今日の人里はいつもとは比べ物にならない賑わいを見せている。
それもそのはず、今日は人妖共に待ちに待った夏祭りの日だからである。
今日を迎えるまで、人間のみならず、妖怪達も祭りのお手伝いをしてきた。
大きなやぐらを組み、屋台に必要な木材や材料の調達を行ったり、夏祭りを盛り上げる為の話し合いなど、何度も行われてきた。
電気機器などは河童の技術を借りて、さらに便利に祭りを進められるようになった。
また、夏祭りの前には風鎮祭が行われ、風を鎮めて豊作を祈る。
その風鎮祭では、和太鼓の演奏に合わせて、博麗の巫女が舞う。
よって、それの打ち合わせや、実際の演奏に合わせての練習も幾度となく行われてきたのだ。
そして、現在。
色とりどりの提灯が宙にぶら下がり、ほんのりと柔らかい光が揺れている。
ところどころ、夏風に揺られたせいか、炎が提灯に移り、燃えてしまっているものも見える。
屋台も沢山立ち並び、既に子供たちが浴衣を着て盛り上がっている。
そんな、屋台の立ち並ぶ通りを超えていくと、大きなやぐらが見えた。
「夏祭りなんて何年ぶりかしら」
「さぁね。でも、とっても昔だってことくらいは解るね」
「昔と違って、人間も妖怪も一緒になって夏祭りを盛り上げている……。私が理想した世界が少しずつ現実に近づいている証拠でしょうか」
「そうかもねぇ」
ここに、浴衣姿の二人の女性がいる。
背中に何と言えない、羽のようなものが付いている黒髪の少女。
そして、とても浴衣が似合う、柔らかい笑みを浮かべた女性。
命蓮寺に住む、ぬえと聖である。
長い封印から復活を遂げた聖は、人間と妖怪たちが協力して夏祭りを開催するというのを聞いて、喜んで参加することとした。
他の命蓮寺の連中は、祭りのお手伝いとして参加しているため、純粋に祭りを楽しんでいるのは、ぬえと聖だけとなっている。
二人だけになっているのには、ちゃんと理由がある。
◆
祭りの前まではぬえも聖も手伝っていたのだが、今日になって、
「聖とぬえはいいよ。お手伝いは私たちだけで十分だ」
「聖はわかるけど、何で私もなのよ」
「ぬえは単純に邪魔だからだよ。お前さんがいたら何があるかわからんからね」
「ナズーリン……ッ!!」
「まぁまぁ、そう怒らないの、ぬえ。ナズーリン、ちょっと言い過ぎよ」
ナズーリンのいつもの少し突き放すような言葉に、ぬえはむきになる。
これもいつものようなやりとりで、それをいつものように止める聖。
聖の制止に、すまんねと謝るナズーリン。
ぬえは相変わらず頬を膨らませているが、それをナズーリンは無視する。
「久々の夏祭りだろう。楽しんでくるといい」
「いいのですか? まぁ、夏祭りを楽しみたいという気持ちは山々ですが……」
「気にしなくていいよ。たまにはぬえと二人で楽しんでおいで。ぬえもそれを楽しみにしてたようだからね」
「なっ!? 何言ってんのよナズーリン!」
「照れ隠しかい? 前々から聖と一緒に行きたいって言ってたじゃないか。ぬえも楽しんできな」
「うぅ……」
ぬえは赤く顔を染めながら、ナズーリンをじっと見つめていた。
◆
黒い浴衣に、赤や青の花火が咲き誇っている浴衣を着ているぬえ。
頭の方に可愛らしいお面を付けて、聖の手をぎゅっと握って歩いている。
まるで保護者と子供のように見える。
黒い浴衣に、黒い髪。
それに加え、辺りが段々暗くなってきているため、ぬえは目立ち辛い。
しかし、うっすらと残り夕暮れの色同様に、顔が真っ赤に染まっていた。
そんなぬえの表情を見て、聖は声をかける。
「大丈夫? 夏風邪でもひいたのかしら」
「そ、そんなことない! ちょっと暑いだけ!」
「そう? ならいいんだけど」
ゆっくりと歩いていくと、やがてやぐらの前についた。
和太鼓が並べられているのを見るや否や、向こう側に見なれた服が見えた。
赤と白で、脇を出した独特な服。
博麗の巫女、博麗霊夢はそこにはいた。
まだ人があまり集まっていなかったため、よく見える前まで二人のところまでいく。
はっぴを着た男たちが、鉢巻を巻いて、撥を持っている。
霊夢は手に金色でぴかぴかのチャッパを持っており、静かに目を閉じている。
少しばかり化粧をしているのだろうか、非常に美しく見えた。
辺りはいつ始まるのかとざわめいている。
「一体いつ始まるのかしら?」
聖はぬえに問いかける。
それに対して、扇子を仰ぎながらぬえは答える。
「そろそろ始まると思うんだけ――」
ドンッ……、ドンッ……。
和太鼓の低い音が人里の広場一体に広がった。
シーンとした雰囲気の中、男たちが撥を大きく振り上げる。
その瞬間だった。
「ハッ!!」
男たちの掛け声に交じって、霊夢も大きく声を張り上げる。
後ろに髪を一つに括ってあり、ポニーテールになっている。
そのポニーテールが上下に大きく揺れ、手に持ったチャッパを擦るようにして鳴らす。
チャンチャン、チャチャン
素足で踊りながらチャッパを叩く霊夢の表情は、とても明るかった。
音楽に合わせて上下左右と地を蹴り上げ、跳ねる。
腕をしならせ、腰を振って、音楽を体で表現する。
様々な太鼓から溢れる音に合わせて、チャッパの音を小さく、あるいは大きくする。
大きな裾が踊りと共に大きく揺れ、バタバタと音を立てる。
全てが音楽と一体化し、祭りの始まりを告げていた。
「あら~綺麗ねぇ」
「……」
聖のその声に対し、ぬえは何も返さなかった。
聖は熱心にというか、夢中になって霊夢の姿を見ている。
ぬえは、それが気に食わなかったのだ。
ぬえも、霊夢の方をじっとみる。
確かに綺麗で、美しいと思った。
だからこそ、尚更気に食わなかった。
「ねぇ聖。屋台の方へ行こうよ」
「なぁに、ぬえ。そう焦らなくてもいいじゃない。夜は長いのよ?」
「で、でも。ねぇ~屋台いこ~よ~」
聖の腕を引っ張るぬえ。
ぎゅーっと腕に抱きついて、引っ張る。
すると、聖は困ったような表情を浮かべる。
思わずぬえは腕を離し、俯く。
「どうしたの、ぬえ。さっきから様子がおかしいわよ」
「え? べ、別におかしくなんかないよ!」
「そうかしら? まぁ、屋台のところに行きたいって言うんならいきましょうか」
「う、うん……」
ぬえは聖の手を握ると、ゆっくりとその場を後にした。
しばらく、後ろの方から聞こえる和太鼓とチャッパの音が絶えなかった。
◆
いつの間にか空の色は濃く、星が輝いていた。
浴衣を着た人々も増え始め、スピーカーからは絶えず音楽が流れている。
ぬえは、聖と腕を組みながら歩く。
優しく微笑む聖に、ぬえは問う。
「ねぇ、聖」
「なぁに、ぬえ」
「聖は私の事、どう思ってる?」
「どうって、大切な私の仲間ですよ」
ぬえの質問に対し、一瞬呆気を取られたような顔をしたものの、すぐにいつもの笑顔に戻った。
穏やかにそういってみせる聖に、ぬえは物足りなさのようなものを感じた。
誰にでも振りまく、その柔らかくて優しい笑み。
少しでも、私の為だけに笑ってほしい、そんな思いがぬえの中に渦巻いた。
抑えきれない感情を胸に、ぬえは言った。
「私の事、好き?」
「えぇ、好きよ」
思い切って訪ねたぬえの質問に、聖はなんともなく返した。
ぬえの思う好きは、恋愛的なもので、友好のようなものではない。
しかし聖は、後者の方だと思って返している。
じだんだを踏む思いを殺して、ぬえは聖の肩を掴んだ。
「好きなら、私を見つけてくれる?」
「え? ちょ、ちょっとぬえ?」
「私が好きなら、この中から見つけ出せるよね」
いきなり訳の分からないことを口走るぬえ。
ぬえの言うことが理解出来ない聖は、当然のことながら唖然とするのみ。
しかしながらぬえの表情は本気そのものである。
それゆえに尚更聖は首を傾げた。
「私、待ってるから!」
そういって、ぬえは闇の中に落ちていく。
能力を使い、姿が見えなくなった。
きっと、人ごみにまぎれ、どこかへ隠れるつもりなのだろう。
聖は、頬を人差し指で掻いた。
「どうしましょう……」
困ったように、聖は呟いた。
◆
一方で、ぬえは人ごみの中をしばし歩き続けた。
しかし、人ごみの中は疲れるもので、すぐに人ごみの中から出た。
真っ赤な布が敷かれた椅子の上にゆっくりと座る。
ふぅと一息ついて、辺りを見回す。
そこには、浴衣を着ておしゃれをした女の子や、カップル達など、たくさんいる。
その中に聖を探すも、見つかるはずもなかった。
これだけ沢山の人がいれば、ぬえを探すのも、聖を探すのも難しい。
「……ちょっとやりすぎたかな」
やりすぎたというより、感情が暴走しすぎてしまった。
というよりも、ただただ自分の思いが空振りしたようがしてならなかった。
そんな感情を抱きながら、ぬえはまた人ごみを見る。
聖の姿は見えない。
もしかしたら、聖は必死になって私を探しているかもしれない。
そう思うと、ぬえは何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「どうしよう……」
今更ながら不安になったぬえは、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
だけど、あんな風に言ったのに、今更なんて言えばいいかぬえには解らなかった。
そして、力なくまた椅子の上に座った。
あんなに楽しみにしていた二人きりの祭りだったのに、今はなんだか楽しくない。
それもこれも私のせいだと、ぬえは自分を責めた。
「ごめん、聖」
スピーカーの音楽が鳴り響く中、ぬえは一人呟いた。
結局私は臆病者で、正直な気持ちも言えないへたれでしかなかった。
ぬえは俯き、はぁと溜息をつく。
「何を溜息ついているんですか、ぬえ」
「へ?」
ふと後ろを見ると、いつものような優しい笑顔が素敵な聖がそこにはいた。
手には二つのリンゴ飴を持っていた。
ぬえの隣に座ると、片方のリンゴ飴を手渡した。
「ぬえ、リンゴ飴好きでしょう? あなたの分も買ってきたわ」
「う、うん……。あ、あの~、聖?」
「なぁに?」
「あの……怒ってない?」
恐る恐る聖に尋ねると、聖はあの柔らかい笑顔を浮かべていた。
「怒ってないわ。ほら、見上げてみなさい」
「え?」
ヒュー……バァン!
空に大きな花火が打ちあがり、色とりどりの美しい花が咲き誇る。
「ぬえ、昔から花火見るの好きだったでしょう? この時間に間に合うように頑張って探したのよ?」
「うん……。ごめん、聖」
「いいのよ、ぬえ。私は、悪い事はよくするけど、ちゃんと最後には謝るところが好きよ、ぬえ」
ぬえの頭を優しく聖は撫でた。
ぬえが昔から花火が好きだったことを、聖は覚えていたのだ。
「来年は皆で夏祭りに行きましょうね、ぬえ」
「うん、今度は皆で行こう」
結局、ぬえは正直な気持ちを聖に伝えることができなかった。
だけど、いつかは本当に好きなんだっていう気持ちが伝わるはずだ。
そう信じて、今は二人きりの雰囲気を楽しんでいようと思う。
来年には、きっと。
ぎゅっと二人で結んだ手と手。
大きな花火が空に打ちあがっていた。
私の願いがかないますようにと、花火を見つめ、思った。
ぬえは、聖からもらったリンゴ飴を舐める。
それはとてもとても甘くて。
いつかこんな甘い関係になれればいいなと、ぬえは思った。
それもそのはず、今日は人妖共に待ちに待った夏祭りの日だからである。
今日を迎えるまで、人間のみならず、妖怪達も祭りのお手伝いをしてきた。
大きなやぐらを組み、屋台に必要な木材や材料の調達を行ったり、夏祭りを盛り上げる為の話し合いなど、何度も行われてきた。
電気機器などは河童の技術を借りて、さらに便利に祭りを進められるようになった。
また、夏祭りの前には風鎮祭が行われ、風を鎮めて豊作を祈る。
その風鎮祭では、和太鼓の演奏に合わせて、博麗の巫女が舞う。
よって、それの打ち合わせや、実際の演奏に合わせての練習も幾度となく行われてきたのだ。
そして、現在。
色とりどりの提灯が宙にぶら下がり、ほんのりと柔らかい光が揺れている。
ところどころ、夏風に揺られたせいか、炎が提灯に移り、燃えてしまっているものも見える。
屋台も沢山立ち並び、既に子供たちが浴衣を着て盛り上がっている。
そんな、屋台の立ち並ぶ通りを超えていくと、大きなやぐらが見えた。
「夏祭りなんて何年ぶりかしら」
「さぁね。でも、とっても昔だってことくらいは解るね」
「昔と違って、人間も妖怪も一緒になって夏祭りを盛り上げている……。私が理想した世界が少しずつ現実に近づいている証拠でしょうか」
「そうかもねぇ」
ここに、浴衣姿の二人の女性がいる。
背中に何と言えない、羽のようなものが付いている黒髪の少女。
そして、とても浴衣が似合う、柔らかい笑みを浮かべた女性。
命蓮寺に住む、ぬえと聖である。
長い封印から復活を遂げた聖は、人間と妖怪たちが協力して夏祭りを開催するというのを聞いて、喜んで参加することとした。
他の命蓮寺の連中は、祭りのお手伝いとして参加しているため、純粋に祭りを楽しんでいるのは、ぬえと聖だけとなっている。
二人だけになっているのには、ちゃんと理由がある。
◆
祭りの前まではぬえも聖も手伝っていたのだが、今日になって、
「聖とぬえはいいよ。お手伝いは私たちだけで十分だ」
「聖はわかるけど、何で私もなのよ」
「ぬえは単純に邪魔だからだよ。お前さんがいたら何があるかわからんからね」
「ナズーリン……ッ!!」
「まぁまぁ、そう怒らないの、ぬえ。ナズーリン、ちょっと言い過ぎよ」
ナズーリンのいつもの少し突き放すような言葉に、ぬえはむきになる。
これもいつものようなやりとりで、それをいつものように止める聖。
聖の制止に、すまんねと謝るナズーリン。
ぬえは相変わらず頬を膨らませているが、それをナズーリンは無視する。
「久々の夏祭りだろう。楽しんでくるといい」
「いいのですか? まぁ、夏祭りを楽しみたいという気持ちは山々ですが……」
「気にしなくていいよ。たまにはぬえと二人で楽しんでおいで。ぬえもそれを楽しみにしてたようだからね」
「なっ!? 何言ってんのよナズーリン!」
「照れ隠しかい? 前々から聖と一緒に行きたいって言ってたじゃないか。ぬえも楽しんできな」
「うぅ……」
ぬえは赤く顔を染めながら、ナズーリンをじっと見つめていた。
◆
黒い浴衣に、赤や青の花火が咲き誇っている浴衣を着ているぬえ。
頭の方に可愛らしいお面を付けて、聖の手をぎゅっと握って歩いている。
まるで保護者と子供のように見える。
黒い浴衣に、黒い髪。
それに加え、辺りが段々暗くなってきているため、ぬえは目立ち辛い。
しかし、うっすらと残り夕暮れの色同様に、顔が真っ赤に染まっていた。
そんなぬえの表情を見て、聖は声をかける。
「大丈夫? 夏風邪でもひいたのかしら」
「そ、そんなことない! ちょっと暑いだけ!」
「そう? ならいいんだけど」
ゆっくりと歩いていくと、やがてやぐらの前についた。
和太鼓が並べられているのを見るや否や、向こう側に見なれた服が見えた。
赤と白で、脇を出した独特な服。
博麗の巫女、博麗霊夢はそこにはいた。
まだ人があまり集まっていなかったため、よく見える前まで二人のところまでいく。
はっぴを着た男たちが、鉢巻を巻いて、撥を持っている。
霊夢は手に金色でぴかぴかのチャッパを持っており、静かに目を閉じている。
少しばかり化粧をしているのだろうか、非常に美しく見えた。
辺りはいつ始まるのかとざわめいている。
「一体いつ始まるのかしら?」
聖はぬえに問いかける。
それに対して、扇子を仰ぎながらぬえは答える。
「そろそろ始まると思うんだけ――」
ドンッ……、ドンッ……。
和太鼓の低い音が人里の広場一体に広がった。
シーンとした雰囲気の中、男たちが撥を大きく振り上げる。
その瞬間だった。
「ハッ!!」
男たちの掛け声に交じって、霊夢も大きく声を張り上げる。
後ろに髪を一つに括ってあり、ポニーテールになっている。
そのポニーテールが上下に大きく揺れ、手に持ったチャッパを擦るようにして鳴らす。
チャンチャン、チャチャン
素足で踊りながらチャッパを叩く霊夢の表情は、とても明るかった。
音楽に合わせて上下左右と地を蹴り上げ、跳ねる。
腕をしならせ、腰を振って、音楽を体で表現する。
様々な太鼓から溢れる音に合わせて、チャッパの音を小さく、あるいは大きくする。
大きな裾が踊りと共に大きく揺れ、バタバタと音を立てる。
全てが音楽と一体化し、祭りの始まりを告げていた。
「あら~綺麗ねぇ」
「……」
聖のその声に対し、ぬえは何も返さなかった。
聖は熱心にというか、夢中になって霊夢の姿を見ている。
ぬえは、それが気に食わなかったのだ。
ぬえも、霊夢の方をじっとみる。
確かに綺麗で、美しいと思った。
だからこそ、尚更気に食わなかった。
「ねぇ聖。屋台の方へ行こうよ」
「なぁに、ぬえ。そう焦らなくてもいいじゃない。夜は長いのよ?」
「で、でも。ねぇ~屋台いこ~よ~」
聖の腕を引っ張るぬえ。
ぎゅーっと腕に抱きついて、引っ張る。
すると、聖は困ったような表情を浮かべる。
思わずぬえは腕を離し、俯く。
「どうしたの、ぬえ。さっきから様子がおかしいわよ」
「え? べ、別におかしくなんかないよ!」
「そうかしら? まぁ、屋台のところに行きたいって言うんならいきましょうか」
「う、うん……」
ぬえは聖の手を握ると、ゆっくりとその場を後にした。
しばらく、後ろの方から聞こえる和太鼓とチャッパの音が絶えなかった。
◆
いつの間にか空の色は濃く、星が輝いていた。
浴衣を着た人々も増え始め、スピーカーからは絶えず音楽が流れている。
ぬえは、聖と腕を組みながら歩く。
優しく微笑む聖に、ぬえは問う。
「ねぇ、聖」
「なぁに、ぬえ」
「聖は私の事、どう思ってる?」
「どうって、大切な私の仲間ですよ」
ぬえの質問に対し、一瞬呆気を取られたような顔をしたものの、すぐにいつもの笑顔に戻った。
穏やかにそういってみせる聖に、ぬえは物足りなさのようなものを感じた。
誰にでも振りまく、その柔らかくて優しい笑み。
少しでも、私の為だけに笑ってほしい、そんな思いがぬえの中に渦巻いた。
抑えきれない感情を胸に、ぬえは言った。
「私の事、好き?」
「えぇ、好きよ」
思い切って訪ねたぬえの質問に、聖はなんともなく返した。
ぬえの思う好きは、恋愛的なもので、友好のようなものではない。
しかし聖は、後者の方だと思って返している。
じだんだを踏む思いを殺して、ぬえは聖の肩を掴んだ。
「好きなら、私を見つけてくれる?」
「え? ちょ、ちょっとぬえ?」
「私が好きなら、この中から見つけ出せるよね」
いきなり訳の分からないことを口走るぬえ。
ぬえの言うことが理解出来ない聖は、当然のことながら唖然とするのみ。
しかしながらぬえの表情は本気そのものである。
それゆえに尚更聖は首を傾げた。
「私、待ってるから!」
そういって、ぬえは闇の中に落ちていく。
能力を使い、姿が見えなくなった。
きっと、人ごみにまぎれ、どこかへ隠れるつもりなのだろう。
聖は、頬を人差し指で掻いた。
「どうしましょう……」
困ったように、聖は呟いた。
◆
一方で、ぬえは人ごみの中をしばし歩き続けた。
しかし、人ごみの中は疲れるもので、すぐに人ごみの中から出た。
真っ赤な布が敷かれた椅子の上にゆっくりと座る。
ふぅと一息ついて、辺りを見回す。
そこには、浴衣を着ておしゃれをした女の子や、カップル達など、たくさんいる。
その中に聖を探すも、見つかるはずもなかった。
これだけ沢山の人がいれば、ぬえを探すのも、聖を探すのも難しい。
「……ちょっとやりすぎたかな」
やりすぎたというより、感情が暴走しすぎてしまった。
というよりも、ただただ自分の思いが空振りしたようがしてならなかった。
そんな感情を抱きながら、ぬえはまた人ごみを見る。
聖の姿は見えない。
もしかしたら、聖は必死になって私を探しているかもしれない。
そう思うと、ぬえは何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「どうしよう……」
今更ながら不安になったぬえは、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
だけど、あんな風に言ったのに、今更なんて言えばいいかぬえには解らなかった。
そして、力なくまた椅子の上に座った。
あんなに楽しみにしていた二人きりの祭りだったのに、今はなんだか楽しくない。
それもこれも私のせいだと、ぬえは自分を責めた。
「ごめん、聖」
スピーカーの音楽が鳴り響く中、ぬえは一人呟いた。
結局私は臆病者で、正直な気持ちも言えないへたれでしかなかった。
ぬえは俯き、はぁと溜息をつく。
「何を溜息ついているんですか、ぬえ」
「へ?」
ふと後ろを見ると、いつものような優しい笑顔が素敵な聖がそこにはいた。
手には二つのリンゴ飴を持っていた。
ぬえの隣に座ると、片方のリンゴ飴を手渡した。
「ぬえ、リンゴ飴好きでしょう? あなたの分も買ってきたわ」
「う、うん……。あ、あの~、聖?」
「なぁに?」
「あの……怒ってない?」
恐る恐る聖に尋ねると、聖はあの柔らかい笑顔を浮かべていた。
「怒ってないわ。ほら、見上げてみなさい」
「え?」
ヒュー……バァン!
空に大きな花火が打ちあがり、色とりどりの美しい花が咲き誇る。
「ぬえ、昔から花火見るの好きだったでしょう? この時間に間に合うように頑張って探したのよ?」
「うん……。ごめん、聖」
「いいのよ、ぬえ。私は、悪い事はよくするけど、ちゃんと最後には謝るところが好きよ、ぬえ」
ぬえの頭を優しく聖は撫でた。
ぬえが昔から花火が好きだったことを、聖は覚えていたのだ。
「来年は皆で夏祭りに行きましょうね、ぬえ」
「うん、今度は皆で行こう」
結局、ぬえは正直な気持ちを聖に伝えることができなかった。
だけど、いつかは本当に好きなんだっていう気持ちが伝わるはずだ。
そう信じて、今は二人きりの雰囲気を楽しんでいようと思う。
来年には、きっと。
ぎゅっと二人で結んだ手と手。
大きな花火が空に打ちあがっていた。
私の願いがかないますようにと、花火を見つめ、思った。
ぬえは、聖からもらったリンゴ飴を舐める。
それはとてもとても甘くて。
いつかこんな甘い関係になれればいいなと、ぬえは思った。
期待して待っててもいいよね?w
若干、ぬえが幼すぎる気も…
あと、東方九州弁書きました
あとで見といてください
甘い関係ということは付き合うという意味かな
端から見たら親子って感じはするけど
評価ありがとうございます。
二人の関係は脳内変換でお願いします!
続編は任せました。 誰かに。
>ダイ 様
評価ありがとうございます。
完熟マンゴー……美味しそうじゃまいか。
私のぬえはちょっと子供っぽいんですが、違和感がありましたか……。
見させていただきました!
>11 様
評価ありがとうございます。
二人の甘い甘い関係が羨ましいへたれです。
親子みたいな二人もいいものです。
>12 様
評価ありがとうございます。
もうとりあえず星のメンツ過ぎすぎて頭が爆発します。