xxxx年。
king of shooters を開催する。
なお、今回は特別ルールとして
3人1組のチーム対戦形式にて取り行なう。
以上・・・・・。【R】
・プロローグ
博霊神社の縁側にて。
季節は夏まっさかり。焼け付くような日差しから逃げるように、日影となる箇所でだらしなく横になってごろごろしている巫女と、巫女を眺めている隙間妖怪の姿があった。
「また面倒そうな手紙が来たものね、あんたと同じぐらいに」
「あら酷い言われようね」
神社に届いた【R】を名乗る謎の人物からの手紙。それを目の前でひらひらさせている隙間妖怪に霊夢は文句を垂れた。
「あんた、疑われてるわよ。八雲紫の悪戯じゃないかって。幻想郷中に届いたらしいわ、この手紙」
「記憶にございませんわ」
紫は心底愉快そうに笑うだけだった。
「――ま、あんたがそういうのなら違うんでしょうけど」
「あら、あっさりと信じるのね霊夢」
「あんたならもっと趣味の悪い届け方をするに決まってるからよ」
霊夢の答えに紫は今度は満足そうに微笑んだ。
「それで、霊夢はどうするつもり?この『異変』を」
「どうもこうもないわ、決まってるじゃない」
よっ、と霊夢は体を起こし、紫を見据え宣言した。
「解決してやるまでよ。ちゃちゃっと、ちゃちゃっとね。紫、あんたも手伝いなさいよ。相手はなんだか知らないけど3人一組がお望みらしいから」
「私を誘ってくれるの霊夢?」
「こういう時にあんた以外に誰がいるってのよ」
当然、といった態度の霊夢。
「ふふっ」
「何よ、気持ち悪いわね……ってうわっ」
紫は霊夢を抱きしめ、そして歓喜に満ちた表情で言った。
「やぁっぱり霊夢って、私のこと信用してくれているのね」
「なっ」
真っ赤になって霊夢は慌てて否定しようとするのだが。
「忘れたのかしら霊夢?あの地底での出来事を。心までは欺けないってあのさとり妖怪が教えてくれたじゃないの……」
「う、うぅ」
たじたじになって、霊夢は何も言い返せない。
「あの時ね……私、凄く嬉しかったのよ、霊夢」
紫の手が、霊夢の頬に添えられる。
「ゆ、ゆかり……あっ」
怪しく唇をなぞる紫の指に、霊夢は言葉を遮られる。
昼下がりの神社、二人を止めるものは――――――。
「そこまでよ!」
いた。
桃色空間に割り込んできたのは紫もやし……ではなく萃香だった。
昨晩も飲んだくれて神社の中で爆睡していたのだが、ピンク色の気配を察知して飛び起きたのであった。
「いくら紫でも抜け駆けは許さないよ!」
「あら、いたの萃香」
際どい場面を見咎められても紫は飄々とした態度を崩さず、霊夢を抱きしめたまま。紫の腕の中の霊夢は身動きを取る事が出来ずただ顔を赤くして気まずそうな表情をしていた。
「抜け駆けを許さないのなら萃香、3人で仲良くしましょうよ。はいこれ」
紫は例の手紙を萃香に渡した。
「え、何々……出る!私も出る!」
読み終わるや否や、萃香は抱き合ったままの二人に飛びつき、思いっきり二人ごと抱きしめた。
「ちょ、苦しい、苦しいって」
「霊夢、紫、がんばろーねっ、まぁ私がいれば楽勝だからっ」
「あっさりと決まったわねぇ」
同時刻、魔法の森にて。
「おっ」
「あっ」
魔法の森にて、魔理沙とアリスはばったりと出くわした。
魔理沙の家からアリスの家までの距離を線で結べば、丁度中間となる地点で。
「なんだ、わざわざここまで来て損したぜ」
「そうね、私も損したわ」
「それで、あと一人はどうする?」
「魔理沙に任せるわ」
二人とも「あと一人」の事しか頭になかった。あの手紙には3人一組と書かれていたにも関わらず。
それもそのはず。この手紙を見た瞬間、魔理沙、アリス、両者が思い至った事は。
「私とアリスとあと一人は誰がいいだろう」
「私と魔理沙とあと一人誰がいいだろう」
同時刻、白玉楼にて。
「幽々子様、この手紙なんですが……」
険しい顔をしてやって来た妖夢を見て幽々子は笑う。
「あらあら、お祭りへの招待状かしら?」
「どうします、これ?」
「どうしますも何も楽しそうなことがあれば迷わず参加が私たちの流儀でしょ?ふふっ」
「しかし、私と幽々子様だけでは……そ、そうだ、私が分身し続ければ!」
何枚も何枚も何枚も延々とスペルカードを取り出す妖夢を幽々子は落ち着かせる。
「そんな明後日の方向に向けて頑張る必要は無いわ、心配無用よ妖夢。ふふふふふ…………」
このように謎の手紙に促され、幻想郷の面々は動き出していた。
スペルカードルールも随分と浸透し、新勢力の台頭や旧勢力との交流回復なども多々あった近年の幻想郷。
八雲紫の悪戯ではないかと疑うものも一部にいたが、殆どの妖怪たちは「楽しそう」「騒げそう」「いンだよ細けぇ事は……」とこのお祭り騒ぎに乗る事を選んだ。
謎の手紙は幻想郷に百鬼夜行を引き起こし、皆好き勝手に声を掛け合い3人一組の条件を満たしていった。
――――――だが、この3人一組が悲劇を生むことは歴史に証明されており、ここ幻想郷でも例外ではなく……。
『まっていかないで私を一人にしないでよ』
同時刻、紅魔館にて。
「一体誰が考えたのかしらね、こんなこと」
どこから送られたのかもわからない、【R】と名乗る者からの手紙を眺めながら私――パチュリー・ノーレッジは呟いた。いつものように読書に勤しもうとしたら、何時の間にか机の上に置かれていた手紙。図書館には誰かに侵入された形跡も無いし、小悪魔に尋ねても知らないと言う。
「また新しく幻想郷にやって来た誰かさんの仕業と言うわけ?」
それにしてはスケールの大きい話な事で。幻想郷中を巻き込もうかと言う勢いだ、この手紙の主は。この私も例外ではないのだろう、きっと。
「また体を動かすことになりそうね……まったく」
自他共に認める引き篭もりで動かない大図書館なる二つ名まで持つ私であるが、ここ最近は少し活動的になり外に出ることも増えた。ちょっと前には天人をしばき倒すためにわざわざ天界にまで出向いた程だ。外で喧嘩を吹っかけられたならば持病の喘息もなんのその、「仮病」と言われる程に激しく動き回り相手を圧倒するのだ、むっきゅっきゅ。
「小悪魔」
私は本の整理をしていた小悪魔を呼びつけた。
「は~い、なんですかパチュリー様」
作業を一時中断して小悪魔がこちらに駆け寄ってくる。
「この手紙、レミィ達にも届いてる?」
「はい、おかげで紅魔館中が大騒ぎです。それどころか、何処もかしこもこの話題で持ちきりだそうで♪」
小悪魔はにやけ面を隠そうともしない。この混乱を楽しんでいるようだ。
ま、確かに面白そうな話ではあると思うけれど。
「そう」
と、言う事はレミィがここにやって来るのも時間の問題のようね。こんな話、レミィが放っておくわけがない。
それなら今の間に少し体を慣らしておくとしよう。レミィの事だ、異変に備えて予行練習だ!とか言って戦いを挑んでくるだろうし。
私は分かりやすい友人の行動に備え、マチョリー体操三セットに取り組む事にした。
「あの~、いつも思うんですけどパチュリー様、魔法使いなのにやる事が地味と言うか何と言うか」
「弾幕界を生き抜くためには頭脳と知識だけじゃやっていけないの」
あの激しい動きの裏にはこういう小さな心がけの積み重ねがあるのよ、小悪魔。
「……おかしいわね」
いつもよりはりきってしまい、ワンセット多目にマチョリー体操を終えたがレミィが図書館にやってくる気配が無い。
「小悪魔、ちょっと様子を見てきて」
「了解です」
私は小悪魔をレミィの元へ向かわせることにした。……なんだか私がレミィが声をかけてくることを、【R】を名乗る者による手紙が引き起こした騒乱、いわば「お祭り」に参加することを楽しみに待っているかのように思われると癪だけど、気になる。
座って本を読んで待とうとしたが、気になって気になって図書館の出入り口をチラチラと見ている間に10分ぐらい経過しただろうか。
「パチュリー様~!」
小悪魔が、愉快で楽しくてたまらないと言った表情で帰ってきた。……嫌な予感が。
「どうしたの?」
「それがですねー」
小悪魔は事情を説明し始めた。
「えっ?レミィが妹様と出る!?」
私は驚きのあまり椅子から立ち上がった。その勢いのまま小悪魔に詰め寄る。
私と咲夜とレミィで4ボス・5ボス・6ボスと続く方が見てくれがいいだろ常識的に考えて、などと思ったわけではないが、それにしても衝撃的な話だ。まさか、レミィが妹様を外に出すような事に応じるなんて。
「それは妹様が言い出した話なの?」
「い、いえ、お嬢様から持ちかけたみたいです」
なんと。あの495年監禁の前科持ちのレミィから出た話とは。どういう風の吹き回しだ。
「最近は妹様も大人しいし、私と咲夜が居れば大事にはならないとレミリア様が」
こらこら、誰かさんが妹様放置で神社に遊びに出かけている間、必死に紅魔館で妹様を抑えていた存在を忘れているんじゃないのか。そう言う事ならどう考えても私が適任じゃないの。それなのに戦力外通告。話し合いの席を要求する。
「それと、これは妹様を外の世界に触れさせる良い機会だ、って言ってました」
「む」
「あと、こういう時ぐらいしか姉らしく接してやれないとも仰ってました」
「むむむ」
――――――そう言う事か。
そんな不良少年が雨の中捨てられた子犬に傘と餌をあげるような路線で来られたら、席を譲るしかないじゃないの……。ここでゴネたら、私が鬼畜扱いだ。
「はぁ。仕方ないわね」
「あれれ、いいんですかパチュリー様?ずいぶんと期待してたみたいでしたけど……♪」
小悪魔はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。気合入れて準備体操してた私を笑っているのだろうけど、こいつのこう言った態度に一々反応してたらキリが無い。まぁ、後でしばくけれど。
「いいも何もレミィが決めた事でしょう」
レミィと妹様の間に、長年のしがらみを解消させるような動きがあるのなら私が割って入る話ではない。
妹様を押さえつけるのではなく、姉妹の仲を取り持つ役目なら咲夜が最適だろう。咲夜なら妹様もレミィも上手く扱えるでしょうし。それに悔しいけれど吸血鬼の姉妹とメイド……絵になりすぎね、これは。どこかの天狗が大喜びで取材にやってきそうだ。
「そ・れ・で、パチュリー様、準備万端で持て余した体と心はどうする算段で?で?」
しつこいわねこいつは。脳天に六法全書でも叩きこんでやろうか。
「ふん、レミィと咲夜と妹様。幻想郷内でこのピースが組み合わされたと言う事は今後どうなるか決まったようなものじゃない」
私はパチュリー・ノーレッジ。種族、魔法使い。
3人1組のルール。
つまり、そう言う事よ。
「……おかしいわね」
私は苛立っていた。図書館の出入り口を睨み付けながら、苛立っていた。
「何がおかしいんですか?ぱっちゅりー様?」
……私の周りをうろうろしながら煽ってくるこいつにも相当苛立っているのだが、それ以上に私を苛立たせるものがあった。
普段は私の頭痛のタネである図書館常連のあいつ――魔理沙。そしてもう一人の図書館常連であるアリスが来ない。
私の予測ではこうだ。
まず、魔理沙がアリスを選び、アリスが魔理沙を選ぶ。これは間違いない。あの二人の腐れ縁と言う強靭な運命の糸がそう言った結果を紡ぐ事は確信している。以前レミィが二人の運命を見て腰を抜かしていたほどなのだ。
あと、家近いし。うん。
……そして残り一人はどうするか、と言う話になる。
魔理沙とアリスは即座にこのパチュリー・ノーレッジの存在を思い出すはずだ。魔女が三名。ここで集まらずにいつ集まると言うのだ。同じ道を歩む者同士、これ以上のメンバーはあるまい。
あるまい……と思うのだけど。
「ねぇ……小悪魔」
「ん?何でしょうか」
「ちょっと……魔法の森まで様子を見てきてくれるかしら」
苛立ちを通り越して私は不安に駆られ出した。
まさか、まさかとは思うけれど。
既に二人が、誰かを選んでいたとしたら……?
「魔法の森?あそこに何か用があるんですかぁ?」
私がどういう意図で言ったかなど十分過ぎるほどに理解しているクセに、小悪魔はニヤニヤ笑っている。
「いいから行って来て」
だが今の私は怒りよりも不安や焦りの方が上回っていた。
「はいはい分かりましたよっと」
小悪魔はそう言って魔法の森へ向かうべく図書館から出て行った。
「……」
静かになった図書館には私一人。
静寂が五月蝿い。体の震えを止められない。
魔理沙。貴方はいつもいつも喘息が悪化するどころか胃潰瘍まで発病するんじゃないかと言うぐらい今まで好き勝手に私の周囲で暴れまわって来たけれど、時には二人で雨降る紅魔館の中夜通しで語り合った事もあるじゃない。あの穏やかな時間、私も時を止める術を知っていたならばと何度思った事か。
魔法書を盗んで、マジックアイテムを盗んで、そして私の心まで密かに盗んで。
まさか――――私の出番まで盗んでしまう様な真似はしないわよね?ね?
アリス。貴方を未熟者と罵った事もあるけれどそれは貴方を思えばこその言葉。本当は魔理沙以上に危なっかしい貴方の魔法の扱い方を見て、優しく手を差し伸べることも出来たのだけれど、あえてわが子を千尋の谷に突き落とす獅子の親の気持ちで厳しく突き放したのよ。
貴方にもらった人形……丑の刻参りセット……初めは喧嘩を売っているのかと思いファイティングポーズを取り臨戦態勢に入ったけれど、貴方の薄桜に染まった頬を見て、それは貴方の捻くれた愛情の現われだと知り胸が熱くなると同時に背筋が凍る思いだったわ。
三人で図書館に集まれば時には激しく意見を交わしあい、時には和やかに笑いあってお茶会を開き、そうやって美しき三角形を保ったまま今まですごしてきた。
マリアリ、アリマリ、マリパチェ、パチェマリ、アリパチェ、パチェアリ。そしてマリアリパチェ。
私達三人揃えば無限の可能性。数々の歴史を築いてきた私たちなら出来ない事はないはず。だから、魔理沙、アリス。
「パチュリー様、大ニュースです!魔理沙さんとアリスさんが人里に新しく出来た命蓮寺の聖白蓮の元へ向かうのをこの目でしっかりと確認してきまし」
――私は小悪魔にマウントタックルを仕掛ける事を止める術を知らなかった。
「嘘だっ!適当な事を言うんじゃないこのっ、このっ」
「ちょ、痛い、痛いですって、マウントはここじゃなくて別の場所でお願いし……むぎゅっ」
ポカポカと私は馬乗りになって小悪魔を殴り続けた。
信じられない、いや信じたくない。
実は、二人はもしかしたら霊夢と組むのではないかとは考えた。霊夢、魔理沙、アリス。実はこの3人は幼馴染と言う大変美味しい関係を持っていると言う噂があるのだ。以前、珍しく宴会にやって来た花の妖怪、幽香に気まぐれに話しかけられ、そんな話を聞いた。
だからもしかするとその縁で組む可能性もあるんじゃないかと考えたし、それなら幼馴染の力、レイマリアリと言うこれまた歴史の有る三角形には勝てないかも、と諦めもついた……しかし。
「第四の魔法使いですって……!?そんな、そんなイレギュラーはこのパチュリー・ノーレッジが認めない!」
ぽっとでの魔法使いに二人を寝取られるとか……そんな馬鹿な事があってたまるものか。私から二人を奪おうなど百年早いわ。
――――ん?ちょっと待て。
「小悪魔、貴方私をおちょくるために適当な事を言ってるんじゃないでしょうね?」
「え、そ、そんな事あるわけないじゃないですか」
きょどる小悪魔。怪しい。
よくよく考えたらこいつを偵察に行かせただけで、レミィの事も魔理沙の事も実際にこの目で見てきたわけじゃない。レミィの方はともかく、魔理沙とアリスの方はにわかに信じがたい話。
「ふむ」
小悪魔は悪戯のためなら命を賭けます!と昔言っていた。こんな馬鹿げた信条を掲げている小悪魔の事だ。私が技のデパートならばこいつは嘘のデパート。こいつが適当な事を言ってるだけでまだ何も動いていないに違いないわ。うん、そうに決まってる。
私はマウントポジションを解除すると、机の上に置かれている一冊の魔法書を開いた。これは対象となる人物を指定し、術式を展開することによってその人物が今何処で何をしているのかを絵として本に書き出す事が出来るそれはそれは素晴らしい一冊なのだ。出歯亀行為はどこぞの隙間妖怪や烏天狗だけの特権じゃあないのよ、むっきゅっきゅ。
「パチュリー様びびってますねぇ」
まるで私が直接話を持ちかけにいって既に私の席がなかったらショックで1ヶ月は寝込んでしまう勢いなので、こうやって間接的に状況を確認しようとしているとでも言いたげな声が聞こえたが気にしない、気にしない。
「まずはレミィからね」
私は魔法書に向かい、呪文を唱えた。
虚像のペンが、真っ白なページの上にまるで伝説の漫画家R・K氏の如き速さで一枚の絵を書き記して行く。ほぼ一瞬の出来事である。
完成した絵は――――。
「むぅ」
レミィと咲夜、そして妹様ががっちりと握手を交わし、天狗の取材を受けている場面だった。おいおい、本当に大喜びでやって来たわよこの天狗。
小悪魔に視線を向けると、だから言ったじゃないですかとふんぞり返ってる奴の姿があった。腹が立つが、小悪魔の言ってた事は本当だったらしい。
「……それにしても」
なんだこの天狗――と咲夜のだらしない顔は。鼻の下がだらしなく伸びているのを隠そうともせず幸せの絶頂とでも言いたげな表情して……このロリコンどもめ。幼女×幼女で湧き出す力は無限大ってかい。レミィはもはや慣れたって顔してるけど、妹様が顔引きつらせてるじゃないの。まったく。
「まぁ、これは想定の範囲内ね」
異常なまでに早い天狗の仕事には驚かされるが、小悪魔の話でも信憑性があったし。
「……」
次は、いよいよ魔理沙とアリスの番。
小悪魔がまたニヤニヤと笑っている。
まさか――本当に?
私はごくりと唾を飲み込むと、さっきと同じように魔法を唱えた。対象は、魔理沙とアリス。
絵は先程と同じく、無情にも一瞬で書きあがった。
そこに描かれていたのは。
命蓮寺にて、白蓮と談笑してる魔理沙とアリスの姿であった。
「そん……な……」
私の手からするりと魔法書がこぼれ落ちた。
魔理沙。アリス。どうして?どうしてなの……?
半ば放心状態の私の肩を叩く者がいた。振り返るとそこには。
「今のお気持ちをどうぞパチュリー様」
「ねりゃあ」
とってもいい笑顔の小悪魔がいたので、とりあえずお望みどおり小悪魔の肩を両手で掴み、頭上に放り投げ、背中で受け止め、地面に叩きつける事で私の切なく激しい気持ちを伝えてやった。
「どうして、どうしてなのよぉ魔理沙ぁ!アリスぅ!」
地べたでのたうち回る小悪魔を尻目に私は乙女回路全開で叫んだ。
ありえない。三魔女と言えば魔理沙とアリス、そしてこの私と決まっているのよ。そこに割って入ってくるなんてこれは何かの間違い、何者かの陰謀に違いない……はっ!?
「そ、そうよ、二人ともこの白蓮と言う女に……聖白蓮にたぶらかされたに違いないわ!許さない!許さないわ!許るさんわよ、聖白蓮!」
風の噂によると白蓮はその昔、人心を惑わした結果封印されたと聞く。魔理沙とアリスも、きっと……!
私はプライベートルームに向かって駆け出した。部屋にたどり着くと、部屋の中に飾ってあるアリスからプレゼントされた藁人形と、五寸釘と木槌を手にすぐさま図書館へと戻った。
魔法書に描かれた白蓮の上に藁人形をセット。
「ふ、ふふふ……驚いたわ……こんなにも(泥棒)猫度の高い奴がいたなんて……!聖白蓮、誅すべし!」
図書館に、甲高く杭を穿つ音が響いた――――――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「っ!」
白蓮はこめかみに走る痛みに身をよじらせた。
「あぁっ、聖!」
「大丈夫ですか聖!」
「しっかりして、姐さんっ!」
命蓮寺の面々は一挙に白蓮の周りに集まり、心配そうに声をかける。
「えぇ、大丈夫です。たいしたことはありませんから」
「はぁ……」
その輪を外から眺めていた封獣ぬえは、大きくため息をつき、
「聖ったら、そんなに一気に食べるから」
――――勢いよくカキ氷を食べる白蓮を叱りつけた。
「気持ちはわからんでもない。今日は暑苦しいからなぁ。こいつをいただくには絶好の日だぜ」
「魔理沙、あんたもタダだと思って食べすぎなのよ。体にも良くないし、少しは自重しなさい」
既に3杯目に突入している魔理沙をアリスは叱り付けた。
「……君も図々しさで人の事は言えないと思うがね」
そんなアリスの前に並ぶ空の容器3つを見て、ナズーリンは苦笑い。
命蓮寺を訪れた魔理沙とアリス。二人は振舞われたカキ氷を遠慮なくおかわり連発して白蓮以外の命蓮寺メンバーに渋い顔をさせるのだが、そんな事をしに来たわけではなく。
「それにしても突然の話で驚きました」
白蓮は、魔理沙とアリスの前に一通の手紙を差し出した。
例の、【R】からの手紙だ。
「確かに私達の元にもこの手紙は届きましたが、まさか貴方がここに来て私に協力して欲しいと頼みにくるなんて」
「あぁ。ちょっとばかり、「あて」が外れてしまってな。急遽残りの一人を探す事になったんだ。そこで、あんたの事を思い出したんだよ白蓮」
魔理沙と白蓮はあの魔界での対決後、魔理沙が命蓮寺へ遊びに行くと言う形で交流を続けていた。魔法使い同士と言う事もあり、話の種は尽きる事はなく二人は会う度に話を弾ませた。
魔理沙は白蓮から教えてもらった知識を周囲の人物に披露する事が多く、アリスもそれで白蓮と魔理沙の間に繋がりがある事を知っていた。白蓮を誘おう、と魔理沙が言い出した時、アリスはさすがに少々驚きはしたものの、魔理沙に任せると決めていたので彼女の好きにさせる事にしたのであった。
「それで、返事を聞かせてもらえるか?」
魔理沙の問いに、白蓮は。
「私でよければ協力しましょう」
即答。
「ちょ、ちょっと聖!?」
「結論早すぎませんかそれ!?」
「もうちょっと考えても良いんじゃないの聖!?」
「わ、私たちはどうすれば……」
命蓮寺の面々は、今度はぬえを含めて一挙に白蓮の周りに集まると抗議の声をあげた。
「この方には結果的に、ですが飛倉を集め私の封印を解く事に協力して頂いた恩があります。今こそその恩に報いる時なのです」
しかし、白蓮のこの一言により皆渋々ながらも押し黙ってしまうのであった。
「……よく調教されてるわね、あなた達」
アリスは声を潜め、ナズーリンに話しかける。
「それだけ慕われてるのさ、聖白蓮と言う存在はね」
ナズーリンはそう言って立ち上がると。
「さて、一仕事必要になったようだ」
「何処へ行くの?」
「私とご主人、船長と一輪とぬえ。これでは喧嘩の元になる。君達と同じように残りの一人を探しにいくのさ」
「当てはあるのかしら?」
「たまにこの寺にやって来ては皆に悪戯を仕掛ける不届き者……そいつにやってもらうつもりだよ。なぁに、嫌とは言わせない」
魔理沙とアリスは命蓮寺を後にし魔法の森への帰路を歩いていた。
「いやぁ決まってよかったよかった」
「それにしても残念だったわね、パチュリーの事は」
「仕方ない、『早い者勝ち』だからな、こういう事は。私達が一歩遅かった、それだけだ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……くくくっ、ふふふっ、ふぁーっはっはっはぁあごほっ、ごふぉっ」
呪いを掛け終えた達成感を私は三段笑いで表現しようとしたのだが、思い切り喉を痛めてしばらく床を這いずり回る羽目になってしまった。
「くっはー!どうなっちゃうんです?これからどうなっちゃうんでしょうかパチュリー様は!?」
その間に復活した小悪魔はこれまた殴りがいのありそうな至福の表情で私の顔を覗き込んでくるものだからとりあえず肘鉄、裏拳、アッパーのコンビネーションをぶち込んで静かにさせた。
しかし、小悪魔の言うとおりだ。
本命と対抗、両方のラインを潰されて私は一体どうしたらいいのだろうか。呪ってる場合じゃない。
……認めたくは無い、認めたくは無いのだが。正直、私の交流関係は狭い。こんな辺鄙な所で引き篭もっていたお陰でそれはもう酷いことに。
伊達にテーマ曲がラクトガールなんて名前しているわけではない。
レミィと魔理沙以外に私と組んでくれそうな奴なんて……。
「でも本当に厳しくなってきたんじゃないですかパチュリー様?こうなったらこのわ」
「あっ……!」
いや、いるじゃないの。それも、この紅魔館の中に!
「そうよ、まだ私には美鈴がいたっ……!」
紅美鈴。紅魔館には、まだ彼女がいたじゃないか。
私と美鈴、そして一応そこにいるのを加えれば面子は揃う。咲夜、レミィ、妹様が紅魔館の本丸ならば私達三人は紅魔館の門と言える。3ボス、4面中ボス、4ボス……おぉ、綺麗に順番も並んで見栄えも悪くない。
「ねぇ、小悪……」
私は小悪魔に美鈴に頼みに行くように言いつけようとしたが、思うことあって取りやめた。
小悪魔を信頼していないと言うのもあるが、今までの私は相手が訪れてくるのを待っていただけだった。引き篭もりから脱却しつつあるとはいえ、まだ私の中では積極的に他人と接する力が足りていないのだ。
しかし、その受け身な姿勢がレミィも魔理沙も遠ざける要因となったのではないか?私にもそう反省する点がある。
反省した私は……強いわよ。
そうと決まれば善は急げ、だ。
「あれ、パチュリー様何処へ?」
私は小悪魔の問いを無視し、美鈴の元へと急いだ。
「あ、あれ?」
決意を胸に図書館を飛び出してきた私は紅魔館の門前で困惑していた。
紅魔館正門――職業柄ここが彼女の定位置となるにも関わらず、美鈴の姿はそこには無かった。
「美鈴?美鈴どこなの?」
まだ休憩の時間じゃないし、サボって寝ているにしても持ち場を離れるなんて。
「ま、まさか……」
このタイミングで姿を消すなんて、嫌な予感しかしない。
私は必死になって美鈴の姿を探した。それはもう必死になって探し回った。飛ぶことすら忘れ紅魔館中を走り回った。妖精メイドたちは私の形相に驚き逃げ回り、通りすがったレミィはしゃがんだ。
必死の捜索の甲斐あって、私は美鈴の姿を紅魔館近くの湖の畔で発見した。私はその時、きっと黄金郷を発見した探検家の様な顔をしていたと思う。
「はぁ、はぁ……め、美鈴」
「あ、パチュリー様」
美鈴は私に気が付くと、しまったと言った表情でこちらに振り向いた。
「あー、そのですね、これは」
「美鈴、何も言わないで」
美鈴は仕事中に持ち場を離れた事を咎められると思ったのだろう。何か言い訳を始めようとしたのだが私はそれを止めた。そんな事はどうでもいい、そんな些細なことはどうでもいいのよ美鈴。ちょっとばかり仕事をサボった事ぐらい私が許すわ。レミィや咲夜がもし美鈴を咎めると言うのならこの私が相手になってやる。私の全身全霊をかけて二人を倒すわ。だから美鈴、安心してちょうだい。
私は走り回った事による疲労も持病の喘息もなんのその、力強く美鈴に語り、彼女の両肩を掴んでニッと笑った。
「は、はぁ」
何故か美鈴は少し引き気味だったが納得してくれたようだ。さぁ、早く本題に移るとしよう。
「美鈴、貴方のところに招待状は届いたの?」
「招待状って、【R】と名乗る者から幻想郷中に届けられたと言うアレですか?はい、私のところにも届きました」
「なら話は早いわ。私と組みましょう、美鈴」
「え!ぱ、パチュリー様もうメンバー決まっていたんじゃなかったんですか!?」
美鈴は驚いた様子だ。やはり私はレミィ達か魔理沙達と組むと思われていたらしい。それはもう終わった話なのよ美鈴。どうしようも無い過去の話だから触れないで!
「私は美鈴と組みたいの」
私は美鈴に詰め寄った。
「わ、私とですか!?」
「そう、美鈴と組みたいのよ」
それはもう必死に詰め寄った。
必要とあらば地面に頭をこすり付ける用意が私にはあった。
と、その時。
「ちょっとそこのもやし!あたいのチームメイトをたぶらかすなんて良い度胸ね!」
突如、上空より聞こえた声に私は凍りついた。
「な」
私が動揺している間に声の主は私と美鈴の間に割って入り、私を突き放す。
そして美鈴の前に仁王立ちして私を睨み付けた。
「めーりんはあたい達のチームメイトの一員!あんたの出る幕は無いわ!」
「……(こくこく)」
突然現れた闖入者はこの湖の周辺を縄張りとしている氷精チルノ、そしてチルノの遊び相手である大妖精と呼ばれている妖精だった。大妖精はチルノの背中に隠れてチラチラとこちらの様子を伺っている。
チルノは聞き捨てならない事を言っている。美鈴がチルノのチームメイト?一体何がどうなったらそんな事になると言うのか。
「ど、どう言う事なの!?ねぇ、美鈴これはいったい――――」
「あ、あはははは……」
苦笑いを浮かべ、美鈴は視線をそらす。
「あたいと美鈴は弾幕と弾幕でぶつかりあって友情を確かめ合った仲なの」
チルノは胸を反らしてふんぞり返り、得意げな顔をしている。
「ね、美鈴?」
「ははは……」
同意を求めるチルノに対し、美鈴は頷いた。
私が美鈴を睨み付けると、美鈴は事情を説明し始めた。
「その、ですね。チームに入れって持ちかけてきて……何度も断ったんですけど、あんまりにもしつこく持ちかけて来るものだから『じゃあ弾幕ごっこで貴方が勝ったら』と条件を付けて勝負して……」
「……負けたの?」
美鈴はさらに視線を逸らし、沈黙する事をもって肯定した。
「な、なんて事なの……て言うか何で美鈴そこで負けちゃうのよ!いつもチルノと戯れている時はちゃんと撃退して追い返してたのに何でこんな肝心な時に負けるのよぉぉ!」
「いたたいたたたたいったたたたすいませんすいません」
あまりにもタイミングが良すぎる美鈴の敗北に怒り心頭の私は、美鈴の両頬を掴んで思い切り引っ張りあげた。どうしてこう、まるで運命が私を嘲うかのようなタイミングで!
「こらー!美鈴に何するのよもやし!」
「……!……!」
美鈴から私を引き剥がそうとチルノと大妖精が掴みかかってきて、取っ組み合いになる。くそぅ早くも結束固いわねこいつら!
非力な妖精相手とはいえ二対一ではさすがに分が悪く、私は美鈴から引き剥がされて尻餅をついた。
「まったく見苦しいわね」
「くっ」
チルノに言われるとは何たる屈辱。いや、確かに見苦しいかもしれないけれど……。
「ど、どうして美鈴なの?確かに貴方たち紅魔郷繋がりかもしれいけれどどうして美鈴なのよ」
「ふん、そんなの簡単。中国拳法が最強だからに決まってるじゃない」
「!?」
「地面に寝そべって左右に動いたり、相手の頭にのっかって首へし折ったり、残像で攻撃したりとにかく最強らしいじゃないの。そんな拳法の達人を仲間に入れれば最強のあたい×最強でこれはもう間違いなく最強になるわ!優勝間違いなしよ!」
「……」
それは本当に中国拳法なのか?
それに美鈴は確か……いや、何も言うまい。彼女も成長したのだ。もう昔の彼女では無い。
というか自分で負かしておいて……チルノの中では「自分>中国拳法>他」になっているからいいのかしら?
しかしこれは非常に不味いことになった。まさかチルノがでしゃばってくるなんて思いもよらなかった。ある意味、妹様や聖白蓮を超える伏兵だ。
恐ろしい事にこいつは最後の紅魔郷出身者であるルーミアとの縁すらも美鈴と組むことによって潰してしまっている。
ルーミア。リグルナイトバグ。ミスティアローレライ。そしてチルノ。集まった姿を見た巫女に「あぁ、バカルテットって感じ」と命名されたこの四人組。今回の騒ぎのルール通りチームを組もうとすれば一人だけあぶれてしまう。しかし、チルノが自主的に他のメンバーを捕まえたことによって残りの連中は気兼ね無くチームを組む事が出来る。当然、ルーミアはフリーでは無くなってしまう。
ルーミアとは特に交流があるわけでは無いが一応同郷のよしみ……その縁で紡がれた蜘蛛の糸を辿る事すらこれでは出来なくなってしまう。
「貴方、いつもつるんでいる連中はどうしたのよ」
「ルーミア達の事?あたいは大ちゃんと最強のメンバーを探しに行くから皆で頑張ってって言っておいたよ」
予想通り。これで紅魔郷勢力が全員消えた。
――このままでは、このままでは紅魔郷勢力の中で私(と一応小悪魔)だけが家に籠って隅っこで細かく震える羽目に――。
「っ」
炎天下だと言うのに想像したら寒気が……。 そ、そんなの、そんなの絶対にお断りよ!何が悲しくて幻想郷中を巻き込んだお祭り騒ぎで一人だけハブられなければいけないのよ!今の私はラクトガールどころか鍵も扉も壁も屋根も取っ払って全開状態だって言うのに!
「……(じ~っ)」
恐ろしい未来を想像し、恐怖に震える私を大妖精が見つめて来る――な、なんなのよその目は。まるで三人用ゲームに混ざれなかった少年を哀れむような、嘲る様なその目は。
家で寝てろ――お呼びじゃない――私の邪魔をするな――そんな声が聞こえてきそうな視線。
「さ、行くわよみんな。今からあたいの家で作戦会議を開くんだから」
私が大妖精に威圧されている間に、チルノは美鈴の手を引いてこの場から立ち去ろうとする。
「っ、待ちなさい!待ちなさいチルノ!」
私は体を起こし、チルノの前へ回り込んだ。
非常に情けないかもしれないが、私はここで引く訳にはいかない。たとえどんなに見苦しかろうが、やらなければ、言わなければ――――。
「け、決闘よ!」
「結党?結党ならもう大ちゃんと美鈴としてるけど」
「違う!そうじゃなくて決闘だって言ってるのよ!」
チルノは素で言ってるのだろうけど、今の私にはそれすらも挑発に聞こえてしまう。落ちつけ私。
「勝負しろって言ってるのよ……美鈴を賭けて」
効果音が響きそうなぐらいの勢いで私は美鈴を指差し、叫んだ。
「そんな、私を賭けてなんて」
なにやらときめいてる美鈴は置いておくとして。
「んん?なーんかあたいが勝ってもあんまり良い事が無い気がするけど」
既に決闘で美鈴を得たチルノに取っては何の得も無いこの決闘、当然の指摘だ。チルノだから勢いで誤魔化せると思ったけれど甘かったか。
「まぁいいわ。このあたいの広い心に免じてその勝負、受けた!」
――来た!さすがチルノ!馬鹿め、その安請け合いが命取りよ。
「……!(ふるふる)」
「え?止めてって?だいじょーぶよ大ちゃん、あたいが負けるはず無いじゃない」
大妖精がチルノを止めようとしてるけれどもう遅いわ。外野はすっこんでなさい。
「美鈴、その子と一緒に離れてなさい」
「は、はい」
私は美鈴にそう言い付け、私とチルノから距離を置かせる。
「行くわよ、チルノ」
私はスペルカードを取り出した。取り出したカードは「ロイヤルフレア」。情けも容赦も一切しない、一瞬で勝負をつけてやる。
「どこからでもかかってきなさい!」
チルノは余裕たっぷりの表情。そんな顔をしていられるのも今の内よ。今日は準備運動を済ませたおかげで体の調子がすこぶる良い。対するチルノはどうだろうか?強がってはいるけど、この炎天下。辛くないはずがない。
美鈴はきっとチルノに手心でも加えて負けたのだろう。私はそうは行かない、油断もしないし手加減もしない。
だからそう、私が負けるはずなどない。負けるはずなんて、負けるはずは、負ける、負け……。
――――もし、負けてしまったら?
一瞬、そんな考えが頭をよぎる。全てが私の有利に働いているこの戦い。それでもなお、負けてしまったら。
そう考えた瞬間、スペルカードを握る手が震えだした。
落ちつけ、落ち着くんだ、私はこのスペルカードを発動させるだけでいい。発動さえすれば、それだけで私の勝利だ。暑さで弱っているチルノなど一撃だ。そうだ、スペルカードを、スペルカードを発動させさえすれば――――。
「あ」
動揺するあまり、私は指を滑らせてスペルカードを落としてしまった。ひらりと舞い落ちるスペルカードに気を取られて視線を地面に向けてしまう。
しまった、と思った時にはもう既に遅かった。
「隙有り!」
視線を戻すとそこにはチルノの姿はなく、代わりに巨大な氷塊が私をめがけて――――。
「良いお天気ね」
私は大地に大の字になって寝そべり、雲ひとつ無い青空を眺めていた。引き篭もりの私に相応しくないシチュエーションかも知れないけれど、今はただこのまま居させて欲しい。
空は晴れ渡るとも、私の心は曇り空なのだから……うっ……うっ……。
「パチュリー様ぁ~」
遠くから小悪魔の声が聞こえる。くそ、あいつめこう言う時には素早く駆けつけやがるのね……。
このままだとこの醜態を見られてしまう。こんな状態だと何を言われるやら。だが今の私には指一本動かす気力すら残されていなかった。どうにでもなってしまえ。
やがて声が段々と近づいてきて、小悪魔が私の側へとやって来た。
「パチュリー様これは一体……」
小悪魔は私を抱き起こし、訊ねてきた。
「……説明しなくても見ればわかるでしょ」
私はそっぽを向いて答える。
「あの、さっき美鈴さんと妖精達が一緒に歩いているのを見たんですけど……」
「……」
「も、もしかして美鈴さんまで取られちゃったとか」
「……」
あ、やばい、泣きそう。
氷精にすがりついて決闘を挑んでおきながら、緊張のあまり手の震えでスペルカードを落として自爆。こんなの天狗じゃなくても指差して笑いに来るレベルだ。
こうなったら笑うだけ笑うがいいわ小悪魔。ほら、早く私の周りで爪先立ちで踊って今の気持ちを聞けば良いじゃないの。ちくしょう、はやくやればいいじゃないの。
――だがどう言う事か、小悪魔は私を嘲笑するどころか悲壮感たっぷりの表情で震えている。え、何?こんなおいしいネタに飛びつかないなんて。
「そ、そんな…………」
頭を抱え、さらに顔を蒼くする小悪魔。
「これじゃあ、私の計画が(ボソッ」
「え?」
「――――パチュリー様!」
突如、小悪魔は表情を一変させると私の手を握った。
「は、はい」
あまりにも真剣な小悪魔の表情に、反射的に敬語になる私。
「諦めちゃいけません。探しましょう、残りの一人を!」
「で、でも」
「まだです!まだ諦めちゃいけませんよ!」
普段の小憎たらしい面構えはなりを潜め、必死な形相をしている小悪魔。なんだ、この変わり身は。さっきまで私が蚊帳の外にされる度に大笑いしていた奴と同一人物とは思えない。
小悪魔の意図が全く掴めない。だけども、これが私を騙すための芝居ではない事は伝わってくる。
「でも、もう私と組んでくれそうな奴なんて――」
「弱気になっちゃダメです!もう、関係や繋がりなんてどうでもいいんです!誰でもいいから探すんですよ!この三人組と言う条件はもうパチュリー様は散々身を持って理解しているでしょうけど意外と難易度が高いんです、絶対に孤立しているのが幻想郷のどこかに居るはずです!」
「そ、そうね、諦めたらそこで試合終了よね」
まさか小悪魔に元気付けられるなんて思いもよらなかったが、小悪魔の言うとおりだ。もうこうなったら誰でもいい、誰でも良いから探すんだ。諦めたら、そこで終わり。
だがそんな私の決意は天から響いた声によって砕かれた。
「~~~がい!号外だよ~」
上空からの声。声がする方角へ目を向けると、そこには飛行しながら新聞をばら撒く天狗の姿が。
射命丸文。そして最近似たような活動をする様になったと言う姫海棠はたて。二人は競うように大量の新聞を地上の者の迷惑など考えず撒き散らしていた。
二人は私と小悪魔の上を駆け抜けていき、あっという間に私の視界から消えていった。後に残ったのは地面に散乱する新聞紙。
私は、その内の何枚かを拾い上げ、読み上げた。
そこには。
「魂魄妖忌電撃参戦!弾幕ごっこは男子禁制?実は女の子でした、唐突ですが設定は上書きされます」
「方向性の違いから分裂の危機にあったプリズムリバー三姉妹、涙の和解で再出発」
「蓬莱山輝夜、藤原妹紅及び上白沢慧音との共闘を発表!荒れる八意永琳!炎上する永遠亭!永琳は鈴仙優曇華院イナバと因幡てゐを引きつれ妹紅抹殺を宣言!」
「異色の組み合わせ?珍しく夏場に姿を現したレティホワイトロック、八雲藍とその式神橙とチーム結成!『同郷のよしみなんです』とコメント」
「多々良小傘命蓮寺に消える」
「『ツインテール以外は道を開けろ』小野塚小町が河城にとり、キスメを従え過激発言」
「『貴方は少し調子に乗りすぎた』四季映姫ヤマザナドゥ、風見幽香とメディスンメランコリーをスカウト。怒りの閻魔、震える死神」
「比那名居天子、永江衣玖、古明地こいし『我等コソ真ノZUN帽ヲ持ツ者ナリ。他タイプZUN帽駆逐セントス』と謎の声明を発表。バックには月の大物の影アリとの噂」
「いつか1面と2面に出そうなそこら辺の妖怪三名が集まってチーム結成!」
「いつかラスボスになりそうな何やらカリスマ溢れた妖怪とその部下達も集まってチーム結成!」
「ダブルスポイラー絶賛発売中!この姫海棠はたてとおまけ天狗二匹の活躍をよろしくね!」
大規模な異変にここぞとばかりに号外を刷りまくる天狗達。
空から届けられる速報の一つ一つが私のチャンスを奪っていた。とんでもなくタイミング良く、私が訪ねようとした場所の住人がチームを組み、そしてまだ存在すら確かではなかった妖怪達すらもチームを組んでいる。
これじゃあまるで世界が私だけを爪弾きにしようとしているみたいじゃないか。
私は運命から拒絶された?
私はこの世界で一人きり?
私は、私は……。
「こ、小悪魔!分身しなさい分身!ほら、貴方のためにスペルカードも用意したから!ラル符「バリバリバルカンパンチ」没案「ガリガリガトリングアタック」よ!私は手刀で大気中に真空を生む用意が出来てるわ!」
「む、無茶いわないでください~!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
結局、私は分身出来ずにパチュリー様を落胆させてしまった。
「あぁ……」
あの後、パチュリー様はショックの余り床に臥してしまい、壊れたレコードの様に「乱入……大会……ぶち壊して……」とブツブツと繰り返しすだけの生き物となってしまった。
私のせいだ。
私が、パチュリー様と一緒に出たいなんて思わなければこんな事にはならなかった。
パチュリー様からレミリアお嬢様の様子を見てくるように言いつけられた時の事。
初めは普通に言付けをお嬢様へと伝えるつもりだった。パチュリー様が興味なさそうな顔をしているけど実は体が疼いてしょうがなくて準備運動までするほどに期待していましたよ、とお嬢様と咲夜さんにバラしてしまい三人で腹抱えて笑ってやろうと考えていただけだった。
お嬢様の部屋から聞こえてくる会話に耳を傾けるまでは。
扉をノックして入ろうとした私の手を止めたのはお嬢様の声。今回の騒ぎに妹様を参加させたいとお嬢様が咲夜さんに切り出したのを聞いて、興味を引かれた私は二人の話を盗み聞きする事にした。
その後何やらシリアスな話し合いが続き、やがて咲夜さんが承諾して話は終わった。
お嬢様が妹様と咲夜さんとチームを結成。
――この時、私の中であるシナリオが書きあがる。
私はパチュリー様の元へと戻り、あるがままを話した。ついでにパチュリー様をおちょくるのも忘れない。パチュリー様は多少動揺したものの「今後どうなるかは決まった様なものじゃない」と強気の態度を見せた。パチュリー様が何を言いたいかは分かっていた。まだあの魔法の森に住む魔法使い達がいる、そう言いたいのだ。
パチュリー様は魔理沙さんとアリスさん達を待っていたが、二人はいつまで経ってもやって来ない。二人が来ないのは当たり前だ。既に私が先手を打っておいたのだから。
パチュリー様がそわそわと二人を待っている間、私は密かに魔法の森へ使い魔を向かわせていたのだ。 「既に紅魔館内でチームを組んだ」とパチュリー様を装った手紙を持たせて。
さらにダメ押しでパチュリー様に言われるまま魔法の森へと向かい、紅魔館へと向かおうとしていた二人を捕まえ、「申し訳ないけれど他を当たって欲しい」とパチュリー様の伝言を捏造し二人に伝えた。納得させるのに時間がかかったが、やがて二人は折れ、「それなら仕方ない。私達は他を当たる」と言い残して去っていった。
さらに私は二人が誰を頼るのかを確認するため、二人の後をつけた。そして二人が命蓮寺に向かうのを確認すると紅魔館へと戻った。
帰ってきた私はパチュリー様に二人が命蓮寺に向かった事だけ伝え――。
ここまでは完璧だった。お嬢様と魔法使い達。この二つの可能性を潰してしまえば私が加わるチャンスが生まれ、パチュリー様に残された選択肢は自ずと狭くなる。
そしてパチュリー様に美鈴さんと組むように促す――これで終わりのはずだった。パチュリー様、美鈴さん、そしてこの私で綺麗に収まって終わるはずだった。
だが、チルノが現れて事態は急転。
――――そして今はこの有様。
パチュリー様が取り残される原因を作ったのは紛れも無くこの私。
あの時、もしかしたら私にも出番が、それもパチュリー様と一緒になる事が出来るチャンスが来たなどと思い欲を出さなければこんな事には。
あぁ、もうこうなったら悪魔の身でありながら神にでも祈る他は――――。
(貴方の願い、しかと聞き届けたわ。分かる、分かるわそこにいる娘の気持ちが)
どこからとも無く聞こえた声に私は身じろいだ。
「だ、誰ですか一体!?」
(私は神)
「か、神様?神様って言うと妖怪の山にいる……」
(違うわ。私は忘れ去られてしまった神)
(誰かに忘れ去られてしまう事は辛いわ……そして居場所を失う事も)
声の主は悲しみ、そして静かな怒りに満ちた声をしていた。
(スルーされる事の悲しみ……私を阻む旧作結界への怒り……久々の出番かと浮き足立つ私を嘲うかのような見事なスルー……歓迎の横断幕まで作ったのに……横断幕まで作ったのに……横断幕まで作ったのに……横断幕まで作ったのに……横断幕まで作ったのに……)
やたらと横断幕を強調する声。
「……誰なの?」
「あ、パチュリー様っ」
壊れたレコードから復活したのか、パチュリー様が反応を見せた。
(伝わってくるわ、貴方の絶望が、怒りが、悲しみが)
「あなたは、一体?」
パチュリー様が問うと、声は。
(今貴方が何度も繰り返していた願いを叶えるものよ)
「願い?」
(幻想郷の全てをぶち壊す。そう言ってたわよね?)
「え、いやそこまでは言ってないけど」
(私と貴方、そしてそこに居る小悪魔ちゃんで力を合わせたなら出来るわ。何もかもを破壊する事が)
(見せてやりましょう、世界から拒絶された者達の力を――――)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・エピローグ
かくして第一回King of Shootersは開催された。
何処の誰が何時用意したのか全く分からない、博霊神社裏に何時の間にか建てられた特設スタジアムに人妖達は集まり始まってもいないうちから皆大騒ぎ。何の集まりかさえ理解していないのも多々存在したが、とにかく騒げれば良いようで細かい事は気にしていない様だった。
熱気と怒号が渦巻く中、出場者達はと言うと。
「よぅ霊夢」
「あら、魔理沙とアリスじゃない」
試合に備え控え室で佇んでいた霊夢の元を訪れたのは魔理沙とアリスだった。二人は霊夢の隣へと腰を下ろした。
「もう一回戦は終わったの?」
霊夢が訊ねると魔理沙はにぃと笑い、
「あぁ。私がどでかいのをお見舞いして蹴散らしてやったぜ」
と自慢げに語った。
「こら、何全部自分の手柄にしてるのよあんたは」
アリスは魔理沙の頭を小突く。
「私の完璧なサポートあってこそでしょう?魔理沙一人だったら今頃再起不能コースよ」
「ふん、あんなちまちました攻撃、無いのと同じだぜ」
魔理沙はアリスの頭を小突き返した。
「まぁ、本当の所は殆ど白蓮の力で勝った様なものだけどな」
「そう、ね。本当の所はね」
「妙に張り切って一人で突っ込んでいったからなぁ」
「下手に恩を売るのも恐ろしいものね」
霊夢は二人の会話に疑問を抱き、尋ねた。
「白蓮?あの魔界に封印されていた?あんた達はてっきりパチュリーと組むと思っていたんだけど」
「あぁそれなんだが……」
魔理沙は霊夢に事情を説明した。
「え?レミリアに先を越された?そんな馬鹿な」
霊夢は不思議そうに首を傾げた。
「だってレミリアなら咲夜と妹のフランドールと一緒に出場していたわよ」
「なんだって?それこそそんな馬鹿な、だって私が聞いた話じゃ」
二人の話は噛み合わない。
「ねぇ、それじゃあ一体パチュリーは誰とチームを組んだと言うの?」
アリスの言葉に霊夢と魔理沙は唸るばかりであった。
その後魔理沙は試合を観戦しに行くと言う霊夢とアリスと別れ、控え室で仮眠を取った。
しかし魔理沙の仮眠は早々に破られることになる。
「魔理沙、大変よ!」
「なんだって?幽香とメディスンと閻魔のチームが負けそうだって?」
駆け込んできたアリスの報告に魔理沙は驚いた。チームワークがどうかはともかく、それぞれ色々な意味で厄介な存在で下馬評では優勝候補の一角とも言われていたようなチームの敗退。
「相手は一体誰なんだ?」
「それは……来てもらえばわかるわ」
魔理沙はアリスに連れられて観客席へと向かった。
そこで魔理沙が見たものは、変わり果てた姿のパチュリーと、禍々しい翼をはためかせ不適に笑っている可愛らしいアホ毛を持った少女の姿であった。
「な、なんだぁ!?」
「MUKYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
両腕を広げ、身体を仰け反らせ、獣の如くパチュリーは天に向かって絶叫している。
「ふふふ、いいわ、その調子よ!私たちの怒りと妬みと悲しみの力をこの幻想郷の連中に見せ付けてやるのよ!天も私たちに恐れを成して泣き叫んでいるわ!」
先程まで晴れ渡っていた空はどんよりと曇り、雨が降り始め、雷が鳴り出していた。
「MUKYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO ! 」
「今のあなたはパチュリーじゃない――――コドクノナカデバンヲウバワレフクシュウヲチカフパチュリーよ!」
「MUKYUUUUUUUUUUU」
「それにしても許せないわアリスちゃん。あの魔界でやらかしてくれた内の一人である魔法使いと手を組むだなんて。幻想郷に長居したせいで毒されてしまったのね……これはお仕置きが必要ね」
「MUKYU、MUKYU」
「あわわわわ……」
とんでも無いことになってしまった、と小悪魔は震えていた。
突如パチュリーと小悪魔の前に姿を現した、神を自称するアホ毛の少女。
パチュリーは彼女と話している間におかしくなってしまった。最近喘息の調子がよかったはずなのに、血を吐いて咳き込んだかと思うと今の様に咆哮を上げ、それからは完全に理性を失って蒸気の様な息を吐き猛獣の様な動きを見せている。
そして普段のパチュリーからは考えられない程の俊敏さ、ともすればあのパパラッチ天狗に迫るほどのスピードで動き回り相手を圧倒してしまった。
一体パチュリーにどんな変化があったのか小悪魔には知る由も無かった。しかし、今のパチュリーを突き動かす力の源の正体は理解していた。世界から拒絶されたものの力――出番を奪われた者の怒りと嘆きと嫉妬と絶望の強さに小悪魔は震えて縮こまる他になかった。
控え室に戻った魔理沙とアリスは先程の衝撃的な光景にまだ平静さを取り戻せないでいた。
「速い、速すぎるわ!あんなの、私が知っているパチュリーじゃない!」
「パチュリーのあの変貌は一体!?」
「それに、パチュリーの横にいるあの人……あの人の強さは一体」
「くそっ、誰だ?誰なんだあいつは」
「分からない。けど、私はあの人を知っている気がする!それなのに、記憶を辿ろうとすると頭に靄がかかったみたいに思考をさえぎられるのはどうして!?」
「あぁ、私もあいつを知っているような気がするんだがどうしても思い出せないんだ。あの羽、そして妙に逞しいあのアホ毛には見覚えがあるはずなんだが思い出せない!」
「あなた達もなのね」
二人の前に姿を現したのは試合を終え、傷だらけの幽香だった。
「ゆ、幽香!お前もなのか!」
「えぇ、私もあの青毛でアホ毛を見ていると頭が……それとあいつ、私を妙に集中して狙ってきたわ。私を恨んでいる、いや妬んでいるかのようだった――」
「あなたも、ですか」
「白蓮!」
新たに姿を現したのは白蓮だった。何故か白蓮は不安そうな表情をしている。
「私も試合を観戦していたのですが、どう言う事か戦闘中にもかかわらずあの少女は私の方を何度も何度も睨み付けて来て……まるで次はお前だと宣言するかの様に」
「白蓮はあのアホ毛の事を何か知らないのか?」
「それが私も思い出そうとすると頭が……何故か、魔界に封印されていた時は覚えていたような気がするのですが……」
全員、何か知っているはずなのに思い出せない。
「魔理沙、気をつけた方が良いわ」
「なんだよ」
幽香は魔理沙たちにこう忠告を残した。
「あいつ、言ってたわよ。次は博麗霊夢、霧雨魔理沙、アリスマーガトロイド、聖白蓮の番だって」
「何故にそんなピンポイントで!?」
「え、私もなの!?」
魔理沙達とは別の席で戦闘を眺めていた霊夢達は三者とも呆然としていた。
「うおおおおお」
狂乱のパチュリーと謎のアホ毛少女の戦闘は萃香を素面に戻すほどの衝撃をもたらしたらしく、萃香は突っ立ったまま一歩も動けないままでいた。
「奴等から太古の力を感じる……ちょっと反則じゃないの、これは」
紫の表情にはいつもの余裕は全く無かった。
「ど、どうするのよ紫!この妙な大会も十分に異変染みてるけれどあんな凶暴な奴等が出てくるなんてこれは異常事態でしょ!あんたあいつらに勝つ自信あるの?どう考えても平穏に事を終わらせる気はない見たいよあいつらは。幻想郷を破壊するとかなんとか言ってるし」
霊夢は紫の身体を何度も何度も揺さぶり問いかける。
「だ、大丈夫よ霊夢。この私と貴方、そして萃香がいれば……多分……大丈夫だと……思うんだけど。それに万が一、私たちが負けるような事があっても大丈夫。いざとなったらこの大会の主催者がなんとかしてくれるはずよ……多分」
「主催者?紫、あんたこの大会を開催した奴の事を何か知ってるの?」
「幻想郷全域を巻き込む力。多少の違和感を払拭させて細かい事はいいんだよとこの大会へ人間や妖怪達を参加させる力。そして、招待状に記された【R】の名。私の予想が正しければこれはきっと――――」
その時、一際大きい雷鳴が紫の声を掻き消した。
「あはははは!この調子でまずは私を縛る忌々しい結界を破壊して、それから、それから……ふっふっふ」
「MUKYOOOOOOOOOOOOOOOO!」
「あわわわわ」
高笑う自称神、咆哮を上げるパチュリー、オロオロする小悪魔。三人の頭上で天は荒れ狂い雷鳴を轟かせ続けていた。
ある者はパチュリーとアホ毛少女の禍々しい気に呼応している様だと言った。
が、ある者にはこう聞こえたという。
まるで幻想郷そのものが叫びを上げている様な雷鳴であると。
~終わり~
多くの小中学生にトラウマを刻んだ呪われたイベント
パッチェさんの心が解ってこわい
わかる!わかるよパチュリー様!
俺もよくハブられた!