夏が、終わる。
長月。暦の上では既に秋。椛や楓が色付き始める頃合。のはずだが、未だに油蝉がけたたましく己が生を主張している。
「………………」
風見幽香は向日葵畑に独り佇んでいた。まだ強く降り注ぐ陽光を遮る為の傘をさしながら。
全ての花に愛情を注ぐ彼女は、全ての季節が好きである。が、幽香はとりわけ夏を好む。自宅の傍らにある此の向日葵畑、全ての向日葵が一斉に咲き誇る様は、何時見ても感動的である。数百年を生きる妖怪である幽香とて、其の感動は並々ならぬもの。
「……又、来年逢いましょう……。」
今幽香の目の前に在るのは枯れた向日葵。燦然と輝く太陽を模した其の花の面影はなく、頭を垂れ、逞しかった茎は萎れ、地に墜ちた花弁は朽ちていた。
此の時期になれば、必ず訪れる須臾の別れ。もう数える事すら諦める程経験した。それでもやはり、此の別れを惜しまずには居られない。又咲かせれば良いではないか、と簡単に言う者も居る。しかし、今年此処で根付き、育ち、花を咲かせたのは、他でもない此の花なのである。来年又咲くであろう花とは、全く持って別物なのだ。
幽香は項垂れる向日葵に歩み寄り、日輪のコロナに位置する部位から種子を取り出す。まるで赤子をあやすかの様に優しく、其れをコロリコロリと掌の上で転がす。母親の様な笑顔で種子に微笑みかける。又必ず来年も向日葵達が咲き乱れる事を、心から信じて。しかし、其の瞳から一滴の泪が零れ落ちていたのは、幽香を見下ろす向日葵達にすら、見えていなかった。
乾いた大地が潤う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夏が、終わる。
妖怪の山。昼と変わらず蒸し暑いのだが、油蝉は鳴りを潜めリンと蟋蟀が鳴き出す夜半。
「あ、お姉ちゃん。見て見て?」
「あら、綺麗な秋桜ね、穣子」
豊穣の神・秋穣子と紅葉の神・秋静葉は、寝苦しさから夜の散歩へ出ていた。とはいえ、山の妖怪達が怖いと云う、肝っ玉の小さい彼女等は自宅の周囲をクルクル回っているだけである。神が妖怪を恐れるとは、何とも滑稽で、天狗が飛び付きそうな話である。
其の時見つけた小さな秋。薄い赤紫をした花弁を一生懸命に伸ばしている秋桜は、何時の間にか秋姉妹の自宅の縁に根を張っていた。
「夏は何時まで続くのかしら……。」
「心配しなくても私達の季節は、もうすぐよ。」
「フフ……そうね。さ、そろそろ寝ましょうか。」
陽は墜ち、地面から伝わる熱も冷め、本来なら過ごし易い時間帯の筈だ。しかし、感じるのは身体中に残る熱と、べとつく汗の感覚だけだ。それ故に姉妹は、自分達の性を冠する季節を心待ちにしている。彼女等を見上げる秋桜も秋を待ちわびているだろう。自分の美しさは秋本番まで取っておこうとしているのか、ひっそりと静謐に咲いている。
外気を幾分か取り入れて涼しくなった屋内へと二柱は消えて行く。より一層厳しさを増す残暑。暫くの間は太陽も全力で大地を照りつけ続けるだろう。
二柱が家入った瞬間、風が吹いた。其れは、夏の暑さを含んだ空っ風ではなく、秋の涼しさを含んだ清涼な風だった。
乾いた空気が棚引く。
… … …
秋が、始まる。
長月。暦の上では既に秋。椛や楓が色付き始める頃合。のはずだが、未だに油蝉がけたたましく己が生を主張している。
「………………」
風見幽香は向日葵畑に独り佇んでいた。まだ強く降り注ぐ陽光を遮る為の傘をさしながら。
全ての花に愛情を注ぐ彼女は、全ての季節が好きである。が、幽香はとりわけ夏を好む。自宅の傍らにある此の向日葵畑、全ての向日葵が一斉に咲き誇る様は、何時見ても感動的である。数百年を生きる妖怪である幽香とて、其の感動は並々ならぬもの。
「……又、来年逢いましょう……。」
今幽香の目の前に在るのは枯れた向日葵。燦然と輝く太陽を模した其の花の面影はなく、頭を垂れ、逞しかった茎は萎れ、地に墜ちた花弁は朽ちていた。
此の時期になれば、必ず訪れる須臾の別れ。もう数える事すら諦める程経験した。それでもやはり、此の別れを惜しまずには居られない。又咲かせれば良いではないか、と簡単に言う者も居る。しかし、今年此処で根付き、育ち、花を咲かせたのは、他でもない此の花なのである。来年又咲くであろう花とは、全く持って別物なのだ。
幽香は項垂れる向日葵に歩み寄り、日輪のコロナに位置する部位から種子を取り出す。まるで赤子をあやすかの様に優しく、其れをコロリコロリと掌の上で転がす。母親の様な笑顔で種子に微笑みかける。又必ず来年も向日葵達が咲き乱れる事を、心から信じて。しかし、其の瞳から一滴の泪が零れ落ちていたのは、幽香を見下ろす向日葵達にすら、見えていなかった。
乾いた大地が潤う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夏が、終わる。
妖怪の山。昼と変わらず蒸し暑いのだが、油蝉は鳴りを潜めリンと蟋蟀が鳴き出す夜半。
「あ、お姉ちゃん。見て見て?」
「あら、綺麗な秋桜ね、穣子」
豊穣の神・秋穣子と紅葉の神・秋静葉は、寝苦しさから夜の散歩へ出ていた。とはいえ、山の妖怪達が怖いと云う、肝っ玉の小さい彼女等は自宅の周囲をクルクル回っているだけである。神が妖怪を恐れるとは、何とも滑稽で、天狗が飛び付きそうな話である。
其の時見つけた小さな秋。薄い赤紫をした花弁を一生懸命に伸ばしている秋桜は、何時の間にか秋姉妹の自宅の縁に根を張っていた。
「夏は何時まで続くのかしら……。」
「心配しなくても私達の季節は、もうすぐよ。」
「フフ……そうね。さ、そろそろ寝ましょうか。」
陽は墜ち、地面から伝わる熱も冷め、本来なら過ごし易い時間帯の筈だ。しかし、感じるのは身体中に残る熱と、べとつく汗の感覚だけだ。それ故に姉妹は、自分達の性を冠する季節を心待ちにしている。彼女等を見上げる秋桜も秋を待ちわびているだろう。自分の美しさは秋本番まで取っておこうとしているのか、ひっそりと静謐に咲いている。
外気を幾分か取り入れて涼しくなった屋内へと二柱は消えて行く。より一層厳しさを増す残暑。暫くの間は太陽も全力で大地を照りつけ続けるだろう。
二柱が家入った瞬間、風が吹いた。其れは、夏の暑さを含んだ空っ風ではなく、秋の涼しさを含んだ清涼な風だった。
乾いた空気が棚引く。
… … …
秋が、始まる。
夏が終わり、秋が始まる、長月初旬の景色。四季の彩り、うつろい豊かな幻想郷ならではの題材と申せましょう。秋・夏、各々の季節を代表する「秋桜」と「向日葵」、闇と日差し。それぞれが静動の対照をお書きになるその御姿勢はたいへんすばらしいものと存じます。
しかしながら、本作品における秋・夏の対比は、僭越ながら、やや舌足らずと申さざるを得ません。はっきり申せば、描写量が不十分でございます。ヒマワリからこぼれ落ちる花弁ひとつひとつの形をお描きになるなどされてはいかがでしょう。また、後半部が蒸し暑いのか涼しいのか、若干混乱されているように思われます。
わたくしたちはなにげなく過ごしてしまう季節の変わり目でございますが、月日は百代の過客にして、行き交ふとしもまた旅人なりと、古人の申すところに耳を傾けますと、また違った感慨が生まれてまいります。幻想郷では、人々や妖怪ども・御神々はきっと、わたくしたちとは異なった感覚を持って暮らしているのでしょうか、風の音にぞおどろかれぬる――そんな生活を送っているのかも知れませんね。またあいましょう。では。
ですが、もう少しその空気に引き込んで欲しかったように思います。
文章量であったり、構成であったり。ぜひ、もっとじっくりと読みたい。
次回作もこっそり期待します。
残暑野郎との先の見えない闘いという名の独り相撲を取り続ける私にとって
このお話は良いインターバルになりました。それと地味に秋姉妹が可愛い。
あ、作者様のお名前を見て唐突に水風呂に入りたくなりました。
それではまたいつか。これからも頑張って下さいね。
> それ故に姉妹は、自分達の性を冠する季節を心待ちにしている。
性→姓かな?
次も期待だよー
次回作にも期待しています。