その小悪魔は図書館にとって不適切な存在
だった。何せずいにぶんとやかましかったか
ら。
彼女を人懐こい犬と評したのはアリスだっ
た。周りに居た全員がなるほどその通りだと
笑った。小悪魔だけが褒めてもらえたと嬉し
そうにはしゃいでいた。キャッキャッと丸い
笑顔をころころさせていた。
本に触れること、文字を読むことが好きな
彼女は、自ら文章を書くことも好んでいた。
毎晩欠かさず、ボロの紙切れを一枚、主人の
パチュリーにもらう。手垢で薄汚れた金属の
万年筆を手にして、思ったことを文に起こし
た。インクが切れたら、彼女はパチュリーに
お願いして分けてもらう。パチュリーも気前
良く分けてやった。大して貧しいわけでもな
かったから。
自分が思ったことを、何故文字という残る
ものに出力しているかは本人でさえ理解して
いない。小悪魔は今日の日記に、文字が好き
だからじゃないかなぁ、とインクのにじみを
作りながら書いた。そもそも、本人は思った
ことをすぐ口にした。周りの皆がよく笑って
くれるから、やめようと思ったことがない。
豊かな表情、声、身振り、手振り。アリスの
言葉通り、犬のように。皆の笑顔を作ってい
ることが、少なくとも本人はそう考えている、
小悪魔には大きな価値があった。自分の職務
以外に与えられた価値こそが、名前すらない
彼女のアイデンティティーとなるのだから。
静寂を求める図書館で彼女は不適切だった。
しかし、誰の不都合にはならなかった。
ところが、ある日のこと。
小悪魔はいつものように転がり、どうでも
良いことを口いっぱいにしてしゃべっていた。
「小悪魔、少しは落ち着きなさい」
「だって、だって、こんなに甘いケーキが
食べられるから嬉しくてしょうがないんです」
口に入れたフォークをずるずる口から抜き
出す。少しのクリームを残したくないからだ。
「毎日1回は甘いものを食べないと頭がお
かしくなって死んじゃいそうです」
また大げさなことをと周りが呆れながら笑
う。ところが魔理沙だけは違った。
「お前さぁ、そういうことを言ってる自分
が可愛いとか思ってる?」
魔理沙はそう言って、にやにやしだした。
小悪魔はその意味がよく解らなくて、しかし
魔理沙に馬鹿にされているのだけは理解した。
怒りを自覚したが、周りにも腹にはその感
情があったとしても、皆が笑っているので怒
りを表には出さなかった。そこで怒るという
行為は、誰にとっても不都合であり、よって
不適切だったからである。
小悪魔は、んー?と小首を傾げてよく理解
が出来ない様を見せた。そうすると周りには
都合が良かった。
その夜小悪魔は万年筆を走らせ続けた。文
を作るためではなく、己の感情を吐き出す為
に書いた。怯えた表情で、とにかく書いた。
魔理沙は自分に対して、恐らく批判をした
のだろう。小悪魔にはしかし、何故そのよう
なことを言われなければならないのかさっぱ
りだった。今まで何度も何度も似たような言
葉を言ってきた。
確かに誇張表現であることは理解していた。
この表現は口当たりがよく、好きだった。そ
して事実、彼女は甘いものが大好きだった。
それ以外には、何もなかった。
簡素な表現をすれば、「私はケーキが好き
です」になる。少し色をつければ、大好きと
言っても差し支えないのかもしれない。
小悪魔は急に恐ろしくなってきた。自分が
誰かの笑いをとってきたが、無意識のうちに
その笑いは無色と信じていた。今日の魔理沙
のような、嘲りを含んだ笑いではない。そう、
滑稽なものだと思っていた。見ても見なくて
も良い、毒にもならず、誰かの目を覚まさせ
るようなものでもない。ただ、笑えるもの。
ゲラゲラ、クスクス、それだけの。
小悪魔は、誰かの利益にはならなくとも、
最低限、不利益にはなりたくなかった。彼女
は存在していることに価値はなくとも、誰か
を傷つけることも、傷つけられたくもなかっ
た。
彼女は自分が有害であることを悟った。酷
く恥ずかしかった。
もう紙には文字と文字が重なって2度と読
めたものではない。
それでも書き終えたと思った彼女は全ての
日記を、紙の束を1つにまとめた。大きさが
バラバラでどうしても綺麗になたなかった。
小悪魔は自分の顔が有害かどうか不安にな
りだした。鏡を見る。冗談で、私の可愛さは
世の中の青少年たちを前屈みにすると言った
ことはあるが、そんなことがあるはずもない。
なるほど、害悪だ。小悪魔はノッペラボーに
なりたかった。昔何で見た、顔に包帯を巻い
た男。あれを考えたがやり方なんて解らない。
小悪魔はオロオロ右往左往。
次の日から、小悪魔は笑みを浮かべて静か
にしているようにした。徹底的に言葉数を少
なくして、返事だけをするようにした。それ
も、「はい」と「かしこまりました」の2つ
のみで。
小悪魔は図書館にとって適切な存在になれ
たのだろうか。不適切ではないように思えた。
図書館には3人の話声しかない。小悪魔は
お茶を出してお辞儀をする。去ろうとした背
に声がかけられた。
「お前、最近なんか静かだな?やめとけ、
似合わないから」
ほら、何か面白いことやってくれよと魔理
沙は言う。そこには何の悪意も無かった。小
悪魔は困った。後ずさりをして、申し訳ござ
いません、といつぶりかの謝罪を投げて逃げ
出した。自分が頭に思い浮かんだことは、誰
かの毒にしかならないのだ。走りながら彼女
はそう、考えた。
悩んだ。どうあがいても毒でしかないその
自分が、より適切になるにはどうすれば良い
のだろうか?小悪魔は湖に足を入れた。その
まま、走っていった。
きっと彼女は、適当な存在になったのかも
しれない。
だった。何せずいにぶんとやかましかったか
ら。
彼女を人懐こい犬と評したのはアリスだっ
た。周りに居た全員がなるほどその通りだと
笑った。小悪魔だけが褒めてもらえたと嬉し
そうにはしゃいでいた。キャッキャッと丸い
笑顔をころころさせていた。
本に触れること、文字を読むことが好きな
彼女は、自ら文章を書くことも好んでいた。
毎晩欠かさず、ボロの紙切れを一枚、主人の
パチュリーにもらう。手垢で薄汚れた金属の
万年筆を手にして、思ったことを文に起こし
た。インクが切れたら、彼女はパチュリーに
お願いして分けてもらう。パチュリーも気前
良く分けてやった。大して貧しいわけでもな
かったから。
自分が思ったことを、何故文字という残る
ものに出力しているかは本人でさえ理解して
いない。小悪魔は今日の日記に、文字が好き
だからじゃないかなぁ、とインクのにじみを
作りながら書いた。そもそも、本人は思った
ことをすぐ口にした。周りの皆がよく笑って
くれるから、やめようと思ったことがない。
豊かな表情、声、身振り、手振り。アリスの
言葉通り、犬のように。皆の笑顔を作ってい
ることが、少なくとも本人はそう考えている、
小悪魔には大きな価値があった。自分の職務
以外に与えられた価値こそが、名前すらない
彼女のアイデンティティーとなるのだから。
静寂を求める図書館で彼女は不適切だった。
しかし、誰の不都合にはならなかった。
ところが、ある日のこと。
小悪魔はいつものように転がり、どうでも
良いことを口いっぱいにしてしゃべっていた。
「小悪魔、少しは落ち着きなさい」
「だって、だって、こんなに甘いケーキが
食べられるから嬉しくてしょうがないんです」
口に入れたフォークをずるずる口から抜き
出す。少しのクリームを残したくないからだ。
「毎日1回は甘いものを食べないと頭がお
かしくなって死んじゃいそうです」
また大げさなことをと周りが呆れながら笑
う。ところが魔理沙だけは違った。
「お前さぁ、そういうことを言ってる自分
が可愛いとか思ってる?」
魔理沙はそう言って、にやにやしだした。
小悪魔はその意味がよく解らなくて、しかし
魔理沙に馬鹿にされているのだけは理解した。
怒りを自覚したが、周りにも腹にはその感
情があったとしても、皆が笑っているので怒
りを表には出さなかった。そこで怒るという
行為は、誰にとっても不都合であり、よって
不適切だったからである。
小悪魔は、んー?と小首を傾げてよく理解
が出来ない様を見せた。そうすると周りには
都合が良かった。
その夜小悪魔は万年筆を走らせ続けた。文
を作るためではなく、己の感情を吐き出す為
に書いた。怯えた表情で、とにかく書いた。
魔理沙は自分に対して、恐らく批判をした
のだろう。小悪魔にはしかし、何故そのよう
なことを言われなければならないのかさっぱ
りだった。今まで何度も何度も似たような言
葉を言ってきた。
確かに誇張表現であることは理解していた。
この表現は口当たりがよく、好きだった。そ
して事実、彼女は甘いものが大好きだった。
それ以外には、何もなかった。
簡素な表現をすれば、「私はケーキが好き
です」になる。少し色をつければ、大好きと
言っても差し支えないのかもしれない。
小悪魔は急に恐ろしくなってきた。自分が
誰かの笑いをとってきたが、無意識のうちに
その笑いは無色と信じていた。今日の魔理沙
のような、嘲りを含んだ笑いではない。そう、
滑稽なものだと思っていた。見ても見なくて
も良い、毒にもならず、誰かの目を覚まさせ
るようなものでもない。ただ、笑えるもの。
ゲラゲラ、クスクス、それだけの。
小悪魔は、誰かの利益にはならなくとも、
最低限、不利益にはなりたくなかった。彼女
は存在していることに価値はなくとも、誰か
を傷つけることも、傷つけられたくもなかっ
た。
彼女は自分が有害であることを悟った。酷
く恥ずかしかった。
もう紙には文字と文字が重なって2度と読
めたものではない。
それでも書き終えたと思った彼女は全ての
日記を、紙の束を1つにまとめた。大きさが
バラバラでどうしても綺麗になたなかった。
小悪魔は自分の顔が有害かどうか不安にな
りだした。鏡を見る。冗談で、私の可愛さは
世の中の青少年たちを前屈みにすると言った
ことはあるが、そんなことがあるはずもない。
なるほど、害悪だ。小悪魔はノッペラボーに
なりたかった。昔何で見た、顔に包帯を巻い
た男。あれを考えたがやり方なんて解らない。
小悪魔はオロオロ右往左往。
次の日から、小悪魔は笑みを浮かべて静か
にしているようにした。徹底的に言葉数を少
なくして、返事だけをするようにした。それ
も、「はい」と「かしこまりました」の2つ
のみで。
小悪魔は図書館にとって適切な存在になれ
たのだろうか。不適切ではないように思えた。
図書館には3人の話声しかない。小悪魔は
お茶を出してお辞儀をする。去ろうとした背
に声がかけられた。
「お前、最近なんか静かだな?やめとけ、
似合わないから」
ほら、何か面白いことやってくれよと魔理
沙は言う。そこには何の悪意も無かった。小
悪魔は困った。後ずさりをして、申し訳ござ
いません、といつぶりかの謝罪を投げて逃げ
出した。自分が頭に思い浮かんだことは、誰
かの毒にしかならないのだ。走りながら彼女
はそう、考えた。
悩んだ。どうあがいても毒でしかないその
自分が、より適切になるにはどうすれば良い
のだろうか?小悪魔は湖に足を入れた。その
まま、走っていった。
きっと彼女は、適当な存在になったのかも
しれない。
もっとこの小悪魔を読みたかったです。
なんでもない一言でも、誰かを壊してしまうこともある。
そんな恐怖を感じました。
うまく言葉にできませんが、私はこのお話好きです。
…いえ、すみません。
パチュリー様、彼女をフォローしてやってくださいな…
変な改行がしてあるのは何故なんでしょうか。そこが気になります。
メモ帳で書いて、「右端で折り返す」を消していないとか?
それとも、演出の範囲内なんでしょうか。
誤字報告
>>ずいにぶん
「ずいぶん」では。
なたなかった←ならなかった?