「大変よ霊夢! 幻想郷の危機よ!」
ゆったりとした昼下がり、縁側でお茶を飲んでいた博麗霊夢の目の前に、
スキマ妖怪八雲紫がいきなり現れる。とりあえず反射的に顔面右ストレートをかます霊夢。
景気良く吹っ飛んでいく紫、霊夢は何事も無かったかのようにお茶をすする。
「ひどいわ!」
「いきなり現れるあんたが悪い」
抗議をさらりと流す霊夢。博麗の巫女は何事にも縛られないのだ。
「何の用よ。あんたが来ると面倒な予感しかしないんだけど」
「随分な言われようだけど、面倒な事になりそうなのは事実ね」
「じゃ、私寝るわ」
とっとと家の中に入ろうとする霊夢。
「ちょっと待ちなさい!」
「面倒事なんてあんたがどうにかしなさいよ」
「あなた自分が何なのか忘れてない!?」
「妖怪ぐーたら巫女」
「霊夢ぅー!」
紫の話を意にも介さない妖怪ぐーたら巫女。
しかし紫もこの程度でへこたれてなどいられない。なんせ幻想郷の一大事なのだから。
「とにかく聞いて霊夢、後でお団子でも何でも好きな物を食べさせてあげるから話だけでも聞いて」
「しょうがないわね。聞くだけよ」
霊夢の食い意地を利用して、何とかこの場に留める事に成功した紫。
飽きてまた寝るとか言い出されないうちに話を始める。
「厄介なものが幻想入りしてきたのよ!」
「厄介なもの?」
「そう、その名もインフレ!」
「いんふれ? 何それ? 和菓子?」
「インフレって言うのはね、物の値段が上がっちゃう事よ」
「物の値段が、じゃあ私には何の関係も無いわね。寝るわ」
霊夢は基本的に人からの差し入れと自然の恵みで暮らしていた。
元々賽銭が入らないのだから、物の値段が上がろうが下がろうが関係ない。
「ちょっと待ちなさい! いい、インフレで上がるのは物の値段だけじゃないのよ。例えばね・・・・・・」
「そーなのかー」
説明を続けようとする紫だったが、招かざる客が現れる。
いわずと知れた闇の妖怪ルーミアである。
「私眠いんだから帰って」
霊夢はどこまでも怠惰な巫女だった。
「ダメなのだー」
「じゃあ、あんたも寝なさい」
霊符 夢想封印!
いきなりスペルカードを発動させる霊夢。
しかしルーミアは慌てず騒がず、えい! という可愛らしい掛け声と共に腕を振る。
ただそれだけで、数多の妖怪を滅してきた霊夢の必殺技が弾かれた。
「はっ?」
「やっぱりこうなってたわね・・・・・・」
状況が理解できない霊夢と、苦い顔をしてやっぱりと呟く紫。
「それじゃー いくよー」
相変わらず可愛い掛け声で、ルーミアはスペルカードを発動させる。
夜符 ナイトバード!
無数の、というより視界を埋め尽くすほどの弾幕が霊夢目掛けて襲い掛かる。
しかも一発一発に込められている妖力が半端無い。あんなもの生身で食らったら跡形もなくなるだろう。
「霊夢! 全力で防御しなさい!」
「わ、わかったわ!」
境符 四重結界!
夢符 二重結界!
ルーミアの弾幕は二人の全力の防御をいともあっさりと吹き飛ばし、そのまま博麗神社を瓦礫の山に変えてゆく。
霊夢と紫はぎりぎり境界の中に逃げ込んで事無きを得た。
「いったい何なのよ!」
「気をしっかり持ちなさい! 今の私たちならまだ何とか勝てるはず」
「ああもう! 後できちんと説明しなさいよ!」
「あなたが最初からきちんと話を聞いていれば、とっくに説明は終わっていたわ!」
「過ぎた事を言ってもしょうがないでしょ!」
「・・・・・・なんでこんな風に育っちゃったのかしら」
「「ぜえ・・・・・・ぜえ・・・・・・」」
天地を揺るがす死闘の末に、どうにかルーミアを退けた霊夢達。
負けたルーミアは、そーなのかー、と叫びながら何処かへ消えていった。
地面に座り込む2人。もはや博麗神社は影も形も無くなっていたが、気にかけている余裕は無い。
少し息が落ち着いてきた所で紫が説明の続きを始める。
「インフレの恐ろしさがわかったかしら?」
「どういうことよ? 物の値段が上がるだけじゃなかったの?」
「強さがあがる現象、それもまたインフレというの」
「強さがあがる? じゃあ何で私たちはそのインフレとやらで強くならないの?」
当然の疑問を口する霊夢。
その答えは世にも恐ろしいものだった。
「そこが問題なの。インフレによって敵は勝手に強くなるけど、私たちはそうはいかないの」
「へっ?」
「いい霊夢、私たちが強くなるにはね、『修行』とか『特訓』とかをしなければいけないの」
「なっ何ですってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
『修行』『特訓』・・・・・・いずれも霊夢が大嫌いな言葉である。
およそ努力というものを完全に否定する。それが当代の博麗の巫女だった。
「イヤよ・・・・・・私、修行なんてしたくない・・・・・・」
「しかもね、一回修行すればそれで終わり、じゃ無いのよ。
やっと強くなって敵を倒したかと思ったら、更に強い敵が現れるの。
そしたらまた修行しなければいけない。それが未来永劫続く。これこそがインフレの本質よ」
「イヤーーーーーーー!!!!」
頭を抱えて絶叫する霊夢。
「何とかならないの!」
「今ならまだ手はあるわ」
「ホント!」
「ええ・・・・・・でもそのためには、あなたには屈辱に耐えてもらわなければいけない」
「大丈夫よ。私、修行しないためなら何だってするわ!」
とびっきりの笑顔で紫の手をとる霊夢。
そんな霊夢の顔を見ながら、次の巫女はしっかりと教育しよう、と心に誓う八雲紫であった。
境界を抜けると、そこは紅魔館の廊下だった。
「こんな所に来てどうするのよ」
「インフレをどうにかするには、ここの吸血鬼の力が必要なの。
というわけで案内してもらえるかしら。実はここ初めてなのよ」
「しょうがないわね」
紫を先導して廊下を歩いていく霊夢。
途中妖精メイド達が泡を吹いて倒れていたが、よくあることだろうと気にせず先に進む。
やがて一際豪華な扉の前で足を止めた。
「ここがレミリアの部屋よ」
そう言ってノックもせずに扉を開ける。
「ちょっと待ちなさい! そう無防備に・・・・・・」
直後、2人は重圧に押しつぶされた。
「なによ・・・・・・これ・・・・・・」
「予想はしてたけど・・・・・・なんという・・・・・・カリスマ」
「あら珍しい組み合わせ、でもないか。久しぶりね霊夢、そして八雲紫」
恐ろしいまでの重圧の中、館の主レミリア・スカーレットは平然と王座に腰をかけていた。
目が合っただけで意識が持っていかれそうになる。たまらず俯く霊夢。
「今日はあなたにお願いがあってきたの」
「八雲紫からお願いされるなんて珍しいこともあるものね。いいわよ、言ってみなさい」
「実はね・・・・・・」
「私をバカにしているのかしら?」
話を聞き終わったレミリアはそう呟いた。
それだけで2人に掛かる重圧が5倍増しになる。
「くっ・・・・・・」
たまらず膝を突く2人。とても立ってはいられなかった。
「ふざけるのも大概にしてほしいわ」
「ふざけてなんていませんわ。幻想郷のためにどうしても必要な事なの」
床に這い蹲りながらも、レミリアから目を逸らさず懇願する紫。
その様子に気を良くしたのか、レミリアはにんまりと笑う。
だが、次に出てきたのはとんでもない要求だった。
「そうね、それじゃあ私の足を舐めなさい。
そしたらやってあげるわ」
そう言ってレミリアはすっと片足を前に伸ばす。
「なっ!」
言葉を失う霊夢。しかし・・・・・・
「その言葉に二言は無いわね」
「レミリア・スカーレットの名において約束するわ」
その言葉を聞くと、紫は床を這い蹲りながらレミリアに近づく。
「紫、何バカなことを、やめなさい、ねえ紫!」
霊夢は重圧に押し潰されそうになりながらも叫んだ。
だが紫の歩みは止まらない。そしてレミリアの前までくると舌を伸ばし・・・・・・
目を背ける霊夢、思わず一筋の涙が流れる。
そんな霊夢に紅い悪魔は無慈悲にも声をかけた。
「次は霊夢の番ね」
「あ・・・・・・」
「早くしてくれないかしら。足が疲れるのだけれど」
紫の行為を無為にする選択肢など、霊夢には残されていなかった。
5分後
屈辱に震え、留処なく泣き続ける霊夢。
「あははっ、最高にいい気分だわ」
「約束は守ったわ。はやくなさい」
笑う悪魔に感情を押し殺した声で話す紫。
「わかってるわよ。しっかりと見てなさい」
そう言ってレミリアは両手を軽く握り胸の前で合わせる。
そして満面の笑みで、
「れみ☆りあ☆うぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーー!!!」
と思いっきり叫んだ。
その瞬間、幻想郷が変わった。
気づけば、部屋の重圧は消え去っていた。
「さくや~ さくや~ ご飯まだ~」
先ほどよりもなんか縮んだ吸血鬼がパタパタとどっかに飛んでいく。
しばらくして八雲紫が天井を、いや、その先の空を見上げながら立ち上がる。
「思ったとおりね。幻想郷の空気を『バトル』から『ギャグ』に変えてしまえば
強さのインフレなど何の意味も無くなる。これで幻想郷は救われたわ。
霊夢・・・・・・よく、頑張ったわね。ありがとう。今の私にはそれしか言えないわ」
スキマを開き何処かへ消えてゆく八雲紫。
最後に残されたのは、怠惰な日々と引き換えに、色々なものを捨て去った哀れな巫女だけだった。
でも、この後はきっとカリスマブレイクのインフレが起こるんですよね!
ギャグに変えるだけなら別にレミリアじゃなくても良かっただろw
紫がアイドルデビュー(17歳)を幻想郷で宣言するだけで良かったのに
レミリアの足を舐めてでもそれは出来ないのかバb(スキマ送り
好きな子は虐めたくなるという心理ですかね。