Coolier - 新生・東方創想話

二人見た桜の様に・・・

2010/08/24 22:29:59
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きっかけは、些細な出会いだった。



桜のつぼみが、もう少しで花開く。

3月ともなると少しだけ温かさが、大地からじんわりとにじみ出てくるかのようだった。
そんな春の兆しが見える時期に、私は山奥でクルクルと踊っていた。


 人を守るため、私の役目を果たすため。


私は厄神・・・人間から災厄を預かり、それを溜め、どこかへと流す。
故に私に近づくものはおらず、一人こうしてクルクルと水面で踊る。
ステージには、私一人。
観客はいない。
厄という衣装をまとって、クルクルと踊る。
何時間も、何日も、何年でも、踊ろう、踊ろう。
それが厄神の勤め。
今日も観客のいないステージを、いつから回ってるかも忘れて舞い踊る。

ふと視線を感じるて回るのをやめる。
こんな山奥に・・・妖怪かもしれない、と思って視線を、欝蒼と茂る森へと移す。

・・・いた。
太い木々の向こう側から、そっとこちらを見つめている・・・どうやら人間の男のようだ。
彼もこちらの様子に気づいたのか、ばつの悪そうな顔で、ゆっくりと茂みから出てきた。


 帰りなさい。


私はそっと彼に告げた。
何せ私もそうだが、ここは人間の厄に覆われすぎている。
普通の人間なら数分で具合が悪くなってしまう。
下手をすれば・・・死に到る場合もある。
しかしその忠告も聞かずに、彼は私の方に近づいてきた。
湖のふちギリギリまで迫った彼は、そこでピタリを動きを止める。
私はもう一度、彼に警告しようと口を開いて、


 君の踊りを見たい。


彼の言葉に、声が出なくなってしまった。





聞けば、一度厄神というものがどういうものか気になって、妖怪の山のそばにあるここまで来たのだという。
そうしてやっと私を見つけたのはいいものの、踊っている姿に見惚れて出ていくタイミングも、かける声も失ったのだという。
その姿がとても綺麗で、儚げで、もっと見てみたい、彼はそうのたまった。

呆れた。
私の事を知ってなお、彼は私の側で踊りを見たいらしい。
冷めた目で彼をじっと見つめても、彼はニコニコと笑うだけで、さも当然のように私の踊りを待っているようだ。
・・・テコでも動きそうにない。
仕方ない、細心の注意を払って彼に厄を付けないように踊ろう。


 ・・・一度だけよ。


 わかった。


彼はそれきり言葉を返さない。
それを合図に、私はクルクルと回り始めた。

風がそよぎ、水面がそれに合わせて揺れる。
私も風に身を任せて、クルリと踊る。
時にステップを刻み、
時にふわりと舞い、
時に手を広げて踊り狂う。
そうして湖というステージを、ゆっくりと舞っていく。



どれ位時間がたっただろう、日が傾きかけているのに気づいて、私は踊りをやめた。
かれこれ数時間は夢中で舞っていたのだろう。

不意に、拍手が聞こえた。
慌てて拍手の方向を見ると、先ほどの彼が満面の笑みで手を打ち鳴らしていた。
その瞬間まで、彼が居たことをすっかりと忘れていた。


 すごいね、本当に綺麗だ。


そんなことを言われて、おずおずと頭を下げる。
思えば自分の踊りを他人に見られることなんて、一度もなかった。


 さぁ、気が済んだでしょう。早くお帰りなさい。


そろそろ妖怪の活動時間だ、人間をむざむざ危険に晒すことなど出来ない。
彼は少し残念そうな顔をしつつも、ペコリと頭を下げて帰路につこうとした。
ふと、彼がこちらをじっと見つめる。
何事かと思い見ていると、彼がこう言った。


 素敵な踊りありがとう、またね。


そういって今度こそ、本当に帰路についた。

彼は一体なんだったんだろう?
そう思いつつも、そろそろ私も帰ることに頭を切り替える。

でもそう。
自分の踊りを褒めてくれたことは、彼だけだった。
とても・・・とても嬉しかった。
思わず顔がほころんでしまう。


 ・・・いけない、いけない。


ブンブンと頭を振って、私も帰路につく。
・・・そういえば、彼はまたね、と言っていた。
まさか、ね。





翌日の昼過ぎに、またしても昨日の彼が現れた。
正直開いた口がふさがらない。


 こんにちは。


彼は呑気そうにニコニコとほほ笑んだ。
思わず、はぁ・・・と溜息をつく。


 今度は何の用?


ちょっと刺のある言い方で彼に尋ねてみる。
すると彼は悪びれもせず、


 また踊りを見に来てしまった。


と頭を掻きながらつぶやいた。
また私ははぁ、と嘆息つくのであった。
それでも、彼といるのは嫌いではなかった。











それから彼は、何度も何度も私に会いにきた。
決まった時間はなく、昼間だったり夜だったりとばらつきがある。
それでも、私の踊りを見るという事実だけは変わらなかった。
ステージには私一人。
観客は彼一人。
厄という衣装をまとって、クルクルと踊る。
何時間も、何日も、何年でも、踊ろう、踊ろう。
それは彼の為に。
いつから回ってるかも忘れて、舞い踊る。
そして気が付くと、彼が嬉しそうに手を叩く。
ここ数日はそんな光景も当たり前になってしまった。





桜が本格的に咲き始めた・・・そんなある日、彼と話をしてみたくて、初めて私は彼と会話をした。
彼は本当に驚いていたが、それもすぐに笑顔に変わった。
それから、彼ととりとめのない会話をした。
彼自身のこととか、彼の村の事とか、馬鹿な友人の話とか。
私はそれを黙って聞いて、時に頷いて、時に同意して、時に笑った。
そうして時間が過ぎるのも忘れて、私は彼との会話を楽しんでいた。

ふと見ると、彼が何かを見上げるので、私もつられて視線を上げる。
見れば桜の花が綺麗に咲き誇っている。
桜色の花びらを身にまとい、湖を艶やかに装飾するそれが美しい。


 すごいね。


彼がぽそりと呟く。
顔を向ければ、さも桜を見るのが初めてのように眼を見開き、桜の木を一つ一つを眺めている彼の姿がそこにあった。


 そうね、素敵ね。


彼を見ながら、私もそう呟く。
暫く私は彼を、彼は桜を飽きるほど見つめていた。
彼の横顔はとても精悍で、ずっと見ていても飽きないくらい素敵だ。
それこそ時間も忘れて、彼をじっと見つめていた位に。
暫くして耳を済ませれば、桜が靡くほどの風が流れる。
そうして風が吹いた後に、とひらひらと一欠の桜の花びらが目の前に落ちてきた。
私はそれをそっと手のひらで受け止める。
艶やかな桜色をしたそれは、私には眩しいほどに見えた。


 綺麗だね。


彼が私を見ながらそう呟いた。
てっきり桜の花びらを指していっているのだと思い、


 そうね、綺麗な花びらね。


と同意して、彼に手のひらの花びらを見せる様に突き出した。
すると彼は、少し困った顔をするので、


 どうしたの?


と問いかけても、彼は回答を渋る。


 いや、その・・・。


彼が口ごもるので不思議に思って見ていると、ようやっと観念したのか、


 君が、綺麗だから。


とそうのたまった。
思わず、顔が熱くなってしまう。


 そ、そう・・・。


どう答えればいいのか分らず、適当に答えてふいと、そっぽ向いてしまう。
胸に手を当てれば、ドクドクと鼓動が高鳴っている。
きっと顔が真っ赤になってて、見せられないような顔だろうか。
彼もそれ以上は何も語らなかった。










あの日から数日が過ぎた。
それからというもの、彼は頻繁に私の元へと来てくれた。
私が踊った後に、彼と話をする。
私はそれを黙って聞いて、時に頷いて、時に同意して、時に笑う。
始めのころは、彼とずいぶん距離を置いて座っていたのに、
次第に少しずつ、少しずつ近づいていった。
厄が移るといけないと思いつつも、力でそれを制御して、彼に危険が迫らないようにしていた。

声が聞こえる距離、

彼の顔がはっきり見える距離、

友達と話すそれの距離、

彼の手に触れられる距離、

肩が付くくらいの距離、

彼とキスする距離・・・どちらともなく、ゆっくりと彼との距離を縮めていった。

嫌ではなかった、彼との時間はとても楽しくて、嬉しくて。
厄神としての私を忘れたわけではないし、彼に危険が及ばない程度には出来る。
・・・甘えかもしれない。
それでも彼に忠告したことがある。


 私は厄神、人間にとって危険な厄を纏っているのよ。
 貴方はそれでも私と居たいの?


それでも彼は笑って。


 構うもんか、君と一緒がいい。


頬を赤らめてそう告げる彼に、私もつられて真っ赤になった思い出がよみがえる。
あの時は嬉しくて、ついつい彼と友達以上の関係にまで至った。
そして彼に、こう告げられた。


 君が、好きだ。


生まれて初めて、他人に告白された。
それだけで、嬉しさでいっぱいになる。
私はその問いに、彼を抱きしめることで答えた。










きっかけは、彼の嘘だった。

桜の花が散り始めた頃、私たちはまた同じ場所で語り合っていた。
桜も見ごろを終え、散り散りと花びらが水面にこれでもかと散っていた。
その光景を見ていると、不意に彼が


 そろそろ桜も終わるね。


と呟いた。


 そうね、短い季節だったわ。


まるで彼との逢瀬のように、あっという間に過ぎていった。
それでも充実した日々を送ったことを、とても嬉しく思う。
彼を私に巡り合わせてくれたのも、もしかしたらこの桜のおかげかもしれない。
そしてその桜がまた、ひらりと花びらを落としていく。
それが地面に、水面に落ちていく。


 悲しいね。


彼が少し残念そうな顔でささやく。


 そうね。


私もただ、その光景を見つめてささやく。
これも後数日したら消えてしまうのだろう。
それでも思い出という形で、それは私たちの胸に残り続けるだろう。
これからも、ずっと・・・。





 暫く家業が忙しくなるから、逢えなくなる。


帰り際に彼がそう告げた時、私はさびしく思った。
それでもまた逢えることを希望に、彼と別れのキスをした。


 またね。


そういうと彼は夕方の道を下っていった。
私は手を振りながら、彼の背中を見送った。
彼の背中が見えなくなって、少しシュンとしてしまう。
けれど一週間、それ以上かも知れないけれど待てる自信はある。
彼との逢瀬を夢見て、私は一人湖の上を舞った。










彼と別れてから、1か月が経った。
それまでは、寝ても覚めても彼の事ばかりが気になってしまう。
それでも、少しだけ彼の姿を見たくなってしまう。
その想いが、日増しにコンコンと込み上げてくる。


 一目・・・一目でいいから彼に会いたい。


もうその想いは爆発寸前だった。
そして今日初めて、私は人里近くまで来ていた。


 来てしまったわ・・・。


良くないと分かっていても、足が勝手に進んでしまった。
もうここまで来たら開き直って、彼を見つけてしまおう。
・・・しかし、さすがに人里の中にまでは入れない。
どうしましょう?
そう思案し続けて、早1時間が経過していた。

 やっぱり、諦めましょう。


そうひとりごちて、クルリと足をもと来た道へ向けようとした。
その時だった。


 ?今の声は・・・。


ふと背後から聞きなれた声がしたので、慌てて物陰に隠れる。


 ・・・やっぱり。


彼だった。
彼は楽しそうに、横にいる女性と何事か会話をしていた。


 よかった、やっと会えた。


しかし横にいる女性は誰だろうか?
妹さん・・・にしては違う?
じゃあ仕事関係の方かしら?
・・・それにしても楽しそうに会話している。
ちょっとジェラシー感じちゃうわ。
と、完全に出ていくタイミングを失ってしまった。
その時。


 え・・・?


信じられない光景を目撃した。

彼が彼女に、キスをしていた。

何かの間違いだと思い、ゴシゴシと目をこすった。

それでも彼は、彼女とずっとキスをしていた。

・・・どういうこと?

だって、彼の恋人は・・・?




















私は走って湖へと向かった。


 君が好きだ。


 いつまでも側にいたい。


 君だけが、好きなんだ。


あっけなく、私の中にあった彼への想いが砕けて散る。

彼の想いは私には届いたのに、

私の想いは彼に届かなかった。

私の勘違いだったのか、

彼の気まぐれだったのか。

・・・私は湖近くの川にたどり着き、その近くに蹲る。
涙がとめどなく溢れ、川に流されていく。
まるで、心臓に針が刺さったかのような痛みがあった。
泣いて泣いて、枯れ果てるまで泣き続けた。









どれ位泣いたろうか。
ふと川縁を見ると、桜の花びらが引っかかっていた。
私はそれをすくい上げ、手のひらに乗せた。
長い間水にさらされた所為か、よれよれで、あの艶やかな桜色を見る影もない。


 まるで、裏切られた私みたいだ。


私は自嘲気味にそう零すと、桜の花びらをギュッと握りしめた。


 ならばせめて・・・。


その花びらに、厄を乗せて。
手を離した瞬間、花びらが風に舞いあがった。
まるで痛みを流すかのように、胸の痛みはすっと引いていた。

代わりに、長い長い悲しさだけが残った。

花びらが人里へと流れていく。

彼の厄を咲かせるために。

そうして、


愛は、


呪になる。


















それから彼は、一度も私に会いには来なかった。
何年も、何年も。
私はそれを嘆くことも、嘆息することもなかった。
ただ、桜の咲く季節あの日々。
あの季節がくるたびに、何とも言えない想いが浮かぶのだった。
















さよなら、私の狂おしい(愛しい)、真実(彼)・・・。
参考:サークルefs様の夜桜幻想郷より、「In the Darkness.-アナタノヤクヲ、サカセテアゲル-」
上記の曲がとても好きなので、勢いに任せて妄想作品を書きました。
いくらでも罵ってくださって結構です。

彼の眼に、最後に映ったものはなんだったのか?

感想、誤字脱字などがございましたらお気軽にコメントください。
それではまたいつの日か・・・。

追記、コメント返しをさせていただきます。

<5、8様
男は・・・生きてるんでしょうかね?
行間は以前にも別作品で指摘されて修正してみたんですが・・・まだ多すぎでしたか。
こんな作品を好きと思っていただき、ありがとうございます。

三半規管はいたい!

<コチドリ様
結託した!?
正直、徹夜のテンションであげてしまったので、ニャムニャムな結果に終わってしまいました・・・。
だから徹夜はだめとあれほど(ry
もう少し煮詰めて作るべきでした、反省点です。

以上、コメント返しでした。コメントありがとうございました。
タカハウス
http://ameblo.jp/fureitofureiya-takataka/entry-10569456876.html
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コメント



0.390簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
よし、その男をしばきまわしにいこうか
7.80コチドリ削除
手を貸すぜ、相棒。

と、いう訳で物語の感想なのですが、たった一人でも観客の訪れてしまった雛のステージ。
いつかは終幕を迎えなくていけなかったのでしょうが、こいつは苦いなぁ。
雛の踊りに魅せられて、厄を被る危険も顧みずに何度も会いに来た彼なので、
何らかの深い理由があったのでしょうか? 雛を裏切った。

まあ、理由があるにしろ無いにしろこの野郎がタコ殴りの刑に処されるのは厳然たる事実なのですが。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
おおっと感想忘れてた、5です

残り十点、てかそれ以下だけども行間が開きすぎかなぁと思う点がありやして
文章の構成はかなり好きな部類に入りまする、がんばってくだされ(何様

タコ殴りの刑じゃあすまんねぇ、三日間回し続けて三半規管をズタズタにするくらいはしないと
14.60ガニメデ削除
例え雛が蚊帳の外で何も知らずとも、
彼が雛に逢いに来なくなった理由、愛の呪を飛ばしてどうなったのか、それらを示唆する描写が個人的には欲しかったです。
幾通りの結末を想像してしまって、腑に落ちないもやもやとした読後感が残りました。