※一部キャラがぶっ壊れています。
古明地さとりは今ありえない物を見ている。
ここは一家団欒の要の神聖な場所であったはずだ。
そこはいつもの平和な場所であるはずだった。
だが今目の前には目も当てられない惨状が広がっている。
物が飛び散り、壁は汚れ。
物の割れた音と潰れた音が響き渡る。
そんな狂乱とも言える場所の中心に立っているのは。
たったひとつの物体の前に立ち尽くす星熊勇儀の姿だった。
「うぅ……静まれ……私の右腕……!」
勇儀が腕を抑えうずくまる。
その顔は悔しさと悲しさと痛みを感じられる。
さとりは彼女の心が疲弊しているのを感じていた。
やはり彼女に『アレ』を使うことなどできないのか。
それより先に、どうしてこうなってしまったのか……。
それは数時間前に遡る。
「さとり、聞いてくれ」
あの日地霊殿にやってきた勇儀は私の元へ走って来るやいきなりこう切り出した。
一目でわかるほどに息が上がっていて急いでいたのがわかる。
「あら、勇儀。どうしたの? そんなに急いで」
どうかしたか、なんてもの心を読めば簡単だけど。
だが彼女は竹を割ったような真っ直ぐな性格だし、読む前に話してくれるだろう。
「聞いてくれ、さとり……私……私……」
かと思ったらいきなりモジモジとしだしたではないか。
一体なんなのかしら。こんな彼女は見たことがない。
私もつい身構えてしまう。
空とお燐も影から見守ってる。出づらい空気なだし仕方ない。
勇儀はふるふると震えると口を開いて、
「私……私……だめだ! 言えない! 言えない!」
顔をぐわんぐわんと振って真っ赤な顔をしている。
その様子を見てお空とお燐もソワソワしている。
ここまで何も言われないともういっそ心を読んでしまおうかしら。
と思った瞬間逆に心を読んだように勇儀はハッとした顔をして、
一瞬で私の懐に入り込みボディブローを決め、そのまま第三の目を引きちぎった。
これでは心を読めないじゃない。
勇儀は真っ赤な顔で
「今読もうとしただろ! そうだろ!」
「……脱着可能でも痛いわ。わかったから話しなさいな」
「うぅ……わかった……しっかり聞けよ?」
勇儀は私の顔の数センチ前で大きく深呼吸をして。
そして意を決したように息を吸って言い放った。
「好きなんだ!」
………は?
背景に白い花が咲いたような気がしたが気のせいよね。
そうであってほしい。というかそうであれ。お願いだから。
見なさいお空とお燐がポカンとしているじゃない。
そしてお空が『?』と頭に見えそう顔をして私を見て。
お燐がコイバナ中の女子高生のような顔をした。知っているのかお燐!
「あーもー言っちゃった! 恥ずかしい! どうしよう!?」
勇儀も女子高生みたいにキャーキャー言ってるし……というかはしゃいで叩かないで。
痛いから。ものすごく痛いから……。
私は落ち着いて勇儀を体から離すと離れて自分の椅子に座った。
「えっと……もう一回言ってくれない?」
「だから好きなんだ! 好きなんだって!」
背景に白い花が咲き誇る。もうサービスカットの勢いで。
『何が』が欠けてるせいだ。そうに違いない。
そう思い私はキャーキャーと顔に手を当て騒ぐ勇儀に見つからないように椅子の隠し扉からスペアの目を取りだし装着した。
気づかれないうちに心を読んで状況を理解しないと。
そうじゃないと後ろでお燐がお空に新しい世界を教えてしまうわ。
そしてそれに気付いた勇儀が驚いた顔で叫ぶ。
「はっ! 第三の目はひとつしかないはず!」
「ふっ……大事な物にはスペアを用意しておくものでしょう? 当たり前のことよ」
「やめて……やめてぇぇぇぇぇぇ!」
悲鳴を上げる勇儀を余所に私は心を読んだ。
『バレちゃう……バレちゃうワタシのヒミツ! せっかくワタシの口で言おうと思ったのに……さとりちゃんたらイ・ケ・ズ☆ でもしょうがないからユウギちゃんのヒミツを教えちゃうゾ!』
とフリフリエプロンを来た勇儀が見えた。
「……貴様何を見たぁぁぁ!」
「……何も見えないわ」
勇儀が胸倉を掴んで私を引き寄せる。私は冷や汗をダラダラと流して顔を逸らす
何なんだ今のは。気のせいか。まさかの能力の誤作動だろうか。
ありえないものを見た気がする。
そして後ろでお燐が『キャー抱き合ったわよ!』とか話してる。
やめろ、お空に話すな、あぁなんてタイミングでこいしが!
なんて私の心配もお構いなしに勇儀は更に顔を近づける。
その必死な顔に私も顔を向けてしまう。
お燐、『キスしたわ! これは両想いよ!』とか言うな。
お空も真剣に聞かないで。こいしも理解したように頷かないで。
「見た!? 見たのか!?」
「……何を?」
と言っている間に目の前の光景がピンク色に染まる。
ク……第三の目が勝手に!
『私の~ヒミツはね~なんとぉ~』
ピンク色のフリフリエプロンを来た勇儀が指を振りながらこっち見ている。
うざい。果てしなくうざい。
『星熊勇儀! 17歳といっぱいはぁ! 恋をしたのです☆』
きゃるんとポーズを決め、キラッと星が飛ぶ。
乙女というか何か狙ったかのような姿だ。
『もう心がキュンキュンで! 今にも張り裂けそうなのです! だからぁさとりちゃんに手伝ってほしいなぁって! ちなみに恋のお相手はナ・イ・ショ☆ 乙女のヒミツなのだ!』
なるほど。状況は把握できた。だが私の能力を持ってしても見れないものがあるとは。
でも正直今見えた光景はなかったことにしたい。
長年の友人の心の中がこんな電波……じゃない少女だったとは思いたくない。
心を読まれたことを知ったのか勇儀は私の前でがっくりと膝を落としていた。
「うぅ……全部見られてしまった……私の全部」
「人聞きの悪いこと言わないで」
そのまますんすんと泣きだしそうな勇儀を見て私はため息をつき席を立ち勇儀に詳しい話を聞くことにした。
そして後ろで受け攻めトークをしている妹とお燐は放っておくことにした。
もしその会話を聞いてしまったらきっと私は明日から妹達と話せないと思うから。
「つまり恋の手伝いをしてほしいのね」
「……そう」
心を見られたことを知った勇儀は私に相談事を話してくれた。
好きな相手ができたこと。
その人に告白したいこと。
どこであったとか、誰だ、とかは一切話してはくれなかった。
だからといってまたあの桃色空間を覗く気にはなれない。
ちなみにこいしとお燐は空を連れて別の部屋へ移動した。
……空が汚染されないことを祈るばかりだ。
「で? 私は何をすればいいの? 相手の心を読んでくればいいの?」
「そ、そんなのはだめだ!」
「ならどうするのよ?」
私が訊くと勇儀は凛とした顔で言った。
「私を……女にしてくれ!」
その声は大きく地霊殿中に響いた。
そして反響するように黄色い声が聞こえた。
……妹達はどこまで行ってしまうのだろうか。
「女って……どういうこと?」
「好きな人に告白する前に……その人に吊り合う女になりたいんだ」
なるほど。
女を磨いてから告白したいってことか。
確かにそれはそうかもしれない。
「あの人はとても大きな人だから……私も女を磨かなきゃ駄目なんだ」
「ふぅん。で、女を磨くってことでなんで私のとこに来るのよ?」
「そりゃぁ女を磨くと言ったら……あれだろ?」
と勇儀が笑った瞬間またもや第三の目が勝手に作動した。
……河童の所に修理に出すべきだろうか。
今度は桃色空間ではなかった。
その代わり昭和を思わせる賃貸住宅に勇儀は割烹着姿で台所にいた。
小さなアパート、1LDKでの慎ましい生活。
勇儀が小さな台所で料理を作っているとドアが開き男が入ってくる。
……その男がコ○ンの犯人だったのは置いておく。隠したいだろうから。
そして勇儀は料理を止めて、とてとてと玄関へ歩き、旦那の鞄を受け取るとこう言うのだ。
『あなた、今日もお疲れ様! ご飯にする? お風呂にする?』
ここで「それとも……ア・タ・シ?」と出なかったことに心底驚いた。
さっきの桃色空間に比べて随分マシ……いや現実的になったもの。
「つまり料理を教わりたいのよね?」
「そうだ! さすが私の親友、話が早い!」
そんなわけで勇儀の料理の特訓が始まった。
「あ、でも第三の目ははずしてね?」
え?と考える隙に勇儀は間を詰めてスペアの目を奪い去った。
とりあえず最初の料理は味噌汁ということになった。
何故なら勇儀の不思議な脳内回路では
『味噌汁作れない→お嫁に行けない』
くらいの意味のわからない論理が展開されていたからだ。
そして料理を平和に作り始めようとしたその時、それは起こった。
バキャン! バキン! ズゴン!
今の音をとりあえず説明するならば。
バキャン→勇儀が握った包丁が砕け散る音。
バキン→勇儀の持った皿が持った手を形に穴が空き、地面で割れる音。
ズゴン→慌てた勇儀が大きく踏み込んだ瞬間に台所の地面を踏みぬいた音。
である。
「馬鹿な……力が……制御……できないッッッッ!」
「どういうこと!? 鬼の四天王が制御をしくじるなんて……!」
どういうことなの!? 力が制御できなくなっているなんて……。
私のサード・アイを持ってしても理解できないわ……。
「く……この『デストロイヤーゴールデンパワー』の私が……」
勇儀もどうすればいいのかわからずにがっくりとうな垂れていた時、
「お困りのようね!」
「その声は……」
と突如台所のドアが開いた。
そこに立っていたのは……
「「パルスィさん!!」」
その現れ方はまさに今まで話を聞いていたかのごとくタイミングであり、彼女の顔には扉の跡が付いていた。
だがその現れ方は救世主のそれである。『さん』づけも必然である。
「恋する乙女のお悩みを……パパッと解決いたします……橋姫パルスィ参上!」
「パルスィさん! よく来てくれた!」
「……どこからいたの? 地霊殿の入り口の彫刻までくっきり頬に付いてるわよ?」
私が指摘するとパルスィは顔を染めて体を震わせ、
「べっ、別に『勇儀が悩んでるなぁ……心配だなぁ』とか『なんで私じゃなくて地霊殿に行くのよ! 妬ましい!』なんて思ってないんだからね!」
ようするに最初からいたのか。手伝ってくれればよかったのに。主に花が咲いてたあたりで。
だが息を切らしている辺り急いできてくれたのだろうか。
だからツンデレ風になってしまったのかも知れない。
「パルスィ……私の異変の正体が分かるのか!?」
「任せなさい……こちとら妬みのエキスパート。つまりは他人の恋のエキスパートよ!」
「それはどうなのよ……まぁ無理に恋をしろとは言わないけどさ」
私は別室でネコやらタチだの話している妹達をを思い出した。
ならば妹達も今変になっているのだろうか。いや、変になってるけど。
「安心しな。こいしちゃんやお燐はこんな感じにはなっていないよ」
「そうなの? ならよかったけど」
「そう……あの子らの会話は百合……だが今回の勇儀は別だ」
そう言うとパルスィはこの異常事態の原因を話し始めた。
「あなたが力を制御できない理由……それは……『乙女パワー』のせいよ」
「「乙女パワーだって!?」」
「『乙女パワー』……それは恋する乙女だけが得ることのできる新時代のエネルギー……。恋する乙女が何でもできるし何でも許されるのはこのパワーのおかげなの。今回勇儀に発生した事件は……膨大な乙女パワーが暴走して能力まで制御不能にしてるのよ……」
「そんなバカな……」
「いや……これが真実だよ」
「それじゃあ私は料理が作れないじゃないか! 包丁も! 皿も! 何も掴めない!」
「それを制御できるようにしないと駄目なんだ! それには……」
パルスィは私の方を向いて。
「さとり。お前の力が必要なんだ!」
そういうとパルスィは私の元へ歩みより手を差し出す。
そこには壊されたはずの第三の目があった。
「さぁ」という優しい言葉と共にパルスィが優しく装備してくれる。
そう例え第三の目を倒そうとも第二、第三の第三の目は現れるのだ。
「ありがとう、パルスィ」
「いいや、問題ないさ……早くその目で勇儀の『乙女パワー』を……ぐほぁ!」
私がパルスィに笑いかけた瞬間突如パルスィが口から血を吐く。
「どうしたんだパルスィ!」
「『乙女パワー』とは……恋する女性、恋することが許される女性の特権的力……つまり『リア充エネルギー』の一種……妬みを司る私には猛毒……なんだ……」
「そ、そんな! しっかりしろよパルスィ!」
「や、やめてくれ! 『倒れた自分に駆け寄って来てくれる乙女』なんて……リア充エネルギーが発生す……ぐはぁ!」
「勇儀離れて! あなたの中の乙女が彼女を攻撃してるのよ!」
「でもぉ! パルスィが!」
台所に仰向けで倒れ血を吐くパルスィ。
このままでは彼女は乙女死してしまう。いやリア充死か。
勇儀は泣きそうな眼でパルスィに声をかけ続ける。
そしてパルスィはその都度矢が刺さったかのようにビクンと跳ね、血を吐いた。
声をかける度血を吐いて跳ねる人。
悲しいシーンっぽいが傍から見ると酷くシュールだ。
更に遂には気絶したパルスィを起こそうと勇儀が体を揺する。怪力乱神の力で。
最初の救世主ぶりはなんだったのか、カクカクとパルスィの体は揺れ続ける。
そしてビターンビターンと音がした辺りでさすがの私も制止にかかりなんとか2時間をかけ勇儀をパルスィから引き剥がし、椅子に座らせた。
怪力乱神の力で揺さぶられ、叩きつけられた彼女の体はボロボロで見るに堪えない。
しかしパルスィは『ピンチで彼女が自分から離れない』という精神的致命傷を与えるリア充エネルギーを食らいすでに大往生していた。
意識があったのなら肉体的にも致命傷を負っていたに違いない。
その数分後、勇儀が外に送られたパルスィを見て沈んでいる時、私はパルスィの言葉を思い出した。
『早くその目で勇儀の『乙女パワー』を……』
そうだ、私は勇儀の乙女パワーを見なければならない。
私は第三の目を測量モードに変更し、勇儀に向ける。
測量モードとは相手の様々な能力を数値化して確認できる機能だ。
深層心理を見るだけではわからない純粋な数値を見ることができ、相手との力量差をも確認できる。
相手の体が青なら自分が、赤に光ったなら相手の方が強いことになるのだ。
私は勇儀が沈んでいるうちに能力を発動させた。
ピピッピピピピッピピピピッピ・・・・
………みるみる値が上がっていく……。
10万……20万……まだ上がるだと!!
乙女パワーは際限なく上がり続け視界を桃色に染めて行く。
馬鹿な! ここまでのエネルギーを持つなんて!
第三の目に『CAUTION!!』の文字が大量に走る。
まさか……これほどとは……
ピピピピピピピピピピ・・・・ボカン!
「なんだこの乙女パワーは……私のサードアイが爆発する……だと……!?」
これはどういうことだ。
『私の戦闘力は53万だぜ!』と言っていた魔法使いの数値にさえ耐えきった第三の目が爆破されるとは……。
それほどの力なのか乙女パワー……。
私には心底恐怖していた。この乙女パワーと呼ばれる化け物どう立ち向かえばいいのか。
そして、
「パルスィは大事なことを教えてくれた……つまりは私の彼への愛は十分だってことだ!」
と沈黙から立ち直り気合十分の鬼。星熊☆勇儀。
力の加減をできぬ化け物二体を私は一人で相手にしなければならない。
この団欒の要、台所で。誰にも頼ることなどできはしない。
私は、古明地さとりはギュッと手を握り覚悟を決めた。
とりあえずまともな結果にはなるまいと確信を抱きながら。
勇儀姐さんマジ乙女。早く続きを見せてくれないと俺の脳が耐えられない……!!
そしておかしいのは姐さんだけかと思ったら全員駄目だったでござる
なんだょ第二、第三の第三の目ってwwワロタwww
さぁ、勇儀さんのお相手はいったい誰なのか!後編期待!