Coolier - 新生・東方創想話

解釈

2010/08/04 03:43:00
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― 菊の火の 空に届くか 灰の香よ
          舞い散る残滓 袖に染みつき ―






 人間の里にある寺小屋。和歌の時間。
 上白沢慧音は、今日も生徒の前に立ち教鞭を取っていた。

「残滓(ざんし)というのは、残りかすという意味ですね」
 慧音先生は、一通り言葉の意味の説明をする。

 頷きながら黙々と筆を取る生徒もいれば、「先生分からないでーす」と鼻をたれながら言う生徒もいる。
 日常の風景を嬉しく思うものの、今は自分も授業に集中しなければと、先生は一息をいれた。

「はい、それではこの歌全体での意味を考えてみましょう」

 指示棒で黒板をタンと叩き、生徒達の注目を促す。
 教室が静かになったと同時に、先生が説明を始めた。

「これは、大切な人が亡くなった時に詠まれたものです」
 
 説明を続ける先生に顔を向け、生徒達は皆熱心に聞いている。

「弔うために、生前に来ていた服が燃やされてしまったが、その時に出た灰が喪服の袖についてしまっている、という状況です。その灰という残りかすには、寂しさが表れています」

 生徒達が筆を走らせ、板書をしている。

 先生は周りを見回し、生徒の筆が止まるのを待っていた。
 そして、説明を再開させる。

「『空に届くか』の部分は、亡くなった人へ思いが届くだろうか、という意味です。また、菊というのは別れを意味も含んでいます」

 先生は、このくらいかなーともう一度確認をする。どうやら予定していた項目は教え終えたようだ。
 時間も丁度いいので、授業を締めることにした。

「それでは、今日はこれで終わります。復習は忘れないように」

「「ありがとうございましたー」」





 自室に戻った慧音は、今日取り上げた歌に再び目を通す。
 そして、ぼそっと呟いた。

「今日はああやって説明しましたが、本当は違うかもしれませんね」

 歌の解釈は一つではない。見方を変えて見る事にしよう。

 一見死を悼む悲しさを詠んだ詩のように思えるが、人を殺してしまった人が詠んだものだったらどうだろうか。

「この恨み辛みは、たとえ菊の花を燃やしても晴れる事は無い。この怨念は、殺めてしまったこの手の袖に纏わりついてしまっている」

 慧音は、しばらく自分の新しい解釈を再考した。

「…考えすぎか、我ながら恥ずかしい」

 自分で自分を嘲笑するように、フッと鼻から息を漏らした。

「いやはや、傍らで歴史の編纂をしていると、どうも余計な事まで考えてしまうものだな」

 慧音はお茶を一口すする。
 
 「さて、次はどの歌にしようかな…」

 気を取り直した慧音は、明日の授業の準備に取りかかった。





― 菊の火の 空に届くか 灰の香よ
          舞い散る残滓 袖に染みつき ―
初投稿になります。
短めの文章ですがいかがだったでしょうか。
拙い部分は多々ありますが、何か少しでも感じて頂ければ幸いです。


小説や絵に限らず、解釈は人それぞれにあるものだと思います。
それは、とても面白いことだと思います。

ある意味、歴史もそうなのかもしれません。



大分遅れましたが返信です。
コメントありがとうございました。

>1さん
歴史の編纂という行為も、少なからず編纂者の性格がでるものなのでしょうか…
次は長めの話を考えてみます!

>2さん
私もこういう話好きなんです。
今後はゆるゆるしたのにも挑戦しようかなと思うこの頃。

>可南さん
こちらこそ、読んでいただきありがとうございます。
この勢いを長編でもだせればいいなぁ…

>葉月ヴァンホーテンさん
お前は言葉足らずなんだよね、とはよく言われます。
それこそ、自分の中での勝手な解釈で終わらせてしまう癖があるみたいで…
次はそこにも留意して書いてみます!
ゴッペ
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コメント



0.330簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
確かに短すぎるような気がしたのでこの点で。
しかし、教室らしい雰囲気は描き方は好感が持てますし、解釈という行為が慧音の性格を端的に表現していると感じました。
次は中編、さらにその次は長編にチャレンジしてください。
2.90名前が無い程度の能力削除
でも好きですよ、こういう話
9.70葉月ヴァンホーテン削除
解釈というものは、あらゆる物事において重要な行動の指標となりますね。
歴史なんてものは、学んだ人間の数だけ解釈はあるのかもしれません。
解釈自体は面白かったのですが、それだけなのが残念でした。
― 菊の火の 空に届くか 灰の香よ
          舞い散る残滓 袖に染みつき ―
この和歌を使って、これから何かしらの物語が展開される、もしくはされていたのかと思って読み進めていたものですから
「僕らの冒険はまだまだこれからだ!」という文字を読んでしまったような感じでした。
上記されてありますように、中編長編を期待しております。