― 菊の火の 空に届くか 灰の香よ
舞い散る残滓 袖に染みつき ―
人間の里にある寺小屋。和歌の時間。
上白沢慧音は、今日も生徒の前に立ち教鞭を取っていた。
「残滓(ざんし)というのは、残りかすという意味ですね」
慧音先生は、一通り言葉の意味の説明をする。
頷きながら黙々と筆を取る生徒もいれば、「先生分からないでーす」と鼻をたれながら言う生徒もいる。
日常の風景を嬉しく思うものの、今は自分も授業に集中しなければと、先生は一息をいれた。
「はい、それではこの歌全体での意味を考えてみましょう」
指示棒で黒板をタンと叩き、生徒達の注目を促す。
教室が静かになったと同時に、先生が説明を始めた。
「これは、大切な人が亡くなった時に詠まれたものです」
説明を続ける先生に顔を向け、生徒達は皆熱心に聞いている。
「弔うために、生前に来ていた服が燃やされてしまったが、その時に出た灰が喪服の袖についてしまっている、という状況です。その灰という残りかすには、寂しさが表れています」
生徒達が筆を走らせ、板書をしている。
先生は周りを見回し、生徒の筆が止まるのを待っていた。
そして、説明を再開させる。
「『空に届くか』の部分は、亡くなった人へ思いが届くだろうか、という意味です。また、菊というのは別れを意味も含んでいます」
先生は、このくらいかなーともう一度確認をする。どうやら予定していた項目は教え終えたようだ。
時間も丁度いいので、授業を締めることにした。
「それでは、今日はこれで終わります。復習は忘れないように」
「「ありがとうございましたー」」
自室に戻った慧音は、今日取り上げた歌に再び目を通す。
そして、ぼそっと呟いた。
「今日はああやって説明しましたが、本当は違うかもしれませんね」
歌の解釈は一つではない。見方を変えて見る事にしよう。
一見死を悼む悲しさを詠んだ詩のように思えるが、人を殺してしまった人が詠んだものだったらどうだろうか。
「この恨み辛みは、たとえ菊の花を燃やしても晴れる事は無い。この怨念は、殺めてしまったこの手の袖に纏わりついてしまっている」
慧音は、しばらく自分の新しい解釈を再考した。
「…考えすぎか、我ながら恥ずかしい」
自分で自分を嘲笑するように、フッと鼻から息を漏らした。
「いやはや、傍らで歴史の編纂をしていると、どうも余計な事まで考えてしまうものだな」
慧音はお茶を一口すする。
「さて、次はどの歌にしようかな…」
気を取り直した慧音は、明日の授業の準備に取りかかった。
― 菊の火の 空に届くか 灰の香よ
舞い散る残滓 袖に染みつき ―
しかし、教室らしい雰囲気は描き方は好感が持てますし、解釈という行為が慧音の性格を端的に表現していると感じました。
次は中編、さらにその次は長編にチャレンジしてください。
歴史なんてものは、学んだ人間の数だけ解釈はあるのかもしれません。
解釈自体は面白かったのですが、それだけなのが残念でした。
― 菊の火の 空に届くか 灰の香よ
舞い散る残滓 袖に染みつき ―
この和歌を使って、これから何かしらの物語が展開される、もしくはされていたのかと思って読み進めていたものですから
「僕らの冒険はまだまだこれからだ!」という文字を読んでしまったような感じでした。
上記されてありますように、中編長編を期待しております。