Coolier - 新生・東方創想話

精確なこと

2010/08/10 04:53:21
最終更新
サイズ
5.25KB
ページ数
1
閲覧数
1135
評価数
6/19
POINT
1130
Rate
11.55

分類タグ

科学の発展は時計の歴史でもある。
高性能の時計ができることにより、科学の検証は高度なものが可能になるからだ。
人類が月面旅行を比較的安価にできるようになった今、また一つ時計の歴史が増えることになる。

協定世界時の基礎となる国際標準がセシウム原子時計から、中性子星の自転を利用した中性子星時計に変わったのである。

この出来事は、月面旅行のように世間を騒がせることは無かった。行けるかどうかも分からない月旅行に胸躍らせることはあっても、
その鼓動を計る基準には、あまり関心がないらしい。

ただ、秘封倶楽部の宇佐見 蓮子はこの出来事にひどく興奮していた。



「メリー、ついに私の能力が世界に認められたわ。」
私はコーヒーを飲んでいるマエリベリー・ハーンに今朝の新聞の記事を見せる。
「それでも蓮子の目が特異だということには代わりがないでしょう。」
メリーの意見はもっともだが、私の星を見ただけで正確な時刻が分かるという能力と同じことが世界基準になったことが、まるで自分が認められたことの様に感じるのだ。
研究者ではないが、物理学を専攻している身としては、自分の常識が世界に認められるということは嬉しいことなのである。
「でも意外ね。てっきり蓮子のことだから、自分の能力が科学でも、できるようになってショックを受けてると思ったのだけれど。」私と新聞を見比べながらメリーは呟く。
「そんなことある訳ないでしょう。星を見て時間を計るなんて、昔から行われていたもの。めずらしくともなんともないわ。」
新聞の中性子星時計の正確さについて書いてある部分に指を刺しながら話しを続ける。
「問題は正確さよ。今までは、原子時計は3000万年に1秒の誤差だったけど、今度は1億年に1秒の誤差になったの。お陰で特殊性相対性理論の研究や量子論なんかの研究が進むわ。私の専攻している超統一物理学にも、もちろん関わることだし。どんなに私の能力が精確だろうと、それがあっているか確認するもが必要だもの。」
私が一気に話を終わるのと同時にチャイムがカフェテリアになり響く。
「貴重な休み時間が蓮子先生の講義で終わってしまったわ」
「おかしいな?まだ、時間はあるはずだけど。」空を見上げるがまだ、星は出ていない。
「不便な時計ですこと。」皮肉をいいながら、メリーが席を立つ。
「精確だから周りとずれてるのよ。」


次の講義に行ったメリーと別れて私は学校を出た。講義をおとなしく聴けるほど私の興奮は冷めてはいないのだ。メリーの講義が終わる頃には、空に一番星が見える筈である。
私は一人、博麗神社に向かうことにした。この辺で一番星が綺麗に観えるのはあそこだろう。何故か、今日は星を見ただけで正確な時刻が分かるという能力を使いたくてたまらない。
急かされるように目的地を目指す。

「4時35分」
石段を登りながらベルトの部分が色褪せた腕時計を見る。あと、15分もすればメリーの講義は終わるだろう。私は博麗神社の鳥居の前で立ち止まり、空を眺める。
「4時32分ジャスト」
次に携帯を取り出し、時報を聞く。
「4時32分22秒」(4時32分22秒)
時報と私の目が正確な時刻を一緒に刻む。どうやら、腕時計がずれていたらしい。時計を私の時間に合わせる。この時計を使い始めてからどれぐらい経つだろうか。
私の星を見ただけで正確な時刻が分かる能力がどれほどの精確なのかを計るために買った時計。当時の商品で一番精確な時計で高かったのを覚えている。
ただ、いつ買ったのかを思い出せない。小遣いを貰い始めたのが中学生からだから、それ以降ということになるのだが思い出せない。精確な時間が計れても、記憶は精確に記録出来ていないのだ。なんとも中途半端だなと思い、笑ってしまう。


目的は達成してしまった。さて、これから何をしようか。秘封倶楽部の活動は、メリーがいなければ活動することは出来ない。私だけでは、オカルトスポットに来ても何も起こらない。
星を見て時間を、月を見て今居る場所が解る能力をもつ私には迷子になる方法がないのだ。



「5時33分45秒」私、調べ。
結局、私はそこから足を踏み出すことなく、一時間が過ぎた。一度、メリーからメールが来たので空の写真を撮り、それだけを添付してメールを返した。それから、返事は来ない。意味不明な行動に怒ったかな?



「6時55分12秒」私、調べ。
流石に寒くなってきたので、帰ろうかと思う。


「やっぱり、ここにいた。」石段の下にメリーが来ていた。
「よく、ここが分かったわね。メリーも空を見て居場所が分かるようになったの?」
メリーは溜息を吐きながら石段を上ってくる。
「残念だけど、私はそんな気持ち悪い目を持っていない。それにあなたの写真はぶれていて、月も星もわからなかったわよ。」
「じゃあ、電波でも受信したの?」人差し指をメリーの頭に向けながら問いかける。
「ぶれていたけど鳥居が写ってたのよ。蓮子が行きそうな神社って、ここぐらいしか思いつかないもの。」
私は関心したように見つめる。メリーは能力なんかなくても迷子にならないのかも知れない。
「ところで、蓮子。博麗神社に居るってことは、サークル活動するのかしら?」メリーが手を差し出す。

私たちは2ヶ月前に博麗神社で神隠しに遭った。もちろん、自ら進んでだ。私たち霊能者サークル秘封倶楽部は、徐霊や降霊などはしない。ただ、結界を暴くサークルだ。
私が場所を調べ、メリーが見つけて、二人で飛び込む。実に計画性のある神隠しである。

「今日はしない。迷子は見つかったら素直に帰るものよ。」メリーの手を掴みながら答える。
「そう、なら帰りましょう。寒くなってきたし。」
私は空に浮かぶ月を眺める。
「7時00分ジャスト。」私は石段を降りながら、時刻を教える。
「そう、やっぱり便利な時計ね。ちょっと気持ち悪いけど。」そう答えると私の手を強く握り返す。
「そういえば、メリーは時計ってしないね。」冷えた手にメリーの暖かさが心地いい。
「必要ないでしょう。あなたがいるもの。」なんとも照れ臭くなる発言だなと思う。私は時計を弄り、時計が進むのを止めた。
「この腕時計もお役目ごめんね。私のがずっと精確だし。」そう呟く、私にメリーは戯けたようにたずねる。
「蓮子がずれてるかもよ?」
「精確だからね。周りからずれるのよ。」
そういうと私たちは笑った。


「ほんと、蓮子といると退屈しないわ。これは精確に言えることよ。」


fin
生まれて初めて、書きました。
色々と反省してます。

読んでくれた方、本当にありがとうございます。
鳴風
[email protected]
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.610簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
とても雰囲気が出ていていい感じです。何気ない日常の一コマながらも、秘封倶楽部<らしさ>が滲み出ていました。
蓮子の「精確だからこそ周りとズレている」という表現に感心。
4.100名前が無い程度の能力削除
なにこの秘封ラッシュ…
上のコメと被るけど蓮子の「ズレてる」が上手いなぁと。
短いながらも綺麗なお話でした。面白かったです。
6.80名前が無い程度の能力削除
メリー「精確だから周りとずれてるのよ。」
この表現気に行ったけど上コメと被りまくりサーセンw

生まれて初めて書いたんなら多少短くても仕方ないな
またゆっくりでいいから次作にも期待していいかな?秘封で手ごたえを感じたならば秘封でもういっちょ!
7.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです
9.80名前が無い程度の能力削除
ぜひ次も書いてください。
13.80名前が無い程度の能力削除
よい秘封でした。
蓮子の能力と中性子星時計の設定は新鮮で面白かったです。