※オリキャラ(人間)が出てきます。※
月明かりの夜の中寂しげな道を飛んでいく。
妖怪さえもあまり通らないこの道に人間が、しかも夜に通るなんてことはめったに無い。
でも退屈な私は何か無いかと毎日この道の上を飛ぶ。
「~~♪~♪」
少し歌を口ずさむ。歌うのは好きだ。楽しくなる。
でも私の歌は人を狂わせてしまう能力があるから人間が聞くと道に迷ってしまう。
だから人間は私の歌を嫌う。でも歌う。だって楽しい。
どうせここには人間なんて来ないし、今だって私以外いないのだから気にする方がどうかしてる。
と思った矢先、前のほうに何かの気配がした。
猫だろうか、鳥だろうか、妖怪だろうか?何に出会えるのだろう?
わくわくしながら気配に近づいていく。すると、そこには私が予想していなかったもの、人間がいた。
「何・・・??そこに誰かいるの?」
近くまで飛んできてしまった為、私がいることに相手も気付いてしまったらしい。
思わず木の陰に隠れる。どうしよう・・・と少し考えて・・・
予想外だったが折角人間なんて珍しいものに会えたのでからかってやろうと決めた。
「~♪~♪~~♪~♪~~~~~♪」
さぁ鳥目になって!そしてこの夜の道を迷って帰れなくなれば良い!
慌てふためいた人間の姿を観察するのだって悪くないから。
「綺麗な歌だね」
「!!??」
はっとして歌うのをやめる、気付けば人間は私のすぐ傍までやってきていた。
鳥目になった人間が、いくら歌っていたとはいえ私の場所まで来れるはずがない。
何とかして姿を隠さないとあぁでも私の歌が効かないならどうすればいいのか。
慌てながら人間を見てみると「なんで歌をやめたのか」という表情になっている。
とりあえず逃げてしまおうと羽を広げて飛び立とうとする。
「大丈夫だよ。見えないから。」
逃げようとしたのが分かったのか人間は私に言った。
人間はずっと目を閉じたままだった。
「・・・」
でも目を開いたら見えてしまうじゃないかと思う。今夜は月も出ていて姿を見ることもできるくらいの明るさなのに。
そう思っている内にとうとう人間が目を開いてしまった。
はっと身構えるがすぐに気付く、その目は私を映していない。
「目、見えないんだ・・・」
見えないってそう言う意味だったのか・・・と私が納得しているとまた人間が言った
「さっきの歌、歌ってよ」
「え・・・でも私の歌は人間を狂わせるのに・・・」
「・・・何ともなかったけど?」
「う・・・」
確かに目が見えないのであれば、鳥目なんて関係ない。
突然夜道に迷うこともない。すでに暗闇なのだから。
でも私は人間をからかうのに歌を歌っていたのだ。それ以外で人間に歌を歌うことなどありはしなかった。
歌うのは好きだが正直微妙な心境だ・・・
人間は静かにずっと待っている。私が歌うと信じてるのだろうか。
「・・・~~♪~♪~♪・・・」
少しだけ歌ってみる。すると人間は嬉しそうに微笑んだ。
・・・なんだか嬉しい気がする。私の歌を聞いて微笑んでくれるなんて。
目が見えないなら姿を見られることも無いし、害もなさそうだからまぁいっか。
そう思った私は歌を歌った。
・・・とても、楽しかった。
「こんばんは」
またあの人間の声がする。
「・・・こんばんは」
このところ毎晩私と人間は出会う。それもそのはず。私がいつも上を飛んで通る道に待ち構えているのだ。
初めて出会ったあの夜から毎晩毎晩それは続いていた。
よく飽きもせず来ると思う。目が見えないのであればここまで辿り着くことは簡単ではないだろうに。
しかし私も私。あの人間がいると分かっていながらこの道の上を飛ぶ。
・・・自分の歌を褒められるのに、悪い気はしなかった。
毎晩歌ってくれと頼まれるたびに私は歌った。そして人間は静かに私の歌を聞く。
ただそれだけだったが、私の毎晩の日課となりつつあった。
「歌、歌ってよ」
「・・・~~♪~~~♪~~~♪~♪~♪」
今日も歌う。初めはなんだか気恥ずかしいが、だんだん楽しくなってくる。
「やっぱり上手いね、ありがとう」
歌が終わると拍手とともに微笑んでくれる。
・・・拍手といっても1人だけ、しかも辺りは静かだから少し寂しいのだけれども。
私は少し照れてしまって毎回そこで「それじゃあ」と言って飛び去る。
人間は初めの頃は私を呼び止めていたが、今はもう私を静かに見送る。
照れてしまっているのを気付かれたのかもしれない・・・
それから暫くたったある日、いつものように飛んでいたのに、あの人間に出会わなかった。
あんなに毎晩来ていたのに、とうとう迷ってしまったのだろうか。
いや、雨が降っていても来てたのに、今さら迷うなんてことはないと思う。
それでもなぜか心配になって私はその辺りを飛び回った。
でもあの人間はいなかった。迷ってはいなかったと安心する反面、1つの考えが浮かんできた。
・・・もしかして、遂に飽きてしまったのだろうか。
そう思うととても悲しくなった。たかが人間1人のことなのに。
大体、出会う前は誰にも歌など聞いてもらっていなかったのに。
それより、人間など、大嫌いだったのに。
「~♪~~~♪~♪~~~~♪」
気付けば私は人里のすぐ近く(人里の端の端と言った方がいいかもしれない)まで来ていた。
そして、あろうことか歌っていた。
人間が聞けば惑い、狂ってしまう歌声。
昼ならばすぐにどこかの人間が気付いて私を人里から遠く追い払おうとするだろう。
でも今は夜。たいていの人間は寝てしまっているだろうしこの辺は人里の端の方だから住んでいる人間も少ないだろうし、そんなに大騒ぎにはならないだろう。
追い払われてしまう前に、1人だけ、私の歌を聞いても平気な変な人間にだけ私がここにいると気付いて欲しい。
その為にわざわざこんなところまで来てしまった。
そう。あの目の見えない人間がいつもの道まで辿りつけるのだから、きっとあの道から一番近い人里の端の方に住んでいるのではないかと思った私は飛んできてしまったのだ。
そして、私だって妖怪。ここに来て、僅かだけれどあの人間の気配を感じ取ることができた。絶対にいる。この人里にいる。
・・・こんな、人間が住んでいるところ。大嫌いな人間がいるところ。でもあの人間がいるところ。
早く帰りたい。でもあの人間に会いたい。
私の歌を聞いて欲しい。
人間は私の歌を嫌うし、古老の妖怪たちだって私の歌は煩いだなんだとやっぱり嫌う。
歌を聞いてもらえないなんてことは別に平気だった。誰にも好きになってもらえなくてもいいと思っていた。ただ、自分だけが楽しければいいと・・・
それがあの人間に会って変わってしまった。
私だけが楽しいのでなく、他の誰かも楽しく。
私の歌を嫌うのではなく、好きになってくれて。
そんなことがとても嬉しくて楽しくて、幸せ(よく分からないけれど多分そうなんだろうと思う)だと知った。
でも私の歌を聞いてくれたのは、あの人間だけ。
だから、だからだからだから。
「~♪~♪~~~♪~~~~♪~♪」
私の歌に気付いて!私の前に現れて!
そう思いつつ、歌を歌い続けた。さすがにそろそろ諦めた方がいいかと思い始めた頃、人間の気配が私がいるほうに近づいてくるのが分かった。
・・・あの人間だ。私が会いたかった、あの人間。
歌うのをやめてそっと静かに待つ。
「・・・こんなところまで歌いに来てくれたの?」
「・・・・・・だって、来なかったから。」
私がそう言うと、人間は少し驚いたような顔をして、すぐに笑顔になった。
「そっか・・・ありがとう。」
今度は私が驚いてしまった。勝手にやってきたのは私なのに。
それに私の歌を聞いて平気なのはこの人間だけだと思うから、他の人間にも聞こえるように歌った私はむしろ責められるべきじゃないのだろうか。
「べ、別にお礼言われることじゃ・・・私は、その、飽きちゃったのかと思って・・・」
「飽きる?」
「私の歌を。それで、もう来たく無いなんて思ってるのかと・・・」
「そんなことないよ。」
また私は驚いてしまった。じゃあ、じゃあなんで。
「親にバレちゃったんだ。夜に家を抜け出してること。」
「え?」
この人間の話を聞くと、どうやら私の歌に飽きてしまった訳ではないらしい。
なんでも親から外出を禁じられていて、この人間が外に出ていたことをこの人間の親は知らなかったけれど遂に見つかってしまった・・・ということか。
「昼はもちろん、朝でも夜でもいつでも、外に出てはいけないって言われてる。
・・・目が見えないのは病気のせいだから。」
私は目が見えない理由はてっきり怪我か何かかと思っていた。
それに病気、外に出るのを禁じられているということは・・・
「この病気は他の人にうつってしまう病気みたい。
だから親は他の人に迷惑かけたくなくて、もちろんうつってしまって相手もこっちも悲しい思いをしないようにって考えて、外に出してくれなかったんだ。」
「でも貴方は私のところまで来たじゃない。」
「あの歌を聞くまではそんなに毎日出てたわけじゃなかったし・・・親もまさか目が見えないのに外に出て何もできないだろうと思ってたみたい。」
でも私の歌を聞くために毎日抜け出して・・・それで・・・
「ま、また抜け出せるの?」
「難しいかな・・・1回バレちゃったから・・・」
人間はとても落ち込んでいる様子だった。本当に、もう無理なのかもしれない。
私の歌を聞きに来てくれなくなったら、また私は独りで歌わなくちゃならなくなる。
そんなの絶対嫌。・・・寂しい。
だから、この人間がもう来れないというのなら。
「それなら、私は夜雀よ、毎晩歌を歌いに飛んでくるわ。
雀が飛んでくるなら問題はないでしょう?」
私がここに飛んでこよう。歌うために飛んでこよう。
「でも、その・・・他の人に歌が聞こえたら」
「他の人間に聞こえないように、貴方だけに聞こえるように歌うわ。」
「もし聞こえてしまったら?」
「そ、その時はその時よ!なんとか上手く切り抜けるわ!」
必死で私は言った。私がどんなにその気でも、この人間にダメだと言われたらそこまで。
私は諦めるしかない。
そう思う私とは裏腹に、人間は嬉しそうに言った。
「じゃあ約束。待ってる。夜になったらきっと来て。」
その言葉を聞いた私も嬉しくて、
「もちろんよ!幻想郷一素敵な歌を聞かせてあげるんだから!」
歌を歌おう。
音しかないその世界を私の歌で満たそう。
それがとても嬉しくて。
人間も、そんなに悪いものじゃないのかも。そう思った。
もともと盲目ならば歌で視界を奪われる恐怖はないのでしょうね。
初投稿ということで今後に期待。
ここからもっと展開すると面白いと思います