Coolier - 新生・東方創想話

黒い仔猫の飼い主探し

2010/08/15 04:48:50
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 はぁ~あったかい。

 ママのまっ黒いふさふさの毛にくるまれてるとしあわせだなぁ。
 やねの上はおひさまもポカポカできもちいい。
 もう一ねむりしようっと。


 でも何だかやねの下がさわがしいな。

 え?あれ、ママどこ行くの?

 逃げなさいって何?どういうこと?ねぇ、ママ!!




「奥さん!捕まえましたよ!」
「ああ、それよその猫!黒猫なんて嫌だわ縁起でもない。仔猫もいませんでした?」
「見あたりませんねぇ・・・でも仔猫ならどうせ一匹では生きていけませんから、心配いりませんよ」
「あらそう?じゃあその野猫、ちゃんと処理しといて下さいね。保健所の人に来てもらって良かったわ。ほんっと猫が黒いなんて気持ち悪い」












 んにゃ?

 ふぁ~あ・・・んーーっ・・・。


 またあのときの夢かぁ。


 なんで黒いってだけでいじめられるんだろう。
 アタシわるいことしてないのに。
 ママもわるいことしてなかったのに。

 ・・・ママ、元気にしてるかなぁ。
 会いたいなぁ。



 まあいいや、おなかすいた。

 でもねずみもすずめも速くてつかまえられないし、まただれかに食べものをもらおう。
 っていっても、アタシは「にゃー」しか言えないけどね。
 かわいくおねだりするとやさしい人は何かくれるのだ。


 だれかいないかなぁ。


*************************


 あ、あのおねーさんはやさしそう。
 何かくださいなっ。


 にゃあ

「あら、クロちゃん可愛いわね。お腹が空いたの?」


 むぅ。
 おなかはすいたけど「クロ」って呼ばれるのはイヤなの。
 でもみんなアタシのことを勝手に「クロ」って呼ぶ。
 アタシの名前は・・・ないけど・・・クロなんて名前じゃないもん。


「ふぅん。クロって呼ばれるのは嫌なのね。ごめんね」


 へ?
 このおねーさん、何でそのことを知ってるんだろう?


「私には君の考えてる事が分かるのよ」


 ふえぇ、すごいや。

 じゃあ、何かくださいなっ。


「ふふっ、はいはい。じゃあウチの子の為に買った小魚を少しだけ・・・はい、どうぞ」


 にゃは、ありがとー!


「君には飼い主さんはいないのね」


 かいぬし?
 それなぁに?


「うーん・・・君のことをすごく可愛がってくれて、君に毎日ご飯をくれる人のことよ」


 ママのこと?


「ママとは違うかな。ママじゃないけどママみたいな人」


 ふぅん。そんな人みたことないよ。


「そっか。探してみるといいわ。あなたの飼い主さんになってくれる人を」


 よく分かんないや。
 おねーさんは、アタシのかいぬしじゃないの?


「そうね、なってあげたいんだけどね。私はもうすぐ地底に引っ越さなきゃいけないの。君にはちょっぴり辛い場所なんだ」


 なんだ~。
 じゃあどんな人がアタシのかいぬしなの?


「そうねぇ。ご飯をくれるとかだけで決めちゃ駄目よ。君のことをちゃんと可愛がってくれる人じゃないと」


 むつかしー。


「ふふっ、そうかもね。でもいい飼い主さんに出会えたら、きっと幸せになれるわよ。じゃあ、私はもう行くわね」


 うん!ありがと~。


 かいぬしかぁ。
 ごはんくれる人をさがすついでにさがしてみよっと。


*************************


 おや、いいにおいがするぞ?
 こっちだ!



 あの人だ!
 ふさふさのしっぽがたくさんあるおねーさん!

 食べものちょーだいっ!


 にゃぁん


「あら仔猫さん、こんにちわ」


 おねーさん、こんにちわ!
 さっそくですが、その手にもってるものをくださいなっ。


「よく鳴く仔猫さんね。・・・お腹でもすいてるのかしら」


 ごめーさつ!


「今持ってるのはこの油揚げくらいだけど・・・ごめんね、これはあなたにはあげられないのよ」


 けっちぃこと言わないでちょーだい!ちょーだい!


「欲しいの?うーん・・・ダメ!やっぱりこれはダメ!ごめんね!!」


 え~!
 逃げないでよおねーさん!

 ・・・行っちゃった・・・。

 あの人はアタシのかいぬしだったんだろうか・・・んなわけないか。
 けっちぃ人はきっとちがう~。

 べつの人をさがそっと。


*************************


 だ~れか~だ~れか~ い~ないっかな~。

 あ、あんなところにリュックをせおったおねーさん見つけた!
 そのリュックの中にはどんなごちそーが入っているのですかっ!


 にゃ~お


「ん?クロちゃん、お腹でもすいたのかい?」


 クロちゃんってゆーな!
 でもおなかはすきました。


「困ったな・・・今リュックに入ってるのは・・・」


 おっ!リュックを下ろしてあけている!
 この人は何かくれるんだ!
 何?何をくれるの?


「これ・・・食べる?」


 きゅーり・・・。


「食べたいならお腹一杯食べていいよ」


 リュックいっぱいのきゅーり・・・。
 おねーさん、きゅーり好きなんだね。

 でもアタシはキライだよっ。
 ぷいっ。


「あれ、行っちゃった。やっぱりきゅうりは無理か・・・」



 食べもののシュミがあう人でないと、かいぬしになるのはむつかしー。
 あの人もたぶんアタシのかいぬしじゃないや。

 アタシのかいぬしどこぉ?


*************************


 広い竹やぶだなぁ・・・。
 まよっちゃった。

 アタシはここで何も食べられないまま死んでいくのだろーか。

 だれかいませんかー?
 竹やぶから出してくれる人か、ごはんをくれる人~。
 もしくはかいぬしでもいいですよ~。


「あら、仔猫ね」


 ビクッ!!

 びっくりしたぁ。
 長くてクシャクシャな耳のおねーさん、いつからそこにいたの?


「ごめんなさい、驚かせちゃったわね。仔猫さん、お名前は?」


 名前はまだない。
 でもクロじゃないことだけはたしか。
 クロって呼ぶなよ?ぜったいだぞ?


「そう、クロちゃんって言うの」


 ふにゃあ・・・。


「クロちゃん、お腹すいてる?」


 ・・・ふにゃ?

 すいてます!
 クロちゃんじゃないけどおなかはすいてます!


「クロって名前は気に入ったけど、お腹は減ってない感じね」


 ちが~う!!
 アタシは食べものがほしーの!
 おなかすいたの!

 ちょっとくるぶしをなめてやろう。


「きゃはは、くすぐったい!ちょっとやめてよ、分かったから!」


 ほー。
 では何が分かったとゆーのか見せてもらいましょーか。

 食べものちょーだいっ。


 にゃーご


「あ、そうだ、おむすび食べる?」


 つうじた!!
 食べます!食べます!


「じゃあお師匠様と一緒に食べようか。おいで」


 ええ、ついて行きますとも。
 おねーさんがアタシのかいぬしなのかな?





「ホラ、いたわよ。あれが私のお師匠様。お師匠様~、お昼にしませんか?」
「あらもうそんな時間?うどんげ、薬草は見つかったの?」
「ああ、まあ、そこそこは・・・。それよりお昼なんですけど、この子と一緒に食べちゃダメですか?」


 背の高いおねーさん、こんにちわ!
 いっしょにごはんを食べましょう!


 にゃおん


「うどんげ!!」


 ビクッ!!

 いきなり大きい声ださないでよもぉ。


「ウサギ以外の動物を拾ってくるなっていつも言ってるでしょう!」
「別に飼う訳じゃないですよ、おむすびをこの子に・・・」
「一回あげたら懐いちゃって、どこまでもついて来るのよ!!ネコなんか飼ったって薬の材料にくらいしか・・・。・・・ふむ、薬の材料ね」


 さいならっ!!


「あ、逃げた!」
「お師匠様、クロちゃんは薬の材料じゃありません!」
「でもうどんげ、動物の内臓は薬の材料としてはとても貴重なものなのよ」


 こわぁ。

 どーきょ人がいる人はちょっとこわいなぁ。
 あの人たちもアタシのかいぬしじゃなさそう。


*************************


 あ~あ。
 アタシにかいぬしなんて本当にいるのかなぁ。

 ママじゃないけどママみたいな人って、あのおねーさんは言ってた。

 でも今まで会った人と言えば、自分の食べものを分けたくなくて逃げる人とか、きゅーりしかもってない人とか。
 あげくのはてには、アタシをつぶしてくすりにしよーとする人とか・・・。
 みんなママにはほどとおい。

 あんなにやさしくてあったかいのはママだけだよ、やっぱり。
 ママ、今どこで何してるのかな?
 いつか会えるとは思うけど、早く会いたいな。



「あ、いたいた。仔猫さん、探したのよ?」


 はにゃ?

 おー、だれかと思えばふさふさのしっぽがたくさんあるおねーさん。
 食べものをもってるのにくれなかった、けっちぃおねーさんじゃないですかっ。


「煮干しを持ってきてあげたから、これをお食べ」


 へ?くれるの?いいの?
 けっちぃのに?

 じゃあ食べちゃうねっ。


「さっきはごめんね。油揚げはあなたの体に悪いからあげられないのよ」


 そーなのかー。
 けっちぃからじゃなかったんだね。
 やさしいからだったんだね。
 うたがってごめんね。

 にぼしおいしー。


「やっぱり仔猫は可愛いわねぇ。・・・ちょっと抱っこしてみていい?」


 にゃ?



 にゃあ・・・


 おねーさんのうでの中・・・すっごくあったかい・・・。
 ずっとここでぬくぬくしていたい・・・。



 おねーさん。
 やさしくて、あったかくて。

 ママみたい。


 ママじゃないけど、ママみたいな人。
 おねーさんがアタシのかいぬしだね。
 まちがいないや。



「仔猫さん、温かいね。ずっと抱っこしていたいな・・・そうだ、あなた名前はある?」


 ないよ。
 どうせクロって呼ぶんでしょ?
 でもいいや、おねーさんはアタシのかいぬしだもん。



「そうだなぁ・・・橙!」


 へ?

 ちぇん?
 それアタシの名前?
 クロじゃなくて?


「抱っこしてると、お日様を抱いてるみたいにぽかぽかだから。お日様の色の橙」


 ちぇん・・・おひさまの色・・・。


 うん、いい!!
 おねーさん、アタシその名前すごく好きだよっ!


 にゃ~ぁん


「ふふっ、そう。気に入ってくれたの。じゃあ橙、今日から私達は家族よ」


 うん!かぞく!

 アタシ、にぼし好き!
 ちぇんって名前も好き!
 おねーさんのこともだぁい好き!!


*************************


 ねぇ、ママ

 アタシすごい人を見つけたよ
 ママじゃないけど、ママみたいなの
 やさしくて、あったかいの
 アタシのかいぬしなんだって

 にぼしたくさんくれたの
 アタシのことをクロって呼ばないの
 ちぇんって名前もくれたの
 おひさまの色なんだって

 アタシね、かいぬし大好きになったよ
 ママと同じくらい大好き

 だから
 ママと会えなくてさびしいけど
 これからはきっとへーきだよ

 ねぇ、ママ





 ・・・死んじゃったの?





  了
 その後、藍の健康管理のおかげで橙は長生きし、妖怪になって、藍の式神となります。

 しかし橙が仔猫だった時代に保健所なんてあったのかは内緒です。
 妖々夢の咲夜ルートの会話から、橙は保健所が嫌いなんだろうなと思ってこんな話にしました。
 まぁ五十年もあれば猫も妖怪変化できるでしょう。多分。
アデリーペンギン
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コメント



0.820簡易評価
7.無評価とくめーきぼー削除
いや、とてもいい話ですね。
8.無評価山の賢者削除
野良って飼い主を求めるもんなんですかね?
12.90名前が無い程度の能力削除
飼い主が見つかったのに、どうしてだ切ない……
仔猫の一人称に強く心を揺さぶられました。
16.20名前が無い程度の能力削除
保健所の猫は全部持ち込みですけどね。
19.80コチドリ削除
黒猫は総じて優しくフレンドリーな性格。
それがわからない奥様は俄か決定。
真っ先に生き胆を連想する永琳先生は外道決定。

ああ、実家にいるミャーちゃんのうしろあたまをクリクリしてぇ。