畳という日本古来の床素材に最も似合う人種は浴衣の似合う旅行好きと、包茎の余り切った皮のようにだるんだるんになった人生のロスタイムを過ごす爺さん婆さん、そして巫女さんであることを私はここに断言する。したがってその説に沿えば商売敵と言っても構わないだろう相手の軒先に上がりこんで惰眠を貪っている私も、麗しき乙女の一人と言って差し支えないはずである。何故ならこの床は畳であり私は巫女であるからだ。
日本の高温多湿という誰も得しないであろう気候に畳は大変有効に機能する。高い保温性、室内の調湿作用や空気浄化作用、まさに日本の気候に合わせて作られたベスト・オブ・ベストな床素材なのだ。そして何よりこの弾力性は特筆せざるをえない。顕になった日本人の足の裏を優しく包みこむような柔軟さ、たまにささくれがあってもそれはそれでご愛嬌だ。冬には暖かく、今日のような猛暑には涼しく、季節に応じた適温で私を出迎えてくれる。間違ってもフローリングなどという西洋かぶれの木目に騙されてはいけない。
巫女をやっていて良かったと思うのは、ごろりとだらしなく畳に全身を預けた瞬間だ。そのような自分の根本的な存在意義に関する充足感というのは、もっと別の相応しい場面で感じるべきなのであろうが今だ、今が幸せなのだ。今こうして他人の家で堂々とくつろぐこの瞬間こそが私の幸福。親密度の違いで私は付き合い方を変えたりはしない、どんな相手でも家を訪ねたらそれはもう我が家のようにリラックスするのが私の信条だ。素敵な畳があれば尚更である。
私のこの素敵畳愛好論を我が敬愛する神二柱に熱弁したところ「そんなんだから早苗には隣に立つ殿方がいない」とか「加えて何やら奇っ怪な目で見られる羽目にもなってるね。早苗の友達は仏のように深い御心の持ち主か、今時アマゾンの奥地に思いを馳せるような常人より好奇心旺盛な奇人変人に違いない」と神にあるまじき暴言を私に向かって吐き捨てやがった。出雲でハブにされればいいと思う。蛙の方はハブに食われろ。
***
私が博麗霊夢という人物に憧れと恋慕が5:3のブレンドで混ぜ合わさった感情を抱くようになったのは、恥ずかしながら記念すべき第一回目の邂逅からである。その頃の私といえば神に連れられ訳も分からず新天地へと降り立ったばかりで、自分の状況を全く把握してなかった。元いた場所とは世界観の設定そのものが全く違うことすら気付いていない、無垢で純粋そのものだった。そして調子に乗っていた。
意気揚々と寂れた神社に立ち退き勧告のビラを貼った翌日にうちの境内に殴りこんできたのが彼女だ。もちろん体は宙を飛び、自由自在に札やら針やらを操り、巫女らしく腋を見せることも忘れない。今に思えばそれはここ幻想郷において何ら不思議でも何でもないことだったのだが、当時の私は軽くカルチャーショックを受けた、私も腋を露出しているにも関わらず。
向こうで私は特別で特異な存在だった、唯一無二だった、オンリーワンで花屋の店先に並ぶほど目立っていた。そんな私のアイデンティティーをぶち壊す勢いで彼女はやって来たのだ、ショックを受けない方がおかしい。焦らず冷静に対処できたことのみに関しては自ら賞賛を贈りたい。そのまま無謀にも喧嘩を売ったのがいけなかった。結果私は幻想郷流の洗礼を曲が一巡もしない短い時間にこれでもかというほど濃い密度で受けることとなり、同時に彼女の凛とした表情に子どもっぽい憧憬を抱いてしまったのである、私もああなりたいと。別に容赦なく私を叩きのめした彼女の鬼畜な部分に惚れたわけではない、私はマゾヒストなんぞではなく至ってノーマルである。どちらかと言えばサディストだと思う、あくまで主観的に考えたらではあるが。
かくも幻想郷の人間とはどう在るべきなのか、指し示してくれたのが博麗霊夢その人なのだ。話してみたい、お友達になりたい、隣にいたい、そして叶うならば同じ畳の上で二人で横になって寄り添い合いながら畳の素晴らしさについて延々と語り合いたい。はぁ、げに美しき乙女の純愛であることよ。
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同性で恋慕の感情など言語道断と思われたが、流石幻想郷、忘れられた地、背徳的な恋愛もばっちこいといったところであろうか。何回目かに訪れた博麗神社の宴会で私はそれを実感した。姉妹、腐れ縁、主人と従者、種族の違い、まるでファンタジーや二次元の世界でしかお目にかかれないような関係をいとも簡単に魅せつけてくれるとは思いもしなかった。言わずもがな婦女子同士で。
だが私はその事実に驚嘆や安堵の念を抱いている暇はこれっぽっちも無かった。何故ならばアルコールであればそれがエチルだろうがメチルだろうが問題ない、とにかく飲めと言わんばかりの連中に揉まれ夢と現実の境すら判別出来ない始末だったからである。神や妖怪が跋扈する地での死因が急性アルコール中毒とは洒落にならない。私にはまだ希望がある、可能性がある、輝かしい未来がある、こんなところで死ぬわけにはいかないのだと固く誓った決意もイッキを強要された日本酒と消化しきれなかったさきいかその他諸々と一緒に私の口から逆流していった。月の光に反射してキラキラと輝いていた私のそれはきっといずれ訪れるべき私の未来だったに違いない。
敬愛すべき神はお偉いさんがたとパワーバランスについて真剣に話し合っている振りをしながら実際は目も当てられぬような猥談に花を咲かせ私には目をくれようともしない。いささか信仰が揺らぐ。そんな折、端でうずくまる私に声を掛けてくれたのはやはり憧れの人その人であった。
「あんた下戸?」
「はい、まごう事無き下戸です。その点に関しては首を縦に高速で何回も振れるほど自信があります。げこげこ」
「余裕が見えるのは私の気のせいかしら。ま、お酒ってのはみんなが楽しく飲めなくっちゃあね。あんまり境内を吐瀉物で汚されても困るし、無茶ぶりされたら私に言いなさいな」
「ありがとうございます、少し中で横になってもいいですか」
「どうぞ。ただし寝ゲロはよしてね」
「ついでに私と畳について語り合いませんか」
「は?」
「いえ何でもありません」
私の勇猛果敢とも言えるアプローチは残念ながらスルーされてしまった。ここで無理矢理押し倒して畳の上でくんずほぐれずな状態になってもよかったのだが、確実に夢想や妄想をシールされてしまいそうな気がしたのでぐっと堪えた。私は淑女なのだ。
レディーなら他人にはしたない姿を見られるべきではないと私は境内とは反対側の部屋まで、つまり寝室までいそいそと足を運びそこで休憩をとった。夏用の掛け布団と枕は勝手に借りた、敷き布団はいらない、畳は直接肌で感じるべきである。裏でどんちゃん騒ぎがかすかに聞こえるがこちら側は至って静かだ、距離を考えると静かすぎる。部屋全体に軽く防音の術がかけられているのだろうか。案外彼女は苦労しているのかもしれない、心中お察しする。
障子を開けると裏の林の上にぽっかりと月が浮かびまるで何かの小説の中に出てくるような幻想的な雰囲気を醸し出していた。だが私は体中を駆け巡るアルコールを抑えつけるのにいっぱいいっぱいで、とてもじゃないが月光を浴びて詩的な気分になんて到底なれやしなかった。代わりに月の光を頼りに畳の目を数える作業で気を紛らわせることにした。なかなかの無常感が心を支配する。羊ではなく畳の目が520を越えた辺りで私の意識は畳の隙間に溶けていった。
気づいたら日は既に頭上高く登っていた。飲んだ後に相応しく髪や服やお肌に至るまで荒れに荒れ誰がどう見ても淑女とは言えない有様の自分に少々嫌気が差す。死屍累々になっているかと思われた寝室には私しか存在せず酒臭い臭いだけが部屋に満ちている。どうやら私が最後らしい。他の面々は朝まで飲んでいたか、もしくは私と同様ここか仏間で休んでから帰ったようだ。剥ぎ取られた布団と枕の代わりに何故か私の頭の裏に置かれたとっくりがそれを物語っている。我が敬愛したくない神も先に帰ったらしい。ぐれてやろうか。
表に回るとすっかり片付いた境内にせっせと箒をはく憧れの人の姿があった。しかし私は知っている、あれはただ箒を左右にそれっぽく動かしているだけなのだ。前に一度聞いてみたことがある、意味はあるのかと。彼女はこう答えた。
『それっぽいでしょ?』
と、一言だけ。単純明快、だが結局何が言いたいのか分からない、彼女らしい答だった。むしろ幻想郷らしいというべきか。こういうところも彼女の魅力の一つだ、実に正直で真っ直ぐな性格をしていらっしゃる、いろんな意味で。彼女は自分の感情を隠そうとはしない、喜ぶときは全身で喜び、怒るときは全力で怒る。見ていて非常に飽きない。持って生まれた能力は人外並だが彼女自身は誰よりも人間らしい、と私は考える。
さて彼女が誰かを好きになることなんてあるのだろうか、人妖別け隔てなく接し差を付けない彼女が特定の誰かを想うことなど。いや、そのくらいあるだろ普通。生来の気質が先程述べたそれだとしても徹底的に貫く必要性なぞこれっぽっちも無い、例外があってもおかしくないしそれが当然とも言える。要は彼女が私の方へ振り向いてその頬を赤く染めつつ「好き」の一言を口からぽろりと零したって何ら不自然ではない。十二分にありえる。そして私たちは畳の上で年頃の女の子同士らしく桃色に染まった将来を語り合うのだ。たまらん。
「何が?」
「今こうして霊夢さんが話しかけてくれることがです」
「あんたたまにとんちんかんなこと言うよね」
「光栄です」
「褒めてねえよ」
いつの間にか掃除を終えた霊夢さんが目の前に来ていた、ついでに独り言も聞かれていた。恥ずかしすぎて私もうお嫁に行けない、ならば婿になればいいではないか、と逆転の発想が思い浮かんだところで霊夢さんがお茶を煎れてくれたのでありがたく頂戴する。二人並んで神社の入口に腰掛けて。何というおいしいシチュエーションだろうか、先に帰った神に感謝したい。信仰してもいい。
「とりあえずおはよう」
「おはようございます」
「ってもお昼だけど。一番最初にダウンしたくせに起きるのは一番最後って、あんた結構マイペースね」
「私学びました。ここでは他人のペースに囚われると身がもたないことを」
「……あんたもなかなかどうしていい性格してるわ」
苦笑いをいただいた。私なりに一生懸命考えた処世術だというのに。多少不満は残るが笑顔は笑顔なのでしっかりと脳内に刻みこんでおいた。一挙一動を見逃したくない程度に私は彼女にご執心なのであった。
***
三日前のことである。先の宴会以来気軽に訪ねられるほど互いに親交を深めた私はその日も意気揚々と神社に向かった。だが様子がおかしい、いつもは暑いからと開け放されている寝室の障子が閉めきったままになっている。これは怪しい怪しすぎる、いや実際にはそこまでおかしいことではないが私の勘がそう言っている。巫女の勘は幻想郷において何よりも信じるべきものである。倒れる我が憧れの人を幻視した私は居ても立ってもいられずすぐさま障子を開けた、半ば強引に。かなりの抵抗を感じたがそこは愛の力でカバーした。通り抜ける瞬間肌をぴりりと刺すような感覚を覚えた、やはりこれは何かの異変だ、想い人が危ない。
結論から言うと想い人は倒れてなんかいなかった。というよりこの場にいなかった。はて出かけているのだろうか、珍しい。彼女はあまりこの神社から離れようとはしない。たまに買出しや異変の解決に赴くことはあれど、基本的に出不精な人なのだ。さては里に買出しにでも行ったか、もしくは霧雨嬢の家にでもお呼ばれしたのだろうか。羨ましい限りである、ぜひ私も混ざりたい。
とにかくここにいても埒が明かない、すぐに帰ってくる可能性も無きにしもあらずというか大なのだがとりあえず外に出よう。と、振り返ったところでまたもや違和感、開けたままにしておいたはずの障子が閉められている。仏間に続く衾も同様、押入れも開かないときた。試しに来たとき同様力を込めて障子を開けようとするが、大方の予想通りびくともしない。ははぁ、なるほどなるほど。つまり、その、なんだ。
閉じ込められた。
***
一日目。現状把握と畳の目を数えることに終始する。ありとあらゆる方法を試したが衾や障子には傷ひとつ付けられず、生米と果実が部屋いっぱいに散らばっただけに終わった。足の裏に伝わる粒々の感触が非常に気持ち悪い。押入れの扉だけでも開いてくれれば快適さが段違いだというのに、ケチな結界だかなんだかはそれすら許す気は無いらしい。もう少し余裕を持つべきだ。
布団くんかくんかが出来なければいよいよもってやることが無い。これは普段人目をはばかって出来なかったことを思う存分実行するがいいという神様からのお達しだろうか、そんなことしてないで助けに来てほしい我が神よ。
奇跡の風を有効活用し米と果実を一箇所に集め、畳に身を預ける。どんな状況であれ畳さえあればそこは至福の空間に変わると自負する私ではあるが、将来の見えない今において畳の柔らかさは少々心許ない。癒されることは確かだが。まぁ所詮は幻想郷なのだしどうせ大したオチは待ってないのだ、こんな問題私が何をしなくてもあっさり解決するに違いない、そう自分に言い聞かせつつ生米を齧る。戦後のひもじい暮らしとはこうだったのか、そう考えるとこの生米も心なしか甘く感じる、奇跡の果実のおかげかもしれない。ではこの目から溢れて留まることを知らない涙は誰に向けてのものだったのだろうか。
***
二日目。気がつくと私はフローリングにいた。何を言っているのか分からないだろう、もちろん私も分からない。つるつるの固い木目に寝転がっていた身体は当然悲鳴を上げ、起き上がるとき節々からみしみしという音が聞こえた。これだからフローリングはダメなんだ、畳の持つ柔らかな包容力が全く無い。
辺りを見回すとそこは洋風の一軒家。変わっていたのは畳だけではなかったらしい。絨毯、ソファ、アンティークな家具、照明、そしてフローリング。どこぞの高級住宅街の一角といってもいいような綺羅びやかな空間である。幻を見ているのかそれとも強制移動させられたか、昨日までいた寝室の広さを考えると明らかに面積が違う。
ここまで来ると犯人はもう分かりきったようなものである、あえて口には出さないが。何でもかんでもオチに彼女を持ってくるのは幻想郷の悪い癖だ、以後反省するように。いや反省するべきは当の本人なのだろうけどそれを御方に説くのは何と言うか時間の無駄だ。世界観に文句を言ったほうが幾分効率的である。
リビングの隣にはお洒落なシステムキッチンが備え付けられていた。遠慮無く冷蔵庫を覗くと生米と奇跡の果実がこれでもかというほどびっしりと詰められ、開けた途端に私の足元に雪崩込んできた。どうやらここの住人は冷蔵庫の使い方を知らないらしい。これは食物を冷やすための道具であり断じて嫌がらせのための道具ではない。だが昨晩生米を齧り倒した私にとってその嫌がらせたるや効果バツグンで、精神的ストレスが最大限まで膨れ上がったことは言うまでもない。
さてこの一軒家当然ながら私一人のはずである。その思い込みが張本人の思う壺だと冷静に考えている余裕は私には無かった。よって生米と果実の山の中で呆然と立ち尽くしている私の背後から話しかけられた時は心底驚いた。誰かを確認したときは体の底から心の臓が飛び出すかと思った。
「どうしたの早苗。まるで生米でも齧ったような顔して」
「……霊夢さん」
「具合でも悪いの? 少し横になったほうがいいんじゃないかしら」
十中八九偽物である。彼女は私を名前で呼ばない。残念ながらまだそこまでの仲ではないのだ。だが偽物と分かっていてもこの胸のときめきは何だろう。ああ、このまま騙されていたい、その優しげな声をずっと聞いていたい。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫です、ええ大丈夫ですとも」
「ならいいんだけど……あまり同居人に心配かけないでよ」
なんと。この世界で私と彼女はひとつ屋根の下で暮らしているらしい。すると何か、一緒に食事をとり一緒に風呂に入り一緒に寝たりしているというわけか。けしからん、ここは桃源郷か、ユートピアか。ここの彼女は実物よりもずっと優しい、目が、言動が。そして何よりも私を見てくれる。私の理想とも言っていい。ならば次に彼女が言うであろう言葉も手に取るように分かる。リビングに戻る彼女はふと立ち止まりこう言うのだ。
「それにほら、私は早苗のことが──」
私の方へ振り返りその頬を赤く染めつつぽろりと零す。
「──好き、だから」
ああ、ああ、ああ、ああ、ああ。その一言だその一言を待っていた。今すぐにでもその言葉に同意し肯定し反芻し咀嚼したい、そして彼女の体をあらん限りの力を込めて抱きしめたい抱きしめ返されたい。私はこの人となら運命の赤い糸に雁字搦めになりながらマリアナ海溝の奥深くまで沈んだって構わない。
でも、でも、でも、でも、でも。駄目なのだ出来ないのだするわけにはいかないのだ。私と愛を語り合うべき相手は目の前の彼女ではない、私と愛を語り合うべき場所はこんな西洋風の一軒家ではない。
畳だ、畳でなければいけないのだ。
***
三日目。三日目だった。あの世界を否定した途端に私は意識を失い、目覚めたときには博麗神社の寝室で朝日を浴びているところだった。無論障子は開け放されている。肌に伝わる畳の感触に安心しつつ二度寝をしようと思ったのだがが、背中に一発きつい蹴りをくらい慌てて後ろを振り向いた。本物がそこにいた。
「結界に巻き込まれておきながらよくもまぁ二度寝なんてする気になるわね、あんた。感心しちゃうわ」
「巻き込んだ側が言うセリフではないと思います、はい」
事の顛末は読者諸君にはもうお見通しであろう。要するに四重結界の練習が、夢と現の境界がどうのこうのという話である。指導者である八雲紫氏は早々に問題を彼女にぶん投げ自身のねぐらに戻っていったという。三日も解決に時間がかかったのはそういう訳だ。あの御仁は一度責任の二文字を辞書で引いてみることをお薦めする。
フローリングの上であれだけ振り回された私は一層畳に愛着が湧いていた。未だに横になった状態で頬をすりすりして想い人にちょっと引かれてもこれだけは譲れない。むしろこの愛情を、こだわりを見せつけて願わくば彼女にも畳の素晴らしさを理解してもらいたい。
「……随分と畳が好きなのね。そんなにうちの畳が気に入った?」
「はい。最高です。大好きです」
と、ここで話は冒頭に戻る。否、冒頭のような話を私は彼女に延々と説いた。彼女は少し困った顔をしたが、それでもちゃんと聞いてくれていたように思う。異変の時は問答無用で相手の話なぞそっちのけの彼女だが、日常においては余裕がある限りそれなりに優しいのだ。そして私はその程度の優しさが大好きだ。
熱弁した私に彼女は少々呆れ気味の表情を浮かべた。熱くなりすぎたかもしれない、反省しよう。しかしここで彼女は予想だにしない行動に出た。なんと今の私と同じようにごろりと畳の上に寝転がって、しかもこう言ったのだ。
「ま、私も早苗ほどじゃないけど畳は好きよ。柔らかいし」
諸君、聞いただろうか今のセリフを。そして分かるだろうかこれを聞いた時の私の心境を。天にも昇る心地良さとはまさにこのことか。そのまま天人相手にドンパチやらかしても今の私なら生き残れる自信がある。やはり私はこの人と結ばれる運命なのだ、たった今私が決めた。どこぞの吸血鬼の能力なんか知った事ではない。藺草で出来た薄茶色の運命の糸は何よりも固いのである。
***
その後私と彼女の仲がそれなりに進展したことは言うまでもない、「好き」の一言を交わすほどには進んでいないが。いずれ読者諸君には仲睦まじく畳の上で愛を語り合う私たち二人の物語をお伝えしたい所存である。
これはラブでちゅっちゅな物語なのだ。成就した恋を語らなければそもそもお話にならない。バッドエンドなんて認めない、畳の上の物語は全てハッピーエンドでなければいけないのだ。
これぞ私の素敵畳愛好論である。
常識に囚われない早苗さんがとても可愛かったです。地の文の多さも全然気になりませんでした。
だがマイルームはフローリング・・・
量は少ないのにこの満足感
気になった点が一つ。
博麗神社が舞台なのに、仏間が出てくる所に違和感を感じました。
だが早苗さん、あなたはダメだww
ビバTATAMI。素晴らしきかなTATAMI。称えよTATAMI。