夏の暑く寝苦しい夜のことだった。
鴉天狗の射命丸文は、自分の風を操る能力を駆使して何とか寝付こうと格闘していた。
睡眠を邪魔しない程度の風が自分の周りだけに吹き、当然涼しいことは涼しいのだが、まだいま一つ眠るには足りない。
なんというか、そう、羽が蒸れるのだ。
(あっつー。これじゃ明日の仕事に影響出るって)
幻想郷のブン屋たる文にとって、仕事とは幻想郷中を飛び回ってネタを集めることだ。
そしていつだって幻想郷最速のスピードを出すには、睡眠と食事をしっかりとり、規則正しく生活することが必要。
新聞記者のイロハと美しさを保つためのコツとは通じる所がある、というのが文の自説だが、どうだか。
とにかく眠らないと、と思い文は、普段とは違う体勢を試してみることにした。
まずうつぶせ。
(う……。胸が苦しい)
それなりに大きい、と自負している、『それ』が自己主張して苦しかった。
大きいのもいいことばかりではない、と言ってやりたいと思ったことが何度あったことか。今度号外出して配ってやろうか。
仕方ないので横を向いてみる。
(これならまあ。羽も涼しいし)
いつもと違う違和感はぬぐえないが、とにかく今は眠ることが重要だ、と考えて目を閉じる。
こういうときに限って兎に角がはえたような生物が頭の中でぐるぐる回ったりして邪魔なのだが、どうにかならないだろうか。
助けてえーりん。あ、えーりんは兎の味方か。
大概こういう場合に一番睡眠の邪魔となっているのは自分の考えだ。
文の場合も御多分に洩れず、頭を動かすのをやめてみると案外すぐに眠気が降りてきて、やっと睡眠に入ることができるのだった。
さわやかな風を受けながら、やっと勝ち得た睡眠は幸せなものになる、はずだったのだが。
閻魔、四季映姫=ヤマザナドゥがこちらを見ていた。
しかもその視線は文の胸元に向けられているように見える。
さらにその顔は怒りに満ちているようで。
その上その口からはぶつぶつと恨み言が聞こえてくる気すらする。
これは悪夢に違いない、と文は思った。
違和感を抱いたままで寝たから変な夢をみるのだろうか。
それとも寝る前に胸のことなど、それも少し大きめの胸のことなど考えたから罰が当たったのだろうか。
閻魔の癖に幼さの残るその顔は威厳こそかもし出さないものの、それでも怒り顔というのは対面していて気まずいものがある。
「ちょっと、失礼なことを考えていませんか」
閻魔の発した言葉に、文は少なからず驚いた。
確かに幼さが残る、だの、体型には特にそれが顕著である、だの考えたものの――あれ?これは今考えたんだっけ……。まあどっちでもいいか、真実だし。――文はそれを口にしてはいないはずである。
それを心を読んで指摘するなど、そんなこと夢の中でもあってたまるか。というかむしろあったら私がこまる。
「聞こえてますよ?口を慎みなさい」
ああ、あってしまったか。ピンク色の少女がアイデンティティを奪われてすすり泣いてる気配がする。
そんなことを考える文を尻目に、閻魔の表情や口調はいつの間にか、どうやら仕事モードに入ったらしいそれだった。
ということは今から説教聴かされるのかなあ。正直めんど……もとい、ありがたいなあ。ていうか私まだ死んでないわよね?熱中症で死亡とか格好悪いからやめてよ?
「その点に関しては大丈夫です。今日はただ忠告したいことがあっただけですから。あと、先に言っておきますが……」
一度言葉を切って、続けた。
「胸のことには触れるな」
文の動きが瞬間的に停止した。
思わず直立不動の体勢になりそうな、威厳たっぷりの言葉だった。
その威厳をもっと仕事の方で活かせなかったのだろうか。正直説教がこれより怖いとは思えないんだけど。
「では、忠告を始めますが……」
考えてからヤバイかとも思ったが、どうやらスルーしてくれたようで文はほっと息を吐く。
大体、私は日々ネタを求めて嗅ぎまわるブン屋なのだ。目の前で起きている出来事について何も考えるな、というのは酷なことだ。
ギロリ、と睨まれる。
静かにしてちゃんと聞け、ということらしい。
でも本当に思考のコントロールというのは難しい。
どうしたら考え事せずにいられるんだろ?唱えるのかな。無!無!無!無!!
まあ努力は認める。そう言いたげな目つきをした閻魔が、ありがたい説教をやっと始めてくれた。
「大体あなたは嘘をつきすぎる。それも一度や二度というのではない。同じ嘘を日に何度もつき、多くの人に迷惑をかけている。その悪癖を止めなさい。さもなくば、死後の地獄行きは免れないでしょう」
無!無!とか唱えながらも一応真面目に聞いた文に、閻魔は一気に言い切った。
そしてやっと考える時間が与えられ、言われた言葉の意味が頭に浸透してくる。
しかし、理解してみると閻魔の言葉は不可解だった。
嘘?しかも一日に何度も?そんな、私嘘なんて……。
そんな心のなかのつぶやきも、閻魔には届いたようで。
「はあ。まさかとは思いましたが、自分の嘘にも気づいていないのですか、あなたは。ではまず己の吐いた嘘を見極め、その言葉の非道さを噛みしめなさい。それがあなたにできる善行です」
嘘を見極めるだなんて、そんな、見当もつかないのに!
捨てられた鴉のような目で閻魔を見上げ、哀れみの情を誘ってみる作戦はどうかとも思ったがやめた。そもそも誰も鴉なんか飼わない。
と、気づけば閻魔は再び仕事モードを解除し、また文の胸の辺りに羨望の眼差しを送っていた。
そんなに大きいかな、これ。幻想郷の破格の妖怪たちに混ざってるとそんな自信も無くなってくるんだけど。
そう思い、ちょっと自分のそれを手で持ち上げてみる。ふむ、なかなか……。
しまった、と思ったときにはもう遅かった。
視覚情報は光の速度で、思考内容はそれより早く閻魔に伝わる。
幻想郷最速といえど、その伝わる以前に逃げ出すことは出来ない。
伝わった情報は閻魔に深刻なダメージを与え、その反動として怒りが文へ向かってほとばしる。
……というか、私の胸の方見てた閻魔の自業自得じゃ?
反論は、怒りで肩を震わす閻魔には聞き入れてもらえなかった。
どうやら私は、黒、らしい。
夢の中で閻魔の怒りに触れるとどうなるのか、ただいま身を持って実験中です。すごく怖い。
「あなた、さっきから聞いてると地獄のことをなめているようですがね」
また言葉を切って顔を上げる。蛇に睨まれた蛙のように、羽先ひとつ動かせない。
「本当の地獄を教えてあげましょうか……?」
それから文が見た光景は、正しく地獄絵図の名にふさわしいものだった。
恐ろしい地獄の片鱗を味わったぜ!なんて軽いノリで後から振り返ったりはするものの、実際は真実から目を背けているだけなのかもしれない。
魔理沙口調になるのがその証拠だ。
とにもかくにも、この時文は夢の中で意識を失い、無意識の中へと落ちていった。
ハッと驚いて目が覚め、飛び起きる。
とりあえず今のが夢であったことを確認し安堵したものの、寝起きは最悪だった。
寝汗もひどい。半分暑さのせい、半分地獄絵図のせいだろう。うー、思い出したくもない。
シャワーでも浴びてすっきりしようかとも思ったが、服に手をかけた時点でやめた。
いやでも目に入る膨らみが、悪夢を思い出させてしまうだろうから。
今の文には、『それ』には悪夢が詰まっているとしか思えなかった。
そうとも。たくさん詰まっていますともさ。半ばやけくそで思う。
今ここには閻魔はいない。その上現実世界なのだから、そう簡単に心を読まれることもあるまい。
……好きなこと考え放題だイヤッホーウ!
どうしても悪夢から逃れたくてハイになっている心を静めつつ、あの夢はなんだったのだろうか、考えてみる。
(中国の故事では、お偉い方が夢の中に出てきて忠言を授ける、ってのよくあるけど、まさかわが身で体験するとはねえ)
我知らずため息が出た。
夢に重荷を背負わされた上、こんな朝早く――日もまだでていないようだ――に起こされたから、当然であろう。
(それにしても、一日に同じ嘘をなんども、ねえ)
何度でも言うし、誓っても良いが、文には全く心当たりが無かった。
世間一般に彼女の発行する『文々。新聞』は嘘っぱちだらけの新聞として通っていた。
それはこの新聞の怪しげなネーミング――私は結構好きなんだけど――のせいかもしれないし、ゴシップ記事が堂々と一面をかざるその性格故かもしれない。
確かに文は天狗内に流通する眉唾物の情報を集め、ひねくれた幻想郷の住人に取材を繰り返すことで記事を作っていたが、嘘を書き並べたわけでは決してない。
新聞には自分が調べ得た限りの真実だけを並べる。それが千年以上を生きた天狗としての、文の誇りであり矜持であったのだ。
では文は記事にどう手を加えるかというと、取材相手の曖昧な表現をすこーし助長して確定的な表現にしてみたり、文章の緩急を普通より若干はっきりつけて読ませたい文章ばかりを読者に突きつけたりすることだけである。
(ああ、自分で考えてもあれが本当に新聞なのか、怪しくなってきたわ……)
以前他の天狗に、それは新聞というより雑誌に近いのではないか、と指摘されたことがある。
そのときは返す言葉もみつからなかったが、今ならぐうの音もでない。
(由々しき事態ね。新聞としてのアイデンティティを保たないと……!)
考えがわき道に逸れたが、今は嘘の話である。
大体一人で考えていて思考が寄り道するようなときは、そのまま考え続けていても無益なことが多い。
これは新聞の草稿段階、何をどう書くべきか迷っているときも同じだから良く知っている。
そうであるならば。
(人に聞くしかないってことね。善行つむのも大変だわ)
大変だ、などと考えつつも、文はテキパキと外出の用意を進めた。
そもそもが新聞発刊前の大詰め状態まで、ネタを集めまとめるまでの段階では活動的な彼女である。
今日も自分の嘘を見つけるついでにネタでも探せばいいや、などと考えていた。
寝巻きから着替えて見慣れた私服姿になる。
帽子を被り、下駄を履いたらいつもの幻想ブン屋、射命丸文だ。
そして玄関を飛び出す頃には東の空も明るくなり始め、文の頭の中に悪夢の恐怖はもう残っていなかった。
(最初に発見した人には、あややややとか言いながら目の前に降り立つ、怖いくらいにいつも通りのサービスで接してあげようっと)
そんなことを考えつつ、鴉天狗が一羽、山の中腹から飛び立つのだった。
「第一村人発見!」
自分の家を飛び立った文は、見張りの哨戒天狗以外に起きているもののいなさそうな妖怪の山から離れ、誰か早起きしている人はいないか探していた。
だがそうして見つけた一人目は、想像していた場所よりももっと目立つ所にいて、単刀直入に言うと、箒で空を飛んでいた。
以前の幻想郷最速、霧雨魔理沙だった。
博麗神社に向かうのか、それ以外なのかはわからないが、いつも通りのスピードで幻想郷の空を飛んでいた。
山から離れた途端に空中で見つけたその人影に、思わず近寄って普通にあいさつしそうになったが、いきなり当初の予定を変更するのもどうかと考え直しこっそりと近寄った。
そうしないと自分が嘘をついているように感じたのだ。嘘に過敏になっている。
静かに上から降り立つ。
「あやややや、幻想郷で二番目に早い霧雨魔理沙さんじゃないですか」
「うわ、ちょっ!あぶな!」
いつも通り投げかけられた皮肉に、しかし魔理沙は返す余裕を持たなかった。
突然箒の上に着地されれば、バランスは崩れるし視界は遮られるしで平静を保てないのも当然である。
魔理沙はただの普通の魔法使いなのだから。
「こら、どけって。一緒に墜落したいか?」
「そんなこと言って。私もあなたもそんなもの無しでも飛べるでしょうに」
「これがあるほうが魔法使いらしいんだよ!いいから早くしないと……」
ミニ八卦炉を向けられて渋々箒の上から降りる。
こんな至近距離からレーザーを打たれてはたまったもんではないのだ。
「ふう、やれやれだぜ……。で、何か用か?」
「用もなしに尋ねて来る女は嫌い……?」
「……それ言うために箒に落ちてきたなら、撃つ」
「いやいややめて下さい。冗談ですから。怖いからおろしてください、ソレ」
あれ?おっかしーな。自分では出来る限り可愛く言ったつもりなんだけど。
多分魔理沙さんにはそういう属性がない、ということでしょうね。
駄目だなあ、最近調べれば調べるほどネタになりそうなことが減っていって。
「で?ほんとになんなんだ、一体。私はこう見えて結構忙しいんだぜ?」
こういう会話の間にも二人はかなりの高速で移動している。
取材相手には礼儀正しく、手を煩わせないように、がモットーですからね、と考え文も冗談をやめた。
真剣な顔に戻って聞いてみる。
「ええ、そのことなんですが。最近私からあなたに嘘をついたことってありましたっけ?」
「なんだあその質問?第一嘘なんて、そんなもんお前はいつだって……ってあれ?」
言ってから考え始めるが、どうやら文が嘘をついた記憶は簡単には見つからないようだった。
誰と話していてもそうなのだ。
世間での射命丸文像がどのようなものかは知らないが、嘘をつく生き物だ、という先入観は捨てて欲しいものだ。
文自身の沽券にも関わることであるし、文々。新聞の売り上げがその先入観により被害を被っている事実は否定できまい。
(私の新聞に真実を認める人がもっと増えてくれればいいのですが……)
射命丸文の目下にして永遠の悩みだった。
このように我が身の潔白を信じていた文だったが、魔理沙の反応は少し予想と異なるものだった。
「ああ、そうだ思い出した。ほらやっぱり嘘をついてるじゃないか、それも毎日同じ様なことで」
やっと思い当たった、という風に晴れ晴れとした顔でそう告げた魔理沙に、文が感じたのは夢の中と同じ驚愕の気持ちだった。
同時に焦りも生まれてきた。閻魔の言うように、自分が知らないうちに毎日ホイホイ嘘をついているというのならば、どうにかしてそれを改善しなければならない。
「そ、そうですか?自分ではついていないつもりなんですが……。何がいけないのか、教えてくれませんか?」
「まあ、教えてもいいけどな。でも、私よりもお前にそれを教えてやりたそうな奴がいたから、私はそいつにその役目を託そうか」
「はあ?なんですかそれ……。じゃあせめてそれが誰なのかくらい教えてくれませんか?」
「さあな。ご自慢の『幻想郷最速』の羽で飛び回って探せばいいんじゃないか?せいぜい頑張れよ」
ずいぶんと前の皮肉に返事が返ってくる。幻想郷の住人は相手の弱点を把握してそこを重点的に攻めるのがうまいのかもしれない。
結局、自分が確かに嘘をついている、という事実を再確認しただけで、重要なところは全てはぐらかされてしまった。
そして何も答えを与えないまま、じゃあな、といって去ろうとする魔理沙の姿に、あと一つ聞き忘れたことを思い出して声をかける。
「あ、魔理沙さん!」
「どうした?行かないで、とか言われてもお断りだぜ。愛しの霊夢が待ってるんだ」
「いえ、言いませんが。私がその嘘で周囲に迷惑をかけている、と聞いているんですが、それは本当ですか?」
「迷惑、ねえ。まあ確かにそのせいで厄介なことになってる人たちはいるかもな。でも、私にとってはそれ、結構ありがたい嘘だったりするんだぜ?まあ気にしすぎないことだな」
気にするな、と言われてもねえ。
自分が何をしてしまっているのかわからないのに、気にならないほうが不思議でしょうが。
魔理沙の言葉は全くわけがわからなかったが、口ぶりからするにそこまで深刻な迷惑を与える類のものでもなさそうなので一安心だ。
余裕を取り戻した文はもうはるか遠くに見える魔理沙の後を追いかけ、追い抜かしてこう言い放ってやった。
「魔理沙さん、ありがとうございました。霊夢さんとお幸せに!」
いやはや。言葉のあやとはいえ私の脚色しだいで面白い記事の書けそうなことを言ってくれたものだ。
このゴシップが華麗な言い回しで一面を飾った日には、その修辞の非凡な才能を称え、『ことのはの文』として私を崇めさせようかしらん。
その後、文は幻想郷中あらゆる場所――ただし熱々で近寄れない博麗神社を除く――を巡って同じようなやり取りを繰り返したが、収穫は似たようなものだった。
ほとんどの者が、私の嘘を認めるものの、それが何かをはぐらかしてしまう。
それは、別の『誰か』が私に伝えるべきものだから、と。
その『誰か』も、尋ねるたびにその相手が『誰か』なのではないかと期待し、そして落胆する繰り返しで結局誰だかわからなかった。
また、その嘘で周りにかけている迷惑についてもわかったことはあまりなかった。
驚いたことに、魔理沙以外にもかなり多くの人妖が、その嘘に恩恵を受けた、とのことだったが、やはりその意味はわからない。
さらに意味のわからないこととして、大妖怪八雲紫のこんな発言があった。
曰く、
――私自身は何の利害も無かったけれど、そうね。外の世界の人間には迷惑している人が多いかしら。
幻想郷の外の世界。
そこは文にとっては全く無縁な場所で、いままで行ったことは愚か興味を持ったことすらない。
そんなところにどうやって迷惑をかけられるというのか。
少し考えてあまりの道理の立たなさに頭が痛くなった文は、挨拶もそこそこに紫の前を立ち去ってしまった。
紫は文が悩む様子をみて大いに楽しんでいる様子だった。
紫との問答の後は本当に全く新情報が得られず、時間が過ぎていくのを感じながら辛い思いで同じ質問を繰り返すのだった。
かくして文は、西日の強い中を重い体をひきずり、山へ向かって飛んでいた。
かけた時間の割りに得られた情報が少なく、一日を無駄にしたのではないかという思いでもう限界だった。
(うう……。あんまりネタも集められなかったしなあ)
ここ二週間ばかりネタ不足のせいで新聞が発行できていない。
スランプというやつだった。
そろそろ何とかせねばと思うのだが気が焦るばかりで、一向に良いネタの見つからない日が続いていた。
そんな中、今日の嘘つき騒動でいっそう新聞にかまけていられない状態が続きそうだった。
そう辛い思いで帰路をたどる文に追い討ちをかけるように、後ろから今一番聞きたくない声が聞こえた。
「あら、誰かと思えば写メール文じゃない。ご機嫌いかが?」
「しゃ・め・い・ま・るです!写メールはあなたのことでしょうが。相変わらずね、ほたては」
「そっちこそ!わざとらしい間違いしなくていいってば」
振り返ると、いや、振り返らずとも小憎らしい言い回しと声とでわかったが、文のことをライバル視している可愛い後輩、姫海棠はたてであった。
ちなみに『可愛い』というのは『後輩』につながる枕詞のようなもので、深い意味は無い。あったとしても皮肉。
「私はともかく、あなたは元気そうですね」
「そりゃそうよ。だって今日は面白いネタ見つけたんだから。神社で巫女と魔法使いが面白いことやっててね?……っと、ここから先は企業秘密だから話さないわよ」
「誰がはたてなんかにネタをせびるもんですか」
あーやられた。魔理沙と霊夢のネタに気づかれたか。こりゃ新聞にまとめるのははたてのほうが早そうね。
と、なるべく新聞記者らしく悔しがってみようとしたが、今はやはりどうにも新聞のことに関心が持てなかった。
今は自分の嘘のことだ。
そう思い直すと、新聞関係で敵対しているはたてへの対抗意識も薄れ、この子にそのことについて聞いてみるのも良いかもしれない、と思えた。
どうせ今日最後のチャンスだ。あきらめずに挑戦してみるもよかろう。
「で、あんたどうしたのよ。本当に元気ないわよ?」
「そのことなんですが……」
改めて考えてみても、とても後輩の口ぶりではない気がしたが、そんな口調ながら自分を心配してくれている様子が嬉しかった。
文は朝の閻魔の夢のことから、それを見て今日一日自分の嘘が何か聞きまわったことまでを簡潔に話した。
「ほえー。そんなことがねえ。んで、文はそれがすごく気になって一日飛び回っていた、と。案外可愛い所あるんじゃん?」
「……からかうなら承知しませんよ。それで、はたては私の嘘に心当たりありませんか?」
「もちろんあるよ。毎日聞かされて閉口してたんだから」
即答されて少し目を丸くするが、大事なのはここからだ。
はたては果たして私にそれを教えてくれる『誰か』なのかどうか。
「それでは、私がどんな嘘をついているのか、教えてくれませんか?」
「いいよ。いつあんたに指摘してやろうか、ずっとうずうずしてたんだから!」
予想外の一致。正解。
一瞬驚き、それからやっと報われたことに喜んだ文だったが、続くはたての言葉には納得し、嘘を認めざるを得なかった。
「だってあんた、『幻想郷最速』を毎日アピールしてるわりに、フィルム巻き取るの私のほうが速いじゃん」
持ってけドロボー!百点だ!
決して乙女の尊厳をたゆんたゆんさせながら写真撮影する彼女を想像して
アホ面を浮かべた瞬間にピチューンされたのが原因ではありません、誤解なきように。
それでは、『初投稿おめでとうございます、面白かったですよ』
とかつぶやきながら私も懲りずに文を選択します。うぉぉ、妄想退散!
コメ返しをば。
>1、3、22
楽しんでいただけたなら幸いです。
いい話も能力があれば書いてみたいんですがねえ……
>2
どう見ても携帯ですが、どこにも携帯と書いていないのがミソでしょうか。
……どう見ても携帯ですが。
>コチドリさん
妄想は弾幕の敵ですよね~
お宅の文さんがひとつでも多くの記事を書けるよう祈っています。
>16、18
あれはいいものだよな。なあ、ブラザー。
してやったり(ニヤリ
なかなか気持ちがいいものですな
確かに多くの人妖にとってはありがたい
そして外の人間にとっては迷惑と
完全に一本取られました