「ねぇねぇパチぇ、ちょこっと、お願いがあるんだけどぉ」
「嫌よ、断じて嫌」
背筋に寒イボができそうな猫撫で声を掛けられて、私は嫌な予感しかしなかった。
わが友人がこのような話し方をするときは大抵ロクなことが無い。速攻で拒否。
「ちょ、ちょっと。せめて話くらいは聞いてくれても良いじゃないの、ねぇ?」
「分かった。ちょっと待ってなさい。消極的に頼みを断る方法を探してくる」
「いやいやいやまぁ待ってったら」
席を立ち図書館の海に潜ろうとする私を、レミィは引き止める。襟首を掴んで。
なにせ吸血鬼の力だ。私の力では抜け出せない。息ができない。
「大丈夫大丈夫、別に大したことじゃないんだって。だからちょっと聞いてちょうだいよ」
分かった。分かったから離せ。襟が伸びる。寿命が縮む。
ジタバタするのをやめると、レミィは馬鹿力を収め、私を解放した。
「いやあ良かったわ、穏便に済んで」
うるさいよ圧力外交。
とはいえ、この吸血鬼の横暴はいまに始まったことじゃあない。私も大概慣れていた。嫌な順応だ。
「――で、何? 大したことじゃないなんて言ってたけど、レミィのことだから随分な厄介ごとなんでしょうね……」
「まっさかぁ。そんなことはないわよ?」
私の問い掛けににこやかに答える紅い月。ふむ。つまり厄介ごとというわけだな。
ひねくれた解釈だが、何せレミィだからこれぐらいで丁度良いのだ。
「あのね――ちょっと、血を吸わせてほしいのよ」
なるほど。
実に彼女らしい頼みだった。つまり、何を考えているのか全く理解できない。
私の血なんて吸ってどうする。
「積極的にお断わりするわ。魔女以外に鞍替えする気は無い」
吸血鬼やその類のものにされたって、私は困るだけなのだ。吸血鬼は日を浴びれないし、流水を渡れない。七曜が二つも欠ける。アイデンティティの崩壊は目に見えている。
大体レミィの側でも、いまさら眷属を増やしたって何にもなるまい。
「……パチェ、あなた何か勘違いしてない?」
「何を」
「別に同類を増やしたいわけじゃないのよ。ただちょっと、魔女の血の味ってどんなものかなと思っただけ」
「ああ、なるほどね。まあ、どっちにしろお断わり」
「は?」
「血が足りなくなる。ただでさえ不足してるというのに」
この私の弱点が喘息だけと思うなよ。フィジカルの弱さなら幻想郷で五指に入る。むろん貧血もバッチリ習得している。
伊達に地下で本ばかり読んでいないのだ。フフン。
「血が足りなくなるって、馬鹿ね、そんな大量に吸うわけじゃないのよ。ちょっとだけよ、ほんのちょっと」
「……ふむ。私の貧弱っぷりを理解できていない、と」
フィジカルに関してどうしても吸血鬼目線で考えてしまうのだろう。気持ちは分からないでもない。
が、そんなことをされては困るのだ。何せ私の身体スペックと来たら、自分でも悲しくなってくるレベルなのだから。レミィとは文字通り比べ物にならない。
「いい? 私はモヤシ。それも、あなたには想像も出来ないようなレベルで。そりゃ多少の擦り傷切り傷でどうにかなる程じゃないけど、吸血なんかされた日には永遠亭送り、最悪なら三途渡り。さすがに命は惜しい」
「大げさな……。そんな吸わないってば。ちょっとだけ」
そんな吸わない。そうは言っていても、何せ相手はレミィだ。「吸血が下手」とかいう吸血鬼らしからぬ特徴の持ち主だ。そのまま信じるのも恐ろしい。
ちょっとという量が彼女の口に入るまでに、一体どれだけの無駄な血が流れることやら。
「普通の採血レベルでも辛くなるのよ。勘弁してくれない?」
「じゃあスプーン一杯分! これならどう?」
「……レミィ、何でそこまで拘るわけ?」
「え? ああいや、ええと、その」
途端にまごつき始める紅い月。
なるほど。つまりアレか。
「魔女の血を飲んだことが無いと。五百年生きてきて」
「ゴフッ」
およそレディらしからぬ声を出す吸血鬼。図星か。
なんか可哀想になってきた。
「……ああもう、分かった分かった。スプーン一杯。それ以上飲んだらロイヤルフレア。オーケー?」
「えらくリスキーな……まあいいわ。じゃちょっと肩出してくれる?」
「肩?」
「首からだと出過ぎるのよ……ちょっとの量なら肩が良いわ」
「ああ、なるほど……」
吸血のコツなんて知らないけれど、まあそういうものなのだろう。
服をずらして肩を露出させる。
「白い肩……なんというかこう、そそるわ」
「そう。日符ロイヤル」
「あぁ止めて止めて。ちゃんと吸うから」
なら無駄口叩いてないでサッサとすればいいのだ。
レミィは私の肩に吸い付く。最初は唇だけが当たるばかりだったけれど、次第に硬い物が中に入ってくる。牙だろうか? でも大して痛くもない。
文献曰く、性感があるとか、恍惚感があるとかだったが、そんなことは全く無かった。ふむ。これは発見。
「……吸ってる?」
「ふっへふ」
吸っているらしい。そんな感じは全くしない。牙の感覚だけだ。
しばらくじっとしていると、レミィは口を離した。吸い終わったらしい。よく分からない。
「……いやぁ、貴方の血って素晴らしいわね。魔女だからなのかどうかは知らないけど、今までで一番美味しかった」
「へえ。食べ物で例えると?」
「背脂チャッチャ系のラーメン」
私は高脂血症だったのか……食習慣を改めよう。
とりあえず、少量とはいえ血を吸われたからか、何だかフラフラする。
くたびれたし、寝よう。小悪魔にベッドを準備してもらおうか。
「小悪魔ー」
「はい、どうしましたパュリー様?」
「ああ、寝るからベッドを……ん?」
「あ、パェ寝るの? じゃあ私戻るわ。おやすみ」
ちょいと気付きにくかったですが、気付くとなるほどと。
でもやっぱ、パ ュリーって言いにくくないっすか?w
あぶねぇw
フルネームで考えると吸われて困る人結構いますねえ。
ちって付くキャラって意外と少ないんだなぁ
献血ですが、適度に抜くと新しい血液がその分作られるので体にいいですよ。
さぁ君も紅魔館に行こう(違
パッと見、明らかにくだらないダジャレなのにあなたが書くとこんなに笑うのは何故なんだww
毎度毎度あんたはもうwww
言いづらいことこのうえない名前になりましたね……
どうやって発音すんのwww
誰か発音記号プリーズ
要所要所で笑わせてもらいました。
だがそれがいい!!
正しくはェンッ!!!ですね
当然何か仕掛けてくるのはわかっていたが、パェの破壊力はそれ以上だった。
畜生w
評価高いから期待したが自分には合わなかった