Coolier - 新生・東方創想話

鈴の鳴る日 前編

2010/08/17 01:02:40
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地底に秋が巡って来た。
この季節は特に忙しいわけでもなく、丁度涼しくなる時期なので色々と物思いに耽ってしまう。

ふと、随分と、そう随分と昔の事を思い出す。
秋の暮れにお燐が子猫を拾って来た事があった。



・・・



秋深し、隣は何をする人ぞ。

その年の秋も、こんな風に考える暇があった。

午前中には終わったであろう書類の処理は、午後四時になっても数枚残して終わらないでいた。
他の仕事に妨げられているわけでもない。
すぐに終わらせて帰っても良いのだが、私が居るべき場所に居ないとどうにも落ち着かない者が出て来る。

私が相手の心や記憶を読んでしまえるから、誰もが一定の距離を取りたがるのだ。

煙たがられる種の妖怪は極めて規則的な行動を求められる。
そして少しでもその規則から外れると相手は煙たがりの度を増してこう言う。
「この時間は何処何処にいらっしゃると思っていましたが」

そんな嫌味にも似た言葉を聞くのが嫌になり、
『仕事中は何もする事が無くてもしているふりを』
『食事の時は食べたくなくても食事のふりを』
『部屋で寝ている時は寝ていなくても寝ているふりを』
と言う習慣がついてしまっていた。

最近はペットの中にも私を避ける者が出て来ている。
昔はあんなにさとり様、さとり様と寄って来て可愛かったのに。

心を読んでしまう「さとり」と言う種族の宿命のようなものだと思い諦めて、居るべき場所に居るための理由を作り暇を持て余していた。



余りにも退屈なので、気晴らしにお茶でも淹れようかと台所へ行くとお燐が居た。
「あらお燐」
お燐はびくっとしてどうしようかと迷っていたようだったが、すぐにこちらを向いた。
その手には子猫を抱えていた。

「あなたの子?」
「えー、えーまぁ」
心を読むと、すぐに嘘だと分かった。
どうも地底の入り口で鳴いていたところを連れて来たらしい。
また禁を破って地上に出たのかと呆れるが、お燐なりに気を使って行動しているらしく、まだ地上からの文句は一つも無い。

「嘘おっしゃい、ふぅん、地上の入り口でねぇ」
少々嫌味を付けて地上と言う言葉を入れるが、お燐はそれに気付かず子猫の事を話し始める。
「あ、あの、さとり様、こいつあんまり体が強くなさそうなんです。だから、地霊殿の中で飼っちゃ駄目ですか?」

思い切り上目遣いで「お願い」をして来る。
お燐がまだ人型になれない頃はこんな風に「お願い」を何度かされた覚えはあったが、人型になれるようになってからは初めてだった。
まぁ、ペットが一匹増えるくらい問題無いでしょう。
「別に構わないわよ」
「え、本当ですか!」
「ええ、可愛らしい子猫さんよろしくね。私はここの主で、古明地さとりと言います」

新しいペットに挨拶をすると、きちんとにゃーと返して来た。
子猫ながらになかなか賢いようだ。



・・・



それからお燐は連れて来た子猫を室内で飼うための準備をしていた。
トイレ用の砂場、食事、運動用の器具の設置。
ついでに迷子にならないように鈴の首輪。

誰ともなくその子猫を「鈴」と呼び始め、それが定着した。
鈴は気難しいのか、恥ずかしがり屋なのか余り他の猫にも懐こうとはしない。
拾って来たお燐もこれには少々手を焼いているようだったが、不思議と私にはよく懐いて来た。

私が鈴の耳を触っても、肉球を触っても嫌がらず気持ち良さそうにしている。
お燐がじっと私の方を見て恨めしそうな顔をしていたので心を読んでみると
(あの肉球にはあたいだって触りたいのに、何でさとり様だけに懐くかなぁ)
などとぼやいていた。

人望の差ですよと茶化したら、へこんでしまったようだった。
私も何故懐かれているのかよく分からないが、子供と言うのは大抵そんな気紛れな生き物だから仕方無い。



・・・



秋も終わり冬が来た。

日も差さず外気との接触も余り無い地底。
年間を通してほぼ気温は一定していたが余りにも変化が無く寂しいので、旧灼熱地獄をペットに調整させて、四季に従い気温を変化させている。

いつも忌み嫌わていれる地霊殿だがこれだけは好評なようで、静かな地底も活気が出るようになった。

春は暖かくなり、表に出た者同士で宴会が始まる。
夏は暑くなり、涼む場所を探して過ごす。
秋は涼しくなり、一時の快適さを感じつつ来るべき冬に備える。
冬は寒くなり、備えたもので過ごしまた春を待つ。

以前、ペットたちが調整を間違えて冬なのに夏のように暑くしてしまった時は地底の妖怪たちが冬に備えて準備をしているのだから、寒くならないと困ると地霊殿に文句を言いに来た事も有ったが。

その年は例年通りの冬に仕上がっていて、誰も文句は言いに来なかった。

いつも通りの冬だが、鈴には堪えたようで風邪を引いてしまった。
お燐も気がかりのようで、暖かくするように布団を厚めに用意してあげたり、栄養のつくものを食べさせるようにしていた。



そんな時期、黒谷ヤマメが恒例の冬のイベントを地霊殿で開いた。

私も地霊殿の代表としては顔を出さないわけにも行かなかった。
ヤマメ本人は私が居る事を気にしなかったが、彼女目当てで訪れた客はそうは思わないだろう。
嫌な顔をされるのも分かり切っていたので、簡単な挨拶をすると引っ込むようにしていた。

今年もそのイベントは盛況だったようで、予定から二時間も延長してようやく終了となった。

夜に、労いのため簡単な宴会が開かれ私もまた顔を出していた。
ヤマメに挨拶をして礼を言う。
「いつもありがとうございます」
「いやいや、こっちも好きでやってる事だからさ」

余り表裏の無い彼女は、私に対しても他人と同様に接する。
そして時には私にも物怖じせず、はっきりと物を言う。
彼女の人気は、明るいと言う以外にその辺りも有るのだろう。

ヤマメがついと余所見をして、ちょっと失礼と余所見をしたところへ歩いて行った。
お燐と鈴が居るところだった。



何やらお燐と話をしている。
暫く会話していたようだが、ヤマメが大声で叫ぶのが聞こえた。
「え?さとりって猫だったの!?まぁ猫でも似合いそうだけど」

思わずこけそうになった。
どう言う会話でそうなったのか分からないが、お燐は慌てて否定しているようだった。

そうして今度は鈴と遊んでいたが、暫くしてこちらに戻って来た。
「余り良くない話をするけど、良いかな」
「ええ、どうぞ」
何だろう、お燐に何か有ったのだろうか。

「あの子猫の事なんだけどね、私の見たところでは病魔に冒されてる。しかもかなり悪いよ」
病魔とは病気を起こす原因だと言う。
つまり、鈴が病気でかなり悪い状態だと言う事だ。

ヤマメはこう見えて病を操る事が出来る。
だから、鈴に何かを感じて確認していたのだろう。
「このままじゃ春まで持たないだろうね、もう少し早く会えてればあそこまで重くなる前に手を打つ事も出来たんだけど」

「感染はするのですか?」
感染するようなものであれば鈴を、鈴と接して来た私やお燐も隔離しないといけない。
「いや、あれは宿主に寄生するだけの奴だから、宿主が死ぬまでは大丈夫だよ」
死んだら新しい宿主を探すから危ないんだけどね、と付け加えた。

「だから、あそこまで大きいとなると取って置きたいんだ。死んだ後に間違い無く身近に居る奴が犠牲になる」
病に冒された者が死んだ後で、身近に居る者がその大きくなった病の犠牲になる。
一気にではなく、徐々に腐るように身近に居る者が死んで行くのだ。

私もそんな事は御免だが、先に確認しておかなければいけない事がある。
「分かりました。ですがどうするかは、お燐と鈴の意思を確認してからにさせて下さい」
「そうだね、そうした方が良い」



お燐と鈴のところへ行き、ヤマメが説明を始める。
「えーとね、この子病魔に冒されてるよ、それもかなり進行してる」
ヤマメは余り暗い表情にならないよう、いつもの調子を少し落とすだけにしているようだった。

お燐はえっ?と声を上げかなり驚いた様子だった。

「病魔ってのは取り付いては離れる一過性の奴も居るんだけどさ、静かに根を張って中からどんどんと宿主を喰らう奴も居るんだ。
鈴ちゃんの場合、後者だね。で、そう言う奴は、宿主の弱りそうな暑い時とか、寒い時を狙って活発になる」

丁度冬に風邪のような症状になったので、あれが活発になった現れだったのだろう。

「生まれつきそう言うのを持って生まれる奴もいるし、近くにいる奴が死んでそいつから貰う奴も、まぁ色々とあるんだけどね。
多分こいつはどこか別のところから貰って来てるんだと思う、生まれつきならもうとっくに死んでるはずだからね」

お燐がヤマメに尋ねる。
「た、助かる方法は無いのかい?」
「一応、外から操って取り出す事も出来るけど、これだけ進行してると体力的に持つかどうか。
それにもし持ったとしても何らかの後遺症は出ると思うよ」
どうする?とヤマメが尋ねる。

お燐は暫く迷っていたようだったが、鈴に話しかけて確認を取っていた。



暫くして、お燐と鈴は死ぬ危険が有っても取り出したいと結論を出した。
鈴の意志がそうであれば、反対する理由も無い。私はただそれに頷くだけだった。

お燐はヤマメを見て改めて言う。
「お願いするよ、ヤマメ」
「分かった、じゃあ少しでも早い方が良いし今から始めようか。ああ、お燐ちゃんも一緒に来てくれるかい、人手は欲しいんだ」
「勿の論だよ」

私も何か手伝える事は無いかと尋ねたが、
「良いよ、あんたはどっしりと構えている事さ」
と笑って言った。
人手が足りているのであれば、私の出来る事は何も無い。
言われた通り、何が有っても大丈夫なように心構えをする事にした。



・・・



ヤマメとお燐が鈴の病魔を取り出す手術が始まって既に半日近く過ぎていた。
私もいつ終わるか分からない状態では眠るに眠れないでいた。

私のところに終わった事をヤマメが伝えに来たのは午前九時になる少し前だった。
「一応病魔は全部取り出したんで、もう他に感染する事は無いよ」
「ありがとうございます」
「良いって、私の好きでやってるんだからさ」

「それとこれから鈴ちゃんを診てみるよ。病魔を取り出せたとは言え、余り良い結果は期待しない方が良いかも知れないけどね」
「手遅れ、でしょうか?」
「診てみないと分からないって事さ、私の出来る事なんてその程度のもんだよ」

診るまでは分からないし、診たところで手遅れであれば出来る事は無い。
自分が出来る範囲が分かるだけに、その程度としか言えないのだろう。

「ああ、それと着替えは無いかな?情け無い話、帰るつもりだったから用意してないんだ」
「それでしたら、衣装室を自由に使って下さい」
ペットも多く、ある程度の需要も有るので色々な服を入れてある。
それなりに似合うものも有るだろう。



衣装室へ案内し、好きなものを使って下さいと言った。
「ん、ありがたく使わせて貰うよ」
そう言うと素早く自分に合いそうな服を見繕う。

「お、御誂え向きに白衣なんて有るじゃない」
「大体の服は揃えていますので」
「それじゃ、これとこれとこれ、借りてくね」
「あ、持って行って頂いて結構ですよ」

「良いの?こんなのそうそう手に入らないよ」
手に持った服を指して言う。
「ええ、元々ペット用に用意してあるものが大半なので」
「そうかい。ま、貰えるもんは貰ってくよ」

着替え終わり、私の顔を見たのかヤマメが寝ておく事を勧めてくれた。
「どうせ私もこれが終わったら仮眠を取るつもりだから」
そのまますぐに鈴の様子を見に行ってくれた。
気がかりではあるが、私も暫く眠るとしよう。



・・・



夢を見ていた。

鈴の死に続き、お燐が病で倒れ、次にそれに近しいペットたちがバタバタと倒れる。
地霊殿は閑散とし、隔離されるペットの数ばかり増える。

私といえば、ペットに任せていた事を自分でやらなくてはいけなくなったので、ペットたちなど見向きもせずに忙しい日々を送るだけ。
そんな中で次々と親しくしていたペットの名前が死者のリストに上がっても泣く事も出来ない。

ここで手を止めれば今までの全てを失ってしまう。
とっくに失ってしまったのに、ただそれを認めるのが嫌なだけなのかも知れないが。



余りの不快さにうなされ、目が覚める。
涙が止まらない。
いくら泣いても夢の中で泣けなかった分を取り戻すように、後から後から溢れて来る。

「何て・・・」
何て悪夢だ。こんなもの私は望んではいないのに。
いや、望む望まないに関わらず、あと少しで夢と似たような事が現実に起きていたかも知れない。

きっと次は私かお燐が倒れていた事だろう。
ヤマメには感謝してもしきれない。
その程度の事とヤマメは言っていたが、その事で少なくとも私たちは救われた。



あんな夢を見てもう一度眠る気にはなれなかったので、起きて様子を見に行く事にする。
時計は丁度正午を過ぎて少しと言うところだった。

着替えを済ませ、鈴が居る部屋へ行く途中でヤマメと会った。
「ああ、お燐ちゃんも起きたから、丁度起こしに行こうと思ってたんだ」
「そうですか、わざわざすみません」
「どうしたの?ひどい顔だよ」
泣き腫らした顔を見られて思わず赤くなる。

「いえ、少し嫌な夢を見たものですから」
夢でペットたちが次々と倒れた内容を少し話した。
「そう、きっとそれは夢だったって安心するために心が見せてるんだよ」
「そんなものですか」
現実では無い事を確認するために、あんな悪夢を、あんな醜い自分を見なくてはいけないのだろうか。
これから起こりうる事だったかも知れないだけに、夢と現の区別も付け辛い。

「それじゃ、居間で待ってるから、顔くらい洗ってからおいで」
そう言うとヤマメは居間の方へ歩いて行った。
確かにこんな顔をお燐や他のペットに見られるのも恥ずかしい。



顔を洗い、泣いた跡が目立たなくなったのを鏡で確認して居間へ向かう。
部屋に入り暫くするとお燐も入って来て、私の隣に座ったところで説明が始まった。

「病魔自体は綺麗に取れたよ、もう再発する事も無い」
「そいつは良かった」
ヤマメの言葉にお燐は嬉しそうに返した。

そう言ったヤマメの顔は、やはり明るくない。覚悟はしていた。
「問題は、体の器官が大部分死んでて、もうそう長くないだろうって事なんだ」

お燐が食って掛かる。
「何だいそれ、もう再発もしないんだろう」
「ああ、それは確かだよ、もう再発はしない。けど、病魔を取り除いてから調べたんだ」

そう言って何か書かれた紙を見せる。
「大体の見立てになるけど、器官が死んでるのが黒いところで、生きてるのが白いところだ。今生きてるのが不思議なくらいだよ」
黒が斑状に広がって体の半分以上が黒くなっていた。
「これ、何?何で、こんな事って」
お燐は上手く喋る事が出来ない。

「お燐ちゃん、あんたも猫だから分かると思うけど、猫ってのはどんなに苦しくても、痛くても我慢しちゃう生き物なんだ。だから、大抵の事は手遅れになってからしか分からない」
「治す方法は無いのかい」
「少なくとも私には何とも出来ないし、これだけの状態から元に戻せる奴なんて地底中探しても居ないだろうね」

「じゃあ、何とか別の方法は」
それでも、とお燐は食い下がるがヤマメが制止する。
「お燐ちゃん」
お燐を見据えて言う。
「もう、遅すぎたんだよ。正直、後は残された時間を一緒に過ごしてやるくらいしか出来る事は無いと思って頂戴」
「な、何言ってるんだい、現に病魔は取り除いたし、鈴だってまだ生きてるんだ。生きてる限り遅すぎたなんて言わないで欲しいね。
そうだ、地上には妖怪の賢者とも呼ばれるのが住んでるって話しだよ、そいつに聞けばきっと・・・」

「お燐」
今度は私が口を挟む。

「あなたやこいしが禁を破って地上に行き来しているのは知っています。でもそれを許していたのは今まで地上の妖怪との接触や摩擦が起きていなかったからです」
「・・・」
「もし、そのような大妖に会うために地上へ行くと言う事であれば、許可するわけには行きません」
「でも、でも、鈴は頑張ったんですよ、さとり様と一緒にいるためにって」
「分かっています」
「分かっているなら何で!」
「では、聞きますが、妖怪の賢者に心当たりはあるのですか?あったとして、知りもしないあなたの願いを叶えてくれると言うのですか」
「だって、だって」

ここで諦めさせなければお燐はボロボロになるまでその方法を探し続けるだろう。
無理を通そうとして地上の妖怪に殺されるかも知れない。



お燐は泣きながら言葉にならないながらも、何かを訴えようと必死だった。
そしてそれがたとえ私達に伝わったとしても、鈴が助からない事はお燐も分かっていた。

私は、ただ黙って聞いていた。
ヤマメも同じように、黙って聞いてくれていた。



十分ほどしてお燐はようやく落ち着いたが、一言「失礼します」と言い出て言った。
一人で心を整理する時間が欲しいようだった。

「お燐ちゃんがあんなだからあんたに渡しておくよ」
と言って封筒を渡してくれた。
「これは?」
「鈴ちゃんのこれからの扱い方について書いてある。ま、気休めだね」
そう言って溜息をついた。

「本当に何から何まで」
「あー、良いのよ。私の好きでやってる事だからさ」
お礼を言おうとしたが、面倒だから良いと断られた。

「あなたも、あの橋姫に少し似ていますね」
地上と地底を結ぶ橋に居る、少し強情で照れ屋ながらも極度の面倒臭がりの彼女を思い出す。
「そう?」
「ええ、面倒臭がりなところとか、照れ屋なところとか」
「はは、地底なんざそんな鬱屈した奴の集まりさ」
そう言って鼻を掻いて照れ隠しをする。



「ま、何か有ったら連絡を頂戴な」
「分かりました」
お礼は良いとの事だったので、これ以上は言わない事にした。
「それと」
ずい、と顔を近づけて来る。
「一番心配なのはあんただよ」

「私ですか?」
「そう、中途半端に泣いてるからね。そう言うのは後で響く事が多いんだよ」
「はあ」
「良いかい、鈴ちゃんは恐らく春まで何とか持つだろう。それまで世話をしなきゃいけない奴は大変だよ」
病む身より見る目と言う奴だね、と言う。

「だから、死なれた後はぽっかりと穴が開く。その穴に入って来るのは大抵後悔って奴だよ」
「大丈夫ですよ」
ああすればよかった、こうすればきっと、と言う後悔は今まで何度も経験している。
「・・・まぁ、あんたの事だから大丈夫だと思うけど、何か有ったら『必ず』連絡するんだよ」
「わ、分かりました」
気圧されて思わず返事をしてしまった。

「よろしい、それじゃ帰って本格的に寝る事にするよ」
いつもの明るいヤマメに戻り、あくびをしながら踵を返す。

私は帰って行くヤマメを、地霊殿の外まで見送った。



-続く-
元々お燐視点で書いていたものをさとり視点で書き直しています。
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