Coolier - 新生・東方創想話

ママと呼んだり甘えてみたり

2010/07/25 18:24:54
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神綺様の部屋を掃除している最中、ずきずきする頭を抑える。
「どうしたの?」
神綺様はすぐに気付いて心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「いえ、大丈夫ですよ」
頭から手を離し、掃除を続けようとするが、視界が霞んでふらふらする。
「本当?夢子ちゃんは無理するからね……」
静かに壁に手をつく、立っているのも辛い。
「だから疲れた時はすぐに……って、夢子ちゃん!」
足に力が入らなくなって、倒れている最中に私は気を失った。



「しんきさま、おへやのおそうじします!」
「あらあら、小さなメイドさんが来てくれたわ」
「しんきさま!わたしはりっぱなめいどさんになります!」
「楽しみだわ~、お願いね。でも、呼び方はいつもと同じでいいのよ」
「……うんっ!ママ!」



「んっ……」
「あっ、大丈夫、夢子ちゃん!?」
目を開けると私の体は自室のベッドの中にあり、神綺様が私の顔を覗き込んでいた。
「あれ?私は……」
確か神綺様の部屋で倒れて……。
「夢子ちゃん、突然倒れたのよ。風邪みたいだけど、具合悪いならちゃんと言ってくれないと……」
「すみません……神綺様がここまで運んでくれたんですか?」
「ええ。あっ、動かないの。今日は休みなさい」
起きかけた私の体を再びベッドに沈め、神綺様は立ち上がった。
「しかし……」
「大丈夫よ。仕事は他の子にやらせるし、夢子ちゃんの面倒は私が見るから」
「いえ、こんなの寝ていれば治ります。神綺様にご負担をかける訳には……」
そうは言っても体が重い。前に体調が悪くなった時の比ではない。
「いいのよ。病気の時は人肌恋しくなるから、私がついていてあげないと。それに、病気の娘を放ってはおけないわ」
神綺様はそう言うと、「ちょっと待っててね」と言って私の部屋を出ていった。
額に触れてみる。自分でも分かるくらい熱い。
ふと、自分の服がメイド服では無くなってるのに気付いた。
今の私の服はパジャマになっていた。
顔が熱くなる。これは風邪とは関係ない。
「夢子ちゃん、お待たせ」
洗面器に水を入れた神綺様が部屋に入って来た。
「し、神綺様……私の服……」
「ああ、着替えさせといたわよ」
「神綺様が……ですか?」
神綺様はにっこりと微笑んだ。
「夢子ちゃんの成長を確認出来て良かったわ」
顔が真っ赤になってしまう。
「なっ……えっ……?」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない。いやらしい事は……してないわよ」
「なんですか今の間は……?」
「いいから、今は体を休めて」
なんか上手くはぐらかされた気がする。
「ほら、濡れタオル」
神綺様は私の額に濡れたタオルを置いてくれた。
「すみません、魔界神直々に……」
「毎回言ってるけど~、私は魔界神である以前に夢子ちゃんのママなの。もう少し甘えても良いんじゃない?」
「そうは言われましても……」
そこまで言って、私は咳込む。
「夢子ちゃん!大丈夫!?」
「はい……大丈夫です」
神綺様の心配そうな顔を見上げる。
「私は治せないし、代わってあげる事も出来ないの。……ごめんね、頼りないママで」
「そのお気持ちだけで充分ですよ。……神綺様が近くにいてくれるだけで嬉しいです」
私の言葉に神綺様は顔を明るくした。
「ありがとね、夢子ちゃん。……そうだわ、病気に打ち勝つように何か軽いものでも食べる?」
咳は出るが、体が食べ物を拒絶してはいない。
「すみません、いただきます」
「分かったわ。ちょっと待っててね」
そう言うと神綺様は小走りで部屋から出て行った。
走り方が可愛らしい。
……少し疲れているようだ。変な事を考えてしまう。
神綺様が戻るまで、休む事にした。



「起こしちゃった?」
神綺様が部屋に入って来たのに気付き、目を覚ます。
「いえ……」
短くそう答える。
お盆を持った神綺様はピンクのエプロン姿で私の横に腰掛ける。
「お粥なら食べられる?」
「平気です。ありがとうございます」
神綺様はお盆の上に置かれたお粥の入った器を手に移した。
「神の粥よ。はい、あーん」
「ちょっ、神綺様?」
口元に伸びてくるスプーンに私は抗議の声を上げる。弱々しくだが。
「病人なんだから大人しくしなさい。ほら、あーん」
前にもこんな事あった気がする。
ああ、人間が魔界に攻めてきた時か。
「……あーん」
私は諦めて口を開く。すぐに懐かしい味が口に広がる。
「懐かしいです……」
「昔は私が料理作ってあげてたものね……。今は全部夢子ちゃんに任せちゃてるから、こんな風に風邪引いたりしちゃうのよね。ごめんね」
「神綺様は悪く無いです……」
全ては私の自己管理力不足のせい。神綺様のせいではない。
「気も使わせちゃったね……」
「そんな事は……」
私はまた咳込んでしまう。
私が咳込むと見せる神綺様の心配そうな顔を見るのが辛い。
たっぷり時間をかけてお粥を食べ終わり、一息つく。
駄目だ。頭がぼーっとしてきた……。結構酷くこじらせたのかもしれない。
なんだか凄くだるくなって、そこから先はあんまり覚えていない。



「しんきさまぁ……あっつい……」
夢子ちゃんが苦しそうに呟いた。
額に触れる。すごい熱だ。
「あららら……ど、どうしましょう?さ、サラちゃんを呼んできましょう!」
私が立ち上がろうとすると、夢子ちゃんは私のスカートを掴んだ。
「そばにいて……ママ……」
「……分かったわ。ママ、どこにも行かない」
ママと呼ばれるのは嬉しいのだけど、夢子ちゃんがこうなるのは寝ぼけてる時とか疲れている時だ。
やっぱり心配。
けど、私には見守ってあげることしか出来ない。
「夢子ちゃん、元気になったら何が食べたい?」
「久しぶりにママのシチューが食べたいな……」
夢子ちゃんは小さく微笑んだ。
「分かったわ。良くなったらおいしいの作ってあげる」
そういえば、夢子ちゃんはシチューが好きだったわね……。
最近食べてないわ……シチュー。
「ねぇ、ママ」
「なあに?」
「大好き」
思わぬ不意打ちだ。
「……あ、ありがとう。私も夢子ちゃん愛してるわよ」
娘から大好きだなんて……あーサラちゃんは結構言ってくれるけど……夢子ちゃんに言われたのは何年ぶりかしら。
やっぱり嬉しいものね。たとえ風邪引いてる時に言われたとしても。
「ほら、そろそろ休みましょ。元気になってからでもお話は出来るんだから」
「うん、分かった……でも、傍にいて?」
「もちろんよ。だから休みなさい」
私の言葉に安心したのか、夢子ちゃんはすぐに寝息を立てていた。それにつられるように私も寝てしまったらしい。



「夢子姉ー、神綺様ー、いますかー?」
サラはそう言いながら夢子の部屋に入った。
「神綺様……あっ」
声を潜める。
部屋の中ではベッドで夢子が寝ていて、その隣で神綺が寝ていた。
「夢子姉が風邪だからって聞いたけど……」
夢子に近寄り、額に触れる。
「熱も下がってるし、大丈夫そうね。……そうだ」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、寝ている神綺を抱き抱えた。
「そーっと……」
サラは神綺の寝る場所を移動させると、小さく笑った。
「夢子姉、今日はみんなの神綺様を譲ってあげるよ」
そう言ってそそくさと部屋を出ていった。



「ん……うーん……」
目が覚めると夕焼けで染まった天井が目に入った。
体の熱さは消えていた。感知と言っても問題無いくらいだ。
しかし今はそれよりも問題があった。
何故か神綺様がベッドに入って、隣で寝ているのだ。
神綺様が自ら入ったのか、それとも他の誰かがやったのか。
後者だった場合は、何をしてやろうかと考えていたが、神綺様の寝顔を見ていたらどうでもよくなってしまった。
「……相変わらずですね」
神綺様の頬っぺたに触れる。
ふにふにしていて柔らかい。
今日は風邪を引いたが、とても良い日だった。
神綺様と一日中一緒にいることが出来たし、甘えられもした。
神綺様は風邪のせいと考えているようだが、実際は風邪を口実に、勇気を出して甘えてみたのだ。
今考えるだけで恥ずかしい。出来れば甘えられたという事実だけ残して忘れてしまいたい。
「んん~、夢子ちゃん~。あんまりぷにぷにしないで~」
いつの間にか神綺様が目を覚ましていたので、慌てて頬っぺたから手を離す。
「す、すみません!」
「んも~、夢子ちゃんったら時々大胆なんだから」
甘えた事を言われているのだろうか?いや、そんなはずはない。
「それよりも夢子ちゃん、具合は?」
「ええ、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「それは良かったわ」
神綺様は優しく微笑んでくれた。
「……それよりも、何故ベッドに寝ているかについては触れないんですか?」
「そう言われればそうね。……んもう、夢子ちゃんったら」
「わ、私じゃないです!誰かが……」
そこまで言って、私の反論は遮られた。神綺様が私に抱き着いてきたのだ。
「ちょっ……神綺様……?」
「良かった。すぐに治って……」
神綺様に抱き着かれると、暖かくて、優しくて、安心して、とても気持ちが良い。
「……ありがとうございます。心配してくれて」
「当たり前じゃない……ママだもの」
「そうでしたね……だから、改めて……ありがとう……ママ……」
自然に言えただろうか?
ドキドキしてしまった。
「そんなにドキドキしなくてもいいのに……心臓の音が聞こえるわよ?」
神綺は私から離れて微笑んだ。
「さて、もう暗くなったしお夕飯の支度しなくちゃね」
神綺様がベッドから飛び出す。私も温もりを恋しく思いながらベッドから出た。
「今日は私がやるから、夢子ちゃんはくつろいでて」
「シチュー楽しみで……あっ!」
しまった。しかしもう遅い。
神綺様はぽかんとした後、憎たらしいくらい満面の笑みを浮かべる。今の一瞬で何もかもばれてしまったようだ。
こうなったら、次回からは開き直って普通に甘えてみようか。
いや、それは私のキャラじゃない。
でも、そんな事、今はどうでもいい。
私は久しぶりの神綺様のシチューに期待し、心を踊らせた。
夢子ちゃんは可愛いの一言に尽きますが、
なんかグダグダになってしまった気も
鹿墨
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コメント



0.1130簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
暖かな家庭って良いですよね。GJ
8.100名前が無い程度の能力削除
ホクホクしました
9.100名前が無い程度の能力削除
夢子ちゃん可愛い
17.100名前が無い程度の能力削除
GJ いい魔界組みでした。
21.100名前が無い程度の能力削除
ほっくほくしました
23.100名前が無い程度の能力削除
怪綺談エンディングの神綺さまの後ろで涙目になっている夢子ちゃんを考えれば、何もおかしくないな。
29.100フルーツ削除
夢子ちゃんは可愛い!