Coolier - 新生・東方創想話

リンゴ飴のように

2010/08/08 00:05:08
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今日の人里はいつもとは比べ物にならない賑わいを見せている。
それもそのはず、今日は人妖共に待ちに待った夏祭りの日だからである。

今日を迎えるまで、人間のみならず、妖怪達も祭りのお手伝いをしてきた。
大きなやぐらを組み、屋台に必要な木材や材料の調達を行ったり、夏祭りを盛り上げる為の話し合いなど、何度も行われてきた。
電気機器などは河童の技術を借りて、さらに便利に祭りを進められるようになった。

また、夏祭りの前には風鎮祭が行われ、風を鎮めて豊作を祈る。
その風鎮祭では、和太鼓の演奏に合わせて、博麗の巫女が舞う。
よって、それの打ち合わせや、実際の演奏に合わせての練習も幾度となく行われてきたのだ。


そして、現在。
色とりどりの提灯が宙にぶら下がり、ほんのりと柔らかい光が揺れている。
ところどころ、夏風に揺られたせいか、炎が提灯に移り、燃えてしまっているものも見える。
屋台も沢山立ち並び、既に子供たちが浴衣を着て盛り上がっている。
そんな、屋台の立ち並ぶ通りを超えていくと、大きなやぐらが見えた。

「夏祭りなんて何年ぶりかしら」
「さぁね。でも、とっても昔だってことくらいは解るね」
「昔と違って、人間も妖怪も一緒になって夏祭りを盛り上げている……。私が理想した世界が少しずつ現実に近づいている証拠でしょうか」
「そうかもねぇ」

ここに、浴衣姿の二人の女性がいる。
背中に何と言えない、羽のようなものが付いている黒髪の少女。
そして、とても浴衣が似合う、柔らかい笑みを浮かべた女性。
命蓮寺に住む、ぬえと聖である。

長い封印から復活を遂げた聖は、人間と妖怪たちが協力して夏祭りを開催するというのを聞いて、喜んで参加することとした。
他の命蓮寺の連中は、祭りのお手伝いとして参加しているため、純粋に祭りを楽しんでいるのは、ぬえと聖だけとなっている。
二人だけになっているのには、ちゃんと理由がある。





祭りの前まではぬえも聖も手伝っていたのだが、今日になって、

「聖とぬえはいいよ。お手伝いは私たちだけで十分だ」
「聖はわかるけど、何で私もなのよ」
「ぬえは単純に邪魔だからだよ。お前さんがいたら何があるかわからんからね」
「ナズーリン……ッ!!」
「まぁまぁ、そう怒らないの、ぬえ。ナズーリン、ちょっと言い過ぎよ」

ナズーリンのいつもの少し突き放すような言葉に、ぬえはむきになる。
これもいつものようなやりとりで、それをいつものように止める聖。
聖の制止に、すまんねと謝るナズーリン。
ぬえは相変わらず頬を膨らませているが、それをナズーリンは無視する。

「久々の夏祭りだろう。楽しんでくるといい」
「いいのですか? まぁ、夏祭りを楽しみたいという気持ちは山々ですが……」
「気にしなくていいよ。たまにはぬえと二人で楽しんでおいで。ぬえもそれを楽しみにしてたようだからね」
「なっ!? 何言ってんのよナズーリン!」
「照れ隠しかい? 前々から聖と一緒に行きたいって言ってたじゃないか。ぬえも楽しんできな」
「うぅ……」

ぬえは赤く顔を染めながら、ナズーリンをじっと見つめていた。





黒い浴衣に、赤や青の花火が咲き誇っている浴衣を着ているぬえ。
頭の方に可愛らしいお面を付けて、聖の手をぎゅっと握って歩いている。
まるで保護者と子供のように見える。

黒い浴衣に、黒い髪。
それに加え、辺りが段々暗くなってきているため、ぬえは目立ち辛い。
しかし、うっすらと残り夕暮れの色同様に、顔が真っ赤に染まっていた。
そんなぬえの表情を見て、聖は声をかける。

「大丈夫? 夏風邪でもひいたのかしら」
「そ、そんなことない! ちょっと暑いだけ!」
「そう? ならいいんだけど」

ゆっくりと歩いていくと、やがてやぐらの前についた。
和太鼓が並べられているのを見るや否や、向こう側に見なれた服が見えた。
赤と白で、脇を出した独特な服。
博麗の巫女、博麗霊夢はそこにはいた。

まだ人があまり集まっていなかったため、よく見える前まで二人のところまでいく。
はっぴを着た男たちが、鉢巻を巻いて、撥を持っている。
霊夢は手に金色でぴかぴかのチャッパを持っており、静かに目を閉じている。
少しばかり化粧をしているのだろうか、非常に美しく見えた。

辺りはいつ始まるのかとざわめいている。

「一体いつ始まるのかしら?」

聖はぬえに問いかける。
それに対して、扇子を仰ぎながらぬえは答える。

「そろそろ始まると思うんだけ――」


ドンッ……、ドンッ……。


和太鼓の低い音が人里の広場一体に広がった。
シーンとした雰囲気の中、男たちが撥を大きく振り上げる。
その瞬間だった。

「ハッ!!」

男たちの掛け声に交じって、霊夢も大きく声を張り上げる。
後ろに髪を一つに括ってあり、ポニーテールになっている。
そのポニーテールが上下に大きく揺れ、手に持ったチャッパを擦るようにして鳴らす。


チャンチャン、チャチャン


素足で踊りながらチャッパを叩く霊夢の表情は、とても明るかった。
音楽に合わせて上下左右と地を蹴り上げ、跳ねる。
腕をしならせ、腰を振って、音楽を体で表現する。
様々な太鼓から溢れる音に合わせて、チャッパの音を小さく、あるいは大きくする。

大きな裾が踊りと共に大きく揺れ、バタバタと音を立てる。
全てが音楽と一体化し、祭りの始まりを告げていた。

「あら~綺麗ねぇ」
「……」

聖のその声に対し、ぬえは何も返さなかった。
聖は熱心にというか、夢中になって霊夢の姿を見ている。
ぬえは、それが気に食わなかったのだ。
ぬえも、霊夢の方をじっとみる。
確かに綺麗で、美しいと思った。

だからこそ、尚更気に食わなかった。

「ねぇ聖。屋台の方へ行こうよ」
「なぁに、ぬえ。そう焦らなくてもいいじゃない。夜は長いのよ?」
「で、でも。ねぇ~屋台いこ~よ~」

聖の腕を引っ張るぬえ。
ぎゅーっと腕に抱きついて、引っ張る。
すると、聖は困ったような表情を浮かべる。
思わずぬえは腕を離し、俯く。

「どうしたの、ぬえ。さっきから様子がおかしいわよ」
「え? べ、別におかしくなんかないよ!」
「そうかしら? まぁ、屋台のところに行きたいって言うんならいきましょうか」
「う、うん……」

ぬえは聖の手を握ると、ゆっくりとその場を後にした。
しばらく、後ろの方から聞こえる和太鼓とチャッパの音が絶えなかった。





いつの間にか空の色は濃く、星が輝いていた。
浴衣を着た人々も増え始め、スピーカーからは絶えず音楽が流れている。
ぬえは、聖と腕を組みながら歩く。
優しく微笑む聖に、ぬえは問う。

「ねぇ、聖」
「なぁに、ぬえ」
「聖は私の事、どう思ってる?」
「どうって、大切な私の仲間ですよ」

ぬえの質問に対し、一瞬呆気を取られたような顔をしたものの、すぐにいつもの笑顔に戻った。
穏やかにそういってみせる聖に、ぬえは物足りなさのようなものを感じた。
誰にでも振りまく、その柔らかくて優しい笑み。
少しでも、私の為だけに笑ってほしい、そんな思いがぬえの中に渦巻いた。
抑えきれない感情を胸に、ぬえは言った。

「私の事、好き?」
「えぇ、好きよ」

思い切って訪ねたぬえの質問に、聖はなんともなく返した。
ぬえの思う好きは、恋愛的なもので、友好のようなものではない。
しかし聖は、後者の方だと思って返している。
じだんだを踏む思いを殺して、ぬえは聖の肩を掴んだ。

「好きなら、私を見つけてくれる?」
「え? ちょ、ちょっとぬえ?」
「私が好きなら、この中から見つけ出せるよね」

いきなり訳の分からないことを口走るぬえ。
ぬえの言うことが理解出来ない聖は、当然のことながら唖然とするのみ。
しかしながらぬえの表情は本気そのものである。
それゆえに尚更聖は首を傾げた。

「私、待ってるから!」

そういって、ぬえは闇の中に落ちていく。
能力を使い、姿が見えなくなった。
きっと、人ごみにまぎれ、どこかへ隠れるつもりなのだろう。
聖は、頬を人差し指で掻いた。

「どうしましょう……」

困ったように、聖は呟いた。





一方で、ぬえは人ごみの中をしばし歩き続けた。
しかし、人ごみの中は疲れるもので、すぐに人ごみの中から出た。
真っ赤な布が敷かれた椅子の上にゆっくりと座る。
ふぅと一息ついて、辺りを見回す。
そこには、浴衣を着ておしゃれをした女の子や、カップル達など、たくさんいる。
その中に聖を探すも、見つかるはずもなかった。
これだけ沢山の人がいれば、ぬえを探すのも、聖を探すのも難しい。

「……ちょっとやりすぎたかな」

やりすぎたというより、感情が暴走しすぎてしまった。
というよりも、ただただ自分の思いが空振りしたようがしてならなかった。
そんな感情を抱きながら、ぬえはまた人ごみを見る。
聖の姿は見えない。
もしかしたら、聖は必死になって私を探しているかもしれない。
そう思うと、ぬえは何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「どうしよう……」

今更ながら不安になったぬえは、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
だけど、あんな風に言ったのに、今更なんて言えばいいかぬえには解らなかった。
そして、力なくまた椅子の上に座った。
あんなに楽しみにしていた二人きりの祭りだったのに、今はなんだか楽しくない。
それもこれも私のせいだと、ぬえは自分を責めた。

「ごめん、聖」

スピーカーの音楽が鳴り響く中、ぬえは一人呟いた。
結局私は臆病者で、正直な気持ちも言えないへたれでしかなかった。
ぬえは俯き、はぁと溜息をつく。

「何を溜息ついているんですか、ぬえ」
「へ?」

ふと後ろを見ると、いつものような優しい笑顔が素敵な聖がそこにはいた。
手には二つのリンゴ飴を持っていた。
ぬえの隣に座ると、片方のリンゴ飴を手渡した。

「ぬえ、リンゴ飴好きでしょう? あなたの分も買ってきたわ」
「う、うん……。あ、あの~、聖?」
「なぁに?」
「あの……怒ってない?」

恐る恐る聖に尋ねると、聖はあの柔らかい笑顔を浮かべていた。

「怒ってないわ。ほら、見上げてみなさい」
「え?」


ヒュー……バァン!


空に大きな花火が打ちあがり、色とりどりの美しい花が咲き誇る。

「ぬえ、昔から花火見るの好きだったでしょう? この時間に間に合うように頑張って探したのよ?」
「うん……。ごめん、聖」
「いいのよ、ぬえ。私は、悪い事はよくするけど、ちゃんと最後には謝るところが好きよ、ぬえ」

ぬえの頭を優しく聖は撫でた。
ぬえが昔から花火が好きだったことを、聖は覚えていたのだ。

「来年は皆で夏祭りに行きましょうね、ぬえ」
「うん、今度は皆で行こう」

結局、ぬえは正直な気持ちを聖に伝えることができなかった。
だけど、いつかは本当に好きなんだっていう気持ちが伝わるはずだ。
そう信じて、今は二人きりの雰囲気を楽しんでいようと思う。
来年には、きっと。

ぎゅっと二人で結んだ手と手。
大きな花火が空に打ちあがっていた。
私の願いがかないますようにと、花火を見つめ、思った。

ぬえは、聖からもらったリンゴ飴を舐める。
それはとてもとても甘くて。

いつかこんな甘い関係になれればいいなと、ぬえは思った。
はいどうも、へたれ向日葵です。
夏祭りに関してのネタは沢山溢れ出てきます。
だけど、夏祭りばっかりじゃだめなのでネタが消えていきます、悔しいのぅ……。
今回は、可愛らしいぬえちゃんを書きたかったから書かせていただきました。

最後まで読んで下さった方々には、最大級の感謝を……。
へたれ向日葵
[email protected]
http://hetarehimawari.blog14.fc2.com/
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コメント



0.710簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
このもどかしい関係が今後どう変化していくのか楽しみです。
期待して待っててもいいよね?w
2.90ダイ削除
甘い、これは難波の完熟マンゴーや…!
若干、ぬえが幼すぎる気も…


あと、東方九州弁書きました
あとで見といてください
11.80名前が無い程度の能力削除
2人の関係、リンゴ飴のように甘い。。!!!
甘い関係ということは付き合うという意味かな
端から見たら親子って感じはするけど
12.90名前が無い程度の能力削除
聖←ぬえちゃんなのかー大好き・・・!
18.無評価へたれ向日葵削除
>1 様
評価ありがとうございます。
二人の関係は脳内変換でお願いします!
続編は任せました。 誰かに。

>ダイ 様
評価ありがとうございます。
完熟マンゴー……美味しそうじゃまいか。
私のぬえはちょっと子供っぽいんですが、違和感がありましたか……。
見させていただきました!

>11 様
評価ありがとうございます。
二人の甘い甘い関係が羨ましいへたれです。
親子みたいな二人もいいものです。

>12 様
評価ありがとうございます。
もうとりあえず星のメンツ過ぎすぎて頭が爆発します。