少し前に巷で、ゆーほーが目撃されたって噂されていた。
私のことだったら嬉しいな。嬉しいかな? 別に嬉しくないや。
ふよふよ。ふよふよ。
空を泳ぐ。
行く当てなどは無く、ただ風に身を任せるだけ。
「わたしはふわふわでーす」
なんて言ってみたり。
「ほんとにふわふわですか?」
なんて聞いてみたり。
いつも通りの毎日を過ごしていた。
あっちへふらふら。
こっちへふらふら。
我ながら自由だなぁと思う。
幻想郷のほとんどの場所は回った。
みんなが気付いてないだけで、里にもよく行っている。
もし誰かとぶつかって、そこに誰もいなかったら、それは私。ごめんね?
というわけで、私は人間の里まで来ていた。
里は行き交う人々で賑わっている。
子どもたちなんて走っちゃったりしている。
つられて私も走ってみた。子どもはえぇ。
行き着いた先は寺子屋だった。どうやら子どもたちはこれから勉強をするらしい。
寺子屋の門も前で、綺麗なお姉さんが立っていた。流れるような銀色の髪に、青のワンピース。
この人は先生だ。
直感的にそう思った。
子どもの一人が叫ぶ。
「せんせー!」
ほらね。
「おはようございます!」
おはようございます?
「ああ、おはよう。虎吉は今日も元気だな」
「えへへ……」
せんせーと呼ばれたお姉さんは、虎吉くんの頭をぐりぐりと撫でた。
どっちも、すごく嬉しそうだった。
なんでだろう?
その後も、どんどん生徒は集まってくる。
「けーねせんせー! おはよー!」
「ああ、おはよう、次郎」
「おはようございます、先生」
「亜子も、おはよう」
おはようと言われるたびに、けーね先生は綺麗な笑顔をこぼしていく。そんな先生を見て、生徒も笑顔になって、部屋に入っていく。
何が嬉しいんだろう?
世の中、不思議がいっぱいだった。
なんとなく、私も部屋に入っていった。
部屋に入って少しすると、全員揃ったのか、けーね先生はみんなの前に立ち、ごほん、と咳払いをした。
「それでは、授業を始めます。ひなこ」
「はい」
ひなこと呼ばれた子は、すっ、と立ち上がり、姿勢を正して言った。
「きりーつ!」
その声にあわせて、他の生徒も立ち上がる。
「れー!」
よろしくお願いします!
みんなで声をあわせてそう言った。
「ちゃくせーき」
けーね先生は、一連の動作(らしいもの)を終えた生徒を見つめ、満足そうにうなずいた。
「うん、今日も一日頑張って勉強しような」
その後は普通に勉強を始めたので、私はつまらなくなって外に出た。
さてこれからどうしよう、と思ったところで。お腹がきゅうと鳴いた。
そういえば朝ごはんを食べていなかった。お食事処ってもう開いてるかな。
里の中心に向かって歩き出す。
てくてく。てくてく。
てふてふ。てふてふ。別に蝶々は飛んでませんでした。
少し歩くと、お食事処の看板が見えてきた。
よかった。開いてるみたい。開いてなくても関係ないけどね。
カラカラ。
扉を開いて適当な席に座る。
日も昇り切っていない時間のお食事処は、閑散としていた。
「すみませーん」
「はいはーい」
恰幅のいいおばちゃんが現れた!
「あれ? 誰かに呼ばれた気がしたんだけどねぇ。気のせいだったかね」
こいしの囁く攻撃! 痛いことはしませんけどね。
「おばちゃんおばちゃん。私、おなかすいた。おさかなが食べたい」
おばちゃんは不思議そうに首を傾げて戻っていった。
「あたしも年かね、はは! とりあえず川魚定食でも作ってくるかいね」
「ありがとー」
「……あれ? でもなんで川魚定食を作るんだけっけ?」
「別に気にしなくてもいいんじゃない?」
「ま、いっか」
「そーそー」
客もいないから、待つことはなかった。
目の前に置かれた定食に舌鼓を打つ。
熱々のご飯に、焼き魚、お味噌汁とお新香。
塩焼きにされたヤマメをほぐし、ご飯の上に乗せる。絶景だわ。ごそっとご飯を下から掴み、魚と一緒に口に入れる。塩味が利いていて、ご飯が進む。お味噌汁を啜る。薄めだけど、出汁の風味がとても良い。あっさりとした仕上がりだった。ポリポリと大根のお新香を食べる。うん、いい漬かり具合です。
カラカラ、と扉を開く音が聞こえてきた。
「おいっすー! 飯食いにきたぞー!」
おいっすー?
入ってきたのは、こってりと脂の乗った中年男性だった。夏の日差しを浴びて、肌は黒くなっている。黒豚ちゃんと呼ぼう。
「はいはい。お、頼ちゃんじゃないのさ! あんた、仕事はどうしたんだい?」
「おいおい、らいちゃんはやめてくれって。最近休みがなかったからよ、もらったんだ。朝からきゅーっとやるのもいい休日だと思ってさ」
「いい休日なもんかい。ちったぁ家族サービスってもんをしてやりなよ」
「次の休みにするさ」
「全く……。まぁいいや、ちょっと待ってな。あんたー! 頼ちゃんが来てるよー!」
おばちゃんの声を聞いて、奥から初老の男性が出てきた。
「おお! 頼朝の旦那じゃないかい! おはようさん。よく来なすったな」
おはようさん?
「よお! おやっさん! 久々さなぁ!」
よお?
「なんだいなんだい! 最近めっきり来なくなって寂しかったんだよ」
「仕事が忙しくってなぁ。たまの休日ってんで寄ったら、おやっさんのかみさんに叱られてたところさ」
「あっははは。そいつぁ拙かったねぇ。ま、ゆっくりしてってくれや。飲むだろ?」
「おやっさんが相手だと話が早くていいや」
そうして、黒豚ちゃんとおやっさんは仲良く談話していた。
ふむぅ……。
なにはともあれ、お腹は膨れました。
私はお金を置き、外に出た。
古明地こいし、食い逃げはいたしません。
里の大通りを歩く。
道行く人々は、知り合いらしき人に会ったら、みんな口々に「おはよう」や「よお」、「おっす」と言う。
なんのためにしているんだろう。
私にはわからなかった。
糖分が足りない。そう思った私は、果物屋さんで桃を一つ失敬した。間違えた。買いました。お金は置いてったもん。
がぶりと噛みつく。
「ぎゃあ!」
そんな声が聞こえてきそうなほど、いきいきとしたぷりぷりの果実だった。甘くておいしかった。
てくてく。てくてく。
おうちに向かって歩きます。
道端にお花が咲いていた。
「お花さんお花さん。こんにちは!」
お花は返事をしてくれませんでした。
「なるほどなるほど」
よくわからないや。
おうちにかーえろっと。
地底へと繋がる洞窟を進む。
広場では、今日もわいわいお祭り騒ぎが起こっていた。
宴会はまだ始まったばかりらしく、後から後から集まってきた。
その時、最初に言葉にするのは、やっぱり「よお」とか「やあ」という挨拶。
なんで挨拶ってするんだろう?
そんなことを考えながら宴会を眺めていたら、勇儀さんにちらっと見られた。あなどれぬ。
宴会に出る気分でもないし、今日はもうすることもないので、おうちに帰ります。
門を潜り、扉を開ける。廊下を進み、お姉ちゃんの部屋に入ってみる。いた。
「ただいま、お姉ちゃん」
お姉ちゃんは猫になったお燐の毛づくろいをしていた。なんとなく幸せそうに見える。お空はそれを羨ましそうに眺めてた。
「あら、こいし。おかえりなさい。外は楽しかった?」
「おかえりなさい?」
「ん?」
「今、お姉ちゃんおかえりなさいって言った」
「ええ、言ったけど……それがどうしたの?」
「なんでおかえりなさいって言ったの?」
お姉ちゃんも、お燐もお空も、きょとん、とした顔になっている。
「なんでって、あなたがただいまって言ったからよ」
およ。
「私、ただいまなんて言ったっけ?」
「言ったわよ。ね?」
お姉ちゃんはペットたちに確認する。二人とも、うんうん、とうなずいていた。
「お姉ちゃん、なんで挨拶ってするの?」
「えぇと……どういうことかしら」
私は、今日一日に起こったことをお姉ちゃんに話した。
「なるほど、そういうことだったのね」
「うん。私、なんでみんなが嬉しそうにしてるのかわからなくて」
「そう……」
お姉ちゃんは、私の頬にそっと手を伸ばしてきた。
「それはね? こいし」
「うん」
お姉ちゃんの手は温かかった。
「嬉しいからよ」
「嬉しいの? なんで?」
「挨拶というのはね、心の繋がりを確認する、素敵な、素敵な言葉なの。その言葉には、言葉以外の気持ちが含まれているのよ」
「……難しい」
首を傾げて、わかってる風な笑顔のお姉ちゃんへさらに尋ねてみる。
「お姉ちゃんも、その気持ち、みんながそう思うそんな気持ち、わかるの?」
「ええ、もちろん、私はそれを既に知っていますよ」
嬉しそうに笑って。
「あなたがね、ここへ帰ってくる度に『おかえり』って。そう言ってあげることが、そう言えることが、たまらなく嬉しいわ」
「そんなことが嬉しいの?」
「嬉しいの、すごくね」
「どうして?」
「どうして……だなんて、ばかね。当たり前でしょう? 可愛い妹が、あっちへふらふら、こっちへふらふら、いつ帰ってくるかもわからない、たった一人の肉親が、この場所を帰るべき家だと思ってくれている。こんなに嬉しいことはないわ」
そう言うお姉ちゃんの目じりには、うっすらと涙が浮かんでいた。
「お姉ちゃんは……」
「うん?」
「私が『ただいま』って言うと、嬉しい?」
「……ええ、もちろんそれも。たまらなく」
涙を浮かべて笑うお姉ちゃんは、綺麗だった。
「お姉ちゃん」
「なに? こいし」
ちょっと恥ずかしいけど、言っちゃおう。
「心配しなくても、私のおうちはここだよ。なにがあっても戻ってくる。……それこそ、無意識でもね」
「こいし……っ」
お姉ちゃんは、くしゃ、と顔を崩し、私に抱きついた。
痛いくらいに抱きしめられた感触は、これが愛ってやつなのかなぁと思わせてくれた。
「ねえ、お姉ちゃん」
すん、と鼻を鳴らしながら、お姉ちゃんは聞き返してくる。
「なぁに? こいし」
「おかえり……って、もう一度言って?」
「ええ……。おかえりなさい、こいし」
「……うん」
無意識の内に、私もお姉ちゃんをぎゅっと抱きしめていた。
ふよふよ。ふよふよ。
空を泳ぐ。
行く当てなどは無く、ただ風に身を任せるだけ。
気付けば私は里の中。
前に見えるは昨日と変わらぬ元気な寺小屋。
おはようございます! なんていう声がたくさん聞こえてきて。
それをきっかけに、私はぼんやりと昨日のことを思い返す。
「おかえりなさい」と微笑んでいたお姉ちゃん。
綺麗に笑うお姉ちゃん。
ああ、なるほど。
みなさんの気持ちがよくわかりました。
これはとても嬉しいなぁ。
これからは意識して挨拶をしよう。
そんなことを思いつつ、今日も私は渡り鳥。
終わり
私のことだったら嬉しいな。嬉しいかな? 別に嬉しくないや。
ふよふよ。ふよふよ。
空を泳ぐ。
行く当てなどは無く、ただ風に身を任せるだけ。
「わたしはふわふわでーす」
なんて言ってみたり。
「ほんとにふわふわですか?」
なんて聞いてみたり。
いつも通りの毎日を過ごしていた。
あっちへふらふら。
こっちへふらふら。
我ながら自由だなぁと思う。
幻想郷のほとんどの場所は回った。
みんなが気付いてないだけで、里にもよく行っている。
もし誰かとぶつかって、そこに誰もいなかったら、それは私。ごめんね?
というわけで、私は人間の里まで来ていた。
里は行き交う人々で賑わっている。
子どもたちなんて走っちゃったりしている。
つられて私も走ってみた。子どもはえぇ。
行き着いた先は寺子屋だった。どうやら子どもたちはこれから勉強をするらしい。
寺子屋の門も前で、綺麗なお姉さんが立っていた。流れるような銀色の髪に、青のワンピース。
この人は先生だ。
直感的にそう思った。
子どもの一人が叫ぶ。
「せんせー!」
ほらね。
「おはようございます!」
おはようございます?
「ああ、おはよう。虎吉は今日も元気だな」
「えへへ……」
せんせーと呼ばれたお姉さんは、虎吉くんの頭をぐりぐりと撫でた。
どっちも、すごく嬉しそうだった。
なんでだろう?
その後も、どんどん生徒は集まってくる。
「けーねせんせー! おはよー!」
「ああ、おはよう、次郎」
「おはようございます、先生」
「亜子も、おはよう」
おはようと言われるたびに、けーね先生は綺麗な笑顔をこぼしていく。そんな先生を見て、生徒も笑顔になって、部屋に入っていく。
何が嬉しいんだろう?
世の中、不思議がいっぱいだった。
なんとなく、私も部屋に入っていった。
部屋に入って少しすると、全員揃ったのか、けーね先生はみんなの前に立ち、ごほん、と咳払いをした。
「それでは、授業を始めます。ひなこ」
「はい」
ひなこと呼ばれた子は、すっ、と立ち上がり、姿勢を正して言った。
「きりーつ!」
その声にあわせて、他の生徒も立ち上がる。
「れー!」
よろしくお願いします!
みんなで声をあわせてそう言った。
「ちゃくせーき」
けーね先生は、一連の動作(らしいもの)を終えた生徒を見つめ、満足そうにうなずいた。
「うん、今日も一日頑張って勉強しような」
その後は普通に勉強を始めたので、私はつまらなくなって外に出た。
さてこれからどうしよう、と思ったところで。お腹がきゅうと鳴いた。
そういえば朝ごはんを食べていなかった。お食事処ってもう開いてるかな。
里の中心に向かって歩き出す。
てくてく。てくてく。
てふてふ。てふてふ。別に蝶々は飛んでませんでした。
少し歩くと、お食事処の看板が見えてきた。
よかった。開いてるみたい。開いてなくても関係ないけどね。
カラカラ。
扉を開いて適当な席に座る。
日も昇り切っていない時間のお食事処は、閑散としていた。
「すみませーん」
「はいはーい」
恰幅のいいおばちゃんが現れた!
「あれ? 誰かに呼ばれた気がしたんだけどねぇ。気のせいだったかね」
こいしの囁く攻撃! 痛いことはしませんけどね。
「おばちゃんおばちゃん。私、おなかすいた。おさかなが食べたい」
おばちゃんは不思議そうに首を傾げて戻っていった。
「あたしも年かね、はは! とりあえず川魚定食でも作ってくるかいね」
「ありがとー」
「……あれ? でもなんで川魚定食を作るんだけっけ?」
「別に気にしなくてもいいんじゃない?」
「ま、いっか」
「そーそー」
客もいないから、待つことはなかった。
目の前に置かれた定食に舌鼓を打つ。
熱々のご飯に、焼き魚、お味噌汁とお新香。
塩焼きにされたヤマメをほぐし、ご飯の上に乗せる。絶景だわ。ごそっとご飯を下から掴み、魚と一緒に口に入れる。塩味が利いていて、ご飯が進む。お味噌汁を啜る。薄めだけど、出汁の風味がとても良い。あっさりとした仕上がりだった。ポリポリと大根のお新香を食べる。うん、いい漬かり具合です。
カラカラ、と扉を開く音が聞こえてきた。
「おいっすー! 飯食いにきたぞー!」
おいっすー?
入ってきたのは、こってりと脂の乗った中年男性だった。夏の日差しを浴びて、肌は黒くなっている。黒豚ちゃんと呼ぼう。
「はいはい。お、頼ちゃんじゃないのさ! あんた、仕事はどうしたんだい?」
「おいおい、らいちゃんはやめてくれって。最近休みがなかったからよ、もらったんだ。朝からきゅーっとやるのもいい休日だと思ってさ」
「いい休日なもんかい。ちったぁ家族サービスってもんをしてやりなよ」
「次の休みにするさ」
「全く……。まぁいいや、ちょっと待ってな。あんたー! 頼ちゃんが来てるよー!」
おばちゃんの声を聞いて、奥から初老の男性が出てきた。
「おお! 頼朝の旦那じゃないかい! おはようさん。よく来なすったな」
おはようさん?
「よお! おやっさん! 久々さなぁ!」
よお?
「なんだいなんだい! 最近めっきり来なくなって寂しかったんだよ」
「仕事が忙しくってなぁ。たまの休日ってんで寄ったら、おやっさんのかみさんに叱られてたところさ」
「あっははは。そいつぁ拙かったねぇ。ま、ゆっくりしてってくれや。飲むだろ?」
「おやっさんが相手だと話が早くていいや」
そうして、黒豚ちゃんとおやっさんは仲良く談話していた。
ふむぅ……。
なにはともあれ、お腹は膨れました。
私はお金を置き、外に出た。
古明地こいし、食い逃げはいたしません。
里の大通りを歩く。
道行く人々は、知り合いらしき人に会ったら、みんな口々に「おはよう」や「よお」、「おっす」と言う。
なんのためにしているんだろう。
私にはわからなかった。
糖分が足りない。そう思った私は、果物屋さんで桃を一つ失敬した。間違えた。買いました。お金は置いてったもん。
がぶりと噛みつく。
「ぎゃあ!」
そんな声が聞こえてきそうなほど、いきいきとしたぷりぷりの果実だった。甘くておいしかった。
てくてく。てくてく。
おうちに向かって歩きます。
道端にお花が咲いていた。
「お花さんお花さん。こんにちは!」
お花は返事をしてくれませんでした。
「なるほどなるほど」
よくわからないや。
おうちにかーえろっと。
地底へと繋がる洞窟を進む。
広場では、今日もわいわいお祭り騒ぎが起こっていた。
宴会はまだ始まったばかりらしく、後から後から集まってきた。
その時、最初に言葉にするのは、やっぱり「よお」とか「やあ」という挨拶。
なんで挨拶ってするんだろう?
そんなことを考えながら宴会を眺めていたら、勇儀さんにちらっと見られた。あなどれぬ。
宴会に出る気分でもないし、今日はもうすることもないので、おうちに帰ります。
門を潜り、扉を開ける。廊下を進み、お姉ちゃんの部屋に入ってみる。いた。
「ただいま、お姉ちゃん」
お姉ちゃんは猫になったお燐の毛づくろいをしていた。なんとなく幸せそうに見える。お空はそれを羨ましそうに眺めてた。
「あら、こいし。おかえりなさい。外は楽しかった?」
「おかえりなさい?」
「ん?」
「今、お姉ちゃんおかえりなさいって言った」
「ええ、言ったけど……それがどうしたの?」
「なんでおかえりなさいって言ったの?」
お姉ちゃんも、お燐もお空も、きょとん、とした顔になっている。
「なんでって、あなたがただいまって言ったからよ」
およ。
「私、ただいまなんて言ったっけ?」
「言ったわよ。ね?」
お姉ちゃんはペットたちに確認する。二人とも、うんうん、とうなずいていた。
「お姉ちゃん、なんで挨拶ってするの?」
「えぇと……どういうことかしら」
私は、今日一日に起こったことをお姉ちゃんに話した。
「なるほど、そういうことだったのね」
「うん。私、なんでみんなが嬉しそうにしてるのかわからなくて」
「そう……」
お姉ちゃんは、私の頬にそっと手を伸ばしてきた。
「それはね? こいし」
「うん」
お姉ちゃんの手は温かかった。
「嬉しいからよ」
「嬉しいの? なんで?」
「挨拶というのはね、心の繋がりを確認する、素敵な、素敵な言葉なの。その言葉には、言葉以外の気持ちが含まれているのよ」
「……難しい」
首を傾げて、わかってる風な笑顔のお姉ちゃんへさらに尋ねてみる。
「お姉ちゃんも、その気持ち、みんながそう思うそんな気持ち、わかるの?」
「ええ、もちろん、私はそれを既に知っていますよ」
嬉しそうに笑って。
「あなたがね、ここへ帰ってくる度に『おかえり』って。そう言ってあげることが、そう言えることが、たまらなく嬉しいわ」
「そんなことが嬉しいの?」
「嬉しいの、すごくね」
「どうして?」
「どうして……だなんて、ばかね。当たり前でしょう? 可愛い妹が、あっちへふらふら、こっちへふらふら、いつ帰ってくるかもわからない、たった一人の肉親が、この場所を帰るべき家だと思ってくれている。こんなに嬉しいことはないわ」
そう言うお姉ちゃんの目じりには、うっすらと涙が浮かんでいた。
「お姉ちゃんは……」
「うん?」
「私が『ただいま』って言うと、嬉しい?」
「……ええ、もちろんそれも。たまらなく」
涙を浮かべて笑うお姉ちゃんは、綺麗だった。
「お姉ちゃん」
「なに? こいし」
ちょっと恥ずかしいけど、言っちゃおう。
「心配しなくても、私のおうちはここだよ。なにがあっても戻ってくる。……それこそ、無意識でもね」
「こいし……っ」
お姉ちゃんは、くしゃ、と顔を崩し、私に抱きついた。
痛いくらいに抱きしめられた感触は、これが愛ってやつなのかなぁと思わせてくれた。
「ねえ、お姉ちゃん」
すん、と鼻を鳴らしながら、お姉ちゃんは聞き返してくる。
「なぁに? こいし」
「おかえり……って、もう一度言って?」
「ええ……。おかえりなさい、こいし」
「……うん」
無意識の内に、私もお姉ちゃんをぎゅっと抱きしめていた。
ふよふよ。ふよふよ。
空を泳ぐ。
行く当てなどは無く、ただ風に身を任せるだけ。
気付けば私は里の中。
前に見えるは昨日と変わらぬ元気な寺小屋。
おはようございます! なんていう声がたくさん聞こえてきて。
それをきっかけに、私はぼんやりと昨日のことを思い返す。
「おかえりなさい」と微笑んでいたお姉ちゃん。
綺麗に笑うお姉ちゃん。
ああ、なるほど。
みなさんの気持ちがよくわかりました。
これはとても嬉しいなぁ。
これからは意識して挨拶をしよう。
そんなことを思いつつ、今日も私は渡り鳥。
終わり
こいしかわいいよ
いい話だなー
タグに反してほっこりな気分にされました。今後に期待。
ちょっとこいしちゃんにぶつかるために街中走り回ってきます(迷惑
娯楽室で上映されていた古明地こいしという少女の物語も私の嗜好にぴったりでした。
また近くに来る用事があったら泊らせて頂こうと思います。
それでは、「お世話になりました」
ホテル従業員である貴方も、優しいという心を持って、業務に臨んで下さい。
と言うわけで、古明地の妹の方に出会う為、町中を走り回ってきます。
ほのぼのですね~
見事にしてやられた気分だ。
次はタグ通りのホテル「不夜城レッド」の話をよろしく(違
\/ ● 、_ `ヽ ======
/ \( ● ● |つ
| X_入__ノ ミ そんなタグで俺様が釣られクマ――
、 (_/ ノ /⌒l
/\___ノ゙_/ / =====
〈 __ノ ====
\ \_ \
\___) \ ====== (´⌒
\ ___ \__ (´⌒;;(´⌒;;
\___)___)(´;;⌒ (´⌒;; ズザザザ
やっぱり挨拶って大切ですよね。
いいはなしだった。
タグもなかなかよく分からずおもしろかったです。
いいお話でした。また開店したらきますね
でも良い話だったから許してしまうのぜ
でも話は良かったよ!
けど話の内容はすごくよかったなぁ・・・挨拶こころがけないと
>塩焼きにされたヤマメ
…ゴクリ
挨拶って大切ですねっ。
それと、はじめの方に「こいし視点」であることを示しておくともっとよかったです
「こいしの囁く攻撃!」
ここでやっと「こいし視点」であることがわかるので、いきなりキャラが明らかにされて戸惑いました。ぬえかと思ってたので
感想下手なのでこれのみ失礼
綺麗な物語をありがとうございます。
タグは、創造的でとってもいいとおもいます。一部であらぬ誤解をうけているようですが。
けどタグがすごく邪魔なのも事実。
間を取ってこのへんで
燐と空が空気なのは仕様ですね!
わかります!
普段意識せずに何気なく交わしている挨拶も、そこに少しの気持ちを込めればさらに素敵なものになりそうです。
そんな言われてみると結構当たり前と言えば当たり前だけど、忘れがちな大切な事を思い出させていただきました。
ありがとうございました。
こいしちゃんも無意識に挨拶の大切さを理解していたからこそ、「ただいま」が出たんでしょうねぇ
いい話をありがとう
なぜ挨拶をするのか、その意味を知らないという状態は、今となっては私達には分からないものですが、この作品で色々考えさせられました。
それでも十分、姉妹の気持ちは伝わってくるから
前半のこいしの独り歩きはかわいらしくて、おもしろかったよ