01.
私に唯一の落ち度が有るとすれば、それはきっとあの日の弾幕勝負に負けた事に違いありません。
それはいつもの如く博麗神社で行った宴会の時の事でした。その日は特に変わった様子も無く、人や妖怪やその他の被写体達が、皆一様に体に酒の匂いを染み込ませているだけの光景にすぎませんでした。天狗である私は酒に酔い潰れると言う事は無く、酒とその場の空気に当てられてはしゃぐ彼女達を写真に収めていました。
ところがそんな私に、ある人物が絡んできたのです。名前は西行寺幽々子。宴会で度々その姿を見る事はあれど、彼女のそう言った姿をみたのは初めてで、私は酷く驚きました。
なにせ西行寺幽々子と言ったら、私の質問や鎌掛けにも一切動じず終始マイペースを貫く人(亡霊ですけれど)ですし、呟く言葉も意味が分からない事が多いので、正直ここだけの話、苦手なくらいです。
しかしその彼女が、その日に限って、やたら私に絡んでくるのですから気味が悪いったらありゃしません。まぁ、亡霊の彼女が傍にいるのですから、多少気分が悪くなっても不思議な話ではありませんが。とはいえ、普段の彼女の指定席と言えば、紅白の巫女の隣と相場が決まっています。この二人の関係については追い追い記事にするとして、今は目の前の亡霊に対する対処を優先する事にしました。
「どうも、先日は。何か私に御用ですか?」
「はて、先日会ったかしら。最近はお茶菓子を食べた事しか記憶に無いわ」
「亡霊も痴呆になるんですか」
「失礼ね、ぴちぴちの霊に対して」
「このやり取りは以前にした記憶がありますよ」
「ああ、あと、鰻も食べたわね」
相変わらず霞を掴むような会話です。
「鰻ですか。もしかして、夜雀の?」
「ええ、あの夜雀の」
口許を隠す様に微笑む彼女は見ていて綺麗ですが、後ろから突き刺さる視線があまりに痛くて、思わず私の表情はぎこちないものになります。十中八九紅白の物でしょう。私が一番好きな微笑みをするあの子は酒が飲めないので、今頃家にいるはずです――まぁ、それは別の機会にでも話すとして。
「あそこの料理は確かに美味しいですよね。何より焼鳥を出しません」
「知ってるかしら? あの屋台に新しいメニューができたのを」
それは初耳でした。この私が情報で遅れをとるなんて事が許されるのでしょうか、いいえ、許されません。なので私はついその話に乗ってしまいました。
「それはそれは。一体どう言うメニューですか?」
その私の問いに幽々子さんは答えず、代わりに和服の袖から何かを取り出しました。それは見まごう事なくスペルカード。何故この状況でそれが出てくるのでしょうか。そう私が尋ねるより早く、彼女が腰を上げて、ふわりと宙に浮きました。どうやらこれ以上は教えてもらえなさそうです。仕方なく、私は彼女に倣って、空に飛びました。地上ではそれに気付いた人達がやいのやいのと叫んでいます。人の気も知らないで、と思いましたが、一方で私の心は別段焦ってはいませんでした。
確かに彼女はかつで春雪異変を起こすなど、かなりの実力を持っている事は事実です。とはいえ、これまでの彼女を見る限り、私に分があるのは隠しようも無い事実なのです。のんびりとしている彼女に対して、私は早さが売り。きっと彼女がスペルカードを唱えた瞬間、そのお餅みたいな頬を引っ張る事さえ出来るでしょう。
私はそう思い、ギアを一気に上げて加速し――
――見事、彼女の弾幕を顔面に受けました。
02.
食べ物の掛かった西行寺幽々子は出鱈目に強い。そう私の中で認識付けることにしました。でないと、何故私があんなにあっさり被弾したのかが分かりません。
ともかく、私は弾幕勝負に負けた罰ゲームとして、こうして夜雀の屋台に来ています。隣では雛が私のグラスにお酒を注いでくれていました。何故彼女がいるかというと、どうやらその新メニューと言うのは、二人でないと頼む事が出来ないからだそうです。幽々子さんの場合は、嫌がる紅白をずるずると引きずっていったのでしょう。或いは、口では嫌がっても、親密な関係の二人ですから、仲良くこの席に座ったのかもしれません。そう思うと、なんだか少し気恥ずかしく感じて、ちらりと雛の方を見てしまいます。
数杯のお酒とつまみを口に入れて、雛と店主のミスティアに話をします。気になった事はすぐに確かめたい性分とに加え、そしてお酒の飲めない雛の為にも本当はすぐに新メニューを頼みたかったのですが、ミスティアに止められてしまったので仕方ありません。メインメニュー、或いは酒が進んだ酣に頼むものなのでしょう。なので代わりに、質問をする事にしました。
「ところでミスティアさん。良い加減メニュー表を置きません?」
「読み書き算盤、何も知らない私にそれを言う? 今でも新聞は燃料よ」
「そうですけど。折角新メニューを作ったのに、宣伝にならないでしょう」
「メニュー自体多くないし、それに、新メニューは尚更文字にしたくないなぁ」
「何故です?」
「内緒」
そう言えば、亡霊の彼女も、メニューの名前は教えてくれませんでした。
そうやらミスティアも、名前は教えてくれそうにありません。質問の答えから当てるしかありません。
「では、幾つか質問させてください。今日は食べられますか?」
「うん、出来るよ。晴れてたしね」
「どのくらいで出来ます?」
「焼き時間なんて適当だよ」
「結構多いですか?」
「どうだろう。魚丸々一匹だけど」
「どうして二人で無いと頼めないんですか?」
「二人なら誰でも良い訳じゃないよ」
「私は頼めますか?」
「当たり前でしょ。割と有名だし、あんたら二人」
意味が分かりません。と、ぽりぽりと頭をかく私に、突然雛が、
「あっ」
と声を上げました。
「どうしたの、雛」
「私、分かっちゃった、かも……」
顔を赤くしながら、雛がそう呟きました。私の彼女は出来る子でした。でも悔しいです。
「ねぇ女将さん。もしかしてそれって、駄洒落だったりする?」
「多分合ってるよ」
二人だけで話を進めないで欲しいです。
「でも、文。ヒントはもうかなり貰ってるわよ?」
「さすが雛は頭の回転も速いですねぇ。ぶー」
「もう。拗ねないでよ」
そんな私に見かねたミスティアさんが溜息を一つ吐いて、ごそごそと何かを取り出しました。それを見て、雛はやっぱりと言った顔をしました。
「本当はヒントなんて出さないけど。先に分かった恋人に免じて」
ミスティアさんはそう言って、私に一枚の笹の葉をくれました。ぽかんと口を開けている私に構う事無く、続いてまな板の上に一匹の魚を用意した所で、
「あ、ああ、あえあああ!?」
ようやく私にも答えが分かりました。
「そ、それは確かにそう言う二人しか頼みませんけど! なんでそんな恥ずかしい名前にしたんですか!?」
「や、だって、駄洒落だし」
「ねぇ、文」
絶叫する私。それもそのはず、罰ゲームの内容は、その新メニューを食べて感想を記事にする、までですから……!
「な、なんですか、雛」
「一緒に頼みましょう?」
「うっ」
「それとも、私とじゃ嫌……?」
その目でお願いをされたら断れないことを知っていて言いますか。
しかしここで断ろうものなら、あらゆる所から批判が来そうでそれは耐えられません。背に腹は変えられないのです。
「……分かりました……」
「じゃあ、せーの、で言いましょう?」
「はい」
「せーのっ」
「鯉の笹焼き」
私に唯一の落ち度が有るとすれば、それはきっとあの日の弾幕勝負に負けた事に違いありません。
それはいつもの如く博麗神社で行った宴会の時の事でした。その日は特に変わった様子も無く、人や妖怪やその他の被写体達が、皆一様に体に酒の匂いを染み込ませているだけの光景にすぎませんでした。天狗である私は酒に酔い潰れると言う事は無く、酒とその場の空気に当てられてはしゃぐ彼女達を写真に収めていました。
ところがそんな私に、ある人物が絡んできたのです。名前は西行寺幽々子。宴会で度々その姿を見る事はあれど、彼女のそう言った姿をみたのは初めてで、私は酷く驚きました。
なにせ西行寺幽々子と言ったら、私の質問や鎌掛けにも一切動じず終始マイペースを貫く人(亡霊ですけれど)ですし、呟く言葉も意味が分からない事が多いので、正直ここだけの話、苦手なくらいです。
しかしその彼女が、その日に限って、やたら私に絡んでくるのですから気味が悪いったらありゃしません。まぁ、亡霊の彼女が傍にいるのですから、多少気分が悪くなっても不思議な話ではありませんが。とはいえ、普段の彼女の指定席と言えば、紅白の巫女の隣と相場が決まっています。この二人の関係については追い追い記事にするとして、今は目の前の亡霊に対する対処を優先する事にしました。
「どうも、先日は。何か私に御用ですか?」
「はて、先日会ったかしら。最近はお茶菓子を食べた事しか記憶に無いわ」
「亡霊も痴呆になるんですか」
「失礼ね、ぴちぴちの霊に対して」
「このやり取りは以前にした記憶がありますよ」
「ああ、あと、鰻も食べたわね」
相変わらず霞を掴むような会話です。
「鰻ですか。もしかして、夜雀の?」
「ええ、あの夜雀の」
口許を隠す様に微笑む彼女は見ていて綺麗ですが、後ろから突き刺さる視線があまりに痛くて、思わず私の表情はぎこちないものになります。十中八九紅白の物でしょう。私が一番好きな微笑みをするあの子は酒が飲めないので、今頃家にいるはずです――まぁ、それは別の機会にでも話すとして。
「あそこの料理は確かに美味しいですよね。何より焼鳥を出しません」
「知ってるかしら? あの屋台に新しいメニューができたのを」
それは初耳でした。この私が情報で遅れをとるなんて事が許されるのでしょうか、いいえ、許されません。なので私はついその話に乗ってしまいました。
「それはそれは。一体どう言うメニューですか?」
その私の問いに幽々子さんは答えず、代わりに和服の袖から何かを取り出しました。それは見まごう事なくスペルカード。何故この状況でそれが出てくるのでしょうか。そう私が尋ねるより早く、彼女が腰を上げて、ふわりと宙に浮きました。どうやらこれ以上は教えてもらえなさそうです。仕方なく、私は彼女に倣って、空に飛びました。地上ではそれに気付いた人達がやいのやいのと叫んでいます。人の気も知らないで、と思いましたが、一方で私の心は別段焦ってはいませんでした。
確かに彼女はかつで春雪異変を起こすなど、かなりの実力を持っている事は事実です。とはいえ、これまでの彼女を見る限り、私に分があるのは隠しようも無い事実なのです。のんびりとしている彼女に対して、私は早さが売り。きっと彼女がスペルカードを唱えた瞬間、そのお餅みたいな頬を引っ張る事さえ出来るでしょう。
私はそう思い、ギアを一気に上げて加速し――
――見事、彼女の弾幕を顔面に受けました。
02.
食べ物の掛かった西行寺幽々子は出鱈目に強い。そう私の中で認識付けることにしました。でないと、何故私があんなにあっさり被弾したのかが分かりません。
ともかく、私は弾幕勝負に負けた罰ゲームとして、こうして夜雀の屋台に来ています。隣では雛が私のグラスにお酒を注いでくれていました。何故彼女がいるかというと、どうやらその新メニューと言うのは、二人でないと頼む事が出来ないからだそうです。幽々子さんの場合は、嫌がる紅白をずるずると引きずっていったのでしょう。或いは、口では嫌がっても、親密な関係の二人ですから、仲良くこの席に座ったのかもしれません。そう思うと、なんだか少し気恥ずかしく感じて、ちらりと雛の方を見てしまいます。
数杯のお酒とつまみを口に入れて、雛と店主のミスティアに話をします。気になった事はすぐに確かめたい性分とに加え、そしてお酒の飲めない雛の為にも本当はすぐに新メニューを頼みたかったのですが、ミスティアに止められてしまったので仕方ありません。メインメニュー、或いは酒が進んだ酣に頼むものなのでしょう。なので代わりに、質問をする事にしました。
「ところでミスティアさん。良い加減メニュー表を置きません?」
「読み書き算盤、何も知らない私にそれを言う? 今でも新聞は燃料よ」
「そうですけど。折角新メニューを作ったのに、宣伝にならないでしょう」
「メニュー自体多くないし、それに、新メニューは尚更文字にしたくないなぁ」
「何故です?」
「内緒」
そう言えば、亡霊の彼女も、メニューの名前は教えてくれませんでした。
そうやらミスティアも、名前は教えてくれそうにありません。質問の答えから当てるしかありません。
「では、幾つか質問させてください。今日は食べられますか?」
「うん、出来るよ。晴れてたしね」
「どのくらいで出来ます?」
「焼き時間なんて適当だよ」
「結構多いですか?」
「どうだろう。魚丸々一匹だけど」
「どうして二人で無いと頼めないんですか?」
「二人なら誰でも良い訳じゃないよ」
「私は頼めますか?」
「当たり前でしょ。割と有名だし、あんたら二人」
意味が分かりません。と、ぽりぽりと頭をかく私に、突然雛が、
「あっ」
と声を上げました。
「どうしたの、雛」
「私、分かっちゃった、かも……」
顔を赤くしながら、雛がそう呟きました。私の彼女は出来る子でした。でも悔しいです。
「ねぇ女将さん。もしかしてそれって、駄洒落だったりする?」
「多分合ってるよ」
二人だけで話を進めないで欲しいです。
「でも、文。ヒントはもうかなり貰ってるわよ?」
「さすが雛は頭の回転も速いですねぇ。ぶー」
「もう。拗ねないでよ」
そんな私に見かねたミスティアさんが溜息を一つ吐いて、ごそごそと何かを取り出しました。それを見て、雛はやっぱりと言った顔をしました。
「本当はヒントなんて出さないけど。先に分かった恋人に免じて」
ミスティアさんはそう言って、私に一枚の笹の葉をくれました。ぽかんと口を開けている私に構う事無く、続いてまな板の上に一匹の魚を用意した所で、
「あ、ああ、あえあああ!?」
ようやく私にも答えが分かりました。
「そ、それは確かにそう言う二人しか頼みませんけど! なんでそんな恥ずかしい名前にしたんですか!?」
「や、だって、駄洒落だし」
「ねぇ、文」
絶叫する私。それもそのはず、罰ゲームの内容は、その新メニューを食べて感想を記事にする、までですから……!
「な、なんですか、雛」
「一緒に頼みましょう?」
「うっ」
「それとも、私とじゃ嫌……?」
その目でお願いをされたら断れないことを知っていて言いますか。
しかしここで断ろうものなら、あらゆる所から批判が来そうでそれは耐えられません。背に腹は変えられないのです。
「……分かりました……」
「じゃあ、せーの、で言いましょう?」
「はい」
「せーのっ」
「鯉の笹焼き」
素敵やん
ゆゆれいむに釣られたが来て良かったと思った
珍しいカップリングもさることながら、その2組のラブラブ感を余すことなく表現してる素晴らしさに拍手を。
そしてミスティア、GJ!
いや、ホントに綺麗でした。
「月の彼女」でのふたりはすごく痛々しくて切なかったので、安心しました。
素敵な落ちをどうもありがとうございました。
どうしてくれる
二つの意味で
思いついた切欠が夏の暑さによるものでなければ更によかった
>>3様
むしろゆゆれいむに釣られるあなたが凄い
>>タカハウス様
僕には恋愛話しか描けないよママン 誰かギャグの描き方を(ry
>>玖爾様
惜しむらくは内容の薄さ
>>14-15様
飛ぶ鳥跡を濁さず
>>mthy様
過去に書いた話を覚えてくださっているというのが、物書きにとって一番嬉しい事だと思っております。ありがとうございます。ありがとうございます。
>>20様
ぼくの むねに とびこんで おいで
>>22様
そして現場は酒場。酒ばっかり。
残念、俺の守備範囲だ
初々しくニヤケが止まらない!ごちそうさまです!
どんどんいこうぜ
文雛もゆゆれいむもたいへんかわゆうございました。
行ってくる
これは恥ずかしい…///