衣玖が天子にキスを迫って予想外の平手打ちをくらったのは、三ヶ月程前、秋の初めの涼しい満月の夜だった。
その晩、博麗神社ではお月見を口実にした宴会――誰も月など見ていない――が催された。その宴の帰りの事である。天界に戻った衣玖と天子は、人気の無い夜の原っぱで、酔い覚ましもかねて改めて二人だけでお月見をしていた。
夏風はすでに去り、涼しい秋の夜風が二人のほてった体を心地よく撫でる。そよぐ草木が小さく囁き、静かな夜の音が辺りを満たした。そしてまだ微かに熱い、二人の吐息。
雰囲気にあてられたのか、衣玖の隣に座る天子が体を枝垂れかからせてきた。二人の顔はほとんど触れ合って、天子の少し汗ばんだ髪の香りが衣玖の鼻腔に流れ込んだ。
衣玖はそんな天子の仕草にムラムラっときて、まぁ酒のほろ酔い気分にも後押しされたのだろうが、顔を寄せて、天子のぷっくりとした可愛い唇を、ほんの少し形が変わる程度に己の唇で押した。
その瞬間――衣玖の頬に天子の平手打ちが飛んできたのである。
叩きつけられたそれは、天人の強化された肉体を思い知らされる凄まじい威力であった。衣玖は吹き飛ばされて草原の上を三回転もした。並の人間であれば首が胴体から千切れていただろう。
ふらつきながら起き上がる衣玖の耳元に数十匹のコオロギが取りついて一斉に鳴き始めた。痛みは感じていなかった。それとは別種の、得体のしれないひどい衝撃がいくの脳髄を麻痺させていた。
暗い空に浮かぶ真円の輝きが、頬を押さえながら呆然とする衣玖を淡く照らす。天子は震える指で唇を押さえながら、薄闇の中でも分かるほど顔をドス黒い赤に染めて、視線をさ迷わせていた。その顔は衣玖の知らない何か別の人物に見えた。
衣玖には、天子の拒絶の理由が分からなかったのだ。まだ一線は越えていないとは言え、あさぼらけの仲でお互いの肌のぬくもりを感じあった日もあるし、唇と唇を触れ合わせた事はまだ無いとは言え、うなじや耳たぶを咬んだりという事は頻繁にやっている。まさか拒まれるとは全く考えていなかった。
衣玖の硬直を解いたのは、天子が発した一言であった。
「初めてだったのにっ……」
「は……?」
「いきなりこんな事するなんて……馬鹿馬鹿! 衣玖の馬鹿!」
「……初めて?」
「そうよっ」
「数百年間一度も無かったのですか?」
「そうよっ!」
「……」
この事について衣玖の心には複雑な感情があった。その気持ちは今でも感じている。
これだけ長く生きて一度も経験が無いなんて有り得ないだろう。と驚きつつも、天子と周囲の天人との壁はつまりそれほど巨大なのかもしれないと考えさせられ、悲しくなった。だが一方で、天子の初めての相手に自分がなれたらしいという思いがけない事態を、喜ばしくも思った。
衣玖は自惚れて言った。
「私では駄目なのですか」
天子が怒鳴った。
「誰がどうかとかじゃない! 大事な一回目だっていってるの!」
衣玖はその天子らしからぬ物言いにしばし絶句した。
「……意外と乙女なのですね」
「あーもー! うるさいのよ! 衣玖の変態!」
「なっ。へ、変態ですって! キスしただけでしょう!」
それから二人は口論になって、ほとんど収拾がつかないまま、この話は流れた。
そして次の日から現在にいたるまで、衣玖は何度も何度も天子にキスを迫った。ベットで一緒に昼寝をしている時だとか、二人で湯船につかっている時だとか。
だが天子はそのつど顔を赤くしながら首を横にふった。うなじをかまれるのは喜ぶくせに、唇をかまれるのはなぜか嫌がるのだ。
本格的に冬が舞い降りてきたある日、いよいよ辛抱たまらなくなった衣玖が、天子に詰め寄った。
「いいじゃないですか! どうせ一回しちゃったんだから、もっとたくさんしましょうよ!」
頬についた雪を溶かしながら、天子はやはり拒んだ。
「いやよ! 唇と唇をくっつけるなんて……恥ずかしい!」
「そんなの慣れです! 恥ずかしさなんてすぐ消えます。気持ちよくなりますよ!」
「無理! 衣玖の変態! 口と口でだなんて……!!」
天子は頑として譲らなかった。
どうも、口づけという行為に対して過剰に羞恥心を抱いているらしかった。何かトラウマでもあるのかと思ったが、そうでもないらしい。恥ずかしい。恥ずかしい。とにもかくにも恥ずかしい。あの痛烈なビンタにしても、初めてだったからだというよりも、あまりの恥ずかしさについ手がでてしまったのではないかと、衣玖はそう思うようになっていた。天子の拒絶反応はそれほど強かったのだ。なぜそんなところだけ淑女気質なのかと、衣玖は比那名居家の血を呪った。
天子の小ぶりな唇の形や、たった一度だけ味わったそのやわらかい感触を思い返して、衣玖はうずく夜をすごしたものである。
そんな日々をしばらく耐えた後、とうとう衣玖に圧倒的な幸運が訪れたのは、年の瀬の、雪の降る寒い夜のことであった。
もちろん雲の上の天界に雪は振らない。だが、大気は凍りつく。
くしくも、満月であった。
醜い笑い声が真っ暗な部屋にこだまする。
欲望やエゴの感情がそのまま声となって漏れでた、奇怪な音であった。
無灯の衣玖の寝室。開け放たれた窓から部屋を侵食する、刺すような冷気と怪しい月の光。そして不気味な笑い声。 衣玖の瞳が満月を反射して、暗闇に灯る。その口は三日月型に歪んでいる。
部屋の温度は身を切るほどに冷え切っていたが、衣玖にはそれで丁度よい。それほどに体が熱くほてっていた。
衣玖の獰猛な視線の先には、天子がいる。ベットで仰向けになって無防備に横たわっている。
衣玖はベットに腰掛け、瞳を閉じている天子の顔をじろじろと観察した。観察するだけでは飽き足らず、頬を撫で、額を撫で、そして唇をつついた。天子は一切の反応をしなかった。まるで死人であるかのようにまったく身動きをしない。しかしその小ぶりな胸は一定のリズムでゆっくりと上下運動を繰り返している。魂の抜け殻――それがもっとも状況を的確に表しているように思えるが……。
「ドゥフッ。ドゥフッ。ドゥフッ」
衣玖がまた笑った――
その数時間前。
衣玖と天子は博麗神社での忘年会に参加していた。そのおり天子は調子に乗りすぎてしまった。緋想の剣が振り回され、まだ料理の残っている皿が何枚も中を飛び、部屋の障子の一枚が吹き飛んで、外の吹雪が宴会部屋に吹き込んだ。
まぁこの手の騒ぎは珍しくはない。クセのある連中がたくさん集まっているのだから、いざこざは日常茶飯事である。ちなみにこの時天子をあおったのはレミリアである。
しかしだからといって、その無法者達に制裁が無いわけではない。
この時は、八雲紫が折檻役を買って出た。鳥肌がたつほどの妖気を誇示しながら、紫が天子に近づいていく。
天子は自分がやりすぎた事に気づいて、慌てた。だが慌てたところで、目の前の鬼にはなんの効果もないのは明白であった。
「い、衣玖……助けて」
振りかざされる無慈悲な鉄槌を前にして、天子にできることはそう呟く事ぐらいであった。
しかし、その効果は消して小さくなかったのだ。
「八雲紫!!」
電光石火の勢いで、衣玖が天子と紫の間に飛び込んできた。そして、猛烈な速度で土下座をした。
「すいませんすいませんすいません! 言い聞かせますのですいません!!以後はかならずすいません!!」
まとった羽衣が残像を残しながら主の土下座に追従した。
実のところ、謝って意味があるとは、天子も衣玖も思っていなかったのだが。
「……まぁいいでしょう」
「えっ」
紫の慈悲ある一言が二人を驚かせた。
「けど大人しくしていなさい」
そう言って紫はパチンと指を鳴らした。
と同時に、全身の筋肉が突然弛緩したような奇妙な振る舞いで天子がその場に崩れ落ちた。
「総領娘様!」
慌てる衣玖に紫が言った。
「意識はあるけど、体は動かないわよ。明日の夜明けまでね」
「……そ、そうですか」
土下座してこの仕打ちだというのなら、本来はどんな事するつもりだったのかと、衣玖の背筋が冷たくなった。
紫は二人に背を向けて、レミリアのほうへ向かっていったようだが、衣玖はもうほとんどそちらに注意は払っていなかった。
「ち、ち、近寄るな年増のお局がッ!! 助けろ咲夜ーーーー!!!」
「自業自得です」
その会話の後、ゴゥッと大きな音がして、レミリアの声は聞こえなくなった。それだけである。
「総領娘様。総領娘様」
天子の頬を叩くが、反応はない。
紫の言うとおりならば、返事をしたくても体が動かないのだろう。
「うーん……さっさと退場しましょうか……」
もはやここにいてもどうしようもないし、このまま天子をほって置くと、酔っ払いどもにおもちゃにされるかもしれなかった。
それはそれで面白いかもしれないが、どうせ玩具になるなら、自分だけの玩具にしよう……。
閃いたその考えに、ドクンッと、衣玖の体が震えた。
「ふふ……帰りましょう。総領娘様。ふふふ」
衣玖は天子をつれて、そそくさと神社を後にした。
下界の空の雪の中、背負った天子の体温がとても熱い。
意識はあるが、体が動かず、一切の抵抗ができない……。
ゾゾゾゾと体の芯から電撃が広がり、衣玖の顔が醜く歪んだ――
そして、今に至る。
「総領娘様。聞こえていますか」
天子の耳元で衣玖が白い息を吐いた。冬の天界は人間には到底耐えられない寒さである。天子の反応は、やはり無い。だが抜け殻などでは決してない。天子の心はたしかにここにあるのだ。動かない己の体を嘆きながら、聞こえてくる衣玖の言葉に何を思うのか。
「不自由でしょうが、私のおかげでこの程度ですんだのですよ。感謝してくださいね。あの八雲紫の前に飛び込んだのですから。どれだけ覚悟が必要だったかわかりますか? 総領娘様もろとも隙間送りにされてもおかしくはなかったのですよ。これだけ頑張ったのですから、何か御褒美をいただいてもいいですよねぇ。総領娘様の我侭にお付き合いしているお駄賃だって、今まで一度もいただいていませんし」
衣玖は横たわる天子の上に四つんばいになって覆いかぶさった。
まるで、飢えた肉食獣が、捕らえた獲物の首筋に牙をつき立てようとしているかのようだ。
実際、この暗い寝室の光景は、下界の夜の森で見られる妖怪達の食事風景とよく似かよっていた。
「今私が一番欲しいものが何か、わかりますか? わかりますよね。三ヶ月前のあの満月の日からずっと私が欲しがっているものですよ。総領娘様は、意地悪をしてなかなか私にそれをくださいませんが」
天子の下唇を人差し指でめくる。内側の粘膜に湿った部分までが暗闇にさらされる。指を離すと、ぴるんと元の形に戻った。
「ハァァ……」
熱い吐息が溢れた。
衣玖は自分がどんな顔をしているのか、もう分からなかった。暖かいような、しびれるような、じぃんじぃんとした波が心臓の鼓動にあわせて衣玖の顔面に広がった。
「私はいまから総領娘様に口づけをしますからね。嫌なら嫌と言ってくださいね」
物言わぬ天子の唇に、衣玖はサディスティックな笑みを浮かべた。
四つんばいの姿勢から肘を突いて、自分の顔を天子の顔に近づけていく。
衣玖の暗い視界一面に、天子の素肌と、唇が迫ってくる。
「では。いきますよ……」
衣玖も瞳を閉じて世界はいよいよ本当に真っ暗になった。そして衣玖の感覚世界の中で、己の唇に、とてもやわらかい何かが、触れた。衣玖はそのまま静止した。
もし天子が体の自由だけでなく意識まで失っていたのだとしたら、こうはできなかっただろうと衣玖は思う。それだと本当に騙しうちになってしまうし、きっと自分は後ろめたさに襲われていただろう。何より、天子にキスの記憶が残らない。それではほんの一時の虚しい享楽にしかならない。天子に意識があるからこそ、自分勝手なこの非道に意味があるのだ。
唇を離し、衣玖は自分の唇を舐める。
天子の心の中は今、どうなっているのだろうか。自分への恨み言が滝のように流れ落ちているのだろうか。
「総領娘様のお口はいつもいつも我侭を言いたい放題で、皆を困らせて、本当にイケナイお口ですね」
衣玖は己の唇を使って、天子の唇を抱いた。まずは天子の上唇だけを何度も抱き、同時に舌を使って少しずつ濡らしていく。時折自分の唇も舐めて天子の唇からぬめりが消えてしまわないように注意した。上唇が十分に濡れた後は下唇にも同じ事を繰り返した。最後にもう一度、自分の唇全体で天子の唇全体を抑えた。さきとは違い、衣玖の唾液が潤滑油となって、二人の唇は心地よく擦れた。
「さぁ総領娘様。キスってとても気持ちの良いものなのですよ。衣玖がそれを教えて差し上げます。落ち着いて、受け入れてくださいね。今はわからなくても、きっとすぐ、いい気持ちになれますから」
今度は、唇で桃をしゃぶるような具合に天子の唇を噛んだ。そうしてそのまま唇を離さず、自分の舌を、少しずつ天子の唇の割れ目に潜り込ませていった。この手順だけはもどかしかった。相手が受け入れ態勢を整えてくれていれば楽なのだが。いずれは天子にそうしてもらいたいものだ。
舌の先に固い感触。天子の歯だ。きっちりと閉じられている。しかし衣玖は動じない。
「ちょっと、失礼します」
天子の顔の頬骨の下、丁度奥歯が噛みあっている辺りを手で挟んで押さえた。
そうすると、閉じられていたその口が、少しだけ開いた。
衣玖はその隙間からさらに舌を滑り込ませた。その舌の先に、唇よりは固いが、不思議な柔らかさをもつ熱いものが触れた。天子の舌だ。
衣玖の心臓が跳ねた。
衣玖は天子の舌を捕らえようと、なんども天子の口腔内に自分の舌を潜り込ませ、暴れさせた。だが、脱力した天子の舌はなかなか上手く捕まらない。衣玖は思い切って口全体を使って、吸った。天子の口の中身がすべて自分の側に来るくらいに強く吸った。
そうすると大きなナメクジのようなものが、自分の口の中に進入してきた。衣玖は歓喜の鼻息を荒らげながら、それをしゃぶった。熱いソフトクリームを何度も吸った。夢中になっていると、吸う動作の時に、つい無意識に顔を後ろに下げしまって、唇ではさんでいた天子の舌が、逃げた。
ちゅぱぁっ
湿った音がした。自分と天子の交わりからそのような卑猥な音が生まれた、という背徳感が、衣玖の原始的な衝動に火をつけた。
「ああっ総領娘様っ」
衣玖は天子の両脇の下に腕を通して、お互いの体をびったりと密着させた。もはや四つんばいではなく、衣玖は完全に天子の体に覆いかぶさっている。胸と下腹部に天子の圧力を強く感じた。
そうして衣玖は天子の唇をむさぼり続けた。もはや、キスと呼べるような上品な触れあいではなくなっていた。
西瓜を丸かじりすれば、こうなるのではないか。
最初は硬い皮を辛抱づよく食いちぎり、ひとたび熟れた甘い実にたどり着けば、その穴から舌と歯を侵入させ、汁で顔がぐちょぐちょになるのも構わずに、下品な音をたてながらひたすらに貪り続ける。
衣玖は、時には天子の舌を吸い舐め、時には天子の口腔内で舌を暴れさせ、ひたすら天子を味わい続けた。
この時になると、衣玖はもうただただ己が望むままに、天子をしゃぶり、その生暖かさを求め続けた。
何かを思考するのは、自分の気が済んで理性が帰ってきてからでよいと思った。
このじゃじゃ馬を、己の身勝手な暴力が誰も邪魔する者がいない暗闇のベットの上で一方的に犯し続けているのだと思うと、あふれ出る危険な歓喜にあらゆる罪悪感がかき消された。
天子にキスの良さを教えるという、無いようで実はかすかにあったその目的は、とうに見えなくなっていた。
衣玖の体が闇の中蠢き続ける。時折、あらい呼吸と湿った音がベットのきしむ音に混じる。
天子は相変わらず、身動き一つしていなかった。
窓から差し込む朝の輝きの中で、衣玖はあきれて笑った。
そうやって笑うまで、ずっと天子とキスをし続けていたからだ。
時間にして六時間以上も、ずっと天子の唇を貪りつづけた。本当に一晩中、休むことなくひたすらに天子とキスをしていた。
たった一度だけ、喉が渇いて水を飲みにいった。
しかし天子の喉はたぶん全く乾いていないだろう。天子の口腔内には、常に衣玖の唾液が流れ込み、天子自身が分泌した唾液とない交ぜになって、池になっていた。その池が一定の深さになると、体の反射運動なのか天子の喉がかってに動いて、二人の唾液を飲み込んだ。だからきっと、天子の喉は一晩中潤っていただろう。
「いやぁしかし。本当に一晩中してしまうとは……ははは……」
煩悩の詰まった頭を支えるのに疲れたのか、さすがに首筋の筋肉が悲鳴を上げていた。天子の胸に頬をあてて、ぐったりとする。
「総領娘様。起きてますか?」
天子は今だマネキンと化したままだ。その口元から首筋にかけては、どちらのものかもはや分からぬ唾液がてらてらと日光を反射していた。
「どうでしたか。キス……」
昨晩の自分の痴態を考えると、どうにもまともには問いかけられなくて、つい顔がにやけた。
天子が今何を思っているのか衣玖にはまったく予想がつかない。
激怒した天子に緋想の剣で袈裟切りにされても文句は言えないな。と衣玖はまた空笑いをした。
どうせなのでなのでもう一度……と、もはやすっかり慣れた感じで衣玖が天子にキスをした時である。
衣玖の胸の下で、天子の上半身がぴくりと動いた。
「むむ?」
明日の夜明けまで、という八雲紫の言葉通り、天子に身体の自由が戻ったのだろう。
少しの間、天子は緩慢に身体の四肢を蠢かせていた。身体を動かすという感覚を再確認しているようだった。
「総領娘様? 大丈夫ですか」
衣玖の問いかけに、天子は薄く目を開けながら、ぼやけた声で答えた。
「……どいて」
天子はふら付きながら起き上がった。二日酔いの寝起きのような、苦渋に満ちた顔つきだった。
「あの。総領娘様」
天子は衣玖の声を無視し、ベットから降りて頼りない足取りで部屋から出て行った。
後を追うべきか衣玖が躊躇していると、おそらく洗面室から、ガラガラガラとうがいをする音が聞こえてきた。
その音がキスにたいする嫌悪感の表れのように感じられて、衣玖は少し傷ついた。
天子はふらふらとしながら、また寝室へ戻ってきた。
「総領娘様……うがいはひどいと思います……」
衣玖が抗議すると、天子はよどんだ目で睨み返してきた。
「衣玖の唾の味が口の中に残ってるのよ……喉もなんだかネバネバするし……ああもう。おなかの中も衣玖の唾液でぱんぱんよ……」
「……総領娘様の中が私でいっぱい……」
衣玖は自分の顔がにやけるのを感じた。そのにやけ顔はそうとうヒドイ表情だったらしい。天子がおおいに顔を引きつらせた。
天子は手振りで衣玖に、どけ、と示し、うつ伏せになってベットに倒れこんだ。
「総領娘様。キス……どうでしたか?」
おずおずと聞いた。
天子が呻いた。
「キスの話はもう嫌……」
「そ、そうですか」
ひどい事をしたという自覚は一応衣玖にもあるので、それ以上は黙っていた。
倒れた天子の側で衣玖がどうしようかと思案していると、その袖を、天子がギリリと掴んだ。そして、閻魔大王のごとき恐ろしい声で言った。
「今度は……衣玖が私の玩具になりなさい……」
「え……」
「無理やりされる気持ちを衣玖にも味わわせてやる……」
「キスでしたら今すぐにでも総領娘様の望まれるままにしていただいて、構いませんが」
「……」
天子は昨晩の状態のように、何も答えなかった。天子がつい数十秒前にキスの話はもう嫌だと言っていたのを衣玖は思い出した。しばらくは駄目なのだろう。
「楽しみにしていますね!」
衣玖が天子のうなじにちゅっと軽いキスをした。
うつ伏せのまま天子が繰り出した裏拳が、衣玖をベットの外にまで吹き飛ばした。
けしからんと思います
後味がよろしくないのは,コンビニの一角に積んである雑誌によくあるようなストーリーを彷彿とさせるからでしょうか.
文書力が一定水準以上だけに性質が悪いかなあという感想です.
ふぅ……
デレさせようと必死になる衣玖さんも見たい
誤字報告
>>西瓜を丸かじるすれば
「る」でなく「り」では?
こちらに投稿するならもちっとソフトに、あちらに投稿するならMOTTO激しく! ってところでしょうか。
氏のいくてん大好きなのでこれからも頑張って下さい。
作者様のいくてんは大好きなので、某所でもこちらでもいいので続きを期待してます。
というわけで、感謝の気持ちを込めてガラにもなく全レスをば。
>>8さん
絶好調です! フィーブァーーーーーーーー!!
>>9さん
ふぅ……。申し訳ござらん。
>>13さん
コンビニの一角……なんて的確な表現だ。自分でも書き終えた後思いましたよ。「あれ……これただのエロ話じゃね……」
後味の悪い思いをさせた事はほんとに申し訳ない。せっかく読んでもらったのに。
最後に天子が笑ってれば、多少は救いがあったのかもしれませんが、衣玖さんのしたことは酷い事ですし、どうしても天子に明るい反応をさせる事ができんかったんです……。
>>19さん
やべ。汗かかないって設定見落としてました。
ふぅ……。いかんいかん……。
>>22さん
いつまでも物語を終わらせず、過程を追っていたいという気持ちが、自分の中にもあります。
>>30さん
そう判断されてもしかたありませんよね。
不快な気持ちにさせてすみません。
誤字報告ありがとうございます!さっそく修正します。
>>35さん
これでも一応はやばいとこ消して書いていたので、その部分を開放してあちらに……いっぺん投稿してみようかなあ。
『氏のいくてん大好きなので』 よ、よせやい……嬉しくてほれちまうぜ……
>>38さん
最終的なゴールはいつまでも書きたくないなぁ。
『作者様のいくてんは大好きなので』よ、よせやい……嬉しくて掘っちまうぜ……
softlyな続きはこちらに投稿するつもりです。
>>40さん
ありがとうございます。否定肯定、どちらも大切に受け止めさせていただきます。頑張っぞー。
あなたのクララが立ったのなら私の勝ちだと、個人的に思っております。
>>48さん
心からありがとうと言わざるをえませんかな。
内容はんmvdfんvsvjvじゅvふじょこだよ!
今まであっちには投稿した事ありませんでした……が、今すでに脳内妄想で付け足しが始まっています。一、二週間以内に投稿してしまう予感。
>>53さん
しまった自爆してしまった!
あqwせdrftgyふじこlp;!
いや、別に不快だったとかではなくて、このサイトの管理人さんってこういう性的な描写を結構嫌うタイプだったんじゃないかな、と。
まあ、意識に反して動けない天子に手を出すのは、いただけないとは思いますけどね。
どした! すりかえられたか!?
>>57さん
そういう事でしたか。失礼しました。
書いといてなんですが、動けない天子に手を出すのはいただけないと自分も思いま す。衣玖さん鬼畜。