Coolier - 新生・東方創想話

信仰は揺ぎ無き愛情と共に~洩矢諏訪子の場合~

2010/08/27 15:34:46
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私の名は洩矢諏訪子。
神様だ。

そして今私がいるのは守矢の神社ではなく、幻想郷において貪欲さで右に出る者はいないと言われるほどの貧乏人が住まう博麗の神社だ。
…何故私がこんな場所に…。
勿論遊びに来たわけではないのだが。

「はーい、次の方どうぞー」
「Gじゃないよ!蛍だって言ってるでしょ!うわーん!!」

『選抜オーディション』と書かれた御札が貼られた襖が開き、中から緑髪の少女が飛び出してきて、そのまま勢い良く出て行った。
聞くまでもなく不合格だったのだろう。
だが、その部屋の中で何が行われているのかは入った者以外誰も知らない。
初めは10何人か居たはずのオーディション受験者も、気付けば諏訪子だけになっていた。

「次の方ー。えーと、も、も……ねぇこれ何て読むの?」
「もりや。えーと、洩矢諏訪子さーん。どうぞー」
「え……あ、はい」

呼ばれるままに部屋に入り、後ろ手に襖を閉める。
入った先は、以前早苗の付き合いで訪れた時と何ら変わらない客間だった。

「まさか守矢のが来るとはね。何?あんたらもお金に困ってる口なの?」

微笑しながらの問いかけは、正面に座っている二つの人影の片方。
博麗の巫女こと博麗霊夢のものだ。

「まさか。アンタと違って早苗はしっかり信仰集めてるからね、実際今日来たのも信仰集めの一環だよ」
「……相変わらず憎たらしい余裕ぶりね。――神社ごと爆発したらいいのに」
「壊れる回数で言えばこっちの神社の方が圧倒的――。っと、今日は口論とかそんなしょっぱい用事で来たんじゃなかった。何か手伝いがいるんでしょ?」

小さく舌打ちした霊夢は口を尖らせながら、自分の隣にいる少女を指で示した。
そこには何故か銀縁の眼鏡をかけたチルノの姿があった。

「アンタは……良く湖で蛙凍らせてくれてるバカ妖精」
「いやぁそれほどでも」
「褒めてないよ」
「いやぁそれほどでも」
「何に照れてるの……?」
「いやぁそれほど――」
「もういいよ!悪かったよ!湖で遊んでる妖精の子、ね!?」

解れば良いんだ、と言う体で頷くチルノを見てフラストレーション値が増大したがここは我慢のしどころだ。
今日は早苗に頼まれた「おつかい」なのだから、そんな理由でぽしゃるわけにはいかない。

「で、君は何が出来るのかね?」
「……は?」

不意に口を開いたチルノは、眼鏡を指で押し上げながらそんな質問を投げかけて来た。

「何がって……何?」
「例えば空を飛べるとか、例えば何か凍らせるとか」
「あぁ……能力なら坤を創造する程度のことが出来るけど」
「コン?狐?」
「この世界の狐はコンコン鳴かないでしょ」


「くしゅん!――誰か私の噂でもしてるのか……?」
「大丈夫ですか藍様ー!」
「お前さえいれば何の問題も無いぞ、ちぇぇぇぇぇん!!」


一瞬妙な電波を受信した気がしたが大いなる気のせいだろう。
それはさておき、チルノには霊夢が耳打ちで説明したらしく、相変わらず何故か偉そうに頷いている。

「なるほどね。えーと、地面がどうにか出来るのね?」
「……まぁ大体合ってるけど」
「ふーん。じゃあ合格」
「え……随分適当だけどいいの?」
「だってそうゆうしな――」

バコン。
軽いようで間違いなく重い一撃が瞬間的にチルノの顔面に叩きこまれた。
隣にいる霊夢の拳から超速移動による空気摩擦によって起きた熱が生んだらしき煙があがっているので、どう考えても殴ったのはこいつだろう。

「そうゆう死ななそうな奴を探してた。――のよね?」
「そのとほりでひゅ……」

鼻を押さえながら起き上るチルノは涙ぐみながら、壊れた眼鏡を脇に除ける。
そしてチルノは顔を上げると、すかさず懐から新しい眼鏡を取り出して装着した。
…スペアがあるのか。
何故そこまでして眼鏡なのかを突っ込むと絶対に面倒なことになりそうなので触れないでおく。
溜め息を吐く諏訪子を見て苦笑した霊夢が立ちあがり、

「それじゃ、今回集まってもらった理由について説明するわよ」



数時間後。
私とチルノは山の麓まで来ていた。

「――ここ?」
「そう、ここが秘密教団『ママの小皺』の本部よ」

秘密教団『ママの小皺』。
活動目的は不明。
構成人数も不明。
何をしているのか全くもって謎という見るからに怪しい集団だ。
そんな『ママの小皺』が、山の麓に本部を作って夜な夜な集まり何かをしているという噂が流れ始めたのはつい最近。
そしてそれを何とかしてほしいという相談がチルノの元に持ち込まれたのが昨日。
しかし不可解な教団にチルノ単体で乗り込むわけにもいかず、異変解決のプロである霊夢に相談を持ちかけたところ「オーディションで相方を募集する」という結論に至ったらしい。
ちなみに博麗神社は場所の提供をしただけで成功報酬の八割を貰うつもりらしい。
どこまで貪欲なんだろうか。

「しかし、凄いな……」

表から見ればさながらクッ○城の如き外観は、しかし側面や裏に回って見れば幾つかの小屋の集まりでしかない。
…ここまで本気の張りぼて作れるなら小屋の強化をしたらいいのに。
そんなことを思ったが、どちらにせよ今からぶち壊すので関係ないのかと一人納得する。

「それじゃスペカでさくっと掃除して帰ろうか。合掌「だいだらぼっちの参拝」――!!」
「ちょ……!ストップ、ストップ!!」

ピチューン。
飛び込んできたチルノのせいで狙いがそれて一匹の氷精をピチュらせてしまった。
というか潰れたのはチルノと銀縁眼鏡だった。

「……何してんの?」
「それはこっちの台詞だよ!中に人がいたらどうするのさ!」
「だから人の少なさそうな昼に来てるんじゃないの?教団が集まるのは夜なんでしょ?」
「それは……まぁ、そうだけど……」
「じゃあいいじゃないの。――ちょっと大怪我するくらいで死にはしないでしょ多分」
「ダメ!それでもダメ!順序があるの!!」

その後も何度か発動しようとしたが、その度にチルノが頑として立ちふさがるため途中で折れてやることにした。
チルノが何を考えているのかは解らないが、その瞳に何か強い意志を感じたこともある。
…まぁどうせくだらない理由なんだろうけど、たまには付き合ってやるかな。
どうせ今日は暇だしね、と諏訪子は苦笑してから両手を挙げた。

「解った。やり方はアンタに任せるよ。まず何をしたらいい?」
「う、うん!それじゃあ――」

チルノはまたも懐から眼鏡を取りだして装着すると、誇らしげに笑って見せた。

「行こうか。助手のもりなんとか君」
「…なんて?」

鉄の輪を取り出してにっこりと微笑んでみせると、チルノは目を逸らして頭を掻いた。

「いや…なんでもないです。諏訪子様」
「解れば良いんだ。――じゃ、行こうか」



ミッション1,「潜入」

「待って」
「何?」
「教団の信者として潜入するのは良いけど……この格好は必要あるの?」

着替えてくれと言われて着替えたのはいいが、渡されたのは所謂ゴスロリで、髪をいじったり化粧をしたりはしなかったものの、とにかく目立つ。
潜入するのなら目立たない服装の方が良いんじゃないだろうか。

「解って無いなぁ。こういった場合の潜入は大日憲章が大事なのよ」
「……第一印象?」
「そうそれ。――だっけ?」
「知らないよ。まぁでも一理あるか……。要は目立った服を着ている印象をつけておいて、中に潜り込んで着替えて行動するわけね?」
「そうそう!確かそう!」
「なんで誰かに聞いた風なの……?」

良く分からないがチルノなりに色々と考えた結果なのだろう。
…ま、こういう服も新鮮だし別に良いかな。
それに中で着替えなおすのなら、動きにくさも問題なくなるだろう。

「それじゃ、行くよ」
「はいはい。えっと……『御用の方はこちらのインターホンを押してください』……これね」

ピンポーン。
ガコン。
ガシャガシャ。
ウィーン。
ズギャギャギャギャギャ。
ドゥルドゥルドゥルドゥル。
トントントン。
フウィン。

「――え?」

ものすごい音がしたと思ったら、気付いた時には足元にぽっかりと穴が開いていた。
が、咄嗟に飛んだので諏訪子の身体が落ちることは無い。

「あにゃああああああああぁぁぁぁぁ……」

遠ざかっていくチルノの悲鳴を聞きながら、辺りを見回す。
人の気配はなく、扉が開く気配も無い。

「……これは落ちるべきなの?」

その直後、首を傾げていた諏訪子の頭に何かが振り下ろされ、ものすごい勢いで穴に落ちた。

「あでっ……ひょわあああぁぁぁぁぁ!?」


目を覚ますと白い部屋にいた。
一面白い部屋の中で、天井の一点にだけ黒い穴が見える。
…あそこから落ちて来たのかな。
良く見れば隣でチルノがのびている。

「ちょっと、起きて」
「きゅ~……」
「……ダメか。自然に起きるの待った方がよさそうね」

溜め息をついて立ち上がり、部屋の中を見渡す。
天井の黒い穴以外には本当に何もない白の空間に見える。
…扉もないのかな?だとするとここは何の部屋…?
幽閉専用の部屋かもしれない。

「一面の白なんて長い間閉じ込められたら気が狂いそうだしね……」

と、不意に閃光が瞬いた。
閃光は等間隔で連続し、どれもが諏訪子の方へと光を飛ばしてくる。

「そこかっ!!」

閃光の出どころに向けてチルノを投げ飛ばした。
チルノが壁にぶつかると同時、カシャンという音が響き、壁に線が入った。
線は長方形の形を作り、そこに寄りかかったままのチルノの身体がその枠をゆっくりと押し開いていく。

「扉……やっぱり隠されてたんだ」
「ん……むぃ?なにこれ……頭痛ぁ……」
「大丈夫?――アンタ敵の罠で頭を打ったんだよ」

つい口から出まかせが出たが、概ね間違ってないので良しとしよう。
とにかく今はこの部屋を抜け出すことが優先だ。
折角扉が開いたのだから今の内に通っておいた方が良いだろう。

「ほら、とっとと行くよ。予定とは違うけど潜入自体は成功したみたいだし」
「え?そうなの?……ここどこ?」
「それが解れば苦労しないよ。――とりあえずミッションのフェイズは次の段階にシフトするよ」

ミッション2,「脱出」

「こんな感じで」
「……早くない?」
「しょうがないでしょ。敵の本拠地でうろうろしてるわけにもいかないし」
「でもほら、沸き上がる冒険魂がプレシャスハントの時間だぜって……!」
「?……ワケわかんないこと言ってないで逃げるよ」

チルノの手を引いて白い部屋から出ると、そこは坑道のような場所だった。
本格的に道として整備されているわけではなく、土がむき出しの状態だ。
等間隔に並んだカンテラの灯りがかろうじて道を照らしているが、かなり暗い。

「白い部屋にいたせいで視覚がおかしくなってるのもあるだろうけど……暗いな」
「た、楽しそう……!」

さっき穴に落ちた時は叫んでいたのに…そういったところはやはり妖精らしく能天気だ。
諏訪子を溜め息を吐きながら左右に続く道を見比べる。
右手側の道の方は直線でかなり先のカンテラの灯りまで見えている。
反対に左手側の道は曲線を描いているのか、かなり手前の方で灯りが途絶えている。
諏訪子はしばらく腕を組んで考えて、左手側の道を指で示した。

「こっちかな」
「え?そっちに行くの?先見えないよ?」
「だからこそだよ。左の道はちょっと傾斜もついてるし曲がっている。螺旋構造で地上に向かう形になってるかもしれない」

直線の方はどこまで遠くに行くか解ったもんじゃないし、出来るのなら近い選択肢から潰しておくべきだろう。
道を間違えた時の体力消費もバカにならないだろうし。

「ふぅん。まぁあたいもこっちだろうとは思ってたけどね!」
「一応聞くけど、なんで?」
「それはね――」

良く見るとチルノの足元に折れた眼鏡が落ちている。
恐らくさっき落ちた時にまた折ったのだろう。
チルノはまたも新しい眼鏡を懐から取り出すと、それをかけながら自慢げに言い放った。

「この眼鏡がそっちの道を指したからよ!!」
「あ、そう……」

本当に頼りにならない妖精だった。


数十分後。
予想通り螺旋階段状になっていた坑道を抜け、教団内へと入り込むことに成功した。
表から見た時は張り子の虎ならぬハリボテのクッ○城だったが、表の貧相な造りとは裏腹に内部はそれこそ金持ちの屋敷のような見事な造りになっていた。

「凄いな……こりゃ確かにきな臭いって言われても仕方ないね」
「諏訪子!諏訪子!これ見て!」

辺りを見回していた諏訪子のことを呼んだチルノは何かを抱えながら廊下の先から走ってくる。
その手の中で青白く光る小さな玉は、明らかに高価な宝玉にしか見えない。

「どうしたのそれ……」
「えーと、取れた!」
「……取れた?まさかそれ何かにハマってたんじゃ……!」

…いやいや、落ち着こう。
いくらチルノでもまさかそんなあからさまな罠に引っ掛かってるなぁこれは。
ヒュンッ!

「は――」

顔の真横を高速で通り過ぎた物がある。
しばらくして、タン!という高い音で壁に突き刺さったのは一本の矢だ。

「うわあぁぁぁぁぁ!?」
「綺麗だよねーコレ」
「言ってる場合か!」

諏訪子はチルノの首根っこを掴んで咄嗟に隣の部屋に飛び込んだ。
先ほどまで二人が居た廊下では雨の様な矢が降り注いでいる。
あの中にいたら流石に死んでいただろう。
…もしあれが侵入者用のトラップだとしたら…。
ヴィー、ヴィー。
『侵入者を確認。繰り返す、侵入者を確認。見つけ次第捕縛しろ』

「やっぱりかぁぁ!!」

侵入者である諏訪子とチルノの存在を伝える為のサイレンと放送が鳴り響き、廊下からも人の声が聞こえ始めた。
…不味い。何とか逃げないと…。
諏訪子は俯き、思案を巡らせ始める。

「諏訪子」

来た道を戻るのは無理だろうか。
何人かと交戦するのを覚悟したら抜け切れるだろう。

「諏訪子」

もしくはこの部屋にも抜け道があるかもしれない。
というか最悪壁をぶち抜いて逃げることも出来るはずだ。

「諏訪子ってば――」
「何!うるさいな!」

顔を上げて肩に乗せられたチルノの手を振り払い、ようやく状況を理解する。
気付けば、完全に取り囲まれていた。

「……あれまぁ」

諏訪子達を取り囲んでいた内の一人、リーダー格らしい角付きの赤服が前へ出て、その手に持っている刀を諏訪子に突き付けた。
「手を挙げろ。――お前達を連行する」



「大人しく連行されちゃっていいの?」
「これでも神様だし。私が人にちょっかい出したら早苗達が困るからね」
「そうなんだ。大変ねー」

自分一人の責任で済むのならば良いが、そうゆうわけにはいかない。
…数も結構多いみたいだし。無理はしない方が賢明だろうね。
連行ということで目隠しをされているのだが、十数人の気配を感じる。
…しかし、どこに連れていくつもりなんだろ。
先に目隠しをされたので様子は分からないが、恐らくチルノも同じように目隠しをされて手を引かれているのだろう。
しかし、チルノ自身は何故か普段通りの能天気さで、喋りかけてくる。
緊張感という言葉を知らないのだろうか。

「ねぇ諏訪子。これから何処に連れて行かれるのかな?」
「さぁ。大方あの真っ白な部屋か、こいつらのボスのところじゃないの?」
「ボスかぁ……楽しみだね!」

何で楽しみなのかさっぱりわからない。
…けどま、こんな教団の長を務めるのがどんな奴なのかは気になるね。
逃げだすのはそれを見てからでも遅くはないだろう。
こんなことを考える自分も結構余裕だなぁと諏訪子は苦笑した。
と、不意に手を引いていた者が足を止めた。

「お連れしました」
「御苦労。いやぁ中々楽しませてもらったよ」

…?なんか聞き覚えのある声が…。
そして不意に鼻をくすぐるように香って来た強い酒の香も、普段良く嗅ぐものだ。

「あ、目隠し取っていいぞ。お疲れ、諏訪子」
「――これは一体何の冗談かな?返答次第では容赦しないよ?神奈子」

目隠しを外すと、そこにはいつも通りの休日のおっさんスタイルで横になって酒を呑んでいる神奈子の姿があった。
ニヤニヤとしながら酒を呑む姿は明らかにこちらを挑発するものだ。
崇り神の本気を見せてやろうかと思った矢先、横から赤服の手が伸びてきてそれを遮った。

「何?邪魔するならアンタも――」
「落ち着いてください諏訪子様!私、私ですよ!」

赤服は仮面を取り、その下の顔をこちらに向ける。
そこには今日の「おつかい」を頼んだ張本人の姿があった。

「さ、早苗……!?アンタまで何してんの……?」
「えーと……ほら、チルノさん!あのプラカード出して下さい!」
「え?あぁ、あれね!任せて!」

はい、とチルノが掲げたプラカードには「どっきり大成功!」の文字があった。
…?
一瞬理解が追いつかない。
どこからがどっきりだったのか。
そもそも何がどっきりだったのか。

「見事に混乱してるわねー。ざまぁないわね神様なのに」
「そういう言い方はないんじゃない?霊夢。まぁ確かに新鮮ではあるけれど」

クスクスと笑う声と共に現れたのは霊夢と紫だった。

「博麗のがここに居るってことはアンタの神社から既に始まってたわけね……」
「ご明察。ちなみに紫がいるのは資金提供がコイツだったから」
「人間のことなんてどうでも良かったんだけど、霊夢がどうしてもってせがむから仕方なくね」
「せがんでなんかないわよ」
「あら、そうだった?」

そのまま乳繰り合いだした二人を放っておいて、諏訪子はチルノを見る。
チルノはプラカードを掲げたまま、微笑している。

「アンタもグルだったの?」
「そうだよ!凄かったでしょあたいの演技!」
「とにかく眼鏡をかけることとチャイムを押すことまでしかシナリオ伝えてなかったから、それ以外は素だけどな」
「素でしたね」
「素だったわ」
「素だったわよねぇ」
「うぐっ……!」
「眼鏡には何の意味が…」
「単純に私の趣味だ。あと面白そうだったから」

まぁでもさ、と言って神奈子が立ち上がり、諏訪子に後ろを振り向かせた。

「な、何――」

そこには何十、何百という人間の姿があった。
そして、そこにいる全員が手に持っていたクラッカーを同時に鳴らした。

「お誕生日おめでとう!神様!」
「……はぇ?」

ポカンとした諏訪子がおろおろとし始める中、その肩に手を乗せた早苗が耳元で囁く。

「諏訪子様が誕生日だって言ったらいつもお参りに来ている人達が『是非祝いたい』と言ってくれまして、チルノさんみたいな妖精や妖怪の方々もおめでたいことだしってノリノリで参加表明してくれて……ただまぁ途中で神奈子様とか霊夢さんとかに知られてこんなに大事になっちゃったんですけど」
「せっかくの祭りだろう。人が多くて派手な方が楽しいじゃないか」
「いやだからですね神奈子様。今日はお祭りではなくてホントはお誕生会の予定で……」
「はは……なんだ、そうか……」

ようやく肩の力を抜いた諏訪子が力なく笑う様を見て、神奈子達は歯を見せて笑う。

「楽しかったろ?私達からのプレゼント『八坂神奈子プロデュース・どっきり大作戦』」
「ちょっと、手柄独り占めはずるいわよ。私も協力したじゃない」
「お前は場所の提供しかしなかっただろ!」
「紫に連絡入れたのも説得したのも私ですー。ということで今日はタダ酒&タダ食いさせてもらうわよ!」
「まぁまぁ皆さん落ち着いて…」
「あたいも何か食べるー!」
「はい、湯豆腐あげるわ」
「わぁ美味しそう。ってチルノさん溶けちゃいます!ていうか溶けてきてます!!」

騒ぐ皆の姿を見て、諏訪子は大きくため息を吐く。
皆、楽しそうだ。

「これは一本取られたなぁ…」

苦笑して、一息ついてから諏訪子は皆の方へ駆け寄って行った。

「よし、今日は私が奢っちゃおうかな!皆自由にやっちゃっていいよー!!」
「おー!!!」





私の名は洩矢諏訪子。
人に、妖怪に、皆に愛される――神様だ。



















後日。
「わざわざ白い部屋作ってまで隠し撮った諏訪子の貴重なゴスロリ写真が出来たんだが、どうする?」
「5万までなら出します…!!」
「捨ててよ!」
普段は神奈子様が表に立っているけれど、実は影で頑張っている諏訪子様の存在を知ってた皆が諏訪子様を労う的な趣旨になってました。気付いたら。

とりあえずちょっと長めで書いてみましたということで。
…実際誕生日がいつかとかは知らないんですけどね。
依玖
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