このお話は無印の作品集109「忘れ傘は誰がために。」の翌日の話です。読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
あらすじ……慧音と小傘は一夜を共にし、慧音は小傘をほっとけなくなりました。
朝日が差し込む部屋がある。
部屋の中央、半ばまで掛け布団が捲れた敷布団に横たわる人影があった。
青みがかった銀髪の獣人は肌寒さを感じたのか、身震いの後に瞼を開く。
彼女の視界に映るのは主の居ない枕と、一人分の空間が残された敷布団だ。
何処へ。
声に発せずに呟くと彼女は手を伸ばして敷布団を撫でる。
撫でた敷布団は僅かな温もりも残してはいなかった。
その事に嗚咽をこらえる様に息を呑んだ彼女は、
「全部夢だったとでもいうのか?」
誰に問いかけるでもなく声を放つ。
「小傘……」
想う者の名前を口にした時。
「呼んだ?」
紅と青の異眸を持つ逆さまの顔が、獣人の鼻先を掠めて降ってきた。
部屋中に情けない悲鳴が響く。
――忘れ傘は何処へ往く。
石と石とがぶつかり合うような鈍い音がした。
続くのは甲高い悲鳴。
「あいたぁ!? なんでなんでなんでぶつの!?」
悲鳴を上げたのは、頭を両手で抑え、左右で彩の異なる瞳に涙を溜めた妖怪。
「あ、あ、当たり前だ! 驚かされたら誰でも怒る!」
言葉を返すのは、握った拳をそのままに、目尻に涙を溜めた獣人だ。
獣人が返した言葉に対し、不服そうに眉を寄せて妖怪は身を乗り出す。
「なんで! けーね、昨日名案だって言ってくれたし、いつでも驚かせにくるといいって言ってくれたじゃん!」
「こんな驚かされ方は心臓に悪い! いいか小傘、時と場合を考えろ。それと私は慧音だ、け・い・ね!」
えーっ、と不満そうな声を漏らす小傘と呼んだ妖怪を見据え、慧音と名乗った獣人は深くため息を付く。
乱された鼓動を抑えるように胸に手を当てて、慧音は深呼吸を一回。
多々良小傘はここに居る。
その事に胸を撫で下ろすと、努めて穏やかな表情を浮かべながら、
「……暴力を振るってしまったことは謝る。すまなかった」
唸り声を上げる小傘の頭に手を置いた。
空色の髪を梳くように撫でてやると、彼女のつり上がっていた眉尻は徐々に落ちていく。
小傘の表情が軟化していく様を見て慧音は思う。
子供みたいだな、と。
頬が緩みきった小傘は胸を張って、握った拳で胸をポンッと叩き、
「しかたないなぁ……許してあげるよ、けーね」
はいはい、と慧音は小傘の言を流しつつ、彼女の頭を撫で続けた。
間の抜けた表情を浮かべる小傘を見て、慧音も釣られて眉尻を落とす。
手の平に伝わる彼女の体温を心地よいと感じながら、慧音は苦笑いを浮かべた。
自分は変わったな、と。
初めて会った時、小傘は子供達を脅かす存在だった。
それは何も変わっていない。
機会があれば彼女は己が欲求に従って、子供達を驚かせに行くだろう。
初めて会った時、慧音は小傘と相容れぬ存在だった。
それが今では変わってしまっている。
小傘が居ることに安堵し、その温もりに心地よさまで感じていた。
その変化が好ましいものか否か、慧音には判断がつかない。
思案の為か、曖昧な表情を浮かべていた慧音の顔に驚きの色が混じる。
不意に小傘が乗り出していた体を引き、慧音の手の平から抜け出たためだ。
彼女は彩りの異なる双眸を弓なりに細め、歯を見せて笑いながら言う。
「けーね、もう怖くない?」
怖い夢を見たわけじゃない、と出掛かった言葉を慧音は飲み込んで、
「ああ……おかげ様でな」
返した言葉に、そっかっ、と小傘は声を弾ませて応えた。
じゃあ、と前置きをして、
「けーね、落ち着いたみたいだし、私は――」
紡がれた言葉を遮るように、慧音は無意識に小傘の腕を掴んでいた。
ん? と目を丸く見開き、首を傾げた小傘を見て慧音は我に返る。
掴んだ腕を放してから、慧音はばつが悪そうに頬を掻いて、
「あ、いや……その、なんだ」
呟かれた慧音の歯切れの悪い言葉に、小傘が反対側へと首を傾げる。
いや、と彼女の視線による問いかけをかわしてから、慧音は、そうだ、と呟いて、
「昨日はすぐ寝てしまったからな。風呂を沸かそうと思うんだが、よかったら入っていかないか?」
慧音の提案に小傘は傾げていた首を戻してから問う。
「お風呂?」
「ああ、熱い湯を張って入るんだ。汗を流すのは気持ち良いぞ」
問いかけに対して、慧音が返した応えに、小傘は瞳を輝かせながら身を乗り出した。
「入る入るっ! 一緒にはいろーよ、けーね!」
小傘の乗り気な様子に、慧音は安堵の吐息を漏らし、
「そうか。じゃあ準備をしてくるから待っててくれ――」
立ち上がろうとした所で硬直する。
「……一緒に?」
問いかけの言葉に対し、小傘は歯を見せて笑った。
*
板張りの狭い空間がある。
湯煙立ち込める浴室と、廊下とを繋ぐ脱衣所だ。
「おっふっろーーっ!」
今、脱衣所に慌しい足音と奇声が響く。
声と音の主である小傘は湯煙の向うへと消えてゆく。
残されたのは脱ぎ捨てられた衣服と、呆然とした表情の慧音だ。
「あっ、こっ、こら! 脱いだ服はちゃんと畳むんだ!」
服を脱いでる最中だった慧音の制止の声が響く。
しかし湯煙の向うからは奇声と共に質量のある何かがお湯に飛び込み、水飛沫を立てる音が返ってくるだけだった。
呆然とした慧音は伸ばしかけていた手で浴室への扉を閉める。
そして整えられた自身の衣類と、脱ぎ散らかされたままの小傘の衣類を見比べてため息を付いた。
「まったく……なんで私が」
慧音はひとりごちた後に、腰をかがめて床に散らばる衣類を拾い集めていく。
扉の向こうからは、衣類の主が奏でているであろう鼻歌が響いてきた。
知らない曲だが、ご機嫌そうな音色に慧音は口の端が緩んだのを感じていた。
「誰かと一緒に風呂なんて久しぶりだな」
やや弾んだ声で呟くと、集めた小傘の衣類を自分の物の隣に整えて置く。
片付け終えると備え付けてある髪留めを手に取って、長い髪を結い上げた。
髪を纏めあげた頃、響いてきていた音色が途絶えたことに慧音は気づく。
茹蛸のように赤く顔を染めた小傘を想像してから、噴出すように笑い立ち上がった。
「待たせたな、小傘――」
扉が開け放つと蒸気が浴室から流れ出る。
湯煙が晴れた慧音の視界の中に、小傘の姿はなかった。
何処へ?
疑問符と共に首をかしげた慧音の脳裏に今朝方の出来事が浮かぶ。
あの時彼女は、姿を消して、こちらの死角から脅かそうと目論んでいた。
今回もそうだろう、と慧音は身構える。
視線を湯船から、浴室の四隅、そして窓へと巡らせた。
しかし小傘の姿を見つけることはできなかった。
湯船以外に設備のない浴室には身を隠す場所など無く。
格子が嵌まった窓には人が通れるほどの尺は無い。
「どこへ行ったんだあいつは……」
浮かぶ疑問を口にして慧音は湿り気を帯びた床を浴槽へと歩む。
湯煙立ち込める水面には、小傘が居た名残か微かに波紋が立っている。
浴槽の縁に手をかけて、慧音は身を乗り出すように浴槽を覗き込むと。
浴槽の底には小傘が沈んでいた。
彼女は細い四肢を内壁に向けて伸ばし、浮上しないように踏ん張っていた。
揺れる水面を挟み、頬を大きく膨らませた小傘と慧音の視線が合う。
小傘が何かを喋ったのか、笑みを浮かべたのか、彼女の口端から大量の水泡が零れた。
「――――っ」
彼女の意図を解して、慧音は息を呑み。
その途端、小傘が勢い良く水面を突き破って浮上した。
「ばーーっ! あはは、けーね驚いてる、驚いてるっ」
彼女は、濡れた子犬がするように頭を振って水滴を飛ばしつつ、弾んだ声で言う。
対する慧音は小傘が巻き上げた湯に濡れたまま、ピクリとも動かない。
小傘は笑みを絶やさぬまま浴槽の縁に手をついて、
「あーっ、満腹満腹。お風呂っていいものだね。また今度一緒に――」
片足をあげて出ようとしたところで、慧音が突き出した手によって遮られた。
小傘の眼前に突き出された手は、五指を開いて彼女の頭を掴む。
そして首まで湯に浸かるように小傘の体を押し戻した。
「け、けーね?」
頭だけ水面から出してる状況で小傘は戸惑いの色を帯びた問いを発する。
しかし問われた慧音は無言で、小傘を押さえつけたままに自分も浴槽に足を踏み入れた。
そして小傘の背後に回り、羽交い絞めにしながら肩まで湯に浸かったところでようやく口を開き、
「……『一緒に入ろう』と言ったよな? 遠慮せずにゆっくり浸かっていくといい」
感情を押し殺した抑揚の無い言葉を放つ。
拘束されて、入浴を強制された小傘は四肢をバタつかせて、
「い、いいよ、もう! いっぱい入ったから……あーつーいーっ!」
「うるさい! 百数えるまでは出してやらないぞ!」
怒気を孕んだ声に小傘は身を竦ませる。
彼女はのぼせ始めて赤らんだ顔を暫し俯かせ、閃いた、と顔を上げて、
「ひゃ、ひゃくぅ!」
自信満々に放たれた声は狭い浴室に響き渡った。
反響が収まった頃、慧音は小傘を羽交い絞めにしていた腕を緩ませる。
だが手は収められることは無く、人差し指を立てると、小傘の両の口端に差し込んで、
「い・ち・か・ら・ひゃ・く・ま・で・だ。 誰がとんちを聞かせろといった!」
思いっきり引っ張った。
「いひゃい、いひゃいよ、へぇーねっ。いひはらひゃふはへはんへひひらはいよぉ」
呼気とも言葉とも区別がつかない小傘の声に、慧音は腕の力を緩めることなく頷いて。
「なら、私が手本を見せてやる。まずは……いーち!」
「いーひっ」
湯煙立ち込める浴室に二人の声が響きわたる。
*
畳敷きの部屋がある。
木々が生い茂る庭に面した障子を開け放ち、風の通り道を作ってある部屋だ。
部屋の中央、大の字になって横たわる人影が二つ。
慧音と小傘だ。
二人はのぼせ上がって赤らんだ肌をさらしとドロワーズで包み、畳んだ衣服を枕にして横たわっている。
風が吹き、木々が木の葉をざわめかせる。
「「すーずーしーいー」」
風が部屋を吹きぬけて、二人の口からは間延びした声が漏れた。
涼しさの余韻に浸りながら、慧音は視線だけを隣に横たわる小傘に向けて、
「しかし、数字の数え方を知らないとはな」
「別に……今までは知らなくても、困らなかったもの」
のぼせ上がるまで拘束された浴室での出来事を思い出してか小傘は身震い。
それを見て、口端を緩ませながら慧音は天井へと視線を移し、
「まあ、わからないことがあったら、私が知る限りで教えてあげよう」
せんせーだ、とからかうような口調で呟きが漏れて。
その通りだ、と演技がかった口調で呟きが返された。
風が吹き、木々が木の葉をざわめかせる。
「「きーもーちーいー」」
火照った肌を風が撫でて、二人の口からは同じ言葉が漏れた。
肺の中の空気を搾り出すように、満足げな息を二人でつき。
静寂が訪れた。
徐々に火照りがひいて行くのを感じつつ、慧音はぼんやりと天井を見据える。
そして今の状況を思い浮かべて笑みをこぼす。
昨日の時点ではこんな関係になるとは予想だにしていなかった。
悪くは無い、と内心呟いて慧音はまた息を吐く。
心地よさに任せて瞼を伏せようとした時。
静寂を破る音がした。
慧音が隣を向けば、音は畳と小傘の体が擦れる音で、寝そべっていた小傘が起き上がっていた。
上半身を起こした小傘に対し、慧音は肩肘を突いて体を起こし問いかける。
「どうした……?」
問いかけに対し、小傘はまず振り返ってから、
「ん、長くお邪魔しちゃったし……そろそろ行こうと思って」
返された応えに慧音は口を浅く開いたままに、
「……そうか」
短く呟いて、枕代わりにしている衣服の山に頭を埋めなおした。
そして何かを言おうとして言葉を詰まらせる。
隣で小傘は畳んであった衣服を手に取っていた。
忘れ傘に行く場所は、帰る場所はあるのだろうか。
何処へ。
と問いかけの言葉を口にできずに飲み込み。
さよなら。
と別れの言葉を告げたくなくて口を噤んだ。
何も言い出せずに慧音は、視界を遮るように腕を目元に当てる。
何も気にかけることなく小傘は、衣服に袖を通していく。
風が吹き、木々が木の葉をざわめかせる。
衣擦れの音だけが聞こえていた。
*
からんころんと下駄が鳴る。
左手に森が広がる道を小傘が歩いていた。
彼女はご機嫌そうに大きく足を振るい、抱くように持つ傘を廻していた。
「ぷっくくく……けーね、いっぱい驚いてくれたなぁ」
口元に片手を添えて、身を折るようにして彼女は笑う。
先ほどまで一緒に居た獣人のことを思い返しては笑みを浮かべて、
「けーねってば、普段は大人っぽいのにすっごく驚いてくれるし、すぐ泣いちゃうんだもの」
抑えた口元からは笑い声を漏らす。
そして手を下ろして、服越しに気持ち張ったお腹を擦って、
「いっぱいご馳走してもらって満腹だし……暫くは人間に会えなくても大丈夫そう」
満足げに呟いた。
張ったお腹をぽんと叩いて、
「次はどーやって脅かして、驚いてもらおうかなー。けーねを外で見かけたら、まずは後ろから……」
あーしよう、こーしよう、と計画を口にしながら小傘は下駄を鳴らす。
「あーっ、誰かって決めて驚かせ方を考えるのって、初めてで、なんか楽しいね」
と不意に下駄の音が止んでいた。
立ち止まった本人の小傘は鳩が豆鉄砲を食らったような面持ちで、片手で抱く傘を廻している。
自分で口にした言葉に対して首を傾げて、
「初めて……だったかな」
何故自分の言葉に疑問を抱いたのか、それを理解できずに反対の方向に首を傾げた。
うーん、と唸り声を漏らしながら傾げた首を元に戻し、
「……いいや、良くわからないし」
浮かんだ疑念を振り払うように呟いた。
小傘は傘を廻したままに前を見据えて、
「何処へ……いこっかなぁ……」
眼前、何処かへと通じる道がある。
「…………」
無言のままに小傘は視線を左手へと向けた。
道の脇には、何処かに自分がここ数日に通い詰めた広場を持つ森が広がっている。
そして流れるような動きで背後を振り返った。
背後、何処へ通じるか分かる道がある。
「何処へ……いこっかなぁ……」
下駄はまだ音を奏でていない。
*
月明かりが差し込む部屋がある。
中央に布団が敷かれ、畳敷きの寝室だ。
部屋の主である慧音は、布団の上で枕に顔を埋めて、うつ伏せに横たわっている。
彼女はわずかに顔を上げて、枕の上で拳を作りながら、
「私はちっぽけだぁ……」
唸り声と共に握った拳で枕を叩く。
恥じ入るのは、小傘を引きとめようとした事に対してだ。
慧音は飢えた肉食獣の様な唸り声を上げ、再度枕を叩いて、
「あいつにだって帰る場所はあってもおかしくはないし」
それに、と呟いてから慧音は俯いて口元を枕に埋める。
小傘は「行こう」と言った。
「帰ろう」ではない。
つまり、と前置きをしてからくぐもった声で、
「……帰る家という概念を持っていないかもしれない」
気の向くままに旅をする根無し草の妖怪も居るだろう。
親から生まれず、誰かの元で目覚めたわけでは無いから傘お化けなら、尚のことかもしれない。
自分で導き出した結論に、慧音は押し黙り、首を振り、布団に手をついて体を起こした。
「あーーっ、もう。何であいつのことで私がうじうじしなくてはならないんだ」
憤りの声を上げて、乱れた息を整えるように深呼吸。
顔を月明かり差し込む窓へと向けて、空を見遣り。
「あいつとはまだ出会ったばかりで……」
小傘は寺子屋の子供達を驚かす為に来て。
自分はそれを防ぐ為に迎撃に行った。
彼女がこの地に赴かなければ出会うことも無く。
「あいつから来なければ、私には偶然以外に会う術も無い……」
それは嫌だ、と月明かりに照らされる慧音の表情が沈む。
「なんて言えればよかったんだろうな……」
無言で済ませた最後の応対を悔やむように呟く。
再会を約す言葉を告げることができていれば、ここまで思い悩むことはなかったかもしれない。
「行ってらっしゃい……と言えれば良かったんだろうか」
呟いて、今更だな、と呟きを繋げる。
ため息を漏らしつつ、慧音は前を向き直って、視線を落とす。
見慣れているはずなのに何故か広く感じる敷布団。
その中央に鎮座する枕に。
慧音は握っていた拳を開くと、枕の端を掴んで敷布団の片側へと寄せる。
「…………」
必然的にできる開けた空間を一瞥してから、慧音はその空間に背を向けるようにして横たわる。
枕の位置を調整しながら瞼を伏せて、消え入るような声で呟いた。
「あいつが……次来た時にはなんて言ってやろう」
自問するように放たれた言葉に続く声は無かった。
差し込む月の光が僅かに傾いだ頃、静かな寝息が立ち始める。
主が寝静まり、屋敷は静まり返る。
そして慧音の肩が規則正しく上下し始めた頃。
窓の外。
森の奥。
闇の中。
紅く光る瞳が一つ、開け放たれた窓を見つめていた。
からんころんと下駄が鳴る。
闇の中、森の奥より月明かりの下へと、から傘お化けが歩み出る。
彼女は月明かりが差し込む室内を窓から覗き込む。
敷布団の片側に寄って眠る獣人の姿を眼にした彼女は口端を上げて。
窓枠が軋む音を立てた。
そして――
朝日が昇り始めた頃合、開け放たれたままの窓から情けない悲鳴が漏れ出た。
悲鳴によって緊迫した空気を、ほぐす様に陽気な笑い声が続き。
笑い声を遮るように、頭蓋と頭蓋が奏でる鈍い音が鳴り響いた。
暫くの沈黙の後、切り裂くような泣き声が漏れ出てくる。
終わる気配の無い泣き声に隠れて、消え入るような声で呟かれた言葉があった。
その言葉は、いつの日か消え入らぬ程度の声で。
「お帰り、小傘」
前々作と今作を読ませて頂いて勝手に私が受けた印象です。
良い意味でプロローグ的というか、二人の未来について凄く想像をかき立てられるというか。
自分を忘れないでいてくれる人も帰る家も出来た。
これからもっとたくさんの知識や色々な感情を学んで欲しいですね、小傘ちゃんには。
慧音先生はそれを教えるには最高の人材だと思いますから。
人間の子供と寺子屋で授業を受ける小傘ちゃん、たまに先生の頭突きを受ける小傘ちゃん。
……なんか、オラわくわくしてきたゾ!
と、楽しませて頂きました。
でも、ラストから推測するに暫くは住まなそう。
懐きはじめた野良猫みたいな感じかな