最初は命を受けて仕方なくと言ったところだった。
『私は寅丸星と言います。よろしく』
仕事が終わればすぐにでも帰るつもりだった。
『ああナズーリン。宝塔を無くしてしまいました』
『見つかりましたか!ありがとうございます!』
でも長く側で仕えてる内に、
『ほらほらナズーリン。たんぽぽですよたんぽぽ!』
どこか世話を焼きたくなって。
『はい。私特製のマフラー!あったかいですよ』
どこか放っておけなくなって。
『大丈夫ですよ。ずっと私がいますから。だからゆっくりとお休み』
気付いたら。
『ほらナズ、笑って笑って』
『いやー、ナズーリンが褒められると私まで嬉しくなっちゃいますよ』
『ナズーリン、いつもありがとうございます』
自分から側にいたいと思うようになって。
深夜2時、命蓮寺。
この寺の主である聖白蓮と彼女を慕う妖怪たちは、十数人は収容できる大広間に縦に布団を並べ、仲良く寝息を立てていた。そんな中、障子を開けながら入ってきたその物影は、自分の隣にある布団の前に音もなくひざまずいた。
「ナズー。ナーズー」
寅丸星はそう言いながら、己の部下であるナズーリンの頬を何度も突っついた。
「うーん……なんだご主人か。まだ真っ暗じゃないか、どうしたんだいこんな時間に」
安眠妨害に対する苛立ちを隠しもせずに尋ねるナズーリンに、星はああ、とかうう、と呻きながら気まずそうに頭をかくのみだった。
「呻いたってわかんないよ。どうしたって聞いてるんだよ」
「いや、その、お手洗いから帰って来たら――怒らないで下さいね?」
「だからなんなのさ」
「……宝塔無くしちゃいました。テヘッ♪」
朝5時。
命蓮寺の朝は早い。この時間には妙蓮寺に住む全ての人妖が起き出し、各々の担当する雑務をこなしていた。
雲居一輪と雲山は洗濯を、村紗水蜜は朝食の用意を、他は寺の掃除に回っていた。ぬえは上空を飛び回っていた。
そして白蓮とナズーリンが担当である室内の掃除をしていると、外で箒を掃いていたはずの星が派手な足音を立てて二人の前にやってきた。
「あっあのナズーリンちょっとお願いがゼーハーゼーハー」
「こら星、大きな音を立ててはいけませんよ。ほら、息もちゃんと整えて」
「ああ白蓮様申し訳ありませんスーハースーハー」
「息のテンポが変わってないよ」
そう冷やかに返した後、「それで?」とナズーリンが冷静な口調で尋ねる。
「また宝塔を無くしたんですか?」
「い、いえ。今回は宝塔は大丈夫です。そのかわりにその……」
「……なんだい?」
「柱に立てかけといた槍がどこか行っちゃいました。テヘッ♪」
午後2時。
昼ご飯を食べ終わったナズーリンは白蓮たちと一旦別れ、一人人里での散策を楽しんでいた。耳や尻尾を隠そうと思ったが、ナズーリンは里の人間には「人妖分け隔てなく受け入れる」命蓮寺で修業を積んでいる妖怪の一人として認知されており、耳と尻尾丸出しで出歩いても特に騒ぐ者はいなかった。
「ここら辺は聖に感謝かな」
そう思いながらあてもなく歩いていると、寺で白蓮を助けているはずの星が腰を低くして人目を憚るようにこそこそした歩き方でナズーリンに近付いてきた。
「えーっと、ナズ?」
「……なんでしょうか?」
こめかみをひくつかせながらさせながら星の方に向き直るナズーリン。
「うーんと、そのですね」
「……」
「宝塔を」
「『無くしました。テヘッ♪』って言ったんだよ!何食わぬ顔で!」
「そいつは、災難だったな……うん」
午後3時。ナズーリンは宝探し仲間である魔理沙の家に厄介になっていた。そして紅茶を一気飲みしながら星に対する今までの愚痴を魔理沙にぶつけていた。一方の魔理沙は苦笑いを浮かべながら目の前の鼠に同情していた。
「大体ご主人はいつもそうなんだ。いくらこっちが注意しても次の日には何事もなかったかのように物を忘れてくるんだあのうっかり屋は。あり得ないよ。あり得ない毘沙門天代理だよ」
「お前も大変なんだな」
「大変なんてもんじゃないよ。物無くすだけならともかく、カレーはこぼすし掃除中に立ち寝するし、どうでもいいもの私に見せては『ね?ね?すごいでしょ?』とか自慢してくるし――」
「本当大変だな……ていうかさ」
魔理沙が自分のカップに紅茶を注ぎながらナズーリンに問いかける。
「お前イヤになったりしないのか?そんなダメな主に従ってて」
「まあ、時折本気で辞めてやりたいと思うこともあるけどね。言いたいことだって山ほどあるよ。でも」
「でもなんだよ」
いぶかしむ魔理沙に対して、紅茶を飲みほしてからナズーリンが笑いながら答える。
「いい人なんだよ。ご主人は」
「……お前からそんな言葉を聞くとはな」
「おかしいかい?私は本音を言っただけなんだが」
「いや、まあ、びっくりしたのは確かなんだが、お前がそう言うんならそうなんだろうな。うん」
「信じてないな?」
ジト目で睨みつけるナズーリンを両手で制しながら、魔理沙が答える。
「信じてる信じてる。あのトラだってやればできるってことだろ?」
「まったく、どこまで本心なんだか」
そう言って苦笑しながら立ち上がるナズーリン。
「もう帰るのか?」
「ああ。今頃私の愛するご主人が泣いているだろうからね」
「そうか。じゃあトラによろしくな」
「いや」
ナズーリンが魔理沙のほうを向き、たしなめるように言った。。
「トラじゃない。寅丸星だ」
同時刻。
命蓮寺にある広間の隅っこで、星は膝を抱え真っ暗なオーラを出しながらその場にうずくまっていた。
「どうしたの星。あなたらしくもない」
「ああ、聖ですか」
朗らかな笑みを浮かべながら隣に座ってくる聖に対し、星は陰鬱な表情を隠しもしなかった。
「あらまあ随分酷い顔ね。何か悩みでもあるの?」
「いえ、聖にお話しする程のものでは」
「困ってるんでしょ?」
「いえ、ですから」
「困ってるんでしょ?」
「うう……」
全てを慈しみ受け入れる仏の笑み。星はあっけなく陥落した。
「実は、ナズーリンのことで少し」
「ナズーリンがどうかしたの?」
「ほら、私ってその、うっかりな所があるじゃないですか。今日も今日で色々無くしちゃったし。聖も見たでしょう?」
「ええ」
「それで私、ナズーリンに愛想尽かされちゃってるんじゃないかなって思うんです。いや多分絶対呆れられてます。ご主人失格ですよね」
「星」
目に涙をためながらぽつぽつと呟く星。それを聞いた聖は、星の肩にそっと自分の手を置き、幼子を諭すような柔らかい口調で話しかけた。
「大丈夫よ。ナズーリンはあなたのいい所もちゃんと知ってるから」
「そうでしょうか?」
「そうよ。例えばそうね、風邪を引いたナズーリンに付きっきりで看病してあげたり、三人で買い出しに行った帰りに疲れて眠っちゃったナズーリンをおぶってあげたり。あ、あと冬にナズーリンに手編みのマフラーをプレゼントしてあげたり。他には」
「ちょ、ちょっと聖。看病とか買い出しとかはともかく、なぜ聖がマフラーのことを知ってるのです?」
「なぜって、あなた私たちの前で堂々と渡してたじゃない。『これは私の編んだ特製マフラーです』って。あの時のナズーリン、顔真っ赤だったわよ」
「あー……そう言えばそうだったような」
うっかり忘れてました、と申し訳なさそうに頬をかく星。
「だからそんなに神経質にならないの。それこそナズーリンに呆れられちゃうわよ」
「そう、ですよね。うん。そうですよね」
顔に自信を漲らせた星が勢いよく立ちあがる。
「私は私らしく。いつも通りに行くのが一番ですよね!」
「その意気よ星!でもいつも通りって言っても無くし癖は改めないとね」
「うっ……」
午後4時。
ナズーリンが命蓮寺の前まで来ると、バタバタと足音を立てながら星が近づき、そして地を蹴って思い切り抱きついて来た。
「おおナズ!おかえりなさい!」
「まったくいつも通りだなご主人は。あと首が痛いです」
「……嫌なんですか?」
「いや、私もこっちの方がご主人らしくて好きだけど。でも首は痛いです」
ナズーリンの不満を受けたからか、星がゆっくりと離れる。そして距離が離れてから半泣き状態の星を見て、ナズーリンは思わずたじろいだ。
「どうしたんだいご主人」
「ナズーリン。私はまだまだ未熟者です」
「は?」
「毘沙門天の代理としても、あなたの上司としても、まるでなっていません。私はそれを改めて痛感しました」
「何を言ってるんだ。それは確かにしょっちゅうドジは踏むけど、ご主人わたしにとっては最高のご主人なんだから」
真剣に答えるナズーリンだがそれにたいして星は無言で首を横に振った。
「いいえ、私はもっと立派になります。立派にならなければいけないのです。毘沙門天の為に。そして何よりあなたの為に」
「……やれやれ、変な所で真面目なんだからご主人は。」
「なず?」
「ほら鼻水拭いて。……言っておくけど、私はあなたが未熟だろうとそうでなかろうと、どこまでも付いてくからね」
「なずぅ……」
「ああもういい年して泣かない。毘沙門天の代理なんだろう?」
いつもの冷めた口調で言いながら、自分のハンカチで星の目鼻を拭うナズーリン。その声は所々掠れ、震えていた。
そして一段落着いてから、星は決意を秘めた面持ちでゆっくりと立ちあがり、寺とは違う方向へ歩き始めた。
「どうしたんだいご主人?」
「いえ、今から滝の方へ」
「今から?」
「己の精神を鍛えるためです。こういうのは、自分から変えてゆかねばなりません。幸い夕飯までには時間がありますので」
「なんだって今から」
「一日でも早く立派な主人になるためです。善は急げ、思い立ったが吉日というじゃないですか!」
「……まああなたらしいというかなんというか」
ナズーリンはため息交じりにそう言いながら星の元へと駆け寄り、ぴったり隣についた。
「ナズーリン?」
「言ったはずだよ。どこまでもついて行くって」
「……ありがと」
「お互い様だよ」
北風が穏やかに吹きぬける中、二人はゆっくりと背を並べて歩き始めた。
午後5時半
「そろそろ上がらないかご主人」
「そうですね、では――ああっ!」
「ど、どうした!?」
「下着が!下着がない!滝打たれ用の服に着替える時にここに置いといた筈なのに!」
「……殴っていいかな?」
『私は寅丸星と言います。よろしく』
仕事が終わればすぐにでも帰るつもりだった。
『ああナズーリン。宝塔を無くしてしまいました』
『見つかりましたか!ありがとうございます!』
でも長く側で仕えてる内に、
『ほらほらナズーリン。たんぽぽですよたんぽぽ!』
どこか世話を焼きたくなって。
『はい。私特製のマフラー!あったかいですよ』
どこか放っておけなくなって。
『大丈夫ですよ。ずっと私がいますから。だからゆっくりとお休み』
気付いたら。
『ほらナズ、笑って笑って』
『いやー、ナズーリンが褒められると私まで嬉しくなっちゃいますよ』
『ナズーリン、いつもありがとうございます』
自分から側にいたいと思うようになって。
深夜2時、命蓮寺。
この寺の主である聖白蓮と彼女を慕う妖怪たちは、十数人は収容できる大広間に縦に布団を並べ、仲良く寝息を立てていた。そんな中、障子を開けながら入ってきたその物影は、自分の隣にある布団の前に音もなくひざまずいた。
「ナズー。ナーズー」
寅丸星はそう言いながら、己の部下であるナズーリンの頬を何度も突っついた。
「うーん……なんだご主人か。まだ真っ暗じゃないか、どうしたんだいこんな時間に」
安眠妨害に対する苛立ちを隠しもせずに尋ねるナズーリンに、星はああ、とかうう、と呻きながら気まずそうに頭をかくのみだった。
「呻いたってわかんないよ。どうしたって聞いてるんだよ」
「いや、その、お手洗いから帰って来たら――怒らないで下さいね?」
「だからなんなのさ」
「……宝塔無くしちゃいました。テヘッ♪」
朝5時。
命蓮寺の朝は早い。この時間には妙蓮寺に住む全ての人妖が起き出し、各々の担当する雑務をこなしていた。
雲居一輪と雲山は洗濯を、村紗水蜜は朝食の用意を、他は寺の掃除に回っていた。ぬえは上空を飛び回っていた。
そして白蓮とナズーリンが担当である室内の掃除をしていると、外で箒を掃いていたはずの星が派手な足音を立てて二人の前にやってきた。
「あっあのナズーリンちょっとお願いがゼーハーゼーハー」
「こら星、大きな音を立ててはいけませんよ。ほら、息もちゃんと整えて」
「ああ白蓮様申し訳ありませんスーハースーハー」
「息のテンポが変わってないよ」
そう冷やかに返した後、「それで?」とナズーリンが冷静な口調で尋ねる。
「また宝塔を無くしたんですか?」
「い、いえ。今回は宝塔は大丈夫です。そのかわりにその……」
「……なんだい?」
「柱に立てかけといた槍がどこか行っちゃいました。テヘッ♪」
午後2時。
昼ご飯を食べ終わったナズーリンは白蓮たちと一旦別れ、一人人里での散策を楽しんでいた。耳や尻尾を隠そうと思ったが、ナズーリンは里の人間には「人妖分け隔てなく受け入れる」命蓮寺で修業を積んでいる妖怪の一人として認知されており、耳と尻尾丸出しで出歩いても特に騒ぐ者はいなかった。
「ここら辺は聖に感謝かな」
そう思いながらあてもなく歩いていると、寺で白蓮を助けているはずの星が腰を低くして人目を憚るようにこそこそした歩き方でナズーリンに近付いてきた。
「えーっと、ナズ?」
「……なんでしょうか?」
こめかみをひくつかせながらさせながら星の方に向き直るナズーリン。
「うーんと、そのですね」
「……」
「宝塔を」
「『無くしました。テヘッ♪』って言ったんだよ!何食わぬ顔で!」
「そいつは、災難だったな……うん」
午後3時。ナズーリンは宝探し仲間である魔理沙の家に厄介になっていた。そして紅茶を一気飲みしながら星に対する今までの愚痴を魔理沙にぶつけていた。一方の魔理沙は苦笑いを浮かべながら目の前の鼠に同情していた。
「大体ご主人はいつもそうなんだ。いくらこっちが注意しても次の日には何事もなかったかのように物を忘れてくるんだあのうっかり屋は。あり得ないよ。あり得ない毘沙門天代理だよ」
「お前も大変なんだな」
「大変なんてもんじゃないよ。物無くすだけならともかく、カレーはこぼすし掃除中に立ち寝するし、どうでもいいもの私に見せては『ね?ね?すごいでしょ?』とか自慢してくるし――」
「本当大変だな……ていうかさ」
魔理沙が自分のカップに紅茶を注ぎながらナズーリンに問いかける。
「お前イヤになったりしないのか?そんなダメな主に従ってて」
「まあ、時折本気で辞めてやりたいと思うこともあるけどね。言いたいことだって山ほどあるよ。でも」
「でもなんだよ」
いぶかしむ魔理沙に対して、紅茶を飲みほしてからナズーリンが笑いながら答える。
「いい人なんだよ。ご主人は」
「……お前からそんな言葉を聞くとはな」
「おかしいかい?私は本音を言っただけなんだが」
「いや、まあ、びっくりしたのは確かなんだが、お前がそう言うんならそうなんだろうな。うん」
「信じてないな?」
ジト目で睨みつけるナズーリンを両手で制しながら、魔理沙が答える。
「信じてる信じてる。あのトラだってやればできるってことだろ?」
「まったく、どこまで本心なんだか」
そう言って苦笑しながら立ち上がるナズーリン。
「もう帰るのか?」
「ああ。今頃私の愛するご主人が泣いているだろうからね」
「そうか。じゃあトラによろしくな」
「いや」
ナズーリンが魔理沙のほうを向き、たしなめるように言った。。
「トラじゃない。寅丸星だ」
同時刻。
命蓮寺にある広間の隅っこで、星は膝を抱え真っ暗なオーラを出しながらその場にうずくまっていた。
「どうしたの星。あなたらしくもない」
「ああ、聖ですか」
朗らかな笑みを浮かべながら隣に座ってくる聖に対し、星は陰鬱な表情を隠しもしなかった。
「あらまあ随分酷い顔ね。何か悩みでもあるの?」
「いえ、聖にお話しする程のものでは」
「困ってるんでしょ?」
「いえ、ですから」
「困ってるんでしょ?」
「うう……」
全てを慈しみ受け入れる仏の笑み。星はあっけなく陥落した。
「実は、ナズーリンのことで少し」
「ナズーリンがどうかしたの?」
「ほら、私ってその、うっかりな所があるじゃないですか。今日も今日で色々無くしちゃったし。聖も見たでしょう?」
「ええ」
「それで私、ナズーリンに愛想尽かされちゃってるんじゃないかなって思うんです。いや多分絶対呆れられてます。ご主人失格ですよね」
「星」
目に涙をためながらぽつぽつと呟く星。それを聞いた聖は、星の肩にそっと自分の手を置き、幼子を諭すような柔らかい口調で話しかけた。
「大丈夫よ。ナズーリンはあなたのいい所もちゃんと知ってるから」
「そうでしょうか?」
「そうよ。例えばそうね、風邪を引いたナズーリンに付きっきりで看病してあげたり、三人で買い出しに行った帰りに疲れて眠っちゃったナズーリンをおぶってあげたり。あ、あと冬にナズーリンに手編みのマフラーをプレゼントしてあげたり。他には」
「ちょ、ちょっと聖。看病とか買い出しとかはともかく、なぜ聖がマフラーのことを知ってるのです?」
「なぜって、あなた私たちの前で堂々と渡してたじゃない。『これは私の編んだ特製マフラーです』って。あの時のナズーリン、顔真っ赤だったわよ」
「あー……そう言えばそうだったような」
うっかり忘れてました、と申し訳なさそうに頬をかく星。
「だからそんなに神経質にならないの。それこそナズーリンに呆れられちゃうわよ」
「そう、ですよね。うん。そうですよね」
顔に自信を漲らせた星が勢いよく立ちあがる。
「私は私らしく。いつも通りに行くのが一番ですよね!」
「その意気よ星!でもいつも通りって言っても無くし癖は改めないとね」
「うっ……」
午後4時。
ナズーリンが命蓮寺の前まで来ると、バタバタと足音を立てながら星が近づき、そして地を蹴って思い切り抱きついて来た。
「おおナズ!おかえりなさい!」
「まったくいつも通りだなご主人は。あと首が痛いです」
「……嫌なんですか?」
「いや、私もこっちの方がご主人らしくて好きだけど。でも首は痛いです」
ナズーリンの不満を受けたからか、星がゆっくりと離れる。そして距離が離れてから半泣き状態の星を見て、ナズーリンは思わずたじろいだ。
「どうしたんだいご主人」
「ナズーリン。私はまだまだ未熟者です」
「は?」
「毘沙門天の代理としても、あなたの上司としても、まるでなっていません。私はそれを改めて痛感しました」
「何を言ってるんだ。それは確かにしょっちゅうドジは踏むけど、ご主人わたしにとっては最高のご主人なんだから」
真剣に答えるナズーリンだがそれにたいして星は無言で首を横に振った。
「いいえ、私はもっと立派になります。立派にならなければいけないのです。毘沙門天の為に。そして何よりあなたの為に」
「……やれやれ、変な所で真面目なんだからご主人は。」
「なず?」
「ほら鼻水拭いて。……言っておくけど、私はあなたが未熟だろうとそうでなかろうと、どこまでも付いてくからね」
「なずぅ……」
「ああもういい年して泣かない。毘沙門天の代理なんだろう?」
いつもの冷めた口調で言いながら、自分のハンカチで星の目鼻を拭うナズーリン。その声は所々掠れ、震えていた。
そして一段落着いてから、星は決意を秘めた面持ちでゆっくりと立ちあがり、寺とは違う方向へ歩き始めた。
「どうしたんだいご主人?」
「いえ、今から滝の方へ」
「今から?」
「己の精神を鍛えるためです。こういうのは、自分から変えてゆかねばなりません。幸い夕飯までには時間がありますので」
「なんだって今から」
「一日でも早く立派な主人になるためです。善は急げ、思い立ったが吉日というじゃないですか!」
「……まああなたらしいというかなんというか」
ナズーリンはため息交じりにそう言いながら星の元へと駆け寄り、ぴったり隣についた。
「ナズーリン?」
「言ったはずだよ。どこまでもついて行くって」
「……ありがと」
「お互い様だよ」
北風が穏やかに吹きぬける中、二人はゆっくりと背を並べて歩き始めた。
午後5時半
「そろそろ上がらないかご主人」
「そうですね、では――ああっ!」
「ど、どうした!?」
「下着が!下着がない!滝打たれ用の服に着替える時にここに置いといた筈なのに!」
「……殴っていいかな?」
そしてこれもまたいいナズ星でした!!!
気の短い私ならばそう口ずさみながら星を石抱きの刑に処するのですが
ナズは大人だなぁ。やはり惚れてしまえばあばたもえくぼなんでしょうか。
ま、星も反省しているみたいだし、自分を変えようと頑張る所は微笑ましいですよね。
と思ったらまたやらかしやがった!
さあ、大人だけどつるぺったんなナズーリンさん、私と一緒に折檻折檻♪
ちょっと滝見にいってくる
それはそうと≫「ナズー。ナーズー」ってとこかわいすぎなんだけどどうしよう