「霊夢さんて、料理とか作れるんですか?」
耳障りな蝉が元気よく鳴く日。文は唐突にそんな事を言ってきた。
「あんた何を言って――…。」
正直料理が得意かと言われると、微妙なところだ。自分が食べる分には普通に食べてきたものだが、誰かに食べさせるというのは余り経験が無い。
「私は余り料理とか――。」
「まぁ博麗の巫女で、その上美人で強いと来てますもんねぇ。料理位お手のものでしょう。」
ピクッ
「なんせあの緑髪の巫女でも出来ちゃうんですものね。あんなぽっと出に出来るのに霊夢さんに出来ないとかそんなの考え辛いですし。」
ピクピクッ
「あー霊夢さんの美味しいご飯とか私食べてみたいなぁ。食べたらもっと尊敬しちゃうんだろうなぁ。」
「当然じゃない!いくらでも食べさせてあげるわ!」
「はい、じゃあ出場決定です!」
――…え?
流石幻想郷最速。何処から出したのかチラシを勢いよく鼻高々にした霊夢に突き出して見せた。そこには『幻想料理人~俺より美味い奴に会いに行く~』と書かれている。
「何これ。」
「大会ですよ、料理大会。」
「はん、馬鹿馬鹿しい。そんなもの誰が出ると…」
「賞金出ますよ」
「試合はまだですか!監督!」
「いや貴方誰ですか…」
「こまけぇこたぁいいんだよ!それで、誰が出るの!?まぁ優勝は私で間違えないけど!」
「えーと…」
エントリーシートと書かれた紙を取り出す。そこには一体どんなライバルが待ち受けるのか…。ゴクリと生唾を飲み、ゆっくりと紙を見つめた。
『2P キノコ ⑨ 姫』
と書かれていた。
「……こ、これは……!」
「え、霊夢さんこれで解るんですか。」
「えぇ…流石記者ね。メモを取る際なるべく簡単にしてメモを取りやすいようにするアレねこれは…でもこの程度の暗号を解けない巫女じゃないわ。」
「暗号にしたつもりは無かったんですが…でも流石ですね。これだけで解っちゃうなんて。」
「えぇ…強敵ね…まさかこんな連中を集めてくるなんて…」
流石霊夢さんだ…。てっきり私は”はん、余裕じゃない”とか”こんな連中じゃ相手にならないわ”とか…そう言う態度に出ると思っていたのに。この隙の無さ…そして相手を見くびらないその姿勢こそ無敗でいれる事なのですね…!
「でも流石にまずいんじゃないかしら?」
「え?何がですか?」
「だってほら、版権とか大丈夫なの?」
「は?」
「だってこの2Pって言うのはルイー…」
前言撤回。この巫女ただのバカみたいでした。
「い、いや待ってください霊夢さん。貴方は大きな勘違いをしています。」
「でもこっちのキノコって、あの大きくなる奴でしょ。」
「どうやってキノコが料理大会で料理作るんですか!むしろ料理されに行ってるじゃないですか!そもそも何を作るんですか。キノコですか。胞子ばら撒きゃそれで満足なんですか!」
「でも、この姫ってあのヒロインでしょ、ほら、捕虜癖のある姫」
「何ですか捕虜癖って!好きで捕まっているわけじゃないですよ!ク○パとかいう変な奴が懲りもせず執拗に姫を狙いに行ってるだけですよ!」
「あら、何か美味しそうな名前ね。」
「喧しいわ!じゃあこれ何ですか!⑨って何ですか!あーダメですよ!?コインとか言ったらどつきますからね!」
「チルノでしょ。」
「本気でどついたろかわれぇえ!なんで姫とLの人とキノコとチルノっていう組み合わせが出来ちゃったんですか!?何するんですか!夢のコラボですか!?料理大会なのに相手になりそうなの姫しか居ないじゃないですか!どんな人選してると思われてるんですか!」
「じゃあ結局誰なのよ…。」
「ハァハァ…あ、はい。早苗さん 魔理沙さん チルノ 輝夜さんです。」
「……それはそれで微妙じゃないかしら。」
「まぁ返す言葉もないですが…。でも魔理沙さんは意外と努力の人ですし、早苗さんは元々料理を作るみたいですし。」
パラパラと何処で仕入れたのかも知らない情報を読み上げる。
「あ…そういえばどうでも良い事何だろうけど。」
何か気になったのか、神妙な顔つきで霊夢が語りかけてきた。
「え…えぇどうしたんですか?」
「キノピオとピノキオって結構ごっちゃになるよね。」
「全力でどうでも良い!?鼻伸びれば満足か!?頭にキノコ生えればそれで満足なのかぁ!?」
「あぁキノコってそうか、キノピオか。テヘ」
「テヘッ☆じゃないわぁ!人の話聞く気あるんですか貴方は!」
「でも文…待ってほしいの。」
「え…どうしたんですか……?」
「大きくなるキノコに身体が生えたらそれがキノピオなのかしら…」
「本気で死ぬかてめぇ!?身体が生えるってどういうシチュなんだよぉぉぉ!オタマジャクシの要領で生えてくるとでも言いたいんか!」
「さっきからテンションが気持ち悪いわよ文…」
「幻想風靡ィィィィ!」
そんなこんなで霊夢、出場決定!
――◆
一週間後某日。
「超展開とかいわせねーぜヒャッハー!ということで始まりました!幻想郷料理大会!『幻想料理人~俺より美味い奴に会いに行く~』スタートでーす!」
「うおおおおおぉぉぉぉ!」
声高らかに開会コールをしたのは文。そう、今日は料理大会当日。何か色々あったらしいがそれは大幅カットさせてもらった。
何処から集まって来たのかギャラリーは多く、大会と言うには十分すぎる規模と化していた。
「エントリーナンバー1!何でも奇跡で片づける!ミラクルフルーツ(笑)東風谷ぁぁぁぁぁ早苗ぇぇぇぇぇ!」
「2Pカラーって言った奴ちょっと出てこい」
笑顔を崩さず早苗が一言挨拶する。
それにしてもカッパの技術とは恐れ入ったものだ。舞台準備も本格的になっている。これは気を引き締めなければ会場に呑まれるな…と霊夢は肌で感じていた。
「続いてぇぇ!エントリーナンバー2!たけのこは許さない!そう、絶対にだ!どちらかと言えばキノコ派!霧雨ぇぇぇぇ魔理沙ぁぁぁぁ!」
「弾幕はキノコだぜ。」
ちょっと何言ってるか解らないが、魔理沙も挨拶する。
さっきから二つ名が微妙におかしくないかな?と疑問に思いつつ、次の出場者を見る。そこに立っていたのはチルノ。こいつは一体どんな紹介のされ方をするのか…。
「そしてそして!エントリーナンバー3!バカで⑨で最後に馬鹿!お前の褒めるとこねーから(笑)チィィィィィルノォォォォ!」
「料理ってなんだ、強いのか?」
お前なんで出てきたんだよ!なんで運営はこれOKしちゃったんだよ!それにもはやただの悪口じゃないか…。公開処刑ってレベルじゃないぞ…。
自分の番が来るのが些か嫌になりつつ、横を見るとそこには輝夜が立っていた。
「そろそろあんたの番ね。」
「そうね…どうせニートだの引きこもりだの言われるんでしょうね。」
「自覚あったの?」
「まぁね…ただ気付いていたとしても私が認めなければそれはニートじゃないのよ…。」
「そういうものかしら…」
「えぇ…でもね私は今日の大会で生まれ変わって見せるわ。」
何て決意を持った子なんだ…。その目には希望の火を灯し、絆創膏だらけにした手ぐっと握る。そうか…。この子は自分の生まれ変わるチャンスが欲しかったんだ…。でも…でもね…輝夜…。
「エントリーナンバー4!やる事無いからまた寝てたー!まーたねーてーたー!蓬莱山んんんんん!輝夜ぁぁぁぁぁ!」
「私は生まれ変わって見せるわ…!絶対…そう、絶対にだ!」
なんで生まれ変わるチャンスをこの大会に賭けちゃったのかしらね…。
「そしてみなさんお待ちかねぇぇぇ!エントリーナンバー5!巫女が腋じゃない。腋が巫女なんだ。博麗ぃぃぃぃ霊夢ぅぅぅぅ!」
「賽銭入れろお前ら。」
ゆっくり会場を見渡すと、そこは辺りを埋め尽くさんとするまでの人と妖怪。まったく何処から集めてきたかと言うのか。だが先程思った通り、これでは会場に呑まれる。ゆっくり目を閉じてから一つ呼吸をおく。目先の戦いに向け全ての神経を注がんとするまでの集中力。そうして、私達の戦いはじまった。
――◆
「というわけで実況は私!射命丸文とぉぉ!解説はこの方!」
「フフフこの大会には…運命の輪が廻る音がするわ…」
「カリスマ溢れるレミリアさんです!あ、一応言っときますが審査のほうは私とレミリアさんとその従者咲夜さんで行います!よろしくね!」
「それで文さん、メニューは。」
「よくぞ聞いてくれました!ありがとうございます咲夜さん!メニューはこれだぁぁ!」
ドンッ!と謎の巨大モニターに文字が出される。そこには『チャーハン』と書かれていた。
「というわけで第一回戦はチャーハンだぁぁぁ!皆さま腕をふるってくださいね!」
――Side 霊夢
食材がザラっと並ぶ。なんだチャーハン位なら簡単じゃないか。まずは卵を溶いてしまおう。それと同時にフライパンを温めて…っと霊夢はサッと卵に手をかけ、即座にボウルの上で卵を割る。その手際は見事という他ない。それに続くように卵を割るのは早苗と魔理沙。
「フフ…流石じゃない二人とも…」
残りの二人をチラと見る。そこにはチルノと輝夜が卵をじーっと見ていた。
ははーん、こいつら割り方を知らないな。卵を手にとっては置き、また別の卵を品定めするかのように…。
――…待て!品定め…!?まさかこいつ等…!
そもそもチャーハンは誰が作ったって美味しく出来るようになっている。ならばその差を決めるのは…。
――食材の新鮮さ、味!色!…やられた!此処からもう勝負が始まっている何て…!
クッと悔しがってると横から魔理沙が口を出してくる。
「霊夢、フライパンに迷いが出てるぜ…。」
――何…だと…!?私はまだフライパンを温めているだけなのに…!
侮っていた。この大会、このメンバー、予想外に私を楽しませてくれそうじゃないか!
そう思いつつ霊夢はフライパンにラードを馴染ませた。
――Side 輝夜
困った事に私はチャーハンという奴を知らない。いや、そもそも料理などほとんどしたことすら無い。横を見れば霊夢、早苗、魔理沙がこの卵を割っている。
――私には…あんな風に割れるんだろうか…!
震える手で卵を掴み、割ろうとした瞬間会場がざわつき始めた。
「あぁーっと!どうした事かぁ!チルノ選手卵をわし掴むなり握りつぶし始めたぁ!これはどういう事何でしょうか…!」
「フフフ…バカね…」
そう、一見馬鹿にも見える行動だがあれは、私を導く一手だ…!
――…あれなら…!あれなら私にだってやれる!
いけ!やれ!私は変わると決めたのだろう!
グチョ
そうして私は卵を手に取るなり握りつぶした。その手は少しぎたついて、卵の味がした。
――Side 魔理沙
「おぉーっと此処で魔理沙さんが何かを取り出したぞ!」
ついに見せるときが来たようだな…この最終兵器を!
腕を高らかに上げ、周囲に見せつけるように持つ!その姿はキノコ!そのフォルムはキノコ!だが、キノコと言うには余りに美しく、洗練されたボディ!
「あ…あれは…!」
思わずレミリアも立ち上がる。
「知っているんですかレミリアさん!」
「フフフ、まったく知らないわ…」
満足したのか、勢いよく立ちあがるも目を閉じまた座る。
「えええぇぇ!?じゃあ何で意味ありげに立ちあがったんですか!」
「反応してあげないと魔理沙が可哀相に思えてね…フフフ…」
「流石ですお嬢様。この下劣で品の欠片も無いような連中に慈悲を与えるとは。」
「えええ!?咲夜さんそういうキャラなんですか!?」
「ここらで存在感出しておかないと何も喋らず終わりそうだからね。」
「な、なるほど!では本人に直接聞いてみましょう!魔理沙さん!それは一体何なんですか?」
マイクで大きくなった文の甲高い声が会場中に響く。さすがに文か。こういう事を盛り上げさせたらこれ以上の奴はいないぜ…なら紹介してやろうじゃないか…こいつをな!
「ロイヤルキノコだぜ」
そういった瞬間、ガタンと椅子を蹴りあげて勢いよくレミリアが立ちあがった。
「ロイヤルキノコですって…まさかそんなものを…」
「えぇ!?今度こそ知ってるんですかレミリアさん!?」
「フフフ…てんどんよ…」
「さすがお嬢様、流れるようなてんどんでしたね。」
「フフフ…咲夜…いくら凄いからと言っても余り褒めなくても良いわ。」
「もう帰れよお前ら。」
「まぁ待ちなさい新聞屋。こんな事もあろうかとね…フフフ」
パチン、とレミリアが指を鳴らす。するとその瞬間レミリア達の特別席まで一直線に人の海が割れていく。そう、かの十戒のように。その中を歩くのは杖を尽き、今にも力尽きそうなパチュリーの姿があった。
「はぁはぁ…レミィ……」
「そう…貴方の運命も此処で終わるのね。」
いったい何が始まるというのか。というかパチュリーがいきなり力付きそうなのには誰も突っ込まないのか。
「えぇ…悪くない日々だったわ…」
「そう…それでパチェ…あれは?」
レミリアは力尽きつつあるパチュリーを抱きかかえながら魔理沙の持つロイヤルキノコを指差した。
パチュリーはゆっくりそれを見つめる。そして――…
「キ…ノコ…」
そう言ってパチュリーは灰になった。真っ白に、真っ白に燃え尽きた。その顔は何かをやり遂げ満足したように目を閉じていた。
「そうね…キノコね…フフフ。ありがとう、貴方は本当に良いヒントをくれたわ。」
「そ、そんな…パチュリー様…!いやああ!」
抱きかかえ何かを悟ったようなレミリアと、その場に崩れる咲夜。文はその一連の行動を無言で見ていた。そして一言告げる。
「お前らもう、ホント帰れよ。」
何処までも冷たい文の声が会場に木霊した。
――Side 早苗
「クソッ!こんなチャーハンじゃあの1Pに勝てない!」
一口味見するとそのチャーハンを流す。自分の納得いくまでの料理を作るが為に。全てはそう、憎き博麗霊夢に勝つためだ。
私は別に一番になりたくない。ただ世界で二番目に弱い巫女でも良い。
――ただあの女にだけは…!
「あややや…早苗さんはかなりアツくなってますねぇ。どうですかレミリアさん。」
「フフフ…冷静さを失っているわね。良いものを作ろう、作ってやろうと言う気持ちがただ空回り。それ故に納得できず、それ故にイラつくのよ。」
「そうですか、ありがとう。グングニルかっこいいですね」
「それほどでもない。」
「しかしあれは、何度もチャーハンを捨てるような真似はよろしく無いのでは?」
咲夜の疑問も最もであった。確かに巫女としてあんな鬼のような形相で味見をしては納得いかず捨てるという行為は、余りにイメージに合わない。
「御心配には及びません。こんな事もあろうかとある人に頼んであります。」
早苗が実況席へ向けて姿勢よく挨拶をする。そしてヒョイと地面を指差して見せた。
「床…あ、あれは―!」
指差された床を見ると大きく口を開きチャーハンを今か今かと待つ幽々子がいた。その目は修羅。ただ料理を求め。その口は鬼。ただそれをかきこむが如く。
それを見た瞬間レミリアはククと笑い始めた。
「聞きたくないけどどうしたんですかレミリアさん」
「まさか”バキューム幽々子”を用意してるなんてね…」
「バキューム幽々子!?何ですかその売れない芸人のネーミングセンスは!あれ絶対西行寺幽々子さんでしょう!?」
「いいえ、良く似てるけどアレはバキューム幽々子よ…。全てを喰らい、全てを貪るピンクの悪魔…それが”バキューム”の所以よ…。」
「それただ幽々子さんですよね?」
「いいえ、バキューム幽々子よ。」
「それ言いたいだけだろあんた。」
何度か試行錯誤している内に早苗はついに自分の納得行く作品を生み出した。
「お、早苗さんのが出来たようですね。それでは作品名をお願いします早苗さん!」
「解りました。紆余曲折を得て、工夫に工夫を重ねて作りました…!これが今私の出せる全力…!パエリアです!」
「……もう一度お願いします。」
「パエリアです!」
「作り直しです。」
――Side チルノ
あたいはチルノ。誰がどうみてもサイキョーの妖精だ。今日は りょーりたいかい と言う奴に出ている。良く解らないけれど一番になれば良いらしい。
手始めにあたいの強さと恐怖を見せつける為に若い芽(たまご)を握りつぶした。会場は余りのあたいの強さに畏怖したのか、言葉を失っていた。
まだだ、この程度じゃあたいは終わらない。次にあたいはさらに恐怖を植えつける為にこいつ(フライパン)を火あぶりにする。さらにあたいは止まらない。あぶら という奴で良く燃えるようにしてからさっき潰した若い芽(卵)を入れてグチャグチャにかき混ぜる。そこにあらん事か白い塊(米)をぶつけてすり潰していく。
「お、おい…チルノが料理してるぞ…」
会場からあたいに向かってこんな恐怖の声が聞こえてきた。そうか、これが”敵を料理する”っていう奴なのか。やはりあたいはサイキョーだ。
「チルノさん普通に料理してますね…これは意外です。」
「フフフ…貴方にはあれが料理に見えるのかしら…。」
「え?どういう事ですか?」
「まぁ見ていなさい。」
ふう…だいぶ燃やしてやったぞ…やはりあたいはサイキョーだ。それにしてもだんだん周りの景色が大きく感じてきたぞ。何だか霊夢達もでかくなってるし。
そうか、余りにあたいが強すぎるから巨大化したんだ。やれやれ霊夢達もそんな事したってあたいには勝てないぞ。多分。
「お、おいチルノ小さくなってないか…」
「大丈夫かよ…もう手のひらサイズじゃねーか…」
会場からあたいを心配する声が聞こえてきた。そうだ!たしかに今のあたいは気が小さくなっていた!いけないいけない。さらに恐怖を植え付ける為に火あぶりを強くしてやる!
あれ…意識が遠くなってきた。あ、大ちゃんがいる。何処行くの?遊ぼうよ…
大ちゃん…遊ぼうよ…
「溶けた…」
「溶けたわね。フフフ。これぞ飛んで火に入る夏の虫と言う奴かしら。」
「何というか期待通りでした。」
「フフフ。運命は時として残酷ね…」
――◆
「出来たわ!」
そこにはもう何処からどう見てもチャーハンがあった。どのくらいチャーハンかと言うと、それはもう、チャーハンだった。
「はん…どうやら私が一番のようね。早苗も魔理沙も大した事…!?」
「甘いですよ霊夢さん…私ももう完成しているのです…!」
「そうだぜ、侮ったらいけないんだぜ。」
「私も忘れもらっては困るわ!」
そこには既に料理を作り終えた早苗、魔理沙、輝夜の姿があった。
「一番手は貰うぜ霊夢。」
まずは魔理沙が料理を特別席へ持っていく。
「おぉ、出来ましたか。」
「あぁ、渾身の作品だぜ。」
「フフフ…中々良い香りね…」
「あぁ…これだぜ!」
バッと開かれたそれを目にしたのが私の覚えている最後の記憶。
後日聞くとあの後料理がマスタースパーク(爆発?)し、会場が崩壊したそうだ。原因は恐らくだがあのキノコ。
結局のところ優勝者はなしという形であの大会は幕を閉じたのだった。
「……嫌な事件だったね。」
誰しもがこう言う。そんな幻想郷での一つの思い出。
「さぁて、次はどうやって盛り上げようかなぁ。」
文は大きく伸びをする。次の祭りごとは何にしようか。地位とか種族とかそんなの関係無く、皆でワイワイしたいじゃないか。だから私は企画を続ける。新聞のネタの為っていうのは多少あるけどさ。これも本音だ。
「霊夢さん、こんな大会があるんですが…」
――だから私は企画を続ける。
耳障りな蝉が元気よく鳴く日。文は唐突にそんな事を言ってきた。
「あんた何を言って――…。」
正直料理が得意かと言われると、微妙なところだ。自分が食べる分には普通に食べてきたものだが、誰かに食べさせるというのは余り経験が無い。
「私は余り料理とか――。」
「まぁ博麗の巫女で、その上美人で強いと来てますもんねぇ。料理位お手のものでしょう。」
ピクッ
「なんせあの緑髪の巫女でも出来ちゃうんですものね。あんなぽっと出に出来るのに霊夢さんに出来ないとかそんなの考え辛いですし。」
ピクピクッ
「あー霊夢さんの美味しいご飯とか私食べてみたいなぁ。食べたらもっと尊敬しちゃうんだろうなぁ。」
「当然じゃない!いくらでも食べさせてあげるわ!」
「はい、じゃあ出場決定です!」
――…え?
流石幻想郷最速。何処から出したのかチラシを勢いよく鼻高々にした霊夢に突き出して見せた。そこには『幻想料理人~俺より美味い奴に会いに行く~』と書かれている。
「何これ。」
「大会ですよ、料理大会。」
「はん、馬鹿馬鹿しい。そんなもの誰が出ると…」
「賞金出ますよ」
「試合はまだですか!監督!」
「いや貴方誰ですか…」
「こまけぇこたぁいいんだよ!それで、誰が出るの!?まぁ優勝は私で間違えないけど!」
「えーと…」
エントリーシートと書かれた紙を取り出す。そこには一体どんなライバルが待ち受けるのか…。ゴクリと生唾を飲み、ゆっくりと紙を見つめた。
『2P キノコ ⑨ 姫』
と書かれていた。
「……こ、これは……!」
「え、霊夢さんこれで解るんですか。」
「えぇ…流石記者ね。メモを取る際なるべく簡単にしてメモを取りやすいようにするアレねこれは…でもこの程度の暗号を解けない巫女じゃないわ。」
「暗号にしたつもりは無かったんですが…でも流石ですね。これだけで解っちゃうなんて。」
「えぇ…強敵ね…まさかこんな連中を集めてくるなんて…」
流石霊夢さんだ…。てっきり私は”はん、余裕じゃない”とか”こんな連中じゃ相手にならないわ”とか…そう言う態度に出ると思っていたのに。この隙の無さ…そして相手を見くびらないその姿勢こそ無敗でいれる事なのですね…!
「でも流石にまずいんじゃないかしら?」
「え?何がですか?」
「だってほら、版権とか大丈夫なの?」
「は?」
「だってこの2Pって言うのはルイー…」
前言撤回。この巫女ただのバカみたいでした。
「い、いや待ってください霊夢さん。貴方は大きな勘違いをしています。」
「でもこっちのキノコって、あの大きくなる奴でしょ。」
「どうやってキノコが料理大会で料理作るんですか!むしろ料理されに行ってるじゃないですか!そもそも何を作るんですか。キノコですか。胞子ばら撒きゃそれで満足なんですか!」
「でも、この姫ってあのヒロインでしょ、ほら、捕虜癖のある姫」
「何ですか捕虜癖って!好きで捕まっているわけじゃないですよ!ク○パとかいう変な奴が懲りもせず執拗に姫を狙いに行ってるだけですよ!」
「あら、何か美味しそうな名前ね。」
「喧しいわ!じゃあこれ何ですか!⑨って何ですか!あーダメですよ!?コインとか言ったらどつきますからね!」
「チルノでしょ。」
「本気でどついたろかわれぇえ!なんで姫とLの人とキノコとチルノっていう組み合わせが出来ちゃったんですか!?何するんですか!夢のコラボですか!?料理大会なのに相手になりそうなの姫しか居ないじゃないですか!どんな人選してると思われてるんですか!」
「じゃあ結局誰なのよ…。」
「ハァハァ…あ、はい。早苗さん 魔理沙さん チルノ 輝夜さんです。」
「……それはそれで微妙じゃないかしら。」
「まぁ返す言葉もないですが…。でも魔理沙さんは意外と努力の人ですし、早苗さんは元々料理を作るみたいですし。」
パラパラと何処で仕入れたのかも知らない情報を読み上げる。
「あ…そういえばどうでも良い事何だろうけど。」
何か気になったのか、神妙な顔つきで霊夢が語りかけてきた。
「え…えぇどうしたんですか?」
「キノピオとピノキオって結構ごっちゃになるよね。」
「全力でどうでも良い!?鼻伸びれば満足か!?頭にキノコ生えればそれで満足なのかぁ!?」
「あぁキノコってそうか、キノピオか。テヘ」
「テヘッ☆じゃないわぁ!人の話聞く気あるんですか貴方は!」
「でも文…待ってほしいの。」
「え…どうしたんですか……?」
「大きくなるキノコに身体が生えたらそれがキノピオなのかしら…」
「本気で死ぬかてめぇ!?身体が生えるってどういうシチュなんだよぉぉぉ!オタマジャクシの要領で生えてくるとでも言いたいんか!」
「さっきからテンションが気持ち悪いわよ文…」
「幻想風靡ィィィィ!」
そんなこんなで霊夢、出場決定!
――◆
一週間後某日。
「超展開とかいわせねーぜヒャッハー!ということで始まりました!幻想郷料理大会!『幻想料理人~俺より美味い奴に会いに行く~』スタートでーす!」
「うおおおおおぉぉぉぉ!」
声高らかに開会コールをしたのは文。そう、今日は料理大会当日。何か色々あったらしいがそれは大幅カットさせてもらった。
何処から集まって来たのかギャラリーは多く、大会と言うには十分すぎる規模と化していた。
「エントリーナンバー1!何でも奇跡で片づける!ミラクルフルーツ(笑)東風谷ぁぁぁぁぁ早苗ぇぇぇぇぇ!」
「2Pカラーって言った奴ちょっと出てこい」
笑顔を崩さず早苗が一言挨拶する。
それにしてもカッパの技術とは恐れ入ったものだ。舞台準備も本格的になっている。これは気を引き締めなければ会場に呑まれるな…と霊夢は肌で感じていた。
「続いてぇぇ!エントリーナンバー2!たけのこは許さない!そう、絶対にだ!どちらかと言えばキノコ派!霧雨ぇぇぇぇ魔理沙ぁぁぁぁ!」
「弾幕はキノコだぜ。」
ちょっと何言ってるか解らないが、魔理沙も挨拶する。
さっきから二つ名が微妙におかしくないかな?と疑問に思いつつ、次の出場者を見る。そこに立っていたのはチルノ。こいつは一体どんな紹介のされ方をするのか…。
「そしてそして!エントリーナンバー3!バカで⑨で最後に馬鹿!お前の褒めるとこねーから(笑)チィィィィィルノォォォォ!」
「料理ってなんだ、強いのか?」
お前なんで出てきたんだよ!なんで運営はこれOKしちゃったんだよ!それにもはやただの悪口じゃないか…。公開処刑ってレベルじゃないぞ…。
自分の番が来るのが些か嫌になりつつ、横を見るとそこには輝夜が立っていた。
「そろそろあんたの番ね。」
「そうね…どうせニートだの引きこもりだの言われるんでしょうね。」
「自覚あったの?」
「まぁね…ただ気付いていたとしても私が認めなければそれはニートじゃないのよ…。」
「そういうものかしら…」
「えぇ…でもね私は今日の大会で生まれ変わって見せるわ。」
何て決意を持った子なんだ…。その目には希望の火を灯し、絆創膏だらけにした手ぐっと握る。そうか…。この子は自分の生まれ変わるチャンスが欲しかったんだ…。でも…でもね…輝夜…。
「エントリーナンバー4!やる事無いからまた寝てたー!まーたねーてーたー!蓬莱山んんんんん!輝夜ぁぁぁぁぁ!」
「私は生まれ変わって見せるわ…!絶対…そう、絶対にだ!」
なんで生まれ変わるチャンスをこの大会に賭けちゃったのかしらね…。
「そしてみなさんお待ちかねぇぇぇ!エントリーナンバー5!巫女が腋じゃない。腋が巫女なんだ。博麗ぃぃぃぃ霊夢ぅぅぅぅ!」
「賽銭入れろお前ら。」
ゆっくり会場を見渡すと、そこは辺りを埋め尽くさんとするまでの人と妖怪。まったく何処から集めてきたかと言うのか。だが先程思った通り、これでは会場に呑まれる。ゆっくり目を閉じてから一つ呼吸をおく。目先の戦いに向け全ての神経を注がんとするまでの集中力。そうして、私達の戦いはじまった。
――◆
「というわけで実況は私!射命丸文とぉぉ!解説はこの方!」
「フフフこの大会には…運命の輪が廻る音がするわ…」
「カリスマ溢れるレミリアさんです!あ、一応言っときますが審査のほうは私とレミリアさんとその従者咲夜さんで行います!よろしくね!」
「それで文さん、メニューは。」
「よくぞ聞いてくれました!ありがとうございます咲夜さん!メニューはこれだぁぁ!」
ドンッ!と謎の巨大モニターに文字が出される。そこには『チャーハン』と書かれていた。
「というわけで第一回戦はチャーハンだぁぁぁ!皆さま腕をふるってくださいね!」
――Side 霊夢
食材がザラっと並ぶ。なんだチャーハン位なら簡単じゃないか。まずは卵を溶いてしまおう。それと同時にフライパンを温めて…っと霊夢はサッと卵に手をかけ、即座にボウルの上で卵を割る。その手際は見事という他ない。それに続くように卵を割るのは早苗と魔理沙。
「フフ…流石じゃない二人とも…」
残りの二人をチラと見る。そこにはチルノと輝夜が卵をじーっと見ていた。
ははーん、こいつら割り方を知らないな。卵を手にとっては置き、また別の卵を品定めするかのように…。
――…待て!品定め…!?まさかこいつ等…!
そもそもチャーハンは誰が作ったって美味しく出来るようになっている。ならばその差を決めるのは…。
――食材の新鮮さ、味!色!…やられた!此処からもう勝負が始まっている何て…!
クッと悔しがってると横から魔理沙が口を出してくる。
「霊夢、フライパンに迷いが出てるぜ…。」
――何…だと…!?私はまだフライパンを温めているだけなのに…!
侮っていた。この大会、このメンバー、予想外に私を楽しませてくれそうじゃないか!
そう思いつつ霊夢はフライパンにラードを馴染ませた。
――Side 輝夜
困った事に私はチャーハンという奴を知らない。いや、そもそも料理などほとんどしたことすら無い。横を見れば霊夢、早苗、魔理沙がこの卵を割っている。
――私には…あんな風に割れるんだろうか…!
震える手で卵を掴み、割ろうとした瞬間会場がざわつき始めた。
「あぁーっと!どうした事かぁ!チルノ選手卵をわし掴むなり握りつぶし始めたぁ!これはどういう事何でしょうか…!」
「フフフ…バカね…」
そう、一見馬鹿にも見える行動だがあれは、私を導く一手だ…!
――…あれなら…!あれなら私にだってやれる!
いけ!やれ!私は変わると決めたのだろう!
グチョ
そうして私は卵を手に取るなり握りつぶした。その手は少しぎたついて、卵の味がした。
――Side 魔理沙
「おぉーっと此処で魔理沙さんが何かを取り出したぞ!」
ついに見せるときが来たようだな…この最終兵器を!
腕を高らかに上げ、周囲に見せつけるように持つ!その姿はキノコ!そのフォルムはキノコ!だが、キノコと言うには余りに美しく、洗練されたボディ!
「あ…あれは…!」
思わずレミリアも立ち上がる。
「知っているんですかレミリアさん!」
「フフフ、まったく知らないわ…」
満足したのか、勢いよく立ちあがるも目を閉じまた座る。
「えええぇぇ!?じゃあ何で意味ありげに立ちあがったんですか!」
「反応してあげないと魔理沙が可哀相に思えてね…フフフ…」
「流石ですお嬢様。この下劣で品の欠片も無いような連中に慈悲を与えるとは。」
「えええ!?咲夜さんそういうキャラなんですか!?」
「ここらで存在感出しておかないと何も喋らず終わりそうだからね。」
「な、なるほど!では本人に直接聞いてみましょう!魔理沙さん!それは一体何なんですか?」
マイクで大きくなった文の甲高い声が会場中に響く。さすがに文か。こういう事を盛り上げさせたらこれ以上の奴はいないぜ…なら紹介してやろうじゃないか…こいつをな!
「ロイヤルキノコだぜ」
そういった瞬間、ガタンと椅子を蹴りあげて勢いよくレミリアが立ちあがった。
「ロイヤルキノコですって…まさかそんなものを…」
「えぇ!?今度こそ知ってるんですかレミリアさん!?」
「フフフ…てんどんよ…」
「さすがお嬢様、流れるようなてんどんでしたね。」
「フフフ…咲夜…いくら凄いからと言っても余り褒めなくても良いわ。」
「もう帰れよお前ら。」
「まぁ待ちなさい新聞屋。こんな事もあろうかとね…フフフ」
パチン、とレミリアが指を鳴らす。するとその瞬間レミリア達の特別席まで一直線に人の海が割れていく。そう、かの十戒のように。その中を歩くのは杖を尽き、今にも力尽きそうなパチュリーの姿があった。
「はぁはぁ…レミィ……」
「そう…貴方の運命も此処で終わるのね。」
いったい何が始まるというのか。というかパチュリーがいきなり力付きそうなのには誰も突っ込まないのか。
「えぇ…悪くない日々だったわ…」
「そう…それでパチェ…あれは?」
レミリアは力尽きつつあるパチュリーを抱きかかえながら魔理沙の持つロイヤルキノコを指差した。
パチュリーはゆっくりそれを見つめる。そして――…
「キ…ノコ…」
そう言ってパチュリーは灰になった。真っ白に、真っ白に燃え尽きた。その顔は何かをやり遂げ満足したように目を閉じていた。
「そうね…キノコね…フフフ。ありがとう、貴方は本当に良いヒントをくれたわ。」
「そ、そんな…パチュリー様…!いやああ!」
抱きかかえ何かを悟ったようなレミリアと、その場に崩れる咲夜。文はその一連の行動を無言で見ていた。そして一言告げる。
「お前らもう、ホント帰れよ。」
何処までも冷たい文の声が会場に木霊した。
――Side 早苗
「クソッ!こんなチャーハンじゃあの1Pに勝てない!」
一口味見するとそのチャーハンを流す。自分の納得いくまでの料理を作るが為に。全てはそう、憎き博麗霊夢に勝つためだ。
私は別に一番になりたくない。ただ世界で二番目に弱い巫女でも良い。
――ただあの女にだけは…!
「あややや…早苗さんはかなりアツくなってますねぇ。どうですかレミリアさん。」
「フフフ…冷静さを失っているわね。良いものを作ろう、作ってやろうと言う気持ちがただ空回り。それ故に納得できず、それ故にイラつくのよ。」
「そうですか、ありがとう。グングニルかっこいいですね」
「それほどでもない。」
「しかしあれは、何度もチャーハンを捨てるような真似はよろしく無いのでは?」
咲夜の疑問も最もであった。確かに巫女としてあんな鬼のような形相で味見をしては納得いかず捨てるという行為は、余りにイメージに合わない。
「御心配には及びません。こんな事もあろうかとある人に頼んであります。」
早苗が実況席へ向けて姿勢よく挨拶をする。そしてヒョイと地面を指差して見せた。
「床…あ、あれは―!」
指差された床を見ると大きく口を開きチャーハンを今か今かと待つ幽々子がいた。その目は修羅。ただ料理を求め。その口は鬼。ただそれをかきこむが如く。
それを見た瞬間レミリアはククと笑い始めた。
「聞きたくないけどどうしたんですかレミリアさん」
「まさか”バキューム幽々子”を用意してるなんてね…」
「バキューム幽々子!?何ですかその売れない芸人のネーミングセンスは!あれ絶対西行寺幽々子さんでしょう!?」
「いいえ、良く似てるけどアレはバキューム幽々子よ…。全てを喰らい、全てを貪るピンクの悪魔…それが”バキューム”の所以よ…。」
「それただ幽々子さんですよね?」
「いいえ、バキューム幽々子よ。」
「それ言いたいだけだろあんた。」
何度か試行錯誤している内に早苗はついに自分の納得行く作品を生み出した。
「お、早苗さんのが出来たようですね。それでは作品名をお願いします早苗さん!」
「解りました。紆余曲折を得て、工夫に工夫を重ねて作りました…!これが今私の出せる全力…!パエリアです!」
「……もう一度お願いします。」
「パエリアです!」
「作り直しです。」
――Side チルノ
あたいはチルノ。誰がどうみてもサイキョーの妖精だ。今日は りょーりたいかい と言う奴に出ている。良く解らないけれど一番になれば良いらしい。
手始めにあたいの強さと恐怖を見せつける為に若い芽(たまご)を握りつぶした。会場は余りのあたいの強さに畏怖したのか、言葉を失っていた。
まだだ、この程度じゃあたいは終わらない。次にあたいはさらに恐怖を植えつける為にこいつ(フライパン)を火あぶりにする。さらにあたいは止まらない。あぶら という奴で良く燃えるようにしてからさっき潰した若い芽(卵)を入れてグチャグチャにかき混ぜる。そこにあらん事か白い塊(米)をぶつけてすり潰していく。
「お、おい…チルノが料理してるぞ…」
会場からあたいに向かってこんな恐怖の声が聞こえてきた。そうか、これが”敵を料理する”っていう奴なのか。やはりあたいはサイキョーだ。
「チルノさん普通に料理してますね…これは意外です。」
「フフフ…貴方にはあれが料理に見えるのかしら…。」
「え?どういう事ですか?」
「まぁ見ていなさい。」
ふう…だいぶ燃やしてやったぞ…やはりあたいはサイキョーだ。それにしてもだんだん周りの景色が大きく感じてきたぞ。何だか霊夢達もでかくなってるし。
そうか、余りにあたいが強すぎるから巨大化したんだ。やれやれ霊夢達もそんな事したってあたいには勝てないぞ。多分。
「お、おいチルノ小さくなってないか…」
「大丈夫かよ…もう手のひらサイズじゃねーか…」
会場からあたいを心配する声が聞こえてきた。そうだ!たしかに今のあたいは気が小さくなっていた!いけないいけない。さらに恐怖を植え付ける為に火あぶりを強くしてやる!
あれ…意識が遠くなってきた。あ、大ちゃんがいる。何処行くの?遊ぼうよ…
大ちゃん…遊ぼうよ…
「溶けた…」
「溶けたわね。フフフ。これぞ飛んで火に入る夏の虫と言う奴かしら。」
「何というか期待通りでした。」
「フフフ。運命は時として残酷ね…」
――◆
「出来たわ!」
そこにはもう何処からどう見てもチャーハンがあった。どのくらいチャーハンかと言うと、それはもう、チャーハンだった。
「はん…どうやら私が一番のようね。早苗も魔理沙も大した事…!?」
「甘いですよ霊夢さん…私ももう完成しているのです…!」
「そうだぜ、侮ったらいけないんだぜ。」
「私も忘れもらっては困るわ!」
そこには既に料理を作り終えた早苗、魔理沙、輝夜の姿があった。
「一番手は貰うぜ霊夢。」
まずは魔理沙が料理を特別席へ持っていく。
「おぉ、出来ましたか。」
「あぁ、渾身の作品だぜ。」
「フフフ…中々良い香りね…」
「あぁ…これだぜ!」
バッと開かれたそれを目にしたのが私の覚えている最後の記憶。
後日聞くとあの後料理がマスタースパーク(爆発?)し、会場が崩壊したそうだ。原因は恐らくだがあのキノコ。
結局のところ優勝者はなしという形であの大会は幕を閉じたのだった。
「……嫌な事件だったね。」
誰しもがこう言う。そんな幻想郷での一つの思い出。
「さぁて、次はどうやって盛り上げようかなぁ。」
文は大きく伸びをする。次の祭りごとは何にしようか。地位とか種族とかそんなの関係無く、皆でワイワイしたいじゃないか。だから私は企画を続ける。新聞のネタの為っていうのは多少あるけどさ。これも本音だ。
「霊夢さん、こんな大会があるんですが…」
――だから私は企画を続ける。
特に、レミリアと咲夜、パチュリーとの掛け合いは思わずニヤっとしてしまいました。
次回作も期待です。
いやもうちょっと大会を見せてほしかった。
な ん だ こ れ は
チルノwwなにその妖怪的思考www
確かにこんなチルノでは妖怪化するのも時間の問題かもしれない・・・