Coolier - 新生・東方創想話

日本晴れ

2010/08/11 23:54:00
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 ああ、それにしても、雲ひとつ無い良い天気である。気温も程よく、午後の風が気持ちいい。
 紅魔館の門前は日当たりも風通しもとても良い。今日はあのモノクロ強盗も、パチュリー様と共に魔法の森の人形遣いの家へ出向いている。
 久々に侵入者の心配をせずに、思いっきりシエスタ(昼寝にあらず)できる。
 幻想郷は全てを受け入れる、とはあのスキマ妖怪の言葉だそうだが、ずいぶんと良い事を言うではないか。実に幻想郷的だと思う。紅魔館もその寛容な姿勢を取り入れるべきだ。
普段の私を正当化し、真っ赤な壁に寄りかかり目を瞑る。うつらうつら、睡魔が襲ってきた。
 いい感じに脱力してきたところに、こちらへ向かってくる足音。館から聞こえてきたから、お嬢様が博麗神社にでも行くのだろうか?流石に寝ているのはマズイ。

「美鈴ー?美鈴ー?」 
「ふぁあ……あれ?咲夜ですか」 
「あらあらまた昼寝? 夜の睡眠が足りないんじゃないかしら。仕事はしっかりやりなさいな。せっかく差し入れを持ってきたのに」

 十六夜咲夜、紅魔館のメイド長である。幼少の頃にお嬢様が拾ってきて、名前を付けて後は私に一任。投げやりと言えば投げやりだが、私は、咲夜を任されたことについては、お嬢様にとても感謝している。人間の成長を見守ると言うのは楽しい。それが有能な者ならなおさらである。そんなこんなで咲夜はすっかり成長し、今や私を抜いてお嬢様の側近、メイド長。
 差し入れと言ったか、確かに手にバスケットを持っている。この時間、咲夜は仕事中のはずだが、わざわざ休憩を取って来てくれたのだろう。持つべきものはいい同僚だ。稀にナイフが飛んでくるのには注意しなければいけないが。

「昼寝ではなく、シエスタです。差し入れ、気になりますね。お菓子とかだと嬉しいんだけれど」
「同義語じゃない。はいどうぞ」
「くれるんですか?」
「眠気覚ましにナイフをね」 
「冷たいなぁ」

 結局普通にバスケットを受け取り、中に入っていたクッキーをつまむ。一口サイズで、味付けも私好みの素朴なものだった。

「うん、おいしい。ありがとうございます」
「それはどうも。気に入ってもらえて何より」
「そういえば、いつもどこで材料買ってるんですか?」
「そうね、そりゃまあ人里よ。魔法の森の香霖堂にもたまに行くわね。あそこは珍しい食器が置いてあったりするし。ホントに実用的なものは店主が囲って、売り物にしないって噂だけど」
「香霖堂ねぇ……そんなに珍しい物があるのなら、魔理沙の強盗に遭いそうな気がする。大丈夫なのかな、そこの店主さんは」
「ぷっ、あはははは、目の付け所が良いわね美鈴。そう、いかにも魔理沙に狙われそうな店なのよ。」

 急に咲夜が笑い出した。どうしてしまったのだろう、いつもお嬢様の紅茶に盛っている得体の知れない植物に、咲夜もやられてしまったのだろうか。
 お嬢様たちや私と違って脆いのだから、その辺の自己管理はしっかりしてもらいたいところである。

「急に笑い出さないで下さい。不気味ですよ。まあ、それはともかく、今度一緒に人里や、その香霖堂に行ってみませんか?」
「あら美鈴、デートのお誘い?」 

 瀟洒に笑う咲夜。ここで軽く流して話を続けるのが正しい選択肢なのだろうけど、なんだか、普段私がよくからかわれていることへの意趣返しをしてみたくなった。思い立ったら即実行。抵抗する間も与えず、両腕で咲夜を思いっきり抱き寄せる。

「え?ちょっと美鈴、何するの。や、やめなさい!」

 私の豹変に、咲夜が離れようとするが、もう遅い。咲夜を腕に抱いたまま、出来るだけ真剣な表情を形作り言う。

「デートだなんて……やっと、やっと私の気持ちに気づいてくれたんですね。 大好きです、一生離しませんよ、咲夜 」

 私が本気だと思ってしまったのだろう、固まっていた咲夜だが、数秒後、赤より紅く顔を染めて口を開く。

「なな、ななななな……あ、あ、あなたはバカなの!? 急に、にゃ、にゃにいってるのよ! そんな、私が好きって……」 

 効果は抜群だったようだ。かみかみで呂律がまわっていない。パチュリー様、咲夜の猫度がアップしましたよ!
 涙目で頬を真っ紅に染めて、首を振っていやいやという同性でも魅了されてしまいそうな仕草。もしかして、好きな相手でもいるのだろうか。だとしたら、やっぱり今の私は怖かっただろうな。咲夜はそういうこと、かなり意識しそうだし。早く謝って、誤解を解いてやらなくては。

「咲夜、咲夜、ごめんなさい。そんなに動揺しないで落ち着いて。冗談ですよ。ちょっとからかおうと思っただけなんです」
「うぅ……」

 背中を撫でで気を送り、落ち着かせる。
 自分から仕掛けたくせに、このテンパりようだ。やっぱり想い人がいたんだろうな、どんな人だろうか。野暮なことだが気になってしまう。

「それで、人里めぐり、どうします? お菓子の材料とか気になりますし、休みが重なったら行きましょうよ、ね?」
「そ、そうね。ぜひ行きましょう。一緒に買い物するのは楽しそうだしね。」
「ええ、きっと楽しいですよ。そうだ、さっきのクッキー、その日にレシピ教えてくださいよ。咲夜へのお返しもしたいですしね」
「お返しだなんていいわよ。あれは私の気まぐれよ、気まぐれ」
「つれないですねぇ。それにしても楽しい休日になりそうです。うんうん」

 クッキーを教わったら、館や湖の妖精達に振舞ってあげようか。どんな味付けがいいだろうか?やっぱり甘めがいいかな、いや、確か庭担当の妖精メイドの中には甘いのが苦手な子もいたはずだ。ビターチョコなんかも使ってみようか。

「あ、あのー、美鈴? 」
「ん?ああ、何ですか?咲夜」

 物思いにふけっていると、咲夜が話しかけてきた。黙りすぎていたかな?それにしても、なんだか様子がおかしい。少し赤面しているようだが。

「え、えーっと……さっきのって、やっぱり、本当に全部冗談なの……?」
「さっき?なんのことです?」
「い、言わせないでよっ。その、美鈴が言った、私のこと大好きー、一生離さないーって。女同士だけど、わた、私としては、美鈴が本気なら――」

 どうやら、私が思っていた以上にさっきのことを引きずっていたようだ。咲夜が安心できるようにと微笑んで言う。

「だから、そんなに深く受け取らないでいいんですよ? それにきっと、あなたには本当に好きな人がいるのでしょう? まあ確かに、ずっと紅魔館の皆と一緒にいたいって言うのは紛れもない本音ですけどね」
「……鈍感」

 あ、あれ?なんだか不機嫌そう。っていうか館側に帰ってしまっている。待った待った、まだ人里めぐりの段取りを決めてないじゃないか。流石に持ち場を離れることは出来ないので、叫んで伝える。

「咲夜ー!! 絶対、ぜったい行きましょうねー! 次の休みですよー!」

 その時、咲夜の歩みが少しだけ止まった。良かった。段取りも何もないのだが、ちゃんと聞いてくれたみたい。
 機嫌を損ねてしまったお詫びに、あの綺麗な銀髪によく似合う髪飾りをあの人形遣いに作ってもらおう。彼女の器用さはパチュリー様のお墨付きだ。きっと、仲直りできるだろう。

 


 相変わらず、ここはとってもいい天気。
 この快晴のように、私と咲夜、それに紅魔館の皆の未来が明るくありますように、なんて悪魔の館に似合わない願掛けをして、妖精メイドに留守を任せ、私は魔法の森へ飛んだ。
どうもはじめまして。MG_Lieと申します。咲夜は忠誠心のある猫だよ派です。
誤字脱字報告、批判批評アドバイス大歓迎です。
最後まで読んでいただいた方々、こんな拙作ですが、本当にありがとうございます。
MG_Lie
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コメント



0.1730簡易評価
17.100名前が無い程度の能力削除
続編をお願いしますw
18.80名前が無い程度の能力削除
続き期待
27.80名前が無い程度の能力削除
文章はきちんとしているし、お話の方も良い感じだなぁと思いましたが、
ちょっと物足りなかったです。
他の方と同じになっちゃいますが、続きに期待してます。