「マ~ガンちゃん」
「……何用?」
笑顔のエリスに五つの視線が向けられる。
「あっそぼ~よ」
「……我でなく、サリエル様の元へ行ったらどうだ?」
中心の瞳が細められた。
「私はマガンと遊びたいの~」
エリスは五つのうち一つの眼を掴む。
「は、離さないか!」
「やだ~、サリエル様~これ見て~」
エリスはそれを掴んだまま、走り出した。残りの四つも引きずられるようについていく。
「あら、エリス。マガンと遊んでたのですか?」
「うん!」
「遊んでいないだろ!それよりも離さないか!」
そんな言葉に耳を貸さず、エリスは眼を引っ張る。
「そんなに乱暴に扱うな!このままだと……きゃあっ!」
「きゃあ?」
サリエルとエリスが目を向けた先、四つの眼の下には少女が倒れていた。とても可愛らしい小柄な少女だ。
少女は体を起こすと、サリエルとエリスの視線に気付き、顔を真っ赤にして叫んだ。
「い、いやぁぁぁ!見ないで!見ないでぇ!」
サリエルはただ呆然としているだけで、エリスは手に持った眼を地面に落としてしまった。
「痛いっ!乱暴しないでよぉ……。っ……見ないでってばぁ」
少女は手で顔を覆ってしまった。
サリエルとエリスは顔を見合わせた。
「つまり、貴方がマガンの本体ということですか?」
「うん……」
本体はその場に体育座りをして、うずくっていた。
「今まで全く気が付きませんでしたよ。一体どこにいたんですか?」
「真ん中の眼の裏側にくっついてた……」
相変わらずサリエルの方を見ずに答えた。
「……ちゃんと顔を見せてくれませんか?」
「やだ……恥ずかしい……」
「まさかマガンちゃんの正体がこんなに可愛いなんてね~」
エリスは笑いながら近くの眼に抱き着いていた。
「あっ……は、離してよ……くすぐったい」
「くすぐったいんだ……ふ~ん」
エリスは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「な、何?……ひうんっ!」
本体の体が大きく波打った。
「あはは!面白~い!」
「いやっ!止めてっ!……んあっ!」
「マガンちゃん、可愛い」
「いい加減にしなさい」
楽しそうに眼を弄るエリスの頭をサリエルは持っている杖で軽く叩いく。
エリスは渋々と眼から手を離した。
「ぶー」
「あまりやるとマガンが可哀相ですよ」
当の本体は両手で顔を覆い、地面に横たわっていた。
その周りに浮かぶ五つの瞳もどこか元気が無い。
「マガン、ごめ~ん」
「…………」
「ごめんってば~」
「…………」
エリスは黙って近くの瞳に触れた。
「ひゃあっ!」
「ごめんね」
びっくりして声をあげる本体の顔をエリスは覗き込んだ。
「う……ああ……み、見ないでぇ……」
本体はまたうずくまってしまった。
「重度の恥ずかしがり屋のようですね……」
「可愛いんだけどねー……」
しばらくうずくまっていた本体は、少し顔を上げた。
「サリエル様……」
「どうしました?」
「戻っていい?」
「あ、はい……」
本体はいそいそと立ち上がると小走りで中心の眼に近付いて後ろの方へ回った。
「…………済みました?」
「ああ、完了した」
その声はいつものマガンのものである。
「なんだか変なのー」
エリスはけらけら笑う。
「変とは心外だな。今まで我はこうしてエリスと接していただろう?」
「でもー、ラブリーな本体を見ちゃったら……」
「我はこの姿が本体。他に本体などありはしない」
そう言うマガンの中心の眼にエリスはつかつか近寄っていく。
「せいっ!」
眼の後ろ側を強く叩く。
「ひぐっ!な、な、な、何するの!?」
情けなく地面に落ちた本体は涙目でエリスを見た。
「やっぱり別人みたいー。あ、人じゃないか」
エリスの笑い声が大きくなる。
「もう……意地悪しないでよぉ……」
本体はエリスを恨めしそうに見つめる。
「ごめんごめん、機嫌直してよ」
頭を撫でられて、本体の少し良くなる。
「それとさ、もっとちゃんと顔見せてよ!」
「ひやぁっ!」
本体はしゃがみ込んだエリスを拒否するように顔を手で隠し、再び眼の裏側に戻っていった。
「……エリス、サリエル様、我は少し散歩に出て来る」
「足無いじゃん」
「……あまり我を馬鹿にすると手が出るぞ」
「手無いじゃん」
「とにかく、少し出て来る」
そう言うと五つの眼はふよふよと動いて、行ってしまった。
「あらマガンちゃん。珍しいわね」
少し歩いた……というか動いた所で魔界神、神綺と会った。
ここは魔界なので、当然魔界神もいるということを誰に言うでもなく補足しておく。
まあ、魔界神が屋外をふらふらしているのは問題があるが。
「魔界神がなぜこのような所に?」
「私だってお出かけぐらいするわよ~。ね、夢子ちゃん」
神綺が振り向いた方には、メイドの夢子が困ったような顔で立っていた。
「お部屋にいてくれた方が私は楽なんですが……」
「それはそうとマガンちゃん」
夢子の発言を気にもせず神綺は五つの眼に向き直った。
「……何用?」
嫌な予感がする。
微笑み方がエリスのそれだ。
「マガンちゃんに可愛い本体がいるって本当?」
「……それは誰から?」
「エリスちゃん!」
「……エリスめ」
行動の速さに呆れる五つの眼。
「えいっ!」
神綺はその中心の眼の後ろから本体を掴んだ。
「ひぃぁ!は、離してぇ!」
神綺はそのまま本体を抱きしめる。
「きゃ~、本当に可愛い!」
「いひぃ……夢子さん!助けてぇ!」
本体が夢子に救いを求めると、夢子は本体に向けて手を伸ばす。
「し、神綺様……次は私に……」
「うぇぇ、夢子さん……」
笑顔の神綺から本体を渡された夢子はしばらく眺めていたが、やがて勢いよく抱きしめた。
「ふぎゅう……」
「ね、可愛いでしょ?」
「はい……」
夢子は珍しく素直に肯定し、マガンの頭を優しく撫でた。
「んっ……ふっ……」
本体はまんざらでもなさそうにしている。
「ほっぺた柔らか~い。ほら見て見て夢子ちゃん、ぷにぷに~」
「痛い、いたい~」
頬を引っ張られる本体は涙を浮かべながら言った。
「……本当に可愛いです」
「夢子ちゃんがそんな事言うなんてよっぽどなのね」
マガンは逃げようとじたばた暴れるが、夢子はびくともしなかった。
「離して下さいよぉ……」
「!…………」
涙目の本体を見た夢子は本体を抱き抱えたまま、笑顔で倒れた。
「ゆ、夢子ちゃん!?……なんて破壊力なの……」
「え?え?夢子さん、どうしたんですか?」
「しかも天然だわ……。余計タチが悪い……」
本体は、夢子の手からやっとのことで抜け出す。
「そ、それじゃあ私は……」
そのまま本体は中心の眼の後ろに回った。
「いくら魔界神と言えども次からはこのような事は控えていただきたい」
五つの眼が神綺を睨みつけるが、本体を見てしまった為、恐くなど感じない。
「そのギャップが余計可愛いわよ」
「意味の分からない発言は……」
「もう、分かってる癖に~」
神綺は肘で眼を軽く突いた。
「……結構痛いので止めてもらえないか?」
「ごめんね、でもなんか全体的に弱点っぽいからどこに触れればいいのか……」
「出来るなら触れないで頂きたい」
「次から気をつけるわね。それじゃ、そろそろ夢子ちゃん連れて帰らないと……夢子ちゃ~ん」
神綺は夢子の頬をぺちぺちと叩いた。
「んっ……あ、あれ?」
「夢子ちゃん、そろそろ帰りましょ」
「は、はい!」
慌てて立ち上がった夢子は五つの眼の方を見ると顔を赤くして笑いかけた。
「それじゃマガンちゃん、じゃ~ね~」
「また今度お会いしましょう」
二人が見えなくなると五つの眼はどこからか分からないが溜め息をついた。
「ついに正体が明かされる日が来たか……」
どこか寂しそうにしみじみと言う。
「マガンみ~っけ!帰ろ!」
しみじみとする余裕も無く、本体が走ってきたエリスに抱き抱えられた。
「……え、エリス!?」
「うん、エリス」
さも当然と言わんばかりにエリスは帰すと、本体を無理矢理肩に背負って肩車の状態にする。
「よ~し、ダッシュで帰るよ!」
「ま、待っ……い、いやあああ!速い!恐い!降ろして!」
涙目になりながら本体は叫ぶ。
「すぐに馴れるよ!」
「いや!止まって!エリス!」
本体が涙を流しながら訴えてもエリスは止まらない。それどころか飛び上がり、空中である。
「高い!降りて!」
エリスの後ろを五つの眼が必死に追いかける。
「あはは、楽しい!」
「楽しくないよぉ……」
そうは言っても今までそんなに他人と話すことが無かったユウゲンマガンにとって今日という日はとても印象に残ったのだった。色々な意味で。
マイナーですよね……
最高です!GJと言わざるを得ませんねw
米がしょっぱなから悲しい……。
けどホンタイちゃんも我っ子(でもヘタレ)な方がもっと好みかも。
この調子でみなさん次の人気投票はぜひマガンちゃんに一票を!
>>4
エリス可愛いですよねエリス
エリーと間違えられたりしますけどエリス可愛いです
>>7
旧作は少ないですね……
それにあるものもほとんど怪綺談ですから
いや、怪綺談も好きですけど靈異伝は人型じゃないキャラが良い味出してますよ
>>9
貴方とは朝まで語り合いたい
>>11
魔界に行けば居る筈です。
おそらく簡単に捕まえられるかと。
>>13
そうですねおそらく増えます。
>>17
マガンちゃんめっさ可愛いんで抱かれてもいいです
>>19
次回作にご期待ください(仮)
ユウゲンマガンがすごく
可愛く感じる…!
旧作もいいキャラ多いめすよねー