「レミィ、もういいでしょう」
部屋にはフランドールとパチュリーと美鈴と小悪魔がいたが、ただいつもと違うのは咲夜に取り付いて泣き喚くレミリアを沈鬱な表情で見守っていることだろうか。
「レミィ、もうお別れの時間よ。さあ、手を離して」
「嫌だあっ! 咲夜とずっと一緒にいるっ! 離せ!」
歩み寄った美鈴の手を凄まじい勢いで跳ね除けたレミリアは咲夜の亡骸にむしゃぶりついて依然離そうとしない。
フランドールは呆然と姉の姿を見下ろしていた。
小悪魔はただ立ちすくんでいる。
レミリアは咲夜の細い腕を掴んで喚いていた。
しかし、ふとレミリアの手が緩み、小さく呻くと膝から崩れ落ちて床の上で丸くなった。
そして、それきり大人しくなる。
「ごめんなさい、レミィ……」
薬のビンを抱えたパチュリーが指示を出すと、美鈴が気だるい足取りでレミリアを抱え上げようとしてふと手を止める。
「あら」
咲夜のポケットからいつの間にか抜け落ちた銀時計がレミリアの胸の上に落ちていたのだ。
銀時計は光に反射して妖しく輝いていた。
美鈴は床へ落とさないように慎重に銀時計ごと抱えあげると重い扉を開けて廊下へと連れ出した。
その間、口を利こうとするものは誰もいなかった。
よく晴れた朝のことであった。
<新世紀>
「彼女がいなくなってから、半年よ。」
それを呟いたのはメイドの誰だったろう。
日光を浴びながら洗濯物を干す彼女の金髪は鈍く輝いていた。
恐らく、レミリアは彼女の名前を知らない。あるいは知っていたとしても、すでに忘れているかもしれない。
レミリアが新しいメイド長の名前すら知っているのかも定かではないのだ。
そして現在、レミリアは地下186m地点にいた。
重々しい扉の奥にあるその部屋は、地下奥深くに存在するためか一日中涼しかった。
レミリアは数日続けて部屋に篭ることもあれば、たまにふらりと外へ出ることもあった。
しかし、外とは言えど、一般的な意味での「外」ではなく、ダイニングルームだったり、図書館だったりはしたが。
館内で偶然レミリアとすれ違うメイド達は以前よりも怯えを露にして、深く頭を下げた。
灯りの類がほぼ存在していない部屋の中でレミリアはワインを呷っていた。
音といえばグラスが触れる音くらいのもので、時折わずかな光に赤い液体が反射していたが、突如としてノックの音が響いた。
「何……?」
レミリアは掠れた声を出して、首を少しだけ後ろへと向けた。
するとそこには細い影が見える。背後の照明に照らされた紫色の髪が目に映る。
「レミィ」
「調子はどうなの?」
レミリアはぶっきらぼうに言った。
パチュリーは「まずまず順調よ」とだけ答える。
「そう」
レミリアはそれだけ言うと首を元の位置に戻してしまう。
「レミィ!」
「……」
今度は明らかに不機嫌そうに、露骨に表情を表したレミリアが振り返る。
「お客さんよ」
「何?」
レミリアの口から牙が覗いた。
「誰?」
「行けばわかるわよ」
「……会いたくない」
パチュリーはレミリアの目を見つめた。
「いいから」
「……」
レミリアはゆっくりと椅子をきしませながら立ち上がる。
「あなたは……」
「アリス・マーガトロイドよ。お久しぶり」
そう言って少女は手にしたバスケットケースからクッキーを取り出した。
用意周到なことだ、と目を細めていると名前も知らないメイドがやって来て紅茶を淹れると立ち去っていった。
「用件は何?」
「レミリア」
「……気安く呼ばれる筋合いはないわ」
アリスは無遠慮にレミリアの顔を眺めた。
「疲れているわね。やつれてるわ」
「吸血鬼はやつれない」
レミリアはうんざりといった表情をする。
「私と話すことなんかないだろう。パチュリーを呼ぶから二人で話していればいい」
「待って、二人で話したいのよ」
「何を」
「パチュリーの様子がおかしいのよ。あなた何か知らない?」
どういう意味だ。
レミリアが意味を図りかねて黙っていると、アリスは続けざまに言う。
「彼女が毎日、辛そうにしているのを見るのは耐えられないの」
「……」
「この間、遊びに来たときからそうよ。最初は屋敷の中に入れてさえもらえなかった」
いい具合に冷めてきた紅茶を啜る。
「もっと、パチュリーのことを気遣ってあげたらどうなの?」
「何が言いたいっ」
レミリアが声を上げると、アリスはあくまでも冷ややかに言い放った。
「わがままなのは変わってないのね。状況は変わったのよ。受け入れたら、どうなの? 何を隠しているのか知らないけれど、パチュリーにやつあたりしてるのね」
レミリアは立ち上がると同時に飲みかけの紅茶をアリスにかけた。
アリスは立ち上がろうともせず、慌てたメイドの運んできたナプキンで髪を拭っていた。
その冷ややかな視線はレミリアが部屋を出るまで、彼女の背中に突き刺さっていた。
そして、アリスは言う。
「卑怯者」
「いくら、吸血鬼と言っても飲みすぎなんじゃない?」
ワインをしこたま飲んで、昨晩から眠っていたパチュリーの手が肩に置かれていた。
変わらぬ日常に吹き込んだアリスの突風は少なからず、影響を及ぼしていた。
アリスが帰って以降、数日はこのような有様だった。
「放って置いてよ」
「レミィ、お客さんよ」
「……また?」
「いいから、出て。私にはどうしようもないの」
パチュリーの顔は心なしか青ざめていた。
「ごきげんよう。レミリア・スカーレット」
応接間の赤いソファーに腰掛ける八雲紫は只ならぬ殺気を発していた。
紫は手に持った傘を遊ばせる。
「何の用?」
レミリアは向かいに深く腰掛ける。
紫は作り笑いもせずに言った。
「一体、これはどういうことなの?」
「……?」
「驚いたわ。何か嫌な予感はしていたけれど、この空間には一月程前から結界が張られている」
レミリアは何が何だか分からないと言った表情を作る。
「それがどうか?」
「この空間の中では……、隙間が開けないのよ。結界は明らかに私用に張られているわね?」
「……」
「あなたたちが何か不穏な動きを見せていることは知っているわ。何を企んでいるの?」
「さあ。何のことだか分からないわ」
紫は傘の上で組んだ指を絡ませる。
「紅魔館は幻想郷の問題児ですものね」
くすくす、と笑う。
「今のうちに白状すれば、許してあげないこともないわ。どうしましょう……?」
「お帰り願うわ……、何を疑っているのか知らないけれど、気分が悪いもの」
レミリアがまたしても立ち上がると、紫は冷たい声を出した。
「後悔しても無駄よ……、あなたのしようとしている事は見過ごせないわ」
「……」
「予感よ」
レミリアは勢いよく扉を閉めた。
ある涼しい昼間のことだった。
レミリアは珍しくダイニングで食事を取っていた。
その理由は地下に飽きたのか、それとも地上の日光が恋しくなったのか、なのかは定かではなかったが、パチュリーは少し嬉しげだった。
「珍しいのね、地上に出てくるなんて」
「最近は来客が多かったから、何度も出ていただろう」
「それとこれとは別でしょう」
レミリアはトマトジュースの入ったグラスを静かに置いた。
すると、その瞬間、トマトジュースの表面に小さく波紋が入る。
レミリアは眉をしかめ、パチュリーは肩をびくりと震わせた。
「な、なんの揺れかしら。地震……?」
「来たか……、昼間だと思っていたよ」
「レミィ」
レミリアが椅子を飛び降りて駆けて行くのをパチュリーは追う。
間もなく、破壊音が屋敷に響いた。
「レミィ、これは、まさか!!」
「そう。やはり昼間を狙ってきたな」
二人は日光が入らないように締め切られた館内を走り、大広間へと抜ける。
「ああっ」
「フランっ」
パチュリーが先に声を上げた。
そこにいたのは今まで部屋に閉じこもっていたフラン、と戦う紅白衣装の巫女だった。
「霊夢」と叫びそうになったレミリアは口をつぐむ。
霊夢はもう生きてはいない。二代後の名前も知らない巫女だ。
「博麗を派遣してきたか……」
レミリアを発見した巫女はクルりと向きを変える。
「レミリア・スカーレットね。あなたたちに異変は起こさせないわ、いえ、すでに起きているこの状態を止めて見せる」
霊夢によく似た口調の巫女はフランの弾幕を避けるのに必死だ。
レミリアは叫んだ。
「フラン、もう少し食い止められる!?」
「ええ、何とか! お姉さま、これはどういうことなの? どこへ行くの!」
爆発音を後にレミリアとパチュリーが向かったのは地下室だった。
息を切らしたパチュリーがエレベーターに乗り込むと、レミリアはBのボタンをプッシュする。
急速に下降が始まった。
レミリアもパチュリーも黙っていたが、レミリアが口火を切る。
「パチェ、もう使えるわね?」
「恐らく……。レミィ、本当にあれを使う気なの?」
パチュリーは俯く。
「もともと使うつもりだった……キーも持っている、そして、あれとか言うな……」
チーン、と音が鳴って、駆け下りたレミリアはまず照明を付ける。
すると、白い光の中に銀色と青色を基調に輝く巨体が浮かび上がった。
「咲夜……」
レミリアはその巨体に頬ずりしてから、手の中のリモコンを操作すると胸の空洞部分が大きく開いてレミリアはそこに飛び乗った。
いよいよそこが閉まると、レミリアの飛び乗った空間のドアが閉まり、密室となる。
レミリアは目の前に並んだ計器類を見回すとその間に大きく開いた空洞があった。
「……」
レミリアは懐から丸い物体を取り出した。
それは時を刻む銀時計だった。咲夜の遺品である。
しかし、感傷に浸る時間は無かった。
レミリアが銀時計を空洞に嵌めると時計の文字盤が回転を始め、計器類が赤や青や緑に点滅し、表れたディスプレイのゲージが見る見るうちに溜まっていく。
<賢者の石・MAX>
「よしっ」
レミリアが右手のレバーを引くと巨体がすばやく立ち上がり、足から炎を吹き上げ、地下室から地上までを一気に突き破って空中へ舞い上がった。
その余りにも凄まじい様子を見たパチュリーは、「ああっ」と声を上げる。
「レミィ。気をつけてっ……!」
「行くわよ……、咲夜……、いいえ、サヴァンゲリオンっ!!!!」
外へ飛び出した巨大な物体が爆音を上げつつ外へ飛び出す。
日光の下、明らかになったその物体は人型であったが、違うのは外装が金属で出来ていることと、そしてその外見が明らかに咲夜を模していることだった。
顔の方はいかにも固いです、と言わんばかりの角ばった造りだったが肌色と黒で着色されており、目まで書かれているのはレミリアが拘った証拠と言えた。
髪型もしっかりと装甲部分に組み込まれており、銀色に塗装されたそれの上にはドレスヘッドが乗せられていた。
そして、二本の長く伸びた足の上はきっちりとメイド服様の装甲を成しており、塗装ではあったもののボタンとリボンタイまでも付いたその外見には一種の執念が感じられ、巨体が紅魔館前に着陸して湖を揺るがすと壮観であった。
パチュリーの採取したデータによると、全長68m、まさに巨人である。
と、レミリアは素早く右手の赤いボタンを押した。
<サンバイザーモードON>
の文字が点滅し、搭乗席のガラスがスモークガラスに素早く切り替わる。
レミリアが一息付くと、背後に鈍い衝撃が走る。
「お姉さまっ、それはっ」
玄関ホールを飛び出してきた博麗の巫女と玄関に立ちすくむフランドールだった。
立ちすくむフランドールを見るのは久々だった。
巫女の手には札が握られており、恐らく衝撃は背中に当たったものであろうと思われる。
レミリアは即座に左のレバーを二回引っ張り、損害を確かめる。と同時にスイッチを入れた。
<只今、計測中……>
「お姉さま、それは……!? 一体、さ、咲夜……!?」
「いいえっ!!!」
レミリアは叫んだ。
「咲夜ではないわ……!!! これはサヴァンゲリオン、!!! サヴァよ!!!!」
「サ、サヴァですって!!! す、すごいわお姉さま!!」
前方に回りこんできた博麗の巫女を見て、レミリアはうるさそうに眉をしかめる。
「あなたに勝ち目はないわ。引きなさい」
「引かないわ、レミリア・スカーレット! 私の名前は博麗……」
「サヴァ!!!」
博麗の巫女は大きく横に吹き飛び、雑木林に突っ込んだきり動かなくなった。
レミリアは余りの威力に我ながら、驚きを隠せない。
<解析完了
損害度:約0%以下。各兵器:充填済み>
「すごい!! すごいわサヴァ!!!」
「そこまでよ!」
「!?」
同時刻
魔法の森。
アリスは紅茶を小さな机の上に置くと、覗き込む人形を脇目に手紙を書き始めた。
「親愛なるパチュリー様へ
あれから調子はいかがですか。心配してくれたようですが、私は元気です。レミリアに伝えたいことを伝えられたかどうか正直自信はありません。
しかし、私は信じています。
あなたがレミリアを癒してあげられることを。彼女はきっと変われるはずです。
彼女もいつしか一人で強く生きていけると思うからです。
これが、この間の手紙に対する答えです。
あなたが今すべきことは、レミリアが間違ったことをしないように道を踏み外さないように見守っていてあげることだと思います。
しかし、不安なのは、決してあなたを疑いたいわけではないのですが、私に何か隠し事をしていませんか。あなたの目を見ると何かに怯えているように見えてならないのです。
あなたが間違ったことをするとは思えませんが、レミ」
衝撃。
アリスは窓の外を見て、驚く。
「煙……?」
紅魔館だ。
アリスの頬を久しぶりの冷や汗が伝った。
アリスは人形を呼ぶと、紅魔館へと飛び立った。
「やはり、お前が絡んでいたか。八雲 紫!!!」
宙に浮かんだ八雲 紫 はごきげんよう、とスカートを翻した。
レミリアは躊躇なく右手のハンドルを半回転させてから、足元のペダルを踏んだ。
<インディスクリミネイト・ハツドウ>
人工音声の後、サヴァの青いスカート状の装甲の下から飛び出した巨大ナイフが紫を襲う。
左右から飛ぶナイフを避けると紫は宙に浮かんだまま器用に裁く。行き場を失ったナイフは湖に大きな水しぶきを上げた。
「それは一体、何なのかしら?」
「サヴァだ!!! もはやスペルカードルールは通用しない。貴様に勝ち目はない」
紫はサヴァンゲリオンの顔のあたりを見て小さく失笑したが、くるりと宙返りした。
レミリアはその態度に非常に不快感を覚える。
「な、何がおかしい」
「お前たちが、このようなものを作っていたことはすでに知っていた!!!」
「な、何ですって!!?」
「賢者の石と月の石を原料とした恐るべき暴力兵器! 対策は打たせてもらったわ! 幻想郷は! 私が守る!!」
湖に巨大な水柱が立つ。
フランが悲鳴を上げた。
「狐型決戦兵器・藍!!!」
水中から現われたのは九本の尾を持つ恐るべき金色の狐型兵器であった。
狐型であったが、その体は巨大で68mのサヴァを遥かに超えていた、
それはもはや、藍ではなかった。
「RAN」だった。
<敵出現、敵出現>
「分かっているわよ……」
「お姉さま、危ない!!!」
RANの突進だった。
四本の足を生かした突進は素早く、レミリアは避けきれず、まともに受けるはめに陥った。
サヴァの体は大きく後退し館の門を破壊し、なぎ倒したところで止まる。
「くく、さっ、咲夜!!」
「お姉さまっ!! ここで戦っちゃだめっ!!!」
到着したアリスは目を疑った。
巨大な機械が紅魔館を破壊しながら戦っている。
しかも、片方は金色の狐型で片方は大分見た目は雑でところどころ塗装が剥がれかかっているが、あれはおそらく……。
「どうしよ」
アリスは急に熱が出るのを感じた。
「アリス!!!」
「パチュリー!?」
パチュリーと日傘を差したフランドールと橙が一斉に走ってきた。
「あれは!?」
「ごめんなさい、アリス。止められなかったの」
「お姉ちゃん」
「あれは一体何なの!?」
「あれは……、サヴァ、サヴァンゲリオンよ」
アリスは深刻な頭痛を感じた。
「何ですって……?」
「あれは……、サヴァ、サヴァンゲリオンよ……」
「あっ紫様っ!!」
一瞬の出来事だった。
生前より角ばった、高い鼻の下から虹色のレーザー光線が射出され、RANの喉元を貫いた。
それは紛れも無くジャック・ザ・ルドビレだった。
苦しそうに地面に這いつくばったRANはその身をゆっくりと起こす。
「ふう、やるじゃない。まさかレーザーまで備えているとはね……」
操縦席の紫は微笑んでいなかった。
レミリアはぞくりとする。
早くとどめを刺さないとまずい。
「9-Bモード発動」
RANは後ろ足だけで立ち上がり腹を曝け出すと同時に、尾を孔雀の羽のように立てた。
レミリアはがくがく、と足が震えるのを感じた。
「負けないわ、私のサヴァは誰にも負けない。負けないわ。サヴァが負けるはずがないのよ……」
一瞬の出来事だった。
RANの手足がシャカシャカと動き、高速で前進したかと思うと計九本の尻尾がレミリアの機体を貫いていた。
「ラプラスの魔……」
静かに呟く紫の声はレミリアに聞こえていなかった。
駆け出していたレミリアは遥か後方に吹き飛ばされ、サヴァごと紅魔館にめり込んでいた。
<損害計測・損害計測・右腕半壊・全体損害約3割>
「泣きじゃくると置いていくわよ」
大泣きする橙の腕を引っ張って、フランドールとパチュリーとアリスは湖畔を飛んでいく。
すると後方から美鈴が追いついた。
「美鈴、みんなは?」
「避難したようです」
パチュリーは頷く。
「いいわ。それより、休みましょう。もう駄目……」
五人は湖畔に足を止め、紅魔館を注視する。
しかし、五人の目に映るのは一様に普段より赤く燃え上がる紅魔館と煙の中で交錯する二つの影だった。
「どうして!!」
橙が拳を握り締めながら、言った。
「どうして紫様が戦わなければいけないんですか!?」
美鈴に肩を抱かれながら、声を震わす橙を尻目にパチュリーとアリスは立ち尽くす。
「それほどまでに、咲夜が忘れられなかったのね……」
「アリス、あれは咲夜ではないわ。サヴァ、サヴァンゲリオンよ」
アリスは聞いていないふりをする。
パチュリーは「ゴホリ」と重い咳をした。
「大丈夫? パチュリー」
「ええ、大丈夫。ここ数ヶ月の無理が祟ったのね……」
パチュリーは目を落とす。
「ごめんなさい、私はレミィを止められなかった」
「パチュリー……」
「やっぱり、咲夜じゃなきゃ駄目なのね……」
「喋っちゃだめ。落ち着いて」
「ねえ、アリス」
パチュリーはアリスの目を覗き込む。
「こんな時、咲夜だったらどうするの?」
その時、空に怪光線が走り、桃色に一瞬だけ包まれた。そして爆発が起きる。
「ルナクロック」が発動したか……。
パチュリーは一人ごちる。
なぜ、自分は途中で止めようと思わなかったのか。トレーニングの最中、なぜ止めなかったのか。なぜ、自分は誰かに相談しなかったのか。
またもや爆音が聞こえる。
そしてパチュリーは咲夜に、心の中で祈った。
「さあ、もう終わりよレミィ」
紫が荒い息を吐きながら冗談っぽく、微笑んだ。
レミリアは傷ついたサヴァを思いながら、ゆっくりとボタン入力をする。
そして、サヴァはゆっくりとカフス留めの付いた腕を上げた。
「そんな腕で何が出来るのかしら…!」
<サツジン・ドール・ハッシャ>
二本の腕が高速射出され、RANの胸を抉る。
バチリと音がして装甲が剥がれた。
しかし、紫は笑った。
RANは勢いを緩めずシャカシャカと後ろ足でクロールしながら、先の尖った尾を振りたててくる。
刺さったら終わりだ。レミリアは思いつつ突っ込んでいった。
レミリアは微かに微笑んだ。
咲夜と一緒に再び戦えて、嬉しかった。
そして咲夜と一緒なら負けない。
自分は今、咲夜と共に戦っている。
槍のような尾の群れに突っ込んでいくと同時に左手のダイヤルを素早く回し、レバーを引き上げ、ペダルを三秒間踏み続ける。
<準備完了>
行くわよ。咲夜。
レミリアは心の中で呟く。
そして絶叫した。
「エターナル・ミーク!!!!!」
左右両胸から巨大ミサイルが発射された。
「お姉さまー!」
レミリアが聞いたのは妹の声だった。
しかし、返事をする気力はなかった。
次第に声が近くなってきて、収束する。
「お姉さま……」
RANとサヴァンゲリオンの瓦礫の上にレミリアは日傘を持って腰掛けていた。
「やあ、フラン……」
「無事だったのね」
瓦礫の中央にはサヴァンゲリオンの首から上が突き刺さっていた。
「みんなは?」
「無事よ」
「そうか」
とレミリアは嘆息した。
「もう傘はいらなくなるよ」
「そうね……、お姉さま」
「ん……?」
「勝ってよかったね」
レミリアはちらりとサヴァンゲリオンの首から上を見た後、夕焼けへと目を移した。
「最終的には脱出装置(ルナ・ダイアル)まで使ってしまった……」
「……」
フランドールはうつむく。
「これからどうするの?」
「どうやって生きていくかって事か?」
「そう……」
どうしようもない。
残骸の山の後ろには紅魔館の残骸が続いている。
「みんなでまた、やりなおせるよねっ?」
「そうだな」
出来ればいい。
やり直したいとレミリアは思う。
「今度はどんな家を作ろうか?」
「赤いのじゃなくてもいいな」
「私は……」
レミリアは溜め息を吐く。
「どんなのでもいいよ」
フランドールが足をぶらつかせた。
「咲夜にまた会えたような気がした。傍にいるような」
レミリアが言った。
「でも、違う。あれは咲夜じゃなかった……」
「お姉さま……」
「サヴァだった。サヴァンゲリオンだったんだよ。だから……、咲夜じゃない」
「……」
フランドールはやや口ごもったが、突然指差した。
「どうした?」
「お姉さまの足元、光ってる……」
「何?」
レミリアの足元、残骸の下から微かに光が漏れていた。
レミリアはやや警戒しながら、ゆっくりと残骸をどけていく。
フランドールも覗き込んで見ると、それは銀時計だった。
元々はサヴァンゲリオンを動かすためのキーであったが、衝撃で外れたのだろう。
「ひ、光ってる……?」
「光ってるわ」
「うわっ」
突如、光がその明るさを増す。
レミリアは危うく取り落としそうになる。
吸血鬼は光が嫌いだ。
フランドールはレミリアの空いている左手を握った。
「う、うわっ。手から離れない」
ますます明るくなり、辺り一体が白い光に包まれる。
レミリアは叫んだ。
フランドールも手を握ったまま叫ぶ。
そして、やがて、声も光にかき消されていく。
「レミィ、もういいでしょう?」
パチュリーの声が聞こえて、レミリアはふと我に返る。
辺りを見回すと、サヴァンゲリオンもRANも見当たらず、紅魔館の一室が広がっている。
後ろにはフランドールと美鈴と小悪魔が控えている。
「ごめんなさい、私寝てた……?」
「いいえ、何言ってるの。さっきからずっと起きてるじゃない」
レミリアの前には咲夜の安らかな顔があった。
そして、レミリアは涙の垂れた頬に手を遣ろうとして気づく。
自分の右の手の中に銀の懐中時計が握られている。
「あら、この懐中時計壊れてるわ……?」
懐中時計は見るも無残にガラスが割れ、ひしゃげていた。
レミリアの脳裏に薬の臭いが蘇って、枕元に目を遣る。
そこには確かに一本の薬のビンが立っていた。
そして、鮮明に蘇るのはサヴァンゲリオンの操縦席の風景だ。
鋭い痛みを体が覚えている。
「あ、あの、パチェ、サヴァンゲリオンって知ってる……?」
「はい?」
レミリアは急に力が抜けて、咲夜の前に跪く。
驚愕で口を空けているレミリアと対照的に咲夜は笑っていた。
「時間……、操作能力か……」
夢か幻か。それは分からないが、咲夜は確かに今、自分の目の前で微笑んでいる。
「レミィ、もうお別れの時間よ。咲夜を葬ってあげましょう」
レミリアは勢い良く右手を突き出した。
左手で涙を拭い、そして宣言する。
「誰の手も借りない。咲夜は私が自分で責任を持って葬る」
「お姉さま……」
フランドールが打って変わって立ち直ったレミリアに感心の声を上げる。
「レミリア様……」
「レミリア様……」
咲夜の体を丁寧に抱えあげたレミリアは、美鈴にドアを開けさせゆっくりと外へ出た。
「レミィ、強くなったのね……」
パチュリーがすれ違いざまに嬉しいことを言ってくれる。
レミリアはしっかりと、歩き出す。
自然と涙も止まってきた。
なぜかは分からないが、気分は悪くなかった。
廊下を歩く。
大広間へ出る。
そして胸を張って誇らしげに、レミリアはさわやかな朝日の中を突き進んでいった。
何だか切なくなりました
「RAN」だった。
名言だな
主を補完して去っていってくれたわけですね
面白かったです。
RANで吹き出しました。二人とも何やってるの!
全てのレミリアに おめでとう
でもサヴァには不覚にもワロタwwww
ど う し て こ う な っ た
おめでとう
笑ったり泣いたり出来なくなったような気分です
なんだこれ