ひどく悲しい、夢を見た。
その世界には私とお姉ちゃんがいて、他には誰もいないのだと思えるくらい、誰の存在も視界に入らないくらい、世界は私とお姉ちゃんで完結していた。そうして私はお姉ちゃんが大好きで大好きで大好きだった。お姉ちゃんがいればなんにも要らないと本気で思えて、私がお姉ちゃんにしてあげられる事はなんでもしたいと本気で思っていた。
恋していた。
私はお姉ちゃんに恋をしていた。
でも実らなかった。
お姉ちゃんは私をこれっぽちも愛してくれなくて、これっぽちも想ってくれなくて、これっぽちも必要としてくれない。それでいて平気で嘘をついて、私を愛して想って必要としているふりをするのだ。私はそれがどうしようもなくつらくて、どうにもならないくらい苦しくて、どうでもよくなるくらい絶望した。
そうして私はお姉ちゃんを殺して、その後自殺する。
そんな夢だった。そんなおとぎ話で、そんな並行世界だった。
「そんな夢を見たのよ」
「それは、また、酷い夢を見ましたね」
「眼が覚めた時、あんまりにも悲しくて泣いちゃったわ」
「あらら」
「本当よ」
私はさめざめと泣くポーズを取って、少し大袈裟に表現した。
でも実際泣いてしまったのは本当で、飛び上がるようにベッドから起きたら、自然とぼろぼろ零れていたのだ。最悪の目覚めだった。私はただただ涙を流しながら、呆然としてしばらくそこから動けなかった。それくらい、私にとっては緊迫していて切実な、リアリティのあり過ぎる夢だった。もはや夢とさえ思えなかった。どこかここではない世界で、私とお姉ちゃんがあんな末路を辿ったのを、こちらの私が偶然覗き見てしまったのではなかろうか。あれはもしかしたら、私とお姉ちゃんが辿る筈の運命だったのではなかろうか。ここにいる私は運良くあの未来を回避出来ただけで、こっちが夢であっちが現実だったのではなかろうか。そんな事をつらつらと考えたら一層侘しくなってまた泣いた。パジャマの襟元が濡れてぐずぐずになった頃、「そうだ、あれは夢だったのよ」と思い至る事が出来て、私はようやく現実に還ってこれた。
私の朝はそうして潰れた。昼になってやっとお姉ちゃんに話す勇気が持てたのだった。
「貴方は一体、私にどんな酷い印象を、抱いているのでしょうかね」
そう言ってくすくす笑うお姉ちゃんは、夢の話を真面目に取り合ってくれないらしかった。
困ったように笑うお姉ちゃんの横顔はとても綺麗だ。あの夢でも、そんな風に笑ってくれた。だからこそ怖い。あまりにも同じ過ぎる。あの夢と、同じ過ぎる。
「しかし、こいし。夢は夢、ですよ。現実は現実。境界は非常にはっきりしています。とはいえ、こちらが現実である確証は、実は非常に脆いものである訳ですが」
「判ってるよ。あれは確かに夢だった。でもさ、なんか、私じゃない【私】とお姉ちゃんじゃない【お姉ちゃん】が、あそこで確かにいなくなったんだよ。死んじゃったんだよ。それが凄く悲しかった。死ぬって悲しい事なんだよ。こんなに本気で悲しいって感じた事なかったのに、どうしてだろう、あれを単なる夢だと思えないの」
「ふむ」
お姉ちゃんは難しい顔をしてしばらく黙り、何か言おうと思わせぶりな仕草をして止め、また黙った。
「お祭に行きましょう」
「は?」
「確か、近々地底で地上に似せてお祭をする、と、勇儀から聞いたような気がします。行きましょう。かき氷が食べたい気がしてきました」
「いやいやいや、脈絡ってものが無さ過ぎるでしょう、お姉ちゃん」
「そんなものは必要無いのです。さて、いつだったかしら」
「自分勝手だなぁ」
「こいしに言われたくはありません。それとも、私と行くのは、御厭かな」
「まさか。行こう、行こう」
普段は敬語交じりに話すお姉ちゃんがふいに零すその砕けた言い方が大好きで、耳がとろける心地がする。
大丈夫。私のお姉ちゃんはここにいる。
でも、本当に私を愛してくれている?
◆
夢の中の私は、お姉ちゃんに問いかける。
――私の事、好き?
夢の中のお姉ちゃんは、とびきり穏やかな笑顔で答える。
――勿論、世界で一番好きですよ。
それが本当に本当だったなら、あの悲しい夢は悲しくならずに済んだのだ。お姉ちゃんは平気で嘘をつく。私は平気で嘘を信じる。
眼の前が真っ暗になるような、完結した世界だった。あそこには私とお姉ちゃんしかいなかった。怖いくらいふたりきりで、そしてそのふたりはどうしようもなく、遠い所にいたんだろう。近い所にいるふりをして、必死で手をかざそうとしたのだろう。幸せになりたくて、幸せになれなかった私。可哀相な古明地こいし。
「こいし、」
「あ、はい」
「どうしたんです。ぼんやりして」
「あぁ、……ごめん。夢の事また思い出してた」
「最近そればかりですね。そんな様では、夢が現実になってしまいますよ」
「それはやだなぁ」
「冗談ですよ。そんな顔をしないで」
ふわふわ、帽子の上から頭を撫でられる感触。帽子を脱いで来れば良かった。
祭という事で、地底は随分賑わっていた。祭に行くのであろう親子やらカップルやらが通り過ぎ、それを橋姫が凄まじい眼で見つめているのを見つけた。
「精が出ますね、パルスィ」
お姉ちゃんがにこやかに挨拶した。そうだ、このひと笑顔でひどい事言うひとだった。
「あんたも姉妹でお祭かしら? 妹はともかく、あんたは絶対出て来ないと思ってたけど。地霊殿の大妖怪殿まで出張ってくるなんて、地底も随分陽気になったものね」
「陰気であるよりは、良いでしょうに。まぁ、貴方には少々眼に毒かもしれませんな。私もですけれど。この第三の眼に毒ですよ、ひとごみは」
「だったら、引き籠りなあんたが祭なんて出掛けようと思った訳?」
「妹が可愛いので」
「はぁ?」
「怖い夢を見て、夜眠るのが怖いと言うものですから」
「ちょっ、お姉ちゃん」
完全に嘘を言っている訳ではないが、何か引っ掛かる言い方である。
「それと祭に行く事とに因果関係が見当たらないわ」
「遊び疲れて眠れば、悪い夢も見ないでしょうに」
理由、今知った。
「たまには私も姉らしい事をせねば、と、思いましてね」
お姉ちゃんは会釈した後、意地の悪い笑顔で橋姫に手を振って別れた。橋姫が祭に行く所なんて想像出来ないが、あそこでああして嫉妬に駆られるだけの半日とはなんとも物悲しいものだ。余計で大きなお世話だろうが、後でりんご飴のひとつでも買って渡そうかしらん。
りんご飴?
そういえば、夢の中でりんご飴を食べていた気がする。細部はあまり思い出せない。それがどうしたと思っても、夢をまた思い出してしまったのが嫌だった。
「夢のメカニズムは不明な点が多いのですが、心理分析や占いにそれが使用される事例は割と知られた事であります。何にせよ、当人の心というものに深く関係しているのは、間違いが無さそうですね」
急にお姉ちゃんが喋り出した。本当に脈絡も何もあったものではないが、丁度夢の事を思い出していた私はどきっとした。
「そして夢は眠っている時に見るものですから、無意識の領分であります。無意識、貴方の御得意ですね」
「まぁ、そうだけど」
「私たちよりずっと、夢というものに深く関わっている貴方だから、そのように深刻に考えるのやも、しれませんね」
「そうかなぁ」
「明日は、素敵な夢が見られると良いですね」
「うん」
私は短く答えたが、それは心底本気の頷きだった。もうあんな夢を見るのは御免だった。今日はどんな夢を見るのだろう。幸せな夢が良い。幸せ過ぎてうんざりするような、そんな夢を焦がれた。
「お姉ちゃんが、私を愛してくれる夢が良い」
お姉ちゃんは、えぇ、と呟いた。その横顔は微笑んでいなかった。背筋がひやっとするくらい、ほの暗い眼をしている。透き通っていて、硝子玉のように。その瞳は何か冷たくて暗いものを捉えていた。鷲掴みにして、離すまいとしていた。
そうだ。このひとは、時々こんな眼をする。空間に溶けるように沈み込んで、こんな鋭い眼でどこでもないどこかを睨むのだ。こんな時、このひとは何も考えていない。何も考えないで、もっと根源的な、得体の知れないものを感じている。
私は眼を逸らして地面を見た。ふたりの歩幅が同じな事に気付く。私の背は低くて、お姉ちゃんは反して高い。歩幅が偶然同じにはならないだろう。合わせてくれているのだろうか。
――たまには私も姉らしい事をせねば。
お姉ちゃんはさっき、橋姫にこう言ったけれど。
どこかに連れて行ってくれるとか何かを買ってくれるとか、そういう眼に見えて大きな何かじゃなくて、こういう小さくて些細でちょっと見つけられないような何気ない所に、お姉ちゃんらしさを感じる事がよくある。きっと本人だってわざわざ考えてやっている訳ではないのだろう。それは無意識に、膨大な私たちの足跡の中で、ゆっくりと形成されていった所作なのだ。何を言う訳でもなく、何を感じる訳でもなく。極限までさりげなく自然に、茫洋としてそこにある。
「お姉ちゃんさ、」
――私の事、好き?
「どうしました」
「ううん、なんでもないの」
それを聞くのは、少し怖かった。返ってくる答えを、私は知っているのだから。
それからしばらく無言で歩くと、次第に喧騒が大きくなっていった。甘いようなしょっぱいような、なんとも表現の出来ない祭のにおいがした。
「あぁ、浴衣を着て来れば良かった。いや、私は着ずとも良いのですが。こいしの浴衣姿を見たかった、口惜しい」
「あるの? 浴衣」
「ありますよ。貴方に来てもらいたい服は、なんでもあります」
「なんかその言い方引っ掛かるなぁ。ラインナップは聞かないでおくね」
「メイド服とか、チャイナドレスとか、セーラーとか、ケーシーとか」
「言わなくて良いってばッ。しかも最後がちょっとマイナーだし」
「通常の白衣は体型が隠れるので好きじゃありません」
「嗜好を聞いてるんじゃないし」
「だったら何を聞きたいのです? 私についてなんでも教えて差し上げましょう」
「スリーサイズ」
「言っても良いですが、悲しくなるだけですよ」
「私が?」
「いえ、私がです」
重なるひとの声の中で、遠くからお囃子が聴こえる。出店が並び、子どもたちが小銭を握り締めて眼を輝かせている。単なる雑音が、この時だけは心地良い。
「好きに遊びなさい。それなりに持ってきていますから、こんな日くらい、何も考えず使って御覧なさい」
周りに掻き消されないよう少し強く大きめの声で、お姉ちゃんはそう言った。「見つけられなくなるから、能力使って遊んだりはしないで下さいね」、と付け足して。
「んじゃあ、お姉ちゃんのお財布すっからかんにしちゃおうかな」
「どうぞ、お構い無く」
あんまりにも素直に即答するものだから、ちょっと面食らってお姉ちゃんを見た。
「公務員を舐めてはいけません。私の財布を、祭如きですっからかんにしようというのが間違いですよ」
「そっか。じゃあ本当に気にしないでいこう」
そこでお姉ちゃんは、ちらと自分の第三の瞳を見た。くるり、身を翻し、
「しかし、私がいては子どもらが逃げてしまうやもしれませんね。私はどこか人気の無い場所で、」
離れようとするその腕を、思わず本気で掴んだ。
「やだよ」
雑音は、全部聴こえなかった。私の声だけが確かにあった。
「一緒じゃないと、楽しくないよ」
どこかに行ったりしないで欲しい。ひとりにしないで欲しい。
何をして欲しい訳じゃない。本当はお金だって要らないくらいだ。見て回るだけでも充分満足できる。ただ、どうしても、隣にはお姉ちゃんがいないといけないだけだ。
「判りました。だから、そんな真剣な顔をしないで下さい。びっくりするなぁ、もう」
言われて、掴んでいた腕を放した。自分でも驚くくらい、力を篭めていた事に気付いた。
「あ、ごめん」
「いえ。じゃあ、何から見て回りましょうか?」
一通り回り終わる頃にはすっかり夜になっていた。来たのは夕方だったのに、時間の流れが異様に早く思えた。私はもっぱら食べ物を売っている出店を物色したが、お姉ちゃんはかき氷をひとつ食べたきりどれも食べないで、狐面をひとつ買い、それを始終被っていた。顔を隠しているのか、それにしたって第三の眼が隠れていなければなんの意味も無いと思うが、とりあえず気に入っているらしく、可愛らしかったので黙っておいた。
「こいし」
狐面に話しかけられた。いやお姉ちゃんだ。声がくぐもっていて変質者っぽい。
「花火が上がるそうですよ」
「そうなんだ。見ようよ」
「どうやら穴場なるものが存在するようです。行きましょう」
「ほほぉ」
こういう時はちょっとだけ、心を読む能力も役に立って良いかも、と思う。
ぞろぞろと流れて行くひとごみに逆らって、お姉ちゃんの後に続いて、奥まった人気の無い場所に移動していった。
「はやく、」
声と共に、手が握られた。呼吸が引っ込んだ。お姉ちゃんの方から手を握られたのはどれくらいぶりだろう? いや、そもそも最後に誰かと手を繋いだのはいつ?
花火なんて見られなくても良かった。このまま手を引かれて地霊殿に帰っても一向に構わない。
たった数分の事だったのに。一秒がどんなにか、長かった。
「ややっ。こんな所で会うとは、奇遇ですね」
そこは花火の上がる川べりから少し離れた一本の橋、そう、かの嫉妬神水橋パルスィの根城である。お姉ちゃんはわざとらしく声を上げた。
「引き籠りが祭の陽気に当てられてボケてるわ、なんて妬まし鬱陶しい」
「そんな事より、パルスィ、花火が見えるそうですよ」
お姉ちゃんは花火を楽しみにしているらしかった。さっきから少しテンションが高い。お酒を飲んだってこんな風にならないのに。
「花火くらい、素直に見たらどうです」
橋姫が何か言おうとしたが、声はいきなりの轟音にかき消された。花火が始まった。
おぉ、と声を上げ、お姉ちゃんが狐面を後頭部へずらした。流石の橋姫も花火を見ていた。その眼はいささか冷ややかであったけれど、それでも視線を逸らさないのだから良しとした。
「いやぁ、綺麗ですね。みんなそう思ってますよ。みんなが同じものを見ながら、同じ事を考えていますよ。こんな風景、滅多にお眼にかかれません。いやぁ、珍しいものを私は見ている。こういう時だけは現金にも、心を読めるのも悪くないかなぁ、と、感じます。今この瞬間だけでも、ふたりに是非見せてやりたいくらいです」
お姉ちゃんにしては随分興奮した様子で、そんな独り言だか語りかけてるんだか判らない調子でそんな事を言った。私も素直に、その通りだと思った。今だけこの瞳を開きたいと思った。橋姫はどうだろう。そうだ、お姉ちゃんは「みんなそう思ってる」と言った。という事はつまり、彼女もそう思っているのだ。嫉妬も忘れて、花火に魅せられている。
「あぁあ、来て良かったなぁ」
誰に言うでもなく、お姉ちゃんの声が漏れた。
「うん、来て良かったよ」
私も答えた。さっきまで見れなくて良いと思っていたのに、今では、見れなかったらどんなに勿体無かったかと思う。
「それが聞けて、猶更良かったと思いました」
お姉ちゃんは笑った。私も多分、可愛く笑ったと思う。
「見れて良かったね」
「えぇ、まったく久しぶりに、珍しいものを見る事が出来ました」
花火がすっかり終わったので、地霊殿に続く道をふたりで歩いていた。狐面は、またお姉ちゃんの顔面に戻っていた。
「夏! って感じがした」
「ですね。また来年も来ましょうか」
「うん。でもさ、お姉ちゃん。夏だけじゃなくて、もっと一年楽しもうよ。秋が来たら食欲の秋だし、毎日みんなでご飯作ろうよ。きっと凄くおいしいよ。冬になったらたくさん雪が降るだろうから、雪合戦しよう。私、雪だるま作りたいな。かまくらも。その中で七輪を持ってきて、お餅を焼くのよ。みんなで年越し蕎麦食べて、初詣もするの」
「食べる事ばかりじゃないですか」
「良いのよ。みんなで食べるからおいしい」
「そうですね」
今、普通に未来の話が出来る。夢の【私】と【お姉ちゃん】に未来はやって来なかった。でも、ここの私とお姉ちゃんには未来がやって来てくれる。それが確信出来る。
あの夢は本当に単なる夢だったのだろうか。もしかしたらこちらが夢なのかもしれない。こことあそこはどこかで分岐した並行世界で、私はうっかり見てはいけないものを覗き込んでしまったのかもしれない。あれを単なる夢で済ませられないし、済ませてはいけないと思うのだ。
「あそこの【私】と【お姉ちゃん】は、ちょっと心が不健全だったのよ」
「夢の、話ですか」
「そう。多分、もっと話し合ったり遊んだり、そういうのが足りなくて、お互い疲れてたんだわ。あの【私】はもっと頑張るべきだったし、あの【お姉ちゃん】はもっと素直になるべきだった。あと一歩踏み込めば全部解決するのにそれを躊躇って、そうしてあんな馬鹿な事になっちゃったのよ。疲れてると、疲れてる事にさえ気付けなかったりするもの。そういう時は、溜め込んでいるもの全部吐き出した方が良いんじゃないかしら。今日みたいに」
「今のこいしは、吐き出せたのですね」
「うん、すっかり。お姉ちゃんもでしょう?」
「そうですね。いやぁ、綺麗だった」
それを聞くと、今まで眼が濁っていたのかと思うくらい、何もかもが輝いて見えた。ずっと眠っていた力がようやく眼をこすり出したみたいに、私の奥の根本的なエネルギーが溢れ出て来るようだった。気付かない間に凄く疲れていたのかもしれない。そうしてあんな夢を見たのだ。あるいは、疲れきってしまった私の末路にうっかり触れてしまったのだ。
私はこれからもこのひととやっていくし、晴れの日も雨の日もあって、調子の良い日も悪い日も、上手くいく日も上手くいかない日も、健やかなる時も病める時も、それでも傍にいるんだろうという未来を確かに掴む事が出来る。それがこんなにも喜ばしい、まるごと全部ひっくるめて幸せだという事に、どうして今の今まで気付けなかったのだろう?
「今日ね、良い夢が見られると思うわ」
「私に愛される夢ですか?」
「ううん。お姉ちゃんといっぱい話し合って、いっぱい遊ぶ夢」
「あぁ、それは、健全ですね」
「そう、健全なのが一番よ」
あの夢が見られて本当に良かったと思った。あの夢を見なければ、今こんなにも満ち足りた気分にならなかったろう。
「お姉ちゃん。手、繋いで良い?」
「どうぞ」
一秒が、どんなにか早い。
◆
ひどく悲しい夢を、……見なかった。
眼が覚めた時は逆に拍子抜けで、しばらくぼーっと眼をこすっていたが、何一つイメージが湧かなかった。何も見なかったのかもしれないし、見たけど忘れただけかもしれない。とにかく、良い夢も悲しい夢も見なかった。
「おはよう。夢、見れました?」
「ううん、それがさっぱり」
「あらら」
「なぁーんにも、覚えてないわ。すっからかん。ま、でも、夢って普通そういうもんよね」
「まぁ、確かに。朝ごはん、食べますか」
「たべるぅー」
パンの焼ける程良いかおりの中で、お姉ちゃんが紅茶を淹れている。私のカップにミルクは入れず、角砂糖をみっつ入れて混ぜる。それが私のお気に入りなのだ。
こちらからはお姉ちゃんの後ろ姿ばかりが見えた。あぁ、あの背中が私の姉の背中なのだ。あの背中に、生かされている。
――ねぇ、お姉ちゃん。私の事、好き?
そんな事聞かなきゃいけない程、私の心はもう、不健康じゃない。
おわり
仲の良い姉妹が見れて癒されました。
さとりのお姉ちゃんしてる感じが素敵で良かったです。
さとりがお茶目で素直すぎて夢に見そうだ。
やっぱり健全な解答を出すには心に栄養が通ってないと駄目なんですね。
ハッピーエンド万歳
花火と読心のくだりは唸らされました。
やはり幻想郷にはダメな姉が似合います。
面白かったです
こちらは上手く行った世界なんですかね
心が満たされました。
このさとり様はミステリアスな魅力がありますね。
この話を読んで得た幸福感は計り知れないかもしれません。
不安と安心の振れ幅がとても心地いいっす……。
タイトルは「むいしきしきしき」でいいんですかね。ラーメンズのあれっぽいですが。
信じていないことを確定するのが恐かったようにも思えました。どちらなのでしょうね。
何かさとり様がイケメンに感じた(ただしこいしに限る)
杞憂に終わって良かった。本当に良かった。
面白かったです。
うん、これはほんと幸せな二人だ
姉妹が幸せでなにより
二人に幸せな日々が訪れて本当にほっとしました
疲れた時に読みたくなります。