今日も今日とて、幻想郷は蒸し暑い。
じめじめとしたその湿気、うだるような暑さ。
妖精もバテてしまうほどの猛暑である。
そしてここにも、アツい夏を送っている者たちが。
「うー、暑い。この暑さは異変モノよ…」
それは、一人の妖精の一言から始まった。
「…異変? そうだ! この暑さを何とかできれば、それはそれで私たちも異変を起こしたことになると思わない?」
「それは…、まぁ急に涼しくなったら、誰だって異変だとは思うだろうけど」
「でしょ!? ほらほら、そうと分かればさっさと作戦準備にかかる!」
「んー、でも…。それって、私たちはどちらかと言うと英雄みたいな扱いになるんじゃない?」
「え、英雄!? 幻想郷の夏の英雄! 悪くないんじゃない?」
「で、でも…。正直この暑さじゃあ、何もやる気が起きないと言うか…」
「あーもー! そんな事言ってるから、いつまでたっても異変を起こせないんじゃない! 善は急げよ!」
…とまぁ、このような会話が飛び交うは、博麗神社の裏手。
大きな大木に住んでいる、光の三妖精だ。
彼女たちもまた、この暑さに耐え切れないようで、異変を起こすノリで暑さを何とかしようとしているらしい。
「ほーらっ! ルナも早く準備して!」
元気に先導するのはサニーミルク。
続いてかなりやる気の無いルナチャイルド。
最後に、何を考えているのかさっぱりなスターサファイア。
「それじゃ! この暑さの原因を探して、ぼっこぼこにしてくるわよー!」
三人揃って光の三妖精、今日も忙しい一日の始まりです。
元気よく大木を飛び出したサニーだが、さっそく行き詰ったらしい。
不機嫌そうなサニーに追い討ちをかけるように、ルナの愚痴が飛んでくる。
「大体、作戦も何も考えずに飛び出してきたのが悪いのよ…。大体どうやって、暑さの原因を探ろうとしてたのよ」
「うっ…。それはホラ、“ろーらーさくせん”ってヤツよ」
二人が言い争っている中、日陰でお茶を飲んでいたスターから、ふっと一言。
「単純に考えれば、暑いのは太陽のせいじゃない?」
「!」
サニーはルナを押しのけると、スターのいる日陰へと寄って来る。
スターは余裕の表情を浮かべながら、天高く君臨する太陽を指差す。
「…なるほど。確かに暑いのは太陽のせいだ」
「太陽が近づいてきたのかなぁ」
サニーとスターがこんな話をしていると、突き飛ばされたルナが戻ってきた。
さらに不機嫌そうになってしまったルナは、考える二人に向かって一言。
「この夏が暑いのは、絶対に湿度が問題なのよ」
「……」
「……」
意見が割れてしまった。
確実に太陽の所為だと踏んでいた二人は黙り込んでしまい、後から意見したルナも、何故か黙ってしまった。
因みに注釈すると、太陽と地球の位置は絶妙なバランスを保っており、この距離が少しでも近づいたり離れたりするだけで、この地球上の生態系が変わってしまう可能性もあるらしい。
…とはいったものの、こんなことを考える三人であるはずも無いわけで。
「…太陽へは行けないから、湿度のほうで探してみようか」
というサニーのまとめで話は進むこととなった。
…が、当然湿度上昇の原因など分かるはずも無く、三人は途方に暮れながら、幻想郷中を回っていた。
「…ねぇ、もう諦めない?」
ルナが静かに切り出す。
「うーん、さすがに疲れたわよねぇ」
スターもそれとなく言ってみる。
しかし、
「いーや。せめてこの暑さの原因だけでも突き止めたい!」
この人はやっぱり諦めが悪いようで、まだまだ頑張るつもりである。
しかし、万策尽きているのも事実。
最早、異変を起こすなど頭に残っていなかった。
「もう…、専門家に聞かない?」
「……」
サニーも、それ以外の方法が思いつかなかった。
これ以上あても無く彷徨っていても仕方ないので、夏といえばのアノ人に聞くことにした三妖精。
一面に広がるは、太陽の花。
幻想郷に広がる向日葵畑の主、風見幽香である。
「…それで、私のところに来たってわけね」
「ハ、ハ、ハイ!」
流石に相手がかの大妖怪ともあれば、三妖精もビビらないはずが無い。
こういう時の進行役は、全てサニーだ。
「いやぁ、いくら夏といっても、ここまで暑いのはちょっと…」
「ふぅん、なるほど…」
全てを見透かしたような幽香の言動に、もはや言葉の出ないルナ。
「ま、いいわ。この夏の暑さの原因かしら」
「え、ええ…」
「簡単に言うわ。原因なんて無い」
「……」
あっけない回答に、流石の三妖精も唖然としてしまう。
だが、そんな彼女たちを尻目に、幽香は話を続ける。
「まぁ、確かに今年は例年よりも暑かったし、雨も少なかったわね。だけど、所詮はその程度なのよ」
「はぁ…」
「今年はいつもよりちょっと暑かっただけ、ただそれだけの話。夏が暑いことに、理由や原因なんて必要かしら?」
…そう、理由なんて無い。
太陽が熱いように、月が丸いように、夏が暑いことに理由など要らないのだ。
確かに今年の夏は暑かったが、それを三妖精がオーバーに受け取って、異変だなんだと騒いでいただけ。
自然の摂理には、何の問題も無い。
ただそれだけの話である。
「まぁ、日が照ってたお陰で、向日葵の成長も悪くないし、あとはもう少し雨が降ればよかったかしら」
「で、でも! 雨が降らないのだって、おかしいと思いませんか?」
納得のいかないサニーは、思わず反論する。
だが、幽香は特に気にする様子も無く。
「それだって、単なる気候の話よ。いつもよりちょっとお天気が良かったからって、あんまりはしゃがないの。結局は、自然の摂理に適っているんですもの」
「ま、それだけのお話って事」
結局、納得のいく回答を得られぬまま、三妖精は帰ってきた。
…まぁ、あのまま幽香の周りをうろちょろしているのも危ないので、早々に撤退してきたわけだが。
「あーあ。結局はただの勘違いってことだったの?」
サニーはがっかりしながら言う。
「まぁでも、良かったんじゃないかしら? この暑さが大した事が無いってことが分かれば」
「大したこと無いって言われても、暑いものは暑いのよー」
ルナにそう言われても、暑さが収まるはずも無いのは当たり前だ。
くでっとしているサニーとルナの元へ、スターが何かを持ってくる。
「ほらほら、暑い日はこれでも飲んで涼みましょ」
手に持っているのは、一升瓶。
それを見て飛びつかないはずが無いのが、サニーだ。
「さっすがスター! よーし、こうなったら飲んで暑さを吹き飛ばすわよ!」
「あんだけ表をふらついていたのに、ゲンキンねぇ…」
とは言ったものの、当のルナもまんざらではなさそう。
(ま、結局はこうなるんじゃないかと思ってたケド)
一日を振り返りながら、ルナは思う。
結局、無駄な一日なんて無いのだ。
その一日に何をしようとも、必ず一日一日に意味がある。
それが、三妖精の一日。
(明日は、一体何があるのかしらね…)
ルナはそう思いながら、自身も駆け足で、小さな小さな宴会場へ向かうのだった。
光の三妖精の、とある一日のお話。
じめじめとしたその湿気、うだるような暑さ。
妖精もバテてしまうほどの猛暑である。
そしてここにも、アツい夏を送っている者たちが。
「うー、暑い。この暑さは異変モノよ…」
それは、一人の妖精の一言から始まった。
「…異変? そうだ! この暑さを何とかできれば、それはそれで私たちも異変を起こしたことになると思わない?」
「それは…、まぁ急に涼しくなったら、誰だって異変だとは思うだろうけど」
「でしょ!? ほらほら、そうと分かればさっさと作戦準備にかかる!」
「んー、でも…。それって、私たちはどちらかと言うと英雄みたいな扱いになるんじゃない?」
「え、英雄!? 幻想郷の夏の英雄! 悪くないんじゃない?」
「で、でも…。正直この暑さじゃあ、何もやる気が起きないと言うか…」
「あーもー! そんな事言ってるから、いつまでたっても異変を起こせないんじゃない! 善は急げよ!」
…とまぁ、このような会話が飛び交うは、博麗神社の裏手。
大きな大木に住んでいる、光の三妖精だ。
彼女たちもまた、この暑さに耐え切れないようで、異変を起こすノリで暑さを何とかしようとしているらしい。
「ほーらっ! ルナも早く準備して!」
元気に先導するのはサニーミルク。
続いてかなりやる気の無いルナチャイルド。
最後に、何を考えているのかさっぱりなスターサファイア。
「それじゃ! この暑さの原因を探して、ぼっこぼこにしてくるわよー!」
三人揃って光の三妖精、今日も忙しい一日の始まりです。
元気よく大木を飛び出したサニーだが、さっそく行き詰ったらしい。
不機嫌そうなサニーに追い討ちをかけるように、ルナの愚痴が飛んでくる。
「大体、作戦も何も考えずに飛び出してきたのが悪いのよ…。大体どうやって、暑さの原因を探ろうとしてたのよ」
「うっ…。それはホラ、“ろーらーさくせん”ってヤツよ」
二人が言い争っている中、日陰でお茶を飲んでいたスターから、ふっと一言。
「単純に考えれば、暑いのは太陽のせいじゃない?」
「!」
サニーはルナを押しのけると、スターのいる日陰へと寄って来る。
スターは余裕の表情を浮かべながら、天高く君臨する太陽を指差す。
「…なるほど。確かに暑いのは太陽のせいだ」
「太陽が近づいてきたのかなぁ」
サニーとスターがこんな話をしていると、突き飛ばされたルナが戻ってきた。
さらに不機嫌そうになってしまったルナは、考える二人に向かって一言。
「この夏が暑いのは、絶対に湿度が問題なのよ」
「……」
「……」
意見が割れてしまった。
確実に太陽の所為だと踏んでいた二人は黙り込んでしまい、後から意見したルナも、何故か黙ってしまった。
因みに注釈すると、太陽と地球の位置は絶妙なバランスを保っており、この距離が少しでも近づいたり離れたりするだけで、この地球上の生態系が変わってしまう可能性もあるらしい。
…とはいったものの、こんなことを考える三人であるはずも無いわけで。
「…太陽へは行けないから、湿度のほうで探してみようか」
というサニーのまとめで話は進むこととなった。
…が、当然湿度上昇の原因など分かるはずも無く、三人は途方に暮れながら、幻想郷中を回っていた。
「…ねぇ、もう諦めない?」
ルナが静かに切り出す。
「うーん、さすがに疲れたわよねぇ」
スターもそれとなく言ってみる。
しかし、
「いーや。せめてこの暑さの原因だけでも突き止めたい!」
この人はやっぱり諦めが悪いようで、まだまだ頑張るつもりである。
しかし、万策尽きているのも事実。
最早、異変を起こすなど頭に残っていなかった。
「もう…、専門家に聞かない?」
「……」
サニーも、それ以外の方法が思いつかなかった。
これ以上あても無く彷徨っていても仕方ないので、夏といえばのアノ人に聞くことにした三妖精。
一面に広がるは、太陽の花。
幻想郷に広がる向日葵畑の主、風見幽香である。
「…それで、私のところに来たってわけね」
「ハ、ハ、ハイ!」
流石に相手がかの大妖怪ともあれば、三妖精もビビらないはずが無い。
こういう時の進行役は、全てサニーだ。
「いやぁ、いくら夏といっても、ここまで暑いのはちょっと…」
「ふぅん、なるほど…」
全てを見透かしたような幽香の言動に、もはや言葉の出ないルナ。
「ま、いいわ。この夏の暑さの原因かしら」
「え、ええ…」
「簡単に言うわ。原因なんて無い」
「……」
あっけない回答に、流石の三妖精も唖然としてしまう。
だが、そんな彼女たちを尻目に、幽香は話を続ける。
「まぁ、確かに今年は例年よりも暑かったし、雨も少なかったわね。だけど、所詮はその程度なのよ」
「はぁ…」
「今年はいつもよりちょっと暑かっただけ、ただそれだけの話。夏が暑いことに、理由や原因なんて必要かしら?」
…そう、理由なんて無い。
太陽が熱いように、月が丸いように、夏が暑いことに理由など要らないのだ。
確かに今年の夏は暑かったが、それを三妖精がオーバーに受け取って、異変だなんだと騒いでいただけ。
自然の摂理には、何の問題も無い。
ただそれだけの話である。
「まぁ、日が照ってたお陰で、向日葵の成長も悪くないし、あとはもう少し雨が降ればよかったかしら」
「で、でも! 雨が降らないのだって、おかしいと思いませんか?」
納得のいかないサニーは、思わず反論する。
だが、幽香は特に気にする様子も無く。
「それだって、単なる気候の話よ。いつもよりちょっとお天気が良かったからって、あんまりはしゃがないの。結局は、自然の摂理に適っているんですもの」
「ま、それだけのお話って事」
結局、納得のいく回答を得られぬまま、三妖精は帰ってきた。
…まぁ、あのまま幽香の周りをうろちょろしているのも危ないので、早々に撤退してきたわけだが。
「あーあ。結局はただの勘違いってことだったの?」
サニーはがっかりしながら言う。
「まぁでも、良かったんじゃないかしら? この暑さが大した事が無いってことが分かれば」
「大したこと無いって言われても、暑いものは暑いのよー」
ルナにそう言われても、暑さが収まるはずも無いのは当たり前だ。
くでっとしているサニーとルナの元へ、スターが何かを持ってくる。
「ほらほら、暑い日はこれでも飲んで涼みましょ」
手に持っているのは、一升瓶。
それを見て飛びつかないはずが無いのが、サニーだ。
「さっすがスター! よーし、こうなったら飲んで暑さを吹き飛ばすわよ!」
「あんだけ表をふらついていたのに、ゲンキンねぇ…」
とは言ったものの、当のルナもまんざらではなさそう。
(ま、結局はこうなるんじゃないかと思ってたケド)
一日を振り返りながら、ルナは思う。
結局、無駄な一日なんて無いのだ。
その一日に何をしようとも、必ず一日一日に意味がある。
それが、三妖精の一日。
(明日は、一体何があるのかしらね…)
ルナはそう思いながら、自身も駆け足で、小さな小さな宴会場へ向かうのだった。
光の三妖精の、とある一日のお話。