どうしようもなく暑い夏の日。
そんな日の賢い過ごし方といえば、なるべく動かず、こまめに水浴びと着替えをして、ご飯はしっかり食べて、陽が沈むまでお昼寝。これである。
日課の掃除を手早く済ませ、さぁ水浴びして昼寝と洒落込みましょうかと井戸へ向かう私の頭に、ある風景が思い浮かぶ。
――幻想郷の瀑布、九天の滝。文んとこの新聞統計で絶好の水浴びスポットベスト3に入る名所にして、天狗たちの縄張りでもあるあの場所。
そうだ。神社の井戸からちまちま汲み上げて水垢離するよりも、絶対あそこで泳いだ方が気持ち良いに決まってる。じゃ滝行くか!
即断即決。普段なら面倒がって縁側で茶でも啜るところだが、出かけるのをやめたところで結局暑い思いをするだけなら、怠惰の虫が体を蝕み始める前に動いた方が合理的。
博麗の巫女は自分の感情すら損得で制御できるのです、と誰が見てる訳でもないのにひとりどや顔。
……なにやってんだろ私。早く行こっと。
◇◆◇◆◇◆
音をたてずに、ふわりと降りる。滝壺に見える誰かの姿。
一糸纏わぬ文が、楽しそうに水浴びしていた。
「~♪」
鼻歌なんて歌いながら、ぱちゃぱちゃと水を跳ねあげて遊ぶ文。
鴉の濡れ羽色とはよく言ったものだ。文の翼は、成程。讃えるに相応しい艶やかな黒。
文の髪や、白魚のような輝く肢体や、ばさばさと嬉しそうなのが伝わってくる翼の動きが、水を含んで健康的な色気を――
「霊夢さん霊夢さん。流石の私もそんなに凝視されるとちょっと恥ずかしいというか……」
いつの間にか、水浴びに没頭していたはずの文がこっちを見ながら困ったような笑みを浮かべていた。
結構頑張って気配は消してたんだけどなぁ……。
「そんな不思議そうな顔しないでくださいな。仮にも風を操る者ですからね、誰かが近付いてきたら風の動きでわかります」
それはつまりあれか。私が文の裸をガン見してたのを最初っから気付いてたのか。なんてこと。
ええとこういう時は……開き直るしかない!
「で、霊夢さん今日はどんな……ってちょっ!?」
ぽいぽいっと手早く服を脱ぎ捨てて全裸になり、水に飛び込む。
自分もすっぽんぽんのくせに何を慌ててるのかしら。おっかしいの。
「霊夢さんも年頃の乙女なんですからもうちょっと慎みというものをですね……」
「あんただって裸じゃない」
「私はいいんですよ……妖怪ですし、年齢的にも裸見られてキャーみたいな時期はとっくに過ぎちゃったので。勿論好きこのんで人目に晒したいとも思いませんが」
「じゃなんでさっき恥ずかしいっつったのよ」
「いやそれは! 霊夢さんの視線があまりに熱心だったもので……」
もにょもにょ口ごもる文の顔に、両手で掬った水をひっかけてやる。
「わぷっ、ちょっと霊夢さん!?」
「別に私達以外いないんだからいいじゃないの。私はあんたと駄弁る為じゃなくて、水浴びをしにきたのよ」
「そうですか……」
「という訳でもう一回えいっ」
「ぅぷっ、やりましたねぇ……私がいくら温厚極まりない天狗だからってやられっぱなしだと思っちゃいけませんよ!」
「来なさい。博麗の巫女の力、見せてあげるわ」
◇◆◇◆◇◆
「いやぁ、ついつい遊んじゃいましたね」
「そうね。……で、なんであんたがウチまでついてくるのよ」
「暑くて仕事する気にならないので暇潰しに」
「あっそ。でも私昼寝するわよ?」
「寝ましょう寝ましょう」
「……」
柄にもなく水遊びではしゃいだ後、帰宅した私は予定通り昼寝することに決めた。
おまけの天狗がついてきたのは予定外だったけど、まあ問題ない。
畳にごろんと寝っ転がり、目を閉じる。
「霊夢さん? れーいーむーさーん?」
……すぅ。
「……寝ちゃった。なんて寝付きの良さでしょう」
「起きないと、無防備な寝顔をパチリと一枚頂いちゃいますよ……?」
「いいんですねー?……じゃあ遠慮無く、」
ぐいっ、どさっ。
「ちょっ、霊夢さんやっぱ起きてたんですねすみません撮影はちゃんと許可取ってから、」
……くぅ。
「……寝て、る?」
「無意識に抱き寄せたとかそんな、あの霊夢さんに限って……ねぇ?」
むにゃ……ぎゅっ。
「…………寝ますか」
◇◆◇◆◇◆
「お腹すいたわね」
「結構寝てましたからねぇ。綺麗な夕焼けです」
「夕焼けじゃ食べられないじゃない」
「食べないでください」
「……何か、食材があったかしら」
「私に聞かれましても」
「あなたは取って食べられる鳥類?」
「食べれない妖怪です。なにか食材はないんですか?」
「そういえば、寺の連中がこの前教えてくれた冷やし中華ってやつの材料があったわ」
「冷やし中華がどんなものかは知りませんけど、材料あるなら作ればいいじゃないですか」
「めんどくさくて」
冷やし中華を作ることになった。
暑い暑い言いながらなんとか完成させて、ちゃぶ台に並べるかと思いきや縁側で食べるという選択。
風鈴が涼やかに鳴った。
「……霊夢さんこれ本当に初めて作ったんですか?」
「そうよ。ネズミ娘がやってたのを見てただけ」
「へぇー……流石です」
「褒めたって何も出ないわよ」
「美味しい料理を出して頂きましたよ」
「美味しかったなら良かったわ」
「はい。とても」
文が団扇を取り出して軽く振る。
どこからか涼風が吹いてきて、私達の髪を静かに揺らした。
「夏ですねぇ」
「夏ね」
「ひぐらしが鳴き出しましたね」
「そうね」
「……霊夢さん」
「なによ」
「今日、帰るのがめんどくさくなったので泊まっていっても良いですか?」
「布団無いわよ」
「構いません」
「じゃ勝手になさい」
「はい。勝手にします」
幻想郷の夏は、まだ始まったばかり。
そんな日の賢い過ごし方といえば、なるべく動かず、こまめに水浴びと着替えをして、ご飯はしっかり食べて、陽が沈むまでお昼寝。これである。
日課の掃除を手早く済ませ、さぁ水浴びして昼寝と洒落込みましょうかと井戸へ向かう私の頭に、ある風景が思い浮かぶ。
――幻想郷の瀑布、九天の滝。文んとこの新聞統計で絶好の水浴びスポットベスト3に入る名所にして、天狗たちの縄張りでもあるあの場所。
そうだ。神社の井戸からちまちま汲み上げて水垢離するよりも、絶対あそこで泳いだ方が気持ち良いに決まってる。じゃ滝行くか!
即断即決。普段なら面倒がって縁側で茶でも啜るところだが、出かけるのをやめたところで結局暑い思いをするだけなら、怠惰の虫が体を蝕み始める前に動いた方が合理的。
博麗の巫女は自分の感情すら損得で制御できるのです、と誰が見てる訳でもないのにひとりどや顔。
……なにやってんだろ私。早く行こっと。
◇◆◇◆◇◆
音をたてずに、ふわりと降りる。滝壺に見える誰かの姿。
一糸纏わぬ文が、楽しそうに水浴びしていた。
「~♪」
鼻歌なんて歌いながら、ぱちゃぱちゃと水を跳ねあげて遊ぶ文。
鴉の濡れ羽色とはよく言ったものだ。文の翼は、成程。讃えるに相応しい艶やかな黒。
文の髪や、白魚のような輝く肢体や、ばさばさと嬉しそうなのが伝わってくる翼の動きが、水を含んで健康的な色気を――
「霊夢さん霊夢さん。流石の私もそんなに凝視されるとちょっと恥ずかしいというか……」
いつの間にか、水浴びに没頭していたはずの文がこっちを見ながら困ったような笑みを浮かべていた。
結構頑張って気配は消してたんだけどなぁ……。
「そんな不思議そうな顔しないでくださいな。仮にも風を操る者ですからね、誰かが近付いてきたら風の動きでわかります」
それはつまりあれか。私が文の裸をガン見してたのを最初っから気付いてたのか。なんてこと。
ええとこういう時は……開き直るしかない!
「で、霊夢さん今日はどんな……ってちょっ!?」
ぽいぽいっと手早く服を脱ぎ捨てて全裸になり、水に飛び込む。
自分もすっぽんぽんのくせに何を慌ててるのかしら。おっかしいの。
「霊夢さんも年頃の乙女なんですからもうちょっと慎みというものをですね……」
「あんただって裸じゃない」
「私はいいんですよ……妖怪ですし、年齢的にも裸見られてキャーみたいな時期はとっくに過ぎちゃったので。勿論好きこのんで人目に晒したいとも思いませんが」
「じゃなんでさっき恥ずかしいっつったのよ」
「いやそれは! 霊夢さんの視線があまりに熱心だったもので……」
もにょもにょ口ごもる文の顔に、両手で掬った水をひっかけてやる。
「わぷっ、ちょっと霊夢さん!?」
「別に私達以外いないんだからいいじゃないの。私はあんたと駄弁る為じゃなくて、水浴びをしにきたのよ」
「そうですか……」
「という訳でもう一回えいっ」
「ぅぷっ、やりましたねぇ……私がいくら温厚極まりない天狗だからってやられっぱなしだと思っちゃいけませんよ!」
「来なさい。博麗の巫女の力、見せてあげるわ」
◇◆◇◆◇◆
「いやぁ、ついつい遊んじゃいましたね」
「そうね。……で、なんであんたがウチまでついてくるのよ」
「暑くて仕事する気にならないので暇潰しに」
「あっそ。でも私昼寝するわよ?」
「寝ましょう寝ましょう」
「……」
柄にもなく水遊びではしゃいだ後、帰宅した私は予定通り昼寝することに決めた。
おまけの天狗がついてきたのは予定外だったけど、まあ問題ない。
畳にごろんと寝っ転がり、目を閉じる。
「霊夢さん? れーいーむーさーん?」
……すぅ。
「……寝ちゃった。なんて寝付きの良さでしょう」
「起きないと、無防備な寝顔をパチリと一枚頂いちゃいますよ……?」
「いいんですねー?……じゃあ遠慮無く、」
ぐいっ、どさっ。
「ちょっ、霊夢さんやっぱ起きてたんですねすみません撮影はちゃんと許可取ってから、」
……くぅ。
「……寝て、る?」
「無意識に抱き寄せたとかそんな、あの霊夢さんに限って……ねぇ?」
むにゃ……ぎゅっ。
「…………寝ますか」
◇◆◇◆◇◆
「お腹すいたわね」
「結構寝てましたからねぇ。綺麗な夕焼けです」
「夕焼けじゃ食べられないじゃない」
「食べないでください」
「……何か、食材があったかしら」
「私に聞かれましても」
「あなたは取って食べられる鳥類?」
「食べれない妖怪です。なにか食材はないんですか?」
「そういえば、寺の連中がこの前教えてくれた冷やし中華ってやつの材料があったわ」
「冷やし中華がどんなものかは知りませんけど、材料あるなら作ればいいじゃないですか」
「めんどくさくて」
冷やし中華を作ることになった。
暑い暑い言いながらなんとか完成させて、ちゃぶ台に並べるかと思いきや縁側で食べるという選択。
風鈴が涼やかに鳴った。
「……霊夢さんこれ本当に初めて作ったんですか?」
「そうよ。ネズミ娘がやってたのを見てただけ」
「へぇー……流石です」
「褒めたって何も出ないわよ」
「美味しい料理を出して頂きましたよ」
「美味しかったなら良かったわ」
「はい。とても」
文が団扇を取り出して軽く振る。
どこからか涼風が吹いてきて、私達の髪を静かに揺らした。
「夏ですねぇ」
「夏ね」
「ひぐらしが鳴き出しましたね」
「そうね」
「……霊夢さん」
「なによ」
「今日、帰るのがめんどくさくなったので泊まっていっても良いですか?」
「布団無いわよ」
「構いません」
「じゃ勝手になさい」
「はい。勝手にします」
幻想郷の夏は、まだ始まったばかり。
ほのぼの百合はいい。とってもいい。
こんな夏休みが欲しかった。こんな夏休みが欲しかった。
二人ともいいね可愛いね
ちょっと期待したのは内緒
のほほんとしてて良いあやれいむでした!
このあとのもみじもぎもぎな様子が目に浮かびますね。
裸の描写がそこまで性的でなくあっさりだったのが良かったです。
このニヤニヤ、いいですね。
>「布団無いわよ」
『博麗神社に布団は一組しかない』は定番
魔理沙なら同じ布団で寝るだろうけど