何を謝るのか、と思っていたらにじり寄ってきた。
膝同士がぶつかり、覆い被さるように抱きしめられた。
そして
唇をふさがれた。
ご主人と、寅丸星と、キスをしている。
驚きはしたが、以外と冷静な自分。
私からすることばかり夢想していたからなのか。
奪うつもりが奪われたからなのか。
ただ唇を押しつけ、荒い息遣いでじっとしている。
不器用だ。
勢い任せで【接吻】なんて甘い感じではない。
でもご主人からしてくれたのだ。
あの潔癖鈍感不器用な寅丸星が自ら口づけてくれたのだ。
どれほどのものと引き換えに決意をしたのだろう、それだけでも感無量だ。
抱擁を解いた彼女は涙ぐんでいた。
「ううっ、ごめんなさい、私、下手です!初めてのキスはもっと素敵にしたかったのに!
全然ダメです!もっと上手にして、ナズをうっとりさせたかったのに、
こんなのじゃうれしくも何ともありません!
私、バカです!ごめんなさい、こんなことしてごめんなさい!」
そんなことで泣きそうになるのか。
可愛いなぁ、嬉しいよ。
背中を押してくれたのはやっぱりご主人だった。
いつも私を助けてくれるのはこの人なんだ。
「私の番だよね?」
しゃくりあげ始めたご主人の膝にまたがり、驚くその頬に両手を添え、
そっと唇を重ねる。
少しずつ場所をずらし、その都度軽く吸う。
上下の唇肉を細かく啄む。
唇の隙間に舌の先を差し込み、左右にそよがせる。
そして再び軽く吸う。
「ふぁぁっ」
焦点の定まらない目から涙が溢れだした。
「ナズーリン、上手です。分かっていましたけど、経験豊富なんですよね。
そうかも知れないと思っていましたけど、上手すぎて悲しいです」
その涙を舐めとってから、もう一度口づける。
今度は少し強く吸い上げる。
吸い上げ、離す刹那に軽く唇肉を食む。
それを何度か繰り返す。
「いつか貴方とこうしたかったから、たくさん想起しただけだよ。
上手と言われれば嬉しいよ、努力が実ったのだから。
私の全霊を込めた接吻は、貴方に捧げたかった。願いが叶った」
「は、初めてだったんですか?!」
「私、ナズーリンのスイートミラクルキッスは貴方だけのものだよ」
気障を通り越してバカだな【スイートミラクルキッス】ってなによ?
自分で言っててなんだけど。
「はぐらかされたような気がしますけど」
ファーストキスだと言って欲しかったのか?
そんなことを気にするなんて。
神の代理と見初められ、その在り方は、神が認めたほどの存在なのだ。
私なんぞを気にすることは無いのに。
こんなネズミに感けていたら、すべてを失ってしまうのに。
馬鹿だ、本当に馬鹿だ。
でも、この馬鹿を手放したくない、何があっても、何と引き換えでも。
ご主人、寅丸星、貴方のために私は在る。
貴方は輝く星。その輝きのためなら、私はこの能力すべてを捧げる。
気が向いたら、少し構ってくれる程度で良かったのに、これほどの情愛をもら
えるとは。
その想い、大きすぎて報いきれないよ。
分不相応の宝物だ。この小さな手では抱えきれない。
私一人では守りきれないほど大きくて、広い。
それでも誰にも譲りたくない。
絶対に。
寅丸星、私のほとんどすべて。
毘沙門天の使いとして生を受けたが、今、この存在は、ちょっとうっかり、何に
対しても一生懸命、不器用だけど無限の優しさと挫けない心を持った、このヒト
のために在る。
そのヒトが私を【大好き】と言ってくれた。
私はこのヒトの【在りたいと願う生き方】を守る。
絶対に守る。
他者を貶めても、謀っても、滅してでも。
力は及ばずとも、この知力を振り絞り守り抜く。
良かった。本当に良かった。長き生の意義が見出せた。
それも【そうだったら良いのに】と願っていた意義だ。
積年の鬱屈が弾け飛んだ。
なんと清清しい気分だ、怖いものは何も無くなった、迷いも無い、今の私は、
ご主人妄想モードの【スーパー・ナイス・ナズーリン】かもしれん。
博麗霊夢、八雲紫、八坂神奈子、八意永琳、風見幽香、まとめて片手で捻れそうだ。
ご主人の唇を堪能できた嬉しさゆえ、気分が高揚しすぎているな。
私もきちんと話さないとね。
「あーっと、ご主人の紹介ページには星がいくつあったかな?」
「白い星は五つ、黒い星は、書いてありませんでした」
間髪いれずの返答、気にはなっていたんだね。
「ご主人の黒い星は、書く必要がないんだ」
ご主人の眉根が寄る。
【必要ない】が面白くないんだね?
「私はずっと貴方を見てきのだ。
何故こんなにも愛おしいのだろう、と。それを確認したくて他人も細かく見る
ようになった。
そして他人を見る度に貴方の魅力を強く認識できた。
ああ、やぱっりご主人だ、と震えがくるほどに、嬉しかった」
「えうっ、あ、あのそれって、貴方の【大事なひと】って、もしかして、もしか
して、わ、私ですか!?私でいいんですか!?」
ここまで言ってようやくか。
察しが悪いのは十分知っているつもりだったけど。
まぁ、いいさ。
「ご主人、正解だ。貴方だ、寅丸星だ」
俯いてしまったご主人。
涙が、ぱたぱたぱたぱたとその胸元に落ちる。
「あり、ありがとう、ございます」
先に礼を言われてしまったよ。
私こそありがとうなのに。
「良かった。本当に良かった。ナズの大事なひとが私で良かった。
大好きなナズが私を選んでくれて良かった」
涙は止まらない。
ご主人の頭を優しく抱いて、頬をくっつける。
耳元で囁く。
「大好きなご主人。星。もう一度キスしていいよね?」
ご主人は俯いたまま小さく頷いた。
もう一度頬に手を添え、涙を舐め取り口づける。
一段落して唇を離す。
ご主人が潤んだ目を開ける。
微笑んでいた。
「ナズーリン、私たちは【好きあっている】のですから、その、恋人って
ことで良いのですよね?」
おほ、いきなり恋人へ昇格か。
「寺の皆には言っておいたほうが良いのでしょうか?でも、恥ずかしいですね。
どうしましょう?」
その照れながらの微笑、もう、我慢できん!我慢しなくてもいいよね!?
跨ったまま、足を突っ張り、ご主人を押し倒す。
正座のままだから苦しいかも知れん、でも、止まらん!
「星!星!このままいくぞ!いかせてくれ!」
押し倒したものの、ご主人は私を抱えたまま、いとも容易く反転した。
体格と地力の差は如何ともし難い。
今はご主人が上だ、跨っていた私はそのままひっくり返され、大変な格好だ。
このままでは犯され放題だ。
ナズーリン、貞操ピーンチ!でも、でも、お望みなら好きにしていいよ。
そこにご主人の叱声。
「ですから!体はまだ早いと思います!
これからも抱きしめあって、き、キスをしたいです!
でも、体は、ま、まだ、ですよ!?」
あ、私、覚悟を決めていたのに。
どんなに強引な行為でも受け入れるつもりだったのに。
なんというヘタレだ。
ちょっとがっかりだ、ちぇ。
「早いと言うと、いつからならよろしいのかな?明日?百年後?」
「どうしてそんなに極端なんですか!だって、新しい下着も購いたいですし、
もう少し痩せてからでないと、見っともないですし、と、とにかく今日はダメです!」
ははは、この人は自分の体に不満があるのか、なんという高い理想だ。
いや、こんなちょいとずれているところが可愛いんだよね。
私も可愛い格好をしたいしね。
次のお楽しみにとっておくかね。
私、ナズーリンのご主人、寅丸星、私たちのお楽しみはこれからだよね。
千年待った私たちだもの、少しは楽しんでいいはずだよね?
星、星、貴方が大好き。
了
ご主人が私の幻想郷縁起(改定五版)を読んでいる。
少しでも早くこの幻想郷を理解しようと努力しているのだろう。
真面目なご主人らしい、と言えばらしいが。
「ナズーリン」
ご主人は本から目を上げ、私を呼ぶ。
何か分からないことがあったのか。
「この印をつけたのは貴方ですか?」
開いた本を指差し、問いかけてくる。
本が読めるほど近くに寄り、覗き込む。
彼女の体温と、微かな柑橘系の香に心がざわめく。
困ったものだ。
人物録のページ。
幻想郷の主だった人物がイラスト入りで解説されている章だ。
ご主人が指差しているのは、イラストの上辺に書き込まれている、
星印だった。
☆☆☆ ★★★★★
白い星が三つ、黒い星が五つ。
【十六夜咲夜】のイラストを指している。
紅魔館のメイド長、人間でありながら、わがままな吸血鬼の主を満足させる
家事管理能力に加え、卓抜した戦闘力を持ち、そしてそれらをより完璧に近づける
ために時間と空間を操る能力を縦横に駆使する『パーフェクトメイド』
なおかつ、この容姿なのだから、星の数も宜なるかな。
なにせ星印を書いたのは私だから。
「印をつけたのは私だが、それがなにか?」
「なに、と言うわけではありませんが、少し気になったもので」
ご主人はページをめくりながらも星が気になっているようだ。
「ご主人、もしや、星の意味が分からないのか?」
「えっ、分かりませんよ!」
まったく、鈍いにもほどがある。驚いた。
ご主人の鈍さを誰よりも理解している、と自負しているはずなのに、
自信が無くなってしまうではないか。
改めて教育しなければならないのか、やれやれだ。
ため息ひとつ。
腕を組んで少し固い口調で。
「ご主人。まずは白い星から見ていこうか」
私の口調と態度に緊張したのか、目を大きく開き、口元を少しすぼませている。
うむ、可愛いな。
「白い星は乳の素晴らしさを評点したものだ」
ご主人の表情は変わらない。
「乳が大きいほど星の数は多いが、厳然たる基準がある」
ご主人の表情は変わらない。
「私や吸血鬼姉妹、酔っ払いの二本角の鬼、ほとんどの妖精たち、
幼女―少女を基本にしたモノの【どうやら膨らんでいるな】、
程度では一つも印されない。
私は妥協しない。自分にこそ厳しくあらねばと思っている」
ご主人の表情は変わらない。
私の心意気を理解できているのだろうか。
「星が一つ。これは微乳なのだが、相応の存在感があるモノ。
具体的には、私のこの小さな掌で全体が握りこめるほどのものだ」
右手を開き、ゆっくりと閉じていく。
指同士がくっつく直前で止め、その形をご主人に見せ付ける。
「このくらいの大きさだ」
全く動かないご主人から幻想郷縁起をもぎ取り、ページを繰る。
「例えば黒白魔法使い、楽団の妹二人、地霊殿の主、その飼い猫、鴉、
あと、ウチのぬえ、などがそうだ」
霧雨魔理沙のページを開き、白い星一つを指差す。
「真横ではなく、やや斜め後ろから見るのがポイントだ。
腕を上げた瞬間、ふくらみの存在に納得できた場合にのみ授与される」
ご主人の眉間にほんの少しだけ、皺が寄る。
付き合いの長い私には、彼女の疑問などお見通しだ。
そんな微乳の機微が厚ぼったい服装の上から分るのか?ってことだね。
「もちろん十分な観察は、裸体でなければ適わない」
「こらーっ!どこで見たんですかっ!」
ようやくご主人が反応した。
「基本は風呂場だが、朝夜の着替えのときも狙い目だ」
「そっそれって覗きでしょうが!犯罪ですよ!犯罪っ!」
「従者たるもの、目的のためには、いつでも主に代わって手を汚す覚悟はある」
「なんとなくカッコイイ言い方してもダメ!それに私頼んでないし!」
「そんなに興奮しないでほしいな。冗談だよ、冗談」
「貴方の場合、冗談に聞こえませんから!」
「毘沙門天の使いである私がそんなことするわけが無いだろう。
万が一、発覚すればご主人にも大変な迷惑をかけてしまうし」
「本当に、本当に信じていいんですね?」
そんな縋りつくような目で見なくとも良いのに。
「信じてくれて良い。私は万に一つもミスを犯さないからね」
「うかーっ!貴方を殺して私も死ぬー!」
ご主人が飛び掛ってきた。
組み伏せられ、両腕を掴まれる。
大柄なご主人にのしかかられ、小柄な我が身は、くまなく包み込まれる。
いかん。この体勢はいかん。
荒い息遣いが額から鼻先にかかっている。
思い切り吸い込んでみた。
なんと甘やかな息なのか、いかん。たまらんぞ。
口が近すぎる。
今なら【くっちびる】を頂戴しても【事故】で済むのでは、と明晰な我が頭脳は
即座に打算した。
しかしながら、その唇は、我が唇より少しばかり上に位置しているため、届かない。
身動きできないから、位置の是正も適わない。
舌を伸ばしてみたが、わずかに届かない。
無念。すごく無念だ。
くそっ。千載一遇の好機なのに如何ともし難し。
すべらかな喉を舐めたおす、という選択も閃いたが、この甘美な唇を至近距離にして、
ここで妥協することは、敗者の言い訳めいた選択に思えて自分が許せなかった。
ご主人に関しては、欲望に一切の妥協をしないことを自分の信条に誓ったではないか。
唇がダメなら、喉でも良い。
違う。断じて違う。
私のご主人への思いは、千年にわたって積み重なり、熟成され、研ぎ澄まされ、
蒸留され、時にはとんでもない悪臭を放ち、腐りながら、大事に育んできたものだ。
ここ一番で妥協など出来るものか。
もちろん、顎から喉にかけてのラインは、ご主人の大きな魅力の一つだ。
いずれは徹底的に攻略する所存では在る。
感極まり、声を漏らす瞬間、のけぞる喉元に我が唇と舌をあて、歓喜の微振動を
味わいつくすのだ。
なので、今はダメなのだ。この場面ではダメなのだ。我慢しろナズーリン。
私は食いしばった歯の間から言葉を押し出した。
「ご主人、おちつけ。私を信じろ」
びくり、と拘束していた力が留まる。
もう一度、今度は、はっきりと口を開いて言う。
「ご主人、おちついて。私を信じて」
ようやくご主人が体を起こした。
豊満な胸の圧迫から開放され、鎖骨の辺りが楽になったような、寂しいような。
「本当ですか?本当ですね?」
小さな声でたずねてくる。涙ぐんでいた。
色々と真剣に憂いていたのだろう。
思い切り抱きしめたくなるような儚さだ。
デカイ図体なのに。
お互いに体を起こし、改めて正対する。
「伊達に千年以上、女体を観察してきたのではないよ」
その観察対象は、九割以上ご主人なのだが。
たまに他の女体を見ないと、ご主人の素晴らしさに慣れてしまうからね。
「私ほどの女体の探求者になれば、服の上からでも分るのだ」
「なんの探求ですかぁ?」
そんな情けない声を出さないで欲しい。
「よほどのことがなければ私の透視眼は欺けない」
「嘘です!貴方にそんな能力はありませんよ!」
「ご主人、私の【ダウザー】としての力が、ロッドを軸にした各種アイテムと
子ねずみ達によるものだけだと思っているのかな?」
作り笑いで、少しだけ首を傾げてみせる。
予想通り、ご主人は困惑している。
「え、そんな、わかりませんけど、えと、違うんですか?」
そんな顔や仕草は他人には見せてはいけないな。
不埒な輩の理性を吹き飛ばすには十分すぎる。
対策を考えておかねばならんな。全く、考えることが多すぎる。
「ダウジングは、いくつもの不確かな因子を複合し、仮説を立てては検証し、
正答へと絞り込んでいく。
時に地道で、時に直感的な、まぁ、【直感】とは積み重ねた経験が囁く、理屈を
飛び越えた、結論までのショートカット、なのだがね。
まぁ、つまり、ダウジングはご主人が思っているよりかは少しばかり、
繊細な技術なのだね」
少しぼーっとしていたご主人が遠慮しながら言う。
「私は貴方の能力が素晴らしいものだということは知っています。
私の理解など及ばないほど、複雑なのだろうと思っています。
そしてその能力に何度も、そう、何度も助けてもらいました。
貴方の能力がなければ私はここに在りません」
俯いてしまったご主人。
【貴方の能力がなければ】か。
些か傷がついたな。
【能力】が私の価値か。
言ってほしくはなかった。
私は、私自身には、全く、自信がないのだから。
分かっていたけれど、切ないよ。
いつまでたっても私の返答が無いのに不安を感じたのか、顔をあげるご主人。
私の顔を見て、驚いている。
そんなに変な表情だったのだろうか。
「ナズーリン!私、私、何かおかしなことを言ったんでしょうか?」
うろたえまくる。
ご主人は単純だ。純心を保ったままなのだ。
千年以上生きて、様々な想いを見、感じ、傷つき、押しつぶされ、
見て見ぬ振りをし、否定し、肯定したくとも力は及ばず。
それなのに泣きながらも【善】を信じて生きてきた。
そんなご主人が自分の心を護るために前面に出してしまった、
【察しの悪い、鈍い】心根、それを責めることが出来るはずも無い。
「ご主人、別に何も無いよ」
「いえ!私は貴方を傷つけたんです!何か酷いことをしたんです!」
今日はえらく突っかかるな。
それほど私の反応が露骨だのかな。
変なところで勘の良いご主人だ、私の心情を過剰に汲んでしまったのか。
ご主人を泣かせたいとは思っているが、悲しませることは本意ではない。
話題を戻すとしよう。
「透視眼のことだったね」
「あ、いえ、あ、そ、そうでした」
ご主人も、話題の強制転換に合点がいかないものの、これ以上突っ込んでは
よろしくない、という雰囲気を察したようだ。
ならば馬鹿話を広げよう。
「要は心の目だ。一枚、また一枚と衣服を剥いでいく様を想起をするのだ。
その過程を丁寧にすることで一糸まとわぬ最終形が完璧に見えてくる」
「それって、妄想と言いませんか?」
「酷い言い方だな。よろしい、力をお見せしよう」
座っているご主人を上から下までゆっくりと舐り見る。
三往復したとき、ご主人が胸元をおさえながら、体を丸めた。
「何です!?何を見ているんですか!」
赤い顔で上目遣い。これも良いな、大変良い。
「ふむ。上は薄桃色、下は白い長穿きだな。左側の裾飾りが取れてしまっているが」
質素を旨とするご主人は、下着の数も少ない。
今、干してあるものと、箪笥の在庫を引き算すれば容易に特定できる。
折を見て、肌に優しい上等な品を買ってあげよう。
もちろん、うんと扇情的なヤツを。
丸まったまま大きく目を見開くご主人。
「ほっ、ほんとに見えるのですか!?」
思い切り不敵な笑いを作って見せる。
「もう少し集中すれば、その奥も見えるよ。例えば『止めてくださいっ!もう結構です!
分かりました!分かりましたから!』
座ったまま、くるりと背を、いや尻を向け蹲ってしまった。
大きな肉塊が、もじもじと動いている。
はっふ、うっく、撫ーで回し、頬擦りし、齧り付きたい!
ここでも我慢を強いられるのか!
「ご、ご主人。分かってくれたのなら良いのだ。説明を続けるよ?」
出来る限り理性的に言ったつもりだ。
「星二つは私の掌で、ちょうど収まる大きさが基準だ。そう、このくらい」
親指以外の四指を揃え、そっと掴む形を作る。
【このくらい】に反応したご主人が首だけをひねり、私の手を覗き見る。
なんだその可愛い格好は。
お尻の脇から困ったような顔半分が、ちょろりと見えている。
【写真】に撮っておきたい絵だ、どうにかならないのか。
呼吸八つの間、その格好を十分堪能してから告げる。
「紅白巫女、楽団の長女、白黒つけたがる閻魔、機械工の河童、
地底の土蜘蛛などがそうだ。おっと、ムラサ船長もそうだよ。
しかし、この程度では、私の掌は満ち足りるだろうが、私の魂は不足を訴える」
「貴方の魂は何をしたいんですかぁ?」
ようやくご主人が正対する。
「さっきも言ったよ。私は妥協しないのだ」
「立派です。と、言い切れないですよ」
「今は構わない。最後まで聞いてくれれば、私のエロスの深遠の一端を垣間見ることが
できるだろう」
「見なくちゃいけないんですか?ってか、見たくないんですけど」
「ここまで私に言わせたのだ、最後まで付き合ってもらうよ、ご主人!」
「その力強さの根拠はなんなんですかっ!」
「付き合ってくれるよね?」
「うっ、そんな顔しても、ダメです、ダメす、ダメなんけども」
ご主人は私の【真剣お願いフェイス】に滅法弱い。
だからこそ滅多に使わないのだが。
「あのっ、おっ、お乳の話はよく分かりませんが、ナズーリン、貴方が最後
まで聞けとと言うなら、聞きます。でも、いやらしい話は困ります」
先ほど私を傷つけたと思い込んでいるのか、随分な譲歩だ。
まったく、気を使いすぎだ。
それも的が少し外れているし。
だが、そこも愛しい。
こんないい加減な色欲まみれの密偵ねずみに、それと知ったうえで千年にも
わたり、変わらずに情をかけてくれた。とても、とても丁寧に。
不器用で察しが悪い、それが如何ほどの欠陥か。
探索行の多い私のために作ってくれた袖なし鎖帷子は、肌着の上に着けられる極薄のもの。
呪術を施した金板を刻み、糸状に延ばし、自分の髪の毛を織り込みながら、微細な
防御魔陣を何重にも描き、組み合わせて紡ぎあげたこの世に一つの私の専用防具。
丸めれば両掌で包めるほどの薄さと軽さ。
それでもこの鎖帷子に命を救われたのは二十回ちょっとある。
ご主人はこれ一着を作るのに四十年かかった。
打撃、暫撃、冷熱、雷撃、急所を狙う致死性の各種呪法に耐え、前後の首元から
フードを引き延ばし、顔面と頭頂を覆えば、散布型の毒や瘴気をほとんど防ぐ。
四肢が吹き飛ばされたり、朽ち落ちたことは何度かあったが、この帷子のおかげで、
頭や内蔵に深刻なダメージを受けることは無かった。
器用ではない。だが、直接私を護れないもどかしさ故に、備えに全力を注いでくれた。
私の生が終わるときはこの帷子が傍らにあって欲しいと願う。
うん、ご主人の不器用ぶりから、随分と堀下がってしまったものだ。
浮上しなければな。
しかし、【お乳】に【いやらしい話】か、ご主人も言うようになったものだ。
「その件は善処しよう。では、星三つだね。均衡のとれた、ちょうどいい大きさ
と言えば分かりやすいかな。
先ほどご主人が示した、完璧メイド長の他、人形遣い、新聞屋の鴉天狗、地底の嫉妬姫、
竹林のブレザー兎、巫女っぽい奇跡娘、他にもいるが、今挙げたモノたちについて
何か気がついたかな?」
たまにはご主人にも考えさせないとね。
「えと、咲夜さん、アリスさん、文さん、パルスィさん、鈴仙さん、早苗さん、
うーん」
全員に【さん】付けか。
まぁ、いいか、それが寅丸星だし。
「共通する事柄が思いつきませんね。まぁ、皆さんとても綺麗な方ばかりですけどね。
でも、こんなことしか思いつかないようでは、貴方のことを言えま『そこだ!よくぞ
気づいたなご主人!嬉しいぞ!成長しているではないか!』
「はぁ?なんでそんなに興奮しているんですか?喜んでいる意味も、褒められている
意味も分からないんですけど」
「ようこそ、エロス探求の道へ。ご主人は一歩を踏み出されたのだよ」
「待ってください!どうしてそうなるんですか?そんなところへ踏み込んだつもりは
ありませんよ。これっぽっちも」
「気づいた点が、私の発想に近いからだ」
「えっ!ええーー!そんな!酷い!」
失礼な驚き方だね。
「つまりご主人もエロスの素養があるということだ。
すました顔の下に途方も無いエロス魂を秘めておられる」
「だから待ってください!その結論が分かりません!」
「いやらしい話は困るなどと、どの口が言うのやら。
綺麗な方ばかり、か、そして彼女達をどうしたいのだね?」
「どうもこうもないです!何もしませんよ!」
「ほう、何もせんとは高度な放置系遊戯だな。なるほどご主人に放置されたら
私ならば一日と持たず、悶え狂ってしまうだろう。さすがエロス天の代理」
「その言い方、色々と不敬ですから!やめてください!」
「話しかけても無視され、冷たい視線すらくれない。
うむ、一興だが、半日が限界だろう。
やる時にはくれぐれも私の心が完壊する前に中断してくれ。
その直後には壊れかけてボロボロの私を思い切り抱きしめて、
【ごめんなさいね、ナズーリン】と言ってくれ、そして、うんと甘えさせてくれ。
私は貴方の胸に縋り、泣きながら【ご主人のバカァ】とつぶやこう。
ふぅ、これは効きそうだ、精神崩壊ギリギリのラインまで我慢する快感か。
少々危ういが、たまになら良しとする」
「あのー、ついていけないんですけど」
「良し、話を戻そう。ご主人が気づいたとおり、この階級は文句なしの美姫が多い」
「私の発言は無視ですか?」
「いや、無視はしていないよ。放置系遊戯の件、ゆめゆめ忘れたもうなよ」
「そっちの話なんですか?」
「まぁ待ちたまえ。体格に対して均衡の取れた乳の大きさであるということは、
他の部位もそれに倣う可能性が高く、全体として無駄の少ない美しい体、それを
動かす美しい所作にも通じる。不思議と顔の造作も際立って整ったものが多い。
後述する予定の【黒い星】にも関連することなので、覚えておきたまえ。
次の試験に出すよ」
「何の試験ですか」
「幻想郷エロス検定試験四級(ナズーリン認定)だ。まっ、冗談はともかく、
この階級の乳たちは、乳単体では語れないほど総合力が高いものが目白押しだ。
乳の大きさを優先するこの私が無視できぬほど、全体の均衡が整っている
美姫たちがひしめく白い星三つっ!【ちょうど良い】、侮り難し!」
「あの、力が入っているところ申し訳ないんですが」
「さて、これからが大事なところだ。よろしいかな?」
「う、また流された。大事の意味が分からないのですが、うかがいましょう」
「星四つ。これはハッキリと【大きい】のだ。
しかしながら、あまり認知されていないのは、服装で隠蔽しているモノが多いからだ」
少し首を傾げるご主人。
「動きたくない大図書館、花の大妖怪、半獣の歴史語り、我らが聖、このあたりがそうだ。
意外なところでウチの一輪もギリギリ含まれる」
「そうなんですか?」
「間違いない。あれはかなりのものだ。形も色合い良い」
「透視眼、なんですよね?そうなんですよね?」
「肝心なところで雲が邪魔をするので苦労はしたが、信じてくれて良い」
「うっ、うっ、透視なんでしょ?」
再び疑念が膨らんできたな。
話を逸らさねば。
「均衡の観点ではやや過剰な大きさとも言えるが、普段隠されている分、
【実は結構スゴい】と、良い意味での衝撃を与えてくれる。
ご主人たちほど明瞭ではない分、垣間見た瞬間の衝撃は一番大きかった。
下品な言い方を許してもらえるなら【ビックリおっぱい】と呼称したい」
「ほ、ん、とに下品ですね!失礼すぎますよ!」
「ならば【おどろきパイ】でいかがか?観光地で売っていそうだが」
「もうやめませんかぁ?」
む、脱線してしまったな。拒否反応が強くなってきている。
「呼称の件は後回しだ。真剣にいくよ。コホン、形のバリエーションも、
この大きさくらいから一気に広がりを見せるのだ。
質量がどの方向に展開しているのか、興味は尽きない。
例えば上白沢慧音。彼女の場合、若干外に広がりを見せつつも、
張りを保った、いわば【開放系、受け入れ体制十分型】であり、
さらにその先端の熟し具合は経験を『ストーップッ!待って!やめて!』
「何故とめる?興味が無いのか?エロスの徒、エロリストデビューしたご主人が」
「うかー!エロリストってなんですかー!」
ご主人が腕を振り回し始めた。
鬼も一目置いたあの膂力で殴られたら、私なんぞは木端微塵だ。
「ご主人!落ち着け!」
「エロリストって言うなー!」
おっと、涙目だね。
「わかった!了解したよ、だから落ち着いて、星ちゃん」
「へう?、う、いっ、今そう呼ぶのはずるいです」
切り札の一つを使ってしまったか。
己の言動を厳しく律しているご主人に合わせて私もそれなりの礼節を保って
いるが、たまにタイミング良く崩すと、少し恥ずかしそうにしながらも喜ぶのだ。
今のはスレスレのタイミングではあったが。
「申し訳ない。口が滑ってしまったようだ」
それでも座り直してくれたご主人。
やれやれ一息つけるか。
「んー、ん。長らくお待たせして申し訳ない。いよいよ星五つに参ろうか!」
「正直、待っていたわけではありませんが」
「これは十分に、じっうーーぶんんっに満足する大きさ、ということだ!
ちなみに、大きい乳を表現する【巨乳】という言葉には私はどうにもエロスを
感じないのだよ。
別の表現を探求しているのだが、未だ、しっくり来るものが見つけられない。
もしかしたら、探求者たる私の最大の課題、いや、使命なのかもしれない。
これからも答えを求めて世界を駆け巡るだろう」
「はぁー、壮大な使命ですねぇー」
なんだご主人。その全く興味のなさそうな反応は。
まぁ、今はいい。続けるか。
「ただ大きければ良いというものではない。
己の体より大きな乳には劣情を抱きにくいし、伸ばして三尺もあればそれも興を殺ぐ。
幸いなことに、この幻想郷では立派な乳の持ち主は皆、相応の美しさを備えている」
ご主人は困った顔のままか。
「乳八仙」
「は?」
「乳八仙だよ、私が個人的に命名した幻想郷における大美乳婦、八名のことだ」
「大美乳婦って、ものすごい言い方ですね」
「もちろんこれも暫定的な呼称だ、誰のことかはもう分かっているね?」
「分かりませんよ」
「とぼけるつもりか。難儀な子猫ちゃんだな。エロリストの自覚が十分ではないな」
「こ、子猫って私のことですか?それに、エロリストはやめるって言ったじゃない
ですか!」
「些細なことに気を取られるな。教えよう、心して聞いてくれ」
私は居住まいを正し、人差し指を伸ばして【一】を表す。
「一人目、紅魔館の居眠り門番、紅美鈴。
鍛え抜かれた肢体とトップクラスの長身、それでもなお激しく存在を主張する大美乳は、
量的には一二を争うだろう。
申し分のない張りと力強さ、戦闘中に見せる躍動感がこたえられない!
暴れん坊おっぱい、暴れっパイ、と呼ぶことにしよう!」
「二人目、白玉楼の万年春頭主人、西行寺幽々子。
他の大美乳婦に比べれば体躯は小柄ながら、生活感のない緩めの体から突き出した
大美乳は、奔放な広がりを見せ、いかにも柔らかそうだ。
強く掴んだら潰れてしまいそうだし、押しこめば、どこまでも沈み込んでしまう
底なし沼のような危さがある。正直、危険だ!」
「三人目、永遠亭の怪しい薬師、八意永琳。
露出の極端に少ない服装なれど、隠しきれていない大きさ。
均整のとれた長身、落ち着きある言動と相まって、清濁併せ飲む賢者の佇まいを見せる
【大賢パイ】。
普段は冷徹にあしらわれそうだが、本当に苦しいときには受け入れてくれる、頼りたく
なる、言ってみれば安心して甘えられる大美乳だ!」
「四人目、三途の川の勤勉とはいえない渡し守、小野塚小町。
放り出し見せつけ系ではあるが、その大きさは誰もが認めるところだ。
露出が激しく、はだけ具合が粗野であり、本人の偽悪趣味と相まって、ちょいワル
大美乳と言ったところか!外向き度合いも最大、飛び込んで、挟まれて、幸せだ」
なんだご主人、反応がないな。疲れてきたのか?
まだ半分だというのに。
「五人目は、鬼の四天王が一つにして酒好き好色漢、星熊勇義。
紅美鈴と並ぶ高密度、躍動型だが、違いがある。分かるかな?」
力なく頭を振るご主人。
元気がなくなってきな。
「どうした、しっかり!ご主人なら分かるはずだぞ」
「なんだか色々疲れてきました」
「むぅ、一度にたくさん詰め込みすぎたかな?しかし、最後までいくからね」
「はぁー」
「近接戦闘型、実は穏和で世話好きな性質、大美乳以外も共通点は多いが、
決定的な違いは【遊び心】だ。
緊張を強いられる場面でも遊び心を忘れない、その性質が乳の在り方、主張の方向性を
異なったものにしている。張りは十分ながらも、突き出し型ではなく、まろみのある
西瓜型、遊び疲れたら、枕にして眠りたい。
星熊勇義、良い意味で遊び慣れした、余裕のある大人の大美乳だ!
私の好みで言えば二番手争いの筆頭だったりする」
ご主人の眉が少し上がった。
【二番手】に反応したね?気持ちは分かるが、タネは明かしてあげないよ。
畳み込むかな。
「六人目、隙間の管理者、万年暁を覚えず、八雲紫。
ゆったりとした衣装だが、こちらも万人が認める大きさだ。
すべてを見透かしているような態度、常に煙に巻こうとする物言い、何とも不思議
な雰囲気で、その魅力に捕らえられたら逃れられそうにない、
西行寺幽々子と同質の危険パイだ。
ロケット型であることが違いと言えばそうなるだろう。ちなみに透明感は一番だ」
「七人目、山のオンバシラキャノン、八坂加奈子。
量感は申し分なし、明確に外向けに展開したソレは、母神のごとき包容力を感じさせる、
いやまぁ、本当に神なのだが。
実際のところ整いすぎの感があり、私のエロスはさほど奮い立たないのだがね。
それでも表面の張りと中身の柔らかさの対比は、上手に焼き上がった、
たこ焼きを想起させる。外はカリッと、中はふんわり、これはこれで良い!」
渋い柿をかじったときのようなご主人の顔。
クライマックスはこれからなのに。
「そして最後の八人目は、分かっているよね?」
最大級の笑顔を向けて問いかける。
「え、えと、もしかして、その、」
ほんの少しの眉間のシワと、下がった眉尻。
まだ何か言いたそうに小さくもぐもぐ動いている口元。
期待と不安が混ざったうえに、やるせなさをまとった、心細そうな表情だ。
唇を優しく奪って「大丈夫だよ」と安心させてやりたい。
いや、いっそそうすべきなのか。
待て、それで終われそうにないな、やめておくか。
「そう、八人目は、幻想郷随一のうっかりもの、我等が寅丸星!」
「うかー!やっぱりそうなんですね!でも、うっかりって、いえ、そうなん
ですけど、その二つ名はいやー!」
「ほう?やはり自信はあったようだね、ご主人。
まぁ、これまでの大美乳婦たちを考えれば、私でなくともご主人が外れるはず
はないがね。
しかし、二つ名に関して注文を付けるのは、少し贅沢というものだ」
「うう、でもいやです、恥ずかしいです」
「そんなことより、ご主人の乳の素晴らしさを語らせてくれたまえよ。
このために長々と前振りをしてきたのだからね」
ご主人は俯いたままだ。
なんにせよここでやめるつもりはさらさらない。
「質量は最大級にほんの少しだけ及ばないが、私に言わせれば、体躯との均衡が
崩れる直前、目一杯のギリギリ、溢れる寸前の危険度最大!
透き通るよう、とは言えないが、健やかさを確信させる生命力溢れる薄桃色!
肌理が細かく、密を塗ったような艶と照り、これは他の誰もついて来れない!
ここだけでも一見の価値がある!誰にも見せたくはないが、世の分からず屋に
己の狭世を思い知らせてやりたくもある。
この張りと艶、指が喜ぶ、掌が喜ぶ、口が喜ぶ、舌が喜ぶ!
おっと、いきすぎた、本論を続ける!
仰向けになったときの美しさにも言及したい!
よく言われる大きいのに横になっても形が崩れない【巨乳】、作りものではある
まいし、適度な弾性を持ったそれなりの物体がどの向きにしても形が変わらない、
そんなことはあり得ない。
また、型くずれしないことが尊いのではなく、どのように崩れるのかが重要なのだ!
その点、寅丸星の崩れ方は美しい!全体が少し内向きなので、仰向けになってこそ、
その威力を発揮する!外側にやや流れて、ちょうど真上を向くその先端が、
どこにこぼれようかと、ふるふると危うい均衡を保っているその姿こそ究極の美だ!
破壊力が最大になる!
破壊されるのは私の理性だが!
そしてさらに、並外れた筋力を持ちながらも、まるで独立した次元にあるように柔軟
さを失わす、表面と中身の柔らかさの違いがほぼ均一。
そして、虐心をかきむしる【虐めてください】型。ひっぱたいても、ふんづけても、
けなげに耐えるだろう芯の強さと耐久性、あ、いや、そんなことは決してしないがね。
うん。
また、乳間にも適度な肉があり、顔を埋めるに不都合が全くない。埋め方を誤れば、
窒息すること必至の隙のなさ!
私の片掌では到底勝負にならぬ大きさに、私は両掌をもって挑むつもりだ。
片乳ずつ、丁寧にナマエロスを注ぐ所存だ。
両掌で掴み、優しく絞りあげ、左右互い違いの動きで揉みほぐし、尖り始めた先端を
そっと口に含み、舌先を小さな風車のように回そう。
貴方がさらに高みを望むなら、私の口一杯でかぶりついた後、思い切り吸い上げてあげよう。
何度でも。
おそらく下品な音を立ててしまうだろう。
だが、私はもう一つ先に行きたい。歯を立てたいのだ。傷は付けない、付けない
つもりだが。
その先端を細心の注意をはらい、噛む。
下顎を小刻みに左右に動かし、コリコリさせる、貴方が仰け反る瞬間が危険だ、私の
歯は鋭いから。
十分に注意しよう。そして『ナズーリン!!』
真っ赤な顔をしたご主人の金切り声で我に返った。
「あっ、ああ、すまない。興奮してしまったようだ。
途中から具体的な攻略方法の解説に移行してしまったな。
明らかに今回の趣旨からは外れている、申し訳ない、ひとまず忘れてくれ。
ご主人にはまだ早い」
「まだ早いって!私のことなんでしょ?私の、その、お、お乳のことなんでしょ?
忘れろって言われても無理です!貴方は私にそんなことをするつもりだったんですか!」
両手で胸を隠しながら、そんなもので隠しきれはしないのだが、詰問してくる。
参ったな、調子に乗りすぎた。今後の展開を自分で狭めてしまうとは。
「ご主人、落ち着いてくれよ?私が言ったことはあくまで願望だ」
「ほらーっ!願望って言った!願望って言いましたよ!」
しまった、またしくじった。
「願望ではないよ、ガンホーだ」
「ガンホー?」
これはまた苦しいな、
「そう、ガンホー、ガンホー、ガンホーだ」
「なんなんですか?」
「おまえ等は薄汚いドブネズミだ!」
突然の私の大声に驚くご主人。
「サー!イエッサー!」
「おまえ等の使命は何だ?!」
「探せっ!探せっ!探せっ!」
「おまえ等は命蓮寺を愛しているか?!このドブネズミ共!」
「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」
ご主人は呆然としている。
「とある地方の兵士同士が志気を高めるための掛け声だ」
「なんの志気を高めるんですか!」
「この場合、私の思いの丈を高める、あ、いや、あくまで願望で『やーぱりっ!
願望じゃないですか!』
これはダメだ、収拾がつかん。
素直に謝るしかないな。
「ご主人、寅丸星様、ごめんなさい。私が悪かったです」
土下座し、額を畳に付けたまま告げる。
「調子に乗りすぎた。本当に申し訳ない。私の卑弱な妄想を思わず口に出してしまった。
気分を害されたのなら、好きなだけ私を打ちのめすが良かろう、まっこと申し訳ない」
そのままで待つこと暫し。
思ったよりずっと穏やかに囁かれた。
「私が、私が貴方を傷つけることは未来永劫ありません。
お仕置きくらいはするかもしれませんが、傷つけようとは思っていません。
今の私の立場上、優先しなければならないことはいくつもあります。
毘沙門天の代理として、命蓮寺の一員として、聖の名代として。
でも、ナズーリンが引き替えであれば私はその全てを投げうちます。
だって、私が今あるのは貴方がずっとそばにいてくれたからです。
いつでも励まし、陽気にさせてくれ、慰め、叱り、導いてくれた貴方を傷つけることなど
できるはずがありません。我が身より大事なナズーリンです」
あっはっ、待ってくれ、私、私をそこまで思ってくれていたのか、でも、でも、
今までそんな素振り見せてくれなかったじゃないか。
今になってそんな事言うのか?ずるいよ、私の気持ちも知らずに、こんなスゴい事
いきなり言って、私、どうしたらいいの?
「私も興奮しすぎましたが、ただ、そのような、にっ肉欲の対象としてして見られて
いたかと思うと、とても悲しいです。
私と貴方の絆はそんなものだったのかと、心が締め付けられました」
なんて悲しそうな顔だ。
ああ、そうか、ご主人、貴方の真心と不満をはっきりと聞かせてもらったよ。
私の言葉が足りなかったのだね。
貴方の真の言葉には真摯に応えねば。
それにしても嬉しい。ご主人の想いが少しは私に向けられていたのだ。
「ご主人、貴方は私の希望そのもの。その姿が私の生きる糧、
その姿がどんなものであったとしても私の忠誠と愛欲は変わらないと断言しよう。
しかし、現世の姿はそのとき限りのもの。ならば十分に楽しまねば損ではないかな?」
「貴方の言葉が分かりそうで分かりません。【愛欲】でいっそう分からなくなりましたよ」
「まあ、聞いて欲しい。姿形は関係ないと言いたいが、良いに越したことはない。
今のご主人は素晴らしいのだからね。
この卑小な体の私が憧れても仕方ないことだと思う」
「あくまで自分を卑下しますか。
それならば問います。
私と貴方の体が入れ替わっていたとしたら同じような感情を抱けますか?」
とんでもないことを言い出したな。まったく。
私がご主人の超絶肉体、ご主人が私の半端な幼女体型、ということか。
あーん、どんなんだか。
むっ、待てよ、それって、それって!スゴそうだぞ!
今と同じように察しが悪く、うっかりさん、失敗ばかりで、その度【ごめんなさい】
と涙ぐみ、小さな体をますます小さくして震えるのか!私の姿で。
そして私はご主人の姿を持って【仕方ないな、次は気をつけるのだよ】と包み込む
ように抱しめるのか!
うっかり転んで汚れたときは、お風呂で綺麗にしてあげるのだ、嫌がっても無駄だよ。
何せ私の方が遙かに大きく、強いのだから!本気で嫌がるなら無理はしないが、
優しく包み込んであげれば、私の豊かな胸の中、プチプチ文句を言いながらも拒みは
しないだろう、きっと。
怒ったときは叩いてくるかもしれない。小さな手でペチペチと。
そんなのぜんぜん痛くないね。でも可愛い。
ふおーっ!たまらん!これはこれで良いではないか!
素晴らしい発想だ!来世はかくありたいぞ!
「ナズーリン、分かったようですね。貴方は姿形にとらわれているのです。
私の言いたいこ『ご主人!スゴいぞ!私のエロスの幅がまた広がった!さすがだ!
恐れ入った!何というエロス!貴方はすでに私を越えておられる!』
「ふぇ、なんですか?またエロスですか?」
「その発想、堪能させていただいた。ごちそうさまでした」
「も、もしかして逆効果?」
「いやいや、入れ替えモノか。参りましたな」
「このままウヤムヤですか?」
「とまぁ、白い星はこんな感じだね。分かってくれたかな」
「うー、納得できませんが、貴方のこだわりが尋常ではないことは、
何となく分かりました」
本当に納得してないな、これだけ丁寧に説明したのに。
まぁ、色々と脱線はしてしまったが、ご主人の気持ちが少し分かっただけでも、
大収穫だな。
今夜は眠れないよ、星。
でも折角だから、もう一つの星も話したい。
聞いて欲しいな。だってこっちの方が大事なんだもの。
それに今日の雰囲気なら思いの丈を伝えられそうな気がする。
気合いを入れろナズーリン、勝負どころが来たぞ、あ、今日は勝負下着じゃなか
ったな、って、そもそも私、勝負下着持ってないよ。
今日は裾がほつれたネズミ色の猿股だ、やだ、涙出そう。
ああ、こんな私でも、少しは可愛く見せたいたいよう!でも、この体型で勝負下着とは、
それも滑稽だな。上は付けてもしょうがないんだから、下で勝負しないと。
高価だがショートドロワぐらい手に入れておこう、ご主人は気にしないと思うけど、
出来ればうんとドキドキさせたい。私だって恋の駆け引きを満喫したい乙女なのだ。
おっと、また脱線した。ご主人が心配している。
「黒い星は私の主観だ。はっきり言って、私の好みなのだよ。【いい女指標】と
言っても良い」
「いきなり話題が変わるんですか!」
ご主人にとってはいきなりだろうが、私は順番通りだ。
「顔の造作、体各部の均衡、肌艶、立ち居振る舞い、目線のくれ方、仕草、芳香、
基本的な性質、物言い、声質、包容力、危険な香り、癒され度合い、
保護欲のかき立てられ具合、その他諸々、総合力で判断される、私、ナズーリンの
純然たる【好み】の度合いだ!!」
膝立ちになり、両手を広げ、目を剥いて宣言する。効果音が欲しい。
「好みですか、貴方は好きな人がこんなにたくさんいるのですね」
あれ、えらく冷たい声だな。いつのまに回収したのか、幻想郷縁起(改定五版)を
パラッパラッとめくりながら言われた。こちらを見もしない。
あっ、これってパルパルだ、うん、嫉妬だ。しっとそうなのだ。
これは予想以上に期待して良いんじゃないかな?他の女を評価する私に嫉妬、
それも結構あからさまに。うわい、ひやほ、うれし。
浮かれている場合ではなかったな。このまま放置してはマズい。
しかし、私の思いはここに集約されているのだから、間違いなく分かってもらわないと。
正念場だぞ、愛の戦士ナズーリン、抜かるなよ。
「確かに私の好みだが、【好きな人】とは聞き捨てならないな。好みと好き、
似ているようで違う、違うんだ、だって好きなのは『好みの人が貴方に言い寄って
きたら、好きになっちゃうんじゃないですか!?その程度の違いなんですよ!』
おおう、パル度数がはね上がったな、なんだかむずがゆいうれしさだよん。
へふー。もう少し引っ張りたいなん。
「ご主人、ここで全部終わりにするかい?」
ちょっとだけ意地悪しちゃおうかな。
「えっ、いえ、だって貴方が、好みなんて言うからです!私、悪くないもん!」
がひょーん。【もん!】ときたぞ!
この娘はどこまで行くのか、手が届かなくなりそうだよ。可愛さ無限大だ。
いつもと違う展開で、あちこちの防御が緩んでいるのか。
なんだか色々チャンスのような気がする。
落ち着けナズーリン!じっくり行くぞ!
「うん、そうだね。ご主人は何も悪くないよ。私の説明が悪かったんだよね?
だからもうちょっと聞いてくれるよね?」
本日二度目のお願いフェイス。
「うぇ、うー、おねだりは今日はこれで最後ですよ、もうっ」
濫用は良くないな、おねだりとバレている。
しかし【今日はこれで最後】か、明日はリセットしてくれるんだね。
やはり私には甘いんだなぁ、ああ、鳩尾のあたりがくすぐったい。
これは私のささやかな【幸せ】と勘定して良いよね。
「女体を探求してきた私が、苦心して基準を設け、その性状を分類し、
個別評価するのは当然の帰結だよ。ただ【ああ良いなぁ】【いまひとつかなぁ】
【おっぱい大きいなぁ】【一晩お願いしたいなぁ】では単なるバカ好きモノだ」
「すごい言い切り方ですけど、どれほど違いがあるんでしょうか?」
えー、そんなこと言うの?ねぇ、ホントに分からないの?私、くじけそうだよう。
「ご、ご主人、違うよ、明らかに違うよ。学術的探求は記録するものだ。
後続のために、無駄な回り道をさせないための指標になりうるものだ。
やっているときはそこまで考えないがね。
だから私の記録もいつの日か誰かの役に立つ日が来るかもしれない」
「そーですね。えー、そーですね。ホントにそーですね」
ご主人、まだご機嫌ナナメだな。
「学術的側面も認めてくれるね?そうしてもらわないと、話が進まないのだが」
「聞くと約束しましたからね。どーぞ進めてくださいな」
あれま冷たい。しかし、今のうちにキチンと説明せねば。
「顔の造作一つ取ってみても、細かい観察が必要だ。
多分に好みの領域だろうが、目の大きさ、瞳の色、唇の厚み、歯並び、鼻の高さ、
小鼻の膨らみ、頬骨の出具合、顎の形、喜怒哀楽の表情、その際、どこがどのように
崩れるのか、輝くのか、笑ったときどのくらい口が開くのか、怒ったとき目元は
どうなるのか、眉間の皺はどんなか、涙はこぼれ方は、と確認すべき点は多い」
ご主人が顔を逸らしてしまった。
見つめすぎたか。
「もちろん、仕草や、言動など他の点も確認事項は多い。
それぞれが重なり、絡み合い、個性を紡ぎだしていくのだよ、無限の組み合わせだ。
具体的に見ていった方が早い。黒い星は、多い方から見ていこう。
多い方が、まぁ私の【好み】と言うことになるが、【好み】についてはひとまず
横へ置いておいて欲しい」
横を向いたままで、チロっと睨まれた。
まだ怒っているな。
「星五つ、これは今のところ十六夜咲夜しかいない。
知性と意志の強さがにじみ出ている顔立ちは、基本の造作がややきつめだが、
微笑むとき、困ったとき、とても柔らかく崩れる。
このギャップは一度見たなら確実に心に刻まれる。
もう一度笑わせてみたい、困らせてみたい、と欲求をかき立てられる。
体型の均衡は完成された美の一例だ、くどい説明は不用だろう」
今のご主人に、体つきのことをこれ以上話すのは、やめた方が良さそうなので省略だ。
「完璧に近い家事管理能力、細やかな気遣い、物怖じしない芯の太さ、洒脱な受け答え、
控えめにしていても隠れようのない存在感、溢れんばかりの忠誠心と深い情愛、
時折見せる焦点のズレた言動、いわゆる【天然気質】、
誰もが夢見る理想の従者にして恋人。十六夜咲夜に星五つだ」
一気にまくし立て、ご主人の様子をうかがってみる。
「そうですね。ええ、そうですね。本当にそうですね」
さきほどと同じ台詞だが、纏っている怒気が哀気に変わりつつある。
続ける。
「星四つ、アリス・マーガトロイド、容姿は最高水準、ちょっとした気配りは
心憎いほどだ。何気ない仕草に品があるから、恐らくは上流階級の出だと思う。
他人に無関心だが、達観しているわけではない。
その関心が黒白魔法使いに集中しているだけのことだ」
ご主人が目を剥いた。
知らなかったのか。
「霧雨魔理沙の星付けは、今は保留だ。
三年もしたらとてつもない美女になることが分かっているからね。
あの骨格なら、もう一段階飛躍的に成長する。
背も高くなり、四肢もしなやかに成長する。乳も星三つは確実だ。
顔は丸みが少しとれ、【可愛い魔理沙ちゃん】から【すんげ綺麗な魔理沙さん】
になるよ。それに私には彼女が魔法使いとしても、精神的にも大きく成長する
行程がはっきりと見える。
壁にぶつかる度に、自分の力と、彼女を慕うものたちの献身的な愛で、雄々しく、
しなやかに立ち上がるだろう。
彼女は十六夜咲夜を脅かす存在になる。
アリス・マーガトロイド、時がたつほど競争率が上がっていくのに、のんびり構
えていたら、その生涯最大の後悔をするだろう。
頭一つ抜けている今こそ無理矢理にでも押さえ込むべきだ。私なら絶対そうする」
ご主人は目を泳がせている。
そんなに意外だったのか?
「上白沢慧音、妖の身でありながら、人里の信を得ている。
ただ優しく、愛想が良いだけでは立ち行かなかっただろう。
冷徹な、時には苛烈な判断を求められた場面がたくさんあったはずだ。
なのに泰然自若、いつも笑顔を絶やさない。歴史を背負う孤高の覚悟を表に出さない。
あれこそが【漢が惚れる漢前】だ。
ちなみに色恋も、お盛んだ、居候のもんぺ娘は近いうちに喰われる、いや、
喰わされるだろう」
「そんな、そんなことって」
驚いているのか、一目瞭然だろうに。
色々隙を見せて誘いをかけては、最後の一線は不死っ娘自身に越えさせようとしている。
誘い受けを楽しもうとしているのだ。
このやりくちは【いただき】だ。
次に行くか。
「射命丸文、素晴らしい脚線だ。飛ぶ姿も美しい。
過剰なまでの行動力と人当たりの良さ、仕事に対するこだわりも真摯だ。
軽妙洒脱な会話からは高い知性と、積み重ねた経験を確信させる。
立場上、二面性を持たざるを得ないが、今現在、熱烈恋愛中なので、言動の随所に煌め
きがこぼれているよね」
「恋愛中、なんですか?」
【恋愛中】に食いついたな。
一時的ではあるが、元気になりそうで良かった。
「ああ。間違いない。白狼天狗の娘と良い仲だよ」
「えっ、それって、犬、犬走、犬走椛さんですか?
でも、二人は仲が悪いって聞きましたよ?」
「甘い、甘いなご主人。
天狗社会の立場上、表だってはそういうことにしているだけだ。
初めは本当に仲が悪かったかもしれないが、今は違う。
鴉は狼にベタ惚れだし、狼は鴉を喜ばすことを最優先にしている。
私は二人が隠れて睦み合っているところを五回ほど目の当たりにしている。
間違いない、【仲が悪い】は偽装だ。
それに、白狼の、聞いている方が恥ずかしくなるような淫らな言葉責めと、
時にじらし、時に強引な愛撫の技はとても勉強になったな」
「ナズーリン」
おろ、また怒気が強くなったぞ。
「覗いていたんですね?貴方は、いつ、どこで!?」
「いや、また私の妄想だったようだね」
あわてて取り繕う。
「だって無理な話だよ。狼の嗅覚、しかも千里眼の能力を持つものには近づけないさ」
もちろん隠密行動のエキスパートたる私がたやすく見つかるわけもない。
道具や術や教訓を駆使して隠れ続けてきたのだ。
私が【存在を消す】ことに専念すれば、スキマ妖怪にだって探知されない。
ロケットおっぱいを至近で拝んだものは、そうたくさんはいないだろう。
ま、ご主人に言う必要はないだろうが。
「貴方の妄想は、ありそうでなさそうで、その上でありそうだから心の臓に悪い
ですよ」
少しはいつもの調子に戻ってきたかな。
「次なる黒星四つ。星熊勇儀と水橋パルスィはまとめて説明した方が早いな。
ご主人も地底に行った際、見ただろう?あれをバーカップルと言うのだ。
乳八仙にして黒い星四つ、総合はかなり高い。
おおらかで頼りになり、優しい心根の楽天家だ。
細かいことは期待しないで、こちらが全て面倒見てやる、と決めていれば、世話を
焼くのも楽しいだろう。危なっかしくて、意外と保護欲をかき立てられる。
こう言ってしまうと女じゃないみたいだが、どうしてどうして震えがくるほどの色気を
放つときがある。
地底の宴会で皆、酔いつぶれて雑魚寝したことがあったろう?
明け方目が覚めてしまったんだよ。
ぼんやりしていたら、星熊勇儀が半身を起こしたんだ。
寝乱れた姿を直しもせずにこちらを向いて【眠れないのかい?こっちに来るか?】
ふわっと微笑みながら小さく手招きされたんだ。
もちろん冗談だったんだろうが、そのときの妖しい色香に少しの間息ができなかった。
慌てて布団を被って丸まったよ。正直まいった」
その宴会を思い出そうとしているのか、微かに眉間に皺を寄せ、唇を尖らせている。
「パル子さんは知っての通りだ。
女性体としての完成度は、結論の一つだ、それも限りなく真実に近い結論だ。
寅ちゃんとはまた違った儚げで繊細な肌質、裸体がもっとも美しいのは彼女かも知れ
ないな。
嫉妬に狂った果てに妖怪になったと聞くが、それだけ情が深いと言うことだ。
総じて控えめだが、想い人に関係することなら、全てを投げ出す覚悟と行動が伴う。
一言でいうのはもったいないが【けなげ】なのだね。
相方が言う【パルスィはとてもとてもとてもとてもとても可愛いのさ】うん、納得だ。
魅力の相乗効果で両者、星四つだ」
ご主人が、うん、うんと頷いている。
【寅ちゃん】呼ばわりにも気づいていない。
ご主人は、なぜだかパルスィと仲がよい。
よほど気に入っているのか、彼女の話にはスゴい喰いつきだ。
「とても素敵な二人でした。
最初は冗談のようなやりとりばかりで、ハラハラしました。
勇儀さんが一方的で、パルスィさんは、嫌がっているのかと思いましたけど、パルスィ
さんは要所で勇儀さんを立てていましたし、時折見せた気を引く素振りも愛らしく、
甘え上手なんだなと思いました。
お互いを補い合い、弱いところも強いところも分かった上で際どいやりとりをしている
のですよね。私、とっても羨ましかった」
うむ。ほぼ完璧な洞察だ。
この人、実は恋話が大好物なんだよね。
「そして聖白蓮。容姿は説明しなくても良いだろう?いい女だよ、文句なしだ。
知性、包容力、癒され度、高得点だ。
だがね、色々と立派すぎて私は少し息苦しいのだよ。二人きりでは暮らせないだろうね」
「そ、そう、なんですか?」
彼女を尊敬しているご主人にしてみれば、合点が行かないかも知れない。
「隙がなさすぎると、私のような半端ものには辛いときがあるのさ」
頬肉をつり上げ、わざと憎たらしい表情をつくる。
今は聖とご主人の決定的な違いを言うべきではないから、ごまかすしかない。
「星三つは平均的に安定している場合もあれば、何かが突出しており、他方、ひどい
部分があったりもする。趣深いが、私にとって、今はそれだけだ」
星二つ、一つは、今は言う必要はないだろう。
そろそろ限界だ、ご主人も私も。
タネ明かしを始めるか。
「ご主人、黒い星も白と同じく、基準があるのだよ。
私の心の中には数え切れないほどの星を持った人物が一人おり、その人との比較評価
なのだ。星五つは確かにスゴいのだが、私にとっては、その人の魅力を再確認する為
にすぎない」
ご主人が座り直した。
「その人が誰か、今は言うまい。いずれ分かってしまうことだから。
ご主人に今、分かって欲しいのは、私の着眼と、考え方だ。
その人を盲目的に慕っているわけではなく、自分なりに理屈をつけ、納得した結果なのだ。
その理屈は屁理屈だし、臆病者の理論武装にすぎない。
分かっている。恋愛は理屈じゃない、分かっている。でもそうしなければならなかった」
このあたりは初めて話す私の根っこ部分の吐露だ。
「歪んだ思考と不健全な感性しか持ち得ない私には、この想いが間違いのないものなの
か確証が欲しかった。
世間、他人と比べることで納得したかったのだ。
だって私、身も心もこんなにちっぽけなんだもの」
言いながら切なくなってきたよ。
矮小な自分に泣けてくる。
「もっとも、こんなヒネたネズミ、誰も本気に相手をしてくれんだろうがね。
今まで並べた御託は、所詮、くだらん妄想だ」
ご主人は目を伏せていた。
「貴方にとって、その人はとても大事な人なんですね」
「うん」
私は心から返事をした。
もう全て話してしまおうか。
でも、なんだか私自身が変にへこんでしまったし、タイミングも悪いから、言いにくく
なったな、どうしようか。
「【ちっぽけ】ですか。貴方は間違っています。全く理解できていませんね。
並外れた洞察力が聞いてあきれます。とんちんかんのわからんちんです。
これほど愚かだったとは残念です。はっきり言って、おバカさんです!」
びっくり。
この千年ほどで、これほど罵られたのは初めてだ。
「ナズーリンは、はじめは取っつきにくいでしょうけど、長い時間一緒にいれば、
バレてしまいます、本当の姿が!」
ふむ、ロリネズミの正体見たり、パラノイア助平ネズミか。
「そしたらメロメロになっちゃいます!」
あん?メロメロってなんだっけ。
「だって、約束は必ず守ってくれるし、
悲しいとき、苦しいとき、言って欲しい言葉を言ってくれるし、
うまくやれたときはちょっとだけ褒めてくれ、一緒に喜んでくれるし、
努力していることを分かって、認めてくれるし、
間違ったときには、真剣に怒ってくれるし、何故いけなかったのか丁寧に教えてくれるし、
雑多な悪意は、その機転で弾きとばしてくれるし、
次は自分でやれるように、分かり易い手本を見せてくれるし、
でも、本当に危険なときはその身を挺して庇ってくれるし、
小さな体なのに。
やらなければならないことは、とっかかり易いようにさりげなく準備してくれるし、
成長したいと言う高望みには、たくさんの道筋と段取りを探してくれて、
最後は自分で選ぶようにと見守ってくれるし、
うまく行っているときは空気のように控えめで、ちょっと困った程度では手を差し伸べては
くれないけど、精一杯やってみてもダメなときは、奇跡のように助けてくれる。
なのに決して見返りを求めない。
長く一緒にいたら、それがみーんな分かってしまいます。
そして普段は、ちょっぴりぶっきらぼうで、謎めいていて、たまに寂しそう、
なんだかカッコいいんです。
そんな、そんなナズーリンを好きにならないモノはいませんよ!
みんな、誰でも好きになっちゃいます!
ダメです!そんなのダメですよー!うわーん!」
泣きながら突っ伏してしまった。
えーと、それはどちらのナズーリンさんなのかな?
とりあえず【スーパー・ナイス・ナズーリン】としておくか。
文句なしの【イイ男】だけど、私じゃないよ、そんなモンじゃないよ、私は。
「ナズーリンの大事な人ってだれなんでか!?
咲夜さん?アリスさん?パルスィさん?勇儀さん?文さん?慧音さん?
それとも魔理沙さん? 私、勝てません!取られちゃう!私のナズーリンなのにぃ、
ずーっと私だけのナズーリンだったのに、うううっ」
伏せたままの慟哭。
私だって泣きたいよ、この人、こんなに私を想ってくれていたのか。
「私は心が狭いんです!その人とナズーリンの幸せなんか祝福できません!
きっと、なにもかも滅茶苦茶にしてしまいます!」
少し身を起こしたご主人、上目遣いだが、甘酸っぱくはない。
剣呑な雰囲気だ。
「ごっご主人、怖いよ、落ち着こうよ」
「私の全妖力と、命の珠全てを使って、宝塔の法念放出を強制的に陰回転させます。
限度を超えてどんどん加速させます。
暴走の果て、宝塔は大きく、大きく膨らんだ後に弾けます!
その瞬間、幻想郷は爆縮消滅します!
後に残るのは、貴方への未練の情念【ナズーリンのバカァ!】だけです!」
はわわわ、まて、まって、そんな理屈あるの?誰かこの人止めて、
ホントにやりそうだよ。できそうだよ。
なんで泣きながら宝塔を掲げてるの!?
今、幻想郷を救えるのは私だけなの!?
「ご主人、とにかく落ち着け!訳分からなくなってるよ!?もう少し説明して、
ねっ?ねっ?」
「もう我慢できません!ナズが色々変なこと言うから、私、壊れます!
もうダメです!全部言わせてもらいます!」
とりあえず宝塔を置いてくれたけど、えらく気合いを入れて座り直したぞ。
「私、ナズーリンが好きです!ナズーリンが大好きです!」
このタイミングでそれ?!
えーっと、そのナズーリンは【スーパー・ナイス・ナズーリン】とは別だよね?
この私、【エロズーリン】のことでいいのかな。まて、【エロズーリン】は
言い過ぎだろう、我ながら。
ああ、こんなどうでもいいこと、ホントどうでもいいのに。
顔と胸とお腹がどんどん熱くなる。
直で言われるのが、こんなにスゴいことだなんて。
「今度は私が説明します!語ります!貴方の魅力を!私が語れるのはこれだけです!
でもこれだけは誰にも負けませんよ!聞いてくれますよね!」
あう、これは【おねだり】なんだろうか、気迫に押しつぶされそうだ。
でも、【貴方の魅力を】って、さっきのこといい、勘違いと思いこみで創作された
【スーパー・ナイス・ナズーリン】の話だと、お尻がむずがゆいんだが。
「私だっていずれは好きあった男性と添い遂げるものだと思っていました。
それが当たり前なのだと思っていました。
でも、私が困っているとき、心細いとき、悲しいとき、寂しいとき、
いつも貴方がいてくれました。
ナズーリン、貴方は自らをいつも【ただのネズミ】と卑下していますが、私を支え、
導いてくれたました。常に揺るぎ無く。
それがどれほど頼もしかったことか。
女性に言うのはおかしいと思いますが、私にとって、貴方は誰よりも雄々しく、
頼りになる美丈夫です。
あっ、男だと思っているわけではありませんよ?
そんな姿をいつも目の当たりにして、どうして他に目がいきましょう」
【美丈夫】は間違っていないか?私、こんなに小さいんだよ?
「それに貴方は狂おしいほど愛らしい。
凛とした表情、力強い物言い、機敏で無駄のない動き、それらだけを見れば、
ただの格好いい女の子なのに、時折見せる柔らかい笑顔、こっそり苦痛に耐える姿、
寝顔のあどけなさ、ああ、貴方がもう少し小さければ、肌身離さず持ち歩くのに!」
ご主人、私、それでもいいよ。
ペ、ペンダントが第一希望かな。
「それにナズが、あっ、いえ、ナズーリンが、探索にいくとき、どれほど心配して
いるのか知らないでしょう?
貴方が傷を負って帰ってくる度、狂いそうになります。
貴方をこんな目にあわせたものをこの手で八つ裂きにしに行きたくなります。
仏の教えを具現せねばならない私が何度も禁を犯しそうになりました。
貴方は負傷の原因や相手を決して教えてはくれませんでしたね。
私に罪を犯させまい、としてくれていたのでしょう?」
ご主人の心を煩わせるのは本意ではなかったからだけど、そこまで心配してくれてい
たんだ。
「優しく強く賢いナズーリン。貴方のおかげで私は私でいられます。
ダウジングの能力でもたくさん助けてもらいましたが、私は貴方の心に、貴方の
在り方に助けてもらっています。
かっ体はまだ早いと思うのですが、貴方のしなやかな体を抱きしめたら、どんなに
気持ちが良いのだろうと夢想する事はあります。
貴方が優しい笑顔で口付けしてくれたのなら、私はどうなってしまうのだろう、
と一睡もできない夜もありました。
貴方に意見できる立場ではありません、私はどうしようもなくイヤラシいんです!」
あわわ、それそれそれって、シグナルグリーン?直進OKってこと?ホントに良いの?
うえーん、夢?嘘だったら、夢だったら、私、壊れるよ!誰か背中押して下さい!
私、一歩踏み出したいよー!うわーん、助けて、誰か助けて、いえ誰かじゃなくって、
助けてよ私の大事な『ナズーリン、ごめんなさい、我慢できません!』
妄想を遮ったのは、絞り出すようなご主人の声。
何を謝るのか、と思っていたらにじり寄ってきた。
膝同士がぶつかり、覆い被さるように抱きしめられた。
そして
唇をふさがれた。
ご主人と、寅丸星と、キスをしている。
驚きはしたが、以外と冷静な自分。
私からすることばかり夢想していたからなのか。
奪うつもりが奪われたからなのか。
ただ唇を押しつけ、荒い息遣いでじっとしている。
不器用だ。
勢い任せで【接吻】なんて甘い感じではない。
でもご主人からしてくれたのだ。
あの潔癖鈍感不器用な寅丸星が自ら口づけてくれたのだ。
どれほどのものと引き換えに決意をしたのだろう、それだけでも感無量だ。
抱擁を解いた彼女は涙ぐんでいた。
「ううっ、ごめんなさい、私、下手です!初めてのキスはもっと素敵にしたかったのに!
全然ダメです!もっと上手にして、ナズをうっとりさせたかったのに、
こんなのじゃうれしくも何ともありません!
私、バカです!ごめんなさい、こんなことしてごめんなさい!」
そんなことで泣きそうになるのか。
可愛いなぁ、嬉しいよ。
背中を押してくれたのはやっぱりご主人だった。
いつも私を助けてくれるのはこの人なんだ。
「私の番だよね?」
しゃくりあげ始めたご主人の膝にまたがり、驚くその頬に両手を添え、
そっと唇を重ねる。
少しずつ場所をずらし、その都度軽く吸う。
上下の唇肉を細かく啄む。
唇の隙間に舌の先を差し込み、左右にそよがせる。
そして再び軽く吸う。
「ふぁぁっ」
焦点の定まらない目から涙が溢れだした。
「ナズーリン、上手です。分かっていましたけど、経験豊富なんですよね。
そうかも知れないと思っていましたけど、上手すぎて悲しいです」
その涙を舐めとってから、もう一度口づける。
今度は少し強く吸い上げる。
吸い上げ、離す刹那に軽く唇肉を食む。
それを何度か繰り返す。
「いつか貴方とこうしたかったから、たくさん想起しただけだよ。
上手と言われれば嬉しいよ、努力が実ったのだから。
私の全霊を込めた接吻は、貴方に捧げたかった。願いが叶った」
「は、初めてだったんですか?!」
「私、ナズーリンのスイートミラクルキッスは貴方だけのものだよ」
気障を通り越してバカだな【スイートミラクルキッス】ってなによ?
自分で言っててなんだけど。
「はぐらかされたような気がしますけど」
ファーストキスだと言って欲しかったのか?
そんなことを気にするなんて。
神の代理と見初められ、その在り方は、神が認めたほどの存在なのだ。
私なんぞを気にすることは無いのに。
こんなネズミに感けていたら、すべてを失ってしまうのに。
馬鹿だ、本当に馬鹿だ。
でも、この馬鹿を手放したくない、何があっても、何と引き換えでも。
ご主人、寅丸星、貴方のために私は在る。
貴方は輝く星。その輝きのためなら、私はこの能力すべてを捧げる。
気が向いたら、少し構ってくれる程度で良かったのに、これほどの情愛をもら
えるとは。
その想い、大きすぎて報いきれないよ。
分不相応の宝物だ。この小さな手では抱えきれない。
私一人では守りきれないほど大きくて、広い。
それでも誰にも譲りたくない。
絶対に。
寅丸星、私のほとんどすべて。
毘沙門天の使いとして生を受けたが、今、この存在は、ちょっとうっかり、何に
対しても一生懸命、不器用だけど無限の優しさと挫けない心を持った、このヒト
のために在る。
そのヒトが私を【大好き】と言ってくれた。
私はこのヒトの【在りたいと願う生き方】を守る。
絶対に守る。
他者を貶めても、謀っても、滅してでも。
力は及ばずとも、この知力を振り絞り守り抜く。
良かった。本当に良かった。長き生の意義が見出せた。
それも【そうだったら良いのに】と願っていた意義だ。
積年の鬱屈が弾け飛んだ。
なんと清清しい気分だ、怖いものは何も無くなった、迷いも無い、今の私は、
ご主人妄想モードの【スーパー・ナイス・ナズーリン】かもしれん。
博麗霊夢、八雲紫、八坂神奈子、八意永琳、風見幽香、まとめて片手で捻れそうだ。
ご主人の唇を堪能できた嬉しさゆえ、気分が高揚しすぎているな。
私もきちんと話さないとね。
「あーっと、ご主人の紹介ページには星がいくつあったかな?」
「白い星は五つ、黒い星は、書いてありませんでした」
間髪いれずの返答、気にはなっていたんだね。
「ご主人の黒い星は、書く必要がないんだ」
ご主人の眉根が寄る。
【必要ない】が面白くないんだね?
「私はずっと貴方を見てきのだ。
何故こんなにも愛おしいのだろう、と。それを確認したくて他人も細かく見る
ようになった。
そして他人を見る度に貴方の魅力を強く認識できた。
ああ、やぱっりご主人だ、と震えがくるほどに、嬉しかった」
「えうっ、あ、あのそれって、貴方の【大事なひと】って、もしかして、もしか
して、わ、私ですか!?私でいいんですか!?」
ここまで言ってようやくか。
察しが悪いのは十分知っているつもりだったけど。
まぁ、いいさ。
「ご主人、正解だ。貴方だ、寅丸星だ」
俯いてしまったご主人。
涙が、ぱたぱたぱたぱたとその胸元に落ちる。
「あり、ありがとう、ございます」
先に礼を言われてしまったよ。
私こそありがとうなのに。
「良かった。本当に良かった。ナズの大事なひとが私で良かった。
大好きなナズが私を選んでくれて良かった」
涙は止まらない。
ご主人の頭を優しく抱いて、頬をくっつける。
耳元で囁く。
「大好きなご主人。星。もう一度キスしていいよね?」
ご主人は俯いたまま小さく頷いた。
もう一度頬に手を添え、涙を舐め取り口づける。
一段落して唇を離す。
ご主人が潤んだ目を開ける。
微笑んでいた。
「ナズーリン、私たちは【好きあっている】のですから、その、恋人って
ことで良いのですよね?」
おほ、いきなり恋人へ昇格か。
「寺の皆には言っておいたほうが良いのでしょうか?でも、恥ずかしいですね。
どうしましょう?」
その照れながらの微笑、もう、我慢できん!我慢しなくてもいいよね!?
跨ったまま、足を突っ張り、ご主人を押し倒す。
正座のままだから苦しいかも知れん、でも、止まらん!
「星!星!このままいくぞ!いかせてくれ!」
押し倒したものの、ご主人は私を抱えたまま、いとも容易く反転した。
体格と地力の差は如何ともし難い。
今はご主人が上だ、跨っていた私はそのままひっくり返され、大変な格好だ。
このままでは犯され放題だ。
ナズーリン、貞操ピーンチ!でも、でも、お望みなら好きにしていいよ。
そこにご主人の叱声。
「ですから!体はまだ早いと思います!
これからも抱きしめあって、き、キスをしたいです!
でも、体は、ま、まだ、ですよ!?」
あ、私、覚悟を決めていたのに。
どんなに強引な行為でも受け入れるつもりだったのに。
なんというヘタレだ。
ちょっとがっかりだ、ちぇ。
「早いと言うと、いつからならよろしいのかな?明日?百年後?」
「どうしてそんなに極端なんですか!だって、新しい下着も購いたいですし、
もう少し痩せてからでないと、見っともないですし、と、とにかく今日はダメです!」
ははは、この人は自分の体に不満があるのか、なんという高い理想だ。
いや、こんなちょいとずれているところが可愛いんだよね。
私も可愛い格好をしたいしね。
次のお楽しみにとっておくかね。
私、ナズーリンのご主人、寅丸星、私たちのお楽しみはこれからだよね。
千年待った私たちだもの、少しは楽しんでいいはずだよね?
星、星、貴方が大好き。
了
いい話をありがとう
ストーリー、キャラクター、文章、二人の愛、そしておっぱいの全てが。
カロリーが高すぎるのだ。胸焼けしそうなのだ。
しかし人間は後で悔やむとわかっていてもガッツリ喰らいたくなる時があるのだ。
私にとっては今がその時。だから満足だ。
でもでも次は腹八分目位にしてくれると嬉しいっす。
メルランも微乳とな?
×加奈子
○神奈子
いい星ナズだこれは
「オワタ」というより「ハジマタ(AA略)」の感がある、すがすがしいまでのエロネズミ。
誘いうけも一線越えさせるのも泣かせるのも唇を優しく奪って「大丈夫だよ」と安心させてやるのも実行してくれたナズーリンなら、
イイハナシダナーの後にも渾身のナマエロスを注いだり放置系遊戯に勤しんだりのガンホーを実現してくれるはず!!
胸フェチのナズーリンに腰とか腿とかひかがみとか四つんばい時の胸の形とかを解説してもらいたくこの点数。
上手いのに誤字・脱字が多いなぁー!!
そこだけ惜しかったので★★★★で。
次回作をお待ちしております~
創想話でこれより長い作品を読んだことがない偏食家ですけど、時間を忘れて読み耽ってしまっていました。
こんなにナズ星なお話を書いて下さって、本当に感謝。
ナズ星好きな私の聖書にさせて下さい。見習いたい。
素晴らしいね! ちょっとした台詞回しにもセンスを感じ取れる
総合的には楽しめましたよ(笑
最速の感想、ありがとうございます。
4番さま
ありがとうございます。実は結構削ったんですが、詰め込みすぎですよね。【初投稿で舞い上がってやがんな】とご笑納ください。
5番さま
言い得て妙です。ありがとうございます。乳寸法は、勝手設定ということで。
9番さま
ご指摘ありがとうございます。
17番さま
ありがとうございます。ナズ星モノは、優れた先達に触発され挑みました。嬉しいです。
21番さま
四つんばい!?うっかりしました!しまったー!何故失念してしまったのでしょう! ともあれ私自身は【オシリーナ】なのですが。ありがとうございます。
22番さま
いやまったく、申し訳ありません。丁寧なご指摘、痛み入ります。
23番さま
ホント、ごめんなさい。次、がんばります。ありがとうございました。
26番さま
恐縮です。ただただ恐縮です。ありがとうございます。
28番さま
ありがとうございます。台詞はかなり悩んだので、嬉しいです。
29番さま
ごっつぁんです!ありがとうございます。
エロ親父と乙女の思考が混じり合って最強にみえる
俺は死んだスイーツ(笑)
おもあず号泣した
どっちでも構わん!
最高でした!
星が全力過ぎて
私泣いちゃいそうです。末永くお幸せに。
あと、ナズーリン殿、貴女の評価本を出版しませんか?需要ありますし、売れますから絶対。
肩に力が入りすぎましたが、後悔はしていません(笑)次からは制球に気を配ってみたいと思います。ありがとうございます。
35番様
寅丸星とずっと一緒にいたから、こんなんなっちゃったナズーリン。と私は解釈しています。ありがとうございました。
38番様
ありがとうございます。発想のベースは、ここにあります!
41番様
結構、カロリーカットしたはずなんですが。私、味覚異常でしょうか?ありがとうございます。
45番様
カップリング表記に悩んでいました。どっちでも良いですよね!?ありがとうございます。
48番様
評価本の件、最高のお褒めの言葉です。嬉しい。ありがとうございます。
ナズーリンとはいい酒が飲めそうです。
ありがとうございます。漢女は大騒ぎの宴会より、静かに語らいながらゆるゆると飲むのが好きなのだと思います。
言葉のキレがスゴクいいと思うのよ。
点数低いって! お嬢様
私は変態ネタフルOKですわ。
お嬢様の暴言は女性読者の意見としてご理解下さいませ
冥途蝶
高名な方からのレスに恐縮です。
女性からは総スカンを喰うのでは、と覚悟をしておりましたが、安心いたしました。
今後も精進しますのでよろしくお願いしますね。
ありがとうございました。少しでも続けられるよう、頑張ります。
光ってる、間違いなく光ってます
光ってますか、もっと気合を入れて参ります。ありがとうございます。
ひっじょーに良いっ!
なんでこんな変態の言動に感心せにゃならんのだ!
そして寅ちゃぁぁぁん!!
もうお前ら結婚しちゃえよ♪
こんな過去作にコメントをいただけるとは。
自分も読み返してみましたが、今書いているもの全てのベースがありました。
当たり前ですが「ここがスタートだったんだ」「始めることができたんだ」
そう思うと感慨ひとしおです。自分の作品なのに。
ありがとうございました。 今後ともよろしくお願いします。
後半の怒濤の展開に一気に読み終えてしまいました。
なんというナイスカップル…
もうお前ら結婚しちゃいないよ!
幻想郷の人妖についての批評?も楽しく読めました。
「乳八仙」「大美乳婦」筆主様の発想力は化け物か!
200点300点入れたい作品は久々です。
続編も楽しみにしてます!
や、あなたの作品を最初に見たとき、作品のすばらしさうんぬんよりも
「こんなオヤジ臭いオーラ全開の作品(あくまで作品の属性が、です!)も、
ほのぼのした作品も同居できる東方二次創作界隈って、懐深いなぁ」
なんて思ってしまったんですが、なんと、同じことを考えていられたんですね。
明日は例大祭。通称「東方オールジャンル」の即売会。
何故に一つのカテゴリーで「オールジャンル」やれるかの秘密の一つは、
きっとその世界観の間口の広さもあるに違いない、なんて。
過去作にまでコメントをいただき恐縮です。
拙作の設定の根っこはほとんどここにあるのかも知れません。
お認めいただき、お礼申し上げます。
76番様:
ありがとうございます。おっしゃるとおりだと思います。
自由裁量のレンジが広い→妄想の余地がたくさんある。
やはりここでしょうね。
変態話で終わるのかと思ったらまさかこんな甘々なナズ星になるなんて……!私の好きなナズ星がこれでもかと詰め込まれていました。
意気揚々と語るナズーリンと死んだ魚のような目でぐったりしてる星ちゃんを想像するとたまりません。
やっぱりoppiはサイズよりもバランス。総合力。数字では計ることのできない千差万別。しかしそのoppi一つ一つの表現が豊かでそして的確。
どうしてコレほどまでにoppiの表現に情熱を注げるのですか貴方は。よろしければ師匠と呼ばせてください。
すいません、初投稿に慌てて、パスワードを間違ってしまったみたいなのです。
似たような単語を入れてもダメでした。勘弁してください。
加筆修正版はサイトにございますので(さりげなく宣伝)。
ぺ・四潤様:
ありがとうございます! 「クール変態ナズーリン」なるほど、そう説明すればよかったのですね!
今後、使わせていただきます。
oppi、大好きっス!! 私自身の好みはゾーンが広いながらもバージスの大きさを重視したく、かつ先端にも明確な嗜好が(ry
ナズーリンかわいすぎます。
あとやっぱりがやぱっりになっていますよー
こんな過去作にありがとうございます。
まだ書いています、気長にお待ちください。
102番さま
うー、パスワードが当たらないんです。
直せません、ゴメンなさい!
なんという変態値。これをここまでの長さで書ききれる手腕に脱帽です。
星が減るってこういうことかぁ、と納得。文ちゃんナズ的にかなり評価高かったんですね。
ともあれ、ナズも星さんもかわいい!
恐れ入りましたー! コメント遅くてごめんなさい、ありがとうございました。
ナルスフ様:
あわわわ、こんな過去作まで……ありがとうございます。
全てはここからはじまった! なんちゃって。