私は口に出すことこそできないがレミリア様の相棒だ。
退魔師や騎士団、他の妖怪や吸血鬼との戦争に明け暮れていた時、レミリア様と私は率先して前線で敵と対峙し、私達に凶刃を向ける連中を薙ぎ払ってきた。
どんなに勇猛果敢な敵が相手でも、怯むことなくその心臓を貫き、
どんなに卑劣で小賢しい罠を張る敵が相手でも、真っ向から叩き潰し、
ただの一度も敗北を許さず、常に紅い勝利の栄光を手にしてきた。
そうしてレミリア様と私の名は、恐怖と畏怖の代名詞として大陸中に広まっていったのだ。
だがある日、私達は大きな岐路に立たされる。
何でも、このままでは妖怪としての力が弱くなってしまうから、忘れられた妖怪達が集う楽園『幻想郷』に行くことにするらしい。
運命を視ることが出来るレミリア様は、非常に悩んだ。けれど私を含め紅魔館に住む者はレミリア様には逆らえないし、もちろん誰も逆らうつもりなどない。
レミリア様の決断に全員が賛同し、私達は幻想となった。
ところがどうだ、妖怪の楽園であるはずの幻想郷でも、妖怪達の力が弱ってきているじゃないか。
私にはあまり難しいことなどわからない。しかしレミリア様には思うところがあったのか、「戦争を起こそう」と仰った。
かつての外の世界の時と同じように、私とレミリア様は共に戦い、平和に溺れた軟弱な妖怪を蹴散らし、配下に置いていった。
そして幻想郷の多くを支配に置いたとき、私達の前に『妖怪の賢者』と名乗る者が現れる。
そいつは私達が今までに対峙したどんな敵よりも得体が知れなかった。
永い闘いの末、ついに私達は敗北した。
私達が敗れてから、幻想郷に『スペルカードルール』なる物が制定されることになった。
それはお互いの生死を懸けるような決闘をするのではなく、『弾幕の美しさ』で勝敗を決する決闘法だそうだ。少々困ったことになる。
というのも、そのルール上で戦えば、私の本領を発揮するのが難しいのだ。美しさという点ならともかく、物理的な攻撃力が私ではあまりにも過剰だからだ。
それに私は遠距離系の攻撃よりも近接系の戦いが圧倒的に得意だった。それが封じられるということだった。
そのことでレミリア様に「あなたには申し訳ないわね…」と言われてしまった。
でも、構わない。元々私の役目は敵を倒すことだが、それはレミリア様とレミリア様の愛する紅魔館の仲間を守り抜くためだったからだ。
もう戦争をする必要がないというのなら、私の役目は十分に果たされたということだ。
レミリア様と同じように、私もこの紅魔館という家族を想っている。ここに住む彼女らが穏やかに楽しく暮らせるというのなら、戦争などに未練はない。
事実、かつては戦闘狂ともいえたレミリア様もスペルカードルールを気に入っているようで、制定後に早速異変を起こした。
その異変の際に知り合った巫女と魔法使いは以後も紅魔館に関わり続け、レミリア様や人間嫌いのメイドの友人となり、495年の呪縛から妹君を解き放った。
私にはこれらの変化がいいものかどうかはわからない。
けれど、傍にいるレミリア様が彼女らを眺める時の顔が、とても慈愛に満ちたものであったこと。これだけは間違いなかった。
これで私は、安心して眠っていられる。
おやすみなさい。
「久々にお前の出番だね」
あれから数ヶ月。レミリア様が私にそんな言葉をかけてきた。
一体どうしたのかと思うと、『異変』が起きているらしいとのことだ。
あれ? と思う。確か基本的に妖怪が異変を起こした場合、巫女あるいはその他人間がスペルカードルールで解決することになっているはずだ。
実際、レミリア様が起こした異変には件の2人がやってきたし、永い冬の異変の時には家のメイドも乗り出していた。
しかも今回は、その2つのように幻想郷全土を巻き込むほどの力を感じはしないのに、だ。レミリア様、まして私が出張る必要性など感じられなかった。
「今回は、特別なのよ」
レミリア様が教えてくれる。なんと今回に限って人妖は、あくまでスペルカードルールの延長としてだが肉弾戦を交えた決闘をしているのだという。
「お前にも、活躍してもらうわ。クククッ」
私の傍でレミリア様が放つ波動は、血に飢えたような殺気こそないものの、昔と同じ、戦争に昂る時に放っていたものと同じものだった。
それを間近で感じ取り、改めて実感する。
……ああ、これでこそ私の主だ。
久しく忘れていた感情がよみがえる。
戦争に未練はなかったが、やはり自分は彼女と共に戦いたい。
戦争であらゆる敵を蹴散らすあの快感を、もう一度味わいたい!
そして勝利の雄叫びを上げたい!!
「さあ、いくわよ!」
私達は満月輝く夜の帳へと駆け出していった。
私達の目の前に、1人の妖怪が立っていた。
レミリア様とさほど変わらない小柄な体。しかも酒に酔っており、見た目だけなら、2本の角が見かけ倒しなだけのただの少女。
だがその内に秘める圧倒的なパワーは推し量るに余りある。レミリア様にも引けを取らない。
私達は異変解決のために赴いた。けれどレミリア様はもうそんなことなど考えていない。
幻想郷最強の種族――鬼。彼女がさせてくれるであろう戦いに、最大級の期待を込めている。
向こうも然りだ。彼女達から漏れ出る魔力は、弱き者なら近づくことさえできないほどに純粋な禍々しさを帯びている。
そして始まる戦い。紅き吸血鬼の誇りに懸けて、レミリア様は彼女に勝つだろう。
私もそのために全力を尽くさねばならない。彼女を打ち倒すために。
戦いが佳境に入った時、ついにレミリア様が私を呼んだ。
私の出番だ! 昂る力を押さえることもしないまま、レミリア様の下に参上する。
そしてレミリア様が叫んだ。
「いくわよ!」
いつもレミリア様と共にあり、立ちはだかるものすべてを打ち破ってきた、私の名を!
存在するものすべてをひれ伏させるような美しく威厳ある声で、叫んだ!
「神槍! スピア・ザ・グングニルゥゥゥゥゥゥ!!!」
そして私はレミリア様に全力で投げられた。
退魔師や騎士団、他の妖怪や吸血鬼との戦争に明け暮れていた時、レミリア様と私は率先して前線で敵と対峙し、私達に凶刃を向ける連中を薙ぎ払ってきた。
どんなに勇猛果敢な敵が相手でも、怯むことなくその心臓を貫き、
どんなに卑劣で小賢しい罠を張る敵が相手でも、真っ向から叩き潰し、
ただの一度も敗北を許さず、常に紅い勝利の栄光を手にしてきた。
そうしてレミリア様と私の名は、恐怖と畏怖の代名詞として大陸中に広まっていったのだ。
だがある日、私達は大きな岐路に立たされる。
何でも、このままでは妖怪としての力が弱くなってしまうから、忘れられた妖怪達が集う楽園『幻想郷』に行くことにするらしい。
運命を視ることが出来るレミリア様は、非常に悩んだ。けれど私を含め紅魔館に住む者はレミリア様には逆らえないし、もちろん誰も逆らうつもりなどない。
レミリア様の決断に全員が賛同し、私達は幻想となった。
ところがどうだ、妖怪の楽園であるはずの幻想郷でも、妖怪達の力が弱ってきているじゃないか。
私にはあまり難しいことなどわからない。しかしレミリア様には思うところがあったのか、「戦争を起こそう」と仰った。
かつての外の世界の時と同じように、私とレミリア様は共に戦い、平和に溺れた軟弱な妖怪を蹴散らし、配下に置いていった。
そして幻想郷の多くを支配に置いたとき、私達の前に『妖怪の賢者』と名乗る者が現れる。
そいつは私達が今までに対峙したどんな敵よりも得体が知れなかった。
永い闘いの末、ついに私達は敗北した。
私達が敗れてから、幻想郷に『スペルカードルール』なる物が制定されることになった。
それはお互いの生死を懸けるような決闘をするのではなく、『弾幕の美しさ』で勝敗を決する決闘法だそうだ。少々困ったことになる。
というのも、そのルール上で戦えば、私の本領を発揮するのが難しいのだ。美しさという点ならともかく、物理的な攻撃力が私ではあまりにも過剰だからだ。
それに私は遠距離系の攻撃よりも近接系の戦いが圧倒的に得意だった。それが封じられるということだった。
そのことでレミリア様に「あなたには申し訳ないわね…」と言われてしまった。
でも、構わない。元々私の役目は敵を倒すことだが、それはレミリア様とレミリア様の愛する紅魔館の仲間を守り抜くためだったからだ。
もう戦争をする必要がないというのなら、私の役目は十分に果たされたということだ。
レミリア様と同じように、私もこの紅魔館という家族を想っている。ここに住む彼女らが穏やかに楽しく暮らせるというのなら、戦争などに未練はない。
事実、かつては戦闘狂ともいえたレミリア様もスペルカードルールを気に入っているようで、制定後に早速異変を起こした。
その異変の際に知り合った巫女と魔法使いは以後も紅魔館に関わり続け、レミリア様や人間嫌いのメイドの友人となり、495年の呪縛から妹君を解き放った。
私にはこれらの変化がいいものかどうかはわからない。
けれど、傍にいるレミリア様が彼女らを眺める時の顔が、とても慈愛に満ちたものであったこと。これだけは間違いなかった。
これで私は、安心して眠っていられる。
おやすみなさい。
「久々にお前の出番だね」
あれから数ヶ月。レミリア様が私にそんな言葉をかけてきた。
一体どうしたのかと思うと、『異変』が起きているらしいとのことだ。
あれ? と思う。確か基本的に妖怪が異変を起こした場合、巫女あるいはその他人間がスペルカードルールで解決することになっているはずだ。
実際、レミリア様が起こした異変には件の2人がやってきたし、永い冬の異変の時には家のメイドも乗り出していた。
しかも今回は、その2つのように幻想郷全土を巻き込むほどの力を感じはしないのに、だ。レミリア様、まして私が出張る必要性など感じられなかった。
「今回は、特別なのよ」
レミリア様が教えてくれる。なんと今回に限って人妖は、あくまでスペルカードルールの延長としてだが肉弾戦を交えた決闘をしているのだという。
「お前にも、活躍してもらうわ。クククッ」
私の傍でレミリア様が放つ波動は、血に飢えたような殺気こそないものの、昔と同じ、戦争に昂る時に放っていたものと同じものだった。
それを間近で感じ取り、改めて実感する。
……ああ、これでこそ私の主だ。
久しく忘れていた感情がよみがえる。
戦争に未練はなかったが、やはり自分は彼女と共に戦いたい。
戦争であらゆる敵を蹴散らすあの快感を、もう一度味わいたい!
そして勝利の雄叫びを上げたい!!
「さあ、いくわよ!」
私達は満月輝く夜の帳へと駆け出していった。
私達の目の前に、1人の妖怪が立っていた。
レミリア様とさほど変わらない小柄な体。しかも酒に酔っており、見た目だけなら、2本の角が見かけ倒しなだけのただの少女。
だがその内に秘める圧倒的なパワーは推し量るに余りある。レミリア様にも引けを取らない。
私達は異変解決のために赴いた。けれどレミリア様はもうそんなことなど考えていない。
幻想郷最強の種族――鬼。彼女がさせてくれるであろう戦いに、最大級の期待を込めている。
向こうも然りだ。彼女達から漏れ出る魔力は、弱き者なら近づくことさえできないほどに純粋な禍々しさを帯びている。
そして始まる戦い。紅き吸血鬼の誇りに懸けて、レミリア様は彼女に勝つだろう。
私もそのために全力を尽くさねばならない。彼女を打ち倒すために。
戦いが佳境に入った時、ついにレミリア様が私を呼んだ。
私の出番だ! 昂る力を押さえることもしないまま、レミリア様の下に参上する。
そしてレミリア様が叫んだ。
「いくわよ!」
いつもレミリア様と共にあり、立ちはだかるものすべてを打ち破ってきた、私の名を!
存在するものすべてをひれ伏させるような美しく威厳ある声で、叫んだ!
「神槍! スピア・ザ・グングニルゥゥゥゥゥゥ!!!」
そして私はレミリア様に全力で投げられた。
咲夜さんが飛んでいく光景を想像して思わず噴きました
それより一つ下の話のサイドストーリーと思いながら改めて読み直してたら今度は笑いが止まらなくなったww
うん、こいつぁ投げ槍だわ。
すぐ下の作品との運命の合わせ技も含め……ッ!
投げると必ず相手に命中して手元に帰ってくるチート武器なんですよ。
下の作品と結びつけた。呼吸器官、全身のあらゆる筋肉、全てが壊滅した。
きっとこうなる運命だったのよ……レミリア様が生まれ変わる前の最後の能力行使だったのよ……
いい話なんだけど下の作品とのシンクロが凄すぎて半分ほどギャグと化してる
見る順が違ってたらまた違う感想書いてたんだろうな…
もってけ つ100