最近どうにも霊夢さんのことばかり考えてしまう。
取材している時も、新聞のネタをまとめている時も。
でも私と霊夢さんの関係は至ってフラットで。
どれくらいフラットかっていうと、気兼ねなく何でも話されるくらい。
だから、たまに私が勇気を出して、霊夢さんのためにムードを用意してみても、軽く茶化されて終わってしまう。
そう。
思いも打ち明けられないまま。
私の格好もつかないまま。
そんな私は今、目的もなく、ネタ探しでもなく、ただうだうだと飛んでいる。
やることがなかったので、とりあえず飛んでみた。
夏も終わりだっていうのに、太陽は暑く照っている。
そのせいで着ている服が汗ばんできた。
まるで今の私みたいだな、ジメッとしていて、いつまでも乾かない。
……うーん、なんだかなぁ……。
なんか、いろいろ考えながら飛んでたら、人間の里が見えてきた。
やっぱり汗ばんだままだと嫌なので、とりあえず逃げるように雑貨屋へと入る。
そしたら、前に霊夢さんが話していた、ちょっとだけ懐かしいお茶っ葉をたまたま見つけた。暑いので、アイスクリームと一緒にそれらを買ってみた。
このお茶も、霊夢さんがいればどうだろう、一緒に楽しめるかな? って考えた。
……あ、まただ、また霊夢さんが頭の中に。
――もう何年演じているんだろうな、この親友のキャスティング。
煮え切らないままで。
勇気が出ないままで。
この距離感はいいんだけど、本音を言うと結構辛い。
ふぅ、と私はため息をついた。
この前霊夢さんに言われた、あんたは相談しやすいって。
だからいつも霊夢さんの恋愛トークを聞かされる。
それを私は黙って聞いてる、微妙な心の中、バレないようにして。
やっぱり、本音を言うと結構辛い。
霊夢さんがたまに見せる笑顔を。
私の目の奥に映る、あの笑顔を。
なんとか私だけのモノにしたい。
どうにか焼き付けられないかな。
でも私自慢のカメラじゃ駄目で。
そう。ファインダーを覗いたら、
想像よりずっとずっと、遠くに見える気がして。
店を出て、沈んだ気分を吹き飛ばそうと、少しだけ全力で飛んでみた。
それでも結局、状況が変わらないのは分かっていたけど。
なんとなく、ただなんとなく。
風を切れば、悩みも吹っ切れるかな、って。
駄目だったけど、結局。
ここからなら神社までもうすぐだし、お茶っ葉も買っちゃったし、せっかくだからお土産に持って行こうかな。
その途中で思い出して、買った袋の中を覗いてみる。
案の定、食べようとしていたはずのアイスクリームはベタベタに溶けちゃってて。
運命って待ってくれないんだなぁ。って思った。
機を逃せばあとは朽ちるばかり……うぅん。
ガサリと袋を持ち直して、シュンとした心も持ち直して。
時間を一秒一秒かみしめて。
神社はもうすぐ。
◇◆◇◆◇◆
「どうもでーす」
「ん? あぁ、いらっしゃい」
霊夢さんは縁側で、裸足の足をぶらぶらしてた。
暑いんだろう。
「暑そうですねぇ」
「言うな、もっと暑くなる」
「そう思ってアイス買ってきました」
霊夢さんが輝く瞳でこっちを見つめている。
早くこっちに来いマイエンジェル、みたいな目で。
「もっとも、この暑さで溶けちゃいましたけどね」
「うあぁ……」
バタン、と残念そうに、仰向けに倒れる霊夢さんに、ちょっと急いで歩み寄る。
「すみませんね、でもお茶、買ってきましたから」
「ん……あ、これ……」
「この前話してましたよね、偶然見つけたので」
覚えていてくれたみたいなのでちょっと嬉しい。
「早速、飲んでみたいんですけど」
「あー、はいはい、じゃあちょっと淹れてくるわ」
「ついでにこの溶けちゃったアイスも有効活用してください」
「クリーム抹茶とか多分あんまり美味しくないわよ」
「えー? そうですか?」
霊夢さんは、うん、多分、とつぶやきながら奥に入っていった。
なんとなくカメラを取り出して、カメラ越しに霊夢さんを覗いてみる。
そしたら、やっぱり想像よりずっと遠くに霊夢さんがいる気がした。
手を伸ばしても届きそうにない距離に、霊夢さんが見える気がした。
――いつかは誰かと消えていってしまう。
そう思ったのはこれで何回目だろうな。
ふと見上げれば、青い空を二つに割っていく魔理沙さん。
遥かに高い空へ、
夏が飛んでいく。
また、季節が、
何もできずに
過ぎていく。
……あぁ。
そう、ファインダーを覗いたら。
手が届きそうなほどに、霊夢さんがそばに見えたらいいのにな。
友情って名前のシンドローム。
それは出口のない永久迷路のようで。
抜けださなきゃいけないのに、
迷ってしまうのが怖くて、
踏み出せないでいる、
動けないでいる。
ふぅ、なんなんだろうね、私って。
迷って迷って動けない。さながら出来損ないのモルモット。
「おまたせー」
「あ、早いですね」
「そりゃあ、お茶なんて時間もかからないわよ」
「そうですかー。じゃあ早速いただきますね」
霊夢さんが持ってきたお盆に乗っていたのは、私の注文通りのクリーム抹茶。
聞いてくれないようでちゃんと聞いてくれるのは、ちょっぴり嬉しい。
とりあえず飲んでみた。
ちょっと甘くて、結構渋くて。
予想通りの味がした。
「……美味しいですね」
「まぁアイス入ってるしね」
「いや、それもあるんですけど、霊夢さんが淹れてくれてってことですよ」
「あ、そ」
うーん、まただ。流されちゃった。
やっぱり日々のキャラが冗談じみてるせいなのかなー、って。
「あとさ、あんた」
「なんです?」
唐突に霊夢さんが口を開いた。
「あんまり悩まない方がいいわよ、相談してくれたっていいんだから」
「……」
「え?」
「あ、なんで悩んでると思ったんですか?」
「そりゃあ見りゃわかるわよ」
見れば分かるってさ、なんだかちょっと嬉しい気もする。
……ははっ、と笑い声を漏らしてしまった。
何に対しての笑いなのかは、自分でも分からない。
でもこれを相談、ねぇ。
「なによ、笑わないでよ、結構真面目なんだから」
「いや、これを霊夢さんに相談できたらどんなに楽だろう、とですね」
「いいじゃないの、言っちゃいなさいよ」
「……霊夢さんって、なんていうか、いつも幸せそうですよね」
心からそう思う。
いつも悩み事とかなさそうで、のんきにゆったり暮らしている。
幸せがどこにあるのか分かっているというか。そんな感じ。
「あのね、幸せは増えたって減るもんじゃないのよ、分けてやるから、ほら」
「ははは……その通りだとは思いますけどね」
「けど?」
「うーん、ちょっと待ってください」
本当にそのとおりだと思う。
やっぱり霊夢さんと一緒にいると、こんなに他愛のない一瞬でも、煌めいて見える。
うん、やっぱりこんなんじゃいけないよね。
「霊夢さん、これから言うことは冗談でも何でも無いですから」
「何よいきなり、改まっちゃって」
「いいですから、そういうの」
「はいはい」
いつになく、真面目な声で。
そして、
私に出せる、最大限の勇気。
紙みたいに薄っぺらな勇気。
一本だと折れやすい木の枝でも、
三本束ねるとなかなか折れないように、
私の中の、
ありったけの勇気を束ねて、
今、
霊夢さんに――
「 」
いいねー青春だねー、……あれ、目から汁が
関係をステップアップさせたくて、最後に文の心情の変化、最後の決心の場面までの流れがとてもきれいでした
ああでも甘い生活も読んでみたいw
関係ありませんが、最後の「」をドラッグしたのは私だけじゃないはず
とても仕合わせな気分、良いあやれいむでした。
感謝。