夏の縁側。
じりじりと照りつける太陽光も、屋根に遮られてそれなりに涼しい空間。
眩しいくらいに陽光を反射する庭、そしてその向こうに広がる竹林を眺めながら、蓬莱山輝夜は小さなため息を一つ。
「ん~……」
縁側の淵から投げ出した足をぶらりと振った。
それから彼女は何かに思い悩むような声を発しつつ、手元を見やる。屋根からはみ出してきた日差しを浴びて、ぎらりと光る鋼の刃。
とは言ってもそう物騒な代物では無い。どこにでもあるハサミである。
輝夜はそのハサミを閉じたり開いたり、暫し手元でいじくったかと思えば、肩から下がったその美しい黒髪をトントンと叩いてみたり。
その時、廊下を通りかかる人影。
「姫様、どうされました?」
月兎、鈴仙・優曇華院・イナバ。少しだけ垂れた長い耳をぴくりと揺らし、輝夜の傍へ寄る。
輝夜はやや驚いたように肩を竦ませ、首だけ動かしてその顔を見た。どちらかというと、その視線はぴょんぴょんと跳ねる耳に向いているようでもあるが。
「ど、どうって?」
「しきりに髪の毛を気にしておられるようですし。それに、さっきからハサミを持って……危ないですよ?」
どうやら、どこからか輝夜の様子を見ていたらしい。
あれ、と鈴仙は含み笑いのような表情になって続けた。
「もしかして姫様、髪の毛を切りたいとか……」
「あ、え、えっと、そのね」
「もしよろしければ、私にお任せしては頂けませんか?こう見えて、経験あるんですよ。てゐの髪の毛とか切ってあげたことも一度や二度じゃ」
焦り、次の言葉が出てこない輝夜。弁解しようにも、鈴仙が何ともキラキラと目を輝かせているので余計に口が開かない。
”姫様のお役に立てるチャンス”と言わんばかりに、身を乗り出して強く押し込んでいた鈴仙は、ふと我に返ったように正座。
「あ、でも……私なんかじゃやっぱり不安ですよね。申し訳ありません、姫様のお気持ちも考えずに……」
しょぼん。みるみる垂れていくウサミミ。先よりもさらに慌て、輝夜は思わず立ち上がった。
「ま、待って!それじゃあお願いするわ。やってくれる?」
言い、正座に戻る。その瞬間、ぴーんと元気を取り戻すウサミミ。
「はい、お任せ下さい!今準備しますから、少々お待ちを!」
声を弾ませ、鈴仙はとてとてと廊下を駆けていく。
嬉しさ半分、困り半分といった顔で残された輝夜はもう一度ため息。先のものより、幾許かは軽いものだった。
それから十分後には、切った髪を避けるためのシートまで完備し、鈴仙は指先で輝夜の髪をそっとまとめ、櫛を通していた。
「わぁ、櫛いりませんね。綺麗でつやもあって、うらやましいです」
「そ、そう?ありがとう」
褒められれば悪い気はしないが、先程からずっと櫛を通しつつ鈴仙が心地良さそうに髪を撫でてくるのでくすぐったい。
このままではいつまで経っても始まらない。が、本人もそれは気付いたようで『いけない』と小さく呟いた。
「じゃ、始めますね。何かご希望とか……」
「お願いね。えっと、全部任せるから」
「はい!では、失礼します」
表情を引き締め、ハサミを握り直す。
櫛に髪を通し、先端から荒くならないよう少しずつハサミを入れていった。
しゃき、しゃき、と音がする度、輝夜の身体に巻かれた、或いは縁側に敷かれたシートに黒い模様が刻まれていく。
「ん、もうちょっと切るべきかなぁ」
一人ごちて、鈴仙は再びハサミを動かす。しゃき、しゃき。
あくまで少しずつ、ハサミで絹のような黒髪を削っていく。さながら彫刻のよう。
「かゆい所とかございませんか~?」
「それって頭洗うときじゃない?」
「あはは、そうでした」
互いに口を動かしつつも鈴仙の手の動きは止まらず、切り離された髪が床のシートに積もってゆく。
しゃき、しゃき。
「前髪は……だいじょぶそうですね。もう綺麗にまとまってますし」
「そうかな」
いつしか一時間もの時が流れ、月兎の散髪屋も店仕舞い。
「はい、おしまいです!姫様のお気に召したらいいんですけど……」
その仕上がりは、見る限りは普段の髪型とあまり変わらない。しかし、普段よりもやや伸びていた髪を綺麗に腰の辺りで切り揃えてある。
経験有り、の言葉は伊達では無かったようだ。微かにだが、内側へカールするように整えてあるのも見逃せない。
普段の輝夜はぴっちり横一線に揃えてあるので、変化を付けてみたくなったのだろう。
「え、ええ。上手じゃない。ありがとう」
「いえいえ!またご入用の時はいつでもどうぞ!姫様に限り常時無料でサービスしますよ?」
「他の依頼はお金とってるの?」
「いえ、現物です。おやつとか」
おやつの人参入りロールパンをてゐから渋々分けてもらう、満面の笑顔の鈴仙。
その光景があまりにナチュラルに想像出来たので、思わず輝夜は声を上げて笑ってしまった。
「それでは、失礼します!」
ぺこりと深く一礼し、鈴仙は散髪道具をまとめて縁側を去った。
彼女が小さい箒できちんと掃除してくれたので、肩に切った髪の毛が残っている事も無い。
だが、一人になった途端に輝夜は再びため息をつく。
「あの子には悪いけど……」
・
・
・
ばさばさ、と切った髪が残るシートを勝手口で広げる鈴仙。
「よぉし、これでおっけ」
呟き、シートを畳む。
(姫様、喜んでくれたみたいでよかった。けど、どうして自分で……)
中へ戻り、廊下を歩きながら鈴仙はふと考えた。
輝夜が髪を切っている所は殆ど見た事が無い。師たる八意永琳の話では、最近は気分で里の美容師に頼んだり、永琳に切ってもらっているとか。
髪が切りたければ、切ってくれる場所へ行くなり、依頼するなりすればいい。自らハサミを握る必要など無い筈だ。
考える内、鈴仙はある事を思い出した。
(あっ、姫様が持ってたハサミ……私が戻してこようっと)
髪を切るという目的は達成されたのだから、もうハサミは必要無い。
輝夜が持ち出した物だろうが、姫である彼女に足労させる訳にはいかないと思い鈴仙は縁側へ。
自分が預かって、戻してくるつもりだった。
(姫様は……まだいる、よかった)
もう輝夜自身が戻しに行ってしまったかも知れないと考えていたが、どうやらあの場所から動いていないようで何となく一安心。
(もしかして、褒めてくれるかな?)
そんな事を考える鈴仙の顔はいつしかゆるゆる、にやけるような笑みを抑えられない。
輝夜は配下の兎達を褒める時は、必ずその頭を撫でる。小さな手だが、まるで母親のような温かさを感じるとか。加えて優しい笑顔までセットでついてくるのだから、こぞって兎達は輝夜の役に立とうとする。
鈴仙のこの行動も褒めてもらう、そして頭を撫でてもらうのが一番の狙いだというのはトップシークレットだ。
ウサギは寂しいと死んでしまうのである。
「ひ……」
めさま、と言いながら縁側へ出て行こうとした鈴仙だったが、ぴたりとその足が止まった。
輝夜は確かに、その手にハサミを手にしている。しかしそのハサミを持った右手をおもむろに上げ、ぐいっと首の後ろへ持っていくという行動はさしもの鈴仙でも予想外。
まるで捕食体勢に入った鮫の如くに、ぐわっとハサミが開かれる。
左手でむんずとその綺麗な黒髪を握り、その束めがめて開いたハサミを―――
「ひ、姫様だめぇぇぇぇ!!」
竦んだ足を動かし、鈴仙は飛び出した。
その突然の登場に驚き、動きを止めた輝夜に半ば飛びかかるようにして、彼女はハサミを奪い取ろうとする。
「は、離して!」
「何をお考えですか!?そんな事しちゃだめですってば!」
輝夜の魅力の一つである、その長い髪をまるまる切り落とそうとするという凶行。黙って見ていられる筈が無い。
本人の物なのだから好きにして良いなんて屁理屈はまかり通らない。
「落ち着いて、くだ……さいっ!」
「あっ!」
十数秒の乱闘の果てに、とうとう鈴仙は輝夜の手よりハサミを奪取。
「はぁ、はぁ……まったく、一体何のおつもりですか?」
「むぅ~……」
問い質そうとする鈴仙に対し、輝夜は何とも不服そうな膨れっ面でじと~っとした視線を投げてくる。
かと思えばいきなり立ち上がり、彼女に背を向けて廊下を駆け出す。
「ひ、姫様ぁ!お待ち下さい!!」
大慌てでその後を追う。手近な部屋に駆け込んだのを確認し、続いてその部屋へ。
戸棚から今まさに別のハサミを取り出そうとする輝夜を発見し、再び跳躍。
「だめです!!」
輝夜と棚の間に割り込み、彼女が取り出しかけたハサミを先に取り出してブレザーのポケットへ。どうにか阻止成功、かに思えた。
しかし輝夜はそれでも諦めず、踵を返して部屋を飛び出すのであった。
(ど、どうしよう……)
何のつもりかなんて分からないが、このままではあの綺麗なロングヘアーが失われてしまう。
輝夜のお抱え散髪屋になって、毎月あの黒髪を撫で回そうと密かに計画していた鈴仙としては、それだけは避けねばならない。
それが己の付き従う輝夜の意思であっても。
「……姫様を止めなくちゃ!」
・
・
・
いくら部屋数の多い永遠亭でも、ハサミの置かれた部屋は限られている。
鈴仙は持ち前の機動力で先回りし、大方日常的に使用されるハサミを全て回収した。
「よし、後は……」
これで心配は無い、ような気がする。だが、それでも漠然と残る不安が、彼女に”まだ闘争は終わっていない”と告げていた。
そんな折、縁側から輝夜の姿を発見した。彼女は庭に出、片隅に建てられた小さな小屋へ。
「あそこは物置……ま、まさか!?」
飛び降りると同時に靴を履き、鈴仙は再び駆け出した。目指すは物置小屋。
輝夜より数秒遅れて突入し、彼女が今まさに開こうとしていた工具箱を横合いから奪い取った。
「あ……」
「やっぱり!この糸ノコギリが目当てですね!?」
工具箱を開くと、そこには手入れされて鋭く光る糸鋸。
「こんなので切ったら、姫様のキューティクルがめちゃくちゃになっちゃいますよ!いけません!」
「……じゃあ……」
そこからの行動は、まさに電撃戦。素早く身を翻し、棚の上にあった鋸を手に取る輝夜。
瞬時に手刀を繰り出し、その鋸を跳ね飛ばす鈴仙。それが床に落ちる前に、輝夜は足元にあった鎌を足で跳ね上げる。
しかし鈴仙の回し蹴りがそれをキャッチさせず、壁に叩きつけた。
ならば、と輝夜は一回転して物置の奥へ侵入、手近にあった箱から彫刻刀を三本取り出す。
だが、鈴仙の指先から放たれた弾丸が正確にそれを弾き飛ばした。軽快な音を立て、それらは壁に突き刺さる。
「……や、やるじゃない」
「姫様も……それより、もうおやめ下さい。もし手元が狂って、姫様にお怪我でもさせてしまったら、私……」
「心配してくれるの?私は不死身なのよ?」
「関係ありません。姫様が傷つく。痛い思いをする。もたらされる結果ではなくて、それが私には耐えられないくらい嫌なんです。
ですから……」
「ふふ……優しいのね。罪人だった過去を持つのに、こんなに心配してくれる子が傍にいるなんて、私は幸せ者……」
「姫様、私は……って、言いながら新たな刃物をサルベージしないで下さいッ!!」
うっかり涙で滲みかけた視界の向こうで、輝夜はどっからか鉈を取り出していた。
再度のスナイピングにより、その鉈はあえなく天井までぶっ飛ぶ始末。
「ん~……もうないのかな?かな?」
「何ですか、その口調……それより、もう主な刃物はありませんよ。そろそろ、降参して……」
「甘いわねイナバ!私の旅はこれで終わりじゃあないっ!」
その時、鈴仙はある事に気付いた。隅に追い詰められた形の輝夜。その壁際に、不自然に突き出た物体。
輝夜がそれを掴み、がこんと下へ。どうやらレバーになっているようだ。
「ふふふ……開け、倉庫の扉!エターナル・インダストリィ!」
「あっ!」
ぱかり、と開く時空の壁 ――― じゃなくて物置小屋の壁。そこからひらりと跳躍し、輝夜は華麗にエスケープ。
足元に転がる荷物をジャンプで飛び越え、鈴仙もその後を追った。
「姫様ぁぁ!どこでそんな知識を仕入れたんですか!?」
「紅魔館で自費出版されてた小説よ!名無しの大妖精が我が身一つで巨悪と戦う冒険活劇、その名も『大・はぁど』!!」
「何ですかソレ!!」
まだまだ続く追いかけっこ。しかし、鈴仙は一旦追うのを止めた。
(もうハサミはないし、物置の刃物類も全部おさえた……となると、すぐ思いつく場所には髪の毛をカットできる代物はない)
ただ追いかけるより、周りを固める事にした。その為には、相手より先に永遠亭に点在する刃物の存在を気取り、隠さなければならない。
当初の目的も忘れ、すっかり頭脳戦モードの鈴仙。そんな彼女に、不意に声が掛かる。
「れ~せ~ん。こんなトコでなにしてんの?」
子供っぽい声に横を見やれば、月兎とはデザインの異なる丸っこいウサミミをぴょこりと跳ねさせて因幡てゐ登場。
その手には、いかにも『買い物に行ってきましたヨ』と言わんばかりの手提げ袋が二つ。
「大丈夫?汗すごいけど」
「な、なんでもないの。それより、どこ行ってきたの?」
「んとね、お買い物」
そう答え、てゐはごそごそと袋を探る。何を買ってきたのか、見せるつもりらしい。
何だろう、と鈴仙が考える前に、ずる~り、と長い柄が飛び出してきた。
「ほら。お庭のお手入れメイト、高枝切りバサミ」
「だめぇぇぇ!!」
電光石火と言える素早さで、鈴仙は高枝切りバサミを奪い取っていた。
「ちょ、いきなり何さ!人斬りをやめる人のために、刃を逆刃刀に代えられる優れモノなのに!」
「ご、ごめんね。けど今刃物は……って、そのオプション意味あんの!?ハサミでしょ!?」
「他にも、刃先にナイフやコルク抜きや爪切り缶切り、ヤスリに洗濯板にホチキスの針を抜くアレなんかを取り付けられるんだよ!」
「使いにくいし使い所が分からないし、刃先程度の洗濯板じゃ靴下も洗えないし、そもそも針抜きだけって……」
「本来の用途以外にも使えるマルチプルカッターなの!本に挟めばしおりにだってなるって言うから買ってきたのに、大切に扱ってよ!」
「危ないわこんな長くて鋭いしおり!普通の使うよ!本のページより指切れるわ!」
このてゐと面と向かって話していると『これ一本で、今日から君んちの庭と台所がベルサイユに早変わりさジョニー!』『わお、こいつはすげぇやボブ!』という謎の会話が頭を過ぎってしまう。
しかし彼女との漫才をよそに、鈴仙は先程から視線を感じていた。
そっと振り向けば、縁側の片隅で輝夜が柱から顔だけを出し、こちらの様子をじぃっと窺っているではないか。
やはり刃物狙いか。
「と、とにかく。これはちょっと私に預からせて」
「ふぅん。まあいいや、あとはね……カミソリ、しかも四枚刃のすごいやつが」
「そぉい!!」
瞬時に繰り出された、華麗なサマーソルトキックによって宙を舞うカミソリ。しっかりキャッチし、鈴仙はてゐに詰め寄る。
「ちょっとぉ!なんでこんな日に限って刃物のバーゲンセールなの!?鍛冶屋が新装開店したとかそういうアレ!?出ます出します取らせます!?」
「そ、そんなこと言われても、お師匠様のおつかいだから」
「第一、カミソリなんて何に使うのよ!」
「さあ。でも、『万が一を考えて周到な準備をするのが策士のやること』って言ってた」
「女の子しかいない永遠亭でどう出番があるって言うんじゃー!」
アイドルはヒゲ生えないもん。と言いたいが、八意永琳は天才。本当にヒゲが生える事を予見している可能性も捨て切れない。
むしろ壮大なるヒゲティック2D剃放題(そりまくり)シューティングの幕開けを瞬時に想像してしまう鈴仙。そう、”東方ヒゲイ夜抄”誕生の瞬間である。
『剃り残すって……剃るか残すか、どっちかにしてよ!』
『あ、青少年発見。わたしが青ヒゲにしてあげる!』
『なんで顎だけ残して植毛する必要があるんだよ。植毛は全体だ』
『あんたらを、二枚刃のすきまに落とし込む!』
『お前の場合は、迷惑な『永久脱毛』だろ?』
『剃符「無剃刀負三枚刃 」』
『さあ、幻想郷のブラウン・モーニングリポートはもう目の前にある!』
『難題「世界一強い配管工のヒゲ」』
EXステージでは真っ白なヒゲに赤い服のアイツが登場!どう聞いてもサンタさんです本当にありがとうございました。
想像するだけでチクチクする妄想の世界より帰還した折、鈴仙はてゐの持つもう一つの手提げ袋が異様に膨らんでいる事に気付く。
嫌な予感しかせず、尋ねた。
「ねぇ、そっちの袋は?」
「これ?香霖堂に行って買ってきた骨董品だよ」
「こっとうひん?」
意外な単語に目を丸くする鈴仙。てゐは幾許得意そうな顔になり、袋に手を突っ込む。
「見る?すごいんだから」
どうやら柄のような部分を掴んだらしく、そのまま一気に引っ張り出した。
妙にデカく、そして黒光りする禍々しい凶器が白日の下に晒される。どす黒い気を放ち、その刃の輝きは魂までをも凍りつかせるような―――。
「太古の昔、強大な悪魔を断ち切ったとされる伝説の武具、タルカスの斧だよ」
「オー!ノーッ!今の私が嫌いな言葉は、一番が『刃物』で二番目が『切断』なんだぜーッ!」
被弾した事よりも、輝夜に『可愛いわね』と褒めてもらった服が破れる事を怒りそうな口調で鈴仙は絶叫した。
「なんつー代物を置いてるのよあの古道具屋は!?てゐもそんな物騒なモン買わないの!お金とかどうしたのよ!」
「え……わたしのポケットマネーで。趣味だし。お釣りでおまんじゅう食べながら帰ってきたよ。
血文字で”P”って書き足されてる剣と迷ったんだけどね」
仔兎のポケットマネーで易々と、しかもお釣り付きで買えちゃうような斧で葬られた古の悪魔。鈴仙は無性に空しい気持ちに襲われた。
きっとその外見は絵本に出てくる虫歯菌みたいなヤツに違いない。
狙いすましたかのようなカッティングパーティに頭痛を併発しつつも、彼女はてゐに尋ねた。
「はぁ……で、もうない?」
「刃物は。あとは本が一冊」
「そう、良かったぁ」
「これだよ。えーと、『十分で習得できる、手刀でビンを切断する方法!今日からあなたも怪盗クイ―――』」
「オ・ルヴォワールッ!」
瞬時に本を奪い取る鈴仙。野良猫のノミ取りが趣味な怪盗で無くともそのくらいは出来る。
「ぜはー、ぜはー……とにかく、今はちょっと取り込み中で。姫様に近づけないためにも、これらは私が預かります」
「う、うん。よく分かんないけど、がんばって……わたしは、あれだ。ごはんの支度してくる。斧はあとで返してね」
食事当番は兎達のグループによる交代制、この日はてゐもシフトに組み込まれている。
妙なテンションの親友に頭を悩ませつつ、てゐは台所へと向かった。
一人庭に残された鈴仙は、後ろを振り向く。輝夜の姿はもう無かった。
・
・
・
回収した刃物を全て自室へ放り込み、しっかりと施錠して鈴仙は一息ついた。
「これでよし……後は何があるかなぁ」
意味も無く辺りを見渡しつつ、思考を巡らせる。
稀に外科手術を執り行う永琳のメスなども視野に入れたが、流石に師匠の医療器具にまで手を出す訳にはいかなかった。そもそも、おいそれと手の届く場所に置くような迂闊な人物では無い。
う~ん、と唸りつつ考える鈴仙の鼻を不意にくすぐる、出汁の芳香。
(お。今日のお味噌汁、具は何かなぁ)
思わず夕食へと意識が向いてしまうのは、夕方のいい時間だからだろう。兎だって腹は減る。
しかし、考える内にニンジンでダシを取ったら美味しいだろうかなどという妙な方向へ向かい始めていた鈴仙の頭を無理矢理引き戻す、閃き。
「あっ、包丁!」
迂闊だった。ハサミの次くらいに身近な刃物の存在をすっかり忘れていた。
(まあ、てゐたちがいるから簡単には取られないよね。一応見に行くか……)
落ち着きを取り戻し、鈴仙は早足で台所へと向かう。
その一方で、小さなウサギ達がちょこまかと動き回る厨房は戦場も戦場、紫外線照射装置があっても生き残れないともっぱら評判のスターリングラード戦線の如き様相を呈していた。
「ちょっと、皮むき器どこー!?」
「ニンジン一本少ないよ!だれが食べたの!?」
「ダイコンのかつらむき練習は今度にしてよ!食べるとこほとんどないじゃん!」
「きゃー!たなからしょうゆがー!」
「たなからみりんがー!」
「しおがー!」
「さとうがー!」
「ガオガイガー!」
「チューボーはセーケツでないとイケないのデスよっ!早くふいて!」
野菜の皮と調味料の雫が乱れ飛び、ぴょこぴょことウサミミが右往左往する。
そんな最中、器用な手つきでざくざくとキャベツを千切りにしていくてゐ。周りの兎達も、惜しみない賞賛の目線を浴びせていた。
「うまいね~」
「へへん、こういう細かな作業はてーちゃんにお任せよ!さ、次は?」
三玉あったキャベツをあっという間に千切りへと変え、てゐは意気込んで次なる獲物を探す。
その時、びろんとまな板の上に乗ってきた細長い陰。色は黒。
「うん、わかめ?今日のおみそ汁はとうふとアブラゲじゃ」
言いながらも切断せんと包丁を軽く振り上げ、ちらとまな板の横を見る。
「はろー。あ、気にしないでね」
セクシーポーズで横たわる永遠亭の最重要人物と目が合った。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
文字通りの脱兎の如き勢いで、てゐは厨房の隅へV-MAX。
「ああんもう、ちゃんと切ってよ」
ぷぅ、と頬を膨らませる輝夜は、言いながらも自身の長い髪をきちんとまな板上で真っ直ぐに整える。
しかしそれと同時に、厨房の扉が開いたかと思うと鈴仙が転がり込んで来た。
「今の悲鳴は……あっ、姫様!何してるんですか!?女体盛りは今の時期痛みが早いから冬じゃないと……」
「ちょ、ストップストップ。落ち着きなさい。私は裸じゃない。アンダスタン?」
「はぅ、私とした事が。それより、早くその包丁どけて!」
鈴仙の大声に、傍にいた仔ウサギAが反射的に包丁を掠め取る。
それを手にしたままどうしてよいやら、な彼女から包丁を受け取り、鈴仙は辺りを見渡しつつ言った。
「早くみんな、この厨房にある刃物全部回収して!!」
「なんで?」
「?」
展開の早さについていけず、小首を傾げる仔ウサギ's。その間にも輝夜は寝たままの体勢で別の包丁を探している。
「ああもう、早くしないと姫様が髪の毛切って出家しちゃうの!」
「しゅっけ?」
「ひめさまおやすみ?」
「……休憩?」
「けっこんするのー?」
「ブーケ」
「じごくできくもの」
「いいわけ」
「ちゃくらむしゅーたー!」
「ヒュッケバイン!!」
埒が明かない。鈴仙は吼えた。
「うだー!出家ってのはねぇ!頭マルボーズにして『ナムサンダー!ナムサンダー!』って唱えながらマッスルポーズでお寺にタッチダウンするコトよ!!」
「さんだー!?らいさんだー!?」
「ひめさまハゲちゃうの!?」
「そうよ!それがイヤなら早く集めて!!ハリー!!」
鈴仙の号令で一斉に厨房中へ散らばったウサギ軍団は、あっという間に全ての刃物を掻き集めて戻ってきた。
各種包丁、ヘタ切り用バサミ、皮むき器に果ては下ろし金まで。その一方で数人は輝夜自身を直接押さえ込む。
それに留まらず、無邪気な仔ウサギ達によるくすぐり地獄のオマケつき。
「きゃ、きゃははは!やめてぇぇ!くすぐらないでぇ!」
「どーだー!まいったかー!」
「ここかー!ここがええのかー!」
「はうっ!えびばでだんすなうっ!!」
どこか秘孔でも突かれたか、びくりと身体を震わせる輝夜。やがて、くたーっとまな板の上で静かになった。
「ふぅ、どうにか一段ら……あれ?そういやてゐは?」
きょろりと厨房を見渡せば、隅っこで鍋を被りorz状態でガタガタ震える、頭隠して怪人シリマルダシ状態のウサギが一羽。
「ちょっと、てゐー?大丈夫?」
「こあいよぉ……わかめがこあいよぉ……姫様が輪切りのソルベになっちゃうよぉ……」
「ありゃりゃ、これは完全にタイガーホースね。けど、正しく言うなら輪切りのカグヤかしら」
どうしたものか、と首を捻る鈴仙。しかしその時、成り行きを見守っていた仔ウサギAが不意に食料の入ったボックスを漁る。
何かを取り出すとそれを後ろ手に隠し、ガタガタ震えるてゐの背中をつっついた。
「ね、ね」
「……もう大丈夫?」
そっと鍋を取り、後ろを振り返るてゐに向けて、彼女は持って来たばかりの”それ”を差し出した。
「はい、これでげんきだして!」
びろーん。溢れ出す磯の香り。
「いっ……いやああぁぁぁぁぁ!!わかめいやー!コンブ目いやー!!チガイソ科いやー!!褐藻綱いやー!!不等毛植物門いやぁぁぁ!!」
実にためになる悲鳴を上げつつ、てゐは疾風のようなスピードで厨房から逃げ出していった。
『あれぇ?』とでも言いたげな表情でこれまた首を傾げる仔ウサギA。鈴仙がその手元を見ると、立派なわかめ。
「てゐ、わかめ怖がってたじゃない。どうしてわざわざ突き出したの?」
「え。だって、こわがってるものはほしがってるものだって、ひめさまが」
「ああ」
ポン、と鈴仙は手を打った。輝夜がよく、自分の好きな落語を周りにいたウサギ達に聞かせていたのを思い出す。
直接的にてゐへトラウマを植え付け、間接的にその傷口を抉った当の本人は、まな板の上で時折びくんと震えながらヨダレを垂らしていた。
・
・
・
・
・
夕食の間も、輝夜はどこかそわそわと落ち着かない様子。
鈴仙が時折視線を感じて顔を上げると、いつも輝夜が慌てて顔を逸らしていた。
(ごはんつぶでもついてた?)
そう思い頬を触るが、異常は無い。
そうこうしている内に夜も更け、殆どの住人が眠りに着いた永遠亭。
耳を澄ませば、虫の音に混じって皆の寝息が聞こえてきそうな縁側。昼間の暑さも多少はなりを潜めている。
垂らした足をぶらりと振って、輝夜はそっとため息をついた。見上げれば、雲間から黄金色の月が覗く。
不意に、背後で微かな物音。長年の経験からか、すぐに分かった。
これは、足音だ。それも、兎の。
「姫様……」
聞き慣れた声。その声を聞くと、何故か無性に心が安らぐ。
鈴仙の立てる足音は、彼女のすぐ後ろで止まった。
「お休みになられないのですか?」
「ん~、もうちょっと起きていたい気分なの」
「そうですか……いえ、私としてはその方がありがたいんですけれど」
「?」
彼女の意図を汲み取れず、輝夜は足を引き上げると正座になり、振り向く。
鈴仙はその横にそっと膝をつくと、手にしていた物を輝夜へ差し出した。少しばかり驚いたように、目が見開かれる。
「これ……」
「やっぱり、姫様のお気持ちを一番に考えないといけませんから」
月明かりの反射が目に突き刺さる。昼間も彼女が手にしていた、一本のハサミ。
しかし、輝夜はそれを受け取ろうとしない。そのまま十秒くらい硬直していただろうか、再び鈴仙が口を開いた。
「……ただ、一つだけ。私のお願いを聞いて頂けますか?」
「……何かしら」
輝夜はその目線を、鈴仙の手元から顔へ向ける。
「理由です。どうしてずっと長いままでいた髪を、切ろうとお思いになられたのか……私に、その理由を教えて下さい」
「……聞きたいの?」
「はい。とっても」
「つまんないわよ?」
「姫様のお話なら喜んで」
「……むぅ」
持て余すように、肩にかかった髪を指でくるくると巻く輝夜。
そのまま暫く押し黙っていたが、ふと見れば鈴仙はまだ彼女の事をじっと見つめている。
「……はぁ、分かったわかった。そんな目しないでよ。時間の無駄だった~、なんて後で言われても払い戻しは受け付けないからね」
「私のじゃなくて、姫様の貴重なお時間ですから。むしろ買わせて下さい」
肩を竦める輝夜に、鈴仙は笑顔で答えた。
「変な子」
呟く輝夜の表情は、どこか嬉しそうにも見える。
・
・
・
真面目な顔になって、輝夜はゆっくりと口を開く。
「――― 8センチメートル」
「はい?」
「何の事だか分かる?」
8cm。いきなりそんな数字を出されても、分かる訳が無い。今日の夕食に出た、切り損なって連結されていた沢庵の長さ、では無かろう。
「……いえ」
だから鈴仙は素直にそう答える。すると、輝夜は自分の頭をポンと軽く叩き、言った。
「私と初めて出会ってからの、あなたの身長。8センチ伸びたのよ」
「な……なんで分かるんですか?」
嘘を言っているようには見えず、鈴仙は驚いて尋ね返した。自分の身長なんて、とうに伸びなくなったと思っていたから気付けない。
しかし輝夜はさも当然とでも言いたげに微笑む。
「それくらい分かるわ、それなりに長い付き合いだもの。ついでに言うと、胸も結構大きくなったわね」
「え」
途端に顔を真っ赤にした鈴仙を見て、くすくすと輝夜は声を抑えつつ笑った。
「も、もう!からかうのはやめて下さい」
「ホントだもの。それにしても、あなたと話してるとリアクションが楽しくてねぇ。飽きないの。
……で、どこまで話したっけ」
「……私の身長とかが、姫様と初めてお会いした時に比べて大きくなっていたという」
「そうそう、それ」
暫く笑い続けていた輝夜は最後に、はぁ、と息をついて再び真面目な顔に戻る。
「あなたは妖怪だから、気付きにくい変化だろうけれど……人間。そう、”真っ当な”人間なら、もっとずっと顕著よ。
例えば霊夢とか、魔理沙とか……あの辺のは私と会ってまだちょっとだけれど、かなり背が伸びてる。
元が小さいから今はまだ私のが少しだけ大きいけど、来年か再来年には抜かれるんじゃないかしら」
「はあ」
言われてみればそうかも知れない、と鈴仙は思い返す。人間の成長は早いものだ。特に、桁外れの寿命を持つ妖怪にしてみれば。
しかし、今の話にどうリアクションして良いか迷った彼女は、とりあえず続きを促した。
「それで……」
「うん。人間は成長するもの。動物も植物もそうだし、程度の差はあれど妖怪だってそう。
……けれどね。いくら月日が流れても、全然成長しない奴がここにいるの」
「あ……」
初めて会った時から変わらない。そう、全く変わらない。
いつまでも大して高くない身長のままの、かぐや姫。
「もう千年以上も生きちゃったから、もし成長が続いてたら屋根が足りなくなっちゃうから仕方ないけれど。
人間は成長して、やがては老いていつかは果てる。それが当たり前。けど私は違う。
今まで永く生きてきて、関わったほんの少しの人々は皆私より大きくなって……私より先に、いなくなった」
輝夜は細い指を組み、そこに視線を落とす。
「人間五十年、なんて句もあるけれど……人々は限られた時間の中で生きてる。私は違う。
十年も一緒にいれば、明確な身体の変化が見て取れる。私は違う。
百年もすれば、雲の上から残された者を見守る存在になる。私は違う。
人の命の時計はとても正確に時間を計っていて、いつかは止まる。私は違う。
私の時計は、いつまでも動いたまま。それも、すごくゆっくり。周りの時計だけがどんどん進んで……壊れていく」
ため息と共に、輝夜は夜空を見上げた。月は雲に隠れて見えない。
「私は、変な能力を持ってる。それで時間を操るマネゴトも出来るけれど……。
それじゃ、だめ。私の時を止めても、世界の時は止まらない」
「………」
鈴仙は黙ったまま、輝夜の独白に耳を傾ける。
その声色はあまりに痛切で、耳を切り刻まれるような感覚。
「壊れない時計を抱えたまま、私は周りの人達が消えて行くのを見ているしかできない。
少し前までは一人ぼっち……じゃないけれど、永琳くらいしか一緒にいてくれる人がいなかった。
今は、あなたがいる。イナバ達もいる。永遠亭を出れば、私にも分け隔てなく弾幕をぶつけてくれるみんながいる。
正直に言って、今がすごく幸せ。けど……」
「けど?」
「どんなに私が愛した人達でも、神様は特別扱いしちゃくれない。やがていなくなるわ」
首が疲れたのか。それとも、泣きそうになった顔を伏せたかったのか。輝夜は視線を下へ戻す。
「……でね。私、身体の成長は止まってるけど、元々は人間みたいなもんだから……代謝は続いてるの。
つまり、汗もかくし爪は伸びる。そして、髪の毛も。そこくらいしか、私が人間だって言える部分はないもの」
どこか自嘲的な哀しい笑みを浮かべて、輝夜は自身の髪に触れる。
「だから、言わばこれは砂時計の砂。成長できない私の、唯一と言っていい変わる部分。
今まで、何回切ったか分からない。伸びては切り、伸びては切り。それだけ、私は多くの時間を生きてきた」
輝夜の顔が、微かに強張る。そろそろ笑顔を作るのも限界なのかも知れない。
「私はね……わたしは、もうイヤなの。みんなだけが変わって、やがてはいなくなって……私だけは、そのまんま。
あなたが、イナバ達が、一緒にバカ騒ぎしたみんなが、過去になっていく。
『みんなに会いたい、会いたいよ』って叫びながら、いつまでも歩き続ける。
生きてきて一番幸せな今の時間ですら、雑多な物と一緒くたになって、時の隙間に埋もれていく……」
日が昇り、また沈めど。月が何度、姿を変えても。”今日”がまた、降り積もっていく。
「気付いたら私は、誰かが世界の時を止めてくれるのを待ってる。この幸せな毎日が、永遠のものになって欲しいって。
それでも私の髪は伸びる。流れた時間を誇示するように。無駄だと嘲るように。
目を閉じても耳を塞いでも、いくらイヤだと言っても。だから私は、髪を切りたかった。
流れた時間の証を消し去れば、時間も元に戻らないかな……なんてね」
それは言わば、時計の針を自らの手で戻す行為。
見た目には巻き戻ったように見えても、時は決して戻らない。
「髪が伸びた。つまり、時が流れた。
これだけ髪が伸びた。それはつまり、これだけあなたとの別れが近付いた。
そんなもの、見たくない。そんな証、欲しくない。
――― そんな、現実逃避よ」
触れていただけだった筈なのに、いつしか彼女がその手で掴んでいた髪が、ぎりっ、と悲鳴を上げる。
「そんなんで時間が戻るはずもないのに。何の解決にもならないのに。あなたといられる時間が延びるわけじゃないのに。
ほんと、バッカみたい。こんな妄想ばかりか、それを実行しようとしてみんなに迷惑をかけて。
どうしようもない姫でごめんね。私なんて……わたし、なんて」
「姫様!」
それは、まさに脊髄反射とでも言うべきか。鈴仙はその言葉と同時に、ずっと髪を強く掴んでいた輝夜の手に触れていた。
思わず立ち上がる。
「そんなに乱暴に扱ったら、だめです。私にとっては五つの難題にも劣らない、綺麗な髪が痛んでしまいます」
そっと、輝夜の手を解く。彼女もそれに抵抗する事はしなかった。
握られていた所為で少し癖がついた黒髪を、鈴仙の指が整え直す。
これでよし、と言わんばかりに笑みを浮かべ、彼女は輝夜へと向き直った。
「ところで……姫様は、”ラプンツェル”ってご存知ですか?」
・
・
・
唐突な質問に、輝夜は首を横に振る。
「いえ……何かしら」
「西洋に伝わる、御伽噺です。紅魔館の図書館で読んだんですけどね」
どこか得意気な顔をして、彼女は説明を始めた。
「ちょっとはしょりますけど……ラプンツェルという小さな女の子が、恐ろしい魔女に連れて行かれてしまうんです。
魔女はラプンツェルを高い塔に監禁して、そこで育てます。”部屋から外に出られない”以外は、何一つ不自由のない生活でした。
彼女の最大の特徴は、その長い長い髪でした。ずっと切る事を許されなくて、身長の何倍も長かったそうです」
「そんなに長かったら、動きにくいわね」
「その通りなんですけど、ラプンツェルは部屋から出られなかった訳ですから、大丈夫だったのかも知れません。
彼女の髪が長いのは、魔女がその髪をはしご代わりにして塔に出入りしていたからなんですが……。
ある日、その美しい歌声に惹かれてやってきた王子様を、その髪で部屋へと招き入れるんです。
それから彼女は、その王子様と何度も会うようになりました」
「へぇ。それでそれで?」
「ヒミツです。面白いので、続きは是非姫様自身で!」
がくっ、と輝夜は床に手を着いた。
「あはは、ごめんなさい。けど、今のお話は姫様にもきっと通じると思うんです」
「どういうこと?」
首を傾げる輝夜に、鈴仙は人差し指をすっと伸ばしつつ答える。
「ラプンツェルは、ずっと伸ばしてきた長い髪のおかげで王子様と出会うことができました。
姫様だってそうです。もしも姫様が永い命を持たなければ……今、こうして一緒にお話する時間もあり得なかったわけです」
はっ、とした表情になる輝夜へ向けて、鈴仙はさらに続けた。
「姫様と私やてゐがお会いしたのは、姫様がお生まれになってから……きっと、千年は経った後でしょう。普通じゃ絶対に無理です。
遊びに行けば、ぶつくさ言いながらもお茶をしっかり出してくれる巫女だとか。毎日がすごく楽しそうな魔法使いだとか。
そんな、おかしくて楽しい人達に出会えたのは、それからさらに数百年も経ってからです。
姫様は、今が一番幸せとおっしゃってましたよね。それは、今の今まで頑張って生きてきたから得られた幸せです」
穴の開くほど鈴仙の顔を見つめ続ける輝夜に対して、彼女はさらに熱弁を振るう。
「長い綺麗な髪のおかげで、大切な人と会う。姫様にだって、それができます。
姫様ほどの美しい髪なら、これから先もたくさんの人達が喜んで集まってくるでしょう。それに、師匠だっています。
だから……姫様は、絶対に一人ぼっちにはなりません。これから先、今よりもっと幸せな時間を得られるはずです。
今ここで時を止めるなんてとんでもない。時間は、姫様に味方してくれるでしょう。私が保証します。だから、過去に囚われないで下さい。
さっき姫様が、私がいるって言って下さったのは、本当に嬉しいです。
けど、私の存在が姫様の悩みになっているなら……過去に囚われる一因になっているのなら、私は今すぐ消え去るべきなのかも知れません」
「それは許さないわ。今あなたがいなくなったら、干からびるまで泣いてやるんだから」
「じゃあ、ここにいます。水分は髪にとっても大事ですから」
きっぱりした輝夜の言葉で安堵した表情になり、鈴仙は小さく笑みを浮かべる。
「私は小さな月兎に過ぎませんから、姫様が抱え込んでいる”永遠”がどんな物なのか……想像することもできません。
姫様がどれほど苦しんできたのかも、果てしない未来に対して今、どれだけ不安を感じているのかも。
けれど、私にもせめて……せめて、姫様が生きているこの瞬間を、ほんのちょっとだけでも楽しくすることならできます。
数百年という、姫様にとっての小さな小さなお時間。その微かな瞬間を、私の一生をかけて輝くものにしてみせます。
せめて今だけでも、姫様には笑っていて欲しいんです。過去への後悔。未来への不安。そんなものを全部吹き飛ばせるくらいに。
だから……えっと、その……」
言葉に詰まってしまった鈴仙を、輝夜はやんわりと手で制する。
「よく分かったわ……少なくとも、私がいかに幸せ者かは。昼間も言った気がするけどね」
「姫様……」
「大丈夫よ、もう。心配しなくても、髪を切るのはやめにした。これから先も、この長い髪を誰が登って来てくれるのか、楽しみに待つわ。
それに……せっかくあなたが綺麗に整えてくれたんですもの。切ったらもったいないし」
え、と呟いた鈴仙に、輝夜は笑って自身の髪を示してみせる。
指で軽く巻いてから離すと、まるで生きているかのようにするりと解けた。
「あ、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる。くすりと笑ってから、輝夜は夜空へと視線を向けた。
「らしくなかったわね、先の事で悩むなんて。人は未来でも過去でもなくて、今を生きるもの。その通りよね」
「その通りです!姫様は悩みなんて忘れて、座布団で寝転がりながらご飯の時間を待ってるくらいでいいんです!」
あっはっはっはっは、と大きな笑い声がユニゾンし、夜の永遠亭に響き渡る。誰かを起こしてしまうかも、という気配りは出来そうに無かった。
「あははは……ふぅ。何だか、さっきまで鬱々してたのが嘘みたい。さっき、言ってくれたわよね。私の時間を楽しくしてくれるって。
有言実行してくれる子は好きよ。あなたのお陰で、もう先の事とかどうでも良くなっちゃった。あとは……」
「……?あとは?」
「あ、えっと、何でも」
急に焦った輝夜を訝しく思い、鈴仙はさらに尋ねた。
「失礼かもしれませんが……あとは、何ですか?姫様の望みであれば、何でも」
輝夜は再び、鈴仙の顔を見る。彼女が向けてくる視線は真っ直ぐで、目を逸らせない。
観念したように、彼女は息をついた。
「……失望っていうか、ふざけるなって思うでしょうけれど。
――― あなたにも、来て欲しいなって。ずっと心の片隅にはあったけれど、今日こうやって話をして、とても強く思ってしまった」
『あなたにも来て欲しい』――― その言葉が何を意味するのか。鈴仙にも、よく分かっていた。
だからこそ彼女は、敢えて何も言わずに笑顔を向ける。それも、とびっきりの。
輝夜は一瞬驚いた顔になると、ゆっくり立ち上がった。
「……わがままな姫で、ごめんね」
そう呟き、彼女は縁側を歩いていき、廊下の奥へ消えていく。鈴仙はそれを追わず、そこで待った。
数分後、帰って来た輝夜の手には、ガラス製のグラスがあった。
中に注がれた透明な液体をこぼさぬよう、そっと床に置く。
「……これが……蓬莱の薬だったとしたら」
怖いものを何とか見ようとする子供のように、ゆっくり顔を上げた輝夜。
だが次の瞬間、鈴仙はそのグラスをひったくるように掴んでいた。
一気に口元へ運び、傾ける。同時に傾いた液体が、みるみる消えていく。
ごくり、ごくりと喉を鳴らして、あっという間にグラスを空けた鈴仙。
空っぽのそれを再び置いて――― 彼女はもう一度、笑顔を向けた。
「……どこまでもお供します!!」
一連の所業は、時間にしてみれば数秒の出来事。ぽかんと口を開けたままだった輝夜は、我に返って呟く。
「まあ、ただの水だけれどね」
それから彼女は、鈴仙の顔を暫し見つめてから、今度ははっきりとした声で告げた。
「ありがとう、鈴仙」
普段はイナバと呼ばれるのに、はっきりと名前で呼ばれた。それが何だか、無性に嬉しかった。
「本物を持ってくるんだったわ。あなたも一生ついて来てくれたなら、私が未来に不安を感じる事なんてないのに」
おどけるように言った輝夜に、鈴仙は笑顔のまま答える。
「だから、お供しますって。姫様がお望みなら」
「冗談!こんな身体になるのは私と永琳と妹紅だけで十分よ。自分の人生を大切になさい。人じゃないけど。
あなたを不幸にしてまで私が楽しくなるのは、ハッピーじゃないわ。ちんどん屋さんの受け売りだけど」
ぺろりと舌を出してはにかんでから、輝夜はえっへんと胸を張った。
「その代わり!あなたが生きている間は、精一杯私を楽しませなさい!えっへん」
「は~い!」
彼女に合わせるよう、鈴仙もまた元気に手を上げた。
と、その時。二人の頬に差し込む、淡い光。
ずっと雲に隠れていた月が、ようやく顔を出した。
「あら、綺麗な満月じゃない」
輝夜は最初にそうしていたように、身体を庭へ向けて縁側から足を投げ出した。
鈴仙もその横に座り、二人は肩を並べて月を見上げる。
「本当に、綺麗ですね」
鈴仙の言葉に、輝夜は少しばかり悔しそうな語調で答える。
「ホント、うらめしいくらいに綺麗だわ。あんまりいい思い出がないというのに。
ちょっと、あなたの催眠光線か何かで撃ち落としちゃってよ」
「てれめす……無理ですって!そんな大仰な」
「じゃあミサイル!そのブロウクン・ウサミミをぶち込むのよ!」
「できませんよ!ていうか故郷を撃ち落しちゃっていいんですか?」
「処刑までされたのに、あんなの故郷じゃないわ!ただの生まれた場所よ!」
「いやいや、それを故郷って言うんじゃ」
「んも~!融通が利かないウサちゃんなんだから!」
言いながら輝夜は足をばたつかせる。
焦る鈴仙をよそに、やがて大人しくなった彼女はため息。
「はぁ。さっきはああ言ったけど、やっぱりあそこは私の故郷なのよね。たまには、里帰りとかするべきかしら」
「行って大丈夫なんですかね?色々ありましたし」
「ん~、多分厳しい。でもちょっと興味あるな」
輝夜はどこか寂しそうな、それでいて懐かしそうな顔。
だが急に首をぶるぶると振る。
「おっといけない、過去に囚われるなってさっき言われたばっかなのに」
「けど、月での出来事は過去のものしかないんじゃ……」
鈴仙が呟くと、輝夜は途端に、ふふん、と得意気な顔になった。先程から随分と表情が忙しく変わる姫である。
「甘いわね、私は月の姫君よ。月の事なら、たとえ地上からでも分かるっ!”ちでぢ”以上のゆんゆん電波受信能力、そして鮮明な映像受信能力よ!」
「ちでぢ?」
鈴仙の疑問には答えてくれず、自信たっぷりな輝夜はぐわっと目を見開き、夜空の向こうに浮かぶ満月を凝視し始めた。
「ふおおおお……唸れ、我が眼球ゥゥゥ!」
「姫様、何か怖いです!」
「……ほぅら見えてきた!見なさいイナバ!」
「見えませんよ……姫様には、何が見えるんですか?」
苦笑いの鈴仙をよそに、興奮した様子で輝夜は実況。
「おお、右を見ても左を見てもウサミミヘヴン!永琳に見せてやりたいわね。なんかイナバにそっくりなのもいるし」
本当に見えているのかは輝夜にしか分からないので、鈴仙は苦笑を崩さない。
傍から見ていると、その内目が光りだすんじゃないかと思わせるくらいに、輝夜は目に力を込めている。
しかしやがて、がくりと俯いて目を擦りだした。
「うぅ、目が痛い」
「もうおやめになった方が……」
「いいやまだまだ!この際だもの、満足行くまで故郷をねっとり眺めてやるわ!」
鈴仙は心配そうに声を掛けたが、輝夜は少し休んだ後に再び月面観察。
「あ、やっぱりウサギが餅つきしてるわ。月でもここでも、やっぱり餅つきはウサギの宿命なのね」
「へぇ……」
確かに鈴仙も餅つきは好きだったので、何となく興味をそそられた。
「ほら、餅つき中のウサミミが一羽、ウサミミが二羽、ウサミミが三羽……」
いつしか、輝夜は月面に見える(らしい)ウサギを数え始めた。
そんな彼女をよそに、鈴仙もまた月へ視線を飛ばす。月兎である自分が地上にいるという事実が、何だか感慨深く感じられた。
「ウサミミが二十七羽、ウサミミが……にじゅ……ん~……ふぁ~あ」
不意に大きなあくび。目をごしごし擦りながら、輝夜は何とも眠たそうだ。
だがそれでも観察を止める気は無いらしく、先よりも大分元気の無くなったカウントが再開される。
「ウサミミが……さんじゅ、にわ……ウサミミ……うさ……うさ……」
こてん、と軽い衝撃が伝わって来たのはその時だった。
鈴仙が横を見やれば、自らの肩にもたれかかって寝息を立てる輝夜の姿が。時折、うわ言のように『うさ、うさ』と呟いている。
「姫様、こんなところで寝たら」
風邪を引かれますよ、と言いたかったのだが。鈴仙はそこで口をつぐんでしまった。
肩の上ですやすやと寝息を立て始めた輝夜が、まるで幼子のように安らいだ顔をしていたから。
自身の重みと重力に耐えかねて、ずる、ずると輝夜の頭がずり落ちていく。
胸の辺りまで落ちてきてしまったので、鈴仙はそっと輝夜の肩に手を添え、身体を横たわらせる。
縁側に深く座り、輝夜の頭を太ももの上へ。これで安定した。
(どうしようかなぁ)
安定はしたが、まだ眠りに落ちて間もない今は下手に動けば起こしてしまう。布団へと運んでやるのは、もう少し待たねばならないだろう。
少し困った顔になった鈴仙は、子守唄を歌ってみる事にした。輝夜をきちんと眠りにつかせてしまおう、と考えての事だ。
だが、困った事に子守唄を詳しく知らない。
(知ってる歌で、なんか……)
再び困った挙句、彼女は鼻歌で”狂気の瞳”を歌い始めた。とても穏やかなアレンジだ。
”狂気”などというタイトルにはとても似つかわしくない、優しい歌声と旋律。
姫と、兎と、満月と、夜空に溶けていく歌声と。
あの日のように――― 満月が欠けたあの日のように、永遠亭の夜はとてもゆっくりと更けていく。
夢の中へと沈んでいく輝夜。夢と現実の隙間で聞こえてくる、鈴仙の歌声。どんな風に聴こえただろうか。
それはさながら、遠い日の今日に聴いた、母の子守唄か。
・
・
・
・
・
・
ぱちり、と目が開いた。夜更かししていた気がするのに、妙に目覚めが良い。
輝夜はゆっくりと身体を起こしつつ、状況を把握する。ここはどこの部屋だろう。
きょろりと見渡すと、どうやら客間のようだ。自分が寝ている布団も然り。
縁側で鈴仙と語らい、月を凝視していたのは覚えているのだが、そこからがよく分からない。
ふと横を見ると、自分が寝ていた布団の隣で、ブレザーを掛け布団代わりにし、身体を丸めて寝息を立てる鈴仙がいた。
どう考えても、輝夜が布団できちんと眠れたのは彼女の功績だろう。
(また迷惑かけちゃったなぁ)
一人ばつの悪そうな顔をして、輝夜は布団を畳む。箸より重いものを、なんて揶揄もあるが、これくらいは普通に出来る。
事を済ませると、輝夜は障子を開け放った。途端に明度が急上昇する室内。今日も太陽は元気一杯で、縁側から見える庭に容赦無く光を降らせている。
蝉の大合唱に耳を傾けて脳を目覚めさせようと試みていると、永琳が通りかかった。
「あら姫、お早うございます」
「おはよ、永琳」
「ところで、うどんげ知りませんか?部屋にも鍵がかかってて、開けてみても包丁やら斧やら物騒な物が転がってるばかりでいないんですよ」
「ん、イナバならそこにいるよ」
輝夜は親指で背後の客間を指し示す。
部屋を覗き込んだ永琳はほっと一息ついてから再び尋ねた。
「もしかして、ここで寝てたんですか?うどんげと一緒に?どうしてまた」
「ん~、縁側で乙女の語らいをしてたら私が先に寝ちゃってね。運んでくれたの」
「はぁ」
分かったような分からないような、とでも言いたげな永琳。
その時、二人の話し声に刺激されたか、鈴仙もまた目を覚まして起き上がる。
「う~……あっ!お、おはようございます!申し訳ありません、遅くまで」
「おはよう。まだ遅くないわよ。むしろ早いくらい」
「おはよ。昨日は色々とありがとね」
寝坊したか、と大慌てで跳ね起きた鈴仙だったが、二人の言葉で落ち着きを取り戻す。
やはり暑いのか、彼女が上着を畳んで置いた所で永琳が切り出した。
「うどんげ、起きたばっかの所で悪いのだけれど……今朝の朝食当番、前倒しでやってもらっていいかしら」
「え?いえ、それは構わないですけど……今日って、てゐの番ですよね?」
そうなんだけど、と呟き、永琳はため息混じりに続けた。
「今朝のメニューにわかめの味噌汁があるって知ったら『わかめいやー!生殖細胞部のめかぶいやー!そこから海中に分離する遊走子いやぁぁぁ!!』とか言いながら逃げちゃって。
明日のあなたの当番をあの子にやらせるから、今日の分、頼まれてくれるかしら」
「はい、分かりました!」
「それじゃあ、お願いね」
言い残し、永琳は廊下の向こうへ去って行った。
「それじゃ姫様、私は朝ごはんの支度に……」
そう言いながら厨房へ向かおうとした鈴仙だったが、
「あ、待って!」
輝夜にブラウスの裾を掴まれてストップ。
「な、なんですか?」
「せっかくだから、私も一緒にご飯の支度するよ。手伝わせて!」
宣言しながら輝夜は腕まくり。鈴仙はまたしても困った顔になった。
「ええ!?そんな、姫様にやらせるわけには……」
「え~。私、料理には興味あるのよ。みんなと一緒に、厨房に立ってみたかったの」
「でも、忙しいですし包丁とか危ない物も使いますし……」
「だって昨日、あなたは言ってくれたじゃない。私に清潔で美しく、健やかな毎日を約束するって」
「何ですかそのキャッチフレーズみたいなの!?」
おさんどんの仕事を姫君にやらせるのは抵抗があるのか、なかなか首を縦に振らない鈴仙。
痺れを切らしたか、輝夜は最後の手段を用いた。
「いいでしょ、ね?お願い、鈴仙!」
「う」
びくり、と身体を震わせる鈴仙。名前で呼ばれると、どうにも頼られている感がしてきてしまう。
輝夜にここまで頼み込まれては、もう断る事は出来なかった。
「……分かりました、姫様も一緒に行きましょう」
「やった!」
嬉しそうにぴょんと一跳ねし、輝夜は鈴仙の横に並んで歩き出した。
その道すがらにも、二人は言葉を交わす。
「包丁や火の扱いは、特に気をつけて下さいね」
「大丈夫!」
「あと、髪の毛は束ねた方がいいですね。後でやりましょう」
「うん」
「もちろん、まずは手洗いですよ」
「うんうん」
「エプロンも後でお貸ししますね」
「ありがと」
「……今、楽しいですか?」
「とっても!」
「これからも、笑っていて下さいね」
「あなたが横にいる限りはね」
じりじりと照りつける太陽光も、屋根に遮られてそれなりに涼しい空間。
眩しいくらいに陽光を反射する庭、そしてその向こうに広がる竹林を眺めながら、蓬莱山輝夜は小さなため息を一つ。
「ん~……」
縁側の淵から投げ出した足をぶらりと振った。
それから彼女は何かに思い悩むような声を発しつつ、手元を見やる。屋根からはみ出してきた日差しを浴びて、ぎらりと光る鋼の刃。
とは言ってもそう物騒な代物では無い。どこにでもあるハサミである。
輝夜はそのハサミを閉じたり開いたり、暫し手元でいじくったかと思えば、肩から下がったその美しい黒髪をトントンと叩いてみたり。
その時、廊下を通りかかる人影。
「姫様、どうされました?」
月兎、鈴仙・優曇華院・イナバ。少しだけ垂れた長い耳をぴくりと揺らし、輝夜の傍へ寄る。
輝夜はやや驚いたように肩を竦ませ、首だけ動かしてその顔を見た。どちらかというと、その視線はぴょんぴょんと跳ねる耳に向いているようでもあるが。
「ど、どうって?」
「しきりに髪の毛を気にしておられるようですし。それに、さっきからハサミを持って……危ないですよ?」
どうやら、どこからか輝夜の様子を見ていたらしい。
あれ、と鈴仙は含み笑いのような表情になって続けた。
「もしかして姫様、髪の毛を切りたいとか……」
「あ、え、えっと、そのね」
「もしよろしければ、私にお任せしては頂けませんか?こう見えて、経験あるんですよ。てゐの髪の毛とか切ってあげたことも一度や二度じゃ」
焦り、次の言葉が出てこない輝夜。弁解しようにも、鈴仙が何ともキラキラと目を輝かせているので余計に口が開かない。
”姫様のお役に立てるチャンス”と言わんばかりに、身を乗り出して強く押し込んでいた鈴仙は、ふと我に返ったように正座。
「あ、でも……私なんかじゃやっぱり不安ですよね。申し訳ありません、姫様のお気持ちも考えずに……」
しょぼん。みるみる垂れていくウサミミ。先よりもさらに慌て、輝夜は思わず立ち上がった。
「ま、待って!それじゃあお願いするわ。やってくれる?」
言い、正座に戻る。その瞬間、ぴーんと元気を取り戻すウサミミ。
「はい、お任せ下さい!今準備しますから、少々お待ちを!」
声を弾ませ、鈴仙はとてとてと廊下を駆けていく。
嬉しさ半分、困り半分といった顔で残された輝夜はもう一度ため息。先のものより、幾許かは軽いものだった。
それから十分後には、切った髪を避けるためのシートまで完備し、鈴仙は指先で輝夜の髪をそっとまとめ、櫛を通していた。
「わぁ、櫛いりませんね。綺麗でつやもあって、うらやましいです」
「そ、そう?ありがとう」
褒められれば悪い気はしないが、先程からずっと櫛を通しつつ鈴仙が心地良さそうに髪を撫でてくるのでくすぐったい。
このままではいつまで経っても始まらない。が、本人もそれは気付いたようで『いけない』と小さく呟いた。
「じゃ、始めますね。何かご希望とか……」
「お願いね。えっと、全部任せるから」
「はい!では、失礼します」
表情を引き締め、ハサミを握り直す。
櫛に髪を通し、先端から荒くならないよう少しずつハサミを入れていった。
しゃき、しゃき、と音がする度、輝夜の身体に巻かれた、或いは縁側に敷かれたシートに黒い模様が刻まれていく。
「ん、もうちょっと切るべきかなぁ」
一人ごちて、鈴仙は再びハサミを動かす。しゃき、しゃき。
あくまで少しずつ、ハサミで絹のような黒髪を削っていく。さながら彫刻のよう。
「かゆい所とかございませんか~?」
「それって頭洗うときじゃない?」
「あはは、そうでした」
互いに口を動かしつつも鈴仙の手の動きは止まらず、切り離された髪が床のシートに積もってゆく。
しゃき、しゃき。
「前髪は……だいじょぶそうですね。もう綺麗にまとまってますし」
「そうかな」
いつしか一時間もの時が流れ、月兎の散髪屋も店仕舞い。
「はい、おしまいです!姫様のお気に召したらいいんですけど……」
その仕上がりは、見る限りは普段の髪型とあまり変わらない。しかし、普段よりもやや伸びていた髪を綺麗に腰の辺りで切り揃えてある。
経験有り、の言葉は伊達では無かったようだ。微かにだが、内側へカールするように整えてあるのも見逃せない。
普段の輝夜はぴっちり横一線に揃えてあるので、変化を付けてみたくなったのだろう。
「え、ええ。上手じゃない。ありがとう」
「いえいえ!またご入用の時はいつでもどうぞ!姫様に限り常時無料でサービスしますよ?」
「他の依頼はお金とってるの?」
「いえ、現物です。おやつとか」
おやつの人参入りロールパンをてゐから渋々分けてもらう、満面の笑顔の鈴仙。
その光景があまりにナチュラルに想像出来たので、思わず輝夜は声を上げて笑ってしまった。
「それでは、失礼します!」
ぺこりと深く一礼し、鈴仙は散髪道具をまとめて縁側を去った。
彼女が小さい箒できちんと掃除してくれたので、肩に切った髪の毛が残っている事も無い。
だが、一人になった途端に輝夜は再びため息をつく。
「あの子には悪いけど……」
・
・
・
ばさばさ、と切った髪が残るシートを勝手口で広げる鈴仙。
「よぉし、これでおっけ」
呟き、シートを畳む。
(姫様、喜んでくれたみたいでよかった。けど、どうして自分で……)
中へ戻り、廊下を歩きながら鈴仙はふと考えた。
輝夜が髪を切っている所は殆ど見た事が無い。師たる八意永琳の話では、最近は気分で里の美容師に頼んだり、永琳に切ってもらっているとか。
髪が切りたければ、切ってくれる場所へ行くなり、依頼するなりすればいい。自らハサミを握る必要など無い筈だ。
考える内、鈴仙はある事を思い出した。
(あっ、姫様が持ってたハサミ……私が戻してこようっと)
髪を切るという目的は達成されたのだから、もうハサミは必要無い。
輝夜が持ち出した物だろうが、姫である彼女に足労させる訳にはいかないと思い鈴仙は縁側へ。
自分が預かって、戻してくるつもりだった。
(姫様は……まだいる、よかった)
もう輝夜自身が戻しに行ってしまったかも知れないと考えていたが、どうやらあの場所から動いていないようで何となく一安心。
(もしかして、褒めてくれるかな?)
そんな事を考える鈴仙の顔はいつしかゆるゆる、にやけるような笑みを抑えられない。
輝夜は配下の兎達を褒める時は、必ずその頭を撫でる。小さな手だが、まるで母親のような温かさを感じるとか。加えて優しい笑顔までセットでついてくるのだから、こぞって兎達は輝夜の役に立とうとする。
鈴仙のこの行動も褒めてもらう、そして頭を撫でてもらうのが一番の狙いだというのはトップシークレットだ。
ウサギは寂しいと死んでしまうのである。
「ひ……」
めさま、と言いながら縁側へ出て行こうとした鈴仙だったが、ぴたりとその足が止まった。
輝夜は確かに、その手にハサミを手にしている。しかしそのハサミを持った右手をおもむろに上げ、ぐいっと首の後ろへ持っていくという行動はさしもの鈴仙でも予想外。
まるで捕食体勢に入った鮫の如くに、ぐわっとハサミが開かれる。
左手でむんずとその綺麗な黒髪を握り、その束めがめて開いたハサミを―――
「ひ、姫様だめぇぇぇぇ!!」
竦んだ足を動かし、鈴仙は飛び出した。
その突然の登場に驚き、動きを止めた輝夜に半ば飛びかかるようにして、彼女はハサミを奪い取ろうとする。
「は、離して!」
「何をお考えですか!?そんな事しちゃだめですってば!」
輝夜の魅力の一つである、その長い髪をまるまる切り落とそうとするという凶行。黙って見ていられる筈が無い。
本人の物なのだから好きにして良いなんて屁理屈はまかり通らない。
「落ち着いて、くだ……さいっ!」
「あっ!」
十数秒の乱闘の果てに、とうとう鈴仙は輝夜の手よりハサミを奪取。
「はぁ、はぁ……まったく、一体何のおつもりですか?」
「むぅ~……」
問い質そうとする鈴仙に対し、輝夜は何とも不服そうな膨れっ面でじと~っとした視線を投げてくる。
かと思えばいきなり立ち上がり、彼女に背を向けて廊下を駆け出す。
「ひ、姫様ぁ!お待ち下さい!!」
大慌てでその後を追う。手近な部屋に駆け込んだのを確認し、続いてその部屋へ。
戸棚から今まさに別のハサミを取り出そうとする輝夜を発見し、再び跳躍。
「だめです!!」
輝夜と棚の間に割り込み、彼女が取り出しかけたハサミを先に取り出してブレザーのポケットへ。どうにか阻止成功、かに思えた。
しかし輝夜はそれでも諦めず、踵を返して部屋を飛び出すのであった。
(ど、どうしよう……)
何のつもりかなんて分からないが、このままではあの綺麗なロングヘアーが失われてしまう。
輝夜のお抱え散髪屋になって、毎月あの黒髪を撫で回そうと密かに計画していた鈴仙としては、それだけは避けねばならない。
それが己の付き従う輝夜の意思であっても。
「……姫様を止めなくちゃ!」
・
・
・
いくら部屋数の多い永遠亭でも、ハサミの置かれた部屋は限られている。
鈴仙は持ち前の機動力で先回りし、大方日常的に使用されるハサミを全て回収した。
「よし、後は……」
これで心配は無い、ような気がする。だが、それでも漠然と残る不安が、彼女に”まだ闘争は終わっていない”と告げていた。
そんな折、縁側から輝夜の姿を発見した。彼女は庭に出、片隅に建てられた小さな小屋へ。
「あそこは物置……ま、まさか!?」
飛び降りると同時に靴を履き、鈴仙は再び駆け出した。目指すは物置小屋。
輝夜より数秒遅れて突入し、彼女が今まさに開こうとしていた工具箱を横合いから奪い取った。
「あ……」
「やっぱり!この糸ノコギリが目当てですね!?」
工具箱を開くと、そこには手入れされて鋭く光る糸鋸。
「こんなので切ったら、姫様のキューティクルがめちゃくちゃになっちゃいますよ!いけません!」
「……じゃあ……」
そこからの行動は、まさに電撃戦。素早く身を翻し、棚の上にあった鋸を手に取る輝夜。
瞬時に手刀を繰り出し、その鋸を跳ね飛ばす鈴仙。それが床に落ちる前に、輝夜は足元にあった鎌を足で跳ね上げる。
しかし鈴仙の回し蹴りがそれをキャッチさせず、壁に叩きつけた。
ならば、と輝夜は一回転して物置の奥へ侵入、手近にあった箱から彫刻刀を三本取り出す。
だが、鈴仙の指先から放たれた弾丸が正確にそれを弾き飛ばした。軽快な音を立て、それらは壁に突き刺さる。
「……や、やるじゃない」
「姫様も……それより、もうおやめ下さい。もし手元が狂って、姫様にお怪我でもさせてしまったら、私……」
「心配してくれるの?私は不死身なのよ?」
「関係ありません。姫様が傷つく。痛い思いをする。もたらされる結果ではなくて、それが私には耐えられないくらい嫌なんです。
ですから……」
「ふふ……優しいのね。罪人だった過去を持つのに、こんなに心配してくれる子が傍にいるなんて、私は幸せ者……」
「姫様、私は……って、言いながら新たな刃物をサルベージしないで下さいッ!!」
うっかり涙で滲みかけた視界の向こうで、輝夜はどっからか鉈を取り出していた。
再度のスナイピングにより、その鉈はあえなく天井までぶっ飛ぶ始末。
「ん~……もうないのかな?かな?」
「何ですか、その口調……それより、もう主な刃物はありませんよ。そろそろ、降参して……」
「甘いわねイナバ!私の旅はこれで終わりじゃあないっ!」
その時、鈴仙はある事に気付いた。隅に追い詰められた形の輝夜。その壁際に、不自然に突き出た物体。
輝夜がそれを掴み、がこんと下へ。どうやらレバーになっているようだ。
「ふふふ……開け、倉庫の扉!エターナル・インダストリィ!」
「あっ!」
ぱかり、と開く時空の壁 ――― じゃなくて物置小屋の壁。そこからひらりと跳躍し、輝夜は華麗にエスケープ。
足元に転がる荷物をジャンプで飛び越え、鈴仙もその後を追った。
「姫様ぁぁ!どこでそんな知識を仕入れたんですか!?」
「紅魔館で自費出版されてた小説よ!名無しの大妖精が我が身一つで巨悪と戦う冒険活劇、その名も『大・はぁど』!!」
「何ですかソレ!!」
まだまだ続く追いかけっこ。しかし、鈴仙は一旦追うのを止めた。
(もうハサミはないし、物置の刃物類も全部おさえた……となると、すぐ思いつく場所には髪の毛をカットできる代物はない)
ただ追いかけるより、周りを固める事にした。その為には、相手より先に永遠亭に点在する刃物の存在を気取り、隠さなければならない。
当初の目的も忘れ、すっかり頭脳戦モードの鈴仙。そんな彼女に、不意に声が掛かる。
「れ~せ~ん。こんなトコでなにしてんの?」
子供っぽい声に横を見やれば、月兎とはデザインの異なる丸っこいウサミミをぴょこりと跳ねさせて因幡てゐ登場。
その手には、いかにも『買い物に行ってきましたヨ』と言わんばかりの手提げ袋が二つ。
「大丈夫?汗すごいけど」
「な、なんでもないの。それより、どこ行ってきたの?」
「んとね、お買い物」
そう答え、てゐはごそごそと袋を探る。何を買ってきたのか、見せるつもりらしい。
何だろう、と鈴仙が考える前に、ずる~り、と長い柄が飛び出してきた。
「ほら。お庭のお手入れメイト、高枝切りバサミ」
「だめぇぇぇ!!」
電光石火と言える素早さで、鈴仙は高枝切りバサミを奪い取っていた。
「ちょ、いきなり何さ!人斬りをやめる人のために、刃を逆刃刀に代えられる優れモノなのに!」
「ご、ごめんね。けど今刃物は……って、そのオプション意味あんの!?ハサミでしょ!?」
「他にも、刃先にナイフやコルク抜きや爪切り缶切り、ヤスリに洗濯板にホチキスの針を抜くアレなんかを取り付けられるんだよ!」
「使いにくいし使い所が分からないし、刃先程度の洗濯板じゃ靴下も洗えないし、そもそも針抜きだけって……」
「本来の用途以外にも使えるマルチプルカッターなの!本に挟めばしおりにだってなるって言うから買ってきたのに、大切に扱ってよ!」
「危ないわこんな長くて鋭いしおり!普通の使うよ!本のページより指切れるわ!」
このてゐと面と向かって話していると『これ一本で、今日から君んちの庭と台所がベルサイユに早変わりさジョニー!』『わお、こいつはすげぇやボブ!』という謎の会話が頭を過ぎってしまう。
しかし彼女との漫才をよそに、鈴仙は先程から視線を感じていた。
そっと振り向けば、縁側の片隅で輝夜が柱から顔だけを出し、こちらの様子をじぃっと窺っているではないか。
やはり刃物狙いか。
「と、とにかく。これはちょっと私に預からせて」
「ふぅん。まあいいや、あとはね……カミソリ、しかも四枚刃のすごいやつが」
「そぉい!!」
瞬時に繰り出された、華麗なサマーソルトキックによって宙を舞うカミソリ。しっかりキャッチし、鈴仙はてゐに詰め寄る。
「ちょっとぉ!なんでこんな日に限って刃物のバーゲンセールなの!?鍛冶屋が新装開店したとかそういうアレ!?出ます出します取らせます!?」
「そ、そんなこと言われても、お師匠様のおつかいだから」
「第一、カミソリなんて何に使うのよ!」
「さあ。でも、『万が一を考えて周到な準備をするのが策士のやること』って言ってた」
「女の子しかいない永遠亭でどう出番があるって言うんじゃー!」
アイドルはヒゲ生えないもん。と言いたいが、八意永琳は天才。本当にヒゲが生える事を予見している可能性も捨て切れない。
むしろ壮大なるヒゲティック2D剃放題(そりまくり)シューティングの幕開けを瞬時に想像してしまう鈴仙。そう、”東方ヒゲイ夜抄”誕生の瞬間である。
『剃り残すって……剃るか残すか、どっちかにしてよ!』
『あ、青少年発見。わたしが青ヒゲにしてあげる!』
『なんで顎だけ残して植毛する必要があるんだよ。植毛は全体だ』
『あんたらを、二枚刃のすきまに落とし込む!』
『お前の場合は、迷惑な『永久脱毛』だろ?』
『剃符「
『さあ、幻想郷のブラウン・モーニングリポートはもう目の前にある!』
『難題「世界一強い配管工のヒゲ」』
EXステージでは真っ白なヒゲに赤い服のアイツが登場!どう聞いてもサンタさんです本当にありがとうございました。
想像するだけでチクチクする妄想の世界より帰還した折、鈴仙はてゐの持つもう一つの手提げ袋が異様に膨らんでいる事に気付く。
嫌な予感しかせず、尋ねた。
「ねぇ、そっちの袋は?」
「これ?香霖堂に行って買ってきた骨董品だよ」
「こっとうひん?」
意外な単語に目を丸くする鈴仙。てゐは幾許得意そうな顔になり、袋に手を突っ込む。
「見る?すごいんだから」
どうやら柄のような部分を掴んだらしく、そのまま一気に引っ張り出した。
妙にデカく、そして黒光りする禍々しい凶器が白日の下に晒される。どす黒い気を放ち、その刃の輝きは魂までをも凍りつかせるような―――。
「太古の昔、強大な悪魔を断ち切ったとされる伝説の武具、タルカスの斧だよ」
「オー!ノーッ!今の私が嫌いな言葉は、一番が『刃物』で二番目が『切断』なんだぜーッ!」
被弾した事よりも、輝夜に『可愛いわね』と褒めてもらった服が破れる事を怒りそうな口調で鈴仙は絶叫した。
「なんつー代物を置いてるのよあの古道具屋は!?てゐもそんな物騒なモン買わないの!お金とかどうしたのよ!」
「え……わたしのポケットマネーで。趣味だし。お釣りでおまんじゅう食べながら帰ってきたよ。
血文字で”P”って書き足されてる剣と迷ったんだけどね」
仔兎のポケットマネーで易々と、しかもお釣り付きで買えちゃうような斧で葬られた古の悪魔。鈴仙は無性に空しい気持ちに襲われた。
きっとその外見は絵本に出てくる虫歯菌みたいなヤツに違いない。
狙いすましたかのようなカッティングパーティに頭痛を併発しつつも、彼女はてゐに尋ねた。
「はぁ……で、もうない?」
「刃物は。あとは本が一冊」
「そう、良かったぁ」
「これだよ。えーと、『十分で習得できる、手刀でビンを切断する方法!今日からあなたも怪盗クイ―――』」
「オ・ルヴォワールッ!」
瞬時に本を奪い取る鈴仙。野良猫のノミ取りが趣味な怪盗で無くともそのくらいは出来る。
「ぜはー、ぜはー……とにかく、今はちょっと取り込み中で。姫様に近づけないためにも、これらは私が預かります」
「う、うん。よく分かんないけど、がんばって……わたしは、あれだ。ごはんの支度してくる。斧はあとで返してね」
食事当番は兎達のグループによる交代制、この日はてゐもシフトに組み込まれている。
妙なテンションの親友に頭を悩ませつつ、てゐは台所へと向かった。
一人庭に残された鈴仙は、後ろを振り向く。輝夜の姿はもう無かった。
・
・
・
回収した刃物を全て自室へ放り込み、しっかりと施錠して鈴仙は一息ついた。
「これでよし……後は何があるかなぁ」
意味も無く辺りを見渡しつつ、思考を巡らせる。
稀に外科手術を執り行う永琳のメスなども視野に入れたが、流石に師匠の医療器具にまで手を出す訳にはいかなかった。そもそも、おいそれと手の届く場所に置くような迂闊な人物では無い。
う~ん、と唸りつつ考える鈴仙の鼻を不意にくすぐる、出汁の芳香。
(お。今日のお味噌汁、具は何かなぁ)
思わず夕食へと意識が向いてしまうのは、夕方のいい時間だからだろう。兎だって腹は減る。
しかし、考える内にニンジンでダシを取ったら美味しいだろうかなどという妙な方向へ向かい始めていた鈴仙の頭を無理矢理引き戻す、閃き。
「あっ、包丁!」
迂闊だった。ハサミの次くらいに身近な刃物の存在をすっかり忘れていた。
(まあ、てゐたちがいるから簡単には取られないよね。一応見に行くか……)
落ち着きを取り戻し、鈴仙は早足で台所へと向かう。
その一方で、小さなウサギ達がちょこまかと動き回る厨房は戦場も戦場、紫外線照射装置があっても生き残れないともっぱら評判のスターリングラード戦線の如き様相を呈していた。
「ちょっと、皮むき器どこー!?」
「ニンジン一本少ないよ!だれが食べたの!?」
「ダイコンのかつらむき練習は今度にしてよ!食べるとこほとんどないじゃん!」
「きゃー!たなからしょうゆがー!」
「たなからみりんがー!」
「しおがー!」
「さとうがー!」
「ガオガイガー!」
「チューボーはセーケツでないとイケないのデスよっ!早くふいて!」
野菜の皮と調味料の雫が乱れ飛び、ぴょこぴょことウサミミが右往左往する。
そんな最中、器用な手つきでざくざくとキャベツを千切りにしていくてゐ。周りの兎達も、惜しみない賞賛の目線を浴びせていた。
「うまいね~」
「へへん、こういう細かな作業はてーちゃんにお任せよ!さ、次は?」
三玉あったキャベツをあっという間に千切りへと変え、てゐは意気込んで次なる獲物を探す。
その時、びろんとまな板の上に乗ってきた細長い陰。色は黒。
「うん、わかめ?今日のおみそ汁はとうふとアブラゲじゃ」
言いながらも切断せんと包丁を軽く振り上げ、ちらとまな板の横を見る。
「はろー。あ、気にしないでね」
セクシーポーズで横たわる永遠亭の最重要人物と目が合った。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
文字通りの脱兎の如き勢いで、てゐは厨房の隅へV-MAX。
「ああんもう、ちゃんと切ってよ」
ぷぅ、と頬を膨らませる輝夜は、言いながらも自身の長い髪をきちんとまな板上で真っ直ぐに整える。
しかしそれと同時に、厨房の扉が開いたかと思うと鈴仙が転がり込んで来た。
「今の悲鳴は……あっ、姫様!何してるんですか!?女体盛りは今の時期痛みが早いから冬じゃないと……」
「ちょ、ストップストップ。落ち着きなさい。私は裸じゃない。アンダスタン?」
「はぅ、私とした事が。それより、早くその包丁どけて!」
鈴仙の大声に、傍にいた仔ウサギAが反射的に包丁を掠め取る。
それを手にしたままどうしてよいやら、な彼女から包丁を受け取り、鈴仙は辺りを見渡しつつ言った。
「早くみんな、この厨房にある刃物全部回収して!!」
「なんで?」
「?」
展開の早さについていけず、小首を傾げる仔ウサギ's。その間にも輝夜は寝たままの体勢で別の包丁を探している。
「ああもう、早くしないと姫様が髪の毛切って出家しちゃうの!」
「しゅっけ?」
「ひめさまおやすみ?」
「……休憩?」
「けっこんするのー?」
「ブーケ」
「じごくできくもの」
「いいわけ」
「ちゃくらむしゅーたー!」
「ヒュッケバイン!!」
埒が明かない。鈴仙は吼えた。
「うだー!出家ってのはねぇ!頭マルボーズにして『ナムサンダー!ナムサンダー!』って唱えながらマッスルポーズでお寺にタッチダウンするコトよ!!」
「さんだー!?らいさんだー!?」
「ひめさまハゲちゃうの!?」
「そうよ!それがイヤなら早く集めて!!ハリー!!」
鈴仙の号令で一斉に厨房中へ散らばったウサギ軍団は、あっという間に全ての刃物を掻き集めて戻ってきた。
各種包丁、ヘタ切り用バサミ、皮むき器に果ては下ろし金まで。その一方で数人は輝夜自身を直接押さえ込む。
それに留まらず、無邪気な仔ウサギ達によるくすぐり地獄のオマケつき。
「きゃ、きゃははは!やめてぇぇ!くすぐらないでぇ!」
「どーだー!まいったかー!」
「ここかー!ここがええのかー!」
「はうっ!えびばでだんすなうっ!!」
どこか秘孔でも突かれたか、びくりと身体を震わせる輝夜。やがて、くたーっとまな板の上で静かになった。
「ふぅ、どうにか一段ら……あれ?そういやてゐは?」
きょろりと厨房を見渡せば、隅っこで鍋を被りorz状態でガタガタ震える、頭隠して怪人シリマルダシ状態のウサギが一羽。
「ちょっと、てゐー?大丈夫?」
「こあいよぉ……わかめがこあいよぉ……姫様が輪切りのソルベになっちゃうよぉ……」
「ありゃりゃ、これは完全にタイガーホースね。けど、正しく言うなら輪切りのカグヤかしら」
どうしたものか、と首を捻る鈴仙。しかしその時、成り行きを見守っていた仔ウサギAが不意に食料の入ったボックスを漁る。
何かを取り出すとそれを後ろ手に隠し、ガタガタ震えるてゐの背中をつっついた。
「ね、ね」
「……もう大丈夫?」
そっと鍋を取り、後ろを振り返るてゐに向けて、彼女は持って来たばかりの”それ”を差し出した。
「はい、これでげんきだして!」
びろーん。溢れ出す磯の香り。
「いっ……いやああぁぁぁぁぁ!!わかめいやー!コンブ目いやー!!チガイソ科いやー!!褐藻綱いやー!!不等毛植物門いやぁぁぁ!!」
実にためになる悲鳴を上げつつ、てゐは疾風のようなスピードで厨房から逃げ出していった。
『あれぇ?』とでも言いたげな表情でこれまた首を傾げる仔ウサギA。鈴仙がその手元を見ると、立派なわかめ。
「てゐ、わかめ怖がってたじゃない。どうしてわざわざ突き出したの?」
「え。だって、こわがってるものはほしがってるものだって、ひめさまが」
「ああ」
ポン、と鈴仙は手を打った。輝夜がよく、自分の好きな落語を周りにいたウサギ達に聞かせていたのを思い出す。
直接的にてゐへトラウマを植え付け、間接的にその傷口を抉った当の本人は、まな板の上で時折びくんと震えながらヨダレを垂らしていた。
・
・
・
・
・
夕食の間も、輝夜はどこかそわそわと落ち着かない様子。
鈴仙が時折視線を感じて顔を上げると、いつも輝夜が慌てて顔を逸らしていた。
(ごはんつぶでもついてた?)
そう思い頬を触るが、異常は無い。
そうこうしている内に夜も更け、殆どの住人が眠りに着いた永遠亭。
耳を澄ませば、虫の音に混じって皆の寝息が聞こえてきそうな縁側。昼間の暑さも多少はなりを潜めている。
垂らした足をぶらりと振って、輝夜はそっとため息をついた。見上げれば、雲間から黄金色の月が覗く。
不意に、背後で微かな物音。長年の経験からか、すぐに分かった。
これは、足音だ。それも、兎の。
「姫様……」
聞き慣れた声。その声を聞くと、何故か無性に心が安らぐ。
鈴仙の立てる足音は、彼女のすぐ後ろで止まった。
「お休みになられないのですか?」
「ん~、もうちょっと起きていたい気分なの」
「そうですか……いえ、私としてはその方がありがたいんですけれど」
「?」
彼女の意図を汲み取れず、輝夜は足を引き上げると正座になり、振り向く。
鈴仙はその横にそっと膝をつくと、手にしていた物を輝夜へ差し出した。少しばかり驚いたように、目が見開かれる。
「これ……」
「やっぱり、姫様のお気持ちを一番に考えないといけませんから」
月明かりの反射が目に突き刺さる。昼間も彼女が手にしていた、一本のハサミ。
しかし、輝夜はそれを受け取ろうとしない。そのまま十秒くらい硬直していただろうか、再び鈴仙が口を開いた。
「……ただ、一つだけ。私のお願いを聞いて頂けますか?」
「……何かしら」
輝夜はその目線を、鈴仙の手元から顔へ向ける。
「理由です。どうしてずっと長いままでいた髪を、切ろうとお思いになられたのか……私に、その理由を教えて下さい」
「……聞きたいの?」
「はい。とっても」
「つまんないわよ?」
「姫様のお話なら喜んで」
「……むぅ」
持て余すように、肩にかかった髪を指でくるくると巻く輝夜。
そのまま暫く押し黙っていたが、ふと見れば鈴仙はまだ彼女の事をじっと見つめている。
「……はぁ、分かったわかった。そんな目しないでよ。時間の無駄だった~、なんて後で言われても払い戻しは受け付けないからね」
「私のじゃなくて、姫様の貴重なお時間ですから。むしろ買わせて下さい」
肩を竦める輝夜に、鈴仙は笑顔で答えた。
「変な子」
呟く輝夜の表情は、どこか嬉しそうにも見える。
・
・
・
真面目な顔になって、輝夜はゆっくりと口を開く。
「――― 8センチメートル」
「はい?」
「何の事だか分かる?」
8cm。いきなりそんな数字を出されても、分かる訳が無い。今日の夕食に出た、切り損なって連結されていた沢庵の長さ、では無かろう。
「……いえ」
だから鈴仙は素直にそう答える。すると、輝夜は自分の頭をポンと軽く叩き、言った。
「私と初めて出会ってからの、あなたの身長。8センチ伸びたのよ」
「な……なんで分かるんですか?」
嘘を言っているようには見えず、鈴仙は驚いて尋ね返した。自分の身長なんて、とうに伸びなくなったと思っていたから気付けない。
しかし輝夜はさも当然とでも言いたげに微笑む。
「それくらい分かるわ、それなりに長い付き合いだもの。ついでに言うと、胸も結構大きくなったわね」
「え」
途端に顔を真っ赤にした鈴仙を見て、くすくすと輝夜は声を抑えつつ笑った。
「も、もう!からかうのはやめて下さい」
「ホントだもの。それにしても、あなたと話してるとリアクションが楽しくてねぇ。飽きないの。
……で、どこまで話したっけ」
「……私の身長とかが、姫様と初めてお会いした時に比べて大きくなっていたという」
「そうそう、それ」
暫く笑い続けていた輝夜は最後に、はぁ、と息をついて再び真面目な顔に戻る。
「あなたは妖怪だから、気付きにくい変化だろうけれど……人間。そう、”真っ当な”人間なら、もっとずっと顕著よ。
例えば霊夢とか、魔理沙とか……あの辺のは私と会ってまだちょっとだけれど、かなり背が伸びてる。
元が小さいから今はまだ私のが少しだけ大きいけど、来年か再来年には抜かれるんじゃないかしら」
「はあ」
言われてみればそうかも知れない、と鈴仙は思い返す。人間の成長は早いものだ。特に、桁外れの寿命を持つ妖怪にしてみれば。
しかし、今の話にどうリアクションして良いか迷った彼女は、とりあえず続きを促した。
「それで……」
「うん。人間は成長するもの。動物も植物もそうだし、程度の差はあれど妖怪だってそう。
……けれどね。いくら月日が流れても、全然成長しない奴がここにいるの」
「あ……」
初めて会った時から変わらない。そう、全く変わらない。
いつまでも大して高くない身長のままの、かぐや姫。
「もう千年以上も生きちゃったから、もし成長が続いてたら屋根が足りなくなっちゃうから仕方ないけれど。
人間は成長して、やがては老いていつかは果てる。それが当たり前。けど私は違う。
今まで永く生きてきて、関わったほんの少しの人々は皆私より大きくなって……私より先に、いなくなった」
輝夜は細い指を組み、そこに視線を落とす。
「人間五十年、なんて句もあるけれど……人々は限られた時間の中で生きてる。私は違う。
十年も一緒にいれば、明確な身体の変化が見て取れる。私は違う。
百年もすれば、雲の上から残された者を見守る存在になる。私は違う。
人の命の時計はとても正確に時間を計っていて、いつかは止まる。私は違う。
私の時計は、いつまでも動いたまま。それも、すごくゆっくり。周りの時計だけがどんどん進んで……壊れていく」
ため息と共に、輝夜は夜空を見上げた。月は雲に隠れて見えない。
「私は、変な能力を持ってる。それで時間を操るマネゴトも出来るけれど……。
それじゃ、だめ。私の時を止めても、世界の時は止まらない」
「………」
鈴仙は黙ったまま、輝夜の独白に耳を傾ける。
その声色はあまりに痛切で、耳を切り刻まれるような感覚。
「壊れない時計を抱えたまま、私は周りの人達が消えて行くのを見ているしかできない。
少し前までは一人ぼっち……じゃないけれど、永琳くらいしか一緒にいてくれる人がいなかった。
今は、あなたがいる。イナバ達もいる。永遠亭を出れば、私にも分け隔てなく弾幕をぶつけてくれるみんながいる。
正直に言って、今がすごく幸せ。けど……」
「けど?」
「どんなに私が愛した人達でも、神様は特別扱いしちゃくれない。やがていなくなるわ」
首が疲れたのか。それとも、泣きそうになった顔を伏せたかったのか。輝夜は視線を下へ戻す。
「……でね。私、身体の成長は止まってるけど、元々は人間みたいなもんだから……代謝は続いてるの。
つまり、汗もかくし爪は伸びる。そして、髪の毛も。そこくらいしか、私が人間だって言える部分はないもの」
どこか自嘲的な哀しい笑みを浮かべて、輝夜は自身の髪に触れる。
「だから、言わばこれは砂時計の砂。成長できない私の、唯一と言っていい変わる部分。
今まで、何回切ったか分からない。伸びては切り、伸びては切り。それだけ、私は多くの時間を生きてきた」
輝夜の顔が、微かに強張る。そろそろ笑顔を作るのも限界なのかも知れない。
「私はね……わたしは、もうイヤなの。みんなだけが変わって、やがてはいなくなって……私だけは、そのまんま。
あなたが、イナバ達が、一緒にバカ騒ぎしたみんなが、過去になっていく。
『みんなに会いたい、会いたいよ』って叫びながら、いつまでも歩き続ける。
生きてきて一番幸せな今の時間ですら、雑多な物と一緒くたになって、時の隙間に埋もれていく……」
日が昇り、また沈めど。月が何度、姿を変えても。”今日”がまた、降り積もっていく。
「気付いたら私は、誰かが世界の時を止めてくれるのを待ってる。この幸せな毎日が、永遠のものになって欲しいって。
それでも私の髪は伸びる。流れた時間を誇示するように。無駄だと嘲るように。
目を閉じても耳を塞いでも、いくらイヤだと言っても。だから私は、髪を切りたかった。
流れた時間の証を消し去れば、時間も元に戻らないかな……なんてね」
それは言わば、時計の針を自らの手で戻す行為。
見た目には巻き戻ったように見えても、時は決して戻らない。
「髪が伸びた。つまり、時が流れた。
これだけ髪が伸びた。それはつまり、これだけあなたとの別れが近付いた。
そんなもの、見たくない。そんな証、欲しくない。
――― そんな、現実逃避よ」
触れていただけだった筈なのに、いつしか彼女がその手で掴んでいた髪が、ぎりっ、と悲鳴を上げる。
「そんなんで時間が戻るはずもないのに。何の解決にもならないのに。あなたといられる時間が延びるわけじゃないのに。
ほんと、バッカみたい。こんな妄想ばかりか、それを実行しようとしてみんなに迷惑をかけて。
どうしようもない姫でごめんね。私なんて……わたし、なんて」
「姫様!」
それは、まさに脊髄反射とでも言うべきか。鈴仙はその言葉と同時に、ずっと髪を強く掴んでいた輝夜の手に触れていた。
思わず立ち上がる。
「そんなに乱暴に扱ったら、だめです。私にとっては五つの難題にも劣らない、綺麗な髪が痛んでしまいます」
そっと、輝夜の手を解く。彼女もそれに抵抗する事はしなかった。
握られていた所為で少し癖がついた黒髪を、鈴仙の指が整え直す。
これでよし、と言わんばかりに笑みを浮かべ、彼女は輝夜へと向き直った。
「ところで……姫様は、”ラプンツェル”ってご存知ですか?」
・
・
・
唐突な質問に、輝夜は首を横に振る。
「いえ……何かしら」
「西洋に伝わる、御伽噺です。紅魔館の図書館で読んだんですけどね」
どこか得意気な顔をして、彼女は説明を始めた。
「ちょっとはしょりますけど……ラプンツェルという小さな女の子が、恐ろしい魔女に連れて行かれてしまうんです。
魔女はラプンツェルを高い塔に監禁して、そこで育てます。”部屋から外に出られない”以外は、何一つ不自由のない生活でした。
彼女の最大の特徴は、その長い長い髪でした。ずっと切る事を許されなくて、身長の何倍も長かったそうです」
「そんなに長かったら、動きにくいわね」
「その通りなんですけど、ラプンツェルは部屋から出られなかった訳ですから、大丈夫だったのかも知れません。
彼女の髪が長いのは、魔女がその髪をはしご代わりにして塔に出入りしていたからなんですが……。
ある日、その美しい歌声に惹かれてやってきた王子様を、その髪で部屋へと招き入れるんです。
それから彼女は、その王子様と何度も会うようになりました」
「へぇ。それでそれで?」
「ヒミツです。面白いので、続きは是非姫様自身で!」
がくっ、と輝夜は床に手を着いた。
「あはは、ごめんなさい。けど、今のお話は姫様にもきっと通じると思うんです」
「どういうこと?」
首を傾げる輝夜に、鈴仙は人差し指をすっと伸ばしつつ答える。
「ラプンツェルは、ずっと伸ばしてきた長い髪のおかげで王子様と出会うことができました。
姫様だってそうです。もしも姫様が永い命を持たなければ……今、こうして一緒にお話する時間もあり得なかったわけです」
はっ、とした表情になる輝夜へ向けて、鈴仙はさらに続けた。
「姫様と私やてゐがお会いしたのは、姫様がお生まれになってから……きっと、千年は経った後でしょう。普通じゃ絶対に無理です。
遊びに行けば、ぶつくさ言いながらもお茶をしっかり出してくれる巫女だとか。毎日がすごく楽しそうな魔法使いだとか。
そんな、おかしくて楽しい人達に出会えたのは、それからさらに数百年も経ってからです。
姫様は、今が一番幸せとおっしゃってましたよね。それは、今の今まで頑張って生きてきたから得られた幸せです」
穴の開くほど鈴仙の顔を見つめ続ける輝夜に対して、彼女はさらに熱弁を振るう。
「長い綺麗な髪のおかげで、大切な人と会う。姫様にだって、それができます。
姫様ほどの美しい髪なら、これから先もたくさんの人達が喜んで集まってくるでしょう。それに、師匠だっています。
だから……姫様は、絶対に一人ぼっちにはなりません。これから先、今よりもっと幸せな時間を得られるはずです。
今ここで時を止めるなんてとんでもない。時間は、姫様に味方してくれるでしょう。私が保証します。だから、過去に囚われないで下さい。
さっき姫様が、私がいるって言って下さったのは、本当に嬉しいです。
けど、私の存在が姫様の悩みになっているなら……過去に囚われる一因になっているのなら、私は今すぐ消え去るべきなのかも知れません」
「それは許さないわ。今あなたがいなくなったら、干からびるまで泣いてやるんだから」
「じゃあ、ここにいます。水分は髪にとっても大事ですから」
きっぱりした輝夜の言葉で安堵した表情になり、鈴仙は小さく笑みを浮かべる。
「私は小さな月兎に過ぎませんから、姫様が抱え込んでいる”永遠”がどんな物なのか……想像することもできません。
姫様がどれほど苦しんできたのかも、果てしない未来に対して今、どれだけ不安を感じているのかも。
けれど、私にもせめて……せめて、姫様が生きているこの瞬間を、ほんのちょっとだけでも楽しくすることならできます。
数百年という、姫様にとっての小さな小さなお時間。その微かな瞬間を、私の一生をかけて輝くものにしてみせます。
せめて今だけでも、姫様には笑っていて欲しいんです。過去への後悔。未来への不安。そんなものを全部吹き飛ばせるくらいに。
だから……えっと、その……」
言葉に詰まってしまった鈴仙を、輝夜はやんわりと手で制する。
「よく分かったわ……少なくとも、私がいかに幸せ者かは。昼間も言った気がするけどね」
「姫様……」
「大丈夫よ、もう。心配しなくても、髪を切るのはやめにした。これから先も、この長い髪を誰が登って来てくれるのか、楽しみに待つわ。
それに……せっかくあなたが綺麗に整えてくれたんですもの。切ったらもったいないし」
え、と呟いた鈴仙に、輝夜は笑って自身の髪を示してみせる。
指で軽く巻いてから離すと、まるで生きているかのようにするりと解けた。
「あ、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる。くすりと笑ってから、輝夜は夜空へと視線を向けた。
「らしくなかったわね、先の事で悩むなんて。人は未来でも過去でもなくて、今を生きるもの。その通りよね」
「その通りです!姫様は悩みなんて忘れて、座布団で寝転がりながらご飯の時間を待ってるくらいでいいんです!」
あっはっはっはっは、と大きな笑い声がユニゾンし、夜の永遠亭に響き渡る。誰かを起こしてしまうかも、という気配りは出来そうに無かった。
「あははは……ふぅ。何だか、さっきまで鬱々してたのが嘘みたい。さっき、言ってくれたわよね。私の時間を楽しくしてくれるって。
有言実行してくれる子は好きよ。あなたのお陰で、もう先の事とかどうでも良くなっちゃった。あとは……」
「……?あとは?」
「あ、えっと、何でも」
急に焦った輝夜を訝しく思い、鈴仙はさらに尋ねた。
「失礼かもしれませんが……あとは、何ですか?姫様の望みであれば、何でも」
輝夜は再び、鈴仙の顔を見る。彼女が向けてくる視線は真っ直ぐで、目を逸らせない。
観念したように、彼女は息をついた。
「……失望っていうか、ふざけるなって思うでしょうけれど。
――― あなたにも、来て欲しいなって。ずっと心の片隅にはあったけれど、今日こうやって話をして、とても強く思ってしまった」
『あなたにも来て欲しい』――― その言葉が何を意味するのか。鈴仙にも、よく分かっていた。
だからこそ彼女は、敢えて何も言わずに笑顔を向ける。それも、とびっきりの。
輝夜は一瞬驚いた顔になると、ゆっくり立ち上がった。
「……わがままな姫で、ごめんね」
そう呟き、彼女は縁側を歩いていき、廊下の奥へ消えていく。鈴仙はそれを追わず、そこで待った。
数分後、帰って来た輝夜の手には、ガラス製のグラスがあった。
中に注がれた透明な液体をこぼさぬよう、そっと床に置く。
「……これが……蓬莱の薬だったとしたら」
怖いものを何とか見ようとする子供のように、ゆっくり顔を上げた輝夜。
だが次の瞬間、鈴仙はそのグラスをひったくるように掴んでいた。
一気に口元へ運び、傾ける。同時に傾いた液体が、みるみる消えていく。
ごくり、ごくりと喉を鳴らして、あっという間にグラスを空けた鈴仙。
空っぽのそれを再び置いて――― 彼女はもう一度、笑顔を向けた。
「……どこまでもお供します!!」
一連の所業は、時間にしてみれば数秒の出来事。ぽかんと口を開けたままだった輝夜は、我に返って呟く。
「まあ、ただの水だけれどね」
それから彼女は、鈴仙の顔を暫し見つめてから、今度ははっきりとした声で告げた。
「ありがとう、鈴仙」
普段はイナバと呼ばれるのに、はっきりと名前で呼ばれた。それが何だか、無性に嬉しかった。
「本物を持ってくるんだったわ。あなたも一生ついて来てくれたなら、私が未来に不安を感じる事なんてないのに」
おどけるように言った輝夜に、鈴仙は笑顔のまま答える。
「だから、お供しますって。姫様がお望みなら」
「冗談!こんな身体になるのは私と永琳と妹紅だけで十分よ。自分の人生を大切になさい。人じゃないけど。
あなたを不幸にしてまで私が楽しくなるのは、ハッピーじゃないわ。ちんどん屋さんの受け売りだけど」
ぺろりと舌を出してはにかんでから、輝夜はえっへんと胸を張った。
「その代わり!あなたが生きている間は、精一杯私を楽しませなさい!えっへん」
「は~い!」
彼女に合わせるよう、鈴仙もまた元気に手を上げた。
と、その時。二人の頬に差し込む、淡い光。
ずっと雲に隠れていた月が、ようやく顔を出した。
「あら、綺麗な満月じゃない」
輝夜は最初にそうしていたように、身体を庭へ向けて縁側から足を投げ出した。
鈴仙もその横に座り、二人は肩を並べて月を見上げる。
「本当に、綺麗ですね」
鈴仙の言葉に、輝夜は少しばかり悔しそうな語調で答える。
「ホント、うらめしいくらいに綺麗だわ。あんまりいい思い出がないというのに。
ちょっと、あなたの催眠光線か何かで撃ち落としちゃってよ」
「てれめす……無理ですって!そんな大仰な」
「じゃあミサイル!そのブロウクン・ウサミミをぶち込むのよ!」
「できませんよ!ていうか故郷を撃ち落しちゃっていいんですか?」
「処刑までされたのに、あんなの故郷じゃないわ!ただの生まれた場所よ!」
「いやいや、それを故郷って言うんじゃ」
「んも~!融通が利かないウサちゃんなんだから!」
言いながら輝夜は足をばたつかせる。
焦る鈴仙をよそに、やがて大人しくなった彼女はため息。
「はぁ。さっきはああ言ったけど、やっぱりあそこは私の故郷なのよね。たまには、里帰りとかするべきかしら」
「行って大丈夫なんですかね?色々ありましたし」
「ん~、多分厳しい。でもちょっと興味あるな」
輝夜はどこか寂しそうな、それでいて懐かしそうな顔。
だが急に首をぶるぶると振る。
「おっといけない、過去に囚われるなってさっき言われたばっかなのに」
「けど、月での出来事は過去のものしかないんじゃ……」
鈴仙が呟くと、輝夜は途端に、ふふん、と得意気な顔になった。先程から随分と表情が忙しく変わる姫である。
「甘いわね、私は月の姫君よ。月の事なら、たとえ地上からでも分かるっ!”ちでぢ”以上のゆんゆん電波受信能力、そして鮮明な映像受信能力よ!」
「ちでぢ?」
鈴仙の疑問には答えてくれず、自信たっぷりな輝夜はぐわっと目を見開き、夜空の向こうに浮かぶ満月を凝視し始めた。
「ふおおおお……唸れ、我が眼球ゥゥゥ!」
「姫様、何か怖いです!」
「……ほぅら見えてきた!見なさいイナバ!」
「見えませんよ……姫様には、何が見えるんですか?」
苦笑いの鈴仙をよそに、興奮した様子で輝夜は実況。
「おお、右を見ても左を見てもウサミミヘヴン!永琳に見せてやりたいわね。なんかイナバにそっくりなのもいるし」
本当に見えているのかは輝夜にしか分からないので、鈴仙は苦笑を崩さない。
傍から見ていると、その内目が光りだすんじゃないかと思わせるくらいに、輝夜は目に力を込めている。
しかしやがて、がくりと俯いて目を擦りだした。
「うぅ、目が痛い」
「もうおやめになった方が……」
「いいやまだまだ!この際だもの、満足行くまで故郷をねっとり眺めてやるわ!」
鈴仙は心配そうに声を掛けたが、輝夜は少し休んだ後に再び月面観察。
「あ、やっぱりウサギが餅つきしてるわ。月でもここでも、やっぱり餅つきはウサギの宿命なのね」
「へぇ……」
確かに鈴仙も餅つきは好きだったので、何となく興味をそそられた。
「ほら、餅つき中のウサミミが一羽、ウサミミが二羽、ウサミミが三羽……」
いつしか、輝夜は月面に見える(らしい)ウサギを数え始めた。
そんな彼女をよそに、鈴仙もまた月へ視線を飛ばす。月兎である自分が地上にいるという事実が、何だか感慨深く感じられた。
「ウサミミが二十七羽、ウサミミが……にじゅ……ん~……ふぁ~あ」
不意に大きなあくび。目をごしごし擦りながら、輝夜は何とも眠たそうだ。
だがそれでも観察を止める気は無いらしく、先よりも大分元気の無くなったカウントが再開される。
「ウサミミが……さんじゅ、にわ……ウサミミ……うさ……うさ……」
こてん、と軽い衝撃が伝わって来たのはその時だった。
鈴仙が横を見やれば、自らの肩にもたれかかって寝息を立てる輝夜の姿が。時折、うわ言のように『うさ、うさ』と呟いている。
「姫様、こんなところで寝たら」
風邪を引かれますよ、と言いたかったのだが。鈴仙はそこで口をつぐんでしまった。
肩の上ですやすやと寝息を立て始めた輝夜が、まるで幼子のように安らいだ顔をしていたから。
自身の重みと重力に耐えかねて、ずる、ずると輝夜の頭がずり落ちていく。
胸の辺りまで落ちてきてしまったので、鈴仙はそっと輝夜の肩に手を添え、身体を横たわらせる。
縁側に深く座り、輝夜の頭を太ももの上へ。これで安定した。
(どうしようかなぁ)
安定はしたが、まだ眠りに落ちて間もない今は下手に動けば起こしてしまう。布団へと運んでやるのは、もう少し待たねばならないだろう。
少し困った顔になった鈴仙は、子守唄を歌ってみる事にした。輝夜をきちんと眠りにつかせてしまおう、と考えての事だ。
だが、困った事に子守唄を詳しく知らない。
(知ってる歌で、なんか……)
再び困った挙句、彼女は鼻歌で”狂気の瞳”を歌い始めた。とても穏やかなアレンジだ。
”狂気”などというタイトルにはとても似つかわしくない、優しい歌声と旋律。
姫と、兎と、満月と、夜空に溶けていく歌声と。
あの日のように――― 満月が欠けたあの日のように、永遠亭の夜はとてもゆっくりと更けていく。
夢の中へと沈んでいく輝夜。夢と現実の隙間で聞こえてくる、鈴仙の歌声。どんな風に聴こえただろうか。
それはさながら、遠い日の今日に聴いた、母の子守唄か。
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ぱちり、と目が開いた。夜更かししていた気がするのに、妙に目覚めが良い。
輝夜はゆっくりと身体を起こしつつ、状況を把握する。ここはどこの部屋だろう。
きょろりと見渡すと、どうやら客間のようだ。自分が寝ている布団も然り。
縁側で鈴仙と語らい、月を凝視していたのは覚えているのだが、そこからがよく分からない。
ふと横を見ると、自分が寝ていた布団の隣で、ブレザーを掛け布団代わりにし、身体を丸めて寝息を立てる鈴仙がいた。
どう考えても、輝夜が布団できちんと眠れたのは彼女の功績だろう。
(また迷惑かけちゃったなぁ)
一人ばつの悪そうな顔をして、輝夜は布団を畳む。箸より重いものを、なんて揶揄もあるが、これくらいは普通に出来る。
事を済ませると、輝夜は障子を開け放った。途端に明度が急上昇する室内。今日も太陽は元気一杯で、縁側から見える庭に容赦無く光を降らせている。
蝉の大合唱に耳を傾けて脳を目覚めさせようと試みていると、永琳が通りかかった。
「あら姫、お早うございます」
「おはよ、永琳」
「ところで、うどんげ知りませんか?部屋にも鍵がかかってて、開けてみても包丁やら斧やら物騒な物が転がってるばかりでいないんですよ」
「ん、イナバならそこにいるよ」
輝夜は親指で背後の客間を指し示す。
部屋を覗き込んだ永琳はほっと一息ついてから再び尋ねた。
「もしかして、ここで寝てたんですか?うどんげと一緒に?どうしてまた」
「ん~、縁側で乙女の語らいをしてたら私が先に寝ちゃってね。運んでくれたの」
「はぁ」
分かったような分からないような、とでも言いたげな永琳。
その時、二人の話し声に刺激されたか、鈴仙もまた目を覚まして起き上がる。
「う~……あっ!お、おはようございます!申し訳ありません、遅くまで」
「おはよう。まだ遅くないわよ。むしろ早いくらい」
「おはよ。昨日は色々とありがとね」
寝坊したか、と大慌てで跳ね起きた鈴仙だったが、二人の言葉で落ち着きを取り戻す。
やはり暑いのか、彼女が上着を畳んで置いた所で永琳が切り出した。
「うどんげ、起きたばっかの所で悪いのだけれど……今朝の朝食当番、前倒しでやってもらっていいかしら」
「え?いえ、それは構わないですけど……今日って、てゐの番ですよね?」
そうなんだけど、と呟き、永琳はため息混じりに続けた。
「今朝のメニューにわかめの味噌汁があるって知ったら『わかめいやー!生殖細胞部のめかぶいやー!そこから海中に分離する遊走子いやぁぁぁ!!』とか言いながら逃げちゃって。
明日のあなたの当番をあの子にやらせるから、今日の分、頼まれてくれるかしら」
「はい、分かりました!」
「それじゃあ、お願いね」
言い残し、永琳は廊下の向こうへ去って行った。
「それじゃ姫様、私は朝ごはんの支度に……」
そう言いながら厨房へ向かおうとした鈴仙だったが、
「あ、待って!」
輝夜にブラウスの裾を掴まれてストップ。
「な、なんですか?」
「せっかくだから、私も一緒にご飯の支度するよ。手伝わせて!」
宣言しながら輝夜は腕まくり。鈴仙はまたしても困った顔になった。
「ええ!?そんな、姫様にやらせるわけには……」
「え~。私、料理には興味あるのよ。みんなと一緒に、厨房に立ってみたかったの」
「でも、忙しいですし包丁とか危ない物も使いますし……」
「だって昨日、あなたは言ってくれたじゃない。私に清潔で美しく、健やかな毎日を約束するって」
「何ですかそのキャッチフレーズみたいなの!?」
おさんどんの仕事を姫君にやらせるのは抵抗があるのか、なかなか首を縦に振らない鈴仙。
痺れを切らしたか、輝夜は最後の手段を用いた。
「いいでしょ、ね?お願い、鈴仙!」
「う」
びくり、と身体を震わせる鈴仙。名前で呼ばれると、どうにも頼られている感がしてきてしまう。
輝夜にここまで頼み込まれては、もう断る事は出来なかった。
「……分かりました、姫様も一緒に行きましょう」
「やった!」
嬉しそうにぴょんと一跳ねし、輝夜は鈴仙の横に並んで歩き出した。
その道すがらにも、二人は言葉を交わす。
「包丁や火の扱いは、特に気をつけて下さいね」
「大丈夫!」
「あと、髪の毛は束ねた方がいいですね。後でやりましょう」
「うん」
「もちろん、まずは手洗いですよ」
「うんうん」
「エプロンも後でお貸ししますね」
「ありがと」
「……今、楽しいですか?」
「とっても!」
「これからも、笑っていて下さいね」
「あなたが横にいる限りはね」
これはどこに行けば買えるのでしょうか?
面白かったです。
いいお話をありがとうございます!
想像して思いっきり吹いたw
ほのぼのでいてしんみり、とても良いお話でした。
ギャグ自体もちょっとくどくて上滑りしている感じ。
野暮なのは承知。でもスルーは出来ないし嘘もつけない。貴方の書く物語がお気に入りになり過ぎたから。
でも全体的には普通にいいお話でしたよ。鈴仙も輝夜も俺は大好きさ。
まあなんというか、これからも作者様には相応の苦労はおありでしょうがのびのびと作品を書いて頂き、
当方はお気楽に、ごくまれに真面目なコメントをさせて頂くので今後ともよろしく、ということで。
気まぐれな読者で申し訳ない。次回作、良い子にして待っています。
前半ドタバタ、後半しんみり。一粒で二度美味しい。
キャラが皆可愛いけど、個人的にはてゐが一番可愛いと感じましたwいい味出してるよなあ。
厨房に立つ為髪をまとめた姫様・・・やべぇ、見てぇ。
だがそれ以上に!大・はぁどが見てぇ!w
ひめれーせんちゅっちゅ
>>2様
お求めはお近くの紅魔館内大図書館にてどうぞ。レンタルですが。
ご購入の場合、司書見習いのちっちゃな悪魔さんに。特別料金で増刷するとか。
>>4様
昔、色々あった二人ですからね。互いの痛みが分かる、だからこそ思いやれる。
そんな小難しい事考えなくても、影に日向に姫様を支えてあげるうどんちゃん、という構図は非常に絵になると思います。
>>5様
最初は『ゲキガンガー!』でした。分かる奴おるんかー、と思ってもう少し有名であろう勇者王に。
ウィル包丁とかディバイディング麺棒とかゴルディオンお玉とか色々考えてたのに、流石に自重しようと思って断念。入れちゃえば良かったかなぁ。
>>6様
前半は明らかに収拾が付いていないというかごちゃごちゃというか色々アレなので、せめてラストくらいは。
ラプンツェルは個人的に思い入れのあるお話なので生かしてみたかった。けど原作は結構( ・∀・)<エロいな
>>7様
姫様が可愛いのは当然の事。問題は、それをどこまで損なわず、出来るだけ生かしてお話に出来るか。頑張りましたとも。
>>9様
ウサギさんの膝枕ですやすや眠る姫様。一度書いてみたかった。しかし絵になる……どなたか描きませんか?
>>10様
しんみり、でもあんまり湿っぽくはしたくない。というわけで笑顔でおしまい、な感じになりました。
>>11様
そして何よりも文章力が足りない、な自分はお話そのものや構図で頑張るしかないのです。面白いって言って頂けて嬉しい。
>>12様
各人の台詞を考えるのがすっごく楽しかったです。ええ、バカです。ごめんなさい。
お話の方も評価して頂けたようなので、単なるバカにはならずに済みそうです。ふぅ。
>>コチドリ様
いつも有難う御座います。そして今回は的確な批評までして頂けるとは。
正直、前半と後半の温度差が激しすぎる事は百も千も承知であります。それでも敢えてこのスタイルで挑んだのは、コメディの笑いと真摯なお話の温かさと、両方を詰め込めたらなぁという思いでありまして、まあ要するにただの欲張りです。
メリハリって大事ね。これからも頑張りますので宜しければご贔屓に……。
>>ワレモノ中尉様
いつも有難う御座います。二層構造ですが水と油になってなきゃいいなぁ。え、なってる?
まあそれはともかく、今回はひたすら受難なてゐには少し申し訳無く思っています。でもワカメから涙目になって逃れようと逃げ惑うてゐ……可愛くないですか?ダメ?
次は幸せウサギにしてあげたい。
>>21様
普段同じ髪型の人が、少しでも変えてみると凄く印象が変わりますよね。是非、姫様には色々な髪型に手を出して頂きたい。ポニテとか。
大・はぁどとセットで、新規出版された『774 大・あなざぁでい』もどうですか?大ちゃん主役のハードボイルドスパイアクション、らしい。
>>22様
浄化って聞くと某音ゲー曲とか某オーラバトラーとか浮かびますが、それは関係なし。こんな世の中ですから、せめてこういった場で癒されて頂けたら。
>>23様
当該シーンが書きたいがため、というのは言い過ぎですが。書いてて気合が入り、また楽しかったシーンでもあります。
この二人、また仲良しさんで書きたい。というかデフォになりそう。