幻想郷の夏は暑い。
人里ではそれにかこつけて上半身をあらわにした半裸の男たちが肉体美を競い、妖怪の山では涼を求める妖怪たちが川へと殺到し河童と熾烈な領土争いを繰り広げる。
友人やライバルに「なんか暑そうだし」と言われ会う頻度が激減した不老不死の少女が寂しそうにフジヤマボルケイノする姿はもはや竹林の風物詩だ。
湿気とカビの連合軍と戦う魔法の森の住人たち。
博麗神社では巫女が今日も熱いお茶を啜る。
それが、幻想郷の夏。
紅魔館は湖の畔にあるのだが、それでも暑いものは暑い。
レミリアは茹で上がった頭で突飛な行動に出て皆を驚かせ、フランドールは地下で涼しげに本を読む。美鈴は氷精の来訪を心待ちにし、図書館組はいつも通り。
そして十六夜咲夜はというと、毎年この季節が来ると少し憂鬱になる。
まだ彼女が幼い頃、肌が弱く汗をかくとよく肘や膝の内側に汗疹ができて美鈴に「いじっちゃダメ」と叱られた。見かねたレミリアに手ずからメイド服を半袖ミニスカートにあつらえ直してもらったときは従者として恥じ入るばかりだった。
そんな己の不甲斐なさを思い出す季節。それが彼女にとっての夏だった。
「おや、お嬢様」
「美鈴か。んー、サボりはいかんな」
吸血鬼である主のために極力日が入らないように工夫がされた紅魔館の廊下は、まだ明るい外とは対象的にやや薄暗い。その曲がり角で出くわした二人の軽口。今日はこれからオフですよと返す美鈴にレミリアはご苦労様とうなずく。
本館からメイドたちが寝泊りする宿舎へと続く廊下。なぜレミリアがここを歩いているのだろうと美鈴は首をかしげる。
「こんなところでどうしたんですか?まさか暑さでボケて自分の部屋が分からないとか」
「そんな訳あるか馬鹿者。少し咲夜に用があるのよ」
パチェと碁を打とうと思って、あとで図書館まで持ってくるように言うだけよ。レミリアはそれを伝えるためだけに従者の部屋に足を運ぶ。フットワークの軽さが売りのカリスマ。というわけではなく、他の妖精メイドに頼んでも正直ちゃんと届けられるかギャンブル以外何ものでもないために仕方なくだ。
「美鈴こそどうなんだ。こっちは門番隊の宿舎じゃなわよ」
並んで歩き、道すがら会話を続けていたが門番とメイドは宿舎が違うため美鈴の部屋はここにはないことを思い出す。本来ここにはいないはずの彼女だ。そっちこそ暑さでボケたんじゃない?といやらしく笑うレミリア。
「私も咲夜さんに用があるので。本をお貸しするだけですけど」
「ふーん。面白い?なら咲夜が読み終わったら私も借りようかしら」
恋愛ものですよ?
まるで私が愛だの恋だのを理解できない感受性に乏しいみたいな言い方だな。あぁん?
「やっぱり、どうも痛いと思ったら…」
内股に違和感があったため、休憩を利用し自室に下らせて貰った咲夜。
触って確認すると、案の定股関節の付け根に汗疹ができていた。見事に赤く爛れてしまっている。ここ数年、成長したため昔のようなことにならなかったので油断していた。
「ローションで誤魔化すしかないか」
まさかがに股で仕事をするわけにもいかない。
「なんだか恥ずかしいわね」
汗を拭き、下着姿でベッドに腰掛け姿見の前でローションを患部に薄く塗りつける。部屋には自分しかいないのだが、仕方ないこととはいえ鏡の前で足を広げたはしたない姿に羞恥を覚える。
患部を清潔に保ち乾燥した状態をしっかりと保つこと。昔美鈴に何度も言われたことだ。あの頃はこんなときに一緒に水風呂に入り、ベビーパウダーを撫でる様に塗ってくれた。最後に「よくかいたりしないで我慢できたね」と頭を撫でてくれたりもした。その瞬間だけ、汗疹に悩まされる夏も悪くないと思っていた自分はずいぶんと現金なものだった。
美鈴はまだベビーパウダーをもっているかしら。もうずっと彼女の世話になることはなかったが、当時を思い出し或いはと考えて仕事が終わったら聞いてみようと決めた。
ふと姿見に映る自分を眺める。あれからずいぶんと時が経ち、手足は伸びて体も大きくなった。いつまでも子供のままではいられない。行く当てのない自分を招き入れてくれた紅魔館の皆への恩返しのつもりで精一杯メイドの仕事に打ち込み、そして今ではメイド長という要職を与えられた。思えば遠くへきたものだと感慨深くなる。
一時、咲夜は在りし日に思いを馳せ微笑を浮かべる。
休憩時間はもうすぐ終わり。さあ仕事だと意識を完全で瀟洒なメイドへと切り替えて立ち上がろうとした瞬間―
「咲夜~、少し頼みたいことがあるん…だけ、ど」
「お嬢様、せめてノックくらいしないと失礼です…よ」
「お嬢様!?美鈴!?」
急に扉が開き、あわてて振り返るとそこにはレミリアと美鈴がいた。見知った顔であったので咲夜は安堵の息を吐く。
「お嬢様、ノックもなしにいきなり入ってこられては困ります。そもそも、レディとして少々はしたない―」
ついで無作法を咎めようとするが、
「いっ、いやスマン。私が不躾だった!年頃だものね?誰でも独りになりたい時ってあるわよね?」
「分かっていただければ幸いです。あの、どうかされましたか?」
妙にうろたえるレミリア。その後ろでは美鈴も魚みたいに口をパクパクとさせている。
二人の奇怪な行動にいぶかしむ咲夜。
「その、運命を操ることに定評のある私だが、まさかその…モニョモニョ…に勤しんでおられるとは…思いませんでしたことよ?」
「はい?それはどういうこ…と」
驚きで咲夜は自分が何をしていたかをすっかりと失念していた。姿見の前でベッドに下着姿で座り足を広げている。傍から見るとこれではまるで、その、子供にはとても見せられない大人のウォームアップをしている様ではないか。
「ち、違います!これはその、ちょっと内股に―」
「いや、皆まで言うな!あれだろう『お股がムズムズするの…』とかそういう類のことだろう?夏だものな!若いものな!仕方ないよな!」
「ですから!これは単に―」
「いやー、ビックリして喉渇いちゃったなー!おい美鈴、氷精捕まえてカキ氷でも作ろうか」
何味がいい?なに、恋の味?ハハハッこやつめ。
未だに再起動しない美鈴を強引に引っ張って倍速再生な速さで去っていくレミリア。パタリと美鈴の手から零れ落ちた本の立てる音だけが空しく残された。
そして今し方出て行ったばかりなのに、もう湖のある方向からチルノの逃げ惑う叫び声が聞こえてくる。
ぎゃー!日傘が!太陽がー!
次いでレミリアの苦痛に震える叫び声も聞こえた。
「誤解だって言ってるのにー!!!」
最後に、咲夜の切なる叫び声が紅魔館にこだました。
「……はっ!私は紅美鈴。ここは紅魔館裏のパティオ。そして手には何故かカキ氷」
「正気に戻ったな。取り合えず食べましょう」
シャリシャリ、シャリシャリ…うおお、頭が。
紅魔館の裏にある中庭。そのさらに奥の建物と塀の間にレミリアと美鈴はいた。正直このまま屋敷内へと戻って咲夜と顔を合わせるのは気まずい。屋敷のどこからも死角となるこの場所ならば誰も来ないだろうと腰を落ち着かせ、さてどうしたものかと二人して頭を抱える。
「なんと言いますか、咲夜さんもお年頃なんですね。まさかあんなことしてただなんで」
「人間の成長って早いわねー」
昔はめーりんめーりんと笑顔で呼びかけてくる、寄ればじゃれ付く子犬のような咲夜だった。それがあのような行為に及ぶほど心も体も成熟した。大人になっちゃったんだなぁと少し寂しげに笑う美鈴。
レミリアもいつの間にか見上げるほどに背が高くなった咲夜を思う。畜生、私だっていつかは…。
「というか、次なんて顔して会えばいいのよ?」
「気まずいのは咲夜さんも同じでしょうしねぇ…」
「やっぱりアレかな。気にしてませんよって風に『よう!昨日はお楽しみでしたね!』とかフランクに肩を叩いてやるべきかしら?」
「止めを刺したいんですか?」
真剣に悩んでいるのかこのお嬢様はと拳を握る美鈴にレミリアは思わずしゃがみガード。
あーでもないこーでもないと議論を続けても出口はまったく見えてこない。
「あーもう!いいさ、出たとこ勝負だ。なぁなぁで済ませてりゃ時間が解決してくれるはずだ。そう決めた」
結局行き当たりばったりなんですねぇと美鈴は呆れるが、そんなものかなと納得する。
学校から帰るとなぜか机の上に整然と詰まれたセクシュアルブックも母と子の絆を引き裂くことはできない。そういうことだろう。
「ああもう。どこへ行ったのよあの二人は」
メイド服をあわてて着込み霧の湖へ駆けつけた咲夜。そこに探し人の姿は既になく、とばっちりを受けたであろう目を回している大妖精を介抱し、紅魔館へと戻って二人の行きそうなところを探し回っているがまったく見つからない。途中妖精メイドを捕まえて仕事を割り振りっているが、いつ自分が対処しなければならない事態が発生するか分からない。
仕事中の妖精メイドが必死な様相で廊下を駆ける咲夜に目を丸くしているが、時を止めることすら失念している彼女はそんなことにも気付けていない。
「咲夜さん、いったいどうしたんですか?そんなに慌てて」
「小悪魔!お嬢様と美鈴見なかった!?」
声をかけただけなのに、いきなり詰め寄られ強い口調で問いただされる小悪魔は少し涙目になった。
「い、いえ見てませんけど」
ああでもと続け、
「お嬢様でしたらこのあと図書館までいらっしゃることになってますよ」
だから私はお茶の準備に厨房まで。そう言う小悪魔に咲夜は背筋が冷たくなるものを感じた。レミリアはことさらに誰かの醜聞を吹聴することはない。ないが、相手は紅魔館が誇る知恵袋。何がしか相談しようとは考えるかもしれない。主におしべとめしべについて。無情にもタイムリミットが発生した。図書館に行く前にレミリアを捕まえなければならない。
礼を言ってまた駆け出す咲夜。独り残された小悪魔はしばし呆然としていたが、パチュリー様とお話する話題ができたと上機嫌で厨房へと立ち去った。
咲夜は自室のテーブルに手を着き項垂れる。捜せど探せど見つからない。仕舞いには犯人は犯行現場に戻る。そんな推理小説のセオリーに望みをかけて部屋に戻ってきた辺り駄目な頭になってきている。もはや咲夜の嗜好回路はショート寸前。今すぐ会いたい。
「なんだって私がこんな目に」
そもそもレミリアと美鈴が変な勘違いをするのが悪い。どちらも咲夜にとって尊敬する人物であるが、何故だか二人揃うと全力で駄目な方に向かっていく。パチュリーなどは平和になって気が抜けたのでしょう。結構なことじゃないと言うが、もっとこう、威厳のあるレミリアと泰然とした美鈴でいて欲しい。幼い咲夜にとって二人に抱いた最初のイメージがそうであった様に。
「本当にもう。どこへいったのよ」
トスンと小さく音を立てて椅子に座り込む。もしこのまま見つけられず、レミリアがパチュリーに今日のことを相談することがあればどうなるか。それは容易に想像できる。
咲夜。あのね、子供ってどうやったらできるのか知ってる?
コウノトリさんが運んでくるわけじゃないんですよー。びっくりですね。
この本で一緒に勉強しましょうか。大丈夫、人間には必要なことよ
うぷぷ。咲夜さんも色を知る年ってわけですね!
「私は初潮前の初心な子供ですか」
一人でつっこむ。小悪魔はあとでお仕置きだ。
そこでふと思い出した。子供の頃何か失敗したりするとそれが情けなくて泣いてしまった。それを誰にも見られたくなくて、そんな時はいつも隠れていた。でも決まってレミリアか美鈴のどちらかが迎えに来てくれた秘密の場所。
紅魔館のどこにもいなかったが約束があるなら外ではないはず。
「……行ってみましょう」
パチュリーとの約束なんて既に幻想郷の外へ放り出してしまったレミリアはビシッと可愛らしい指を一本立てて美鈴の前に突き出した。
「むしろ心配すべきは別にあるわ」
「ふむ。というと?」
まだ何かあるのだろうかと首をかしげる美鈴。
「咲夜って、可愛いわよね?」
「そりゃもちろん。思わず嫉妬してしまいますよ」
「うちって、男いないわよね?」
「先代様にお仕えした家令が最後ですね。かれこれ四百年くらいは」
「咲夜って、だから男と接する機会ってあまりないわよね?」
「それはまぁ、里へ買い物に行く時くらいですかね」
「つまり!」
ぐわっ、と立ち上がるレミリアに何事かと驚く。
「色々と持て余した咲夜が里の男衆にいい様に誑かされて弄ばれてしまう可能性があるってことよ!」
「えぇと、はい?」
何を心配しているかと思えばそんなこと、なんと答えたものかと逡巡する美鈴に構うことなくレミリアは続ける。
「…ああ、運命が見える」
ちゃんと金は用意できたんだろうな?
はい。紅魔館から…その、借りてきました。
ヒャッハー!酒だ。酒が飲めるぞ!
あなた、またそんな。体に毒ですわ。
うるせぇ!お前は黙って股開いてりゃいいんだ!
あーれー。ううっ、子供さえいなければこんな人別れてやるのに。
「…可愛そうな咲夜」
「いえそれ妄想ですよね。能力使ってませんよね」
レミリアの妄想は始まったばかりだ。
「といいますか、咲夜さんはそんな後ろ足で砂をかけるような事を軽はずみにする人ではありませんよ?」
信じられませんか?と美鈴が聞けば、
「信じてるわよ!チラリズムを追及してメイド服をミニに改造したのに、心から喜んでくれたあの日から!でもそれ位初心なのよあの娘は!」
「私はお嬢様が信じられなくなりました。カミングアウトしてくれたこの日から。正直咲夜さんの教育を間違えました」
本音が思わずポロリ。
とりあえず、なかったことにして会話を続ける。
「私だって信じているわよ。でも咲夜だって人の子なのだから間違いを犯すこともあるでしょう。私はそれを未然に防ぐべきだと思うの」
咲夜が生涯を自分にささげるのならばレミリアに嫌はない。もちろん、咲夜が人として平凡な幸せを求めるのならば快く送り出そう。咲夜はレミリアにとって最高の従者であり、成長をつぶさに見守ってきた我が子そのもの。不幸になどするものか。
「こうなったらもう、私が咲夜を鎮めるしかないのか…」
咲夜、こんなに月も紅いから、今夜は二人で全世界ナイトメア。
ああ、お嬢様のグングニルがとっても不夜城レッドですわ。
ふふっ、いやらしい娘。あなたのココ、もうこんなにヘルカタストロフィ。
「いやぁ…だめよ、私初めてはラクロシュ湖畔の別荘で月明かりに照らされてって決めてたのにぃ…」
「あの、何で泣いてらっしゃるんです?」
レミリアの妄想は留まるところを知らない。
「落ち着かれましたか?」
「えぇ、とっても。うぷっ」
渾身の当て身でレミリアの正気を取り戻した美鈴。よろしいと頷き、お気持ちはよく理解できますと前置きする。
「しかし咲夜さんは咲夜さん。お嬢様自ら運命を手繰り寄せ迎え入れた者です。それにもう大人。きっといつまでもおんぶに抱っこなんてあの娘も嫌でしょうし、一時の情動に振り回されることはないとまず信じてあげなければ。無論間違えることがあれば諌めましょう。それでいいじゃないですか」
諭すように言う。いつも手を引いてあげていた子供が自分の足で歩き始めた。ならば背を押してやるのが親の務めです。最後にそう付け加える。
「…そうね」
「聞かなきゃ相手の男を片っ端から捻り切ればいいじゃないですか」
「そうね!」
二人はただ、いつだって背伸びをして頑張る咲夜が大好きなのである。子を愛する親に罪はない。
「やっと、見つけましたわ」
さて屋敷に戻ろうかと立ち上がりかけた二人の前に、何者かが突然立ち塞がるように現れた。
「うわぁ!ノックくらいしなさいよ!」
「屋外ですわ」
それはレミリアの下心が詰まったメイド服を着たいつもの咲夜であったが、肩で息をして険しい表情を見せる彼女に常ならぬものを感じる。まさかの口封じかと戦慄するレミリアと美鈴。
「咲夜!あの、あのね、あんなところを見ちゃったのは悪かったわ!でも聞いて。これはアレよ、美鈴が『むむっ、咲夜さんの部屋から妙なうめき声が。これは一大事!』って私の静止も聞かずに飛び込んだのが悪いのよ!」
全ての責任を美鈴に擦り付けるレミリア。
「それはないでしょう!?元はといえばお嬢様が『私のカリスマの前には物言わぬ扉でさえ道を譲るのよ。そりゃ!』っていきなり―」
負けじと美鈴。元はといえば悪いのはノックをしなかったレミリアであるのだが。
「ですから!全部誤解なんです!」
「初めからそう言ってくれればこんなに気を揉むこともなかったのに…」
ぐったりと椅子に腰掛け疲れたように零すレミリア。聞かずに出て行ったのはどこの誰でしたか。そう言いたい欲求をひたすら堪える咲夜だった。
事のあらましを咲夜から聞き、三人はそのまま美鈴の部屋へと移動した。
いつまでも子ども扱いされては困ります。
いやだって、私らにしたら咲夜は子供のようなものだし。それに最近甘えてくれないし、何かしてあげたいのよ。
それでも立場というものが御座いましょう?
いいじゃない。ちゃんと世間様にはスカーレットデビルで通ってるんだし。
二人のやり取りを背景に美鈴はプライベートな部屋にしては多く配置された収納棚の一つへ迷わず進んでいく。
「ベビーパウダーですね。もちろんありますよー。汗疹なんてずいぶん久しぶりですよね。」
美鈴の部屋は物が多い。会計用書類一式から専門書、大工道具、医薬品までなんでもござれ。それらは全て収納に収められているために雑然とした印象はない。部屋の主の性格がよく現れている。
ある事情によりレミリアは幼くして当主となった。そしてそれまでスカーレットの一族に仕えていたものの多くは去っていった。皆沈む船からは早く逃げたかったのだ。そんな連中を早々に見限り、ただレミリアのために美鈴は幼い彼女を教育しありとあらゆる仕事を一人でこなし、そこに美鈴だけの時間はなかった。この部屋はその名残だ。
咲夜も幼い頃はよくここで寝泊りしていた。変わってないなと部屋を見渡していると美鈴から円筒形の小さい缶を渡される。
「あら?新しいのなんてあったのね」
そのベビーパウダーの缶はまだ開封されていない、それも何年も保管されていたものでなくつい先日買ってきたばかりのような真新しい物であることに少し驚く。美鈴は妖怪であるためにこのような人間の使うものは必要ないはずだ。
「いやぁ、つい癖で毎年この時期になると買ってきちゃうんですよね。まさに備えあれば憂いなし。こんなこともあろうかと!ですよ」
必要ないとは分かっていたんですけね。でも今回はよかったです。そう言って笑う美鈴に、もう子供じゃないんだからそんなに心配しないでよと咲夜は苦笑する。
「でも確かに助かったわ。ありがとう」
どういたしましてと言う美鈴はいつもの三倍笑顔だ。美鈴もレミリアに負けず劣らず過保護である。あの頃から何一つ変わらない。
一つ仕事を覚えるたびに手放しで喜んでくれた二人。咲夜はそれが嬉しかった。今は何だって一人でできる。でもまさかそれに彼女たちが不満を感じていたとは思ってもみなかった。
なんたって完全で瀟洒なメイド。確かにこんなことでもなければ、あえて今の自分に助けは要らないだろうと咲夜は思う。
でも今日は疲れた。心身共に。だから少しだけ、その仮面を脱ぎ捨てる。
「ありがとう。美鈴」
「咲夜さん?」
美鈴の瞳を見つめて素直な感情を込めた言葉を口にする。美鈴はパチリと目を瞬かせて、ついで赤らめた頬を指でかく。ずっと年上のはずの彼女のその姿が咲夜には可愛らしく思えた。
「あはは、急にどうされましたか?」
殆ど変わらなくなった目線の高さ。あの頃は背伸びしても美鈴の胸にすら届かなかった小さな咲夜。今ではこんなにも顔が近い。美鈴の瞳から視線を外さず、ゆっくりと手を握る。
「ん。少し幸せってものの再確認を」
指を絡め、胸元まで引き寄せる。こうして息がかかるほどに近く触れ合うのはいつ以来だったろうか。
「わ、わぁ…大人なはずの咲夜さんが何故だか懐かしい雰囲気に…」
「きっと夏のせいね」
たじろぐ美鈴。せっかく久しぶりに素直に甘えてみようというのにその態度はいかがなものか。だから咲夜は徹底的に甘え倒してやろうと決めた。レミリアがいつも言っているように夏のせいにして。
「いや、いいんだけどね。でも主をほっといてそれはどうかとも思うわけですよ私は」
横からジト目で見上げてくるレミリアに、二人は慌てて手を離す。いーもーんといじけて見せるレミリアに機嫌を直してくださいと宥める。
「んー、なら咲夜。私の頬にキスしなさいな。昔やってくれたみたいにさ」
頬をトントンと叩き咲夜のほうに向けてくる。単に、美鈴がうらやましかっただけのようだ。
「お嬢様ずるい!私も、咲夜さん私にも!」
「やらんわ、ばーか。忠誠のちっすは主様だけのものよ」
喧々囂々。まぁまぁと間に割って入りすかさず二つの頬にキスを落とす。とたんに表情を崩す親馬鹿二人に咲夜はただただ苦笑するばかりであった。
主にお嬢様がひどい。
人の話を聞かないで全力で間違った方向に突っ走るのは紅魔館の専売特許ですね。
よくあるめーさくですが、汗疹や、気まずさといった身近なワードを効果的に使っていることで新鮮さを感じました。
「いじっちゃダメ」でなぜかキュンときましたw
仲のいいお嬢様と美鈴が凄く良かったです。めーれみもっと流行れ
誤字らしき箇所がありましたのでご報告を
大人なはず咲夜さんが→大人なはずの咲夜さんが?
面白かったです!
パッチェさんw
次回作が楽しみです。
このお嬢様は好きだ!
エロになりすぎないギリギリ感から一気にほのぼのな展開がよかった。
読んでいてすごく穏やかな気分になるSSでした。
なんかこの家族をずっと見守っていたくなるw
オチにインパクトがあればもっと良かったかも。
ところで作者さん、餡掛炒飯では何がお気に入りで?
私は男体旅行ですなぁ。
ダメダメなレミィと美鈴のコンビはいいですねw
おもしろかったー
咲夜さんと美鈴・レミリアの親子のような関係も素敵だし、美鈴とレミリアの悪友同士みたいな関係も良い。
ただ、地の文が読みにくい、とは私も少し感じましたね。地の文に、台詞がガンガン入ってきているのでわかりにくいというか。
でも面白かったです。
お嬢様と美鈴の関係とか、良い感じです。
パチェさんは泣いていい
めーさくと言うよりめーレミ?だがそれがいい
なんていいダメさ加減。